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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第九十四話 家族の時間

7444年9月9日

 昨日の夕方迷宮から戻り、今日から三連休だ。いつも通りランニングをしてから迷宮に向かおうとしてハタと気づいた。よく考えたらこの休みは「罠発見ファインド・トラップ」と「縄罠及び落(ディテクト・スネア)とし穴感知(ズ・アンド・ピッツ)」の魔術に習熟するつもりだった。一層の適当な罠の前でミヅチを参考に魔法を使いまくるだけだ。だが、罠を調べる魔術なんかわざわざ金払って迷宮に行く程のもんじゃない。

 街の外周で農作業をしている平民のおっさんから鍬を借り、ズールーに落とし穴を掘らせた。ミヅチに見てもらいながら罠関係の二つの魔術を練習したのだが、ズールーの落とし穴は「縄罠及び落(ディテクト・スネア)とし穴感知(ズ・アンド・ピッツ)」でしか見えなかった。草を縛った足を引っ掛ける罠も作ってみたがこれにも「罠発見ファインド・トラップ」は反応しなかった。六層の落とし穴とは逆だ。こっちが正しい気もするけど、なんでだろ?

 しかし、これじゃあ「罠発見ファインド・トラップ」が使えない。いや、実際にミヅチが使っている所を目の前で見ているから使えない事はないが、時間がかかる。カールとのトレーニングの時はどうしたんだろう? 不思議に思って聞いてみたら、妖精用の小さなクロスボウのトリガーに糸を繋げた物で練習したとの事だった。それを聞いて「え? あいつら裸だったじゃん、糸なんかあるのかよ」とか「道具を使うんだな」とか非常に失礼なことを考えていた。

 妖精郷には樹木も生えているし、あれだけの魔術を使える奴もいるなら金属を取り出すことも訳もなく出来るだろう。そう考えればクロスボウだのボルトだのを作る事くらいは問題ないのだろう。

 最初の数回、ミヅチに様子を見て貰い、問題無い様だったので、ズールーとミヅチは解放し、今日は好きにさせる事にした。あとは一人でも問題ない。お昼近くになる頃には魔術の使用回数は百を超え、数十秒で発動出来る程度にまで慣れた。まだMPは5000以上余裕が有る。流石に魔術の練習の為だけにクロスボウを買うのはな……。一層にはそんなに多くはないけど警鐘アラームの罠もある。あれで試してみようか。

 お昼丁度くらいにボイル亭に戻るとプロテクターを身につけるのも面倒なので剣だけ腰にぶち込んで地図を持ってすぐに出かけた。入口広場で串焼きを食って昼飯にしてから迷宮に入る。転移を何回か繰り返す羽目になったが、首尾よく警鐘の罠があるエリアに転移できた。夕方くらいまでかかってしまったが「罠発見ファインド・トラップ」の魔術も100回以上練習出来た。勿論、罠なんか無くても練習自体は可能だ。でも、結果が目に映った方が理解しやすいしね。

 警鐘の罠は一見すると落とし穴に似ている。土でカモフラージュされた大きな板を踏むと何処かで警鐘が鳴るのだ。「罠発見ファインド・トラップ」の魔術を使った瞬間、そのカモフラージュされた板は赤く見える。見え方自体は「縄罠及び落(ディテクト・スネア)とし穴感知(ズ・アンド・ピッツ)」と一緒なんだな。

 夜は飯を食ったあと「魅了感知ディテクト・チャーム」、「嘘看破ディテクト・ライ」、「生命感知ディテクト・ライフ」、「幻影ディスペル・打破イリュージョン」、「魔術打破ディスペル・マジック」についてミヅチから学んだ。一応使えるようにはなったが回数をこなさないとな。折を見て練習するしかないだろう。



・・・・・・・・・



7444年9月17日

 夕方五時頃、迷宮から戻ったら宿に伝言があった。今日の昼頃、まだ迷宮に入っている時に兄貴達が宿に立ち寄っていたらしい。伝言を読んだ俺は皆と晩飯も食わず、着替えもせず、着替えだけサドルバッグに詰め込むと一人馬を飛ばして王都の商会へと行った。何しろコンドームを王室に納入するのは俺の仕事だしな。今月は忙しいな。

 慌てて宿を飛び出そうとする俺を不思議に思ったのか、皆が理由を尋ねて来たが、兄貴達が着いたので明日の朝から王城に納品に行かなきゃならんから、と答えると納得してくれた。

 俺が王都に行っている間、ミヅチを先生にしてトリス、ベル、ラルファ、グィネに「生命感知ディテクト・ライフ」、「幻影ディスペル・打破イリュージョン」を学ばせた。特に「生命感知ディテクト・ライフ」については重要だと言い含め、効果について簡単に説明したら全員納得していた。一応ミヅチには全員のMP量と使う魔術の使用MPを説明していたので魔力切れには気をつけてくれるだろう。

 なお、「魔術打破ディスペル・マジック」は魔法の技能レベルの関係でラルファとベルでも使えないからこれはお預けだ。トリスとグィネも習得している元素魔法の関係で「生命感知ディテクト・ライフ」は使えない。全員習得可能なのは無魔法だけしか使わない「幻影ディスペル・打破イリュージョン」だけだ。

 商会に着いたのは夕方六時頃だ。息せき切って駆け込んだが、どうやら間に合ったようだ。流石兄貴が使っていた軍馬だけある。10km強とは言え、外輪山の勾配をものともせず、僅か40分程で到着してしまった。

 丁度全員で夕食に行く所だったらしい。商会の前でぞろぞろと戸締りをしている所だった。

「ごめん、遅くなった!」

「おう、元気か?」

 懐かしい顔が俺に挨拶を寄越してきた。

「元気だよ。ピンピンしてます。父さん、母さん、久しぶり」

「背が伸びたわね」

 居たのは兄貴だけじゃなく、親父とお袋も来ていた。ここのところ兄貴にばかり納品を押し付けていた事が後ろめたかったらしい。それに、兄貴に爵位を譲るにあたって、領主となる兄貴がしょっちゅう領地を空ける事も良くないため、今後は兄貴や両親、場合によっては義姉さんが隊商を率いて来る事もあるそうだ。

「アル、俺たちはこれから食事に行く。従士の皆を労ってやらにゃならんし、村から離れた王都ここで頑張ってきたリョーグ達もな。それに、ヨトゥーレン達も普段から大層頑張ってくれているらしいじゃないか。今日は俺の奢りで全員で旨いものを食いに行くんだ」

 おお、そりゃ良いな! そう言えばルークの顔も見えるな。ダイアンが少し照れた感じだ。こりゃ今夜は楽しそうだ。

「ん、アルが来たのか? なら俺が行ってもいいよな?」

 商会本拠の店の戸を開けて兄貴が顔を出した。俺は汗を垂らしながらも意味がわからなかった。

「ああ、そうだな。そうしようか」

 は?

「じゃあ、そういう訳で、助かったよアル。荷物は店に全部運び入れてある。盗まれないようにな。宜しく頼んだぞ。それと、うちの馬車と馬は作業場の方だ」

「あ、ああ……」

 兄貴がいい笑顔で皆と合流した。ズールーでも連れてくりゃ良かった。

「アル、そんな顔しないの。今夜は我慢しなさい。作業場の方はミルーが一晩泊まり込むんだから。あとで迎えに来るわ」

「うん……」

 ズールーだけじゃなく、エンゲラも連れて来るべきだった。

 皆からお屋形様とか奥様とか言われている両親を見てヨトゥーレン母子は相当緊張して対応していた。彼女たちは一人取り残される俺を気の毒に思ってくれたのか、単に小さな子供三人連れでレストラン(多分)に行くのを遠慮したのかは解らないが、自分たちが残ると言ってくれた。だが、俺はそれを断った。両親が皆を労うなら俺と兄貴や姉ちゃんが割を食うのは当たり前の事だしな。別に明日だって遅くはないんだし。

 三時間後、お開きになったらしくダイアン達が戻って来た。ここは彼女たちの自宅でもあるから当然戻って来なきゃおかしいからそれは良いんだが、ルークの姿が見えなかった。喧嘩でもしたのかと心配したが、結婚前に出来るだけ親娘水入らずで過ごさせてやれという、俺の両親の考えらしい。ロズラルに皆が泊まっている宿を聞くと馬に跨って作業場へと向かった。

 作業場の裏に繋いでいた荷駄と軍馬の脇に俺の軍馬も繋ごうとしたら、

「誰?」

 と鋭い誰何の声がかかった。あら、寝てなかったのか。

「俺だよ」

「アル?」

「ああ」

「どうしたの? 迷宮に入ってたんじゃなかったの?」

 少し不思議そうに問われた。

「今日の夕方出てきて伝言を受けたんだ。で、慌てて来たって訳。食事が終わったようだし、交代だ。俺が見張っとくよ。皆は「ペーリッツ」に泊まるってさ。知ってるだろ?」

「あら、そう? じゃあ私は行くわ。宜しくね」

 一度くらいは遠慮しろよ……。いいけど。

「姉ちゃん、今日は騎士団の方、どうしたの?」

「ああ、四時過ぎにウィットニーが来てくれたから今日の任務が終わるまで待ってもらって、明日はお休み貰っちゃった。両親が来てるならいいだろうってケンドゥス隊長が許可してくれたからね。大手を振って出てきたわよ」

 まぁ、鎧の件もあるだろうし、甘くせざるを得ないんかな? 良く解んねぇけど。

「そっか。なら行って来なよ。俺も夕方に顔見ただけだけど、姉ちゃんは結構長い間会ってないしね。喜ぶと思うよ」

「うん、じゃあね」

「ああ、明日には合流するよ」

 姉ちゃんは俺の軍馬に跨ると馬を歩ませた、って、え?

 着替え……。



・・・・・・・・・



7444年9月18日

 一夜明けると従士たちが馬と馬車を取りに来た。俺は空の荷台に乗って店まで移動する。店には既に全員揃っていた。鎧の箱を馬車の荷台に積むと納品に出発だ。当然コンドームの詰まった箱も忘れてはいない。その間に着替えを済ませ、こざっぱりとした服装になった。

 いつものように騎士団に鎧を納品し、採寸する。その間俺はコンドームを納めに行ったが、対応に出てきたのはモリーンだった。やっぱ国王は来ないか。暇じゃねぇだろうし、当たり前と言えば当たり前なんだがね。意外だったのはモーライル王妃は国王から何も聞いてそうになかった事だ。少しだけ世間話をしたが以前と全く変わった様子は無かった。聞いていて全く対応を変えないのであればそれはそれでいいし、その位の事は王妃なら出来るだろうけどさ。俺みたいな奴相手にそこまでする必要なんかないと思うんだよね。

 さっさと納品を済ませた俺たちは昼食を摂る事にした。店では従士たちとは別の個室に五人だけ、家族水入らずの食事だ。

「食事が運ばれるまでちょっと聞いてくれ」

 親父が改まって言った。何だろ?

「今月の一日にゼットとベッキーが五歳の誕生日を迎えた。ミルーが魔法の修行を始めたのが五歳になって少ししたくらいだからな。時期的に丁度良いだろう。今回戻ったらゼットとベッキーの魔法の修行を始める」

 ああ、そうか。もうそんなになるんだな。俺は彼らが二歳半位の時に家を出たからな。流石に俺の事は覚えちゃいないだろう。姉ちゃんも言わずもがな、だ。

「そこでミルーとアルにはどうしても話を聞いておきたかったの。あなたたちが魔法の修行を始めた頃、感じた事、気を付けた方が良い事や、もしあるならこうした方が良いと言う意見ね」

 そういう事か。

「それなら……」

 一時間程話しながら家族皆で昼食を摂り、俺は久々に両親の顔を見ながら話が出来た事に満足感を覚えていた。

「ところで、父さんたちはいつまで王都ここにいるの?」

 俺は殺戮者スローターズの皆を紹介したかった。奴隷三人の件もあるが、ミヅチの件もある。

「ああ、今日はもう一日泊まるが、明日の朝、ルークの結婚に立ち会ってから帰る。だが、バルドゥックには寄れそうもないんだ。実は、来る途中キールに寄って来たんだが、来年早々にまた出兵があるらしい。ファーンと一緒に帰りに相談したいと言われてしまってな……それに、その時にファーンに爵位を譲る。その式典の日取りもあるからな。お前の仲間の顔を見るのはまた今度来る時までお預けになっちまう」

「来年早々? それなら多分私も参加すると思う。ケンドゥス卿が指揮を執るらしいし……」

「うえ、俺たちミルーの下になるのかよ……たまんねぇな。お手柔らかに頼むぞ」

「私が指揮する訳じゃないよ、お兄ちゃん。でも、そうか、ウェブドス騎士団が来るのかぁ……」

「多分私は行かないわ。代わりにシャーニに出て貰うから」

 ……クローとマリーも征く事になるんだろうな……。だが、そういう事情があるなら仕方ないな。紹介は又の機会にしようか。どうせまた年末か年明けには来る……のかな? 来年早々なら来れないか、来ても鎧やらの納品だろうし、バルドゥックの俺に荷物だけ預けてさっさと戦場に向かうのかもな。

 出征の話で盛り上がっているが、兄貴だけでなく、姉ちゃんも行くならそう簡単にバークッドの従士に戦死者は出ないだろう。シャーニ義姉さんも行くなら姉ちゃんと二人、「キュアーシリアス」が使えるし、ひょっとしたらシャーニ義姉さんなら「キュアークリティカル」まで……って流石にそれはないか。

「それはそうとアル、お前、かなり頑張っているらしいな。ファーンや皆から聞いたぞ」

 昔は怖かった髭面が優しく微笑んでくれる。

「バルドゥック一の冒険者なんですって? 流石私たちの息子ね。鼻が高いわ」

 母ちゃんが俺を撫でてくれた。何故か照れくさいと言うより嬉しかった。

「ああ、なんだっけ? 嫌な名前で呼ばれてるわよね」

 は? 舐めてんのか?

殺戮者スローターズだ。迷宮で出会う魔物を全て殺しているからそう呼ばれているらしい。他の冒険者は魔物と戦わずに逃げ回っているらしいからな。アルとその仲間たちにはピッタリないい渾名だ」

 流石は兄貴……ってどっかで聞いた言い方だな。

「へえ、アルは二つ名が付いてるのね。冒険者に二つ名がつくのは一流の証よ。大したものだわ」

「そうだな。俺たちにはそんなもの無かった。俺も鼻が高い」

「どうせゴブリン殺して喜んでるくらいでしょ?」

 このクソアマ……。

「んなことねぇよ。もっと大物沢山殺ってるわ!」

「へぇー、オークくらい? それともノールくらいかな?」

「あら、私もアルの戦果を聞きたいわ。今まで相手にした中で一番強かったのって何?」

 デス=タイラント・キン……。証拠がねぇ。イエローハンドローパーかなぁ。あ、いや、フレッシュゴーレムもなかなか……ヴァンパイアは一瞬だったし……。必死さの度合いで言ったら昔殺したホーンドベアーが一番だった気も……。何でもいいか。

「「イエローハンドローパー」はなかなか強かった……。「ヴァンパイア」もまともに当たってたらヤバかったと思う」

「「な!」」

 両親がハモった。知ってるらしいなぁ。名前を聞いた事があるくらいなんだろうか?

「ヴァ、ヴァンパイア、だって?」

 兄貴も絶句してる。

「「ヴァンパイア・バット」の事を「ヴァンパイア」なんて言っちゃダメじゃない」

 アホな女は減らず口を叩こうとしているが目が泳いでいる。へへん。

「アル……あんた、やっぱりね。本気で魔法使ってるの?」

「いんや」

 七層以下が六層みたいに天井が高くなけりゃ最悪に備えた考えもある。その時こそ全力で魔法を使うかも知れない。使いどころを間違えたらと考えると恐ろしくて遠慮したいけど。

「魔術は幾つ使えるの?」

 真剣な顔で姉ちゃんが問いかけてきた。

「俺の生命線だ。教えねぇ、と言いたい所だけど、30種類くらいかな。攻撃魔術20種類、それ以外、治癒系含めて10種類ってとこかね」

 一秒以内に使えるのは標準ならカノン系までの攻撃魔術全部。弾頭五本迄ならトレバシェット系まで。八本迄ならヘビーカタパルト系まで。全部ミサイル付きと無しで使える。アザーヘッドの攻撃魔術は標準なら知られているのは全部使える。「ライトニングボルト」と「チェインライトニング」、「ファイアーボール」、「アイスコーン」「ディスインテグレイト」、クラウド系全般はかなり威力を込めても一秒以内に放てる。「グロウススパイク」は25本でしか練習してないけどこれも一秒くらいでは出来るようになったかな……。「アンチマジックフィールド」は各種倍率でアホみたいに練習したから治癒系全般同様に瞬間的に使える。勿論、治癒系は自分にもね。リムーブ系も秘薬買って相当練習したから一秒か二秒くらいでは使えるよ。それに、とても口にできない高度な魔術もね。威力バリエーションを別にしてもざっと150種類くらいにはなるんじゃないか?

「……あんた、一人で王国軍相手に出来るかもね」

「そりゃ無理だ。いいとこ100人位迄だろ」

 1000人位は充分行けるだろうけど。狭い場所に集まってくれるならもっと……

「ひゃ……あんたねぇ……まぁいいわ。なんだかバカバカしくなる。ダースライン侯爵ですら私くらいの技能レベルなのに……」

「母さんに言われた通り、迷宮に入りっ放しじゃない日は出来るだけ魔術の修行をして過ごしてるしね。それに……これでもまだ足りないと思ってる。俺は金が無いから沢山の軍隊を雇うことは難しいし、領土を攻められでもしたら自分で守らなきゃいけないしね」

「領土ってあんた、何言ってるの?」

 ああ、両親と兄夫婦しか知らなかったんだ。姉ちゃんには言ってなかったんだ。

「ミルー、アルは自分の国を作りたいんだ。俺が許可した」

「ええっ!? 父さん、それ本気で言ってるの? そんな事出来っこ……」

「その為に資金を稼ぐんだ。そこそこはあるけど全然足りない。あと、言っとくけど、この事は国王陛下にも既にお話ししたんだ。陛下も俺の事を馬鹿にしたけど、金払えば子爵位と適当な領地を割譲してくれるって仰って頂いたよ。こっちから敵対しなければロンベルト側からの攻撃もしないとも仰って頂いた」

「「そこまで……」」

 皆、驚いて俺を見つめていた。俺は静かにミルーを見返す。

「陛下に申し上げた以上、俺は意地でもやる。何年かかろうと、石に齧り付いてでも俺の国を造る。そりゃあ確かに今は単なる一介の冒険者にしか過ぎない。でも、初代ロンベルト一世陛下やログモック王ログモック・ザ・ピットバイパーコーラクト王(ウィザード・キング)も元は一介の冒険者だったと言うじゃないか。俺に出来ない道理は無いと思ってる」

 ミルーも俺の目を正面から受け止めていた。

「本気なのね?」

「ああ」

「失敗して野垂れ死ぬかも知れないわよ」

「そりゃ俺に金も力も無ければそうなるだろう」

「国を作ったあとは? どうするの?」

「そんなの決まってる。出来るだけ長く続くようにするだろ」

「国を作って何をしたいの? どんな国を目指すの?」

「俺の好きなように治めるさ。そこらに幾つもある小国みたいになっちゃうかも知れないな。だけど、それがどうした? 俺は自分の国が作りたいから作るんだ。この世界に生まれたアレイン・グリードが生きた証を出来るだけ多くの人に知って貰うために俺の国を作るんだ」

「理想や理念は無いの?」

「理想? 理念? 姉ちゃんは陛下直属の騎士団員だからそういう教育を受けているんだろうな。別に今の世の中に不満がある訳じゃない。何かを正したいとか、救いたいとかそんな事も考えてない。それともそういった高邁な理想がないと国を作っちゃいけないのか? ロンベルト王国を建国した初代ロンベルト一世陛下はそんな事をお考えだったのか? ログモック王ログモック・ザ・ピットバイパーはカンビット王国を小国の時に乗っ取ってあそこまででかくした。敵対者は赤ん坊まで根絶やしにするくらい相当残忍な王様だったらしいじゃないか。それでも百年以上続いてる。今もね。
 勿論俺は残忍に振る舞いたいなんてこれっぽっちも思っちゃいない。残忍だったと悪名を残したい訳じゃないからな。それに、こんな話は家族だからしているんだ。勿論、実際には何らかの理念や主義主張は必要かも知れないとは思っているよ。まぁ、お題目程度だなぁ」

「ミルー」

「なぁに? 父さん」

「アルについては俺が認めた。弟が必死に自分の人生を切り開こうとしているのを邪魔したいのか? お前はアルに文句を言うだけか? 協力や応援してやれとまでは言わんが、認めてやれ」

「それは……解ってるわ……でも」

「でも、なんだ?」

「そんなんじゃいつか足元から掬われるんじゃないかって……」

「そうかも知れん。そうじゃないかも知れん。理想や理念はそれはそれで大切なものだ。時と場合によって人はそういったものに命さえ捧げるだろう。だが、それ以前に大切な事さえ出来れば良いだろう」

「何? 大切なことって」

「解らんのか……ファーン、教えてやれ」

「はい、領民の人生を保護する事だ。アルの場合、国だから国民だろうな。餓えさせず、安心して次代を担う子供を産み、育てられる環境を整える事だ。大多数が納得出来る法整備とか理念や理想に繋がりそうな事なんかその次だ。簡単に言えば強い国だろうな。戦争に負けなきゃそうそう餓える事もない。賠償金を取れるからな」

 正直な話、ミルーには驚いていた。正確にはミルーに、いやミルーを始めとした直属の騎士団に“良い”国の理想だとか理念だとかを教育させていたロンベルト王国にだ。こんな進んだ教育を受けさせているのはロンベルト王国だけだと思うが。美紀、少しは手加減しとけ。因みに親父と兄貴が言っている事は当たり前の内容だ。恐らくいつの時代、どんな世界でも普遍的な事だろう。

 生き物は食わなきゃ死ぬのだから。

 そして、高邁な理想を語るのは生きていなきゃ無理なことだ。近隣諸国では一番豊かな国だと言われているロンベルト王国ですら、十年おきくらいにどこかで飢饉が起きたりしている。餓死者も沢山出ているだろう。諸外国ならもっと深刻な状況も考えられる。だからデーバスはダート平原が欲しいのだし、ロンベルトもダート平原は欲しいんだ。大戦争の被害を考えると勝っても別の国から攻められた時に問題が起きる可能性が高いから本気で勝負出来無いだけだ。

 王都やバルドゥックで生活しているとあんまり自覚しないで済むが、今この瞬間だってどこかで飢え死にしている子供や赤ん坊がいるだろう。王国では比較的豊かだと言われているウェブドス侯爵領ですら昔のバークッドより貧しい村だってあった。別の領地なら廃村になっている可能性だってある。流行病が蔓延したら数%以上の人が死ぬのは変わらないし、その中に一家の大黒柱が居る事だってあるんだ。虫垂炎ですら簡単に死んでしまう。

 俺なら魔術で幾らかは救えるかも知れない。ひょっとしたら病気を治す魔術を発見するか開発出来るかも知れない。俺とミヅチの子供(今のところ予定すらないが)やトリスとベルの子供、ラルファ、グィネ、ズールー、エンゲラ、ギベルティの子供が姉ちゃん並の魔力を持って育ったとき、その時こそ俺の国の真価が発揮される時かもしれない。

 そう考えりゃオースではこれ以上無い程の国民の生活を保護出来る国家を作れるかも知れない。

 え? ゼノムはもう子供作んないだろ……。



・・・・・・・・・



 その日の夜、「ペーリッツ」に宿を取った俺とミルーは、昔のように素っ裸で隣あったベッドに転がると天井を向いて話をした。

「アル」

「ん?」

「父さんに言われたし、まぁ納得出来無い事も無いから認めてはあげる。言いくるめられた気もするけど。だけどね……」

 ミルーは上半身を起こして真剣な顔で俺を見つめながら言葉を継いだ。

「だけど、あんたが上手く国を作れたとしても、ロンベルト王国とは外国になるわ」

「そりゃそうだ」

「陛下はお約束したかも知れないけど、あんたの国と戦争になるかも知れない。その時、私はどうすれば良いの?」

 あの国王おっさんは国王たるもの一度吐いた唾は飲まんとか言ってたから、俺が無茶な事さえしなきゃそんな事は無い様な気もするが、考えられないことじゃない。

「……そうだね。俺にとって一番有難いのはロンベルトを裏切って俺についてくれることかな。でも流石に姉ちゃんはそんな事しないだろ。次はサボタージュして参戦しないでいてくれる事。でも、姉ちゃんは第一騎士団だ。無理だろうね……」

「……」

「俺の首を獲りに来ればいいさ」

「ふん、安心しなさい。そんときゃ私自ら介錯してやるから」

 相変わらず残念な胸だな。

「おお怖ぇ。なら姉ちゃんが現役中はそうならないようにしなきゃな」

 目を瞑った。

 
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