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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百九話 皮算用

7444年12月29日

 ボイル亭に戻った俺はミヅチの部屋に行くと今日一日のファルエルガーズたちの様子を聞いた。

 彼らもクミールたちの様に昼時に一度外出し、一時間弱で戻って来たらしい。二人共歩く姿勢の違和感は少なくなっていたらしいので、それなりに傷の治療を始められたと見ていいだろう。馬鹿じゃなきゃあと数日は様子を見た上で、可能ならクミールたちにも治癒魔術なりで何らかの援助の手を差し伸べる筈だ。

 それもせずにまた迷宮に行くようであればもう知らん。……放っておいてもいいだろうか。いいのかな? いや、良くはないか……? しかし、そこまで無鉄砲な抜け作だと後々困るような……。

 とにかく今日はもういいや。晩飯の前に熱いシャワーでも浴びようと思ってシャワー室に向かうと丁度トリスが出てくるところだった。するともう一つの使用中のシャワールームはベルが使っているのか。ふと思いついた俺はシャワーを浴びることなくトリスを俺の部屋に招き、新型の鞘のモニターの栄誉をくれてやることにした。まぁ先日、ミヅチで試しているし、兄夫婦も散々試した後だから予想はついているが、俺としては気の毒なトリスの手助けになれば、くらいの軽い気持ちだった。

『アルさん、戻って来てたんですか? この休みは王都の商会の方だと……』

『ああ、そのつもりだったんだが、今回新しい品が手に入ってな。急ぎお前に渡さねば、と思って今夜一晩だけだが急遽戻ったんだ』

『はぁ。で、何ですか?』

 ベッドの脇に置いてあった木箱を開け、一つ袋を取り出すとそれをトリスに渡した。

『アルさん……これは……』

 ゴム袋を触り、中身を確かめたトリスは少し引き気味で、目を丸くしながら遠慮がちに言った。

『ああ、見ての通りのシロモノだ。使ったことはあるか?』

『そんな、ある訳無いですよ』

 慌てたようにブンブンと首を振りながら答える。ふむ、所詮は初心な大学生だったんだし、まぁ使わないか。って、俺も以前の人生から通して初めて使ったばっかりだから人のことは言えないのだが。

『ま、そりゃそうか。だがな、これはお前の大きな味方になる筈だ。そいつは型の問題が解決していないからイボは一体成型じゃない。後から接着しているんだ。だから脱落防止や本体の強度の問題もあるから本体自体少し厚めに作られている』

『そ、そうですか……でも、これを渡すためにわざわざ戻って……?』

 トリスは理解できない、というように訝しげな視線を俺に送ってきた。

『まぁ品質は知っての通り日本の大手の物とは比較にならんから仕方ないんだけどな。だけど……』

『だけど?』

 トリスの目つきはこの人は何を言っているのだろう? 何が言いたいのだろう? という感情を露わにしている。

『もう一度言う。本体自体少し厚めに作られているんだよ!』

 ずびしっ! っとゴム袋を手の平に載せたトリスを指さして指摘した。

『……ハッ! そ、そうか……そういう事ですか! つまり、男性側の感度は多少落ちるということですね!』

 うむ。理解が早くて助かる。
 正直、俺はあまり好みの品ではない。ミヅチも俺もそれなりに求めあっているが、あくまで常識的な範囲で留まっている。だが、トリスよ、お前の女は違うだろう? プライベートな部分に深く踏み込むのはよろしくないと、今まで特に何も言わなかったが、俺は気付いていたのだよ。

 二年ほど前にトリスが俺たちに合流したあと、最初の頃こそ嬉しそうに致していたお前たちだが……お前、最近迷宮の中に居る時の方が活き活きしてるよな? だいたい鞘の消費量で推測できるが、最近ここんとこ一晩の回数減ってたよな? 先日はたまたま俺の欲求が爆発した時の翌朝、ベルに見られてしまったが、それについて実は申し訳ないと思っていたんだ。

 一晩三回なんて若いから充分に出来る。しかし、幾らなんでもそんなの毎回連続してたらかなり辛かった筈だ。最初の頃の毎晩六~七回の時は密かにお前のことを尊敬してすらいたのだ。今年の初頭頃、感度を落とすためだろうが、豚の腸を使って加工の未熟さからベルが痛がっていたこともあったよな? それを知った時はもう役立てて貰えないのかと少し寂しく思ったものだが、それもある意味で仕方が無いと思ったものさ。

 理解に目を輝かせるトリスを見ながら、腕を組んでふんぞり返りって重々しい表情で頷いてやった。

『まぁ、ものは試しだ。使ってみろよ。新境地が開けるかもしれないぞ?』

『う……アルさん……俺は……俺は……っく、ありがとう。ありがとうございます!』

 最初はゴム袋に目を落として俯いていたトリスだが、礼を述べる段にはしっかりと俺を見ていた。瞳には希望の炎が燃え盛っているように感じられた。

 うむ、チョロくて助かる。
 っつーか、そんなに感動されるとは夢にも思ってなかった。
 そんなに辛かったのか……俺はトリスの両肩に手を置くと頷きながら言ってやる。

『使ってみて良かったのなら今度飯でも奢ってくれ。いちいち礼には値しない』

 その日の晩飯は一人上機嫌のトリスとそれを不思議そうな顔で見ているベル。俺とミヅチ、三人の奴隷たちで食べた。その他の奴らは知らん。勝手に食ってるだろ。



・・・・・・・・・



7444年12月30日

 朝起きるとランニングには行かずにミヅチと二人、予約を入れてある宿に居を移した。干物屋に行って大量の干物を仕入れ、二人してローブのフードを目深に被ったまま朝から迷宮に入って行った。二層や三層で時間までミヅチに魔法の経験を積ませるのだ。

 ファルエルガーズたちは今日明日は動かないだろうという妙な確信もあった。大晦日と正月に迷宮に行きたがる日本人なんかいないだろう。特にあの二人は日本人の感性を強く残しているようだし、怪我の事もあるだろうから、今日あたりは正月明けの迷宮に対する準備と対策に余念がない筈だ。つまり、最低でも明後日くらいまでは動きは無いと踏んでいる。下手したら松の内は動かないこともあり得る。

 クミールとルッツの方も日光サン・レイとの関わりがあるのかどうか全く不明だし、あったところで今のところ不自然に介入するくらいしか出来る事はないので放って置くしか無い。まぁ多分無いとは思うけど。定期的に生存を確認するくらいしかやれることはないか。

 三層のオークを氷漬けにしてミヅチに魔法で始末をさせながら、時間効率優先で魔石も採らずにこの日一日を過ごしていた。

 昼以降、夕方前まで二層と三層をうろうろしてから前回同様三層から二層の妖精郷のエリアへと転移し、妖精郷の入り口で日付が変わるまで交代で休んだ。そして真夜中。

『『明けましておめでとうございます』』

 とりあえず新年の挨拶を済まし、妖精郷入り口の扉に手をかけて妖精郷へと入っていった。



・・・・・・・・・



7445年1月2日

 昨日の深夜、いや、今朝早くか。迷宮から戻った俺とミヅチは仮の宿に戻ると朝を待たずにすぐさまチェックアウトし、まだ暗い街道を「ライト」の明かりを頼りにロンベルティアへと向かった。年越しからずっと睡眠も取らずに新しい魔術の習得を行っていたため、二人共精神的には疲労困憊であり、王都の適当な宿に辿り着いた時にはシャワーを浴びる気力もなく、ベッドに倒れ込んだ。時刻はすでに午前四時を回っていたと思う。

 昼近くまで思う存分に睡眠を取ったあと、食事を取り、腹ごなしに二時間程だが河川敷を走った。宿に戻り、シャワーを浴びてさっぱりしたあと、部屋でミヅチと顔を見合わせる。どちらともなく笑いがこみ上げてくるのを抑えられなかった。数分ではあるがひとしきり笑い合うと、今度は先のことに思い至り、お互い睨み合うほど真剣な顔になった。なお、ミヅチは泣き出す寸前のような顔をしている。

『俺の方は発動までの時間は幾らかかっても問題無いから焦って練習はいらない。しっかし、あれだけ時間かけて俺は一つしか覚えられなかった……相当難しい魔術だぞ、これ』

『私は今回学んだ四つの魔術は練習が必要ね……。でも、正直言って虫はなぁ……』

 俺が今回覚えた魔術はたった一つ。

 言わずと知れた「トランスミュート・ロック・トゥ・マッド」の魔術だ。

 対してミヅチが今回覚えたのは四つ。
 「昆虫召喚サモン・インセクト
 「昆虫群召喚インセクト・プレイグ
 「不器用化ファンブル
 「意思疎通:植物スピーク・ウィズ・プランツ
 それなりに有効そうな魔術が多い。

 さて、ここで重要なのは俺が今回学んだ「トランスミュート・ロック・トゥ・マッド」の魔術だ。この魔術は岩石を泥化させることが出来る。簡単に言うと「クァグマイア」という、泥沼を作り出す魔術の上級版と言ってもいい。地水火無の魔法をそれぞれ八レベルも要求される非常に高度な魔術だ。最小使用MPは地魔法と水魔法を五倍、火魔法はそのまま、無魔法を八倍で求められ、合計152ポイントもMPを喰う。それで大体一立方mのいかなる岩石をも泥化を可能とする。

 ここまでは山にトンネルを掘ったり、開墾するときなどで有効な魔術に過ぎない。ミラ師匠によると「解石化リムーブ・ペトリフィケーション」の魔術の逆魔法の「石化フレッシュ・トゥ・ストーン」によって石像と化した対象を二度と元に戻せないようにこの魔術を使って泥にして川や海に流すという、これ以上ない程凶悪な使い方もあるらしいが、ここではどうでもいい。

 岩石を泥にし、その泥に対して選別の無魔法で好きな物を選別し、整形の無魔法で好きな形状で取り出すことが可能となる。これがでかい。精錬され、結晶化した金属を「イメージ通り」の形状で取り出せるのだ。直径五mm、ねじ山の高さ0.7mm、長さ五cmのボルトなんて指定もいらない。こんな感じのボルト、で十分だ。で、それにあったナット、でボルトとナットを(その岩石に含まれている)好きな金属で取り出せる。

 もっと分り易く言い直そう。ある岩石がある。で、今の魔術を連続して使う。鉄、クロム、モリブデンをありったけ取り出す。それを魔術で合金にする。それにまたこの魔術を使う。その時、四条右巻き、こんくらいで一回転、内径こんくらい、外形こんくらい、でイメージする完璧なライフリングが刻まれたクロム・モリブデン鋼の銃身を作り出せる。で、同様に鉛でも、もし可能ならタングステンでも何でもいいが、去年作った銃身に合う弾頭、とか、同様にどろどろにした真鍮からこの機関部に丁度いい形の薬莢、とかで充分イメージ通りのものが作り出せる。雷管に使うような小さなパーツだって簡単だ。

 はっきり言ってくっそMPを喰うので俺以外誰もまともに出来ないだろう。

 あとは昔実験したニトロセルロースがあれば無煙火薬もOKだし、可塑剤兼燃焼抑制剤としてワックスでも10%くらい混ぜれば充分だ。安全性に問題は残るが実験してワックスの量を増やせばそうそう勝手に燃えはしない。弱装弾くらいにはなるし、威力に問題があれば重量は増加するが薬莢自体を少し大きくしてやればいいだろ。劣化は激しくなるが、現在の軍隊みたいに製造後三年も保管しなければいけないわけでもない。

 大量に銃を揃えることなんか火薬の問題で無理なことは最初から解っている。極端なことを言えば製造後数ヶ月程度品質が保証出来ればいいくらいだ。だいたい、数を揃えて大量に運用が出来ない以上、銃なんて俺にとっては補助的なもんだし。それよりもパチンコ球や釘みたいな奴を同じ品質で沢山作れる方が重要だ。

 蒸留設備を買って(作ってもいい)、木酢液を蒸留してメタノールをたくさん作る。それを放っておいて空気酸化させればホルマリンが作れる……筈だ、確か。MPは喰うけど魔法で選別出来るしね。腐敗させた死体や小便からアンモニアも選別は可能だ。ホルマリンとアンモニアを反応させればヘキサメチレンテトラミンの生成が出来る。そして、純度の高い硝酸なんかはニトロセルロースを作り出した折に魔法で揃えられることは確認済みだ。ヘキサメチレンテトラミンと純度の高い硝酸を高温に耐えられるような磁器の内部で混ぜあわせて反応させればトリメチレントリニトロアミンが結晶化出来た……ような。

 ああ、トリメチレントリニトロアミンってのはRDXのことだ。毒性があるが食わなきゃ平気だ。甘いらしいのでラルファは要注意だが。これをワックスで固めればコンポジションAだし、トルエンさえ作れればだが、TNTと6:4で混ぜてやればコンポジションBになる。粘土みたいな可塑剤と9:1くらいで混ぜればコンポジションCってやつだ。

 この中にニトロセルロースを入れて導火線をつけるなり金属線の先にスパークが起きるようにしたものを突っ込んでそれに「ライトニングボルト」を当てれば爆弾の出来上がりだ。パチンコ球や釘をまわりに沢山くっつけとけばもっと威力が大きくなるだろう。勿論、日本の工場で作っているものとは品質において及ばないだろうがそれは別にいい。各種添加剤なんかも絶対に必要な物じゃない。長期保存中の経年劣化を遅らせたり、効率を上げたり、扱いやすくするだけのもので、基本的には取り扱いの安全性を上げる効果しか無い。

 充分な高度教育が行き届かない末端の兵隊でも暴発させないように、とかの目的が大部分を占めている。俺としては自衛隊の指向性散弾みたいな大型の奴が作れればいい。どうせ誰かに使わせる気もないし。あとはクレイモアみたいな小型の奴を扱えるのが数人居れば充分だと考えている。ワイヤー信管が作れれば最高だが、電池が無いと難しいだろうな。ああ、着火の魔道具と組み合わせて作れないだろうか。多少大型化するだろうけど。

 でも、これらは攻めるのには一工夫いるが守るのには最適だ。
 ま、今の段階では文字通り取らぬ狸の皮算用以外の何物でもない。
 が、これは大きな力になるだろうよ。

 しかし、宿の中では今回習ったものでは「不器用化ファンブル」以外の魔術を練習すらしたくない。気分を入れ替えて一休みしたら今日くらいはあちこち王都を見て回ろう。



・・・・・・・・・



7445年1月3日

 一日中、商会でヨトゥーレン母娘とだべっていた。
 レイラの客あしらいは立派なものだ。
 それにアンナもよく働いている。
 コンドームは11パック売れた。



・・・・・・・・・



7445年1月4日

 今日も一日中、商会でヨトゥーレン母娘とだべっていた。
 ハンナは姉の真似をしていれば仕事だと思っているようだ。微笑ましい。
 コンドームは13パック売れた。
 レイラは何とかという准男爵にサンプルの新型のコンドームを渡していた。


・・・・・・・・・



7445年1月5日

 昼迄、商会でヨトゥーレン母娘とだべっていた。
 コンドームは午前中で5パック売れた。
 この三日間、ランニング以外何もしなかった。
 明日から迷宮なのでバルドゥックに帰った。
 明日からがんばる。

 
今回の爆薬の製造法では意図的に工程を省いている部分があります。
主人公はちゃんと覚えてるとお思いください。
(中略)で誤魔化したほうがいいかなぁ?
+注意+
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