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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百二十八話 ボアー

7445年7月11日

 六層に転移した俺たち日光サン・レイはすぐに散らばり全周警戒に移る。

 周囲の安全を確認した後、リンドベル夫妻が水晶棒の台座の矢印を確認し、その先に書かれているであろう番号を探している。すぐに見つかった。「伊知蜂Ⅵ」と壁に書かれてある隣にラグダリオス語(コモン・ランゲージ)でも「34」と記載されていた。日光サン・レイも過去に来たことがあるようだ。

 壁の数字を確認したリンドベル夫妻は地図を見ながらなにやら小声で相談していた。

 すぐに俺に声が掛かった。

「さて、グリード君。六層の地図を持っていたら見せて欲しいのだがね」

 へぇ、それを言うかね。俺達としては七層に来られるのは嫌だなぁ、という気持ちもあるが、贔屓目に考えても七層のオーガの群れを突破するには最低でもミヅチくらい魔力が使える奴がいなきゃ相当に厳しいため、七層に来られること自体は別にどうでもいいと思っていた。嫌なのは六層の転移の水晶棒の小部屋を独占出来なくなることぐらいのものだ。元々殺戮者(スローターズ)の物でも何でも無いので嫌がること自体が間違っていると言える。

「残念ながら、持っていません」

「ほう? 君程の男が隠し持って出られなかったのかね?」

 やっぱりお見通しか。一つ肩を竦めると腰に下げた一見すると少し長めの水筒のような地図入れにごく自然に右手をやる。ここには六層の地図が入っている。転移の罠があるので全員に持たせていたものの一つだ。勿論、中身は殺戮者スローターズで使っていたものそのままだ。

「ま、お見せするのは構いません。六層の地図はこれです。尤も、持って出られたのは一番困難だと思われる六層のものだけですがね。ですが……」

 リンドベル夫妻だけでなく、パーティー全員が少し身を固くして俺に注目している。

「一々解説はしませんよ。そこまでする気はありませんし、お約束もしていません」

「ああ、そりゃ解ってるさ。見せてくれるだけでいいさ」

 迷宮の地図は冒険者パーティーの共有財産だ。普通は誰か一人に帰属するものではないと考えられている。勿論、パーティー自体がたった一人というのであれば別だが、普通は仲間の手を借りなければ迷宮の地図を作成することは出来ない。パーティーから抜けたからといってそれまで使っていた地図を新しく所属したパーティーにそのまま引き渡すなんて例はまずないと言っていい。普通は前に所属していたパーティーを抜ける際に持っている地図類については厳しくチェックされ、没収される。

 パーティーに所属するメンバー全員が新しいパーティーに所属する例は地図情報について当然所有したままになる。この場合、パーティーに加入する、と言うよりはパーティー同士がくっついたという方が正しいが、これは双方にあまり力の差がない場合だ。

 例えば、ファルエルガーズたちと日光サン・レイみたいに力量にかなりの開きがある場合、くっついた、結合した、と言うよりは吸収した、された、と言う方がしっくり来る。こういった場合、大抵は力のある、力量で上回っている方が吸収の条件として差し出させる事が多いと聞く。普通は人数がそのまま力の差になるだろう。

 パーティーが仲間割れを起こし、分裂した場合には双方に地図情報が残る場合もあるが、それだけ力が拮抗したまま分裂することは非常に稀だ。それに比べれば俺みたいにリーダーが放り出されるなんてことは事例としての数は少ないが全く無い訳じゃない。そういった場合でも例外なく地図については没収されていると聞く。

 迷宮に入る冒険者たちの間ではリーダーの権限は強大なものだが、だからこそ、リーダーに相応しくない、メンバーを纏める管理能力に欠如していると看做されるとリーダーは簡単に弾劾され、交代するか放り出されるのだ。誰だって頼りにならないリーダーの下、迷宮の中で長生き出来、且つ莫大な財宝を得ることなんか無理だと思うだろう。

 逆に、リーダーの権限は強大なものであるから誰もがリーダーというポジションに就きたがる。適当なパーティーで修行して独立し、自分をリーダーとしたパーティーを作りたがるのはそのせいだ。特にバルドゥックでも上位の冒険者にでもなればそのパーティーのリーダーの収入は莫大なものになる。既に理解して貰っているとは思うが、正確な地図はバルドゥックの迷宮に挑むためにはどうしても必要なもので重要度は最上位と言っても過言ではない。

 正確な地図を持っていることがその冒険者の、パーティーの力となる。いつか独立することを夢見、独自の地図を作成し隠し持つ冒険者は沢山いるのだ。この日光サン・レイにだっているだろう。

「では、どうぞ」

 俺から地図を受け取ったコーリットはそれを眺めてすぐに難しい顔になった。そりゃそうだろうね。地図上の番号はすべてアラビア数字で書いてある。ゼノムと奴隷たちにはアラビア数字だけはなんとか覚えさせた。六層に転移してきて最初に壁の番号を読み上げ、現在地を地図上で確認させる。万が一転移の罠に引っ掛かってしまった場合、持たせている地図で似たような地形を探し出し、六層の転移の水晶棒の小部屋を目指させるには漢数字だとか漢字だとかまで覚えさせる必要は無いしね。

「こ、こんなに埋まっているのか?」
「す、すごい……」
「……これが落とし穴か?」
「……転移の罠はこの記号みたいね」
「……こっちの記号はなんだろう?」
「……落とし穴に似ているから落とし穴じゃ……スパイク付きの落とし穴とか?」
「……どの部屋にも主が書いてないな……殺しているから意味が無い、と言うことか?」
「……でも、この字、見慣れないけど何語かしら? ……南ラグダリオス語(マサソイリッシュ)じゃないわね。ミグダリオス語(ミグダリオッシュ)かしら?」
「……む。どうやらここが現在地っぽいな。ウチの地図とも地形が同じように思える」
「……そうね。ここみたいね」
「……だとすると……ふむ……七層には行けそうな感じだな」

「グリード君、今ここだと思うんだが、七層には行けそうかね?」

 今手元に戻された地図を見せられても、そんなんすぐに答えられる訳ねぇよ……。

「……ん、私も過去に来たことはあるようですが……まぁ、行けるでしょうね」

「貴方、私達はこの先の……ここの転移の罠で引き返してるわね……行く価値はあると思うわ」

「ん、そうだな……よし、行ってみるか。じゃあ、皆、行くぞ」

 返してもらった地図を畳み、丸めて地図入れに入れる。少なくとも俺が六層の地図を持っていることは判明したわけだが、これはファルエルガーズとヒーロスコルへのメッセージでもある。ま、他の誰かへのメッセージにもなるんだがね。誰が気がつくのかね? 誰にも気が付かれなくても不思議じゃないけど。

 戦棍メイス使いのハルケイン・フーミズ、通称ハルクと長剣ロングソード使いのローカスト・ケイネスタン、通称ロッコを先頭にリンドベル夫妻を真ん中、俺を最後尾にして迷宮を進んでいった。六層ではいつモンスターが転移してくるか判らないので最後尾が一番危険で神経を使うのだ。新人は新人らしく一番辛い部分を押し付けられた形だが、当たり前のことなので別に不満はない。

 ただ、俺の魔法を活かすなら、俺も真ん中あたりに配置しておくべきだとは思うけどねぇ。最後尾だと前からモンスターが現れた場合、流石に邪魔になる人が多くて咄嗟に攻撃魔術を使うのが困難な場合もあるからさ。



・・・・・・・・・



 七層を目指して一㎞程進んできた。道中ここまでケイブボアーは転送されてこなかったが、ヴァンパイアバットの集団には何度か襲われた。弓と魔法で全て殺したが魔術師の消耗が激しい。ミサイルを連射すれば欠伸をしながらでも数秒から十秒くらいで片付けられるんだけどなぁ。俺は合計五発のフレイムアローを撃ち、全て命中させた。だが、コーリットとランスーンはそれぞれ三発と二発のフレイムとストーンアローを放ち、戦果は二人とも一匹づつだった。下手糞。

 魔力を回復させるため用心しながらも数度に分けて合計一時間程の休憩を取り、また進んだ。これがあるから遅いんだよ。仕方ないけど。

 そして、最初のモン部屋に近づいた。先頭に立って部屋を覗いたメイリアによると敵は休んでいるケイブグレートボアーが一匹だ。だが、最後尾にいて誰にも顔を(青く光る目を)見られない状況で使った俺の「生命感知ディテクトライフ」の魔術では三匹の反応があったけどね。二匹はケイブグレードボアーではない、単なるケイブボアーの可能性もある。

 何にしろケイブグレートボアーは起き上がったら地面から背中までの高さは大人の身長を優に超える約二m。全長は四mにも達する。六人乗りのバンのような大きさの相手と思ってくれ。こいつの牙に貫かれたら即死は免れたとしても生死の境を彷徨うような重傷を負うだろう。体当たりだけでズールーが跳ね飛ばされて三箇所も骨折を負い、動けなくなったこともあるのだ。

 モン部屋の主を確認した後、メイリアの指示で二百m程離れた場所まで戻った俺達は簡単な作戦を授けられた。コーリット、ランスーン、俺の三人がまず攻撃魔術を使って先制攻撃を加える。同時にミシャウスも弓で矢を射る。運が良ければこれで倒せるだろうが急所にでも当たらない限りまず無理だ。次に盾を持っているハルクとロッコを中心としたメイリアとファイアスターターら、剣や斧などを装備した奴らが突入し戦列を築く。その後ろからビオスコルとラミレスの槍を突き込むのだ。

 ランスーンとミシャウスはそのまま弓で攻撃を継続し、コーリットは槍で隙を窺いながらも全体の指揮を執る。俺は出来る限り魔力を温存して剣で最前線に立つ。どうしても皆を回り込むのが難しいのであれば可能なら魔法での第二撃のために精神集中を開始して隙を狙う。

 正直な話、猪がうろつく六層で斥候を使わないのは正解だと思うが、ケイブグレートボアー相手には折角休んでいるのだから、最初に視認した時に多少統制が取れなくても全力での攻撃を指示すべきだったと思う。立ち上がり、動き回らせたらでかいし、力もあるからそれなりに厄介なのだ。モン部屋の傍をうろうろするだけで空気は撹拌され、匂いが奴の鼻に届く確率が高くなる。それに、指示された攻撃魔術はジャベリンだった。後々のモンスターとの遭遇について魔力の温存を考慮しているのだろうが、大して変わらないんだし、殺戮者スローターズとは異なりこちらは三人しか魔法が使えないのだ。

 今使える最大の攻撃魔術を叩き込むべきだと思う。使える元素魔法のレベルから言ってコーリットもアーバレスト級の攻撃魔術が使えるはずだ。俺とコーリットだけでもそのクラスの攻撃魔術を命中させられるのであればたとえ急所に当たらなかったとしても一気にこちらに有利に出来る。加えてランスーンも「ストーンジャベリン」は使えるはずだ。なのに指示していた攻撃魔術は「ストーンボルト」だった。

 七層を意識するにしてもここで誰か大怪我でもしたらさぁ、大変じゃんか。

 ま、仕方ない。全員で突入作戦を確認し、再度モン部屋にじりじりと近づき始めた時だ。どかっどかっと言う、大きな動物の足音がモン部屋の方向から感じられた。あー、気づかれちゃった。どうすんのよ? これ? ちらりと横にいるコーリットの顔を窺うが、彼は唇を引き結んだままだ。前に立っていたメイリアが右手を開いて挙げ、開いた手を握った。ストップと集合の合図だ。

 音を立てないようにゆっくりとしながらもぞろぞろ集まった皆に囲まれたコーリットとメイリアはなにやら小声で素早く相談すると新たな指示を下した。

「気づかれちゃったようね。仕方ないから作戦を変えるわ。最初に突入するメンバーは一緒。ただし、私とハルクは左側から、ロッコとケビンは右側からそれぞれ分かれて突入する。私とハルクにはキム、あなたがすぐ後ろについて。ロッコとケビンの後ろはジェル、あんたに頼むわ」

「魔法の方三人は当てられそうなら使う。無理そうならハルクとロッコの間、中心をグリード君を先頭に俺が槍で援護する。カームとミースはその場合でも弓で適宜援護してくれ」

 ま、それしかないわな。三手に分けるのも相手が三匹いるんだから丁度良いと言えるし。もう少し近づけば相手が複数だということくらい足音がより鮮明になるだろうから誰だって気付くだろうしね。それで引くのも手ではある。強力な戦闘力を保持しているイメージのトップチームに似つかわしくはないが。どうせ誰も見ちゃいない。

 相手を刺激しても良いことはないので左右に別れる三人づつと中央の四人でだいたい三グループに別れたまま静かに前進を開始した。

 暫く進むと当然モン部屋からの足音が入り乱れ始めてきたのが嫌でも耳につく。確実に相手は複数だということが全員に理解された。俺の右隣で皆を率いる形になったコーリットは左手を挙げ、指を三本立てるとすぐに開き、前に振り下ろした。それぞれのグループが相手を見つけ自由戦闘か。前に振り下ろしたのは全員に対する前進の合図だ。相手がこちらのグループと同数の三匹と見破ったのかな? それにしても、強気だね。



・・・・・・・・・



 もうモン部屋までは五mもない。見える範囲にはモンスターは見つからない。この入口の両脇にでも隠れているのだろうか。全員が得物を構え直す。俺とコーリットは突入したら俺が左、コーリットが右を警戒し、その方向が単数か、相手が居なかった方が反対側に振り向いて参戦することになるのだろう。

 合図を待つ。三、二、一、今!

 部屋に駆け込みすぐに左を見やると、居た! ケイブボアーが二匹だ。すると反対側がケイブグレートボアーだろう。そちらの組であるロッコ、ケビン、ジェルは貧乏籤だな。

 俺は左側の二匹の猪のうち、右側の方に狙いを定め突撃した。当然猪も猛然とダッシュをしてくる。

 すれ違いざまに斬り付けてやる。

 右手に持った長剣ロングソードを寝かせたまま走る。

 突入場所から俺より前方に位置していたメイリア、ハルク、キムを追い抜かないよう最終的に並ぶ程度で走りこむ。だって俺が先頭になっちゃったらこっちの二匹の猪は両方共俺を狙うじゃんか。

 二匹の猪が猛スピードでこちらに駆けて来る。

 こいつらケイブボアーだってケイブグレートボアー程ではないが結構でかいから大迫力だ。

 右側の奴が俺の獲物だ。

 俺は二匹の間に走り込むようにする。

 右手に掲げた長剣ロングソードが使いやすいように。

 肩口から右前足に向かって斬り付けてやればコーリットも槍で仕事をし易いだろう。

 そらっ!

 見よ、この華麗な剣捌き!

 いや、力任せに斬り付けただけだけどさ。

 擦れ違い様の俺の一撃で大ダメージを与えた手応えを感じた。

 悲鳴が響いた気がする。

 すぐに右旋回して振り向き、コーリットが槍で相手取っているケツから突き込んでやる!

 左から切り込んだから今度も右側、つまり奴の右側の足を両方共使い物に出来なくしてやれば殆ど無力化だろう。奴のケツから右後ろ脚の付け根を狙ってメッタ斬りにしてやった。ケイブボアーAはすぐに自重に耐え切れずに右側を下にしてどうと地に倒れこんだ。オラ、一丁上がり、ざっとこんなもんよ。お次はBかグレートの方か。

 思うまもなく、俺の右、つまり突入時には俺の左にいたBを相手にしてる方から歓声が上がる。ハルクが盾を使って上手にケイブボアーの突進をいなし、方向転換に戸惑っているうちに頭部の横に回り込んだらしい。

「ふんっ!」

 ガツンとケイブボアーのどたまを右からハルクの戦棍メイスが叩いた。その横ではメイリアが目に突きを決めたようだ。キムが肩口に槍を突き込んでいる。こっちも仕留めるにはもう少し時間はかかるだろうが問題はなさそうだな。

 すると援護が必要なのは本命であるグレートの方だ。

 すぐに駈け出した。

 ぶも~という大猪の声が響く。

「クソッ! 痛ぇ!」

 ロッコが腹を押さえて痛みに耐えながらも転げまわっていた。かなり出血もあるようだが詳細は判らない。【鑑定】している暇なんか無いし。

 ケビンが戦斧バトルアックスを振り回し、大猪を近づけまいと、必死になっている。

 ジェルは槍を構えながらも痛みに苦しむロッコを援護しているがびびって腰が引けているようで危なっかしい。

 グレートの胴体には既に矢が数本突き立っており、それから攻撃魔術によっても傷つけられていた。ぱっと見たところではどれも大してダメージになっていないであろう。コーリットに「そんなの放っといて援護しろ!」と叫びそうになるが彼も今は俺が半死にした猪の止めを刺すのに忙しいだろうし、何より俺にそんな権限は無かった。

 全力で駆けつけたものの間に合わなかった。

 ケビンが斧ごと跳ね飛ばされた。小柄な山人族ドワーフの彼はそれでも戦斧バトルアックスを手放さなかったものの、腰を強く打ってしまったようだ。

 ケビンに替わり前衛に立った俺は、素早く長剣ロングソードを振り、大猪の鼻先を浅く切り裂いた。これで怒りの矛先は俺に向かってしまう。だが、まぁこいつの相手は去年から嫌というほどやっていたのだ。一対一で切り結んでも勝てる自信はある。向こうの攻撃を全て躱し、こちらの攻撃を当て続ければいずれは相手が先に体力を失い、結果として勝てる。道理だな。難しいけど。

 怖いのはこの瞬間に別口のケイブボアーが転送されて来ないか、ということだけだが、モン部屋の中に転送されては来ないようなのでそっちはまず安心していい。過去に戦っている最中に乱入されたことはあるが、全てモン部屋の外に転送された奴が入ってきただけだからだ。

「だ、誰か……ち、ゆ……」

 地に這ったロッコが消えそうな声で助けを求めている。残念だがもう少し待ってくれ。俺が粘っている間にケイブボアーを始末した連中が駆けつけてくればなんだかんだ言いつつ時間の問題でこの大猪の命も尽きるだろうよ。治癒くらいそれからちゃんとしてやるからさ。

 ニヤリと片頬を上げて笑みを浮かべると、頭部を中心に隙を見つけては浅く攻撃を入れていく。弓矢での援護も続いているようで、もう奴の胴には十本程も矢が突き立っている。どうせなら目を狙って欲しいが、それはベル以外には贅沢な望みだろう。

 横に回り込んだジェルが槍を突き込んだ。急所ではないようだが、それなりのダメージはあったようで、大猪は俺に向かって再度当たらない突進を仕掛けてきた。薄い笑みを浮かべなら余裕を持ってそれを躱し、体表に斬りつける。当たらなかったため、突進を止め、方向転換をする隙を突いて大ぶりの一撃をお見舞いする。

 すると、だんだんと動きも鈍くなる。猪のような神経の通う高等生物は痛みが嫌いだ。痛みを与える奴を排除しようと再度俺に突進をかましてくる。落ち着いてその突進を躱すと……ほれ、ジェルとコーリット、キムが構えた槍衾だ。慌てずにケツの方に向かい、後ろ足の付け根に剣を叩き込んで飛び退いた。入れ替わりにハルクが同じ側の前足に戦棍メイスを叩き込む。

 ぐらりと重心を傾けた大猪を見て取ったのか、ハルクは「うおぉぉっ!」と雄叫びを上げ、二度三度と戦棍メイスを叩きつけた。いい腕だ。あの時ジンジャーやゲクドーじゃなくてこいつが逸れていたら喜んで奴隷に叩き落としたのに……。

 そろそろかなり弱ってきた。もう俺が矢面に立つ必要は無いだろうが、むざむざとこいつらに経験値を稼がせてやることもない。

「どいてくれ」

 ハルクにそう言って彼を退かせると前足の後ろから肋骨の隙間を心臓目掛け、俺設計、アルノルトと親父作、鍛造特殊鋼製の長剣を力を込めて突き刺した。蹴りつけて剣を引き抜くと、ビクビクと痙攣しながら大猪はどうと大地に倒れ伏す。汚い毛皮で血と脂を拭い、水魔法を使いたいのを我慢して腰から手拭いを出すとそれで剣を拭き、腰に戻した。

 皆が俺に注目して歓声をあげていた。

 ああ、魔石採るのに解体しなきゃならないんだっけ……面倒くせぇな。

 今拭いたばかりの剣をまた汚すのか……。

「コール、グリード君、ミースはロッコとケビンを診てあげて。残りの皆は魔石を採りましょう」

 メイリアがそう宣言してくれたことで再び剣を汚す必要は無くなった。

「た……頼む……ごぼっ……し、死にたく……」

 重傷を負ったロッコは腹に大穴が開いていた。腸も少し出ているようだ。傷が複雑すぎて「キュアー」や「キュアーライト」だと血止めが精一杯だろう。傷を塞ぐには「キュアーシリアス」でも微妙なところだ「キュアークリティカル」が必要だろう。俺としては皆の前で使う自分のMPを三十九と決めている。「キュアークリティカル」を二回使うのは不可能な値だ。

 ここに来るまでにヴァンパイアバットに対して五発の「フレイムアロー」を使っている。休憩も含めて回復を考えると一回は「キュアークリティカル」を使っても問題はないだろう。因みにロッコの傷はかなり重傷のようでHPは最大値百十だったのが今は二十を切っている。出血が止まらなければ一時間も持つまい。

「ロッコ! 頑張って! 血さえ止まれば……」

 ミースがロッコに駆けつけて傍にしゃがみ込んだ。

「ロッコ! ああ、糞っ! メリーさん! お、俺の札じゃ本当に駄目なんですか!?」
「あ、あたし、無記名のやつ少しある! 血さえ止まれば今から……駄目ね……」

 ジェルとキムが魔石採取を命じられたにも拘らずロッコを心配している。

「んみ……ミース……も、もう少しで、さ、三回目がた、貯まる……のに……」

「動かないで!」

 ロッコの傷口に手を当てたミースが精神集中を始めようとする。

 腰を打ったケビンを放っておいてロッコを診ようとしたコーリットに「使いますよ」と一声掛け、手袋を外しながら強引にミースと反対側にしゃがみ込んだ。ロッコの腹の傷口に手を当てているミースの「キュアーライト」が効果を発揮したようで、出血だけは止まったようだがこんな大きな傷には焼け石に水だ。それに、これでミースのMPは六を切った。もう回復しない。破れ、はみ出した腸の傷は塞がったようだけどね。

 丁寧に腸を腹に押し込み、傷口に手を当てるとたっぷりと時間を掛けて……流石に目の前で蒼白になって血を吐きながら苦しんでいるのを見ているのも趣味じゃない。二十秒程で「キュアークリティカル」を使ってやった。

「……あ、あ? す、すごい……傷が塞がって……凄いわ! ロッコ! ロッコ! もう大丈夫よ! 安心して!」

 ミースがロッコに声を掛けている。

 ロッコの血で汚れた右手、どうしようか……。

 手拭いで拭っても完全には落ちないだろうしなぁ……。
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