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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百二十九話 溶け込む

7445年7月11日

 その後、モン部屋で魔力回復のために二時間程休息を取り、再度「キュアークリティカル」の魔術をロッコに掛けてやった。傷は完全に塞がったものの痛みはまだ残っているだろうが、これは連続して何回も治癒魔術を掛けられない以上仕方のない事だった。コーリットの方は腰を痛めたケビンに「キュアーライト」を何回か掛けていたようだ。

 移動可能な程度まで痛みを抑えられたため、そのまま先へと進むことになった。

 しばらく進むと、六層のこのエリアに転移して最初の転移の罠が見えてきた。通路の両脇に妙な文様が彫り込まれた石がある。自前の地図と睨めっこしていたコーリットが「あそこだな」と言って指さした。

 全員ごくりと唾を飲んでいる。怖いんだろうな。以前俺が助けた二人以外は転移の罠の脇を通り抜けた奴はいないらしいし、生き残った奴もいきなり仲間が目の前で掻き消えた、その時の恐怖は忘れられないのだろう。

「……私が先に行きましょう」

 見兼ねてそう言うと、一人、歩き出した。何の事はない。罠の傍を通るだけで罠に引っ掛かる訳じゃない。慎重なのも良いが、そこまで恐れていたら先に進めない。

 てくてくと歩き、通路の脇に寄ると、そのまますたすたと歩いて転移の罠を通り抜けた。振り返って三十m程後方で成り行きを見守っていた奴らを見つめた。

 暫くそのままでいたが、俺を見つめるだけで誰も一向に動こうとしなかった。ほら、怖くないよ。

 一つ溜息を吐くと、石でも投げてやろうかと思ったが、罠が作動する正確な範囲を教えるヒントになり兼ねないから止めておいた。いずれは判るだろうが俺達だって調査には時間を掛けたんだ。お前らも知りたきゃそれなりの労力を掛けやがれ。なぁに、大した労力でもないさ。

 これみよがしに大あくびを一つして、頬を掻いてると、舐められたとでも思ったのだろうか、悔しそうな表情を浮かべたコーリットが動いた。だが、罠に近づくより先に壁にひっついている。そこまでしなくても大丈夫だよ。コーリットが通り抜けると一人、二人と顔を引き攣らせながら順番に通り抜けてきた。

 全員がこちら側に通り抜けたあと、また隊列を組み直して先に進んだ。



・・・・・・・・・



7445年7月12日

 結局六層を通り抜け、転移の水晶棒の部屋に辿り着いたのは翌日の夕方だった。モン部屋でまた現れたケイブグレートボアーや、クアッドハンドエイプなどと戦闘する度に誰かが傷つき、治癒魔術の為の魔力を回復させる必要が生じて休憩を挟んでいたためだ。

 転移の水晶棒の小部屋には殺戮者スローターズのシャワーや簡単な厨房、土を盛って作ったベッドや足湯などがそのままの形で残されていた。ついでにギベルティでも居るかと思っていたのだが誰も居なかった。

 日光サン・レイのメンバーは五層の部屋よりも居心地が良さそうになってる部屋の状況を見て口をポカンと開けていたが、とりあえず小用などを済ますと三々五々、部屋の中心に立っている水晶棒の傍に集まってきた。俺もさっき、リュックサックを部屋の床に放り出すと定位置で大きな方をしてきた。ついでに今日の日付と時間もアラビア数字で壁に掘り込んできた。そのうち誰か気が付くだろ。一月くらいは残るし。

 全員が用を足すと自然とリンドベル夫妻に注目が集まる。彼らは首を横に振ると「流石にもう持たない。五層に戻ろう」と言って水晶棒を掴んだ。休むのであれば此処ではなく荷物や食料のある五層の部屋の方がいい、と言うことだろう。

 皆、どこかホッとしたような表情で水晶棒を掴む。

「我らを戻せ」

 一瞬にして五層の水晶棒の部屋に転移し、皆、日光サン・レイのキャンプに集まると足元にリュックサックを下ろし、武装も解いて座り込む。

 とりあえず簡単な軽食を摂り、その間に多少手の込んだ料理を作るらしい。配給されたきゅうりを少しづつ齧りながら壁に寄りかかっていたが、誰も話しかけては来ず、こちらをちらちらと窺いながらこそこそと何やら話していた。

 暫くして、食事の用意が整ったと声が上がった。俺を含め、体を休めていたメンバーがぞろぞろとキャンプの中心に集まってくる。豚肉と野菜を煮た、カーフと言う、ポトフの出来損ないのようなものを丼に盛りつけて貰い、パンを貰う。そして、祈りだ。

ツボカセハニミツ、そしてこの迷宮(地下)。トリ()の向こう、ガンガンカイの神々よ、ミョーヲヤよ、今日もそのお恵みにより命を繋げたことに感謝し御礼申し上げます……テーソン」

 ま、内容自体は地方で少しづつ変わるらしいが、よくある神社へのお祈りだ。テーソンってのはアーメンみたいなもので、神様に「かくあれかし」って言う感じの結詞むすびことばだ。日光サン・レイの連中は何かにつけてこれをいうのが好きな奴らでもある。

 信心深い家庭では「いただきます」の替りに使われたり、朝夕のお祈りで似たようなことを言ったりもする。俺も同じようにお祈りをしてパンを齧り、香辛料をケチっているのか、ちっとも美味くないカーフの汁を啜った。予定では明日には地上に戻ることになっているのだが、どうするんだろう?

 食事をして順番にシャワーを浴びたら見張り以外はすぐに寝てしまった。俺もだけど。



・・・・・・・・・



 真夜中過ぎ、見張りの交代で起こされた。キャンプ地では殺戮者スローターズ同様に二人一組で見張りが立てられる。二時間交代なのも一緒だ。十人いるが、リーダーのコーリット夫妻は見張りはしないので六時間は睡眠時間を確保出来る。見張りは俺とハルクだった。

「グリード君。君と一緒に日光サン・レイで見張りをやることになるなんてな……」

 そう言えば、以前こいつは殺戮者スローターズに入りたいと頼んできた事があったな。あの時はグリードさんだったが、俺が日光サン・レイに入ると君になった。呼び捨てにしないだけ行儀の良いチームだね。尤も、まだ入ったばかりで俺が馴染んでいないだけだろうけど。他のメンバーは愛称で呼んでいるようだしね。

「世の中はわからない物ですね……」

「ところで、今日は本当に助かった……。死人こそ出なかったと思うが、君が居なければ六層の最初の部屋で引き返すことになっていたろう」

 ん、そうね。俺が居なかったら死人が出たか、と言われるとちと疑問ではある。流石に死ぬまでは行かなかったんじゃないかな? 怪我人の数はもっと増えていただろうし、六層を突破するのにはもっと多くの時間も掛かっただろうけど。

「それはお役に立てたようで何よりです。しかし、正直に言わせて頂くと六層でやっていくには……そのぅ、少しばかり早いんじゃないですかね?」

 四月の終わりだから約二ヶ月前か……それなりに魔法が使えたサントスと言う奴が死んだ。彼は王都出身だったそうだ。ハルクが言うには、その御蔭で日光サン・レイは迷宮での継戦能力を大きく落としたらしい。替りになるような魔術師でリンドベル夫妻のお眼鏡にかなう奴は見つからなかったそうだ。

 まぁそりゃそうだろう。複数の元素魔法が三レベルを超えるような魔術師なんか一流半クラスのパーティーでも無い限りまずいない。そして、そのクラスのパーティーになるとそう簡単に引き抜きも出来ない。どの冒険者のパーティーだって魔術師は重宝するのだ。特に水魔法のレベルが高い魔術師は治癒や飲料水の生成が出来るから引く手あまたになるし、待遇だってそれなりに良い。いかなトップチームとは言えそう簡単に引き抜けはしないさ。

 それに、日光サン・レイは元々トップチームの中では魔術師の割合が低い。人数で言ったら昔は他のトップチームと同等の五人もいたのだが、その当時のメンバーの数は十六人だ。ローテーションで迷宮に入るメンバーを入れ替わらせていたのでだいたいいつも一人足りないまま四人の魔術師を含めた合計十人のメンバーで探索をしていた。五層ででかい金鉱石を得ることが出来たという噂を耳にした後は、ローテーションでの探索を止めて一組八人の二チーム体制を採用した。

 当初はそれでも、それなりに順調だったらしい。そして、リンドベル夫妻が居ない方のチームが初めて六層へ行った去年の夏、メンバーを二人も同時に失った。しかもそのうちの一人は魔術師だった(ゲクドーの妹のユリエールらしい)。それからは魔術師の補充も出来ないまま継続して探索を行うしかなかった。この時点で一時はローテーション制に戻したこともあった。同時に、魔術師に限って新規メンバーの募集を図ったが、採用出来ないままずるずると時間だけが過ぎてしまう。

 二月にこのハルクが殺戮者スローターズに入りたいと言ってきたのはこの時点で日光サン・レイに未来はなさそうだと踏んだ彼が独自に俺たちに接触を図ったからだと言われたが、流石にこれは嘘ではないかと思う。普通に考えてトップチームでは古株の、実力のある男が多少人材的に苦しくなった程度で碌な手も打たずに他のパーティーに走ったりするだろうか?

 まず有り得ないだろう。

 この部分を除いて今話している内容については本当だろうが、俺たちに接触を図ったのはリンドベル夫妻の指示か、独自に動いたにしても別の思惑があったと考える方が自然だろう。

 まぁ、それは置いておいて、そんな時にひょんなことから出会い、知り合ったのがファルエルガーズたちだ。当時十四人にまで減っていた日光サン・レイは、まだ一層をうろついている程度の六人組のファルエルガーズたちのパーティーには二人も魔術師が居ることを知った。しかも二人共正騎士だったと言う。

 更にうまいことに二チームの上限は二十人。この六人組が入れば再び二チーム体制が組める。しかも両チーム共にフルメンバーになるし、魔術師の数も合計六人になる。ついでに一層だけではあるが詳細な地図を所有していることも決め手になったらしいが、俺としてはそれに加えてファルエルガーズ伯爵家の長男という点も決め手になったのではないかと思った。

 何度か行われた話し合いの結果、パーティー丸ごと日光サン・レイに所属することになった。新しいメンバーを中心とした若手パーティーとベテランを中核とした攻略パーティーに分け、若手パーティーはじっくりと経験を積ませて育てようと言うことになった。そんな折にベテランパーティーに居た魔術師が一人死亡してしまった。

 若手パーティーから魔術師を移行させようにも新入り二人の魔術の技倆はベテラン入りさせるほどではない。もう一人いる魔術師でも良いが、流石にそうなると若手パーティーは四層どころか三層すらも危ないかもしれない。

 それから程なく、俺が殺戮者スローターズを放り出された。殺戮者スローターズのリーダーはかなりの魔法の使い手らしいし、五層の転移の水晶棒の小部屋のシャワーなどで運用に手を組んだ実績もある。過去にメンバーを救って貰ったこともあるし日光サン・レイに対して悪いイメージも持ってはいないようだ。運の良いことに過去に関係を悪化させるような出来事があった訳でもない(ハルクを送り込もうとした事自体は別に関係悪化には繋がらないだろう。断っているんだし)。

 そして、それなりの報酬を提示したんだろうが、リーダー夫妻が上手く交渉したお陰で俺が加入することになった。

「ま、そんな訳で俺達としては君が入ってくれて助かっているんだよ」

 まぁね。四月の終わりに日光サン・レイの魔術師が一人死んでくれたのは渡りに船に近かった。人の死を喜ぶことは良くないが、本当に丁度良かったのだ。別に俺がサントスという魔術師の死に何らかの影響を与えた訳でもないし、親しかった訳でもない。おかげで少々方針を転換する事になったが、結果的には楽になったことは間違いがない。役に立ってくれた事には深い感謝を捧げるよ。どちらかと言うと顔を知り、会話をしたことのある日光サン・レイのメンバーの心情を考えて、仲間を失って気の毒だな、と思うくらいだ。

「いえ、そんな。私こそ丁度良く皆さんの末席に加えて頂き、感謝しています。それなりに自信は持っていますが、やはり一人では厳しいですからね」

「ん、それはそうだろうね。大きな声じゃ言えないが、俺にだって目的はあるし、夢だって持っている。だけど、やっぱり君と同様に一人では無理だしな。特にこんな迷宮の奥になんか、とても一人では来れないよ」

 そう言えばハルクは以前、独立を考えている、なんてことを言っていたっけ。あの部分は本当なのかも知れない。人にはそれぞれ思惑もあるだろうし、考え方だって違うだろう。親子や兄弟で志向する先が食い違い、すれ違いだって起きる。オースの歴史は良くは知らないが、地球でだって親子や兄弟で争い、殺し合いなんて歴史は掃いて捨てるほどあるし。ましてや他人ならオースだろうが地球だろうが殺し合いの無い日なんか一日だってありはしないのではないだろうか。

 俺の場合、今のところそんな気配は微塵も無さそうなのは物凄く幸運なことなんだろう。そう思って何者かに感謝した方がいい。



・・・・・・・・・



7445年7月13日

 予定では今日地上に戻るはずだ。昨日の様子だと七層を目指すのは一日じゃ無理そうだ。怪我人なんかが出て魔力の回復に時間を取られなければ大丈夫だろうが、そこまで楽観的にでもないだろう。どうするのかな?

「とにかく六層に転移してみよう。祭壇の部屋のあるエリアに出れば挑戦してみるつもりだ。何にしても予定通り今回は今日で引き上げる」

 コーリットがそう宣言すると皆、頷いて納得した。

「グリード君。もし良ければだが、六層で現在地を確認してくれんかね? 出来れば効率的に行きたいと思うんだ」

 俺としては大した事でもなし、どうせ負けない迄も苦戦するだろうから別にいい。しかし、ここで素直に頷くのも不自然と言えば不自然だろう。

「……効率的、ですか……。まぁ、転移したエリアに祭壇の部屋があるようであれば伝えるくらいは……」

 右腰にぶら下げた地図入れに自然と手をやりながら気が進まない風を装って答えた。

「ああ、それで十分だ。助かるよ、では行こうか」

 結局この日は祭壇の部屋には行き、苦戦しつつも召喚された部屋の主であるモンスターもしっかり倒したものの、やはりと言うべきか結果はスカだった。地上に戻るとゼミュネルが指揮を執っていた若手チームは三層で紫水晶アメジストの塊を掘り返していた。売値で四百万Zにも上る大きな戦果だ。自慢気な若手のメンバーがウザかった。が、こちらは魔石以外の戦利品は獲得できなかったのだ。仕方ないよね。



・・・・・・・・・



7445年7月14日

 今日から十九日いっぱいまで一週間の休みだ。今回の迷宮行では俺たち日光サン・レイの一軍は二百二十四万Zの魔石を稼いでいる。俺の取り分は頭割りなので十分の一、二十二万四千Zだ。午前中に魔石を換金し、昼食後に「モゴリート亭」まで行ってリンドベル夫妻から報酬を受け取った。

「グリード君、流石はトップチームのリーダーをやっていただけあるね。見事な働きだったよ。君を入れて本当に良かった。次もよろしく頼む」

 そう言ってコーリットが褒めてくれた。本当に礼儀正しいね。

 報酬の礼を言って「モゴリート亭」を辞去しようとした俺を出口までメイリアが追ってきた。

「良かったら今晩、夕食をどう?」

「え? ああ、解りました。どちらに行けば宜しいでしょう?」

「そうね……「ミックス」に日光サン・レイの名前で部屋を取るわ。六時に来てね」

「解りました。六時ですね。ところで、迷宮を出るといつもこうして皆さんで食事を?」

 日光サン・レイの名前で部屋を取るからにはメンバーが集まるのだろう。儲けた後でこういったことをするパーティーは珍しくないし。そう思って聞いてみるとどうも違うようだ。じゃあ、「ドルレオン」程ではないが日光サン・レイにしては奢った店だし、幹部会か?



・・・・・・・・・



 「カイルーグの宿」に戻ると、ファルエルガーズたちが俺の帰りを待っていた。今朝、魔石の換金時に彼らから今日の午後、日光サン・レイのルールなどについて話をしたいと言われていたのだ。彼らは午前中に今回の報酬を受け取っていた。換金時に発表された俺の受け取り時間が一番遅かったので別に昼食を済ませていた。

「済みません、お待たせして」

「いえ、我々も今着いたばかりですよ。では行きましょうか」

 ファルエルガーズに先導されて通りを歩く。しかし、途中幾つもある飯屋(喫茶店の代わりになる)を通り過ぎ、郊外にまで来てしまった。「どこまで行くのか?」と言う俺の質問もはぐらかされたままだ。そして、皆、外輪山へと向かう坂に足を踏み入れる。はて? どういう事だろう? 流石に訳がわからない。まずありえないだろうが闇討ちするなら俺を最後尾に置いたままというのも不自然過ぎるし……。

 坂を少し登ったところで適当な石を見つけて腰掛けることになった。

「こんなところまで済みませんね。でも、話している内容について誰にも聞かれたくなかったのです。ここなら見晴らしも良いですし、誰か近づいてきたとしてもすぐに解ります」

 ファルエルガーズが少し申し訳無さそうな顔で言った。

『それと、念の為に日本語で話します。万が一聞かれてもいいようにね』

 続いてヒーロスコルが言った。

『……重要な話のようですね。クミールさんやサミュエルガーさんも居なければ奴隷も居ませんし……』

 俺がそう返答すると二人共重々しく頷いた。

『ええ、我々も彼らとは相談したのですが、サンノやルッツはともかく、奴隷二人は基本的にイエスマンだから相談相手としては役者が不足しています。サンノやルッツにしてもまだ若いからね。軽々しく生まれ変わってきたことなんかも話せやしないし、そもそもあの二人にはお人好しなところもあるし……』

 ヒーロスコルが俺を見ながら話し始めた。

『単刀直入に聞きたいのですが、グリードさん。一体どういう目的で皆と袂を分かったのです? 正直な話、貴方が生粋のオースの人であれば我々も何の疑いも抱かなかったでしょう。そして、大歓迎していたはずです』

『……』

『折角出会った日本人がわざわざ別れるなんて俄には信じ難い出来事だと思っています。白状すると私は貴方が気に食わなかった。だが、それでも日本人だ。別れ難かった。だから迷宮に挑戦し始め、貴方達の傍を離れたくはなかった、というのが本音です』

 あら、正直に言ったものだね。

『それに、出来れば我々も貴方達と一緒になりたかった、と言うのもあります。ノムさんと違って私は別に貴方が気に食わないなんて事はありませんでしたが……。あはは、すみませんね。でも、私だっておかしいな、と思っていましたよ。これはきっと何か目的があるぞ、と思っていました』

 ファルエルガーズも冗談を口にしながらも真剣な表情だ。

『なるほど……』

 トリスたちもこの二人には疑いを持たれることは予想していたな。そして、白を切り続けることも下策だと考えていた。俺としてはここで白を切ってもそうでなくてもどっちでもいいと思っている。出方によって再度話をした際に言うか言わないか決めればいいと思っていた。だが、ここで俺の考えを挟んでも意味が無い。助言はするが、決定するのは今回は俺の役目じゃないし。

『ま、当然目的はありますよ。仰る通り、そう簡単に日本人と袂を分かつはずもないでしょう?』

『……そうだろうな……。で、その目的とは何ですか?』

 どこか残念そうにヒーロスコルが言った。やっぱ俺のことが嫌いなだけあって本当に追い出されていたのならいい気味だ、と思っていたのかね? 流石に俺の被害妄想か?

『それ、言わなきゃいけませんか?』

『確かに、私達には答えを強制する権利は無いと思います。いや、あるかな? どちらにせよ答えて頂きたいです。私達ばかりか、サンノやルッツ、デンダー、カリムの命に係わらないとも限りません。我々の安心の為にもここですんなりと答えて頂きたいものです。それとも我々に危害を加えるおつもりですか?』

 ファルエルガーズが睨むように見て言った。ふーん、少しは変わったのかね?

『そうですねぇ……少なくとも貴方がたの安全について積極的に何かしようとは全く考えていません。こう言っちゃなんですが、迷宮の探索で貴方がたとは異なる組になるだろうことは最初から想像していました。それと、少し気になるのですが、そうお思いでしたらなぜあの時声を掛けて来られたのです? 何か企んでいる、とお思いであれば放っておけば良かったのではないですか?』

 質問に質問で返している気もしないではないが、一応答えてはいるし、いいだろ。

『私は元々反対だった……声を掛けたのは江と、ロリックの独断だよ』

 ほう? 一枚岩じゃなかったん?

『さっき、ああは言いましたが、貴方が我々を害そうという気持ちは無いだろうな、と思っていました。だとすると何か他に目的があるのだろうと考えました。どう考えても貴方にとってマイナスになるような事ですしね……』

『そうだ、それが解らないから私は放っておくべきだと思った。様子を見た方が良いと考えた』

 ま、至極尤もだ。日本人としては極普通の考えだろう。日光サン・レイのリンドベル夫妻や他の人達と違って当たり前だろうね。

『考えた結果……日光サン・レイの隠し資産にでも目を付けて大儲けを企んでいるのかと疑ったこともあります。ああ、隠し資産なんてものがあるかどうかは知りませんよ。誤解しないでください。それと、これが本命だと思うのですが……神社の札の入手方法の調査なんじゃないですか? 日光サン・レイでも厳重に口止めをしているのでどうやって知ったのかは知りませんが、やりようによっては大儲け出来るでしょうからね。尤も、私も神社の札については最近知ったのですが……知った時には妙に納得したものです。ああ、狙いはこれか、と思いました』

『ああ、そうだな。商売に出来るなら多少の不名誉なんかすぐに跳ね跳ばせる。大儲け出来るだろう。だが、あれはリンドベルさんらが苦心して編み出したものだ。彼らはオースの人にしては相当頭が回る方なんだろう』

 お、近づいてきたね。

『なるほど……神社の札、と言うと沢山集めれば治癒の魔術を掛けて貰えると言う、あの札ですか……』

『当たり前だ。他に何がある? あまりに手間隙がかかるから見落とされがちだが、冒険者にとってはいざと言う時に頼れる大きな拠り所だ。君だってそう思ったんだろう?』

『どうでしょうね……とにかく私には貴方がたに危害を加えたり、安全を脅かす目的は一切ありません。信じて頂けるかどうかは解りませんが、信じて頂かないことには話になりません』

『まぁ、我々に危害が及ばないのであればあまりとやかく言うつもりはない。我々も日光サン・レイの仲間は気に入っているんだ。今回の迷宮での話を聞くに、かなり活躍して危ないところも助けたそうだしな。その言葉については信用してもいいとは思う。流石はトップを走っていただけあって冒険者としての実力は充分に持っているようでもあるし。だが、リンドベルさんに迷惑を掛けるようなら……』

 ヒーロスコルが脅すようなことを言う。

『我々はリンドベルさんのお陰で一気に深い階層まで行けるようになりました。有り体に言うならリンドベルさんは恩人と言えなくもない。グリードさん、我々の目が光っていることをお忘れなく』

『……心しておきましょう』

 その後は日光サン・レイとは関係ない、一般的な冒険者の話をして街に戻った。しかし、あんたら、なんだかんだ言って俺から話を聞くだけは聞くんだな。そう嫌味を言ってやったら少し恥ずかしそうだった。

 
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