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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百三十三話 窮地

昨日は帰りの新幹線の中でやっと書き上げ、十八時くらいに投稿しようとしたらメンテで繋がりませんでした。
ご心配をお掛けしましたが、メンテは今日の12時までらしいので昼休みに投稿しました。一日ずれましたがいつも通り19時にしました。
7445年7月25日

コーリットとメイリアが何やら難しい顔をして話をしながら先程俺の描いたモン部屋の円の上で石を動かしている。ちっ、余計なこと考えてんじゃねーよ。と、言ってもなぁ……。

 迷宮に入る前に最後に取った連絡では、俺達が七層に来て順調に移動を開始するまで殺戮者スローターズは七層の転移の水晶棒の部屋で待機をすることになっていた。「部隊編成パーティゼーション」によって俺が移動を開始したことを確信したら予め調査済みのオーガの集団の居るモン部屋の傍まで移動し、そこで更に待機を続ける手筈だったのだ。

 今俺が目の前にしているモン部屋を時計と考えると俺達は六時、殺戮者スローターズは一時くらいの方向に固まっている。微妙に動いている奴もいるから俺が部屋にいない今、安心して飯でも食ってるのかも知れない。俺はずっと気を張り詰めっ放しなんだから、呑気に飯なんか食って気を抜かないで欲しい。言いがかりか。飯くらい食うよな。

 俺はモン部屋到着後に何とか単独行動を取れるように行動なり提案という交渉なりをして一度殺戮者(スローターズ)と合流し、想定されていた状況との齟齬があればそれを短時間で報告する事になっていた。万が一俺が単独行動を取れなくてもモン部屋の入口付近で待機をしていた殺戮者スローターズは俺の接近が解るから、身を隠したまま俺を確認する。

 近づいてきた俺が単独でないのであれば、多少齟齬があっても、俺から致命的問題発生の合図がない限りそのままやり過ごすとトリスから連絡を受けていた。勿論今のところトリスたちの計画に大きな影響を与える程の問題は発生していない。

 そう言えばあいつらの魔力の残りは大丈夫だろうか。今朝、俺達が七層に転移したのは朝の五時前くらい。移動を開始したのは五時半くらいだろう。今は昼過ぎだから七時間以上経っている。ここまでの道中、オーガに出会っていたとしても痺れ薬を使えば魔法の世話にはならないだろうから、魔力を使うとすれば「生命感知ディテクトライフ」による警戒だろう。

「……ドくん」

 トリスは無魔法が四レベルになっているが、火魔法を使えないので「生命感知ディテクトライフ」はそもそも使えない。使えるのはミヅチ、ベル、ラルファの三人だが、この魔術はMPを十も消費する。回復に要する時間は五十分だ。ミヅチは剣の柄を握っていれば四十分になるが、四十分間も柄を握りっぱなしなんて有り得ないだろう。交代で三人が十分おき(これ以上の間隔だとあんまり意味が無いと思う)に使っても一時間で消費する魔力の合計は六十。対して回復は三十六、一人当たり十二にしか過ぎない。

 既に七時間程も経過しているから回復分を差し引いて単純計算で合計百七十……いや、これは全員充分なMPがあればの話だ。ラルファはMPの上限が少ないから使っても一時間に一回だろうし、ベルは二回、ミヅチは三回だろうか。ベルは一時間に八づつ、ミヅチに至っては十八も消費している。そう考えるとミヅチもベルも魔力自体はかなり減っている。が、それでも結構残ってると言えるかな?

「グリード君」

「あっ、はい。済みません、ぼーっとしておりました」

「ああ、いいさ、気にしないでくれ。しかし、七層でぼーっと出来るとは大したものだ。ちょっと来てくれないか? 皆も集まってくれ」

 あーあ。トリス、ベル、あの様子じゃ流石に無理があったようだぜ。

「さっきの作戦についてちょっと考えてみたんだが、修正をしたい」

 ほれ見ろ。この二人は十年以上トップチームのリーダーを張ってるんだ。あんな危険な作戦をそう簡単に認めるものかよ。お前らは俺の力をかなり知っているから、知らない奴の気持ちを慮れなかったんだろう? 確かにここに至るまでに充分に俺の力を見せつけるため、トリスたちの指示通りオーガを倒すのに大活躍はしてやったが、あんなもんじゃ不十分だろ。ま、これも経験だ。また減点だが、フォローはするさ。

「皆もしっかり聞いてくれ。修正と言ってもそう大きなものじゃない。オーガの後ろに回り込む人数を増やすだけだ。ああ、グリード君を信頼していない訳じゃない。そこは勘違いしないで欲しい」

 コーリットが言った。

「人数を六人と四人で分けるわ。ロッコ、ケビン、ジェル。あんた達はグリード君と一緒にオーガの後ろに回りこんで」

 続いてメイリアが付け加えた。

 ほう? 強気だねぇ。俺が一人で動くのは殺戮者スローターズと連絡を取る意味もあるが、日光サン・レイに戦力を残す意味の方が大きいんだぜ。ま、俺としては緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドだろうが黒黄玉ブラック・トパーズだろうが煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)だろうが、勿論のこと日光サン・レイもそうだが、どのパーティーでも俺たちと同じ階層に来るならさっさと全滅して欲しいことに変わりはないけれどね。お宝を得るには邪魔だからね。

 しかし、ロッコにケビンにジェルか。ここでも見事に怪我人カモ要員を本隊から外して囮役であるこっちに押し付けて来たな。俺が思うに、この夫婦は一見して突っ込まれないように振る舞ってはいるが、その実、冷酷に仲間、もとい、カモを死地に送り込んでいるように見える。どうせ言うだろ。それらしく適当な理由をさ。ま、何て言うのか楽しみですらあるな。

「グリード君は彼らと一緒にオーガの裏に回りこんでくれ。それで、最初に攻撃魔術でオーガを一匹仕留めてもらう。それを合図に私とミース、カームで同じく攻撃魔術と弓でオーガを二匹仕留める。ここまでは一緒だ」

 先程の俺と同じように小石を移動させながらコーリットが言った。

「問題はその次ね。八匹になったオーガが半分ずつに別れて来るか、正直なところ疑わしいと思っているの。例えば私達のうちどちらかを無視して片一方に全部が来ることも考えられるけど、この場合はあんまり問題ではないわ。オーガが来ない方は背中や後頭部に攻撃魔術を撃ち放題になるからあっという間に形勢はこちらに有利に出来るでしょう。問題は一匹とか二匹がどちらかに向かって、六匹とか七匹がどちらかに向かうケースね」

 だよなぁ。普通はこれを心配するよね。ま、オーガだけなら馬鹿だから俺の言った通り半分づつに別れるだろうけど、オーガメイジが居たら本当にどうなるか解らん。恐らくは数の少ない俺の方に一匹か二匹だけ回すとは思うけどね。それからオーガメイジ以外の普通のオーガ(多分三匹~四匹、事によったら五匹かもしれないけど)を本隊に差し向けるだろう。つまり、三つに分けると思う。オーガメイジは魔法で敵の数が多い方を援護するのがセオリーだな。

 オーガメイジの頭が過去の経験から予想出来ない程もっと良いなら、二匹くらいを人数の多い日光サン・レイ本隊の牽制に回し、残りは一人しかいない俺に対して全力で当たる。俺を始末してから全員で本隊に当たることすら考えられる。尤も、これはその時の地形や、オーガたちの配置、状況によって左右されるのでなんとも言えないけど。でも、リンドベル夫妻は当然ながら頭は良いからこれを心配しているんだろう。少なくとも彼らは俺個人の戦闘力についてはそれなりに認めている。戦闘力の高い俺が最初にオーガに囲まれて使い物にならなくなるのを恐れているんだろうね。

 正直な話、モン部屋に居る奴らに確実にオーガメイジが混じっているかどうかは俺にも判らん。そもそもオーガかどうかすら判らない。【鑑定】はしていないし。視認出来る距離まで近づこうにも木が邪魔になるから相当近づかなきゃいけない。森で視界が悪いからほぼ確実にオーガメイジの探知範囲内に入っちゃうからその時点で作戦もクソも無くなる。気付かれるのを前提で予め襲撃手順を練っていなければ、一気に接近戦に持ち込まれるだろう。さっきの偵察程度の短時間である程度問題なく隠密行動が出来るのは残念ながらミヅチだけだ。とは言え、これについてはトリスたちが調査済みだろうから何も連絡がない以上、オーガだろうけれど。

 オーガメイジが居ない場合、本音を言えば魔法や痺れ薬なんかに頼らなくても六匹や七匹程度のオーガ、森の中なら俺一人でかすり傷ひとつ負わずに料理出来る自信はある。しかし、リンドベル夫妻はそんな俺の実力なんか知らないだろうからね。四匹相手に二十分は逃げ回れると大見得を切った俺だが、六匹とか七匹とかの大軍に囲まれたら流石にキツイと思うだろう。

 ここに来るまでの間、二匹を同時に相手取って小細工無しで正面から叩き斬った俺の実力を見ても、一人で六匹を相手取るのは無理だと思うのが普通だろう。ま、そういった状況はすべて草原とか荒野で誰からも見えるようにやってやったけどな。林や森の中なんかでは奇襲を掛ける以外はわざと戦わなかった。複数のオーガ相手には森や林といった木々の中の方が楽なんだよ。こっちが一人ならな。

 今回の作戦は「回り込んだ囮要員が生きてオーガを引きつける」ことが最重要のポイントだ。少なくとも本隊に向かったオーガを本隊が倒す間は囮が生きて動きまわり、オーガを引きつけ続けていなければ話にならない。

「グリード君の方に行くのが一匹や二匹なら問題ないわ。その程度なら充分に勝てるのはもう解っているし。でも、六匹とか七匹は流石にきついんじゃなくて? 私達としては貴方に死なれるのは困るわ」

 リンドベル夫妻の発言はごく初歩的なランチェスターの第二法則に近い事をしっかりと理解していることを示している。流石はトップチームを率いているだけある。迷宮で戦うしか能のないバルドゥックの冒険者とは一味違うね。ズールーやエンゲラを始めとした、そこらの冒険者なんざ小学生程度の理解力しか無いのが殆どだからな。彼らだって転生者と触れ合ううちに目覚ましい進歩を遂げているから、今ではこの程度すぐに理解するけど。

「私は大丈夫ですよ」

 解っちゃいたが一応は言っとかないとな。
 彼らが言いたいのは俺がオーガに何の被害も与えられずに死なれると困る、と言う事だ。別に俺の命を惜しんでいる訳じゃ無いだろう。その証拠にほれ、あの顔つきを見ろよ。夫婦揃って金に目が眩んでやがる。まぁ今日だけで二十一匹ものオーガを倒せればそれだけで千七百万Zくらいになるんだ。安いマジックアイテムなら二個くらいの売上だからね。そりゃ眼の色も変わるだろう。こうするためにオーガは与し易いという認識を与えるため、広い場所に引きずり出し、解らないように、武器に塗ってから時間が経って少し乾きかけて効きの悪くなった痺れ薬も使い、必ず一匹だけと戦わせるように苦労したんだ。

 だが、既に決定した作戦なんだし、これ以上ケチを付けるのも得策じゃない。

「いいえ。ロッコたちはグリード君の護衛と考えていいわ。グリード君には主に攻撃魔術を使って貰うことになるでしょうけど、使えるのはタイミングから考えて最初の一発か二発、良くても三発でしょう? 不意打ちを仕掛ける最初以外は外すかも知れないし、その後、貴方に怪我でもされたら治癒魔術が使えなくなるのは痛いわ」

 俺も含めて別働隊の四人は声を揃えて了解の旨、返事をする。

「六匹がそっちに行った場合、ロッコたちはグリード君と四人で何とか粘って。その場合、こちらには二匹だろうから六人いればすぐに片がつくでしょう。こちらに六匹が来た場合、そちらは二匹だからグリード君も居るし、同じようにすぐに倒せるでしょう。その後にこちらに援護に来てくれればいいわ」

「ええ、オーガなんざ大した相手じゃないことはもう解りましたからね。大丈夫っすよ」
「ああ、グリード君が居ればこっちは七匹来たって何とかできらぁ」
「別に全部倒してしまっても構わんのでしょう?」

 ロッコたちが威勢よく言った。まぁ、俺の方に来るんであればこいつらでもいいか。

「あら、ケビン、全部倒すなんて大きく出たわね。期待しているわ」

 ミースがからかうように言ったが、顔は心配そうだった。

「おう、俺はロッコの阿呆と違ってもう御札を持ってるしな。例え大怪我しても安心だぜ」

「あ、ケビンは先月来たんだっけ? 俺はロッコと同じで去年使っちまったからなぁ……コーリットさん、俺の御札はまだですかね?」

「すまんな、ジェル。もう一年以上待たせてるが……工作資金に苦しんでいるようでな……」

「ええーっ? 春にも三十万追加で入れたのに……」

 ジェルは困ったように唇を噛んでいる。

「また追加で払ったらどうだ? 俺はそうしたことあるぞ」

 ハルクがジェルに忠告っぽいことを言った。やっぱりこいつも、リンドベル夫妻の協力者か? そう言えば以前、殺戮者スローターズに潜り込もうとしてきたのもこいつだった。

「……追加か……仕方ないかもなぁ。また払えばなんとかなりますかね?」

 すがるような目つきをしたジェルがメイリアを見た。

「それは……なんとも言えないわ。でも、何もしないよりはマシかも知れないわね」

「そうすか……メイリアさん、戻ったら今回の報酬で払いますよぉ。だから早いとこ頼んます。何とかお願いしてみて下さいよ」

「あまり無理を言わんでくれ……だが、追加の資金があれば言い易くはあるな。今回はそれなりに稼げそうだし、俺からもよーく言っといてやる」

「へへっ、宜しくお願いしますよ。コーリットさん」

 なんだかロッコたち三人が本当に哀れになってくる会話だった。



・・・・・・・・・



 ……休憩も取ったし、そろそろ出発するか。

「じゃあ、行ってきます。裏に回り込んで位置につくまでは慎重に行きますから三十分以上掛かるかも知れません」

「ああ、分かってる。俺達もあと少ししたら慎重に近付いて行く。幹に隠れ、灌木の下を這うようにしてな。焦る必要はない。ゆっくり時間を掛けたっていいんだ。とにかくこちらは君の不意打ちがあるまでは動かずに待機する」

 コーリットの返答を出発の合図にすると壁を右手にして歩き出した。勿論ロッコ、ケビン、ジェルの三人もしっかりと付いて来ている。オーガたちが部屋の主の場合、外周に沿って歩く限りはまず気づかれることはない。不思議なことに、落ち葉なんか殆ど無い森の中を歩く音なんか五十m先にまでも届かないし、あちこちに灌木も沢山生えているから視界は非常に悪い。オーガメイジは百mも先の気配に気が付く程敏感だが、外周から中心辺りまでは二百五十m。戦わずして通り抜けることすら楽に出来る。

 オーガの裏に回るにはこの円形をしたモン部屋の外周に沿って半周する必要がある。部屋の直径は約五百mなので大体八百mくらい歩かなくてはならない。ついでに言うと半分近くの七百mくらい歩いた時点で待機している殺戮者スローターズの目の前を通るだろう。

 まず気取られないとは言え、それでも慎重に出来るだけ音を立てないように歩いて行く。もう五百mは歩いたろう。あと二百mくらいで殺戮者スローターズの待機地点だ。灌木の茂みとか岩があれば、その裏とか目立たない場所に待機しているだろう。ひょっとしたらミヅチあたりはもうこちらを見つけて俺だけじゃないことを皆に伝え、全員で息を潜めてこちらを窺っているかも知れないな。俺が部屋に足を踏み入れてすぐに「部隊編成パーティゼーション」で感知出来る全員がひとかたまりになって全く動かずに居るのがよくわかる。

 四人で慎重に進んでいたその時だ。「部隊編成パーティゼーション」に異常を感じた。だが、なんだ? この動き。今まで全く動いていなかった全員が慌てたように細かく動いている。

 これ、戦闘か!?

 そう思うと同時に頭の中に『フォーマットしろ』と命令が来た。
 この命令はかなり大きなトラブルが発生したという意味だ。

 瞬間的に「生命感知ディテクト・ライフ」の魔術を使うも俺たち日光サン・レイの反応しか返って来ない。当たり前だ。先ほど感知したモン部屋の主も、殺戮者スローターズも距離が遠すぎて「生命感知ディテクト・ライフ」の感知範囲を超えているのだ。

『ギオオオォツ!』「お父さんっ!」

 遠すぎてくぐもっているがモンスターの上げる咆哮が聞こえてきた。多分オーガだろう。それから、遠くて朧げに、しかも何と言っているかすらも聞き取りづらい声だったが、あれは、ラルファの声だ! ゼノムに何かあったのか!? ゼノムの気配は「部隊編成パーティゼーション」に残っている。しかし動いていない。ラルファがすぐ傍に付いているようだ。

「魔物の声か……」
「聞こえるってことは近いのかな?」
「オーガは間抜けだからゴブリンの取り合いで喧嘩してるのかも」
「いや、殺戮者スローターズって線もあるぞ」
「ちっ、邪魔にならんと良いが……」

 皆好き勝手に言っている。立ち止まってモン部屋の中心を見つめた。ここでオーガの声が聞こえたということはモン部屋の主達にも聞こえているだろう。殺戮者スローターズ日光サン・レイの本隊同様にモン部屋の入り口近辺にかたまっている。部屋の入り口からは二十mと離れていない。それに、痺れ薬もまだ武器に塗っていないはずだ。

 俺がいつ動くかわからない以上、早めに塗っておいても薬が乾いちゃったら傷口から吸収されにくいため効果はガクンと落ちるし意味ないからな。俺がここに来るまでの間、千本に塗った痺れ薬の効きは途中で結構落ちていた。皆の目を盗んで塗り直すのに苦労したんだ。

 頭の中に『アボートしろ』『可能にしろ』『昏倒しろ』と続けざまに命令が入る。計画中止の可能性が高い、戦闘不能レベルの大怪我を負った奴が出たという内容だ。

 数瞬で状況を整理し、同時に組み立てを行う。

 待機中の殺戮者スローターズがモンスターの奇襲を受けたのはまず確定だ。「生命感知ディテクト・ライフ」を使える奴もいるからどっかから近づいてきたオーガを見落とした、という訳ではないだろう。これは、あれだ。モンスターの復活とか補充だ。霧みたいな渦巻きが発生し、そこにモンスターが生まれる。あっちの地形なんかがどうなっているかは分からないが、目の前に広がるモン部屋のように植物が多かったりすれば視界も悪い。岩がゴロゴロしているような荒れ地のガレ場みたいな感じだったら陽の光のような充分な光もあるからちょっと離れれば霧や光なんか気付かない。

 恐らく、複数のオーガが同時に傍に復活し、奇襲を受けたのだろう。その過程で大怪我を負った奴も出た。一人ゼノムだけか、もっと多いのかは不明だ。それなりにMPも減ってるだろうし、まずいな……。

 加えて、部屋の主が気が付いたかも知れないということがある。こちらについては確信は無いけどな。トリスとベルの案はミヅチからの命令のあったこの時点で中止だ。日光サン・レイなんか全滅しようがどうなろうがどうでもいいが、殺戮者スローターズに被害が及んだ時点で大失敗だ。こんな状況でだとやり辛いけど、もうトリスたちの案は捨てて俺のやり方で進めるしかない。しかし、考えられる最悪のタイミングだな。これをどうすればひっくり返せるか……。ここまで一秒と掛からずに整理すると決断した。

「皆さん、申し訳ありません。私は行きます。皆さんは全力で戻って部屋から離れて下さい! まだ充分に間に合います」

 返事も聞かずに全力疾走に移る。阿呆共、俺から離れるなって言われてるんだ。しっかりと遅れて(・・・)付いて来いよ!

 慌てて俺の後を追うロッコたちをぐんぐんと引き離していく。

 すぐにトップスピードまで加速する。

 トリスが動かなくなった。多分グィネもだ。

 頭の中で何かキレたのを感じた。冷静になれ。心は熱くてもいいが、意識は冷やせ。

 木々が飛ぶように後ろに流れていく。

 今の俺は剣を携えゴムプロテクターを装着しながらも過日のウサイン・ボルトよりも早いだろう。いつかのズールーなんざ目じゃない。

 「ミヅチッ!」誰の声だ? ラルファか?

 視界の中心以外、焦点が合わない。

 糞っ、たった今「部隊編成パーティゼーション」が使えなくなった! ミヅチが昏倒したか、固有技能すら維持出来ない程の大怪我を負ったか……考えたくないが死亡したかだ。

 左手の手袋の先を噛んで引き抜いた。ダメだ、熱くなるな。冷静を心掛けろ。魔法も使えなくなるぞ。

 あの曲がり角を曲がれば目と鼻の先だ。

 間に合え!

 角を曲がり目の前に並ぶ岩を飛び越えながら高さ二mちょいのところに「ストーンジャベリン」を連射した。多少MPの効率は落ちるが体のバランスを取るため手を翳すような無駄な動作は省く。俺の眉間あたりから石の槍が連続して放たれる。当たらなくてもいいのだ。

 殺戮者スローターズはオーガと戦っていた。オーガの数は沢山だ。一匹、二匹、それ以上は沢山で充分。

 【鑑定】をする暇も惜しみ、転がっているミヅチを飛び越え、最後に反応のあったトリスの脇に行くと「ふんっ!」一息に金属帯鎧バンデッドメイルだけを断ち割り、隙間に手を突っ込んで「キュアーオール」。オーガにやられたのか、金属環がひしゃげていたのが幸いだった。何か喋ろうとこちらを見たので意識はあるみたいだった。小声で「あとは任せろ」と言うと安心したように目を瞑った。

 続いてうつ伏せのゼノムの鎧の下に強引に腕を突っ込んで「キュアーオール」を掛ける。ゼノムは気を失っているだけだと思う。ゼノムの鎧を半分くらい脱がせているラルファは邪魔だったのでケツを蹴っ飛ばしてどかせた。

「「アルさん!」」
「アべぎゅっ!」
「ごリード様!」

 即座にミヅチのところまで取って返し、革鎧を渾身の力を込めて引き剥がした。左わき腹が革鎧ごと不自然に大きく凹んでいたのだ。素早く「キュアーオール」を二回、三回。ちなみにおっぱいは無事だった。心臓は傷ついていない。【鑑定】をすると【状態:反射性失神】だった。良かった。

 すぐに立ち上がり「エンゲラは左! バストラルはその援護! グィネはそのまま後退、ベルはその援護! バカはさっさと働け!」と続けざまに命じながら倒れたズールーを庇っていたグィネが相手取っていたオーガに突っ込む。

 もう大っぴらに魔法を使う時間はないだろう。後退するグィネを狙って棍棒を振りかぶるオーガの脇を切りつけながら後ろに回りこむと広い背中に押し当てた左手をずらしながら「圧縮空刃エア・ブレード」を連射した。膝を付いたので手が届く様になったのを良い事に右手で愛用の長剣ロングソードを後ろから心臓のあたりに突き込んだ。

 剣を引き抜きながら「ベル、ズールーを!」と再度ベルに命じ、エンゲラが相手取る二匹の脇目掛けて突撃した。

「ぬぁりゃあああぁっ!」

 気合一閃、手前にいて俺に左側面を見せるオーガの左足の膝の裏を切り裂き、その余勢を駆って奥にいるオーガの右足の膝の裏も切り裂こうとした。だが、思いの外反応が良く、躱されてしまった。急制動を掛けながら上半身を丸めると俺の兜の上をぶおんっ!という風切り音とともに棍棒が通り過ぎて行く。

「あ、ス、殺戮者スローターズ!」
「なんでここにオーガが!?」
「あれ、グリード君か?」

 カモ三人組がようやく岩を回り込んで到着したらしい。

 上半身を起こした俺は棍棒を振りきったオーガの脇腹を浅く切り裂くと今度は俺の足を狙って放たれた棍棒でのスイングを跳躍して躱した。素早く長剣ロングソードの切っ先を使って喉を切り裂く。喉から噴水のように血液が飛び散った。慌てて棍棒を手放し、首を押さえるオーガの正面から腹を真一文字に断ち割ると内臓が零れ落ちた。

 すぐに俺が左足の腱を切ったオーガに目をやるとエンゲラが小楯バックラーで中途半端な棍棒をいなし、それで生まれた隙を狙ってバストラルが槍を突き込んでいるのが見えた。それを跳ね飛ばすように踏み込んだグィネが心臓に槍を突き込んだ。同時にラルファが投げたのだろう手斧トマホークがオーガの顔面に突き立った。

 もう大丈夫だろう。見回すとオーガの死体は五匹転がっている。俺が来るまでに一匹? いや、二匹は倒していたのか。一匹は手足がすっぱりと断ち切られていた。ミヅチがやったんだろうな。グィネがまだ死に切っていないオーガの止めを刺して回っている。ズールーに治癒魔術を施していたベルが顔を上げ、トリスを見て無事を確認すると俺の方へと歩き出した。

 エンゲラが素早く俺の前まで来ると跪いて「グリード様、危急の所、助太刀ありがとうございます」と頭を垂れる。おまえ、さっきご主人様とグリード様間違えたろ。すました顔してんじゃねぇよ。

 斧を投げた姿勢でいたラルファは慌てた様子でミヅチのところにすっ飛んで行き、俺が引き剥がした革鎧の残骸を体に掛けている。同時に脈も見ているようだ。ま、いいや。ミヅチ診てくれてるし。

 バストラルはほんの少し周りを見回すとエンゲラの横に跪いて「ありがとうごさいます」と言って頭を下げた。こいつ、まだ奴隷根性抜けてねぇのか。

 グィネはエンゲラとほぼ同時に俺の目の前まで来て「アルさん、助かりました。ありがとうございます」と言って頭を下げた。

 すぐにベルも到着し、同様に礼を述べたあと「我々でなにか役立てることがあれば命じてください」と言った。申し訳無さそうな、情けなさそうな、少し怯えた顔つきだった。

「おい、あんた、コーロイルさんだっけ? オーガの襲撃に気が付かないとは殺戮者スローターズも地に堕ちたもんだな」

 ケビンが戦斧バトルアックスを担ぎ直しながら言った。

「よせよ。こんなことくらい不思議じゃない。それに俺は殺戮者スローターズは嫌いじゃない。恩返しが出来たとすら思ってる。……と言ってもグリード君が返したから、あれ? 俺何もしてない……」

 ジェルがケビンに言った。

「今そんなこと言ってる場合じゃないだろ? グリード君、どうする?」

 ロッコが冷静な声で俺に注意を喚起した。そう、急がなきゃ。

「主のオーガに気付かれた可能性があります。リンドベルさんたちももう出ていてもおかしくはありません。と言ってもそんなに進んではいないでしょうが。ここは私たちがオーガを引きつけるべきです。囮役は私とこの殺戮者スローターズの動ける者の仕事でしょう。皆さんは私より少し後を付いて来てください。殺戮者スローターズの皆さんも良いですね? 嫌とは言わせません。そのくらい働いて貰う必要があります」

「え? だが、いいのか? 分け前とか面倒な……「いいんです。彼らにそれを主張することは認めません。我々の計画を台無しにしてくれた可能性すらあるのですから」

 喋りかけたロッコを制して重ねて言った。かなり強引な論法だ。そもそも日光サン・レイがどういう作戦を取ろうが、殺戮者スローターズには関係がない。既に戦闘を開始していて、それを邪魔したり、横獲りしたりしようとした訳じゃない。迷宮では階層中心の転移の水晶棒の部屋の近傍以外、どこでモンスターと戦闘になったって不思議じゃないのだ。

 だが、日光サン・レイとしては面白くはないはずだ。

「私がつい助けに走ってしまったことが原因とも言えます。ここでその恩を返して貰います。彼らをタダ働きさせることで返して貰いましょう。部屋の中の魔石は全て日光サン・レイのものです」

 俺は強引にそう言い切ると殺戮者スローターズの方を向いた。今から当初の作戦通り動いて、そのまま遂行出来る可能性はゼロではないだろうが、減っていることは確かだ。殺戮者スローターズをタダ働きさせ、危険を引き受ける人数が増えるのは日光サン・レイにとってマイナスではない。

「ベルはここに残って怪我人を診ておけ。ラルファ、グィネ、バストラル、エンゲラは付いて来い。こき使ってやる」

 ベルが捨てられた子犬のような目つきで俺を見たがすぐに了解の意を表した。お前は今冷静じゃないだろうし、何より倒れている奴の治癒をして貰う必要がある。我慢しろ。

「時間がありませんので急ぎます。私は自分を先頭にして彼らを従えて進みます。皆さんは二十mくらい後を付いて来てください。戦闘になって援護出来るようならお願いしますが、無理をする必要はありません。では行きます」

 カモ三人組にそう言うと部屋の中心部へ向けて大きく弧を描くように進んだ。ここからはぶっつけだ。上手くやらないとな。黙っていても殺戮者スローターズは俺を先頭にした傘型壱番ウェッジ・ワンになっているようだ。
モンスターの復活ですが、復活するモンスターのレベルが高いほど兆候があってから復活(出現)まで時間がかかります。
レベル1で1秒、2で2秒、3で4秒、4で8秒、5で16秒、6で32秒、7で64秒、8で128秒、9で256秒、10で512秒……という具合です。以前出てきたドゥゲイザーと同等の25レベルのモンスターが復活する場合、1677万秒以上ですので霧は半年以上、194日も続くことになります。一応設定ではドゥゲイザーは21レベルで生まれてますが。

また、一層だと倒されてから十時間プラスマイナス魔物のレベルふん内のランダム後に復活の兆候が始まり、二層で十一時間後、三層で十二時間後、四層で十三時間後、五層で十四時間後、六層で十五時間後、という感じです。
+注意+
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