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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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幕間 第二十七話 光瀬良一(事故当時34)の場合(前編)

 ある日、良一は自身が勤める私立高校の授業開始前の職員会議の時、生徒の親御さんが亡くなったと連絡を受けた。校長が言うには「明日は教育委員会で重要な会議があるので今夜の通夜には自分が出るから、明日の葬儀には担任である君が行け」との事だった。なお、この学校は良一の母校でもあった。

(む……あいつの親御さんが病気だとは聞いていたが……。亡くなったのか……気の毒にな。家は確か神奈川の方だったか……仕方ないな、明日は朝から一時間授業をやって出掛けなきゃならんか)

 荒川区にある学校からその生徒の家まではかなりの距離がある。葬儀は昼からだと説明を受けたので、念のため午前十時前には学校を出た方がいいだろう。さっさと戻れば最後の授業には間に合うかもしれない。勿論、彼が顧問をする剣道部の活動にも間に合うはずだ。

「ああ、美帆子。俺の受け持つ生徒の親御さんが急に亡くなってしまった。……いや、事故とかじゃない。元々ご病気だったんだよ。で、明日は葬儀に参列するんだ。スマンが礼服と黒ネクタイ、数珠を用意しておいてくれ。ああ、カフスもな。終わったらそのまま学校に戻るから……親父のやつでいいよ。あと、普通のネクタイも一本頼む」

 携帯電話で妻に連絡を取りながら教室を目指す。他の生徒にも事情を説明しなくてはならないし、明日の葬儀は別としても今夜の通夜に行くような子にも我が校の生徒として恥ずかしい振る舞いをしないよう、通夜での行動についてしっかりと注意をしておかねばなるまい。



・・・・・・・・・



 翌日、葬儀は恙無く終わり、今は帰りの電車の中だ。葬儀の場でたまたま五歳離れた弟の健二に出くわした。意外過ぎる場所で顔を合わせたものの、そこで親しげに話し込むわけにもいかない。健二は彼が勤める会社の先輩と参列していたようだ。葬儀が終わった後、三人で昼食を摂り、新宿行きの急行列車に乗った。

 健二の先輩は控え目な性格らしく、また、自分たち兄弟に遠慮をしたのか殆ど会話に参加してくることなく電車に乗って座席に腰掛けてすぐに眠ってしまった。これ幸いと健二の娘、姪の由真を撮影した動画を見せて貰った。

 良一には健二の他に潤三という弟がいるが、母親と妻以外に女性の家族を持ったことがなかった。その為か、小さな女の子の家族が可愛くて仕方なかった。彼の勤める学校は中高一貫の男子校でもあるので物珍しさも否定は出来ない。息子の善臣は小学校に上がってから生意気度が増しており、可愛いのは確かだが女の子にはまた違う可愛さがある事は姪の由真を見て理解していた。

 今、動画を見ながら弟と話しているのは弟が建てようとする新居の間取りの件だ。健二もそこそこの会社に勤めてはいるが、流石に二十代で一軒家を建てられる程の給料は得ていない。親に半額負担して貰い、それを頭金にするという話を聞いていた。

 良一の方は中高一貫の男子校、それも超一流の進学校で担任を持つ体育教諭という、かなり収入の良い勤めであったため、二十代のうちに親と同居の二世帯住宅を三十年ローンで入手している。同居の親から健二や孫の由真に会いたいと零されることも多い。

「……お義姉さんにも宜しく言っといて」

「おう……おわぁっ!!」

「なにぐほえっ!!」



・・・・・・・・・



 再び目が覚め、ぼーっと何日か過ごしてきた。

(助かったにしては……おかしいな?)

(動きづらいし目も良く見えない、耳は聞こえるが何を言っているのかさっぱりだ……)

(ああ、また腹が減ったっ! 腹が減った! 我慢できん!)

「う、うあ! うああああぁぁぁっ!」

(まずい……こんなもんしか飲めない程俺は……)



・・・・・・・・・



(……光瀬良一と言うのは、俺の夢か? それにしては細部までやけにリアルで長い夢だった)

(それとも俺は生まれ変わったのか? ……ふっ……そんな馬鹿な)

(と言うことは俺はやっぱりあの時死んで……?)

(死んで……やっぱり死んだのか? もうよく覚えていない……こっちが夢か?)

「あ、ああ、あぎゃあああぁぁぁっ!」

(バカバカしい……しかし……)



・・・・・・・・・



(外国か……どこなんだろう?)

(英語も混じっているようだけどよく判らんな)

(なんとなーく、誰か来るみたいな事言ってるのは解る)

(どうでもいい。さっき飯食ったばかりだし眠い。我慢できん!)

「あ、うあ、うぇああぁぁん!」

(なんだ、もう夕方らしいな。腹減った!)



・・・・・・・・・



 良一は何を強制される訳でもなかったので、適当にのんべんだらりと生きてきた。特に目標も無いし、さりとてやりたい事がある訳でもない。食うにも困らず、言葉も覚え、文字も覚えた。なんとなーく、生まれ変わった場所での常識も覚えた、と思う。惜しむらくはあまりにぼーっと過ごしすぎてこの世界の重要な事に何年も気が付かなかったことであった。

 光瀬良一、改めアーニク・ストライフはリーダスという村の領主、ストライフ准男爵家の三男で末っ子として生まれた。彼には二人の兄と二人の姉がいたが、一番下の姉ですらアークより八つも上であったため、兄姉と言うよりは口煩い親の数が多いとしか思えなかった。アークの持っている常識ではアークは恥かきっ子のような存在であった。何しろ、一番上の兄はアークが生まれた時には既に成人しており、子供は出来てはいないものの、結婚までしていたのだ。そんな彼もアークが二歳になる前に夫婦で戦争に行き、二人共亡くなってしまったが。

 深い森に囲まれた辺境とも言えるド田舎である。村の住民以外は月に一度やってくる隊商とその護衛くらいしか外部の人と接触する機会はなかった。とは言え、十㎞程も森の中を畝る細い道を歩けば隣のローザス村や別方向の隣のメルダス村と往来することは充分に可能なので、単にアークがそれらにあまり興味を抱かなかっただけである。年の近い近所の子(従士達の子供)と川で魚やカニを採ったり、虫を捕まえたりして、本人としては忙しく子供の勤めを果たしている感覚ではあった。

 前世、あまり外で遊ぶような子ではなかったというコンプレックスの反動であることにアークは気付いていたのだろうか。元気に遊び回るアークを見て、両親や兄姉たちはにこにことアークを可愛がってくれたのもその一因かも知れない。

 とにかくアークは新しい生を楽しんでいた。 



・・・・・・・・・



 因みに、アークが初めてステータスオープンを知ったのは四歳の頃だ。あるとき村に来た隊商が途中で変わった鳥を仕留めて来たのだ。

 護衛の冒険者が飛んでいるところを偶然に見つけて矢を放ったのだが、腕が良かったのか偶然か、その矢が当たり、鳥は地に落ちた。碧く美しい羽根を持つ大きな鳥は、ステータスによるとブンド鳥と言うらしい。隊商やその護衛を始めとして誰もその鳥のことを知らなかったが、珍しいし、美しいのでこれから向かう村の領主である父親なら買い取ってくれるかも知れないと思って運んできたのだった。

 その時に皆がその鳥に触れて「ステータスオープン」と言っていたので、興味を惹かれたアークもそれを真似したことで新たな知識を得たのだ。ステータスオープンで目の前の鳥の死骸に重なって広がる青いウインドウを目にしたアークはあまりのことに腰を抜かす寸前だった。この時初めて地球ではなく異なる世界に居ることを認識したと言っても良かった。

 亜人を見てもそういう、コスプレに近い文化や慣習のある土地なんだろう、程度の認識でしかなかったのだ。時計の魔道具なんか幼児の手の届くところに置いてある家なんかないし、明かりの魔道具もアークの目の前で使われたこともなかったので知らなかった。

 そして、なぜ誰も教えてくれなかったのか非常に不満に思った。とは言え、普通は一回見ればそうそう同じものを何回も見る必要なんか無いし、似たようなものであれば見る必要すらないであろう。それに、やたらめったら何かに触れてステータスを見るのは行儀が良くない。万が一誰かに対していきなり使うことは非常に失礼な行為に当たる。アークは(確かに、小さな子供に教えても碌でもない事にしかならないよな)と思って納得した。

 その証拠に一日で飽きた。物に使っても名前しか出ないし、何か生き物に使っても一度知れば後はほぼ想像通りの内容しか表示されない。生年月日や特殊技能が解るので便利といえば便利だが、初対面且つ、相手を非常に信頼しているか、信頼がないかでしか使いそうもない内容であることはすぐに理解出来たのだ。普通は十歳頃、小魔法キャントリップスを教えるついでに教えるくらいだ。

 しかし、アークは自分のステータスについて忘れたことはなかった。

【アーニク・ストライフ/15/5/7429】
【男性/14/2/7428】
【普人族・ストライフ准男爵家三男】
【固有技能:変身ポリモーフ・セルフ

 固有技能とやらが何だか解らないし、隠れて「変身!」とか言っても何も変わったことは起きなかった。前世、子供の頃に見たTV番組を思い出しながらポーズを決めながら叫んだあと、やはり何も変化はなかったので(アホか、俺は)と思って、地に手と膝を突いてがっくりと落ち込んだりもしていた。

 しかし、リーダス村にも亜人は何人も居る。亜人は何らかの特殊技能を持っているのでそれと同じような使い方をすれば使えるのかも知れないと思ったアークは、早速従士の矮人族ノームに聞いてみたことがある。

「アーク様、【傾斜感知インクリネーション・センシング】はそれを使う、と思うだけで使えます。……今も実際に使ってみましたよ」と言われ、次に山人族ドワーフの従士に尋ねてみても「アーク様、【赤外線視力インフラビジョン】もいつでも使えますよ。但し、昼日中に使うと明るすぎて目が痛くなるくらいですので今は使いませんがね」と言われてしまった。

 その後も何人もの亜人に尋ねてみても「使おうと思えばいつでも使える」という返事しか貰えなかったので【変身ポリモーフ・セルフ】は特殊技能とは異なる、特別な物なのだろうことはすぐに理解出来た。また、両親や兄姉に聞いても固有技能の事は知らない様子だった。名前からして自分だけしか持っていない特別な技能なのだろう。使ってみたかったが、結局使えないまま記憶の片隅で埃を被るまで大して時間は必要としなかった。



・・・・・・・・・



 それから時間が経ち、来年には七歳を迎えるという年の大晦日。年明けからアークも剣の稽古に参加しろと言い渡された。アークとしては剣だの槍だのを使う戦争や争いなどは真っ平だったが、貴族の義務でもあるので、それに抗えよう筈もなかった。女性も剣や槍などで戦争に参加することは当たり前だったし、平民や自由民にも徴兵はある。アークの知る限り戦死者は兄夫婦しかいなかったが平均すると二十年に一人くらい、リーダス村でも戦死者は出るらしい。

 この時点でアークが認識しているある程度現実的な将来の中で最上位のものは、近くの村あたりから嫁を取って(従士の娘などで同年代が居ない訳ではないが、あまりアークの好みではなかっただけだ。最悪それも仕方無しとは思っている)、実家であるストライフ家に仕える従士の家を立ち上げることである。次点で従士の家に婿入りすることだ。その次はどこかの領主の従士の家への婿入り、最悪は騎士団にも入れず、徴兵されて戦死することだが、流石にこの可能性は低いと思っている。

 また、剣の稽古を始め、何らかの武芸の才能があるようであれば騎士団を志望してみたいとも考えてはいる。ただ、リーダス村のあるストールズ公爵領の騎士団はそれなりらしいので合格はある程度の困難が予想される。感覚的には明治や大正時代の東北や北海道の農村の三男がどこかの大学に入学する程度の実力が必要とされる感じだろうか。但し、評価要素として勉学の割合は相当低い。従ってこの道筋についてはあまり未練なく諦められた。

 アークとしては(ま、頑張ってはみるつもりだけど、向かないものは向かないし、出来ないものは出来ないだろう。万が一俺にそっちの才能でもありゃ死ぬ気で努力はするがな)という程度のものだ。

(おそらく、徴兵された騎士団で金を貯め、それを元手に何か商売を始めるのが一番いい。大儲けできるようならそのままでもいいし、大して儲からないのであればまたリーダス村に戻って来てその頃には親父の後を継いでいる兄姉の誰かに小金を渡してやりゃ従士として抱えてくれるだろ)

 あまり険しくない、山とも呼べず、丘程度の起伏に富んだ地形に囲まれたリーダス村ではあったが、近傍に危険な魔物も殆ど確認されていなかったことも剣や槍などの武芸への関心を薄れさせた要因だろう。

「悪い子は魔物ドラゴンが来て食べられちゃうよ」

 と躾けられていたにも関わらず、本当に魔物が存在していると知ったのだって五歳を超えてからだ。その時見た魔物もたった一匹のゴブリンの死体で鉱山(鉱丘と言った方が適切だが)で働く屈強な奴隷たちに寄ってたかって殺されてボロボロになった奴だけだ。それを見たアークは(魔物と言ってもせいぜい猿の親戚か?)という程度の認識であった。つまり、本気にしていなかったのだ。また、ゴブリンは本来群れる魔物であるなんて知識も持っていなかった。

 ちなみに、リーダス村の主産業は林業と鉱業だ。従士の家長は現場監督のような感じで働くので、その世界しか知らないアークとしては楽そうな従士の家長を目指すのが当たり前であった。林業は木を伐り出して枝を打って下流の村に流し材木を得る。鉱業は丘を掘って鉄や銅、たま~に貴金属を得る。どちらも前世の知識なんか何一つ役に立たなかった。

 また、魔法についても村に魔法が使える人は一人もいなかったので(おそらく、村内に指導者が居ない事が悪循環となり誰も魔法が使えなくなったに過ぎないのだが)、せいぜい手品の親戚くらいだろうという意識しかなかった。

 なんにしてもアークとしては生まれ変わった後の人生で初めて転機らしい転機を迎える時期が到来したという感覚にすぎない。そろそろ遊び呆けるのも終わりか、程度の感慨だ。

(リーダス村を出る時には徴兵される時かも知れないし、隊商に護衛が付くということは強盗なんかも居そうだ。ここは一つ真面目にやっておいた方がいいかもな)

 夢の世界では中学、高校と剣道部だった。そのままその高校で一番多くの生徒が進学する都内の大学に進学し、大学院まで卒業した後で、母校の高校の教諭として教鞭を執っていた。担当した学科は保健体育。顧問をする部活動は剣道部だ。個人として強かった訳ではないので剣道に自信があった訳ではない。一応有段者ではあったが下手をすると生徒の高校生にも負けていたくらいだ。

 毎日、剣道の竹刀や木刀とは比較にならない程重い木槍で木の杭への打ち込みや突き込みを行う家族や従士たち。それを眺めて育っていたため、正直なところ気後れすら持っていた。

(俺にあんなに腕力があるとは思えねぇよなぁ……)

 竹刀の元になった日本刀のような使い方とは根本的に異なる剣術体系。西洋剣術と言うのだろうか、片手で剣を扱い、斬ることは補助的な攻撃方法で、最終的には急所目掛けて突き込むのがメイン。斬り下ろしや斬り上げ、薙ぎ払い、皆両刃の剣を片手で自在に操っている。

(本物を見ても質の悪い鋳鉄か……これじゃ斬れてもたかが知れてる。殴りつけると言った方がまだ合ってるな。剣じゃ大して斬れねぇし、本当にこりゃ剣道は役に立たねぇわ。足運びも片手だとなぁ……両刀やっときゃまだ役に立ったかも知れないけど……)

 アークの修行はまだ木刀での素振りや重い木槍での型がメインだが、筋は良いと言われた。

(まぁ、一応、基本はね……剣道もそう捨てたもんでもない、と言うことか)

 そのように、なんとかかんとか剣や槍の稽古を続けて一年半ほどが経った。八歳も半ばになった夏の暑い日の朝、アークはいつもの様に的を目掛けて木槍を突いていた。ただ突くだけではなく、妨害者として的の斜め前に一人の従士が立ち、手に持った剣でアークの槍を打ち払おうと邪魔をしてくる。

 その邪魔を物ともせずに的を貫くのが槍の攻撃の最上とされている。槍を突き出す疾さは勿論のこと、しっかりと槍を保持する握力や強い力も必要だ。

「えぇいっ!」

 気合を込めて槍を突くが簡単にいなされてしまう。

 何度かそうやっているうちに事故が起きてしまった。目にホコリでも入ったのか、あるとき従士がアークの槍をいなそうとした拍子に足をもつれさせて倒れてしまったのだ。

 あっ! と思った時には遅かった。殺傷しないように穂先も付けず、先を丸めてあるとは言え、丈夫な樫の木で作った木槍は運悪く転びかけた従士の目を貫き、脳を破壊してしまった。勿論従士は即死である。

 呆然として立ち竦むアークを他所に、わらわらと皆が集まってくる。ステータスを見る声が聞こえたが、妙な手応えがアークに不吉な予感を与えていた通り不運な従士は亡くなっていた。

 アークはよろよろと近づいて従士の名を呼ぶが当然返事はない。

「す、ステータスオープン」

【ラコルグ・ファイアートの死体12/8/7436 ラコルグ・ファイアート/1/5/7420】
【男性/24/4/7418】
【山人族・ファイアート家長男】
【特殊技能:赤外線視力インフラビジョン

 その日の晩、なかなか寝付けなかったアークは寝たと思ったら妙な空間に居るのを自覚した。
+注意+
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