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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第一部 幼少期~少年時代

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第十七話 金を稼ぐ

 この5年間で俺がバークッド村に貢献できたことは千歯扱きだけだ。それでも脱穀の能率向上に大きく貢献していることは確かなのだが、以前曽祖父を肖って言った「剣の修行が出来るようになるまで父とともに領内を見て回り発展の余地を探るのだ」という言葉には足りないだろう。

 いくつか腹案がないこともないが、あまり高度なことは理由付けやなんやで今は実行できないと判断している。特にミュンがいるので、突っ走ったことは避けたい気持ちもある。まぁ、千歯扱きは巨大な櫛を逆さにしたようなものだし、扱き棒を沢山纏めただけとも言えるので「よく思いついたな、でもそれくらい本当は俺だって思いつけたさ」と思われる程度ではないだろうか。あんまり突飛な発想や道具を記憶をもとに現代日本から持ち込んでも、異常者扱い(この場合は、何を考えているかわからない、危険人物か)をされる可能性があるので避けたほうが無難だろう。

 ここは既にこの世界でも行われていることをより簡易に実現する方向が良いのではないだろうか。となると、やはり家畜だろうな。農耕に家畜を導入できれば耕作が楽になるだけでなく、深耕が可能になるので、少しだが収穫量が上がるだろう。既にバークッドでも二毛作は普通に行われているが、人の手だと畑の表層近くしか耕せないので、ある程度以上の深さまでいくと土が固く、空気が混ざらないので窒素が足りないせいか、根が伸びづらいようなのだ。

 耕耘機の開発も人力の耕耘機、というより耕耘道具である犂を作るのは問題ないし、話を聞くに既に存在もしているらしい。しかし、ここは動力となる家畜を導入するほうがいいだろう。財政的な問題さえクリアできれば家畜は導入出来るのだし、各平民の従士の家に牛か馬を一頭づつ合計八頭もあれば、かなりの効率化が目指せる。

 とにかく、牛馬用の犂は開発してもいいし、既にウェブドス侯爵の直轄領で使われているのであれば購入してもいい。または、購入してそれを改良したほうが良いかも知れない。あとはその犂を引く牛馬を用意しさえすれば、すぐに農業の大幅な改革は出来るのだ。

 また、家畜の維持のための牧草の問題だが、三圃制や輪栽を導入すれば地力回復のために植えられるクローバーが充分に牧草の代わりの餌になるだろう。当家でも馬は三頭いるがこの三頭だけでは、300haの農地の三分の一に相当するクローバーはとても食べつくせ無い。どうせ余るのなら維持も含めて全部当家で面倒を見て、必要な時に貸し出すという手も取れるだろう。おそらく、ウェブドス侯爵の直轄領では既に三圃制や輪栽が導入されていると見たほうがいい。文明レベルのことを考えると三圃制だと思う。種播きの時期や育てる作物などの研究は必要だが成功すれば劇的な効果をもたらすはずだ。

 千歯扱きとは比べ物にならない程初期投資に費用がかかる話なので、ヘガードに相談するにしてもちょっと尻込みしてしまうが、いずれ通る道だし仕方ない。それに領地を発展させる話だし、言って叱られたり怒られたりする類のものでもない。俺の弱みは経済感覚が(経済知識は多分、商人や王族よりもあるだろう)無いことだが、これは仕方がない。今まで現金を使うことなど殆どなかったし、シェーミ婆さんの所に一人で買い物に行ったこともない。正面から話すか。

「父さま、領地の農作業について考えたことがあります。話を聞いて貰えますか」

「ん? いいだろう、何だ?」

 ある日の昼食の後のことだ。腹も膨れて良い気分の時に話をしたほうがいい。俺はヘガードを領主執務室に誘うとおもむろに話し始めた。

「畑を耕すのに今はこのように人手で鍬と鋤を使っていますね。ですが、この方法だと鍬や鋤の刃の長さよりも深く耕すために非常に苦労をしているようです」

「まぁ、そうだな。それで?」

 画板のような板に蝋石で画を描きながら説明する。これは後でヘガードに頼んで小魔法キャントリップスの『ポーリッシュ(磨き)』で鉄穴をかけたように磨く、と言うかこそぎ取れるので、レベルの高いヘガードやシャルには重宝されているメモ帳や黒板のようなものだ。

「ウェブドス侯爵の領地で行われているという、牛馬や驢馬を耕作に用いることで解決できます。犂を使えば人手で耕すより倍以上の深さで楽に、早く耕せます。余った時間で更なる開墾も可能になるでしょう」

「その話は前にも聞いたことがあるな、その時も言ったはずだが、家畜も只では動けないぞ。牧草が必要になるんだ。とても維持出来ないと話したじゃないか」

 ヘガードは又か、判りきったことを、という感じで答えた。

「今日はその家畜の維持についての案です。今、バークッドでは二毛作、と言うのでしたっけ、ひとつの畑で小麦とライ麦や豆など交互に複数の作物を育てていますよね?」

 そう言いながら黒板に、連なった耕作地の画を書く。

「それをちょっと進めた考えです。例えばこの土地で小麦を育てます。隣の土地では豆を育てます。その隣の土地では牧草を植え、家畜に餌を摂らせた上で、余った牧草は貯めておきます」

「ふむ」

「最初の土地で麦を収穫し、次に豆を植えます。次の土地では豆を収穫し、牧草を植えます。牧草を植えていた土地は完全に耕し直して麦を植えます。この土地では家畜が牧草を食べていますから糞もしているでしょう、土地が肥えることになります」

「続けろ」

「はい、僕が思うに侯爵の領地ではこのようにして農作業に牛馬を組み込んでいるのだと思います。それで各農作業の時間が短くなるのでその分、新しい土地を拓くことが出来るようになっているのではないかと考えました」

 ヘガードは黒板を消すと、感心したように

「よく考えたな。多少の違いはあるかも知れんが、似たようなことをしている可能性は高いな。しかし……」

「しかし?」

「馬を新しく買うのは出来ないこともない。だが、買ってしまうと当然金が出て行く。前に我らがデーバス王国の越境を押しとどめるために出陣したのが8年ほど前だ。そろそろまたあるかも知れん。そのために、今は大きな金は使えないな。おまえの考えだと、馬を買った金を回収できるのは何年も先になるだろう」

 しまった。戦争のことを忘れていた。この世界ではちょくちょく小競り合いが起きているのだ。総力戦のような万単位の軍勢がぶつかるような事は滅多にないが、小競り合い程度なら毎年のように起きているらしい。領地を持っている伯爵以上の貴族は毎回軍隊を派遣している。小規模ながらウェブドス侯爵も常備軍のようなものを持っているし、それで足りない分を更に下級の貴族から賄っているのだ。輪番制、という訳でもないらしいが、ある程度順番にウェブドス侯爵から支配下の村や街の領主に声が掛かる。

 声を掛けられた領主である下級貴族は軍隊を派遣することになる。バークッドではだいたい10人くらいの部隊を領主指揮のもとに送り出すそうだ。数年おきに声がかかるのはまず間違いないので招集されない間に軍事費として金を貯めておくのが一般的なのだ。

 どうする? 腹案にあった隠し玉が使えないことも無いが、出来れば時期が来るまでは隠しておきたい。しかし、すぐに金が必要なことは確かだ。それに、あれは扱いにある程度の慣れがいるだろう。俺がまだバークッドにいる間に慣れてもらうことも有効は有効だ。まぁ良いか。

「お金ですか……。わかりました。ちょっと待っててください」

 遂に隠し玉を使うときが来たか。まぁ遅かれ早かれいずれ使うつもりだったし、いい機会だろう。俺は物置に置いてある、ある物を取りに行きながら考えた。これはオーバーテクノロジーを公開することになるだろうか? いや、もう発見されているし、俺は既に発見されているものの有効利用法を発見したに過ぎないだろう。そう自分を納得させ、目的の物を手にして戻る。

「なんだ? それは?」

 俺は白と黒の小判状の物体を持って机の上に置いた。
 そして白いほうを手に取り、

「これはバークッド村の南西の林に生えている木から採った汁を煮詰めたものです。僕はこれをゴムと名付けました」

 そう、剣の修行を始める前、毎日のようにヘガードや従士達とバークッドの近辺を探索していた。そのときこの木を見つけたときは飛び上げるほど喜びそうになったものだ。当然発見時には涼しい顔をしていたが、内心ではそれはもう年甲斐もなく浮き浮きしていた。こっそりと樹液を採取し煮固めたものがこの白い小判状のものだ。

「ふむ、なんだかぐにゃぐにゃしてて柔らかいな。お? おお、引っ張ると伸びるのか。これは、弾力があって伸び縮みして面白いな。だが、これが一体どうしたと言うんだ」

「父さま、次にこちらを見てください」

 俺は黒いほうの小判を渡す。

「む、これは硬いな。さっきの白い方とは大違いだな。弾力はあるようだが伸び縮みはせんか……。いや、硬いだけで伸び縮みすることはするのか……。アル、これもゴムなのか?」

「はい、そうです。黒いほうは煮固めるときに北の山の石を加えて煮固めています」

 ゴムは近代に入ってから発見された非常に重要な戦略物資だ。防衛大学校でも嫌というほど叩き込まれている。ゴムノキの樹液(ラテックス)を採取し、煮固める際に硫黄を加えて硫化させればゴムとしての弾性を保持したまま硬度があがる。これは別に大量生産をするのでなければ特別な技術はいらない。普通の鍋があり、ゴムノキの樹液(ラテックス)があり、硫黄があれば子供でも作れる。勿論混ぜる量の調整は必要だが、少しづつ加えていけばいいだけの話だ。

 俺は特に黒い小判に注目を集めるように持ち上げながら、

「このゴムを製造できるのは今のところこのバークッド村だけだと思います。父さまならこのゴムをどのように扱い、使い道を見出されますか?」

 我ながらイヤミな餓鬼だ。
 しかも、ヘガードはもともとゴムについて何の知識も先入観も持っていない。
 知識を盾に父親を試しているようで無茶苦茶気分が悪いが、ゴムの生産を村で行えるよう決定できるのはヘガードだけだ。ある程度のインパクトは必要だし、ここで正確に知識を得て欲しい。

 俺は更に言葉を重ねた……。

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