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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百三十四話 トリアージ

7445年7月25日

 歩き出したものの、あまり急ぎたくはない。やっつけで立てた作戦なので粗がないか考えたい。だが、時間が無いだろうことも事実だ。歩き出して五十mも進まないうちに「生命感知ディテクトライフ」にオーガの群れが引っかかった。やはりこちらの戦闘音に注意を引かれたのだろうか。数秒おいてもう一度「生命感知ディテクトライフ」を使ってみた。部屋の中心から俺達の方(時計の十二時から一時の方)へ用心しながらゆっくりと移動している感じだ。

 拳を握った左手を挙げ、皆に注意を喚起する。すぐに左手を開き、(オー)の字を形作るとそれを前後に振る。殺戮者スローターズの中での「敵全部こっちに接近中」の合図だ。右手じゃないのでまだ見えていないことも同時に表現している。カモ三人組はなんのこっちゃか解らないだろうが、何かありそうだということだけでも伝われば充分だ。

 あー、糞。全員と打ち合わせた上でしっかりと作戦を立てたいがのんびりしている時間も無いし、日光サン・レイのカモ三人組にいらん誤解も与えたくない。純粋に対オーガの作戦を話すにしても誤解されたらやっかいだ。バカは信じたいものを信じるからな。カモ三人組は一連の状況を理解しているが、後でそれを聞いた他の奴らに妙な印象を持って欲しくない。

 本当はもうこのあたりで隠れて、オーガが接近して来たところを待ち伏せで狙いたいが、今回はそうも行かない。ゆっくりと前進し、距離を詰める。気付かれる前にあと五十mは前進しておきたい。再度「生命感知ディテクトライフ」を使ってみた。まだ百八十mは離れているだろう。前進速度を上げ、三十m程詰めた。また「生命感知ディテクトライフ」を使ってみた。距離は百四十mを切っているだろう。このまま三十m程前進すると身を隠す前に気付かれてしまうかも知れない。

 仕方ないので二十m程進んで丁度良い灌木の茂みに隠れ、同時に全員に隠れるように指示をした。振り返ると殺戮者スローターズの動きを見たカモ三人組も慌てて身を低くして手近な灌木の茂みや樹の幹の裏に隠れるところだった。

 【鑑定】の視線でオーガが接近してくるであろう方向を見たが、色々邪魔なものが多すぎて目に入らなかった。オーガメイジの数だけでも確認しておきたいところだ。オーガとオーガメイジは見ただけじゃ違いは判らない。ステータスを見れたとき、または【鑑定】をして初めて魔法の特殊技能を持っていることからオーガメイジと判明するのだ。

 俺の視線が通るまでこっちに気付かないとか無理だろうなぁ。とすると、群れの中心辺りか後方にいる奴がそうなんじゃないか、と言う不確かな予測でしか判断出来そうにない。何か指示でも出してくれればそいつがオーガメイジだとアタリを付けることも出来るが、悠長に待っては居られないだろう。

 既に大幅に選択肢を減じられている俺の狙いとしては、なんとか日光サン・レイ本隊を絡めた乱戦に持ち込んで、死なない程度に大怪我をして貰う。出来れば複数の、可能ならリンドベル夫妻も入れて、理想を言えば全員だ。ああ、カモ三人組は怪我をしてもしなくても別にいい。で、リンドベル夫妻にトリアージをして貰うのだ。もうそれくらいしか無い。その為には最初だけは多少派手にやって本来の作戦に近づけるべく戦闘開始を教える必要がある。

 殺戮者スローターズの皆ともちゃんとした意思疎通は出来ては居ないが、当初の計画は既に破綻している事くらいは理解出来ている筈だ。エンゲラとバストラルは俺が何か指示をしない限り余計なことは言わないだろう。グィネもまず安心出来る。問題はラルファだが、さっきケツを蹴り飛ばしたばかりだから当面はおとなしくすると思う。するよな? しなかったら罰として余計面倒になる前に日光サン・レイ全員の息の根を止めさせてやる。そうなると転生者も俺には靡かないだろう。ついでに三層で待ち伏せして日光の二軍もファルエルガーズたちごと全滅させにゃならん。

 ああ、やっぱりラルファを置いてベルを連れて来た方がまだ安心出来た。思わぬ油断から(と言うのも酷な気もするけど)オーガの奇襲を受け、ゼノムを始めトリス、ミヅチ、ズールーと立て続けにやられて計画も糞も無くなったのだ。ショックも受けているだろうし、何より治癒のためにベル以外を置いて来る選択肢も取れなかったのが痛いところだ。

 全員にその場で待機を命じ、そっと茂みから顔を出す。部屋の中心方向を見るがやはりオーガは見えなかった。また「生命感知ディテクトライフ」を使うと距離はそろそろ百mを切りそうだ。いつ気付かれてもおかしくない。放っておいても気付かれる以上、少しでも距離を詰め、日光サン・レイ本隊とオーガの距離を短くする方が先決だろう。

 全員に突撃を指示し、一気に走り出す。既に頭が冷えているのか、さっきとは違って木々はよく見えた。



・・・・・・・・・



 居た。

 一気に七十m近くダッシュすると三十m程先にオーガの群れを見つけた。当然のことながら既に俺に気付いているようだ。灌木の茂みを飛び越えて着地と同時にオーガよりだいぶ奥、視線の届く最長距離に「オーディブルグラマー」の魔術を使ってガサガサという、誰かが茂みを駆け抜けるような音を立てた。勿論俺の耳にその音は届かないが、オーガメイジなら気が付くだろう。同時に「フレイムアーバレストミサイル」で真ん中辺りのオーガを狙い撃った。

 振り向くか、反応した奴がオーガメイジだ。

 俺が狙ったオーガはオーガメイジだったようだ。「フレイムアーバレスト(ミサイル)」を認めた途端に抜け目なく手近なオーガの後ろに隠れやがった。頑張れば当てられないこともないが、多少の軌道変更ならともかく、派手に軌道を動かせば唯の「フレイムアーバレスト」だと言い張れなくなる。炎の槍は目立つから、カモ三人組からも見えている可能性は高い。

 仕方無いのでそのまま盾になったオーガの顔面を貫いてやった。

 また、俺が狙ったのとは別のオーガメイジらしい奴が後ろを振り向いて何匹かのオーガに後ろを指さした。俺達が囮か本隊かはオーガたちに判断は付かないだろうが、それなりの人数で攻めかかっている。回り込んだ伏兵を警戒する程度、オーガメイジには当たり前のことだ。

 もう一発行けそうだ。

 棍棒を携えてこちらに駆け出した別のオーガに向かってもう一発「フレイムアーバレストミサイル」を放つ。但し、これはそいつの後ろの方でこちらに対し魔法を使おうと精神集中を始め、動きを止めたオーガメイジ(多分)が真の目標だ。微妙に弧を描くようにオーガの脇を通り抜けた炎の槍は視線を切らされないように剣を抜きながら横移動した俺の狙い違わず、オーガメイジらしき個体に向かって飛翔し、見事にその広い胸板に命中した。即死では無いだろうが魔法は封じたと思うし、どうせ碌に動けやしないだろう。だが、これだけ目立てばこっちに注目しているオーガの第一目標は俺以外にはあり得ないだろ。

「ああっ!」
「外し……」
「ちっ!」

 俺に向かってきたオーガの脇を炎の槍が通り抜けた時、後ろからこんな音声が聞こえてきたが、すぐに、

「おおっ!?」
「すげっ!」
「俺もそうじゃないかと思ってた」

 と言う声に変わった。調子良いね、カモ三人組は。

 俺の右脇をエンゲラが駆け抜け、こちらに向かってくるオーガに無言で突撃していった。反対側を身を低くしながらラルファが進み、俺の目の前を交差するとエンゲラの死角をカバーする位置取りをした。俺もエンゲラの左五m程まで前進し、続いて突撃してきたオーガ二匹を足止めする。目立った以上狙いやすいように前線に出ないとな。ここは時間をかけて粘りたい。オーガたちの隙間からちらりと見えた光景は三匹のオーガを先頭に、一匹か二匹のオーガかオーガメイジが後方に油断なく警戒の視線を送っている所だった。

 戦闘可能なオーガたちは残り九匹。その半数程が後方に、半数ほどがこちらに対応するようだ。と、言ってもやはりまず対応するのはオーガであり、オーガメイジは現在の中央を動かず指揮を執り、魔法で援護する腹積もりのようだ。

 俺が先頭に立ち、一人で二匹を相手取っているため、与し易いと見たのか別のオーガも寄ってきた。だが、すぐに俺の後ろをグィネとバストラルが固めたのを見て取ったのだろう、警戒したのか方向を変えて大回りするように動いていた。

「あいつは俺達が抑える!」

 ロッコの声がした。同時に彼らの足音が俺の左後方から左の方へと移動したのを感じた。

「無理は禁物ですよ!」

 一応声を掛けるが、そちらに気を取られ、つい目の前の奴の一匹に隙があったため、棍棒を躱しざまに本気に近い一撃を入れてしまった。左わき腹から右の乳の下まで大きく切り裂いてしまった。派手な叫び声を上げて傷口を押さえながら転がるオーガを避け、あ~あ、やっちゃった、と後悔した。

「おおっ! 流石だな! 皆、俺に続けっ!」
「応!」
「俺だって!」

 カモ三人組が俺の左側へと回り込もうとしたオーガと対峙した。何はともあれ、俺の目の前のオーガが一匹になり、かなり余裕が出来たのは確かだ。慎重にオーガと間合いを計り、グィネとバストラルの牽制に支えられたため、再度「オーディブルグラマー」の魔術を使って遠くに音を立てた。同時にカモ三人組が向かったオーガに向けて千本を投擲した。効きはあんまり良くないだろうけど無いよりマシだろ。

 即座に反応したオーガメイジが手下を叱咤してそちらに向かわせるのが判った。同時にオーガメイジの一匹が精神集中をしているのにも気が付いた。大怪我をさせて完全に魔法を封じるべきだろうか? いや、まだ手はあるな。即座に目の前のオーガの脇を回り込み、目立つ位置に躍り出た。ほぼ同時に俺に向かって石の槍が飛んで来る。タイミングが重要だ。

「はあっ!」

 下から切り払うように剣を振りながら小さな手のひらサイズの「アンチマジックフィールド」で石槍を受け止めて消した。全員戦闘中だから俺が神業のような剣技で打ち払ったようにしか見えないだろうことは計算済みだ。去年の秋から、呪文の練習なんかで迷宮内で訓練を行っていた時にミヅチと練習したんだ。

 全員から感心の声が上がるかと思っていたらそんなことはなかった。グィネとバストラルは意味のない行動をした俺をフォローすべくまだ元気なオーガに忙しく牽制をしなければならないし、エンゲラは何発か攻撃を命中させているようだが、どれも致命傷には至っていないから目の前のオーガはまだまだ元気十分でとても気が抜ける状態ではない。ラルファはこっちに背を向けてエンゲラのフォローをしていたようだ。カモ三人組の方は必死に一匹のオーガを相手取っており、既に俺の行動に注意なんか払っていなかった。

「ギオオォォオオウッ!」

 魔法を打ち消されたオーガメイジだけが俺に憤慨の声を上げ、憎らしそうに俺を睨みつけていた。お前だけか、俺の価値を認めてくれたのは……。だが、オーガメイジは結構頭がいい。すぐに気が付いてしまうだろう。

「粘れっ!」

 そう言い残して残ったオーガの左膝の裏を切りつけ、片足にすると同時に俺を睨んだオーガメイジに向かって突進した。ああ、エンゲラもラルファもあの様子ならいつまでだって粘れるだろう。グィネもバストラルも片足が不随になったオーガ相手なら槍を使っていることもあるしまず大丈夫だ。カモ三人組は知らん。三人もいりゃなんとかなるだろ。誰か一人大怪我でもした時点でグィネとバストラルがさっさと片付けて、治癒までしてくれるだろ。

 俺に対して魔法を使うことを無駄だと悟り、俺以外の奴に狙いを付けられる前に俺が接近する事でそれを封じる必要があった。

 俺の前方から炎の槍が飛んできて後方に向かったオーガに躱されたようだ。

 ようやく来たようだな。

「グゲェオウオゥギャルッ!」
「ギィ、グッ!」

 オーガメイジが何か命じたようで、後方へ向かったオーガが駆け出す音がした。同時に命じたオーガメイジもその後を追うように動いていった。俺の目指す先にはこちらを憎々しげに睨み、棍棒を構えたオーガメイジが一匹と、胸に炎の槍を受けてぎゃあぎゃあ喚いているオーガメイジらしい奴、最初に俺が殺した盾になったオーガの死体が居る。

 ばーか、お前程度の習熟度でそんなに早く魔術が撃てる訳ねぇだろ。

 精神集中を始めようとしてすぐに諦めたオーガメイジを見て笑みが零れた。

 流れるように接近した俺に、手に持った棍棒で攻撃してきた。

 大振りの棍棒を転がって躱し、右膝に斬り付けて後ろに回った。

「既に三匹倒しました。今は四匹を相手取っています! そちらには四匹が向かっています!」

 一応だが大声で警告を送った。

「おう!」

 多分この声はコーリットだろう。強襲を掛けた格好になったが、日光サン・レイ本隊に向かったのが四匹なら当初のノルマ、と言うか俺が言った事への責任は取った。彼らが接敵してから三十秒くらい粘れば頃合いだろう。

 片足になったオーガメイジの振り回す棍棒を余裕を持って避け、浅く腕を傷つけていく。同時にオーガの眼前に「エアハンマー」の魔術を叩き込み、目をつぶって怯んだところに右胸に剣を突き刺してやる。すぐに飛び退いてまた隙を見ては斬り付けた。俺の「フレイムアーバレストミサイル」に胸を貫かれたオーガメイジはまだ生きては居るようだがかなり弱っており、もう虫の息だ。少しの間だろうが安心してここで戦っていられる。

 ちらと元来た方を見るとラルファが跳躍から斧を振り下ろしてオーガの右肩口に食い込ませた所だった。斧の一撃を食らった肩口が爆ぜるようにして周囲に血を撒き散らしたのが見えた。グィネとバストラルも危なげなく戦っている。もうその気になれば何時でも止めを刺せるかもしれない。カモ三人組も多少オーガに傷を与えているようだし、全員元気に動いている。

「ごぶっ!」
「「ハルクッ!!」」
「「ハルクさんっ!」」
「だ、だめだ。ひ、退けっ!」
「「そんなっ!?」」

 ありゃ、そんな簡単に傷ついた仲間を見捨てて退くのかい? 予想外に酷いな。だが、全滅を避けようとする思い切りの良い判断でもある。しかし、ハルケイン・フーミズが最初にやられたか。オーガ相手に比較的リーチの短い戦棍メイスはどうかと思っていたが最初はあんたか。盾を上手に使えるからもう少し粘ると思っていたんだがな。でも、声は小さいな。結構距離があるのか?

「カーム、戻って! 後退よっ!」

 メイリアの叱咤の声が響いた。

「でも!」
「あぐっ!」
「メリーッ!!」
「「メリーさんっ!!」」
「糞っ! 仕方ない、踏ん張れっ!」

 長剣ロングソード戦棍メイスを使っていた前衛二人が傷ついたな。そろそろ頃合いかな? だが、嫁さんが傷ついた途端に後退は無しか。現金なもんだがそれが人ってものだろう。責めるには値しない。そんなことよりこの状況は理想的だ。俺は神に愛されているとでも言えるのではなかろうか?

「はっ!」

 小さく息を吐き出しながらオーガメイジの左の上腕に斬り付け、素早く回転すると左膝に斬り付けた。

「ゴォエッ!」

 両膝をやられ、完全に地に膝を着いたオーガは俺と同じくらいの背丈にまで縮んだ。

「しゃあっ!」

 喉に剣を突き入れ素早く引き抜いた。もう俺の体は返り血で真っ赤だろう。

「さっさと始末しろ!」

 後ろにそう叫ぶとオーガの心臓に剣を付き入れ止めを刺した。すぐに日光サン・レイ本隊へ向かって駆け出した。

「今援護に向かいます!」

 そう叫ぶと剣を引っさげて疾走した。
 百mちょっと離れた場所で血みどろの戦闘が繰り広げられていた。

 ハルクがうつ伏せに倒れており、メイリアが樹の幹を背にしたまま脇腹を押さえて蹲っている。その付近にオーガが三匹陣取り、少し後方にオーガメイジらしい奴が居て、ぎゃあぎゃあと指示を出しているようだ。

 日光サン・レイの方は力のあるまともな前衛を失い、槍を装備したコーリットとキムが前衛に立って三匹のオーガを必死に牽制している。ミースとカームが魔法と弓で攻撃役となっている。

 勿論三匹のオーガも無傷ではないようだが、痺れ薬なんか使ってないし、まともな状態だ。オーガメイジが精神集中を始めた。キムしか確認出来なかったが、彼女に絶望に近い表情が浮かんだ。

「うおおおおぉぉぉっ!」

 剣を大上段に振りかぶってオーガメイジに後ろから思い切り斬り付けた。

「ギャアアァァァッ!」

 濁った絶叫がオーガメイジの口から迸り、魔法の精神集中は絶たれた。怯んだところをメッタ斬りにしてやり、背中から心臓を貫いて止めを刺すと本隊の方へと走る。右のオーガがいきなり手に持った棍棒を後衛のミースに向かって投げつけ、弓の狙いを定めていた彼女の腹に当たる。コーリットがここぞとばかりに槍を突き出したが真ん中のオーガに阻まれ、逸らされてしまった。そこに手ぶらになった右のオーガが飛び掛かって組み付いた。

「ごおおぉぉぉっ!」

 コーリットの雄叫びが上がる。獅人族ライオスの【瞬発】か。

 コーリットの槍を棍棒で打ち払った真ん中のオーガがキムの突き出した槍を左手で握っていた。そこに矢が刺さるが、少し動きが鈍っただけで意に介した様子もなく槍を引いた。左のオーガが棍棒を振り上げキムの頭を叩き潰そうとしている。

「キムッ!」

 誰かの叫びが上がるが、もう彼らでは何をしても間に合わないだろう。

 背中に風魔法を使い、一瞬で飛んできた俺を除いては。

「とおっ!」

 左のオーガに左肩から体当たりをして振り下ろされた棍棒の軌道をずらし、すぐに真ん中のオーガの背に剣を振るう。

「ああっ!」

 それでもキムに向かって振り下ろされたオーガの棍棒は彼女の右腕を叩き潰したようで、変な方向に曲がり、大きく傷付いた右腕を抱えてキムは地をのたうち回った。大丈夫、腕一本じゃ死にはしない。

「せあっ!」

 俺が体当りした、未だ何が起こったのか理解出来ないままたたらを踏んでいるオーガの背中から心臓を一突き。すぐに蹴りつけて剣を抜き、真ん中のオーガを牽制しつつ回りこんでコーリットと組み合って(!)いるオーガに斬り付けた。オーガの意識さえこっちに向かせればいい。

「はっ!」

 すぐに横っ飛びに飛び退き、真ん中のオーガの攻撃を避ける。

「ふんっ!」

 コーリットがオーガを殴りつけたのが見えた。いくら【瞬発】とは言え、素手での攻撃じゃあ大してダメージにはならない。っつーか、アホだなこのおっさん。興奮し過ぎて頭に血が上っているのかも知れない。急がないと。棍棒を俺に振るって来る真ん中のオーガと切り結び、倒すのにどれくらいかかるだろうか。考えている暇はない。

「りゃああああっ!」

 かなり必死に剣を振るい、真ん中のオーガの腕をボロボロにしてやった。オーガは痛みに顔を歪め、何やら悪態でも吐いているようだ。落ち着いて攻撃を躱し、剣を振るう。次々に俺の攻撃が命中するようになり、喉を切り裂くまでさほどの時間はかからなかったと思う。

 すぐに右のオーガに向き直ったが、コーリットはオーガの左腕に自分の右腕を捕まれ、殴られていた。

 即座にオーガの脇腹に剣を突き入れようと構えたが、すっ飛んできたラルファに手斧トマホークで頭をざくろのようにされて即死した。

「向こうは?」

「エンゲラ達を向かわせたわ。流石にもう片付いてるでしょ」

 手斧トマホークにこびりついた脳漿を斧を振ることで跳ね飛ばしながらラルファが答えた。

「見てこい」

 ラルファは全く不満そうな素振りも見せず素直に従い、戻っていった。やはり少しは思うところもあったようだ。

「ミース! もう大丈夫よ! キムも落ち着いて!」

 一人無傷だったカームがミースの様子を見ながら叫んでいた。

「ぐぁ……ち、治癒を……」

 顔面の左側を腫らし、掴まれていた右腕も変な方向に曲がったコーリットが地面から俺を見上げて言った。

「なんでもっと早く来てくれなかったの!」

 弱々しいがそれでもしっかりした言葉でメイリアが俺をなじった。

「一生懸命頑張りましたが援護が遅れて申し訳ありません」

 しゃがんでハルクを仰向けにしてやりながら言った。

「出来るだけ早く「キュアークリティカル」が必要な人が四人居ます。メイリアさんとハルクさん、キムさん、ミースさんです。どなたに使うべきでしょう? ここまでの戦闘で結構魔力も使っていますからギリギリです」

 メイリアは腹に攻撃魔術を受けたらしい。鑑定すると【状態:刺創】だった。棍棒では無理だろう。でも、大怪我は確かだが「キュアークリティカル」はすぐに無くてもいいだろう。ハルクの方は腰にだけ攻撃を受けているのかと思ったが、その後腹も踏まれていたようだ。【状態:打撲・内臓破裂】だった。こっちに使った方がいい。キムは痛いだろうが正直なところ腕一本、多少の間放っておいても命に別条はない。ミースは……状態はハルクと一緒だけど彼程重症、という訳では無さそうだ。

「む……そりゃそうか……そうだな、なら、メイ「ハルクさんの方が危険だと思います!」

 何やら言いかけたコーリットを制してカームが叫んだ。
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