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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百二十七話 六層へ

7445年7月3日

 リンドベル夫妻の部屋は「モゴリート亭」の最上階、三階の端にあった。部屋に通された俺は勧められるままにソファに腰を下ろす。こいつもなかなか上等なソファで、非常に座り心地がいい。夫妻は妻のメイリアがお茶を用意し、旦那のコーリットはお茶請けで炒り豆らしいものを用意し、小テーブルを挟んで俺の向かいの一人掛けのソファにそれぞれ並んで座った。緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドのヴィルハイマーと違って身の回りの世話をさせる奴隷は居ないようだ。

 メイリアが俺の首に結ばれている山吹色の布を見て満足そうに微笑んでいる。

「グリード君、よく決心してくれた」

 ついさっき階下で聞いた言葉と同じ言葉を再度言うコーリットの手を握り、続いてメイリアとも握手を交わす。簡単な挨拶や正式な待遇を確認し、日光サン・レイの決まりを一つ一つ説明してもらう。大した数じゃないので簡単に覚えられる。一般のパーティーと比較して変わったところも特にないが、一つだけ大きな特徴があった。

 迷宮に入っていない時は毎日午前中、昼食前に各自神社にお参りをする事を推奨された。強制ではないが強く推奨すると言われた。知ってはいたが、理由を聞くと「オースの至る所に神はおわす。その神々が一時御休みになられる場所だから、運が良ければ神が御休みになられている時かも知れない」と言われた。この辺りは下調べで判明していることだし、言っている内容も別段問題はない。ごく一般的に、当たり前に言われている内容だ。この程度のことであればバークッドのシェーミ婆さんだって言っていた。

「それと、グリード君は全部の種類の元素魔法が使えるそうだね。レベルは幾つなんだい?」

 パーティーを束ねる者として当然の質問だ。俺にだって回答する義務はあるだろう。

「全部四です。無魔法は五ですが……」

 アーバレストまでの攻撃魔術は迷宮内の戦闘で使っているところを他の冒険者に見られたことがある。だが、ミサイルは見せていない(見せた、と言うか、見られたことはある。直後に全員殺したが)し、「キュアークリティカル」くらいは使える程度に言っておいた方が下手に低く申告するよりは真実味があるだろう。

 それを聞いた彼らは夫婦揃って目を丸くして驚いた。さもありなん。超までは行かないが一流と言って十分通用するレベルだ。まして俺は未だ年若い十代だからね。ナイフより尖ってるけどな。

「……す、凄いな……噂通りか……」
「一流の魔法使いね……でも流石に……「キュアーオール」までは無理……」

「ええ、そうですよ。自分で言うのもなんですが、一流と言って差し支え無いと思っています。……それなのに……あいつら……あのダークエルフめ……俺を……皆して俺を追い出しやがって……」

 途中から生気を無くしたようなくらい表情でブツブツと呟く。ああ、俺って役者になれるかも……人間、必死になりゃなんとでもなるもんだなぁ。ま、最近似たような表情の練習は散々、それこそ嫌という程してきたんだ。この表情の演技だけはもうすっかりベテランさ……。ヴィルハイマーのおっさんにも「すげ~似合ってる! 見てて気持ちいい! それなら冒険者辞めても王都の劇場シアトレで主役張れるぞ! 俺がパトロンになってやるから転職しろ!」とか指さされて笑われたんだ。

「グリード君、そんな顔をするもんじゃない。今はいろいろ不満もあるだろうが……」
「そうよ。だいたいもう過ぎたことでしょう? これからの事を考えるべきよ」

 リンドベル夫妻は揃って人好きのする笑顔を向けてきた。だが、その目は笑っていなかった。ふん、“私と同じ匂いがします”ね……。

「いや、これは失礼を……。そうですね。大事なのはこれからですね」

 打って変わって明るい表情を心掛け、大仰に頷いた。

「でも、そこまで実力の高い貴方を見限るとは、殺戮者スローターズには魔法の使い手が多いのは本当のようね……」

「ええ、それなりに居ます。闇精人族ダークエルフの女は私と同じくらいの技倆を持っていますし、精人族エルフの男も魔法が使えます。兎人族バニーマンの女も相当魔法のレベルは高いです。それに加えて山人族ドワーフの女と普人族ヒュームの女もそこそこ魔法が使えますね」

 バストラルのことまで言う必要は無いだろう。

「聞いていた通りだな……それがあそこまで魔物を殺せる原動力か……」

「まぁ、その通りですね……」

「私達のところは五人だけ。でもパーティーを二つに分けているから実質はもっと少ないわ……」

 知ってるよ。目の前の旦那さんと普人族の男(確か貴族の息子でビンノード・ゲクドーって名前だったはずだ)、狼人族ウルフワーの女、あとはファルエルガーズとヒーロスコルだろう? そのくらい調べてあるさ。ついでに、全員大したこと無いこともね。どうにか一流と言えるのは旦那さんだけで、普人族の男はトリス以下だから普通くらい、ウルフワーの女はヒーロスコルより少しマシ程度。迷宮では苦労してそうだよね。

 次回の迷宮探索から早速同行するため、明日は連携確認のため訓練だそうだ。とりあえず次回はファルエルガーズたちと同じ、ゼミュネルをリーダーとしたチームに入るように言われるのかと思ったが、どうやら俺はリンドベル夫妻と一緒に六層に行くらしい。

 幾ら殺戮者スローターズのリーダーをしていて七層までの経験があるからと言っていきなり側に置くのかね? もう少し慎重にスタートすると読んでいたんだが……。危なそうな奴は目の届くところに置いた方が安心出来ると言う事か。

 この日の晩は俺の歓迎会と言うことで、日光サン・レイ全員で食事に行った。店は今まで行った記憶のない「ゴンルー」だ。安っぽい居酒屋に近いレストランだった。奢って貰っておいてなんだが、歓迎会でこのクラスの店とか、貧乏人かよ。

 宴も中盤に差し掛かった頃、やっと席を移動できる雰囲気になったので、安物のワインボトルを持ってメンバーに酒を注いで回った。新参はこのくらいやるべきだよね。オースにこんな文化はないが別にいいだろ。ついでに全員と自然に会話できるんだし。酒が回りほろ酔いでいい気分になったメンバーに頭を下げて回り、ヒーロスコルたちのテーブルにも挨拶に行く。

「ファルエルガーズさん、ヒーロスコルさん。これからよろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ。こんなに丁寧に挨拶なんかしなくてもいいのに……」
「おう、流石に君は大人だな。まぁ飲め」

 ファルエルガーズはそう言いながらも俺に返杯だとばかりに酒を薦めた。注がれた酒を一息に空ける。それを見たヒーロスコルも俺のカップ(ワイングラスも無い店なのだ)に酒を継ぎ、そちらも一息に空けた俺を見て陽気にはしゃいでいた。ちっとばかり面白くない。後で「毒中和ニュートラライズ・ポイズン」でも使おう。安物の酒は悪酔いするしな。

「ああ、そうだ。リンドベルさんたちは契約について何も仰っておられませんでした。契約を交さなくてもいいんですかね?」

 解っていながら冗談めかして聞いてやる。途端にヒーロスコルは面白くなさそうな顔をした。

「そりゃ……そうだろう……。金も掛かるし、いちいち契約なんてしている奴はおらんからな……」
「ふふ、グリードさんも勘弁して下さい。我々だって契約なんか結んでないですよ」

 少しくらい嫌味っぽく言ってもバチは当たらんだろ。だが、少し安心した。こいつらもそのくらいの常識は弁えていたんだな。隣で飲んでるクミールとルッツと組んだ時に契約なんか交わしていないことは確認していたから、まさか日光サン・レイに入るときに契約を要求しては居ないだろうとは思っていたけど、安心したよ。あと、あんたら俺が契約を解除しているか、確認しなくてもいいのか? まぁ、確認してきたところで解除したと言う以外無いんだけどね。



・・・・・・・・・



7445年7月5日

 明日には迷宮に入る。実は先日、トリス達に現状の報告をした。迷宮に入る正確な日程や魔法が使えるメンバーなんかについてだ。俺は【鑑定】すれば一発で判るけど、彼らはステータスを見ないと解らないからね。同時に俺とファルエルガーズたちが違うパーティーになったことも伝えている。

 連絡方法は簡単だ。日本語で書いた手紙を商会経由で遣り取りするだけなんだが、あんまり頻繁に商会からの使いが行き来するのも憚られるし、怪しまれかねない。最初だけだ。最初だけなら外部から見た場合、商会の運営の連絡で俺が殺戮者スローターズを抜けたとかなんとか商会と連絡を取るのは当たり前だからね。

 あとは、今泊まっている「カイルーグの宿」の小僧に、当然俺の軍馬を預けているんだけど、普段その馬の世話は店の小僧どもがやる。体を洗ったり、餌をやったり、場合によっては郊外まで散歩に連れて行ったりだ。

 小僧に金を掴ませ、同様に金を掴ませているボイル亭の小僧とミヅチの馬の散歩中に落ちあわせて馬具に手紙を仕込ませればそう簡単にばれない。逆にそこまで疑って俺の宿やボイル亭を見張るなんて偏執的な真似をするなら最初から他のパーティー出身者を採用なんてしないだろう。トリスたちはそう想像したようだ。これについて異存はない。

 ま、それなりに安全性は保たれているし、理屈は通っている。仮に何らかの要因で手紙が見つかったとしても読んで意味がわかるのは転生者だけで、ファルエルガーズたちがそれを見たとしてもある意味で真実を知るだけの話だ。ついでに言うと手紙はあぶり出しで書かれているから一見しただけだと白紙にしか見えないからね。読んだ後で燃やしてしまえば証拠も残らない。

 第一紙は高価だからそれなりに金に余裕が有る奴じゃないとそうそう使わない。冒険者なんかだと迷宮の地図で使うくらいじゃないかな? まぁ俺は今回の仕事では中心の駒じゃない。あくまで安全装置の一つにしか過ぎない。日光サン・レイの動きを皆に伝えるだけさ。



・・・・・・・・・



7445年7月6日

 リンドベル夫妻や他の日光サン・レイのメンバーと迷宮に足を踏み入れた。剣は銃剣にはせず、長剣ロングソードのままの形態で持ち込んでいる。パーティーは俺を入れて十人のフルメンバーだ。

 半日以上かけて部屋の主だけを殺して一層を通りぬけ、三時間の休息を挟んで同様に二層も通り抜けた。ここまでに稼いだ魔石は一層でどうしても戦わざるを得なかった一層のモン部屋の主であったガルガンチュアスパイダーと、二層のモン部屋の主だったオウルベアとクリムゾンセンチピードという、馬鹿でかい真っ赤なムカデだけだ。

 罠についても遠回りすることで回避出来るようなら遠回りするという、徹底的な安全策を取っている。俺達みたいに落とし穴の脇をひょいひょいと歩くようなことは可能な限り避けていた。流石にやり過ぎな気はしたがこれが普通の冒険者なんだろう。

 あとの主は何度か転送を繰り返して良い場所を選んだためか、足が遅い奴ばかりだったので、慎重にギリギリまで近づいたモン部屋を走り抜けることですべて躱した。一度だけ通路でノールの群れを遠回りして躱そうとしたのだが、躱せずに追撃を受けてしまった。しかし、それも距離を保って魔術や弓で半数近くを射殺して退却に追い込んだ。俺も「フレイムボルト」の魔術で二匹を始末した。

 戦闘時のリンドベル夫妻の指揮ぶりもまず問題がない。トップチームである以上、これは当たり前だが。だが、戦闘後にかなり時間をかけて安全を確認した後、矢の回収や、死体からの魔石採取などで更に時間を食っていたのには閉口した。戦闘を避けるために遠回りしたり、モン部屋の主を走り抜けて躱すのも、気持ちや狙いは理解するが……何回も転移を繰り返しても同じエリアに出てくることは非常に稀なのでそこまで拘る必要は薄いのではないかと感じた。

 だが、まぁ、これは俺の理屈であって一般的な理屈じゃない。モン部屋の主は一層でだって今の殺戮者スローターズも偶には怪我をする。治癒の魔術はいつでも、ふんだんに使えると思い込んでいる俺の感覚がおかしいだけだろう。そもそも、リーダーは俺ではなくリンドベル夫妻なのだ。リーダーの方針には無条件で従うべきだろう。

 リーダーがあまりに愚かな選択をして、且つ時間の余裕が有るときには異を唱えるのも有りだろうが、そんなのは転移の水晶棒の部屋か、確実に側にモンスターがいないと確信出来る状況でしか有り得ないと思った方がいい。

 自衛隊時代でも最初に言われることは「指揮官は間違えない」だ。指揮官は常に正確な判断を下し、間違えた判断を下さない。だから命じられたことを遺漏なく実行すれば勝てる、と言うものだ。勿論、指揮官とは言え、神様でも何でもない、ただの人間なのだからこの意見は間違っている。教官や助教連中も即座に「これはおかしい」と矛盾したことを言う。だが、例え間違っていて、それに疑念を差し挟む余地があったとしても部下は戦闘中などに疑念を口にしてはいけない。そういった、指揮官に進言するのは副官や、指揮官が高位の者であれば幕僚の役目だからだ。

 では明らかに間違った行動を命じられた場合はどうすればよいのか? と質問したバカがいた。教官は迷わずニヤニヤとして「運が悪かったと諦めて死ね」と言った。まぁ冗談ではあろうが、あながちおかしなことではない。そして、教官はこうも言った。「部下にそういう思いをさせたくないのであれば必死に学んで常に正しい判断を下せるようになればいい。そうすればお前の言う事に従っていれば必ず上手く行く、と思うようになる。そうなるとだな……例えお前がおかしな命令を下したとしてもお前を信じた部下は、お前を心の底から信じたまま死んでいくだろう。だが、そこまで他人の、部下の人生に責任を負いたくないのであれば幹部自衛官には向いていない。国民の血税をそんな役立たずにかけるのは申し訳ないから今すぐ辞表を書いて退官しろ」と。

 下の者の意見を許していたら指揮官は軽んじられる。冒険者は騎士団のような軍隊組織ではないが、命がけの戦闘を行い、その戦闘は目的を達成する手段であることについては軍隊と同一だ。小さな軍隊と言っても良いだろう。勿論、ほぼ百%の確率でその目的は軍隊よりも卑小なものではあろうが。

 一度軽んじられた指揮官は、以降、その命令も軽んじられてしまい、肝心なときに従わない奴が出るおそれがある。だから軍隊では上位の者は間違った判断をしない、という前提に立って物事が進められる。その理屈自体が正しいかどうかはまた別の話として置いておいて。

 まぁ、これらは心構えの話だ。リンドベル夫妻はここまできっちりとパーティーの安全に心を砕き、出来るだけ消耗の少ない選択をしている。流石は長年トップチームの頭を張ってきただけあって優れたリーダーだと再確認出来た。サンプルとなる数はまだ少ないが、それでも戦闘時の判断や指揮ぶりは円熟した冒険者に従っているのだという安心感を齎していた。

 そうして最初の一日が終わり、迷宮に突入して以来、既に約三十時間が経過している。とっくに日付は変わり、今は七月七日の正午くらいだ。やっと二層の転移の水晶棒の部屋まで辿り着き、休息を取っていた。他にも幾つか冒険者のパーティーが野営をして休息を取っている。

「グリードくん、今日はどうだったね? 疲れたかい?」

 ちっとも旨くない、量も大したことのない味気ない食事を摂り、さぁ寝ようかと言う時にコーリットに話し掛けられた。ここまで、途中一層の転移の水晶棒の部屋で二時間くらいは寝られたが、それ以外はずっと迷宮の中で緊張してたんだ、疲れてない訳がないだろう。

「まぁ、こんなもんでしょうね。今日は誰も怪我をしませんでしたしコーリットさんやメイリアさんの指揮ぶりには安心感を覚えましたよ」

「いやぁ、そうかね。君にそう言って貰えるとこちらとしてもホッとするね」

 あからさまにホッと息を吐きながらコーリットは破顔した。仕方ねぇな、少し付き合ってやるか。

「それに皆さんもキビキビと良く動きますね。良いパーティーに参加出来て私も嬉しいですよ」

「あら、嬉しいことを言ってくれるわね」

 女房のメイリアも会話に参加してきた。長くなったら嫌だなぁ……。だけど、折角の機会でもある。遅かれ早かれ情報収集は必要なことだし、今回である程度収集出来るなら迷宮を出たあとトリスたちに報告出来る内容もそれだけ多くなるだろう。駒は労を厭ってはいけない。

「いえ、流石は以前からトップチームだけあるなと感心していたに過ぎません。殺戮者スローターズとはやり方が違う部分もあるので少し戸惑いましたが……」

「ああ、うちは荷運び(ポーター)を入れる余裕はないからね……正直な話、少し前にサントスが死んでなきゃ君を採ることも考えなかったろうな」

 うん、それもあってタイミングがいいかな、と思ってたんだ。奴隷を買われちゃったり、誰か入れられちゃったりしないかヒヤヒヤしてたぜ。だが、あのまともな指揮ぶりでドジこいて怪我してたような奴だ。死なれても大して痛手ではなかったんじゃないのかね。

「それに、うちは実力が低いから殺戮者スローターズのように短時間で下層には行けないでしょう? もどかしく思ってたんじゃないかと心配だったのよ」

「実力が低いだなんてそんな! 皆さん十分な実力をお持ちだと思いますよ。殺戮者スローターズの場合、魔術師が多かったので突き進めただけです。実力は皆さんの方が高いと思いますよ」

 冒険者としての、罠への用心や、戦闘の回避などの実力では殺戮者スローターズ日光サン・レイの足元にも及ばないだろう。安全に迷宮の下層を目指す、という点で日光サン・レイ殺戮者スローターズなんかより余程優れている。尤も、未だ二層。トップチームなら苦戦するような相手なんかそうそういないだろう。リンドベル夫妻の落ち着いて全く慌てた様子のない指揮ぶりからも窺われる。

「そうかしら……でもこれから怪我する人も出てくると思うわ。グリード君も怪我をしたらすぐに言ってね。貴方ほどじゃないけどうちの人も治癒の魔術は使えるから」

「はい、その時は宜しくお願いします」

「ああ、こちらこそだ。「キュアークリティカル」が使える人を失う訳には行かないからね。最優先で治癒させて貰うよ」

「さて、グリード君、貴方。これから先はもっとキツイでしょうし、やすめるうちにやすんでおいた方がいいわ……」

 ふぅ、これで解放される、と安心したのも束の間だった。日光サン・レイの他のメンバーが話し掛けて来たのだ。

「なぁ、グリードさんよ。殺戮者スローターズはどの位稼いでるんだ? 噂じゃ魔石だけで月に一億超すと聞いたが、まさか本当じゃねぇよな?」

 面倒くさいなぁ、もう。だいたいそんな話は先日から何回もしているよ。俺と話す奴全員がこれだ……。もう少し仲間内で情報共有くらいしてくれよな。

「七層に行くようになってから多い月は一億五千万以上行くときも有りましたよ……まぁ、そこまでは滅多にありませんが」

 ラーヴァルパープルウォームの時を別にすれば月に四回迷宮から帰る月もあるからちょっと控え目に言ってみた。大体のところはもう知られているだろうから隠したところであんまり意味は無い。

 ピュウと口笛を吹いたのはローカスト・ケイネスタン、通称をロッコという名のエルフの男だ。レベル十五。二十九歳。肉体的には全盛期に近いのでそこそこ良い能力値を誇っている。このパーティーでも前衛を担当しており、長剣ロングソード小盾バックラーシールドを使っている。

「それじゃあきっと分け前も凄ぇんだろうなぁ……簡単に手に入りそうだ……」

「手に入るって……何がです?」

「ん? あ、ああ、も、もっと良い武器だよ。フッグス剣商の長剣ロングソードとかな」

 少し慌てたように取り繕ったロッコは気まずそうな顔をしている。

 因みに、フッグス剣商と言うのはロンベルティアの外れに工房を持つ剣専門の鍛冶屋だ。美しいデザインを兼ね備えた高級な剣を作ることで名を知られており、第二騎士団御用達の鍛冶屋でもある。価格は長剣ロングソード一振りで三百~四百万Zもする。バルドゥックの普通の武器も作る鍛冶屋の三倍~四倍もの価格が付いている。ある意味で剣を使う冒険者達の憧れの店だ。

「いやあ、どうでしょう。フッグス剣商の剣は人気が有りますからね。一年待ちもザラじゃないらしいじゃないですか。早く手に入れるためには武器屋で買うしか無いでしょう。そうなると流石においそれとは手が出ない価格になるんじゃないですか?」

 横になりかけたリンドベルの女房の方が冷たい目つきでロッコを睨んでいたが、俺が見ているのに気付くと視線を逸らして毛布を被った。

「あ……うん。武器屋で買えば、や、安いやつでも五百万は取られるだろうな……。高いのだと八百は行くみたいだし……」

 ま、流石にそのクラスの剣なんか年間の販売本数は片手の指にも満たないくらいだろう。武器屋もそのくらいの利益を抜かなければ商売にはなるまい。俺の知る限り、ヴィルハイマーとかアンダーセン、それにリンドベル夫妻のメイリアがフッグス剣商製の長剣ロングソード歩兵用の剣ショートソードを使っている。あと、生意気にエンゲラの段平ブロードソードもフッグス剣商製だったな。尤も、エンゲラのは元々輝く刃(ブライト・ブレイド)の誰かが使ってたやつだけど。

 そう言えばトリスも去年注文しようとしたらしいが一年待ちと言われて諦めたんだ。俺としてはトリスの長剣ロングソードには十四層に落ちた時にお世話になったから思い入れもあるんだけどね。

「ケイネスタンさん、明日もありますし、そろそろ休みましょう。私、三時間後から見張りなんですよ」



・・・・・・・・・



7445年7月10日

 やっと五層の転移の水晶棒の部屋に辿り着いた……。長かった……。ここに来るまで殺戮者スローターズの倍以上の時間を掛けていたのだ。一層二層は半日くらいだったのでまだいいが、三層を抜けるのに十四時間、四層では十六時間、五層に至っては二十時間近くも掛かっていた。その間、転移の水晶棒の部屋以外では長くても一度に三十分程度の休息しか取らず、気を張りっ放しだった。

 そこまで時間を掛けたため、五層で主と戦ったのなんか祭壇の部屋の一度だけだ。召喚されてきた主もグール四匹と大した敵じゃなかったので俺の「ストーンジャベリン」二発であっという間に半分を倒し、残った二匹のうち一匹も俺が剣で切り倒して余裕で勝利したが。戦闘後に開いた祭壇の上の祠はやっぱりスカだった。

 ガーゴイルを相手にしていた奴らに軽傷者が二人出たが、戦闘後にコーリットが「キュアーライト」で治癒をしていた。俺も治癒魔術を使おうかと提案したが、魔力の節約のためだと言われて断られたので一応そいつの荷を担ぐだけで放っておいた。この転移の水晶棒の小部屋に到着してからやっと治癒を許されたくらいだ。

 だけどさ、ちまちまとセコく進んでストレスが溜まっているところで思い切り体を動かせる分だけ、四層と五層のゾンビ共と戦闘している方が気持ち的には楽なくらいだったよ。と言っても、それすらも必要最小限で、大抵は走って距離を稼ぎ、モンスターたちの探知範囲外に逃れちゃうんだけど。

 何度も、ここまでして戦闘を避けることなんか無いですよと言ってやりたかったが、なんとかこらえ、そのまま我慢して口にはしなかった。五層の転移の水晶棒の小部屋に到着した途端、延べ五日もシャワーを浴びていないので荷物を床に下ろすとシャワー室にふらふらと向かいそうになったが、ここはリンドベル夫妻が先だろう。それより飯だ。ここには日光サン・レイも粗末なものではあるが竈なんかも設えているし、やっとまともな食事にありつけそうだ。

 パーティーのメンバーも皆嬉しそうに分担して背負っていた食材を取り出し、綺麗に並べている。かぼちゃや人参みたいな日持ちのする野菜類やベーコンのブロックなど丁寧に並べ、残量を確認している。今回の迷宮行は八日間の予定だからあと三日保てばいい。朝晩はここで温かい食事が出来る事が嬉しい。



・・・・・・・・・



7445年7月11日

 今日から六層だ。だが、俺の知る限り六層からは迂回出来そうな罠なんか殆ど無い。お手並み拝見だ、と思っていたら、出発前のミーティング(?)で意見を求められた。

「では、グリード君、少し君の意見が聞きたい。六層ばかりか七層の経験者でもある君の意見だ。必ず有効な提案をしてくれると思うんだが……」

「意見と言われましても……何についてですかね? 六層の進み方自体は先ほどお聞きしましたが基本線は一緒ですよ。……一点申し上げるとすれば罠に近づかないのではなく、脇を通り抜けないと先に、七層に進み難いことですね」

「……脇を通り抜けないといけないのか……」
「そりゃ知らなかった……」
「でも危なくない?」
「ああ、前にボグスやユリエールが死んだ時って罠に引っかかったんでしょ?」
「そうだ……」
「近づきたくないなぁ……」
「だが、ジンジャーやビンスを助けられた時は脇を通り抜けたって聞いたぞ」
「急いでたからじゃなかったのか……」

「皆、うるさいわよ。少し黙って! 頼りになる人の意見が聞けるんだから!」

 メイリアが皆に注意した。日光サン・レイの連中は新しく加入した俺を侮っている奴は一人もいなかったが、最初はパーティーから放り出される程度の元リーダーなんざ何程の者ぞ、と言う雰囲気もあった。だがそれもここまでの道中での戦闘や、一言も愚痴や文句を言う事もなく、黙々と荷を担いで歩き続けた態度でかなり軟化していた。

 今では少なくとも指揮能力や管理能力以外には俺を下に見る奴は居なくなっていると見てもいいだろう。つまり、リーダーには不向き(かも知れない)だが、仲間としては頼りになる、なりそうな奴、という地位にはつけていた。

 メイリアの注意を受けて全員が俺に注目した。っつったってなぁ、もうこれ以上言うことはあんまりないよ……。あ、そう言えばこれも言っとくべきか。

「あとは魔物がいつ転移してくるかは全く不明なので常に周囲に気を配るよう、隊列も六層用に改めたほうが良いくらいでしょうか」

 一点じゃなかったね。

「ああ、それはまだ言ってなかったな。流石に我々も六層から専用に隊列を変えている。もう大荷物も無いし、身軽だからな」

 そりゃそうだろうな。つい何ヶ月か前にも死人が出たばっかりだろうし、六層用の編成にしてないはずがないよね。

「だが、貴重な意見を聞けた。そうなると今回はどこに転移しても先を進んだ方が良さそうだな……。グリード君、これが我々が作っている六層の地図だ。六層に転移したあとで可能なら意見して欲しい」

「分かりました」

 そういえばまだ俺は日光サン・レイに入ってから地図を見せて貰ったことはない。五層を抜けるまでリンドベル夫妻が度々地図を確認しながら短時間の相談をしたりしているところは何度も目にしていたが、地図自体を見たことは無かった。

「全員準備はいいな。良し、じゃあ行くぞ……メゾレード」
日光サン・レイ一軍メンバー

コーリット・リンドベル(45歳)※魔法使える
 Lv17 獅人族 男 槍

メイリア・リンドベル(43歳)
 Lv17 獅人族 女 長剣

ハルケイン・フーミズ(30歳)
 Lv17 普人族 男 戦棍

ローカスト・ケイネスタン(29歳)
 Lv15 精人族 男 長剣

カーマイン・ミシャウス(28歳)
 Lv16 矮人族 女 弓、小刀

ケビン・ファイアスターター(27歳)
 Lv16 山人族 男 戦斧

ミーフェス・ランスーン(25歳)※魔法使える
 Lv15 狼人族 女 弓、歩兵用剣

キュミレー・ビオスコル(25歳)
 Lv15 虎人族 女 槍 

ジェルトード・ラミレス(25歳)
 Lv14 狼人族 男 槍

アレイン・グリード(17歳)※魔法使える
 Lv26 普人族 男 長剣


日光サン・レイ二軍メンバー

ビーンスコール・ゼミュネル(28歳)※二軍リーダー
 Lv17 犬人族 男 槍

ヴァージニア・ニューマン(28歳)※一軍サブリーダー
 Lv15 普人族 女 槍

ビンノード・ゲクドー(25歳)※魔法使える
 Lv14 普人族 男 長剣

ヒスルーラ・ハルレイン(21歳)
 Lv12 精人族 女 弓、歩兵用剣

ロートリック・ファルエルガーズ(17歳)※魔法使える
 Lv8 普人族 男 長剣 槍

フィオレンツォ・ヒーロスコル(17歳)※魔法使える
 Lv9 虎人族 男 長剣 槍

サンノセ・クミール(22歳)
 Lv11 普人族 男 長剣

ルーツォグ・サミュエルガー(21歳)
 Lv11 普人族 男 槍

デンドール・スマイス(26歳)※ロリックの奴隷
 Lv9 獅人族 男 戦鎚

カリエール・マークス(24歳)※ロリックの奴隷
 Lv8 獅人族 男 戦斧
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