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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第九十二話 パーティゼーション

7444年9月2日

 朝、ランニングをしてから皆で朝食を摂り、お茶を飲み始めると、見慣れない男女が一組と見たことのある男女が一組の合計四人が俺を訪ねてきた。俺たちが朝飯を食う店なんて四~五軒程度だから本気で探せば見つけるのは容易い事だろう。

 見慣れない方の男女は見慣れていないだけで顔と名前はくらいは知っている。

 男の方はコーリット・リンドベルと言い、三十四歳の獅人族ライオスで、女の方はメイリア・リンドベルで同年齢のこちらもライオスの夫婦だ。もう一組は犬人族ドッグワーのゼミュネルと、当時彼と一緒にいて逸れなかったヒスルーラ・ハルレインと言う精人族エルフの女だった。リンドベル夫妻はゼミュネルとは別の日光サン・レイのリーダー格のようだ。大方ビンスとジンジャーを救った事に対する礼でも言いに来たのだろう。彼らは折り目正しく揃って俺に頭を下げてきた。

「グリードさん、この度は我々のパーティーのメンバーの窮地を救って頂き有難うございました。しかも、常識外の謝礼だったそうで……その、本当に助かりました」

 リンドベル夫妻の妻の方、メイリアが言った。って事は奥さんの方が真のリーダーなんかね? どっちでもいいけどさ。

「いえ、お気になさらず。当然のことをしたまでです」

 俺の言葉を聞いたリンドベル夫妻は目を見開いて驚いたような顔をしたが、すぐに表情を消し、再度頭を下げた。

「なるほど、ご立派な方ですね」
「ああ、聞いていた通りだな」

 ゼミュネルが進み出てきて頭を下げた。

「それで、少しでいいのですがお時間を頂いても?」

「ええ、結構ですよ。なんでしょうか? お掛けください」

 さて、なんだろうね。シャワーの件か、同盟の件か。両方か。俺と同じ六人掛けのテーブルに座ってお茶を飲んでいたミヅチとウザカップル、エンゲラとギベルティに目配せをして店の隅に追いやると、席を勧めた。日光サン・レイ達は席を空けてくれた奴らに目礼をすると、席に着いた。端っこの隅に座る俺の前にリンドベル夫妻が、その隣にゼミュネルが、俺と席をひとつ開けてゼミュネルの前にハルレインが座った。

「私達は昨日の夜迷宮から出て来ましたのでご挨拶が遅れました事をお詫びします」

 リンドベル夫妻の夫の方、コーリットがそう言って頭を下げた。隅っこでミヅチがウェイターに何か話しかけている。ミヅチが俺の方を見たので軽く頷いてやった。ミヅチはテーブルに指で何か書いている。

「いえ、もう過ぎた話です、本当にお気になさらず……」

 俺も目の前で両手を振って言う。あんたらはどうだか知らんが、俺たちにとっては本当にもう過ぎた話だ。正直な話、こちらが優位に立てそうな材料程度にしか思ってない。

「それに、我々が救出出来たのはお二人だけです、御一方は間に合わずに既に亡くなっていましたし、もう御一方はまだ迷宮の中なのでしょう?」

 気の毒そうにそう続けた。

「まだ戻らないボーグはともかく、ユリエールの遺体までお運び頂きました事、感謝しかありません」

 ゼミュネルがそう言って頭を下げた。だから、もういいっちゅーねん。お礼なんか一言聞けば沢山だ。

「はぁ……」

 肩を竦めて軽く頭を下げた。

「それで、その……五層の転移水晶の部屋のシャワー施設まで開放頂いた事も聞きました。助かります」

 コーリットが言った。そして、すぐに妻の方を向いて頷いた。

「勿論、我々も人を出して施設に被害が無いように監視したいと思っています。本日はお礼方々、そのご報告とご許可を頂きに参りました」

 メイリアはそう言って俺に頭を下げる。それを見た他の日光サン・レイ達も頭を下げた。その時、彼らの前に俺が飲んでいるものと同じ豆茶が運ばれてきた。さっきミヅチがウェイターに注文したんだろう。

「まぁ、お茶でもどうぞ」

 そう言って俺はやっと目の前の豆茶を啜った。日光サン・レイ達も「ありがとうございます」と言って豆茶に口をつけた。

「……勿論歓迎ですよ。我々だけで維持し続けるのも大変ですからね。当然ご自由にお使いなさって下さい」

 うん、端金で助けたのが無駄にならないで済んで良かったよ。俺の答えを聞いた日光サン・レイだけでなく、殺戮者スローターズの面々にも安堵の空気が溢れた感じだ。確かに、日光サン・レイの出方によっちゃ決裂の可能性もあったからな。

「メイリア、グリードさんが良い方で助かったな」
「ええ、本当に……グリードさんはお若いのにご立派です」
「だから言ったでしょう? 安心だって」

 ライオスの夫婦の会話にハルレインが割り込んで言った。ミヅチはじっとこちらを見ている。

「本当にそうね」
「ああ。ゼミュネル達の言う通りだった」

 その後は大体の迷宮探索のスケジュールなどの情報交換をして彼らは店を出て行った。

 テーブルに戻ってきた殺戮者スローターズの面々を一瞥してからミヅチを見た。ミヅチは小さく頷いただけだ。そっか。

「場所を移そうか。俺の部屋に来てくれ」 

 そう言って店を出た。

 道すがらミヅチがこっそりと耳打ちしてくる。

「嘘はほんの一部です。貴方の事を「良い方」と言った時と「ご立派」と言った時ですね」

 ふん、やっぱりな。大方、お人好しの馬鹿な小僧だくらいに思ってるんだろうよ。そのくらい別にいいさ。



・・・・・・・・・



 ボイル亭の部屋に入るとき、ズールー、エンゲラ、ギベルティに「重要な魔法の話をする。誰も部屋に近づけないように見張ってろ」と言って転生者とゼノムだけを部屋に入れた。

「皆にお前の固有技能を説明してやれ。試すのもいいだろう」

 と言ってミヅチを促した。

「じぶ、私の固有技能は【部隊編成パーティゼーション】と申します。これを使うと固有技能のレベルに応じた人数で、私から簡単に連絡可能な部隊を編成する事が可能です。連絡自体は私からのみ一方通行ですが、編成された部隊員はお互いだいたいの距離や方向、つまり位置が把握可能になります。迷宮の中でも同じ階層なら有効です。【部隊編成パーティゼーション】のレベルは今6なので私の他に七人まで、私を入れれば合計八人の部隊が編成可能です」

 それを聞いた皆は感心したような顔つきだった。

「コーロイルさん、手を出してください」

 ミヅチがそう言うと、ベルはミヅチに手を差し出した。

「この固有技能には一つだけ条件があります。私の事を友人と認めてくれる方にしか使えないのです。私に対して心を開き、意識を私に向けてください」

 ……。

 実は心配だった。
 ここで誰もミヅチに心を開いていなかったら【部隊編成パーティゼーション】は俺にしか使えない。そうするとパーティーを分けるくらいしか意味が無くなってしまう。
 俺としては暫く様子を見てパーティーに溶け込んだと判断出来てから明かしても遅くないと言ったのだが、ミヅチはそれを拒んだのだ。

「……良かった。ありがとうございます」

 ミヅチが嬉しそうに微笑んでいた。

「……あ……うん。わかるわ。確かに。これ、すごい!」

 俺はホッとして胸を撫で下ろした。

「お、俺、次お願いします」

 トリスが進み出た。同じようにミヅチがトリスの手に触れる。

「……お……こんな感じか。ちょっとすみません」

 トリスが部屋を出ていった。試したいんだろう。

「あ、うん。多分今トリスは階段あたりかな? あ、降りてる……」

 建物の大きさを考えればすぐに解るような事でも驚くらしい。

「私も! 私も試したい」

 グィネが立ちあがる。ミヅチは笑ってグィネの手を取った。

「……あ、ああっ……こ、これ便利ですね。距離はどのくらいまで解るんでしょう?」

「正確には解りませんが、おおよそ50kmくらいまでは解るかと思います。方向はもっと距離が離れてもだいたいは見当がつけられます」

「ふむ、本当なら六層で逸れてもなんとかなりそうだな……どら、俺も頼む」

 手を差し出したゼノムを見てミヅチが微笑み、ゼノムの手を取って見つめ合った。

「……ほう、トリスめ、もうあんな所まで……」

 ゼノムが顔を綻ばせながらベルとグィネ、ラルファを見やった。

「ラルファさんも、さぁ、どうぞ」

 ラルファがミヅチに近づいていく。ラルファもアホだし、基本的には仲間に対してお人好しだから問題ないだろ。しかしなぁ。まさか全員がミヅチにこれだけ信頼を置いているとなると、問題じゃないか?

「うん……これでいいの?」

「ええ」

 ラルファが差し出した手を取り、お互い見つめ合った。

 ……。

 …………。

 おい。

 おい、まさか。

 まさか、いや、いいのか。

「……ごめん。なんかダメみたいだね」

「そんな……私に心を開いてください。私に意識を向けて下さい!」

 ミヅチが眉を八の字に下げて困っていた。だから言ったんだ。思ってたよりずっとマシな結果ではあったが、逆にラルファ一人とはな……。どうしてもやるなら一人目は必ずベルかラルファにしろとは言ったんだが。

「もう止せ」

「でも……」

 ミヅチは諦めたくないようだ。

「止せ」

 やっと手を離した。ラルファは「ごめん」とだけ言って席に戻った。ベルとグィネ、ゼノムがラルファを見つめる。逆にラルファが居た堪れない雰囲気だ。

「ラルファ、気にするな。最初から友達になんかなれっこないんだ。はっきり言って俺は反対だった。どちらかというと逆の意味でだったけどな。誰もミヅチの事を認めないかと思っていたくらいだよ……このお人好し共め」

 ゼノム、ベル、グィネが肩を竦めた。

「お人好しって、そんな。アルさんと知り合いだったって言うし、これから一緒にやるんですから……」

 それでもグィネが口を尖らせながら文句を言う。

「確かにアルの言う通り、お人好し過ぎたかも知れんな」

 決まり悪そうにゼノムが言うが、ラルファを気遣ってのものだろうな、ありゃ。

「ミヅチ、トリスを呼び戻せ。全員に解る様にな」

 俺に言われたミヅチはしょんぼりと項垂れながら「はい」とだけ返事をした。ゼノム、ベル、グィネがぴくんとした。そういや、俺、パーティーに入ってなかった。妖精郷でMPが無駄になるから止めさせたんだった。ま、いいけど。

「ほ!」
「あ!」
「これが!」

 ラルファだけ居心地が悪そうだ。実は全員上手く行ったのなら後で魔法だと言いくるめて俺の奴隷たちにも試させようとしていたが、止めた方が良さそうだ。

「一言言っておく。ラルファは何も悪くはない。むしろ、俺としては皆の中に冷静な奴がいて安心したくらいだ。正直、ラルファまで簡単に部隊編成出来たら問題だとすら思っていた」

 一つ息をつくと続けた。

「ラルファ、冷静に見極めようとするのは美点だ。成長したな。俺はまともな奴が一人はいることが確認出来てホッとしたよ」

 ラルファが存外冷静だった事は歓迎すべき事だ。俺的に慈愛の篭った目でラルファを見ながら言ったつもりだが、

「うん……」

 とだけ言ってこっちを見もしなかった。このやろ。俺がお前を褒めるなんて滅多にないぞ。

「ミヅチも最初から全員に信頼される筈もないだろう? 落ち込むのは止めろ」

「はい……」

 ったくこいつら、そんなに自分の膝を見るのが好きか? こっち見ろや。
 ゼノム、トリス、ベル、グィネ、それに俺。少なくともミヅチを入れて六人の部隊を編成可能なんだ。そう落ち込むこともあるまい。だいたい俺はラルファの事は良く知ってる。些か短絡的なところもあるが、基本的に頭は悪くない。

「さて、トリスは今どの辺だ?」

「宿に入って来ところだろうな」
「そうですね」
「うん」

「そっか、じゃあトリスが戻ったら続きだ……と、ミヅチ、トリスに豆茶の豆持って来いって伝えられるか?」

 どの程度まで伝えられるのか試すのはやっとかないと。今日一日実験だろうな。

「あ、はい」

 ミヅチは相変わらず困ったような顔つきで俺を見た。

「だめですね。多分、持って来いしか伝わらないと思います」

 名詞はダメか。暗号みたいな命令形の動詞を考えるしかないかも知れない。そういやこいつはレベル6になるまで【部隊編成パーティゼーション】の固有技能を使ってたんだ。この程度、知らない訳は無い筈だったな。

「ん、それが解ればいいや」

 すぐにトリスが戻ってきた。

「いやぁ、これ、すごい便利ですね。皆の位置、だいたい解りますもん。これなら迷宮内で逸れてもそうそう大きな問題にならないかも知れません」

 興奮したようにトリスが言うが、すぐにズールー達も部屋に呼び寄せると、黙らせて席に着かせた。

「だいたいミヅチの魔術については理解して貰えたと思う。そこでだ。ウチは今回、ミヅチが合流したことで、遂に十人になった。解ってるとは思うけどこれ以上軽々にメンバーを増やすことは出来ない。しかし、流石にもうそうそうは無いとは思うが他の転生者と会って意気投合出来るなら増やすし、盾を上手く使える戦奴が手に入るなら必ず買う。予行演習じゃないけど、明日の迷宮探索からパーティーを二つに分ける」

 俺がそう宣言すると、最初の一瞬こそ驚いたのか全員黙ったが、すぐに「そんなの増えてからでいいだろ」とか言い出した。

「駄目だ。分けると言っても俺一人とその他全員だ。それに、六層は俺も合流して全員で探索するよ。今から出来るだけ俺のいない戦闘に慣れておいてくれ。皆の指揮はゼノムに任せる。トリスはその補佐をしてくれ」

 出来るだけ冷たく言い放ったが、予想通りズールーとエンゲラが猛反対してきた。「ご主人様をお一人にするなんて」とか言うのだ。どちらかは俺にくっついて来ようとするだろう事は予想していたから一人くらいはいいや。ミヅチもいるし、そうそう無茶しなきゃ大丈夫の筈だ。

「仕方ねぇな。じゃあズールーとエンゲラは交代で俺と同行だ。他の八人とは各層の転移の水晶棒の部屋で待ち合わせな。全員揃ってから次の層に転移することにしようか。ゼノム、トリス、慎重にな」

 あとは細かい話や【部隊編成パーティゼーション】の暗号を決めて時間が過ぎていった。

 晩飯の時もラルファとミヅチの二人はどことなく元気がなかった。座る席も離れていた。これは時間が解決するしかないだろう。何度かミヅチと一緒に迷宮で探索すればラルファも信用してくれるはずだ。

 ビールを飲んで豚串をかじりながら呑気にそう考えていた。

 
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