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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第九十五話 中間地点

7444年9月19日

 ルークとダイアンの結婚の儀式は恙無く終わり、親父達はバークッドに向かって出立した。バルドゥックへの分かれ道でそれを見送ると外輪山を越え、宿へと向かった。さて、あいつらは新しい魔術も覚えたろうし、「生命感知ディテクト・ライフ」を使えるメンバーが二人も増えたのは不意打ちを喰らいにくくなるので戦力アップと言えよう。まだ六層は七割程度しか探索出来ていないが、今週入るときは七層を目指してみよう。休みは明日までだから今日はトレーニング代わりに迷宮に行って明日も魔術の修行だな。

 こんな事を考えて宿に戻った。

 宿に戻り、ロビーで支配人とだべっていたラルファを捕まえて魔術の習得状況を聞くと、皆習得可能な魔術は習得出来たらしい。しかし、「生命感知ディテクト・ライフ」についてはラルファもベルも習得にはちょっと時間がかかったようだ。ディヴィネーション系統の魔術はあんまり使われないからだろうか。普通は「魔力感知ディテクト・マジック」か小魔法キャントリップスの「魔力検知マジカル・ディテクション」くらいしか使われないし、「催眠ガス(スリープクラウド)」なんか地魔法以外の元素魔法三種をそこそこのレベルで使う上、無魔法のレベルが5以上ないと使えないから、使える人自体があまり多くない。

 ここは一発、「占い(ディヴィネーション)」の魔術自体を教えた方が良いだろうか。ベルもラルファも無魔法のレベルは四に達しているから使える筈だ。呪文なんか唱えた所であんまり良い事なんかないから教えていなかったが、今後ディヴィネーション系統の魔術を覚える時なんかに良いかも知れない。

「ラルファ、ちょっと来てくれ」

 そう言ってラルファを俺の部屋まで連れて行くと、鑑定して解ってはいるが、

「今魔力はどうだ? 行けそうなら新しい魔術を教える。「生命感知ディテクト・ライフ」を教える前に教えておいた方が良かったのかも知れないけどな」

 と言って椅子に掛けた。

「え? うん。朝一回「生命感知ディテクト・ライフ」を使った後、何も魔法を使ってないから大丈夫だと思う」

「そうか。じゃあ大丈夫そうだな。今から教えるのは「占い(ディヴィネーション)」と言う魔術だ。この魔術は自分が知りたい魔術の呪文を知る魔術だ。「占い(ディヴィネーション)」を使ったあと、残った魔力の範囲で効果時間中に使う魔術の呪文を知れる。最初は「ライト」辺りが良いだろうな」



・・・・・・・・・



 俺も何となくでしか理解していないディヴィネーション系統の魔術を使うときの魔力の練り方のコツを長々と説明すると、多少集中に時間はかかった(三十分近くかかった)ものの、ラルファは無事に「占い(ディヴィネーション)」の魔術を覚え、「ライト」の魔術の呪文を知った。俺の呪文のように訳のわからない妙な呪文だった。だが、ここで俺は大きな見落としに気付いた。

 呪文を唱えながらラルファが肩を掻いていたのだ! ぽりぽりと。

 テーブルの上に置いてあるラルファが光らせた木製のカップの端っこを確認して驚愕の視線をラルファに向けた。

「ん? どしたん? そんな顔して?」

「お……」

 言葉にならなかった。

「なになに? 覚えるのが早くて吃驚した? あたし、天才?」

 違ぇーよ。

「お……お前……今……」

 きょとんとするラルファの肩を指差して言う。

「今、呪文唱えながら肩掻いてたよな? なんで?」

「え? そう?」

「もう一回呪文唱えてみろ。で、なんかやれ」

「そんな、出来る訳……」

 ラルファも俺の言う事を聞いて驚いたらしい。

「いいから、やってみ。俺もやる」

「うん」

「リラ・マーチ・アウグ・バンベルド・ミルズ」
「トズ・ボルス・ノブン・ケイレーチ・シラク」

 二人で「ライト」の呪文を唱えながら体を動かしてみる。俺は立ち上がってその場で走るように腕を振り、足踏みしながら。ラルファはベッドに腰掛けながら、なんだかタコみたいにぐにゃぐにゃと体を揺すり、腕と足を揺らしていた。

 そして、合計三ヶ所が光っているカップを眺めて呆然とした。

 うそーん。

 この結果を見て、俺とラルファは驚いて声も無かった。俺は元々何かをしながら魔術を使う事は出来たから正直な所、俺だけなら驚かなかったろう。と言うより気付く筈がなかった。でも、ラルファまでタコ踊りをしながらでもきっちりと魔術が使えたんだ。これ、呪文さえきちんと唱えられるなら移動しながらでも魔術が使えるんじゃね? あれだけ苦労して会得した俺の必殺技とでも言うような事をいとも簡単に……。そう言えば昔、俺も呪文を学ぼうとしたのはこれが理由だった事を思い出した。精神集中出来無い程の傷を受けた時の治療の為だったな。新しくカールから学ぶ魔術の魔力の使い方の勉強の為にしか使ってなかったわ。うかつだった。

 魔術を使う、という事ではあんまり意味が無いと思っていた呪文だが、実はすごく有効だった。トリスとグィネも無魔法はそろそろ四レベルになる。ミヅチとベルも合わせて合計六人で走りながら魔術を使えるのはでかい。呼吸の乱れを抑えたり、運動しながらでも正確に長さと抑揚を合わせなければいけないだろうが、走りながら普通の魔術を使う程の練習は必要ないだろう。

 キュアー系と攻撃魔術を一つか二つ、きちんと呪文の練習をさせるだけで大分違う筈だ。迷宮に行ってる場合じゃねぇ。少しでも早く叩き込むべきだ。

「ラルファ、お前はもう寝て魔力を回復させろ。俺は皆を探してくる」

「うん!」

 部屋を飛び出した俺は雑貨屋で品物を物色しているミヅチを捕まえると他の三人を知らないか聞いた。グィネだけはさっきまで一緒だったらしい。ミヅチにはグィネを探させ、俺はトリスとベルが行きそうな場所を探した。二人は十分もしないで見つかった。バルドゥックの東寄りに湧き出している湖(池とも言う)の畔でイチャコラしていたからだ。

 宿に戻るとロビーの椅子にミヅチとグィネが腰掛けて何か話していた。彼らを連れて俺の部屋に行く。そして、「占い(ディヴィネーション)」の魔術の話をした。一様に驚く皆に、どれだけ有効な手になるのかを説明し、ラルファ同様に「占い(ディヴィネーション)」の魔術を習得させた。これでいい。しばらく練習すればきっとすぐに呪文を覚え、使えるようになるだろう。



・・・・・・・・・



7444年10月2日

 結局あれから一度も迷宮には入っていない。あ、いや、毎日入ってはいる。但し、一層で呪文の練習だ。トリス、ベル、ラルファ、グィネ、ミヅチは魔力量が少ないので、すぐに休憩したり寝に帰ってしまったりするので効率は良くないが仕方ない。寝に帰るのはベルとミヅチだけだ。あとは寝ないでも自然回復のほうが早い程度の魔力量だから休憩を挟みながらやらせている。護衛を買って出たゼノムが目を細めてその光景を見ている。

 すぐにトリスが「呪文を唱える事で魔術が使えるなら盾を装備出来ますね。買ってきます」と言うので一応ズールーとエンゲラの分の盾も買うことにした。ズールーはトリスの物と同じカイトシールドを使い、エンゲラは小型のバックラーシールドにした。ズールーは両手剣バスタードソードを片手で使う事になるが、問題無いと言い切っていた。まぁズールーの力なら大丈夫だろ。

 俺は少し離れたところで魔力回復中の誰かと皆の入場税を稼いでいるくらいだ。だが、二週間も繰り返したら全員「キュアーライト」と二種類の「アロー」の魔術は使えるようになった。そう長くない呪文であろう魔術を選んだので三種類くらいなら丸暗記でもいいだろ。ベルはそれに加えて「キュアーシリアス」の呪文も覚えたし、ミヅチは「キュアークリティカル」と「キュアーオール」まで覚えた。取り敢えず充分だろう。

『癒しの神よ、小なる傷の治癒を求む、対価として魔力を捧げん!』

 ありゃトリスの「キュアーライト」の呪文だな。偶然だろうが日本語とは羨ましい。

「ベク・ノス・ニムル・フォーン・サイズ・カ・ドレン!」

 ラルファの「フレイムアロー」の呪文だ。手斧トマホークで攻撃を捌くような型をしながら言ってる。

 うん、これなら充分だろう。

「よし、明日から本格的に行こうか。七層を目指すぞ」



・・・・・・・・・



7444年10月5日

 一昨日から昨日の一層から五層までは俺と奴隷一人だけ別行動を取ったがこの六層は当分の間俺も皆と行動を共にする。せめてもう少しレベルが上がるまではこれでいいだろう。三回目の転移でまだ来た事のないエリアに出られた。「罠発見ファインド・トラップ」と「縄罠及び落(ディテクト・スネア)とし穴感知(ズ・アンド・ピッツ)」をふんだんに使いながら昼過ぎまでかかって六層の転移の水晶棒の部屋に到達した。

 今後当面はこの転移の水晶の部屋を基地とするため、今日は全員かなりの荷物を持って来ている。流石にいきなりシャワー室を作るまでの資材は持って来れはしないが、新しい毛布や桶、鍋釜に簡便な食器類を運ぶだけで手一杯だ。今日は部屋の隅の落ち着けるあたりで土を出して寝床を設えたり、炊事場や、ゴムシートを使った足湯を作るだけで午後は潰れた。

 十六時頃までそうしていたが、元々大した資材など無いからすぐにやる事が無くなる。お茶を飲んで駄弁るくらいしかやる事がないからか、ラルファが駄々をこね始めた。

「ねぇ、七層をちょっと覗いてみようよ。オーガって見たことないし、どの程度の強さか解んないじゃん。一回戦ってみて、明日以降どういうふうにったらいいか戻って考えた方が効率的じゃない?」

 うーん、確かに一理あるな。俺は今日六層を突破するのにかなり奮発して無駄に魔力を使ったが、それでもMPで3000位は残っている。そうそう引けを取りはすまい。だいたい、俺以外はMPは満タンに近いのだ。放っておいても一時間もあれば回復する程度だしな。

「ゼノムさんはオーガとは戦った事はありますか?」

「ああ、昔、ラルファを拾うもっと前……十代の頃に一度戦った事がある。はぐれオーガだがな。相当強かった。隊商の護衛をしていた時だ。不意打ちを受けたとは言えたった一匹のオーガにあっという間に四人がやられた……。そう言うトリスは戦った事は?」

「いや、私は無いですね。カンビットの方に多いらしいというのは聞いた事があります」

 ゼノムはオーガと戦った事があるのか。しかし、たった一匹で隊商の護衛を四人も倒すとは……。いつも以上に用心して掛かるべきだろう。

「なぁ、ゼノム、どのくらいの強さだった? 俺たちでも勝てそうか?」

「アル、それは愚問だな。お前さんが魔法を使えば問題は無かろう。それに、今でも俺は一対一ならば負ける気はせんよ。だが、グィネはまだ一対一は危険かも知れん」

 ゼノムにそう言われたグィネは、鼻の下に生え始めた口髭を一舐めすると、両拳を握り締めて小さなガッツポーズを取りながら、

「頑張りますよ、ふんっ」

 と小声で気合を入れていた。それはそうと、オーガと戦った事があると言うゼノムが居るのは心強い。

「オーガって事は鬼みたいな感じなのかな? 角でも生えているのかしら? 弓は問題なさそうよね……」

 弓の弦の調子を確かめながらベルが困ったような顔をして言った。

「オーガがどんなものか私も存じません。ですが、話を聞く限りご主人様の敵ではないのでしょう? 我々が前で抑えている間に魔法で始末して下さい」

「ズールー様の言う通りです。私たちが前で抑えますので宜しくお願いします」

 俺の戦闘奴隷二人も呑気なもんだった。まぁでも行けそうだな。

「……ちょっといいですか? 威勢が良くなっている所に水を差したくはないのですが、皆のしゅ、皆さんが失ね、お忘れの事があります。ゼノムさんが嘗て戦ったというはぐれオーガならいいのですが、オーガは大抵リーダー格のオーガメイジに率いられています。ここ、バルドゥックの迷宮の中に出てくるオーガがどういう感じで出てくるのかは解りませんが、場合によっては魔法を使う相手が混じっている可能性もあります。用心に用心を重ねるべきです」

 冷静な声でミヅチが注意を喚起した。失念という言葉の使い方は間違ってないぞ。でも、オーガメイジだって? 魔法を使うって?

「今は「生命感知ディテクト・ライフ」の魔術が使えますから不意打ちについてはそう心配しなくてもいいでしょう。確かにゼノムさんが言う通り、身長は三m近くもあって大きな体をしています。比例して力も非常に強く、強力な魔物だと言えますが、逆におつむが弱い事が弱点です。頭の良いオークが手懐けたりする事もあります。欲望に弱く、自制心がありませんのでこちらが先に見つけられたのであれば囮などに簡単に引っかかってくれます。しかし、不意打ちをされなくてもオーガの集団は侮れません。
 恐らく、二~三匹くらいに通路に並ばれるだけで後ろから攻撃魔術を撃ち放題に撃って来ます。オーガメイジは魔力切れになるまで魔法で攻撃してくると思って下さい。それと、彼らの本能は食欲や睡眠欲は勿論ですが、それ以上に自分より小さいものをいたぶりたいという欲求が強いようです。オーガメイジはもともと大した自制心を持っている訳ではありませんが、魔力切れになった場合、完全にタガが外れて襲いかかって来ると思って下さい」

 うお、詳しいな。そういや生き字引だった。ついでに魔術を使うと言われて思い出したが、俺たちはまだ魔法を使ってくる相手とまともに戦った事は無かった。「ヴァンパイア」は一瞬で塵にしちゃったし、「輝く刃(ブライト・ブレイド)」の一件は魔法を使う相手と戦ったとは言えないだろう。あんときあいつら魔法使って無かったし。

「み、ミヅチはオーガと戦ったことがあるの?」

 驚いたような声でラルファが訊いた。

「何度かあります。数える程ですが。大抵はこちらが先に見つけて不意打ちを掛けるようにしていたので大きな問題はありませんでしたが、今年の頭、ゼノムさんのように隊商の護衛をしていた時に不意打ちを受けました。オーガ四匹とオーガメイジ一匹の集団でした。隊商の護衛は私を含めて合計八人居たのですが、一人は亡くなってしまい、数人は大怪我を負いました」

「オーガ四匹にオーガメイジだと……?」

 ゼノムが目を見開いていた。

「一人の犠牲でオーガ合計五匹って事は、結構弱いの?」

 グィネがよく解らない、という感じで訊いていた。んな訳ゃねーだろ。

「私と一緒に護衛をしていた戦士は、使える元素魔法の数こそ私より少ないですが、全員私に近い魔力量を持っていました。それでも一人は命を落としてしまったのです。強敵です」

 ミヅチの返答を聞いた皆はゴクリと唾を飲み込んでいた。



・・・・・・・・・



 ミヅチの解説によると、オーガは一匹とかであればそれ程脅威ではないらしい。ゼノムも一対一なら脚を最初に狙って倒せると言っていたし。しかし、複数で、リーダーとか、指導者のような存在が居ると一気に危険な存在へと豹変する。リーダーが他のオーガ並みの知能なら大した事はないようだが、当然オーガにも個体差はある。その代表格がオーガメイジだ。オーガの中で魔法が使える奴が周囲のオーガを従えているらしい。愚かなオーガと言えど、後ろで指揮を取っている奴は死ににくいから必然的に長生きする。そうすると賢くもなる。という理屈らしい。賢いオーガに率いられた集団は巨体を茂みに隠し、タイミングを計った不意打ちを狙って来るそうだ。

 また、嫌な話だが、オーガメイジの中には狡猾な奴もいて的確に魔術を使い、味方の援護をする。相手の出方を窺っている間は魔力切れにならないようにもするらしい。不利と見て取った場合にはさっさと逃げ出す事すらするそうだ。

 こいつは一筋縄では行かないようだ。取り敢えずミヅチの意見を参考にして対オーガの連携を確認する。魔法を使って来るのであれば俺が先頭に立つ。「アンチマジックフィールド」でオーガメイジの魔術を無効化しつつ、他のメンバーでオーガ達の足止めをする。その間に可能なら迂回したミヅチとトリスが攻撃魔術で後ろのオーガメイジから始末する。ベルは俺の「アンチマジックフィールド」越しに弓で援護だ。

 今回はズールーとエンゲラ、トリスが盾を用意している。ダメージを与える事を考えなければそれなりに耐えられるだろ。俺も「アンチマジックフィールド」を使いながら鑑定して、オーガメイジのMPが少なくなったら攻撃に切り替えた方が良さそうだ。勿論、これらはこちらが不意打ちを掛けられるという、最悪の事態を想定したものだ。可能ならこちらから不意打ちを掛け、魔法や弓で仕留めるのが理想だ。何しろ、ゼノムやミヅチによると、余りにも高い膂力を誇り、熟練の戦士でも棍棒の一撃をまともに喰らえばペッチャンコにされちまうそうだからな。

 以前落とされた場所が十四層なら、この迷宮は十三層まである事になる。七層は丁度その真ん中にあたる。

 今までは小手調べ程度か。ここからが本番なのかも知れない。

 
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