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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百二十五話 スカウト

7445年7月2日

 さて、「カイルーグの宿」に取った俺の部屋で二日酔いの頭痛を堪えて荷物を解きながら、当面のことにでも思いを馳せることにした。まずは昨日からこっち、溜まっている件の捌きだな。今日も朝早くから何人も来て応対に忙殺されていたのだ。

 流石に一人じゃ七層に行くので精一杯だ。戦闘力だけで考えればもっと行けるだろうが、食料が保たない。寝台ベッドは土で作れるからどうにでもなるが、毛布も持って歩かなきゃいけないし。ま、七層であいつらと合流してもいいんだが、五層の転移の水晶棒の部屋で日光サン・レイと鉢合わせしても面倒だ。……そもそも深層に一人でなんか行くつもりないけど。

 取り敢えず遅くなったが昼飯でも食いに行こうか。約束もあるし。と思っていると来客らしい。要件は想像がつくが、一応顔と名は知っている。面倒だが顔くらい出してやろう。

 ……やっぱり二流パーティーからの誘いだ。パーティー総出でぞろぞろとやって来た。必要経費はリーダー持ち、頭割りという報酬を提示された。しかし、急に言われても、と言って即答はしなかった。何しろ最初の約束の時間まであと僅かだし。

 緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドのヴィルハイマーと昼食の約束をしている「ヘンクス」という、開放感のある中級のレストランに足を運ぶ。途中でキャサリンの腰に手をやりながら道を歩くバストラルを見掛けたが向こうは俺のことに気付かなかったようだ。お前ら二人共、幸せそうな顔しやがって……。

 キャサリンは先月の半ば、バストラルが購入し、翌日には解放した。今は二人共晴れて公爵領登録の自由民だ。数万Zの安物だが指輪まで贈ってやがった。猫の癖になかなか洒落たことをしやがる。今は愛の歌を作るとか言って腸ではない、蔓を使った安物のギターみたいな楽器を使って暇さえあれば東寄りの湖の畔に二人で出掛けている。今日もあの様子じゃ湖に行くんだろう。弁当も持ってるみたいだったし。っつーか、槍の訓練しろよ。ま、新婚だしいいけど。

 道端に唾を吐き捨て、ズボンのポケットに両手を突っ込む、やさぐれたような姿勢の悪い歩き方で「ヘンクス」を目指す。程なくして「ヘンクス」に到着した。オープンテラスと言うと格好がいいが、単に道にテーブルがはみ出しているだけの、その端にヴィルハイマーのおっさんが座ってこちらに右手を挙げている。左手には火の点いた葉巻があった。

「やぁ、ヴィルハイマーさん、昨日の今日で済みませんね……」

 出来るだけ卑屈そうな顔をして挨拶をすると席に着いた。

「おう、誰かと思えば根無し草(バグラント)になっちまったグリード准爵閣下ではないですか。平民の私などに頭を下げるのは似合いませんな」

 物凄くムカつく顔つきでそう言われた。このおっさん、楽しんでやがる。すぐにボーイが来たのでランチを頼むとヴィルハイマーも同じものを頼んだ。

「きっついですね。まぁそう仰らずに……で、昨日の件ですが」

「おう、それな。別にいいぜ。入場税、迷宮内の食料等の消耗品経費、宿、すべてこちら持ちで月三十。プラス獲得した分の魔石の五()だ。それ以外の戦利品を獲得した場合、全員で投票だ。俺を除いて一番役立ったと思う奴から一番役に立たなかったと思う奴にまで全員で得点を付ける。一番得点の高かった奴が一割、二番目が五()、三番目が四()、四番目が三()、以降は五厘ずつ落ちるな。人数にもよるがお前さんが入りゃ合計九人だから最低の八位でも一()はある」

 トップチームとして考えるとなかなか良い条件だな。宿代まで出してくれる分だけ破格に近い条件だ。

「潜行回数は?」

「知ってンだろ?」

「一応確認させて下さいよ」

「月二回、八日間だよ」

「一回の稼ぎは?」

「そりゃ入ってからでねぇと言えねぇな。だが、マシな生活くらいは出来るぜ」

 トップチームは平均して一度の迷宮行で百五十~二百五十万Zくらいの魔石を稼いでいると言われている。魔石屋の親父に聞いている情報だから完全には信頼できないが、大きくは外れていないだろう。それプラス戦利品が冒険者の稼ぎとなる。戦利品は稼げる月と全く稼げない月があるので普通は勘定に入れても仕方ないと見られることが多いが、トップチームだけは別だ。勿論、トップチームと言えど毎回戦利品を獲得なんてできっこないが、一年で最低一回は大物(売上で億単位)を獲得することが見込まれるのがトップチームの最低条件だ。

 月に二回迷宮に行くから魔石の稼ぎは平均すると月四百万。五%で二十万Zが俺の収入となる。月収平均五十万Z。年収なら六百万Zだ。俺は准貴族だから平民のように一割税も掛からないし、自由民のように年間百万Zの人頭税も必要ない。すべて可処分所得だと思って貰っていい。おまけに、年一回以上の獲得を期待をしていい戦利品が魔法の品(マジック・アイテム)だったり、馬鹿でかい宝石や金塊だったりすることを考えると非常に余裕のある生活が送れる。

 確かに良い条件と言える。だが、ったく、このおっさん、口調がヤクザもんだ。下手くそなんだよ。

「あと一つ条件がある」

「伺いましょう」

「お前さんの商会で扱っているという鎧だ。第一騎士団御用達らしいじゃねぇか。身内価格で売ってくれ」

 葉巻をくゆらせながらヴィルハイマーがふんぞり返って物申してきた。

「鎧の方はともかく、五()ですか……」

「あ゛? なんか不満かよ?」

「いえ、別に。考慮させて頂きます。お返事は……」

「とっくに知ってるだろうが、年明けからこっち、ウチは毎月五日と二十日から迷宮に行ってるからな。出来れば四日、明後日までに返事くれや。まぁ急がねぇからよ。十四日以降でもいいけどな」

「解りました」

 その後は他愛のない話をしながら二人でランチを摂り、すぐに店を出た。次は「モックス」だったな……。



・・・・・・・・・



 「モックス」で一流半のパーティーである王虎キングタイガーと、「ペギーズ」で同じく一流半の永遠の仲間エターナル・コンパニオン、そして「ラスルーン」では二流パーティーの中ではマシな桜草プリムローズと言う、女性ばかりのパーティーに参加の要請を受けたが全て丁重に断った。

 晩飯まで少し時間が余ったのでそろそろどうかな? と思って「カイルーグの宿」に戻ると、やはり俺の帰りを待っていたのだろう冒険者の一団がいた。その中には当然知った顔もいれば知らない顔もいた。

「おい、俺のほうが先に来たんだ。先に交渉する権利があるだろ!?」
「は? 知るか、ボケ。三流パーティーなんぞグリードさんが相手にする訳ねぇだろ、引っ込んでろ!」
「おい、どけっ!」
「グリード様、我らと共に迷宮を踏破しましょうぞ! このボートン兄弟がお伴します!」
「だれだお前ら?」
「あの、通して……次があるんですよ」
「俺たち黒熊ブラックベアーは獲得全額の三割出す!」
「お前らさっき三人しかいねぇって言ってたじゃねぇかよ。五()多いだけだろ。ケチくせえ」
「あの、グリードさん、ウチどうすか? 頭割り二人分出します!」
「あの、ちょっと、いっぺんに喋んないで……」
「我らはヨーライズ子爵騎士団の方から来ました! 是非団長職を……!」
「おっさんども、解ってねぇな。リーダーが嫌になったお人だぜ?」
「いてっ! 押すなよ!」
「ああ、もう、今日は予定で一杯なので……」
「グリードさん、お話を!」
日光サン・レイは如何です?」
「えっ?」

 俺の周囲にいた有象無象もピタリと黙った。

日光サン・レイは如何です?」

 地味だが仕立ての良い服を着たファルエルガーズが同じ言葉を繰り返す。背の高いヒーロスコルの姿が見えなかったので人混みに紛れ、彼が居るのに気付かなかった。てっきりいつも二人でいると思ってたよ。男色家ホモじゃなかった……いやまだ結論は下せない。俺は一つ溜息を付くと、ファルエルガーズに向き直る。右の二の腕に山吹色の布を結んだファルエルガーズが真剣な表情で俺を見ていた。こいつ、今まで気にしていなかったが普段から布巻いてやがんのかよ……。

「ファルエルガーズさん……それは正式なお誘いですか? 今、私は緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドへの返答を保留にしています。それに、今夜はこれから「ロースン」で黒黄玉ブラック・トパーズの話を聞く約束をしています。日光サン・レイであればお話を伺っても良いですが、今のはリーダーのリンドベルさんのご意向ですか?」

 ファルエルガーズの目をじっと見つめながら言った。

「……残念ながら正式なものではありません。ですが、ウチのリーダーは必ず受け入れてくれると思います。私としても、その、仲間は多い方がいいですし……」

 スタンドプレーか……。

「では正式なものになってからお越しください。話をしに行きました、そんな話は知りません、だと困りますので。失礼」

 そういうと冒険者たちを掻き分けて宿に入った。自分の部屋の椅子に腰を下ろし、お茶でも飲んで一休みしようかな、と思ったが、さっきまでお茶はさんざん飲んでいる。喉が渇いている訳でもないし、必要ない。椅子から立ち上がり、靴も脱がずに藁ベッドにごろんと転がった。

 ……トリスたちの想定からは少し外れたな。遅かれ早かれ日光サン・レイが俺の獲得のために動くであろうことは想定していたが、ファルエルガーズがリーダーの許可を得もせずに来たことは想定外だった。俺としてもここまで色々なパーティーから声が掛かるとは正直なところ、予想出来なかった。

 恐らく、二流パーティーくらいまでが声をかけてくるだろうと考えていた。それ以下の連中は最初から諦めるか、俺に声を掛けている上位のパーティーに気兼ねしてすぐには動かないだろうと踏んでいたのだ。だから睨みを効かせる意味でも一番最初に緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドに声を掛けて貰ったのだ。

 緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドが動き、間を置かずにすぐに黒黄玉ブラック・トパーズも俺を獲得に動けば日光サン・レイも動くだろうと考えていた。殺戮者スローターズは俺が抜けることで戦力が低下する。正確に俺の力を理解してはいないだろうが、少なくとも今まで殺戮者スローターズのリーダーをやっていたのだ。並以上の冒険者程度には力があると評価されていても不思議じゃないだろう。

 技能のレベルや魔力量は別にしても、俺が魔法を使える事自体は知られているから俺が抜けることでその分殺戮者(スローターズ)の戦力は低下する。単なるリーダーの交代ではなく、抜けることを認められたくらいだから、俺という戦力は殺戮者スローターズにとって致命的な物ではない。七層での冒険を継続出来る程度には戦力は残されていると見ても良い。だが、その反面、俺が参加すれば緑色団ベルデグリ・ブラザーフッド黒黄玉ブラック・トパーズの戦力は多少なりとも上昇する。単純な戦闘力もそうだが、それよりは今まで六層に行っていなかったこの二つのパーティーは俺という、六層ばかりか七層の経験者を得ることが大きい。六層に来る可能性は高くなる。

 元々高い実力を持っているパーティーだ。今はたまたま日光サン・レイが六層に先に来ているが、そもそもの実力として日光サン・レイより緑色団ベルデグリ・ブラザーフッド黒黄玉ブラック・トパーズの方が高いと言われていたのだ。この二つのどちらか、俺を獲得した方が早晩六層に顔を出すようになるだろう。彼らだって、日光サン・レイ同様に俺抜きで六層に行こうと思えば行ける実力を持っている可能性が高いことは明らかなのだから。

 その時、日光サン・レイとしては大きく分けて三つの選択肢がある。一つは何もしないで様子を見ることだ。だが、これは消極的すぎる。自然と緑色団ベルデグリ・ブラザーフッド黒黄玉ブラック・トパーズが実力を高めて、その結果六層に来るようになることとは訳が違うからだ。

 二つ目は逆に日光サン・レイが根無し草と化した俺を拾い上げ、自己の戦力補強に使うことだ。トリスたちの読みとしてはこの可能性が一番高いと結論づけていた。

 三つ目は今までのリーダーが抜けた殺戮者スローターズから人材を引き抜くことだ。これは文字通りトップである殺戮者スローターズの追い落としと自己の戦力強化を同時に図れる有効な手ではあるが、残っている殺戮者スローターズ荷運び(ポーター)のギベルティと新人のバストラルを除いても八人いる。幾らなんでも八人を一度に吸収するのは無理だ。場合によっては日光サン・レイとは名ばかりで内実は殺戮者スローターズという事になってしまっては目も当てられない。しかも彼らはリーダーを弾劾して放り出した実績を持っているのだ。

 中途半端に使えそうなやつだけ虫食いで採ったとしても残った奴らは緑色団ベルデグリ・ブラザーフッド黒黄玉ブラック・トパーズに拾われるのがオチだろう。場合によっては煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)まで浮上してくる。結果として上記二つの選択よりも酷いことになる可能性がある。まぁ、殺戮者スローターズが頭角を現す以前の状況に似た感じになるとは言え、その舞台ステージは五層ではなく、元殺戮者(スローターズ)のメンバーしか知らない六層だ。不慮ならまだ良いが、意図された事故やらを心配しなくてはならないだろう可能性は否めない。故にこの、三つ目が選択される可能性は一番低いだろうとトリスたちは読んでいた。

 そろそろ行くか……。

 寝台ベッドから起き上がるとアンダーセンと約束している「ロースン」へと向かった。



・・・・・・・・・



 「ロースン」ではアンダーセンが長い足を組みながら、肘をついて気だるげにワイングラスを傾けつつ俺を待っていた。ご丁寧にやはり通り沿いのテーブルだ。

「ああ、グリード君、呼び出してすまないわね。どうぞ」

 勧められるままに彼女の向かいに腰を下ろし、ウェイターに適当に料理を頼む。アンダーセンが飲んでいるのは白っぽい(白ワインとか赤ワインとかロゼとか区別はされていない。強いて言うならロゼが一番近い)からメインはセイズクのポワレでいいだろ。あとは軽い前菜を幾つかとそら豆のスープとパンを頼んだ。

 俺の席に用意されていたグラスにワインを注ぎながら、アンダーセンが口火を切った。

「何もしなくても月五十五。あとは獲得した分の魔石の五()ね」

 ありゃ。入場税はともかく、宿代と消耗品は自前か。まぁそれでも充分な額と言える。

魔法の品(マジック・アイテム)や鉱石は?」

「場合によるわ。そちらはその時に応じて私が割り振る。だけど、過去に一()を割ったことは無いわよ。平均すると三()くらいは渡せると思うわ」

 ま、充分だよね。

「なるほど、好条件ですね……」

「ま、ゆっくり考えて」

 運ばれてきた前菜をつつきながらアンダーセンが余裕綽々といった表情で言った。
 俺もタニシだかなんだかよくわからない煮貝をほじくり出しながら口を開く。

「迷宮にはどのくらいの頻度で?」

「……特に決めてないけど月に二回くらい。期間は七日から十日くらいね。入る三日前くらいには連絡するわ……あら、予想通りね」

 店に三人の男女が入って来て、俺達から少し離れたテーブルに着いた。

 言わずと知れた日光サン・レイのリンドベル夫妻とゼミュネルだ。それぞれの休みのタイミングを合わせるのに最適な日は昨日今日だけだったし、忙しいね。

 その他、ファルエルガーズとヒーロスコルの姿もあった。こちらは成り行きが心配で野次馬に来た、というところだろうか?
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