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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第九十三話 迷宮の日常

7444年9月3日

 迷宮の入口の転移の水晶棒を握った俺の仲間が目の間で消えていく。
 それを確認したあとズールーと二人で、一層へと転移した。あら? 結構離れちゃったのね。地図を確認して道筋を確かめ、俺とズールーは足を踏み出した。

「ズールー、あいつらより先についてやろうぜ。急ぐぞ」

「はい!」

 何度も通り、既に勝手知ったる己の庭のような一層だ。地図の完成度も高いし、解ってる道だから罠にかかることもない。あいつらもそれなりのスピードで移動しているっぽいな。

 モン部屋(by屁こき虫)を五つ撃破して中央の転移の水晶の小部屋に到着したのは八時前だった。五時半くらいには迷宮に入ったから二時間強で突破したんだな。三十分ほど待っていたらゼノムたちが現れた。

「三十分休んだら二層に行こうか。ズールー、エンゲラと交代な」

 休憩中に知らないパーティーが二層に転移して行った。

 二層も問題なく十一時前に突破し、また転移の水晶棒の部屋で待つことになった。よく考えたらエンゲラ、ズールー、ミヅチとしか二人で迷宮に入った事無いな。今度休みの時、ズールーとエンゲラには迷宮の中で皆の固有技能についてだいたいの事を教えてもいいかも知れない。固有技能で思い出したけど、トリスの【秤】ってレベル9の拡張ってどうなってんのかね? ラルファは何となく役に立ちそうな感じもするけどさ。

 三層では再びズールーと組んで先を急いだ。モン部屋の主からしか魔石を取らないから早い早い。夕方四時過ぎには三層の転移の水晶棒の部屋に辿り着けた。

 今日はここで野営だ。

 予め場所は確保しておいた。晩飯の時ゼノムたちに聞いたら彼らもそう苦労はなかったようだ。良かった。

 ミヅチが加入したため、見張りのローテーションを変えた。一人はその日見張りをせずに朝までギベルティと同様にぐっすり眠る。初日なので俺が休ませて貰うことにした。慣れてきたとは言え迷宮内では神経を使うし、それに伴って体力も消耗するからすぐに眠れる。ローテーションから行くとミヅチとラルファが一緒に見張りをするのは明後日になる予定だ。

 少しでもラルファの警戒心(?)が解れるといいけど、焦ってもどうにもなるまい。半年一年かかったって別にいいんだ。逆にそのくらいかかれば経験が高めのラルファに他のメンバーが【部隊編成パーティーゼーション】の経験値増加の効果で追いつくかも知れない。



・・・・・・・・・



7444年9月4日

 特に問題なく五層の転移の水晶棒に辿り着けた。心配だったのは祭壇のある部屋に当たった場合だったが、そもそも滅多に無いし(俺たちが知る限り五層全部で九部屋しかない)あまり神経質になっても仕方ない、と思う事にした。俺ほどMP効率も良くないミヅチだが、元素魔法レベル5は伊達じゃない。50cmくらいの厚さなら8m四方近くに氷を張れる。無っ茶苦茶強い特別製の部屋の主ならともかく、普通の部屋の主(普通と言うのも妙な表現だが)や、通路で出てくるような相手なら敵じゃない。氷を張る度にMPを10も使うが、魔剣さえ握っていれば四十分で回復するのだ。

 大量のMPに頼った連発だって出来る。そうそう遅れを取ることもあるまい。パーティーを割っても充分にトップチームに肩を並べられることが証明された。

 因みに【部隊編成パーティーゼーション】による部隊の構成人数が増えた事による能力値のボーナスは鑑定で見えるのかと思ったが見えないようだ。熟練度ボーナスと言う事は、やはり能力値の最大値を増やす類の物では無いと云う事なんだろうな。

 一夜明けた翌朝。今日の俺の見張りのローテーションは一番最後、午前四時から六時だ。相棒はトリスだ。ベルとズールーに起こされて目をこすりながら冷たい水で顔を洗い、トリスと二人、順番に通路の先まで行って立ち小便をする。予めバケツ一杯くらいの土を出しておいて表面を凹ませておくのが小便器作りのコツだ。何かの参考にしてくれ。

 トリスと二人、部屋の中央にある転移の水晶棒の台座に寄りかかって座りながら話をして時間を潰した。

「ラルファの事は任せて下さい。と言うかベルに任せて仕切らせてやって下さい。あんまり周りがやいのやいの言うより当人同士で近づきあって解決するのが一番ですよ」

「ああ、そうだな」

 それは解ってる。それに、なんだかんだ言ってベルは中心になって女性たちを纏めて来た。ある意味で男性たちも彼女が時々発する妙な迫力と言うか、圧力のようなものに気圧されたりもしていた。多分、全員の本音を喋らせることが出来たのなら「ベルナデット・コーロイルだけは本気で怒らせたらヤバイ」というものだろう。勿論、冗談ではなく、本当に文字通りの意味でそう思っていると思う。

 神業のような弓の技倆を持ち、豊富な魔力に支えられた魔術も彼女の力の源ではあるのだが、本当に恐れられているのはその性格だと思う。愛らしい長い兎の耳を持ち、ミスキャンパスだったと言うことも頷ける精人族エルフにも劣らぬ程美しい顔立ち、兎人族バニーマン特有の魅力的な女性らしい胸、しかしながら運動で引き締まった体つき。外見的に見て充分過ぎるほど完璧に近いが、たまに仲間以外にかける視線は氷のようなものを思わせる。その時発せられる言葉も慈悲の欠片も感じさせない、合理に徹した冷たいものである印象も強い。

 だからと言って本当に冷たい訳ではなく、仲間に対しては温かい対応をする。特に恋人のトリスに対してはアマアマでべったりだ。その危機において取り乱す事もある。ミヅチには簡単に説明してはいるが、まだそんな実感なんか無いだろうからベルの本性は知らないだろう。逆にラルファは良~く知っている。表面上は対等の友達にしか見えないが、深い部分でラルファの尻尾ねっこを握っているのはベルだと思う。

 特にトリスが合流して来るまではあんまりそういった部分が表に出る事は無かったが、トリスが合流してからというもの、一番変わったのはベルだと思う。合流が契機になったのか、元々肝が座っていたのがたまたま同時に表に出ただけなのか今一判断がつけられないが、当初ラルファ同様だと思っていた「甘さ」の部分が無くなった。

 正直な話、いくら自分の目的が合致していたとしても、例えば村一つ焼き払うなんて事態に当たったとしたら、俺も躊躇すると思う。別の方法で同様の効果を上げられないか全身全霊を注ぎ込んで検討すると思う。だが、彼女なら眉一つ動かさずに焼き払うだろう。それが他所の村なら。ああ、勿論、立ち退き警告くらいはするとは思うよ。

「元々俺も口出しする気は無いよ。だが、正直な話、ラルファとミヅチが微妙な感じになることはちょっと予想としては順位が低かった。俺はミヅチが最初にやらかすのはベルだと思ってた。当たって火花を散らすけど、一時的なものですぐに意気投合するだろうなって感じだよ」

「主導権争いですか」

 トリスがニヤリとして言った。こいつも俺と同じような事を考えていたんだろうな。

「まぁね。でも、決定的な物にはならないだろうとは思ってた。ああ見えてミヅチは色々問題を抱えてたんだ。転生前は三十だったが、元々それ程押し出しの強い性格じゃないし、抱えてた問題についてはかなり払拭されたから今は解放感が強いと思う。それに、主導権争いと言っても、何に対する主導権なのか、あの二人ならその方向が異なる事にすぐに気付くと思ったから、当たるのもいいだろうくらいに考えてたんだ」

「なるほど」

 なるほど、って、解ってんのかね、こいつ。まぁそれなりに理解はしているんだろうけど。

「トリス、ゼノムから出来るだけ学んどけ。お前の為にな」

「……はい。……そうですね」

 こんな事を話しているうちに時間が経っていく。
 そろそろギベルティが朝食の用意に起きて来る頃だろう。



・・・・・・・・・



7444年9月5日

「よし、行くぞ」

 ギベルティを野営地に残し、俺たち九人は転移の水晶棒を握る。六層の転移の罠に対して「罠発見ファインド・トラップ」と「縄罠及び落(ディテクト・スネア)とし穴感知(ズ・アンド・ピッツ)」のどちらが有効かは解らないが、あれも罠の一種ならどちらかには引っかかるだろうよ。

 上手い具合に来た事のあるエリア、且つ、途中で行った事の無い別れ道がある。

 以前確認していた転移の罠がある手前でミヅチに「罠発見ファインド・トラップ」の魔術を使わせた。

「ミヅチ、そろそろ転移の罠が有るはずだ「罠発見ファインド・トラップ」を使え」

「はい」

「「えっ」」

 びっくり。

「見えません」

「「えっ」」

 失望。

「じゃあ「縄罠及び落(ディテクト・スネア)とし穴感知(ズ・アンド・ピッツ)」だな、やれ」

「はい」

「「えっ」」

 またびっくり。

「この先の通路の両脇に石? ですかね。それらしいのが一組見えますね。100mは離れてないと思います」

「「えっ」」

 感心。うるせぇよ。

「ミヅチは罠を発見出来る魔術が使える。俺も彼女から習うつもりだ。だが、どちらの魔術も元素魔法のレベルが4とか5必要らしいから、お前らはそれまでお預けだな」

 迷宮内ではたまに1km程度なら真っ直ぐに伸びている通路もある。魔術を使った時だけだが、視界に罠があるならばそれを感知できるのは大きい。未知のエリアでもモンスター以外を警戒する必要無く安全にさっさと踏破する事が出来るからだ。

 この日は新たなコースを一つ地図に記入出来た。いつもと変わらない成果だ。気持ち時間は短縮出来たのかも知れない。皆の魔法のレベルが上がり、これらの魔術を使えるようになったらもっと速度は上がるだろうか。いや、俺が覚えればそれで良い感じもするけど。

 実験も兼ねてミヅチの魔力は罠を探知する魔術にだけ注ぎ込んだ。途中回復した魔力も可能な限り使わせた。それでも合計十六回しか使えなかった。結構MP食うのな。だが、おかげでいろいろ解ってきた。何というか、どちらかというと複雑な構造の罠は「罠発見ファインド・トラップ」に引っかかり、単純な構造の罠は「縄罠及び落(ディテクト・スネア)とし穴感知(ズ・アンド・ピッツ)」に引っかかる。勿論例外もある。落とし穴は単純な構造だが、なぜか「縄罠及び落(ディテクト・スネア)とし穴感知(ズ・アンド・ピッツ)」には引っかからなかった。完全に名前負けじゃんか。

 昨日はゼノムがローテーションから外れて一晩寝ていた。今日はトリスが丸々寝る日だ。そして、今日はミヅチとラルファが見張りで初めて組みになる日でもある。真夜中から二時迄の筈だ。俺は一番最初。エンゲラと一緒に二十二時から真夜中まで。皆がシャワーを浴びた後にシャワーを浴びているエンゲラが出てくるまで食事の片付けをするギベルティを眺めていた。因みに、ミヅチが持ってきたキノコ類はギベルティが口八丁で貰い受けていたようだ。

 ギベルティは何やらまだ片付け以外の仕込みをしているらしい。鍋にラードを入れて火にかけ、大量の油を作っている。アヒルの脚を何本もぶち込んで、黒サレンルッジの粉末を入れ、かき回した。とろ火で高温にならないようにゆっくり煮込んでいるのか。いい香りだな。あ、ラルファが鍋を見てる。食い意地に負けるなよ。寝る時間無くなるぞ。

「ご主人様、ラリーは何をしているのでしょう?」

「明日の仕込みだろうな。多分コンフィを作ってるんだろうな」

「コンフィにしてはいい香り……あのキノコですか!」

「うん、さっき入れてるのを見た」

 俺の横に腰を降ろしたエンゲラを横目で見た。赤い髪が濡れたままだ。多少着古してはいるがこざっぱりとした服を着ているので清潔感がある。

「良い香りですよねぇ。ご主人様は良い方を選ばれました」

 鼻をひくひくさせながら目をつぶり、うっとりとした表情で言う。因みにギベルティの表情もうっとりとしている。うちの駄犬二匹は舌が肥えすぎたな。しかし、この駄犬二匹は食い物にうるさい。別にこれがまずいとか嫌だとか我儘は絶対に言わないが、美味いと思ったものを食ったときの態度が普段とは明らかに違うからよく判る。ギベルティとエンゲラを除けば食い物にうるさいのは俺の他にはラルファくらいだった。あ、ラルファは食い意地が張っているだけか。それはともかく、良い食い物を持ってきたくらいで「良い方を選ばれました」とか、本人の人格とかどうでもいいみたいだな。どうでもいいんだろうけど。

 交代の時間になる頃になってやっとギベルティは仕込みを終え、床についた。ご苦労様。

 ミヅチとラルファを起こし、俺とエンゲラが毛布を被った。聞き耳を立てるのも趣味が悪いし、さっさと寝ちまおう。二人共、上手くやれよ。



・・・・・・・・・



7444年9月6日

 二回転移をやり直して来た事の無いエリアに転移した。転移前にミヅチが俺、ゼノム、トリス、ベル、グィネに触れて部隊パーティーを作っている。ラルファにも触れようとしたが、ラルファは申し訳なさそうな顔で断っていた。ミヅチも情けない顔をしている。駄目だったか。

 探索中にそれとなくラルファの様子を覗ったが、取り立てておかしなところは見られなかった。迷宮の中にいると内緒話も出来ないのは辛い。勿論話している内容を知られないようにヒソヒソと話をするくらいは問題なく出来るが、内緒話をしている事自体は隠せない。冗談めかしたおふざけならともかく、俺とミヅチが内緒話をするときっと全員が意識してしまうだろう。絶対に迷宮内でミヅチとの内緒話は駄目だ。

 ま、あまり気を揉んでも仕方ない。時間でしか解決できないだろう。

 この日はかなり長いコースを地図に収められた。

 途中、昼食を摂る時に昨夜ギベルティの仕込んでいたコンフィを思い出した。そういや今朝も今の昼飯にも出てこなかったな。保存食に近いから出るのはまだ先か。

 今夜は真夜中から二時まで俺とズールーが一緒だ。ローテーションから外れるのはベルだ。



・・・・・・・・・



7444年9月7日

 見張りの順番で起こされた俺とズールーはラルファの鼾を聞きながらベンチに座っていた。気持ちよさそうに寝やがって。ムカついたから頭をつついてやった。黙った。

「ご主人様、チズマグロルさんの事は何とお呼びすればよろしいでしょう?」

「え? 好きに呼べばいいだろ?」

「そうも行きません。将来ご結婚なされるのであれば今から奥様とお呼びするのも変ですし、ミヅェーリット様と言うのも、その、馴れ馴れし過ぎやしないでしょうか?」

 いちいち変なこと気にする奴だな。

「じゃあミヅチで良いだろ。本人がそれで良いっつってんだし」

「しかし、略称でもない、単なる愛称でしょう? それは失礼ではないでしょうか?」

 そんなん言われてもさ、知らんがな。だいたい年齢はお前の方が上なんだし、愛称でもいいと思うけどな。ああ、俺とミヅチが結婚したとすれば俺の財産であるズールーは俺の死後ミヅチに相続される可能性が高くなる。その時にはそれなりに長い年月を経ているだろうからいきなりご主人様とは呼びづら……くはねぇだろ別に。

「じゃあ普通にチズマグロルでいいだろ。敬称は……付けたきゃ勝手に付けろ」

「解りました。それと、僭越ではありますが、一つ宜しいでしょうか?」

「んあ? なんだ?」

 左脚に右脚を乗せて足を組みながら答えた。

「ご主人様のご決定に意見するつもりは毛頭ありませんが、ご血統についてもご考慮下さいませ。お世継ぎは我ら下々の安定を保証します」

「……気の早いことだな」

「何を仰いますか。我らはご主人様のご成功について全く疑っておりません。然らばお世継ぎは大切な問題です」

 ああ、そうだね。

「あのな、そう言ってもらえるのは嬉しいけどな。結婚なんかまだまともに考えちゃいねぇよ。それにお世継ぎって、お前、気が早いにも程がある。俺はまだ十六だぞ。当然ミヅチもそうだ」

「えっ?」

 は? なんか変なこと言ったか?

「チズマグロル様はダークエルフじゃないですか」

「うん」

「ご主人様、もしご存知でないのであれば覚えておいてください。同種族じゃないと子供は非常に出来にくいです。絶対に無理とまでは申しませんが……」

 ああ、そっちの心配か。転生者同士なら種族が違っても子供は出来るみたいな事、リルスが言ってた。その確率が普通の同種族程度なのか、多少マシになる程度なのかまでは解らんがね。この話はズールーにはしてなかったっけな。転生者なら異種族間でも子供が出来るなんて、普通の人生を送っている人にはずるっこもいいとこだから黙ってたんだっけ。話しても問題ないと思うけど、取り立てて話さなければいけない内容でもない。

「そんなのその時になってから考えるよ。今はまだ早い。それよりお前の方はどうなんだよ。「ムローワ」の獅人族ライオスの姉ちゃんと上手く行ってんのか? お前が結婚したいっつーなら買っても良いんだぞ。勿論あの姉ちゃんも納得ずくならな」

「そ、そんな、私の方こそまだ、は、早いです」

 いや、ちっとも早くねぇだろ。

「まぁその気があるならいつでも言え、別に反対しやしないから。だが、子供はまだ駄目だ。少なくとも俺が領地を持つまでは遠慮してくれ」

「あ、はぁ、はい、それはもう」

 こいつは俺に普人族の女も探せと言ってるんだろうな。まぁ悪い話じゃないけど、今はそんな余裕1mmもねぇよ。ラルファ? 馬鹿言え。さっきまであんな鼾をかいてた屁こき虫だぞ。そりゃ見てくれは悪くねぇけど、うるさくて一緒に寝られねぇよ。

 その後時間まで二人で見張りを続け、一眠りするといつものようにギベルティの作った朝食を摂り、弁当を持った。

 良く眠れたからか朝からラルファの機嫌が良かった。
 俺様に感謝しろ、呼吸障害を直してやったんだ。



・・・・・・・・・



 また今日も未踏破のエリアを選んで転移した。運良く祭壇の部屋も見つけられた。召喚されてきた十匹の「ケイブドローンビートル」をガーゴイルと一緒にぶっ殺し、期待を込めて祠を覗く。

加湿器ヒューミディファイア
【ビーチ材・鉄】
【状態:良好】
【加工日:7/9/7444】
【価値:10000000】
【耐久:246】
【性能:湿潤空気17.3g/m^3を一時間当たり5m^3製造;180価値/1日】
【効果:周囲の空気に対する加湿】

 ……これ、こんな価値あんのかね? 冬なら暖房の意味も無くはないか。当面お倉入りだな。



・・・・・・・・・



7444年9月8日

 二時から四時までが俺の担当だ。今日の相棒はグィネだ。今日はミヅチがたっぷり寝る日か。ラルファとベルから見張りを引き継いでグィネと一緒に見張りについた。今日で迷宮に入って丸一週間、今日の探索を終えたら地上に上がる日だ。

「アルさん。ちょっといいですか?」

「ん? なんだ?」

「いつご結婚されるんですか?」

 おお、お髭さんよ、お前もか。

「……わかんねぇよ。そんな事。するにしても当分先になるだろうなぁ。まぁ気になるのは解らんでもないけど、そんなに急いでないし、ありゃミヅチの先走りだ」

「ふぅん……でも、なんでミヅチさんなんです?」

「元々知らない間柄じゃねぇし、昔からあいつは俺に惚れてたからな……それなりに長い付き合いもあったし、情もあるよ。あいつは転生してからこの前まで色々問題も抱えてた。それも結構解決しちゃって弾けちゃったんだろう。変な事言う時もあるけど、根は良い奴だ。仲良くしてやってくれ」

 なんかここんとこ同じような話が多いな。仕方ないけど。

「いえ、別に私は不満がある訳じゃないんです。ミヅチさんとも仲良くして行きたいって思いますし……」

 ああ、そうしてやってくれ。助かるよ。

「ラルファか? 気にするな。ラルファが悪い訳じゃない。そりゃあ俺だって皆がミヅチを受け入れてくれたのは嬉しい。だが、いくら俺が連れてきた奴だってまだ良く知りもしないうちから完全に受け入れるのは難しいだろう? ラルファは冷静なだけだ」

「本気でそう思ってるんですか?」

 ……なんか勘違いしてないか? グィネはラルファと一緒に居る事が多いからもう少しラルファの事を解ってると思ったんだがな。

「そうだよ。ラルファは良い奴だ。もう二年以上一緒にいるから当たり前だけどな。嫌な奴と二年も一緒に居られる程俺の心は広くない。でもな、勘違いするなよ。ラルファが最初から心を開いていたのはグィネ、お前だけだ。俺にも、ベルにも最初から今みたいに付き合ってくれた訳じゃない。ベルには出会った経緯もあるから優しくしようとは気を配っていたけど、心までいきなり開いてはいなかったと思う。アホみたいなこという時もあるけど、基本的にはしっかりしてる」

「……」

 なんだよその目は。

「アルさんなんてもう知りません」

 ぷいと横を向いてヘソを曲げてしまった。はぁ~あ、面倒臭ぇ。
 ……おりゃ。
 小魔法キャトリップスの引っ張りで軽くグィネの顎髭を引っ張ってやった。まだ三つ編みにしたりするほど長くはない。

「えひゃっ! もう、何するんですか」

「グィネは優しいな。ラルファは俺の大切な仲、友達だ。これからもラルファの事を考えてやってくれ」

 振り向いたグィネに頭を下げて頼んだ。

「そんな、言われなくてもそうしますよ、ラルは私の友達ですから」

 そうだったな。

 最終日になってコンフィが出てきた。朝食と弁当だ。数日間固まったラードの中で熟成されたコンフィは黒サレンルッジの香りと相まって非常に美味だった。弁当には黒サレンルッジの混じったラードを塗ったパンにほぐしたコンフィを挟んだサンドイッチだ。カロリーが高めではあるが、その程度のカロリーを消費する程度には体力を使っている。

 ラルファが喜んで食っていた。

 
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