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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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幕間 第二十六話 光瀬健二(事故当時29)の場合(後編)

 王都ランドグリーズへ向かう馬車の中、ヘクサーは最悪に近い環境から救い出して貰った礼を述べた。次いで、生まれ変わってからずっとゾークイス村に居り、一歩も出たことがない事を話すと、彼らは別段ドラマチックな何かがある訳でもないヘクサーの身の上に興味をなくしたようで、すぐに固有技能を聞いてきた。どうもこちらが本命のようだ。

『そう言えばバーンズ、あんたの固有技能は何だ?』

 一番偉そうにしている、第一王子のベルグリッドが尋ねてきた。それを聞いたヘクサーはほんの一瞬だけきょとんとしたがすぐに思い当たった。先ほどステータスを見た時には彼らの固有技能は見えなかった。と言う事は家族や村のみんなだけでなく、生まれ変わった日本人たる彼らにも自分の固有技能は見えなかったのだろう。

 ヘクサーは素直に答えるのに少々抵抗を感じた。彼らは貴族だ。しかもこの国の頂点に君臨する公爵の息子が二人。しかも二人共長男だとステータスを確認したばかりだ。おまけに長子だとも言うではないか。更に宮廷魔術師の男爵の長子で長女。もう一人は平民だが、それなりに付き合いは長いようで、引け目を感じさせることもなく、ごく普通に喋っていることが感じられた。

 雰囲気に飲まれてはいけない。ここは自分も自信ありげに話をしなくては。そうでないと舐められ、救い出された事を一生恩に着せられる。すでにこの四人と自分とでは力関係はマイナスからのスタートなのだ。奴隷寸前(ステータスこそ変わっては居ないが既に奴隷になっていると言っても過言ではない)の自分が何を言ったところで、これ以上彼らとの力関係が開くとも思えないが、精神的に卑屈になるのだけは避けたかった。

 とにかく時間を稼ごう。少しでも考える時間が欲しい。

『あの、固有技能はともかく、貴方がたはどう言ったご関係ですか?』

 なんの気なしを装って、ごく自然に聞こえるように気を使いながらヘクサーは言った。自分の固有技能は日本人と直接的な争いが起きた時に有効になると思われる。朧気に覚えている神様の話だと生まれ変わった日本人はそれぞれ別々の固有技能を持っているらしい。全員とは行かないかも知れないが、可能な限り多くの固有技能の情報を引き出してから答えた方が良い。

 勿論、この国の王族や最高位の貴族であろう彼らに対して敵対するつもりはない。売れるカードは可能な限り高く売らねばならないだけの話だ。そのためには数種類でもいいから他の人の持つ固有技能の概要だけでも先に掴んでおきたかった。

『ん、そう言えばステータスしか確認してなかったな。最初に出会ったのは俺とアレクだ。六歳くらいの頃だな。今から六年前か。くっそ生意気そうな日本人っぽい顔だからそりゃあ吃驚したもんだ』

 センレイド・ストールズと名乗った公爵の長男は楽しそうに言った。

『何言ってやがる、箱入りで育ってただけあってその時までステータスの見方すら知らなかった癖に……』

 それに対してアレキサンダー・ベルグリッド王子も記憶に面白い部分でもあったのか、破顔しながら答えた。

『その後、去年の頭位だっけ? ああ、春か。園遊会の時にミュールと出会った』

 ストールズはベルグリッドが言った事について完全無視を決め込んだ。

『ああ、あの時は驚いたな。木の上で変な布を振っている阿呆がいるってこいつに言ったら、しばらく眺めて『おい、ありゃ日の丸じゃないか?』って言うんだからな。紫色の日の丸なんか初めて見た』

 ベルグリッドも自分の言った軽口にこだわりを見せずに笑いながらストールズの話に乗った。

『ちっ、仕方ないだろう? ワインしかなかったんだ。紫っぽくもなるさ。他に良い方法があるんなら教えてくれ』

 こちらはあまり面白くなさそうな顔でミューネイル・サグアルと名乗った平民の男が言った。彼の父はアレキサンダー・ベルグリッドの祖父、つまり、現在の国王であるアゲノル・ベルグリッド陛下に仕える従士であるらしい。同じ平民とは言え、ヘクサーとは天地の差だ。

『その後、夏くらいかな? ひょんな事から宮廷魔術師のゲグラン男爵の娘さんが日本人である可能性を知った。会ってみて驚いたよ。日本人で、尚且つ既に魔法も使えるんだからな』

『まだ無魔法のレベルは四だけどね。バーンズさん、貴方も興味があれば教えてあげられるわ』

 微笑みを浮かべつつレーンティア・ゲグランと名乗った男爵の長女が言った。そうか、一番浅い付き合いでも既に一年間は付き合っていたと言う訳か。そう簡単に彼らの間に入り込めるとは思わない方が良さそうだ。逆にある程度距離を置いてくれたほうが兄を探すのに都合もいい。

『おう、そうだ。バーンズさん、あんた、レーンに魔法を教わるのも良いかもな。アレックスとセルは立場もあるし、色々やらなきゃならんことも多いからあんまり魔法の修行の時間も取れない。俺も、そうしょっちゅう王都に行きっ放しって訳にもいかん。これでも実家でやらなきゃならない事もあるしな』

『ん……確かにそうだな。俺もセルも碌に魔法の修行は出来てないしなぁ。そもそも素養があるのかどうかすら疑わしい。ミュールだって無魔法の他は元素魔法二種類だけだ。バーンズはお兄さんを探さなきゃならないんだろう? だったら魔法を覚えておいたほうが何かと役に立つかも知れないな。冒険者は魔物と直接戦うこともあるらしいしな』

 魔法か……ゾークイス村でも領主であるガロリアス士爵とその息子と娘、平民の従士のうち数人は使えたか。農奴でも使える人は全く居ない訳じゃなかった。自分に素養、と言うか、魔法の才能があるかどうかは解らないが、使えるのであればそれなりに有効な手札にはなりそうである。そう思ったヘクサーは魔法が得意だというレーンティア・ゲグランに頭を下げた。

『ゲグランさん。私に魔法を教えて下さい。必ず使えるようになります、とお約束できるたぐいの物では無い事は判っていますが、一生懸命に学ぶつもりです』

『ええ、勿論良いわ。ああ、そうそう、貴方の固有技能についてだけど、何でしたっけ? 私のは魔法に特化した固有技能で【魔法習得マジック・アクイジーション】と言うの。この固有技能にレベルはないけど、何故か先月レベルのところが(MAX)になったのよね。……この技能は魔術のコツを掴み易いらしいけど、それでも難しいわね。それより先月レベルが(MAX)になってから魔力の回復量が凄いのよ』

『ああ、そう言えばそんな事を言ってたな。十倍くらいの早さで回復するとか……俺の固有技能は【超回復スーパー・リカバリー】と言うんだ。今はレベルが六になってる。怪我してもかなりの早さで治る。治癒魔術いらずだ』

 そう言ってストールズとゲグランはヘクサーを見た。ストールズは自分の固有技能にどこか誇りに思う事でもあるようだ。短い時間ではあるがヘクサーの頭の中ではある程度考えも纏まった。得られた材料は不十分だが、この材料から判断しても固有技能と言うのはある意味で生命線のような物かも知れない。ここはハッタリでも何でも使って乗り切るべきだろう。

『なるほど……凄いですね。サグアルさんは何ですか?』

『ん? 俺はこの中では一番しょぼいな。【耐性((パラライジズ)麻痺)(・トレランス)】って奴だ。あと、魔法とは異なるが『偽装』の方は俺の一族に代々伝わる特殊技能……っつーか特殊能力だな』

 サグアルは少し恥ずかしそうに言った。

(麻痺しない事は大したものだし凄いとは思うが、確かにこの二人に比べたらしょぼそうな固有技能だ)

 固有技能はやはり生命線や切り札のようなものだろう。自信満々に言った方がいいと思った。

『なるほど、皆さん大したものですね。私の固有技能は争いに向いたものです。多分、しっかりと鍛えれば私は力による争いではかなり有利に立ち回れるでしょう。剣道が得意だったんです。剣ならちょっとしたものですよ』

 剣道自体は兄を見習って中学・高校・大学とやっていたのでそれなりに自信はある。全国大会などとは縁はなかったがそれでも四段の段位を持っているし、長物を使えば一対一ならそうそう遅れは取るまい。農作業によって体は鍛えられているから、しっかりとした食事を摂って休養すれば同世代なら圧倒できるだろう。

 蝗害の後とはいえ、全く戦闘訓練をしなかった訳ではない。最初からブレない素振りは出来たし、訓練をしているガロリアス士爵や従士たちの動きを見て判断したことだ。そもそも剣道とは全く異なる体系の剣術だろうし、両刃の剣の動きなので比べるべくもないが、重い鎧を着こみ、盾を持って片手による突きを主体としたオースの剣術は剣道と比較して鈍重に思えた。

『私の固有技能は【技能無効化スキル・インヴァリデーション】というものです。今まで一度も使ったことはありません。昔、夢に出てきた神様によると誰か他の生まれ変わった日本人が技能を使っている傍でないと使えないとのことですが、全ての生まれ変わった人の固有技能を無効に出来るそうです』

 ヘクサーはこうは言ったものの、神のあの言い方だと無効化出来るのは固有技能に限らないとは思っている。多分、魔法の技能や、亜人が生まれながらに持つ技能、それにサグアルの『偽装』の技能も無効化すると思う。

『何!?』

 ベルグリッド王子が目を剥いた。ヘクサーは、そう言えば王子の固有技能をまだ聞いていなかったと思った。

『いや、ちょっと待て……使ったことがない?……じゃあレーンと違って本当にレベルはゼロって状態か?……バーンズさん、あんた神に会ったと言ったな? どういう事だ? 嘘を吐いているのか?』

 物凄く不審そうにストールズは言い、次いでヘクサーに詰め寄った。ヘクサーとしては何を言われているのかさっぱり解らなかった。

 嘘を吐いていると言われれば一部だけ嘘を吐いているが、それとて固有技能の効果を限定的なものに誤魔化したくらい。だが、こんなことはこの時点では分かりっこない。ひょっとしてこの二人のどちらかが何か魔法でも使ったのだろうか? いや、魔法の技能についてはこの二人は持っていなかった。だとするとサグアルかゲグランが秘密裏に何か魔法を使い、それを気が付かないうちに阻害してしまった上、この二人に何らかの方法で伝えられたのだろうか?

 いきなり心当たりの無い部分で詰め寄られたヘクサーは目を白黒させ、なんとか言葉をひねり出すことに成功する。

『う、嘘って……失礼な! 一体何を根拠にそんな事を言うんです?』

 そんなヘクサーとストールズに対してサグアルが腕を組みながら口を開いた。

『まぁ待てよ、セル。嘘かどうかは……そもそも俺達はまだ神の話はしていない。そんな状況でいきなり神に会ったとか言うのは不自然だ。……ステータスオープン……何も技能は持っていないな……おい、バーンズさん。いきなりで面食らっているだろうが、教えてやる。神は技能のレベルが上がらないと会えないんだよ。少なくともこの四人はそう思っている』

『え?』

 ヘクサーがきょとんとした。

『俺が神に会ったのは七歳の頃だ。『偽装』の技能が初めてレベルアップした時だと思う。何しろそれまで固有技能は一回も使った事はなかったからな。それでも神には会えた。だから固有技能のレベルアップじゃなくても神には会えるという事は既に判明している』

 ヘクサーとしては青天の霹靂だ。まさかこんな所で突っ込まれるとは思ってもいなかった。

『俺以外の三人は、全員固有技能のレベルアップと同時に神に会った。俺だけは固有技能じゃない、『偽装』の技能だが、技能がレベルアップした時に会ったのは確かだったと思う。バーンズさん、俺はあんたが嘘を吐いているとは思ってない。だが、全部を喋っていないんじゃないかとは思っている』

『どういうこと?』

 ゲグランが少し不思議そうに尋ねた。

『例えばだ。俺の『偽装』みたいに特別な技能を持っていないか、ってことだよ。それも固有技能みたいにステータスに現れないやつだ。こいつばかりは自己申告以外で調べようがない。それがレベルアップしているのかも知れん。また、もう一つ可能性はある。ステータス以外にレベルの要素があることも考えられる。……おっと、皆、そんな顔をしないでくれ。あくまで想像だ』

『ちょ、ちょっと待って下さい。技能以外でレベルなんてあるんですか?』

 慌てたようにヘクサーが言った。

『いや、想像だと言ったろう? 知らないよ』

 サグアルは組んでいた腕を解いて肩をすくめた。

『待て……ミュールの言った事にも一理あるな……。ステータスオープンで見る事が出来る以外にもレベルというものが有るのかも知れない……。そもそも固有技能は本人にしか見えないし、特殊技能のレベル情報も本人にしか見ることが出来ない……。本人にも見えない情報があっても……』

 左手で顔面を覆い、開いた右手をサグアルに向けて伸ばしながらベルグリッドが途切れがちに言う。

『はぁ? 何だそれ?』

 ストールズがそれを小馬鹿にしたように揶揄した。

 言った本人のサグアルはと言えば、自分で言っておきながら動揺していた。何だ? 何か引っ掛かってる……。技能以外のレベル? レベルアップ……そして思わず何か閃いたように膝を打つ。

『レベル! そうだ、レベルだよ! レベルアップと言ったら、そりゃレベルだろ!? 彼は、バーンズさんはレベルアップしたんだ!』

 急に大声を上げるサグアルに皆が不思議そうな顔をする。だが、一人だけ冷静な声で返答した者がいた。

『そうだ。ミュールの言う通りだ。レベルだろう。バーンズは嘘を吐いていない、という事だ。おそらく、バーンズは自身のレベルが上がったんだ。ゲームでよくあったろう? 経験レベルと言う奴だろうな』

 ベルグリッドもサグアルとほぼ同じくして同様の結論に辿り着いたようだ。

『何を言ってるんだよ? じゃあレベルアップしたら「ちから」とか「すばやさ」とか「うんのよさ」とか上がるのか? アホくせぇ』

 ストールズは吐き捨てるように言ったが、その口調にはどこか期待するような響きもあった。

『うーん、ゲームはやったことがないから私は良く解らないわ……』

 ゲグランは何だか良く解らない、とでも言うように小さな声でボソリと呟いた。

『ふん、まぁいい。バーンズ、お前の【技能無効化スキル・インヴァリデーション】だが、試してみろ。効果が知りたい。暴れられても困るから念のために体は縛るがな。もし、腹が減って我慢出来ないようなら飯も食わせてやるし、眠たくなったら寝ても構わん』

 ベルグリッドがそう言うと、すぐにストールズとサグアルが馬車の椅子の下から縄を取り出し、それでヘクサーの体を縛ろうとした。ゲグランだけは露骨に嫌そうな顔をしている。

『な、何を!?』

『ああ、固有技能を使うのは初めてだったんだよな? じゃあ知らないのも無理はないか……。固有技能を使うには魔力を使うんだ。魔力切れを起こされたら厄介だからな。念の為だ』

 ストールズとサグアルはそう言いながらヘクサーを縄でぐるぐる巻きにして縛り上げた。

『さて……そろそろ良いか。【超回復スーパー・リカバリー】はそうそう試せないし、無効化されたらそれはそれで困る。【|耐性(麻痺)《パラライジズ・トレランス》】でいいか……レーン、ミュールに「麻痺パラライジズ」の魔術でも掛けてくれ。その後、ミュールは固有技能で抵抗だ。バーンズはそれを阻止してみろ』

 ベルグリッドが命じると、ゲグランは「仕方ないわね」と言いながらも早速サグアルに向かって精神集中をする。僅か十秒程度でサグアルの体はおこりにでも掛かったかのように細かく震えだした。麻痺の症状だ。

『三つ数える。バーンズ、カウントダウンでゼロになったらミュールが【|耐性(麻痺)《パラライジズ・トレランス》】の固有技能で麻痺から脱する。それをお前の【技能無効化スキル・インヴァリデーション】の固有技能で無効化してみせろ。技能の使い方は簡単だ。普通は技能を使うことを意識すれば使える筈だ。行くぞ……三、二、一、ゼロ!』

 ヘクサーにはカウントダウンが始まる前、ゲグランが妙な目つきでサグアルを見つめた瞬間、彼女から言いようのない奇妙な感じを受けた。この違和感は発生してから十秒程度、カウントダウンが開始するより早く無くなる。次いでカウントがゼロになった瞬間にも別の妙な感覚を受けた。こちらはサグアルが発生源だと知れる。

(これが生まれ変わった日本人に技能を使っている人がいるという感覚か。俺が固有技能を使う前から判るものなのか……。よし、やってみるか。せいぜい高く売り込まないとな)

 そう思って心の中で【技能無効化スキル・インヴァリデーション】の固有技能を意識する。途端にぱあっと違和感が霧散した。同時に心労でも積み重なったかのように精神的に激しく消耗し、強い精神的な疲労感が押し寄せてくる。なんとなくだが、あと一回は使えるだろうが、二回は厳しいだろうな、という感じがした。

『こ、これが固有技能……か?』

 あまりの出来事に呆然とした声が出た。

 ベルグリッド、ストールズ、ゲグランはそんなヘクサーに構うことなくサグアルの様子を観察していた。サグアルには変わった様子は見られなかった。相変わらず瘧のように体全体が細かく痙攣しているかのようだ。

『ミュール、もういいぞ』

 ベルグリッドがそう声を掛けたがサグアルに変化は見られない。それどころかサグアルの瞳に恐慌のような色さえ浮かんでいた。

『バーンズ! 【技能無効化スキル・インヴァリデーション】を止めろ!』

 そう言われたヘクサーは慌てて頭の中で『停止』とか『終了』とか『中止』とか念じた。その数秒後、サグアルは回復した。

『ぶはっ! あ~、びびった……。固有技能を使えることは使えるが、効果が発揮しない感じだ……。レーンの魔術の効果時間が終わるまで麻痺したままかと思ったぜ……』

 四人がそれぞれの目でヘクサーを見つめていた。



・・・・・・・・・



 王都に着くまでの三週間もの間、ベルグリッドを中心に積極的にヘクサーの固有技能である【技能無効化スキル・インヴァリデーション】の解析が行われた。数回も使えばヘクサーの魔力が切れるため、碌に会話すら行われず、いろいろなシチュエーションを想定して行った。

 結果的に判った内容は、効果時間は技能のレベルあたり十分間程度。但し、ヘクサーの意思により中途でも中断が可能。一度中断したら効果時間中でも再開は出来ない。もう一度【技能無効化スキル・インヴァリデーション】の効果が必要な場合には再度固有技能を使うしかない。固有技能は四人のもの全て無効化が可能。効果範囲は技能のレベルあたりヘクサーの周囲約20mと言う物だった。

 更に、一度ヘクサーが【技能無効化スキル・インヴァリデーション】を使えばヘクサーが中断しない限りは効果時間中の効果範囲内ではいかなる固有技能も使えるものの効果を発揮することはないことも判った。これは持続する固有技能の場合だとよく判った。手の平にナイフで傷をつけたストールズが【技能無効化スキル・インヴァリデーション】の効果範囲内で【超回復スーパー・リカバリー】を使っても効果は発揮しない。

 本来、【超回復スーパー・リカバリー】は傷などの完治までの回復時間を短縮するものだが、使った瞬間に出血などはある程度止まるのだ。しかし、【技能無効化スキル・インヴァリデーション】の効果範囲内ではそうはならなかったのだ。その後、効果範囲の外に出ると改めて【超回復スーパー・リカバリー】を使用しなくても【超回復スーパー・リカバリー】の効果は発揮され、傷の出血はあらかた止まる。

 このおかげでサグアルの【|耐性(麻痺)《パラライジズ・トレランス》】の固有技能についても新たに判明した事もあった。【超回復スーパー・リカバリー】の時と同様に、麻痺の魔術を掛けられ、【技能無効化スキル・インヴァリデーション】の効果範囲内では【|耐性(麻痺)《パラライジズ・トレランス》】を使っても効果を発揮しないが、麻痺したサグアルを効果範囲外に運び出すと麻痺が解けたのだ。つまり、それまで使った一瞬しか効果が無いと思われていた【|耐性(麻痺)《パラライジズ・トレランス》】だが、実は効果時間が有ることが判った。

 また、魔法の技能だが、こちらも阻害することが判明した。【技能無効化スキル・インヴァリデーション】の効果時間中の効果範囲内では魔法も使えなかった。但し、こちらも効果が持続するような魔法は効果範囲外に持ち出したりすると効果を発揮した。

 効果範囲内で石に「ライト」の魔術を掛けても光らないし、効果範囲外に持ち出すと光り始める。そして、ここでまた新たなことも判った。五分間光り続ける「ライト」を効果範囲内で使い、持ち出さないまま一分を過ごし、その後持ち出すと石は約四分間光る。

 つまり、発動が遅れたのではなく、効果範囲内では固有技能だろうが魔法だろうが使えるのだ。効果が発揮されないだけだ。だが、魔法の場合は、効果範囲外で効果を発揮させたら効果は継続した。光っている石を持ったまま効果範囲内に侵入しても光は持続する。「ライト」の効果時間中であれば最初に出た瞬間から光り始め、その後入り直しても光は消えない。が、当然だが魔法の効果時間である五分を経過すれば消える。

 但し、ここで重要な事をヘクサーは黙っていた。【技能無効化スキル・インヴァリデーション】を使う前に、生まれ変わった日本人が魔法の特殊技能や固有技能を使うことを感じられるのだが、感じられるのは固有技能だけだと報告したのだ。使っている技能が固有技能の場合と特殊技能の場合では感じ方が異なるため、ヘクサーにだけ判別可能である事がその理由だ。

 もう一つはベルグリッドから隔意が感じられたことだ。元日本人だとは言え、王族でもあるし偉そうな態度自体は腹も立たない。固有技能も強力な、王族に相応しいものであるとも思えるので、ヘクサー自身ある程度納得すらしたくらいだ。だが、それを一瞬で無に帰せる固有技能のせいか、出会った後、数日もしたらなんとなく隔意を感じるようになった。露骨に避けられたり、貶められたりした訳ではないので気のせいかもしれない。

 また、更にもう一つ、ヘクサーには不自然に感じるところもあった。ヘクサーとしては懐かしい日本の事も話したかったのだが、ストールズやサグアルとそう言った話をし始め、ある程度ノリも良くなってきたところで必ずベルグリッドが話題の転換を図るのだ。特に年齢や職業の情報などに話が及びそうになるとそうなる傾向が強いように感じられた。

 ストールズとサグアルは三十代らしいし、自分も三十目前で死んだ。ゲグランに至っては老人であったそうだ。おそらく、ベルグリッドは若かったのではないだろうか。言っている事自体はそうおかしな内容でも、幼い感じも受けないので高校生くらいか? きっとそれが彼のコンプレックスなのだろう、と思うことにして気がついて以降ヘクサーも触れないようにした。

 王都に到着するまでの間にヘクサーの固有技能のレベルは三になっていた。到着早々、奴隷として買われたヘクサーは神社で平民から奴隷となり、すぐに解放され、自由民となった。王城から徒歩圏内に小さいが家も貰い、馬も一頭下賜された。また、金貨を二十枚、支度金として貰うとそれで仲間を雇うか、奴隷を買えと勧められた。

 ヘクサーとしては奴隷を買うということに抵抗を覚えたのだが、サグアルに「どうせ王子から金を貰えるから金は心配せずに奴隷にしておけ」と言われたため、身の回りの世話や馬の世話をして貰う人が必要だったので奴隷を一人購入した。

 これから数ヶ月、ゲグランに魔法を習い、芽が出るようならそのまま一年くらい修行を積む。芽が出ないようであれば魔法はすっぱり諦めて新たに仲間を募るなり奴隷を買うなりして王直轄領やストールズ公爵領を中心に兄を探す旅に出発するつもりだ。そう話をしたらベルグリッドも喜んで「そうするがいい」と言ってくれた。



・・・・・・・・・



 一年程の後、水を除く元素魔法三種と無魔法を会得したヘクサーは兄を探す旅に出た。旅には冒険者への依頼として護衛を雇うという名目で三人のベテランを雇った。三人共ベルグリッド王子の圧力により誠実で実力を兼ね備えた冒険者が行政府から紹介された。

 更に一年が経過した。ヘクサーは半年に一度くらいの割合で王都に地図を持って戻ったが、その時にゲグランとだけちらっと顔を合わせる程度で、またすぐに旅立っていった。四人の日本人たちは男性三人が白凰騎士団に入団しており、そう簡単に面会時間が取れなかったことも原因である。

 ふらっと帰ってきては地図を置いて立ち去る。ヘクサーは必死に兄を捜索しているため、本当は帰りたくもなかったが、そこは仕方ないと割り切るしかなかった。

 だが、そんな時、ついに兄と対面した。ストールズ公爵領の東の方のリーダスというのんびりした村の領主の三男としてそれなりに安楽に暮らしていた。転生範囲では東と南東との中間のギリギリであった。兄弟は何日も語り合った。

『そうか。成人前だからまだ少し早いとは思っていたが、俺も家を出るべきだな』

 まだ十五歳には半年程足りない。

『兄貴、大丈夫なのか? 焦って無理しなくても良いんだぜ。まだ見つからないと言い続ければ金は引っ張れるんだ』

『ああ、そうだろうな。だが、善は急げだ。仕込みは早い方がいいだろう。若いうちからより多く情報を得ておく必要がある』

『ん、兄貴がそう言うなら……』

 帰り道の有る晩、適当な理由をつけて村内ではなく、それでも安全そうな街道沿いで野営をした彼らは、自ら見張りを買って出て護衛の冒険者三人を殺した。冒険者として一年程を過ごして来たヘクサーは既に殺生に対する感覚が麻痺していたが、それでもこの一年間、苦楽を共にして来た仲間を手に掛けるのは相当な思い切りが必要であった。また、初めての故意による殺人に対して忌避感も湧いていた。
ヘクサーの固有技能の【技能無効化スキル・インヴァリデーション】ですが、この内容だとまだ不十分です。正確には……後々本編の主人公が偉そうに鑑定して説明するんじゃないでしょうか? 出会えるならですが。
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