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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百八話 監視

7444年12月28日

 納品が終わり、次回納入の身体計測を行っていた時だ。二の丸から三の丸の一室で行われていた身体計測会場に戻った俺はバークッドの従士たちが騎士団の人たちの体のサイズを丁寧に計測しているのを眺めていた。レイノルズはロズラルと男性の騎士を、ジェイミーはウェンディーと女性の騎士を計測している。ショーンはロズラルとウェンディーが口に出すサイズを書き留め、シャーニ義姉さんはニコニコとその様子を監督していた。

 ミヅチは一人手持ち無沙汰だったようだが、少し離れたところから王城の中を興味深そうにきょろきょろと見回している。ミヅチの隣に行くと話し掛けて来た。

「ねぇ、ここって凄い……ライルの王宮の一番大きなロビーよりも広いし、天井もそれなりに高いし……まさにお城って感じがする……」

 何言ってんだ、こいつ? 妙なことを聞いてきょとんとする俺に更に話してきた。

「いやぁ、ロンベルトのお城は凄い。屋根なんて金ピカだし、『天守閣』もあったし、ここが『三の丸』? なんでしょう? すごく大きくて中も豪華……」

「そりゃ、ロンベルトはこの辺りじゃ一番国力があるらしいからな……城だってでっかく作るだろ。他所の国は知らないけど、ここまでじゃないだろうな……『大阪城』か『江戸城』並かな」

「ああ、言われてみれば……たしか大阪城も最初は瓦に金箔塗ってたらしいですよ……知ってました?」

「うん、聞いたことある。俺も初めて見た時そう思ったよ」

 そろそろ計測も終わりのようだ。第二騎士団の狼人族ウルフワーのラックス士爵の計測を残すばかりだ。俺もこうしちゃいられない。ミヅチにも手伝わせて金勘定だ。ゴムプロテクターの代金をシャーニ義姉さんに支払い、販売証明にサインして渡していく。

 滞り無く納品も済ませたし、次回の注文も問題なく受けられた。あとはもう一度商会に戻って空になった馬車に予め用意してあった糧食などの軍需物資を積み込んで終わりだ。



・・・・・・・・・



「じゃあ、義姉さん。ご武運をお祈り申し上げます」

「ありがとう。ミヅチさん、アルを宜しくね」

「っ、は、はいっ!」

 糧食や換えの下着類など軍需物資を積み込んで義姉さんたち総勢四人のバークッド村ダート平原派遣支隊は王都ロンベルティアを発って行った。

 俺は行政府に行って贅沢税の納税を済ませるとまた商会まで戻り、昨晩義姉さんたちが持ってきた在庫をバックヤードに整理して収めた。ダイアンも結構回復してきたようで、手伝いたがっていたが、気持ちばかりの「キュアーオール」を掛けて二階に追いやるとヨトゥーレンとミヅチと三人で力仕事に精を出した。

 ほぼすべて片付き、アンナに豆茶を淹れて貰い、暫く商会の帳簿を眺めて過ごした。ロズラルとウェンディは契約している娼館へ入荷したコンドームの配達に行き、ルークは作業場に戻って持ち込まれた修理品の修繕に当たっている。ヨトゥーレンが「鞘が入荷しましたので明後日くらいには噂が広まって忙しくなりそうです」と嬉しそうに言っていたのが印象的だった。おうおう、その調子で儲けてくれ。

「あ、そうだ。多分すぐにはないとは思うが、もしも王室から使いが来て新型の鞘を寄越せと言われたらこれを渡してやれ。あと、余った分は試供品だ。店ではなく個人の客にだけ金を取らずに配れ。再度欲しいと言われた時にどのくらいまでの価格なら買うか聞き取り調査をしろ。その時も金は取らなくていい。相手は中年以上の貴族や金持ちだけに限定しろよ。基本的には渡す相手はお前に任すが、何度も来る良い客だけな。一人に三回以上は渡す必要はない。二回までにしとけ」

 そう言ってイボ付きコンドームの箱(残り九七パック入り)をヨトゥーレンに渡すと、俺は夕方を前にして一度バルドゥックに戻ることにした。ちょっと気になっていた事もあったしな。

 ボイル亭に戻るとゼノム達は既にバルドゥックに戻っていた。ゼノムが高そうな酒を部屋でちびちびと舐めるように飲み、真っ赤になっていい気分で魚の燻製を食っていたので丁寧に扉を閉めた。ラルファとグィネは飲みに出かけたらしい。トリスとベルもどっかに行っているみたいだし、部屋で一人、紙が真っ黒になるまで書き取りの練習をして、それでも飽きたらずに皿に砂を撒いて指で字の練習に熱中していたバストラルを捕まえてミヅチと飯に行くことにした。

「いやあ、思っていたより簡単でした。お陰様で、もうすっかり字を覚えた自信があります」

 バストラルはにこにこと嬉しそうだ。喋れるならあんまり苦労することもなく字は覚えられるよ。良かったな。

 ミヅチとバストラルの三人で普段あんまり行かない「ロースン」まで行く。奴隷たちと夕食を取る予定にしていたのだ。

 「ロースン」まで行くと、三人の奴隷たちは奥のテーブルを確保して待っていてくれた。思い思いに料理を頼み、ビールで喉を潤すと報告会だ。

「で、どうだった?」

 同じようにビールを飲んでいたエンゲラに尋ねた。大きい訳ではないが「ぱっつんと張っている」という形容がよく似合う、お椀のような四つの胸を厚手のベージュ色のシャツが目立たせている。下の二つは少し小さい。そう言えばブラジャーって無いんだよなぁ。上流階級の貴族のご婦人はつけ始めているらしいが、すべて専門店で仕立てる一品物でとても手が出ないと昔ベルに聞いたことがある。あいつ、もう買ったのかな?

「はい。昨日も恐らくではありますがミヅチ様より伺っていた、一昨日と同じ二人組と迷宮に入ったのを確認しました。昼前に出てきて宿に戻ったあと、二人共一歩も外へ出ていません。食事も外から宿に運ばせたようです。昨日迷宮から出てきた時、二人共歩き方がおかしかったようなので恐らく怪我でもしたのかと……。今日は迷宮には入っておらず、おそらく食事以外では宿に篭っていました」

「そうか。残りの二人組の方は? 尻尾は掴めたか?」

 今度はズールーに向かって尋ねた。

「それが……申し訳ありません。確証は得られませんでした。少なくとも私とラリーが見ていた感じでは日光サン・レイとの接触は確認出来ませんでした。昨日迷宮から戻ってきてから今日も宿からは一歩も出ていないようです。こちらも怪我をしたのだと思います。しかし、宿の中ででも会われていたらお手上げです」

 確かにな……。ファルエルガーズもヒーロスコルも魔法は使えるようだったし、二人共「キュアー」くらいは……ってヒーロスコルがかろうじて使えるくらいか。だとすると一日じゃ傷の完治は難しいだろうな。休み休み「キュアー」を掛けても丸一日は覚悟しなきゃならんし、彼らと一緒に迷宮に入った二人組の冒険者も魔法が得意である可能性は極小だろう。

 治癒魔術が使えるのがヒーロスコル一人だけで、且つ使える魔術は「キュアー」のみとなると……ヒーロスコルのMPまでいちいち覚えていないが、せいぜい20~30だろうから全員怪我したのであれば全員に1~2回使って取り敢えず傷を塞いで撤退し、その後宿で時間を掛けて何度も「キュアー」を使っていたんだろうな。痛みをこらえながら。ってそもそもヒーロスコルも大きな傷を負ったのであれば魔術を使うどころじゃないだろ。そんなこと出来るのは俺くらいだろう。

 あ、今は呪文を覚えたうちのパーティメンバーなら、よっぽどパニックになる程の大怪我でもしない限りは使えると思うけど。とにかく、そういう特殊過ぎる例は考慮に値しないだろう。

「ん……そうか。じゃあ明日はファルエルガーズ組はミヅチが、冒険者の二人組は俺とギベルティが見る。怪我を負ったとは言え、自分の足で歩いてたのなら明日くらいには治癒魔術で治すかも知れないしな」

 ファルエルガーズたちは二人が別れて行動しないだろうから見張りは一人でもいいだろう。奴隷たちにも休みはやりたいし。だが、俺はあの二人と意気投合したという二人組の冒険者を知らない。ミヅチも遠目でちらっと見ただけだから当然知らないに等しい。知っているのは一緒に出てくるところを見たズールーとギベルティだけだ。ギベルティは……迷宮でも結構自由になる時間は多いだろうからこういう時くらい貧乏籤引いとけ。

「「解りました」」

 奴隷たちが返答するのを耳にしながら注文した肉野菜炒めを口に運んだ。

「アルさん……すみません」

 バストラルが申し訳無さそうな顔で頭を下げた。

「気にするな。関わりが出来た人の動向を気にしているだけだから」

 ああ、もう面倒臭えな。ギベルティにも転生の事とか言ってもいいかな? まだ早いかなぁ。最低一年は様子を見てから判断したいのは確かだけどさぁ。縁があって買い取ったけど、その理由なんてベルに色目を使わなかったって、単にそれだけだしな。実際面白いやつではあったけど。



・・・・・・・・・



7444年12月29日

 早朝のランニングを終え、サンドイッチを買ってミヅチは早速「ボイル亭」のミヅチの部屋に篭った。彼女の部屋の窓からファルエルガーズたちが投宿している宿の玄関が見えるのだ。既にファルエルガーズたちに面が割れている俺達は宿への出入りを監視するだけだ。尾行までする必要はないと思っている。が、万が一のため、ミヅチを監視に当たらせた。ミヅチ本人が尾行はお手のものだと自信を持って言い張るし、実際そうなのだろうと思ったからだ。仮に戦闘に発展したとしても、不意打ちでも喰らわない限り、ミヅチに傷を付けられる奴なんてそうそういないだろう。

 俺とギベルティは二人組の冒険者の投宿している宿の出入口を監視出来る飯屋の端のテーブルで豆茶を啜りながらだべっていた。昼飯にローストした鴨を挟んだガレットと卵のオートミールを食っていた時だ。

「ご主人様、一人出てきました。あいつです」

 ギベルティが俺の注意を引いた。相手を見やると俺の知らない奴だった。サンノセ・クミール。普人族。二十一歳。レベル十一。年齢の割にそこそこレベルも高い。下は丈夫そうな革のパンツに上は綿の着物。ごく普通の平服だ。横腹を押さえながら歩く度に顔を顰めている。HPは二割以上減っている。やはり怪我を負ったようだな。ひょこひょことこちらに向かって歩き、俺とギベルティがだらしなく寛ぐ店に入ってきた。

「サンドイッチくれ。八個。具は何でもいいがダブリは二つまでにしてくれ。あと、これに豆茶を淹れてくれ」

 そう店員に注文する疲れたように俯く浅黒い肌の顔には脂汗が浮かんでいる。

「……680Zです」

 店員に金を渡し、釣りを受け取りながら、「半時程したら取りに来る」と言ってクミールは店を出て行った。ここは俺が尾行すべきだろう。ギベルティに目で合図を送りテーブルの上に銀朱を一個置くとクミールが店を出てから二十秒数えて外に出て後をつけた。

 脇腹を押さえながらのろのろと歩くクミールは痛みで注意力が散漫になっているのだろう。十m程の距離を開けて尾行する俺には全く注意を払っていなかった。十分程歩いたクミールは一軒の店に入っていった。薬品を扱う店だ。傷薬でも買うのだろうか。二~三分で買い物を済ませ、出てくる雰囲気を読み取った俺はおもむろに精神集中を始める。ミヅチ相手にそれなりに練習をしたがまだ魔術の完成には十秒ほどの精神集中が必要だ。効果時間の延長も考えて通常の四倍の魔力でいいだろ。

 店を出て俺の方へとひょこひょこ歩き出したクミールにわざとぶつかり、うずくまる彼に手を伸ばして詫びを言いながら魔術を完成させる。俺のレベルは今二十四。同じ魔術にかかったミヅチの【状態】のサブウインドウを鑑定し、魔術の成功確率は掴んでいる。これだけのレベル差があれば100%だ。

 俺の伸ばした手に奴が手を重ね、目と目を合わせる……かかった。

「あんた、サンノか? サンノセ・クミールか?」

 俺は古い友人に街角で出会ったような声音で語りかけた。

「あ、ああ、ん? ……なんだお前か。脅かすなよ、痛えな」

「おう、俺だ。悪い悪い、久しぶりだなぁ」

「ああ……そうだな」

 クミールは本来顔も知らないだろう俺のことを全く疑問に思っていない。冒険者になら少しは俺も知られているかと思ってたんだが……。ゴムプロテクターも着けてなきゃ、兜も被っていない。おまけに今は帯剣すらしていない。判らないかもしれないな。それとも「人物魅了チャーム・パーソン」の魔術の効果だろうか? どっちでもいい。

「なんだ? 体調でも悪いのか?」

「ん? ああ、一昨日迷宮でドジっちまった。一緒に潜った奴に「キュアー」は掛けて貰ったんだが、まだ完治には程遠いな」

「どら、見せてみろよ」

「え? なんでだよ、やだよ」

「間抜け。俺が「キュアー」を掛けてやるっつってんだよ。それともお前のスポンジ頭はもう忘れたのか? 俺は「キュアー」は得意なんだよ」

「あ? え? ああ、そうだっけ? いや、そうだったな。頼む、頼むよ」

 道の端にクミールを引っ張っていった俺はクミールに上着を引き上げさせると傷口を見た。右の脇腹に正面から槍のようなものを突き込まれた痕が残っている。傷口にはピンク色をした肉が盛り上がりつつあるが、皮膚の癒着はまだ見られない。さっと「キュアークリティカル」を掛けてやった。

「お、おう、流石だな。かなり楽になった気がする。助かったよ」

 心から嬉しそうにクミールが言った。

「俺とお前の仲だろう? 今更気にするなよ。だけどよ、今のでもう魔力が切れそうだ。辛ぇよ……。ところで、まだあいつと組んでるのか? あの、何つったっけ?」

「ああ、ルッツか。そうだ。それに二人も新しい仲間が出来たんだ。二人共何と元ファルエルガーズ騎士団の騎士様だぜ! 更にそのうちの一人はファルエルガーズ伯爵様のご長男と来てやがる! 早速、一昨昨日さきおとといと一昨日も一緒に潜ったぜ!」

 かなり楽になったのかクミールは笑みを浮かべて自慢し始めた。

「へぇ? そいつは凄ぇな。お前も運が向いてきたじゃないか。でもなんで騎士様が二人もいてそんな怪我したんだよ?」

「ああ、聞いてくれよ。確かに騎士だけあって軍隊で慣らしたんだろう。若いが強ぇわ。だけどよ、初心者剥き出しなんだよな……」

「へぇ、そりゃまたどういうこった?」

「まず動きが素人臭い……平気で普通に歩いてやがる。ああ、迷宮じゃあ用心しながら音を立てないようにそろそろ歩くもんなんだ。それに、魔法が使えるからって迷宮を舐めてるな。少し暗いくらいですぐに「ライト」の魔術を使いやがる……あんなんじゃよ、魔物に近づいてください、狙ってくださいと言ってるようなもんだ」

「そりゃまた……」

「ま、それでも良いところもあるんだがな。そうじゃなきゃ組まねぇよ」

「ほう?」

「平民出の騎士の方は治癒魔術まで使えるんだぜ。昨日もよ、迷宮でノールに俺がやられちまったのに、ルッツとロリック様……ああ、ロリック様がファルエルガーズ伯爵様のご長男なんだけどな。とにかく二人に守らせて止血してくれたんだ。その後何とか立ち上がった俺も入れて四人でノールを半分くらい殺ったところでノールが逃げたからよ、魔石とってトンズラこいたのよ。一人頭五万くらい稼いだんだけど、皆、怪我しちまってな。来週まで迷宮はお預けってことになったんだ」

「そうか。だが、いい知り合いが出来て良かったじゃあねぇか」

「おう、だが、やっぱお前の「キュアー」は一味違うな。自慢するだけあるぜ。治癒師で食っていけそうな腕だ」

「ばっか、お前、忘れたのかよ? バルドゥックなら稼げるって教えてくれたのお前じゃねぇか」

「ああ、そうか、そうだったそうだった……俺が言ったんだっけ?」

「本当にスポンジ頭だなサンノは」

「いや、悪ぃ悪ぃ」

「じゃ、俺は行くぜ、達者でな」

「おう! 又な。今日は助かったぜ!」

 そこで俺はクミールと別れ、大回りしてギベルティが待機している飯屋に戻った。

「ご主人様、先ほどあいつが戻って、食いもん持って宿に入りました」

「ん、解った。どうやら本人と相棒の傷薬を買いに行ってたらしいな。多分今日も動かないだろうが、今の奴はひょっとしたら動くかも知れん。だが、まぁいいだろ。今日はここまでにしよう。解散だ」

 ギベルティを帰らせた俺はボイル亭までの道すがら、少しだけ考えたが、クミールとルッツが日光サン・レイと繋がっているという確信にまでは至らなかった。ファルエルガーズたちの方は動きはあったろうか。ヒーロスコルが「キュアー」の魔術を使えるのは確定なようだが、大して深手でもなければ今日あたり治癒魔術を使える可能性はある。

 まぁそれでも傷の完治にはかなり時間も必要だからあと数日はおとなしくしているかも知れないし、これで多少は思うところがあったのであれば用心深く完治を待ち、次の迷宮行には余念なく準備を行うことだろう。

 
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