第十九話 試作
週末は今まで投稿した内容について再度考えて見ます。
つきましては今週末は幕間を投稿します。
話が滞ってしまいますが、ご容赦ください。
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予約投稿の日付が明日になってました。
今手元にあるゴムはそんなに多くは無い。
30Kgと言った所だ。多く感じるかもしれないけれど、ゴムの木一本から取れるゴムは結構な量になるのだ。特に、バークッドの傍に生えているのはパラゴムノキなので一日で取れる量は知れているが、それでも一日あたり10g弱くらいは生ゴムが作れるくらいの樹液が採れる。俺は30本から採っているので250gくらいが一日の生産量だ。一月当たりで7.5Kgも作れるのだ。数日置きに樹液を取りに行っていれば半年で40Kg以上が採れる。
産業としては心許ない量だが、俺が見たところ今の10倍は無いだろうがそれに近い程度の木が自生しているようなので本格的に採取すれば相当な量が取れるだろうし、種子を蒔いて木を増産してもいい。確かゴムノキ類は成長が非常に早く、量は少ないが数年後から樹液の採取は可能になるはずだ。
さて、まず何から作れば良いだろうか?
まずは靴だろうな。
一般的なブーツは豚などの皮で作られていて、靴底に木の板が張られている。そして更に皮を張っている。なめした皮なので丈夫ではあるのだが、それは皮の丈夫さの範疇を出ることは無いし、履き心地も悪い。高級品であればコルクのようなものを靴底に張り、その上から板を貼り付けるのだが、そんなもの、俺の父母しか持って無いだろう。
ここはサンダルでも改造しようか。
サンダルの中敷を薄い生ゴムの板から切り出す。
同じように靴底にも同じ生ゴムの板から切り出したゴムシートを張る。
靴底はその上に更に硫黄だけを加えた軟性のゴムと黒い硬質ゴムも張り、形を整える。
硬質ゴムには幾つか適当に山を作っておいた。
ちょっと履いてみる。
大人用のサンダルなのでぶかぶかだが、履き心地は向上しただろうか?
ぶかぶか過ぎて良く判らない。まぁいいか。
簡単に出来るものを取りあえず作ってみたが、問題は無いようだ。
次はインパクトのあるものが良いだろう。
俺は馬車の車輪についての改良が必要だと思っているが、こちらは手間がかかるので後回しだ。タイヤの製作は外側のタイヤ部分だけでも段違いにはなるのだろうが、ここはやはり中空のチューブも作って空気入りのタイヤを作りたい。時間を掛ければ作れないこともないが、バルブが作れない。あ、風魔法で気体を直接チューブの中に発生させれば良いのか。バルブ、いらなかったわ。
よし、やってみるか。まずはタイヤチューブだな。直径5cmくらいの長い筒を用意し、そこに固まる前のゴム(茶色い軟質ゴムだ)を少々流し入れる。そこに直径4cm強の棒を突っ込めばチューブ状のゴムが出来る。板状のゴムを巻いて作っても良かったが、接着部分が長くなるのでこの案は却下した。
出来上がったチューブ状のゴムを車輪より少し小さく輪にして接続すれば出来上がりだ。接続部分は板状のゴムを巻いて固まる前のゴムを接着剤代わりにすればいいだろう。接続部分のみちょっと太くなるがまぁ、誤差の範囲だ。どうせタイヤを被せるので問題にはならないだろうしな。
取りあえず車輪にはめ込んで内部に風魔法で空気を発生させてみる。おお、出来た。外部のタイヤ部分をかぶせる前にあまり空気圧を高くしても問題だろうから膨れる程度だけ空気を入れてある。念のため事前にたらいに張った水につけて空気漏れが無いことは確かめた。
ここで、俺は重大なことを見逃していたことに気づき、愕然とする。車輪の外周、この場合はタイヤをはめ込むつもりなので今風にホイールとでも言ったほうが良いだろう。このホイールは今までタイヤの代わりになっていただけあって表面は平らの細長い板を木の車輪の外周に巻いているだけだ。そう、リムがないのである。これではタイヤやその中のチューブの保持が出来ず、動き出しても数メートルも進めばタイヤが外れて意味をなさなくなってしまうことは明らかだ。
リムを作るためには車輪外周に巻いている金属製の板の車輪外周部と内周部を起き上がらせなければならない。今の俺にそこまで魔法では出来ない。金属を作り出したり、既にある金属を整形するのはまだ出来ないので、ここは諦めるしかないのか……。
あせって早急にタイヤを作らないといけない訳ではないので、ホイールのリムについては後回しだな。同時にタイヤも後回しになってしまうが、そこは仕方ない。すぐに金になるもの、つまりある程度売りやすいものを先に作った方が良いだろうな。
となると、硬質ゴムやエボナイトを使った防具かなぁ? まぁ素材なんだから、防具の形に整形しなくても良いだろう。3~40cm角の板状のゴムを適当に何枚か用意しておけばいいか。本当はそのうちの数枚程度には針金で作った網を中に入れたかったのだが、針金の用意が出来ずに諦めた。流石に鎖帷子をゴム漬けにしたら怒られるだろうし。
あとは各種大きさで作ったパチンコと、適当な長さのゴム紐も用意する。他には、以前からゴムの扱いの練習のために作っていたゴム製の薄い膜も用意しておくか。この膜は頑張ってはいるが、まだ厚さはようやく0.5mmと行った所だ。前世で海外出張に行ったときに興味本位でお土産用に買った衛生用ゴム製品は国産品より分厚くてあまりいい感じではなかったが、勿論使えない訳ではなかった。それでも厚さは0.1mm程度だろう。
今の生ゴムだと強度を保持したままそこまで薄くするのは難しいので衛生用ゴム製品を作れるのはもっとずっと先だろうな。きっと都市部では病気の問題などもあるだろうし、出来上がれば確実に需要があるというのに……。今回は膜だけ用意すれば良いだろう。
あとはエボナイトで作った小物類と手甲のような小手防具のようなものも用意しておこう。
まぁ、焦っている訳ではないので、タイヤのリムや防具の中の針金か金網なんかは相談すれば何とかなるような気がする。ヘガードもゴムの生産や性質について多少の知識は得ているので、型を作ったり追加で多少の材料を購入したりなどが必要になることは理解できているはずだ。
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数ヵ月が経ち、幾つかの試作品が出来た。無魔法のレベルが上昇し、整形や加工が出来るようになった事がものすごく寄与した。地魔法と風魔法で造形した型を整形で更に整えることで、細かなゴム型も作れるようになった。型は魔法で作ってもゴムを流し込む作業には魔法は要らないので、実質的には誰にでもゴム製品が作れる。
タイヤもリムから作ってやろうとしてみたが、地魔法で生成できるのは土で金属ではない。仕方ないのでホイールリムはヘガードに頼んで作って貰おうとしたが、金属製品を一から作るのは費用もさることながら、図面も必要になる。また、鍛冶屋はこの近辺ではドーリットの街にしかないので作成に失敗したら修正するだけでも一苦労だ。
俺の乏しい知識ではドワーフは鍛冶が得意な種族だった。バークッド村にはドワーフがいるじゃないか。従士の一家族がドワーフだ。期待を込めてドワーフの従士のフリントゲールに頼んでみたが「ドワーフ全てが鍛冶屋なら、ドワーフはどうやって作物を作り、酒を醸造したらいい?」と言われてしまった。
そりゃそうだ。しかも鍛冶をしている所なんか見たことないし、鍛冶の道具も見たことがない。これは金属も加工できるよう魔法の修行に更に熱を上げるか……。いや、そりゃ無理だ。今回無魔法のレベルが上がったのも予想はしていたが、同じペースで修行を続けても、次にレベルが上がるのは、今後のMPの上昇分を修行回数の増加の計算に入れても4~5年くらいかかるだろう。
空気入りのタイヤは当面おあずけにするしかない。代替品となるタイヤも内側が生ゴム、その外に軟質ゴム、その外に硬質ゴムのバウムクーヘンのようなタイヤを作ってみた。それなりに改善されたような気もするが……。売れるかと言われるとなんとも言えない。
パチンコは改良を重ねて弾帯を付け、パチンコ本体の材質もエボナイトと硬質ゴムで作った。ハンドル部も改良し、握りやすくしてみた。既におもちゃの域は超えたろう。スリングショットと呼んで差し支えないだろう。
適当な木を狙って威力を試してみると、距離や対象の木の種類にもよるが、小石がめり込んだりするのが確認できた。硬質ゴムで作った防具の素材用の板は表面にちょびっと傷がついたかな? という程度なのが確認できたので、スリングショットの威力と共に、ゴム製防具の防御力の証明も出来るだろう。
また、軟性ゴムを使って直径1~2cm程度のホースも作ってみた。バークッド村での需要はあまりないだろうが、都市部ではサイホンとして何かに使えるかもしれないと思ったからだ。あとは同じく軟性ゴムで座布団を作ってみた。座布団のように整形して中に多少空気を入れてみる。ゴムが肉厚なので空気が漏れることはないだろう。適当な布でも被せておけば普段使いから、馬車の御者、積荷の保護など用途は広いだろうと思った。
リムの問題で未だに空気入りのタイヤが作れないので、硬質ゴムのタイヤ部分の改良や軟質ゴムの空気チューブの改良をしつつ、考え付くものを手当たり次第に作っていった。