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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百三十九話 成功と失敗

7445年7月26日

「そう……やっぱりね……六層や七層で思ったわ。グリード君は日光うちの誰よりも飛び抜けて強い、ってね。まして、日光うちは今回の件で戦力は相当落ちてしまった。もどかしいんでしょう?」

 俺の「抜ける」という言葉を聞いての暫定リーダーであるカーマイン・ミシャウスの返事だった。

「……七層で一緒に戦った殺戮者スローターズの奴ら、強かったな……」
「ああ、噂通り犬人族ドッグワーのエンゲラって戦闘奴隷も相当だったが、あの斧使いの女、ラルファっつったっけ。あいつ、それ以上だったな」
「あと、槍を使ってた二人、山人族ドワーフの女と猫人族キャットピープルの新入りの男、あいつらもオーガ相手に落ち着いて戦ってたな……」
「やっぱあんくらいでないと七層は厳しいんだろうな」
「そんなんでも奇襲を受けたら一気に何人もやられちまうんだなぁ」
「……だな、だけど、あの魔石はすげー。今回二十六個だろ?」

 カモ三人組、もとい、旧カモ三人組が話している。

「仕方ないよ……あの四人が居なくなったらうちはまともな前衛はロッコとケビン、フィオくらいだしね……他にも居ないことはないけどこの三人と比べると結構落ちるからね……」

 ジンジャーことヴァージニア・ニューマンが残念そうに言った。それを受けてキムことキュミレー・ビオスコルも「最低でもパーティーの半数は強い前衛が欲しいよね……」と言い、周囲は暗い雰囲気に包まれた。

 今名前が出たヒーロスコル以外のファルエルガーズたちも槍を使っているルーツォグ・サミュエルガー以外は奴隷二人も含めて残りの四人全員前衛は可能だ。だが、どうしてもこの三人と比べれば実力は明らかに劣ると言わざるを得ない。七層は勿論の事、六層も無理だろう。つまり、このままだと日光サン・レイの今後は四層が精一杯。五層も全く無理という訳でもないだろうが、かなり苦戦が予想されるし、事によったら犠牲者すら覚悟せねばならない。

「「あの、」」

 ミーフェス・ランスーンとヒスルーラ・ハルレインの二人が何か言いかけたがお互い遠慮したようで言葉に詰まった。

「あの、それでも私はグリード君にはうちに残って欲しいな。勿論これは単なる私の希望。だって、貴方が居たらそれだけで心強いもの」

 ミースはしっかりと俺の目を見つめて言った。ピンと立った狼の耳、そして尻尾が揺れていた。

「うん、私もそう思った。私はグリード君が戦っている所を見た訳じゃないけど、話に聞くだけでもハルクやビーン、メイリアよりも前衛として実力が相当上なんだろうと思うわ。そんな人に抜けられちゃったら日光うちはどうなるの? 下手したら誰か死ぬよ?」

 ヒスは純粋な精人族エルフの美しい顔立ちの眉間に皺を寄せながら、俺ではなくカームに言った。ま、言ってることはその通りだな。

「皆の言うこと、言いたいことは分かる。でも、ちょっと考えてみて。さっきちらっとジェルが言ったわ。今回の七層で得た魔石は二十六個。まだ換金はしていないから幾ら位になるかは分からないけど、私が見た感じ、全部合わせると優に一千万Zを……そうね、あんなの見たこと無いし、大きく超えるでしょう。本当に一個八十万Zなんて値がつくのなら二千万Zまで行くかも……。これ、七層でのたった一日での稼ぎなのよね。グリード君は殺戮者スローターズに戻ったらまたリーダーでしょう? そうなるとかなりの取り分が期待出来る。私達がそれ以上の魅力的な待遇を約束出来るなら彼も考える余地もあるでしょうけどね……それを考えたら止められないわ」

 カームが皆に言い含めるように言った。

「じゃあ、グリード君にうちのリーダーをして貰えばいいじゃないか」

 ビンノード・ゲクドーがさも良いことを考え付いたとでも言うように言った。

「それでもどうかしらね……メンバーの実力で劣る分、うちに残る方が大変でしょうね……」

 そう答えるカームに旧カモ三人組が「そんなにリーダーやりたいんか? 解らんでもないが……」と問うた。

「別にそう言う訳じゃないよ。でも、私にだって欲はある。稼ぎは多い方が良い(リーダーは儲かる)からね。だけど、皆を七層に連れていける自信なんかこれぽっちもない。まして、残されたメンバーだとね……七層どころか六層ですらとても無理……五層も危ないかもね」

 カームが俯いて答えた。そろそろいいかなぁ。

「……ちょっと良いですか? こう言っちゃなんですが、もう御札を短期間で得ることは可能です。リンドベルさんたちと同じことをやればいいんですからね」

 俺がここまで言うと連中は「すっかり忘れてた」とでも言うように目を輝かせ、隣の奴と喋り始めた。まだ話は終わってねぇよ。

「お金も大分少なくて済むでしょう。でも、それだって数ヶ月に一つとか二つがいいとこだと思います。あんまり当てには出来ないかも知れませんね。先日私と一緒に七層に行った方はちょっと思い出して見て下さい。御札は頼りになることは確かですが、地上に戻らなきゃ役に立たないんですよ?」

 何人かが口止めされているミヅチのことを思い出したようだ。

「思い出した方も居らっしゃるようですね……。さっきも言ったように、今後私は殺戮者スローターズに戻るつもりですが、ご希望の方が居れば、いや、皆さんを丸ごと殺戮者スローターズで引き受けても結構です。勿論、実力に応じてパーティーを割ります。ちょっと失礼な言い方になることをお許し下さいね。こう言っちゃなんですが、今の皆さんの実力だとですね、普通なら誰一人として殺戮者スローターズの仲間として受け入れられません。これは私の働きを見て頂いていたのならご理解は早いと思います。そう睨まないで下さい、ヒーロスコルさん。最初にお許し下さいと申し上げました」

 そんな顔しないでくれよ。気持ちは解るけどさ。いや、こういう言い方をしたのは本当に悪いと思ってるんだよ。だけど、おためごかしを言っても仕方ないしね。最初はしっかりと言った方が良いと思ったんだ。

「その場合、殺戮者スローターズ日光サン・レイを吸収する形になります。ええ、私は気にしませんから大丈夫です。他の方々がどういう風に言うかも予想くらいついてますよ。でも、あまり問題視はしてません。文句があるなら正々堂々、正面から私に言えばいい。ま、そんな事より、私の案を受け入れて頂いた場合について少し話をさせて下さい」

 カームやミース、ジンジャー、ビンスなんかは殺戮者スローターズに戻った俺が日光サン・レイを吸収した場合、「グリードは日光サン・レイを吸収するため内部に潜り込んだ」とか誹謗されるだろうと言ってきた。そりゃあそんな事を言う奴もいるだろう。だが、そんな奴らはどうだっていい。言いたきゃ勝手に言ってろ。何割かは本当だし、俺が文句を言おうが言うまいが、噂を信じたい奴は信じるものだ。

 そもそも殺戮者スローターズが順調だった時だって「ゼノムや二人の戦闘奴隷におんぶにだっこ」とか「実力なんか大したことないガキの癖して……貴族だから、商会持ってるから便利なんでリーダーやらせて貰ってる」なんて誹謗や中傷なんか山程言われてたんだ。もっと前なんか「他の冒険者の倒した魔物を漁ってる」とかそりゃあ酷いことを言われてた。

 今更そんなののバリエーションが多少増えたからと言って何程のものがある? ああ、ちょっと前に言われてた「リーダーとして管理能力が足りない」なんて、これらの誹謗が的を射ていただけだってなもんだろうよ。それらに比べりゃ「何か目的があって行動していてそれを達成した」と言われる方がまだマシなくらいだ。

「勿論のこと、実力に応じてチーム分けをします。人数から言って合計三チームにするのが妥当でしょう。正直に言います。七層以降を目指すチームにはいれる方はこの中には現在のところ居ません。一緒に訓練した時にその実力を私に隠していたのであれば別ですがね。ですから今まで通り皆さんは二つに分けることになるでしょう。その二組に対して、一人か二人、私を含めて今の殺戮者スローターズから人を出します。勿論治癒魔法を使える人です。基本的にはその人に従って貰うことになりますが、数回繰り返した後、適任者が居ればそのチームでリーダーをやって貰う人も出てくると思いますよ」

 露骨に不満そうな顔をする奴も何人かいた。そりゃそうだろうね。普通はリーダーが報酬を決めるからね。

「で、報酬ですが、殺戮者スローターズからリーダーを送った場合、その迷宮行で、そのチームが得た収入をリーダーの人を二人分と計算して一Zに至るまで全員で平等に分けます。どうしても余ったらそれは次の食料を買うお金にでも取っておきます。ああ、戦闘奴隷も一人分として数えますが、その報酬は当然持ち主の方に支払われます。なお、リーダーを二人分として計算する訳ですが、そのリーダーの方には一人分しか支払われません。残りの一人分は私が頂きますが、食料などの消耗品の費用や入場税などは全て私が負担します。ですからある程度消えるでしょうね。ま、そのくらい私にも実入りがないとね。理由は後で話しますが、ご納得頂けると思いますよ」

 ファルエルガーズとヒーロスコル以外の皆の顔に驚きの色が浮かんだ。この二人はこれを当たり前とでも思っているんだろうし、仕方がない。しかし、この条件を採用している冒険者は基本的にはバルドゥックに来たばかりとか、冒険者として活動を始めたばかりの実入りの少ない、駆け出しなんかにしかいない。経験が少ないためと下層での厳しい戦闘経験が無いためリーダーの重要性が理解されていないからだ。

 従って、日光サン・レイのようなトップチームのメンバーにとっては意外過ぎる報酬の分け方である。俺としては下手にリーダーを主張されるより、リーダー以外の全員がそれなりの金を手にする事の出来る、一見しただけだと公平な方法を採用した。こう言っておくと高収入と言うリーダーの旨味が無い上にそれ以外のメンバーからの評価や責任感が伸し掛かるだけだから、そう簡単にリーダーをやりたいと主張し難いと思ったからだ。

「これは殺戮者スローターズから出すリーダーにも必ず納得させます。また、そうなるとその人は殺戮者スローターズにいる時よりも実入りが減るのは確かですのでいつも同じ人がリーダーとして来るとは限りません。私も含めて何人かで交代します」

 これについては至極尤もな話なので素直に頷かれた。

「但し、ここからが重要です。暫くは今のような感じで様子を見ます。ですが、その後皆さんの中でリーダーに相応しい方が居らっしゃるようでしたらその方にそのチームのリーダーをお願いするようになるでしょう。そうした場合、報酬はその方に決めて頂きます。ここでご理解頂きたいのはその方がリーダーを務めるチーム全員がその報酬の分け方に納得することです。一人でも不満があればその案は採用しません。リーダーになる方はどのように報酬を決めても結構ですが、不満が出るような方法を取ることは出来ないと思って下さいね。あと、その場合でも、今の殺戮者スローターズから出す人に対してだけは今までと同じだけの頭割りの報酬を要求します」

 咳払いした。

「それから、私は何人か戦闘奴隷を新たに購入することを考えています。そういった奴隷を皆さんのチームに入れることも考えられますが、その場合、基本的にはその奴隷の報酬については考慮しなくても結構です。実力も低いでしょうからね。ですが今、殺戮者スローターズにいる戦闘奴隷については実力は相応に高いので報酬は要求しますよ」

 冗談めかして言ったが、全員が頷いてくれた。まともなリーダー経験者が居ないと楽でいいね。

「また、殺戮者スローターズ日光サン・レイを吸収する特典として、全員をグリード商会の警備員として採用します。流石に給料までは出しませんが。ですが、行政府に支払う面倒な税の計算なども商会で行います。それと、万が一ですが迷宮で大怪我を負い、不幸にも冒険者としては働けなくなってしまった場合、そのままグリード商会で働いて頂けるのであれば働きに応じてきちんと給料をお支払いします。
 これらについてご不安でしたら今までの内容について正式な契約として契約書を作っても結構です。その場合契約書はわたし用、皆さん用、万が一の場合の行政府預かりの三通作成します。私が今言った諸条件を守らないようであれば何時でも行政府に訴え出ることが可能です。このあたりが最初の報酬のうち一人分を要求させて頂く理由だと思って下さい」

 これには全員仰天したようだ。っつーか、この内容に魅力を感じない奴は居ないだろう。

「これらの条件でご納得頂けるのであれば殺戮者スローターズの仲間として迎え入れましょう。何かご不明な点などがあればお答えします。場合によっては条件を変更することも考えます。また、最後になりますが、誰が見ても相応に実力が高いと判断され、私が認め、また本人が希望なされるのであれば今の殺戮者スローターズのチームに移動して貰う可能性もありますので、その辺りは皆さんの努力次第ですね。お返事は今でなくとも結構です。
 しかし、これから先について考える必要もありますので、今月中にはお返事を下さい。勿論皆さん同士、いろいろご相談頂いても結構です。ですが、勝手を言いますが最低でも合計で五人くらいは来て頂く選択がなされないと、こちらとしてもあんまりメリットが無いので、あまりにも希望者が少ない場合お断りすることもあります」

 そこまで言って全員の顔を見回した。驚いた顔、嬉しそうな顔、いろいろだ。

「では、私が居ては相談もしにくいでしょうし、私は宿に戻ります。良いお返事を期待していますよ」

 そう言うと踵を返して歩き始めた。

 当然俺が目指すのは殺戮者スローターズの定宿のボイル亭だ。皆に話はしとかないとな。
 あとはトリスとベルにお説教と当面の間、吸収予定の日光サン・レイの指揮を押し付けることを言ってやらないと。日光サン・レイは今十五人。各チームに一人づつ送り込んでも八人と九人のパーティーになる。もう一人づつでも補佐につけて二人づつ送り込むのもありっちゃありだろう。ああ、それでも送り込んだ殺戮者スローターズのメンバーの報酬は今までのまま。殺戮者スローターズ本体で稼いだうちの二%はちゃんと渡してやるつもりだ。日光で稼ぐ分は出向手当な。

 殺戮者から絶対に外せないのはグィネだけだ。あとギベルティかな。最前線を行くチームの飯は旨くないと駄目だしね。



・・・・・・・・・



7445年7月28日

 昨日から続々と日光サン・レイの連中が俺の泊まっている「カイルーグの宿」に来た。二人、三人と連れ立って来た奴もいる。だが、ファルエルガーズたちだけはまだ来ない。昨日も朝から彼らの宿で喧々諤々と話し合いが持たれていたようだからまだ決心がつかないのだろう。昨年末出会った時に言われた内容なんかも考慮してそれなりに良い提案をしていると思うんだけどなぁ。

 それはそうと、気になっていることもあるから日光サン・レイからの移籍組にはリンドベル夫妻について忘れないうちに証拠固めに走らせることにした。と、言ってもやることは大して多くない。サントスという王都出身の魔術師の実家に行って金が返却されていないことを確かめること。確かめた後は騎士団にサントスの実家の人や場所などを伝え彼らにも確かめさせること。王都の貧民街まで出掛け、夫妻に買収されて御札の購入を依頼された奴を出来れば複数見つけ、居所をしっかりと掴んでおくことを命じた。

 ああ、彼らとは全員契約を結んだ。契約書バージョン3だな。字が読めない奴もいるから代書屋で目の前で書いて貰ったりもして余計な出費も掛かったが、まぁそれくらいはいいだろ。



・・・・・・・・・



7445年7月29日

 朝食後にファルエルガーズたちが来た。ファルエルガーズ、クミール、サミュエルガーの三人は少し疲れた顔つきをしていた。

「グリードさん。最初に聞いておきたいことがあります。本当は幾つも聞いたり確認したいこともあるが、今回は最重要なこと一つでいい。どうか正直に答えて頂きたく思います」

 睡眠不足なのか目だけがぎらぎらして顔色の悪いヒーロスコルが頭を下げながら俺に尋ねた。もうなんだよ面倒臭ぇなぁ。

「私は君に好かれるようなことは何一つして来なかった、と思います。文句を付け、嫌味を言い、事あるごとに君を不愉快にさせていたんだろうと思う。つい、口を突いてしまって言ってからしまったと思うこともありました。ロリックやルッツから言われるまで気付かないこともあった……私は嫌な奴だったと思う。そんな私も含めて君のグループに誘ったのは何故だ……今回の件で不思議に思うことがあるんだ。私だけを除いて日光サン・レイを吸収したって良かった筈だ。そう言ったってちっとも不思議じゃないだろう、と今では思う」

 また言葉遣いがおかしくなってるぜ。

「自分なりに君の考えについて予想してみた。答えは三つに絞られたよ。一つはロリックのことだ。彼と私はそれなりに付き合いも長く、親しい。彼はファルエルガーズ家の出身だ。彼の気持ちを害したくないからかね? もう一つは……その、私と君に共通点があるからだろうか? 最後はその両方か。どうしても答えて頂きたい」

 ヒーロスコルの顔は真剣そのものだ。それを固唾を呑んで見守る三人も結構真剣な顔つきだった。

「昨年末、最初にお会いした時のことを覚えておられますか?」

「ああ、あの時からいろいろと詮無いことを口にしたな……」

「ファルエルガーズさんも覚えておられますか?」

「ああ、覚えています。あの時は大変失礼を……」

 短い溜息を一つ吐き、俺は答えを口にする。

「どうやらお二人共お忘れのようですね……私はあの時お二人の友人に加えて頂いたつもりでしたが……ヒーロスコルさんのご質問の答えになっていますか?」

「「あ……」」

 二人は少しばかり呆けたような表情を浮かべ、直後恥じ入ったように顔を赤らめた。

 俺は忘れないよ。何しろ、どんな理由や思惑があろうと転生してからこっち、初めて俺の方から「友達にして欲しい」なんて恥ずかしい事を言ったんだ。あん時ゃ、後で誰かにからかわれるんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていたもんだ。勿論のことそんな嫌な奴は一人もいなかったけど。

「あ……も、申し訳ない! ちょっと頭を冷やして来る。皆は気にしないで話を進めていてくれ……。すみません、グリードさん。ちょっと気持ちを落ち着けて出直して来ます!」

 ヒーロスコルは早口に言うと返事も聞かずに部屋を飛び出して行った。……若いなぁ、青春っぽいなぁ。

「グリードさん、フィオが、彼が勝手に中座して申し訳ありません」

 ファルエルガーズが申し訳なさそうに恐縮して頭を下げた。サンノとルッツはあっけにとられていた。

「多分明日辺り、改めて一人で来ると思います。本当に済みませんが今は放っておいてやって貰えますか? 暫く一人にしてやった方がいいと思うんです。いや、私もまさか飛び出して行くとまでは……」

 微苦笑を浮かべてファルエルガーズが言った。彼としてもヒーロスコルに対し、青臭いなぁ、とか思ってるんだろう。それに、この程度のこと、今更気にするには当たらない。

「いえ、そんなに畏まらないでください、ファルエルガーズさん。で、どうします? 続けますか?」

「ええ、勿論です。宜しくお願いします」

 こうして俺は無事に日光サン・レイの残りを手に入れる事が出来た。めでたしめでたし。



・・・・・・・・・



7445年7月30日

 めでたくなかった。ちっともめでたくなかった。

 ヒーロスコルが失踪した。昨日だか昨晩だか今朝だか知らないが、いつの間にか宿を引き払って姿を消していたのだ!

 っつーか、詳しく話を聞いたら昨日の夕方らしい。宿を引き払い、置き手紙を残して出て行ったのだそうだ。気が付いたのが今日の昼過ぎ、いい加減、俺への回答期限も押し迫っているのでファルエルガーズが散歩にでも誘い、その脚で俺のところに引っ張っていこうと思い立って部屋を尋ねたらもぬけの殻だった。焦って俺のところに来ても当然俺が知る訳はない。宿の従業員なら知っている筈だと助言し、俺もファルエルガーズにくっついて宿に行ったところ、昨日の夕方、おそらく俺達が飯を食っている頃に出て行ったそうだ。そして、置き手紙を二通、宿の人に預けていた。

 一通はファルエルガーズに。もう一通は俺にだ。内容はあんまり変わらなかった。

 俺やファルエルガーズに対する詫びの言葉、特に表に出すには恥ずかしいであろう自分の気持なんかも詳細に綴ってあった。ファルエルガーズへの手紙には殺戮者スローターズは日本人ばかりだからそう悪い事にはならないだろうし、俺もそんな事をしやしないだろうから安心して稼げばいい、とまで書いてあった。そして、結論としては二人に相応しい友人になれる、なれたと思えるまで距離を置かせて欲しい、というものだ。

 これをファルエルガーズから渡されて読んだあと、俺が思ったことは逆じゃなくて良かった、という嫌な考えだった。ファルエルガーズとヒーロスコルで出奔したのが逆であれば草の根分けても探し出し、確実に葬らねば数年だか数十年後だか、枕を高くして眠れないところだった。

 出会った転生者の全部が全部、俺の味方になるなんて幻想は最初から抱いてはいないので、俺はファルエルガーズほど喪失感を覚えたりはしなかったが、それでもショックはショックだ。将来的にズールーの上位互換とも言える強力な手駒になるであろう転生者をみすみす失ったも同然だ。救いはいずれ戻る「かも」知れない、ということくらいか。

 なお、ファルエルガーズは喪失感に打ちのめされはしているようだが、あまり悲観的では無いようだ。

「長い人生、こういうこともある……でしょう。私は既にデンダーとカリム、二人の戦闘奴隷も買ってしまいました。最後まで責任は取らねばなりますまい。……あんまり売りたくないんですよ。あと、サンノやルッツを放って探しに行くのも違います。フィオもそんなこと望んではいないでしょう。彼らの面倒を見るのはフィオに託された私の責任です」

 そして、何故か空を見上げて『ちぇっ、自分だけ予定通りあっちこっち見て回るつもりかよ……この貸しは高ぇぞ、ノムさん……』と呟いて俺に背を向けた。

 俺はと言えば、そんなファルエルガーズの背を見ながら「ああ……もう追いかけてもなぁ……どっち行ったかわかんねぇし、王都に何日か潜伏されたら人も多いし見つかりっこない……参ったなぁ……。この前、殺戮者みんなに偉そうに言っておいてこれかよ……格好悪いなぁ、勘弁してくれよぉ……」と自分の心配しかしていなかった。

 
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