挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

208/509

幕間 第二十六話 光瀬健二(事故当時29)の場合(前編)

「マジメに働く人たちの心と体、この私達が守ってみせる!」
「のさばる悪は見過ごせないよ!」
「さぁ、覚悟しな! 悪のダークキギョーめ!」

「にゃにおう? 全ての日本人をダークキギョードレーに改造してやる!」
「喰らえぇい! カローシキック!」
「ハイノルマビーム!」

「そんなちゃちな攻撃、ローキホーバリヤーで無効化よ!」
「さぁ、皆行くよ!」
「「UQショーカゴレンキューパンチ!」」
「月曜!」
「火曜!」
「水曜!」
「木曜!」
「金曜!」

「「ぐわぁ~、潰れるぅ~!!」」
「「ふざけんなキューレンキュー……」」

「悪は滅んだ。だが、この壊れた時代、第二第三のダークキギョーの芽は萌芽しようとしている!! 立場の弱い皆のため、救え、戦え、プチローキアフター5!」

「いつでも相談に来てね!」
「匿名でもOKよ!」
「私達は労働者の味方よ!」
「正義の基準局戦士は負けないわ!」
「五人揃って、プチローキアフター5!」

 小さなスマホの画面を覗きこんだ光瀬良一は録画の画面から目を離し、弟の健二を見つめてにこりと笑った。画面にはどこぞの遊園地のヒーローショーを楽しむ健二の娘の由真の姿が映っている。

「で、今晩その工務店との打ち合わせなのか?」

 ああ、と健二は答え、スマートホンを操作して記録してあった画像を呼び出す。

「設計図なんか見せられても前の時と比べてどこがどう変わったのか分からん」

 スマートホンの小さな画面を眺めて良一が困ったような顔をして弟の健二に言う。

「ここと、ここを出窓にした。あと、台所を少し大きくしたんだ」

「ふぅん。……ところで、親父とお袋が由真ちゃんに会いたがってる。今度連れて遊びに来いよ。家の善臣も大きくなったからな。従姉妹と遊びたくて仕方ないみたいだ」

「うーん、三月まで動きづらいなぁ。来週末は保育園の面接だし」

「無理にとは言わんが、お前もしっかりと落ち着いたんだ。たまには顔を出して親父とお袋を安心させてやってくれ。美帆子もお前らが来ると喜ぶからな」

「わかった、今日帰ったら再来週の週末にでも行くように話すよ。お義姉さんにも宜しく言っといて」

「おう……おわぁっ!!」

「なにぐほえっ!!」



・・・・・・・・・



 光瀬健二は意識が明瞭になると同時に声を上げて泣きだした。大きな事故にもかかわらず助かったらしい安堵と、目がよく見えないためから来る精神的なショックと、己の意識の中ではつい先程まで隣に座っていた頼りになる五歳上の兄の良一の安否を気遣って、一気に感情が爆発したことを自覚した。ついでに兄とは反対側の隣りに座ってうたた寝をしていた会社の先輩の二見の事も少しだけ心に引っ掛かっていた。

 こうして7428年2月14日、光瀬健二はオースに産声を上げた。ヘクサー・バーンズと言う名の普人族ヒュームとしてはかなり大柄で元気の良い赤ん坊だった。



・・・・・・・・・



 幸いにも健二は三歳を迎えるまで、大事に育てられた。王都ランドグリーズから北北東に二百㎞以上も離れたビッデン子爵領の地理的には中心部だが、政治的には田舎、ゾークイス村の平民の子として死亡率の高い乳児期を大過なく乗り切ることが出来たのだ。当初の一年程は元の世界である日本に帰る方法を探そうと、とにかく言葉を覚えるのに腐心したこともあまり怪しまれずに育てられた一因だろう。用心して今に至るまで一人で言葉の練習をする時以外、大人びた口調で喋ることも控えてきた。

 実は周りに誰もいないところで練習していたのには訳があった。当初の一年程で普通にしゃべろうと思えば喋れたのだが、ふとしたことで気を抜いたりすると所謂赤ちゃん言葉になってしまうのだ。今でも気を抜くと自分では丁寧に喋っているつもりでも舌っ足らずで、言葉遣いも子供っぽいものになってしまう。単にそれが恥ずかしくて喋りたくなかったというのが理由の大部分を占めていたというのが大きい。

 だが、ヘクサーが三歳になって半年、この地を大きな災いが襲った。蝗害ローカストだ。西の方で発生したらしい飛蝗バッタの群れはビッデン子爵領を完膚なきまでに食い尽くした。聞いた話だと七~九十年に一度くらいの割合でこの地方で大発生することが記録されているらしい。しかし、今回は前回の蝗害から僅か三十八年。短すぎる発生のスパンに、殆ど対策らしい対策を取れていなかったビッデン子爵領と隣のボーケン、ジノブーグ両子爵領は大損害を被った。

 中でも真ん中に位置していたビッデン子爵領の損害は凄まじく、収穫前の小麦は完全に食い尽くされ、家の屋根や衣服など植物由来の物品まで軒並み被害を受けていた。林も樹の幹を残して丸裸になり、雑草一本残っていない、惨憺たる有り様であった。残った民が食えるものと言ったら地を覆い尽くすトノサマバッタの死骸だけであり、それも数日から一週間もすると水分は蒸発し、食えたものではなくなった。

 流石のビッデン子爵も税の減免を公布したものの、それでも半分になる訳ではない。ゾークイスの領主であったガロリアス士爵は厳しく税を取り立てた。バーンズ家は所有していた奴隷を売り、なんとか税を収めたものの、残った奴隷は老人や年端もゆかぬ子供ばかり。早々に来年以降の税の心配をしなければいけない有り様にまで凋落した。それから三年も経たぬうちにまともに畑を耕す人材にまで苦労するようになった。

 ヘクサーも五歳になる前にして畑仕事に駆り出され、雑草むしりや水撒きなど、子供には辛い重労働を課された。持ち前の要領の良さで可能な限り手を抜いて体を労らなかったら過労死すると思ったくらいだった。

 だが、五歳の終わり、六歳を目前にしたある晩、眠りに就いたヘクサーは神と出会う。僅か数分の会見ではあったが新たに幾つかの知識を得たこと、幾つか疑問に思っていた点が解決したこと、そして諦めがついたことが彼の得た全てであった。

 こうしてはいられない。この世界オースの何処かに兄が居る筈だ。あの、頭の良い頼りになる兄さえ居れば力を併せてなんとかなるのではないか? 兄を探すべきだ。だが、金も無く、生活力もない子供が家を飛び出しても早晩野垂れ死には目に見えている。今は飛び出したい欲求を堪え、地道に過ごす時だろう。

 しかし、ただぼーっと過ごしていても平民の第二子以下は飼い殺しだ。いずれは奴隷階級となり、長子に扱き使われ、場合によっては今回のように何処かへ売られてしまう。その際に夫婦が引き裂かれる事すらある。ここ二~三年で嫌というほど見て来た光景がヘクサーの脳内で再生された。

 それを避けるにはこのデーバス王国では選択肢はあまり多くない。知る限り最高なのは成人頃までなんとかやり過ごし、騎士団に志願し、採用されること。金も貯まるし、身分も高くなる。騎士団を辞めても引く手は数多で従士の口に困ることもない。冒険者になっても元騎士であれば行く先々で仕事に困ることも無い。余裕を持って兄を捜索する事も出来るだろう。

 ……全く不可能ではないだろうが、この将来みちは難しいと思えた。生まれ変わった自分は肉体的なアドバンテージがあるらしいが、本当かどうかなど判ったものでは無い。少なくとも五歳の現在で、他の子と大差がないだろうことは判っている。

 自分が持っている固有技能【技能無効化】は神様の話によると同じように生まれ変わった者の持つ技能を自分を中心とする一定範囲内において無効化出来る能力を持つらしいが、生まれ変わったのでない生粋のオースの亜人や魔物が持つ技能には何の影響も無いとの事なのでこれはあまり有効な技能とは言い難いだろう。

 元々固有技能については興味を持っていたが、使い方は判らなかった。神に聞いた話だと誰か別の日本人が技能を使っている傍でないと技能を使うことは出来ないらしいから、本当に関係ない。

 それでも何とか有効に活用出来ないものか散々に考えたが、日本人と争う時以外に役に立つ事は無いと断じるに至るまで然程の時間は掛からなかった。つまり、騎士団への採用には何の助けにもならない。まして、バーンズ家は現在困窮の只中にあり、満足な戦闘訓練も受けられるとも思えない。これではビッデン子爵領の騎士団を志望し、採用の試験を受けても弾かれるのは火を見るより明らかだ。そもそも採用試験すら受験する資格など得られないであろう。

 次点としては同じ騎士団を目指すのではあるが、騎士を志向するのではなく、徴兵によって歩兵として騎士団に入団し、何らかの手柄を上げて出世することだ。これも聞いた話になるが、徴用期間の二年を経過しても優秀な兵隊は班長役だかなんだかで軍隊に残れることもあるらしい。頑張ればどこかの士爵家などで従士の道も開ける可能性がある。

 そうでなくともこのビッデン子爵領の軍隊では最高位の平民の兵隊は二年間の徴用期間が終われば五十万Z(銀貨五十枚)という、ある程度纏まった金も貰えるし、徴用期間中は週に銀貨一枚半(年収九十万Zだ)の給料も貰える。これを貯めて何か商売をするという手もある。そこである程度の財産を築いてから兄を探しに旅立ってもいい。

 徴用期間中に戦死することは想定しなかった。北のロンベルト王国とは毎年ダート平原を巡って紛争が繰り広げられているらしいが、一年間の戦死者数は多い年でもせいぜい二百人。百人に満たない年もあるらしいから要領の良い自分であればそうそう死ぬ事もないだろうと思った。そもそもビッデン子爵の騎士団が自分が徴用されている期間中参戦しない事の方が可能性としては高い。蝗害によって大きな被害を受けた後でもあるし、あと数十年は金の掛かる戦争なんかに行っている場合じゃないだろう。これだ、とヘクサーは思った。

 徴用は十三歳から二十五歳までの平民以下の義務だ。男性も女性も等しく徴用はされるが、力の関係で女性の方が高年齢の場合が多い。幸い自分は男なので運が良ければ十三で軍隊に入れる。裕福な平民などでは徴用される代わりに金貨四枚を支払うことで徴用を逃れることもあると言うが、今のバーンズ家にそんな余裕など有りはしない。

 他には、奇跡のような確率の物しか思い浮かばなかった。例えば、街の職人が弟子を取るなど確率は低いが全く希望がゼロと言う訳でもない。だが、自分には前世から手に職がある訳でもない。職人に目を掛けられて弟子として貰い受けたいなどと言われる可能性は、明日自分が隕石にあたって死ぬより低いだろう。

 職人ではなく、商人であればなんとかなるだろうが、商人が弟子を取るなど聞いたこともないし、その意味すらわからない。常識で考えれば自分の子に継がす以外ある訳がない。大きな商会に就職するにしてもこんな田舎の食い詰めた平民のガキを丁稚に欲しがる酔狂な商人が居るとも思えなかった。自分をアピールする機会さえあれば大抵の商人よりも優秀に商売を大きくさせられるとは思うが、接点がないのだから当然の話である。

 よしんば、首尾よく商家に潜り込めたとして、進んだ商売の方法など、都合良く理解される筈もない。何を提案しても無駄であろうと思われた。

 つまり、兵隊をやって金を貯め、自分で何か商売をする方が大きく儲けられるし、成功の可能性も高いと考えたのだ。当時のヘクサーは、デーバス王国でも近隣のロンベルト王国を見習って商会設立には免状は必要になるとか、それに多大な資金が掛かることも知らなかったので無理はない。

 こうしてヘクサーの幼少期は過ぎていった。



・・・・・・・・・



 蝗害から九年後、ヘクサーが十二歳の夏を迎える頃、予想だにしなかった方法でヘクサーに大きな転機が訪れた。バーンズ家では未だ蝗害の被害を引きずっており(ゾークイス村全体どころかビッデン子爵領自体がそうであったので別段珍しくもない、よくある話の一つに過ぎないのだが、ヘクサーとしては未だ立ち直れないバーンズ家には愛想が尽きそうになっていた)、毎年の納税が近づく夏はいつもピリピリとした雰囲気になる。

 そんなある日のこと、ゾークイス村を王族だか大貴族だかの一行が通り抜けるという。ヘクサーが知る貴族は村の領主であるガロリアス士爵とその家族だけだ。彼らは確かに平民や農奴と比較してマシな暮らしだが、五十歩百歩であり、前世の社会の底辺の低所得者の方がまだ文化的で豊かな生活をしていると思っていた。どら、オースの最高位たる王族だの大貴族だのがどんなもんか一目拝んでやろう。こう思って前触れで予告された日に村を通り抜ける街道の側で草むしりをしていた。

 お昼近くなり、太陽が中天に差し掛かると思われる頃、数人の騎士を先頭に軍隊がやってきた。軍隊の列はかなり長いようで、お尻は見えないくらい遠いようだ。極稀にゾークイス村にも軍隊が通り掛かる事はあるから軍隊を見たのはこれが初めてではない。

 しかし、今回の軍隊はいままでゾークイス村を通り掛かった軍隊とは様子が違う。装備品からして高級そうな物が多いことは一目見て解るし、何より騎乗した騎士の割合も高そうだ。普通は歩兵の二十分の一もいるかどうか、という数だが、今回の軍隊は五分の一以上は騎士たる騎兵のようだ。

 ははぁん、これはかの大貴族の護衛の軍だろう。草むしりの手を休め、眺めていた。程なくして八頭立ての大型の馬車が二台、軍隊に警護されるように近づいてくる。流石に立って眺めているのは憚られる。先日村に来た前触れの騎士は馬車が通るときには頭を下げ、直接見てはならないと言っていたらしいから、頭を下げ、上目遣いで馬車を盗み見た。

 流石に豪華な馬車である。優に大人が十人は乗れそうな大きさだし、装飾も立派なものだ。正にヘクサーがイメージする「貴族」という感じだ。ふと気づくとこの護衛の軍隊の先頭は先の空き地で停止しているようだ。空き地の脇には川も流れているから時間も時間であることだし、移動を中断して昼食でも摂るのだろうか。

 全長1㎞にもなりそうな程長い護衛の軍は総勢五百人もいるだろうか。騎馬と騎馬の間隔は五m以上空いているようだし、二列縦隊の槍で武装した歩兵たちの間隔も数mは空いている。これが一斉に昼休みを取り、食事をして馬に水を飲ませるのであれば二~三時間は掛かるだろう。速度は遅い。今は村の中で歩きやすいから大人が歩く程度の速度だが、村を出ればもう少し遅くなるだろう。

 きっと午前に三時間、午後に三時間。時速三㎞と考えても一日に二十㎞も移動できない。結局は未開の大昔の軍隊の域を出ない。見るものは見たし、と思ってヘクサーは農作業に戻った。来年からは徴用されるかも知れないし、そうでなくとも働きが良くないのであれば奴隷として売られてしまうかも知れない。それだけは避けねばならなかった。



・・・・・・・・・



 一ヶ月後、また軍隊がゾークイス村を通るという。夏が過ぎ、秋が見える頃の事だ。すでに一度見ているし、今度はヘクサーは興味を示さなかった。関わりを持ったのは本当に偶然であり、正に天の配剤と言えた。前回のように村の空き地を中心に休息を摂っている一行に、騒ぎが発生した。村の貴重なタンパク源である鶏が何羽か盗まれ、追い回されていた。チラリと見えた羽はカラスのように黒く、特徴的な一羽が目に入った。

 あれは家で飼っている雌鶏だ。二~三日に一個、貴重な卵を産む。何とかして穏便に取り返す必要がある。

「はっはっはっ、セルは下手くそだな」

「っだと! じゃあお前がやってみろ、難しいぞ」

「おう、そなたら、逃すなよ……ちっ、外したか」

「アレックス殿下。弓はそう持つのではございません。右手はもっと真っ直ぐに引くのです」

「ん? こうか?」

「そうです。左手で弓を押し出すように……ああ、握りが変ですな」

「おう、ミュール、レーンとくっちゃべってないでお前もやってみろ」

「……いや、流石にそのくらい出来るし」

「もう、止めなさい。その鶏だって村の人のでしょう? そういうのは感心しないわ」

「あ……うん。そうか」

 どうやら貴族の子弟が兵隊たちに命じて盾を並べて広場を作らせ、そこでバーンズ家を始めとする各家庭で放し飼いにしていた鶏を戯れに弓で撃とうと遊んでいたらしい。弓の得意な騎士だか兵隊だかに教わりながらだから遊び半分なのは確かだろう。女の子が注意したため、夢中になって弓で矢を放っていた二人は素直に言うことを聞き、止めてくれたようだ。

(助かった。死んではいないみたいだし、怪我もしていないみたいだ。良かった……)

 ヘクサーは、他家の鶏はともかく、家の鶏だけでも無事なようであることを確認し、ホッと胸を撫で下ろした。

 兵隊の一人が女の子に命じられて鶏を捕まえてこちらに歩いてきた。二羽を簡単に捕まえ、二羽を同時に持つ持ち方が鶏を痛めないように堂に入っている。きっと農村出身なのだろう。

「小僧、ほら返すぞ。済まなかったな。まぁ勘弁してくれや。俺達じゃとても逆らえないから……」

 兵隊はそう言って謝ると黒い雌鶏を返してくれた。優しそうな兵隊に感謝し、鶏を受け取ったヘクサーはどこにも傷がないことを再度確認し、頭を下げてその場を離れようとした。

「ん? 待て!」

 踵を返そうとしたところに呼び止める声がかかった。ヘクサーはビクリとして硬直し、ぎこちなく振り返る。直接見ないように顔は下げているが、足の震えは隠せなかった。まさか、今度は俺を目標にでもするのだろうか?

「顔を上げろ」

 さっき、最初に笑い声を上げた奴の声だ。

「聞こえないのか? 顔を上げろ」

 恐る恐る顔を上げる。が、目は逸らしたままだ。直接見て、それを理由にどんなことをされるか分かったものではない。

 しかし、ヘクサーの顔を見た貴族の子弟四人に衝撃が走った。

「やっぱな……」
「セル、よく気がついたな……」
「居るもんだな……」
「ジョッシュ、鶏をその人の家に届けてあげて。……それから、貴方。こっちに来てもっと顔をよく見せて」

 何が起こったのか皆目見当もつかないまま、ヘクサーは立っていたが、先ほどの兵隊に鶏を持って行かれ、別の兵隊に背中を押されてようやく頭が回り始めた。

 彼らの傍まで行くと、有無をいわさず馬車の中に引きこまれた。

『顔を上げてくれ。目を逸らす必要は無い』
『日本語は判るか?』
『安心してくれ、俺達は怪しい者じゃ無い』
『日本人よね……ステータスオープン……バーンズさん。安心して。私達は日本人です』

 馬車の扉を閉め、五人だけの空間でほぼ同時に語りかけられたヘクサーは十二年ぶりに聞いた日本語に驚いていた。

『え? あ、そ、そんなに一度に言わないで……』

『『やっぱり!!』』

『おう、日本人か!』
『俺の目に狂いは無かった!』
『す、凄ぇ。本当に日本人か!』
『ああ、あらあら……良かったわ』

 四者四様の驚きを口にしながら騒ぎ立てる彼らに、ヘクサーは呆然とした目を向けるので精一杯だった。勿論ヘクサーも彼らに負けず劣らず驚いていた。

 ステータスを見られ、見せられ、何がなんだか解らなかった。急展開に付いて行けず、辿々しく事情を話すヘクサーに苛立った、一番偉そうにしているアレックスという王族(偉そうなのは当たり前だった)が言う。

『とにかく、今の家族に未練は無いんだな。あんたのお兄さんもどこかに居る。それを探したいと言うことでいいな?』

『ああ、その通りです』

『よし、ちょっと待ってろ』

 そう言ってアレックスは馬車を飛び出るとなにやら兵隊に話し始めた。

『バーンズさん、安心していいよ。アレクは悪いようにはしない』
『周りくどいな。一言命じりゃいいんじゃねぇの?』
『そうは行かないでしょ。バーンズさんはこの領地の平民だし、領主に黙って好き勝手はできないでしょう?』
『だからその領主に言えば良いじゃないか』
『ミュール。そう簡単じゃない。ここは王直轄領じゃない。もう少し勉強した方がいいぞ』
『へいへい。どうせ俺だけ平民の田舎者ですよ……』
『もう、いちいちそう卑屈なこと言わないで』

 すぐにアレックスが馬車に戻り、親指と人差し指でOKマークを作り、にんまりと微笑んだ。

『バーンズ。平民ではなくなるが、協力はしてやれる。いずれ適当な理由をつけて平民にも貴族にも出来るからその辺は安心してくれ』

 からくりはすぐに判明した。簡単な事だ。ゾークイス村の領主であるガロリアス士爵に話を通し、同時にヘクサーの両親にも大金をちらつかせる。傍付きの奴隷としてヘクサーを買い取り、ランドグリーズに戻り次第、奴隷から解放して自由民とし、同時にアレックスが召し抱える形を取るそうだ。

 自由民だと行動の制限はあるが、王領は広大だから成人くらいまでかかっても全部はとても回れない。その頃には今よりも権力を大きく出来る見込みだから適当に手柄を立てさせ、その報奨として平民にする。流石に騎士団に自由民を押し込むことは難しい。軍隊でもいいが、そうなるとヘクサーの兄を探すことが難しくなる。

 金はやるから適当に仲間を雇い、冒険者としてまずは王領を巡り、ヘクサーの兄を探せと言われた。彼らの推測では王領にもまだ一人二人は生まれ変わりがいても不思議ではないらしい。ストールズ公爵の息子であるというセルも領地通行の許可くらいは出せるというから、その面積も合わせれば合計で三~四人くらいは考えられるとの事だった。

 ヘクサーには願ってもない幸運だ。冒険者というのは面食らったが、それも止むを得ないだろう。正確な地図はないから実際に歩き回ってもう少し精度の高い地図を作ることも重要なことであることも理解できる。測量なんか出来ないから正確には程遠いだろうが、今より精度が高ければ良いのだ。恐らく、彼らの言う手柄とは地図の作成をもって充てると言う事だろう。

 何にしてもヘクサーには垂れてきた蜘蛛の糸を掴むのに否やがあろう筈も無かった。

 
急用のため次回は火曜になってしまいます。
ごめんなさい。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ