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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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「裏八十七話」

7444年8月4日

 ミヅチがエルレヘイを出立して半月近く経っている。昨日やっとモンゴート子爵領を抜け、ファルエルガーズ伯爵領に入った。伯爵領に入ってから道の状態は見違える程良くなっている。昨日の昼過ぎに抜けた峠のどこかが領の境だった筈だ。

 ミヅチがエルレヘイを出て最初に立ち寄ったモンゴート子爵領のレメル村では馬は買えなかった。小さなレメル村で馬を買える訳は無いと思っていたのでこれはいい。しかし、少しだけ寄り道するつもりで行った子爵領の首都リーゲッツでも年老いた駄馬か、驢馬しか販売されていなかったのだ。元より若く精悍な軍馬などと贅沢を言うつもりもないが、出来れば十歳以下の馬が欲しかった。仕方ないのでファルエルガーズ伯爵領まで徒歩の旅を続けるしかなかった。

 貧乏臭いモンゴート子爵領と異なり、ファルエルガーズ伯爵領はごく普通の上級貴族の領地なので首都であるロバモルスまで行けばなんぼなんでも若い馬を買うことは出来るだろうとミヅチは考えていた。



・・・・・・・・・



7444年8月8日

 ミヅチはこの日の昼過ぎにファルエルガーズ伯爵領の首都、ロバモルスに到着した。二ヶ月前まで滞在していた迷宮都市バルドゥックより少し規模の大きい、五万人の人口を擁する大都市だ。都市は東から西へと流れる川と、同様に川の1kmくらい北で並行に走るミーナ街道、北西から南西へと続くレピッシュ街道によって大体六つの区画に分かれている。その東から西へ走るミーナ街道を東から歩いて来た。

 街道と川の間には畑や住宅地が混在しており、川を挟んだ南はほぼ畑ばかりだ。北は住宅地が多い。南の畑の中にも住宅はあるが、建物の造りや建っている位置から考えて農奴の住居だろう。夏の太陽に照りつけられ、ミヅチの背中とリュックサックの間には滝の汗が流れ、既にびちゃびちゃだ。少し先に井戸が見えるのであそこで水を飲み、一休みしたらすぐにロバモルスの中心部を目指したほうがいい。朝食を摂って以来、水しか飲んでいないので非常に空腹だ。どうせなら大きな街中の食堂でまともな食事を摂りたかった。

 小休止を終えたミヅチはロバモルスの中心街を目指して歩き出した。でかいリュックサックを背負い、弓や矢筒、剣まで佩いた闇精人族ダークエルフは行商人としか思われない。単独というのは珍しいが、ダークエルフに限らず単独の行商人というのはいないわけではない。護衛の冒険者を雇えない、貧乏な駆け出しの商人など常に一定数はいるものだ。

 そのうちに見回りらしい騎士団員と行きあった。

「すみません、ちょっとお尋ねしたいのですが」

 日よけのフードを被ったままミヅチが騎士団員に声を掛けた。気が付いてくれたようだ。

「馬を買いたいのですが、どこかご紹介いただけませんか?」

「お、ダークエルフか。なんだ、商売でも上手く行って儲けたのか? 馬車はいらんのか?」

 二人組の男女の騎士団員の男の方が答えてくれた。

「ええ、馬車まではまだ……見ての通りサドルバッグで充分な荷物ですので……」

「あんた、行商に出てたなら知らないかも知れないけど、騎士団はつい先月遠征から戻ったばかりなんよね。潰しちゃった馬の補充なんかもあるから、今、馬は値上がりしてるよ」

 女の方が腰に手を当てながら言った。騎士団の半数が遠征に行っているのは知っていた。この前、バルドゥックに向かった時、エルレヘイに戻る時の双方で聞いていた。だが、そうか。戻ってきたのか。

「まぁ多少高くてもいいです。常識はずれでなければ」

「なら、この先に「ロケーシュ馬具店」ってのがある。そこに行けば馬も売ってるかもしれないな。一応騎士団出入りの業者だから信用はできるはずだ」

 ミヅチは「ロケーシュ馬具店」の詳しい位置を聞くと丁寧に礼を言って彼らと別れた。空腹に耐えられそうになかった。彼女の胃袋によると馬より先に食事が必要だとのことだった。適当に入った店で蕎麦掻きを注文し、早速お椀の中で練り始めた。蕎麦ガラの付いたまま挽かれたあまり品質の良くない濃い灰色の蕎麦粉は一緒に出てきた熱湯を混ぜ練り始めるとみるみるうちに粘性を増し、あっという間に食べごろだ。塩とオリーブオイルを垂らしてぱくついた。本当は鰹出汁の蕎麦つゆが欲しいところだが、これはこれで慣れればうまい。

 なんとはなしに昔、椎名純子であった頃、会社の近くの蕎麦屋で夜飲む時に蕎麦掻きをつまみに日本酒の徳利を傾けていた男を思い出す。今も蕎麦掻きをつまみに酒を飲んでいるのだろうか?

 腹が膨らんだところでお茶も飲まずに「ロケーシュ馬具店」へと向かった。馬具店の主人に馬を売って欲しいと交渉したが、今いる二頭は既に買い手が決まっているとのことだった。しかし二日後に売り物になりそうな四歳の若い馬が入荷する予定だという。手付として金貨を一枚握らせ二日後にまた来るといい置き、この日は宿で休むことにした。

 一泊二千Z(銅貨二十枚)の宿で丁寧に体を拭き、夕飯まで時間があるからとちょっと横になったら、あっさりと眠りの世界へと引き込まれてしまった。目が覚めたのは真夜中近かった。愕然として荷物や腹巻に異常がないか確かめた。部屋の戸締りだけはしていたので盗まれたものは時間だけだった。



・・・・・・・・・



7444年8月9日

 昨日の昼過ぎから何も食べていなかったので朝から結構な量の食事を摂った。女性とは言え、戦士として訓練を積み重ねてきただけあり、ミヅチは並みの男よりはカロリーを消費する。勿論粗食に耐えることも出来るが、今はそんなに無理をする必要もない。ボウル一杯のレタスをベースにした生野菜に酢とオリーブオイル、胡椒で作られたドレッシングを掛け、持参したトリュフ(サレンルッジ)を削った粉末を掛けて食べる。オリーブオイルをつけた黒パンにもトリュフ(サレンルッジ)粉を掛けて美味しく頂いた。

(あれ? 考えたらライル王国って松茸デクルッジが無いことを除けばかなり贅沢なんじゃ?)

 と今更ながらに思う。ついでにライル王国で行われている本しめじ(アベルッジ)とかクロカワタケ(タクルッジ)とかアミタケ(ウェムルッジ)の完璧な人工栽培法を日本に持っていければ大儲けだ。何しろライル王国のキノコ栽培の技術は完全に現代日本を凌駕している。天然物よりいい味になっていることが多い。

 ミヅチは(まぁ自分にとっては既にありふれた食材のトリュフ(サレンルッジ)粉は使わないで彼にあげてもいいか)と思い、粉の入った瓶にコルクで栓をした。

 店を出たミヅチは腹ごなしに散歩に出かけた。町の外れでは騎士団が訓練を行っている場所もあるらしい。どうせ今日一日暇だし、地上の騎士とやらの実力を見ながら時間を潰してもいいだろうと思ってあちこちをぶらぶらとしていた。

 ロバモルスの街をぶらつきながらも九時前には騎士団の訓練場に着いてしまった。まだ若い従士達が、指導役の騎士の合図で一心不乱に木剣を振っている。自らの戦士の教育訓練課程時代を思い出す。

(ぬるい訓練だなぁ)

 きっと彼らは従士になってまだ間もないのだろう。観察すると従士たちは殆どが十代半ばで成人くらい、ミヅチと同年代の印象だった。土手に座りながらぼーっと訓練を眺めていたが二十分もしないうちに飽きの来たミヅチは(得るものはない)と判断して立ち上がるとまたぶらぶらとロバモルスの街中へと戻っていくのだった。

 蕎麦粉で作ったクレープのようなガレットにハムや野菜を挟んだものが売っていたのでそれを昼食代わりに二つ食べ、宿に戻ると二本の剣の手入れを始めた。長年使い続けてきたショートソードはそろそろガタが来ている。単にロングソードより安価だからというだけで選んだ武器だ。使い慣れているので使えるうちは使うつもりだ。だが、鋳鉄で作っているだけに耐久性は低い。実戦を何度かくぐり抜け、目に見えないような細かいヒビが入っていたとしてもおかしくはない。

 慎重に歪みがないか確認し、刃先を触る。購入当初はそれなりに切れ味の良かった刃先も砥ぎを重ねるうちに短くなり、芯材になっている質の悪い鋳鉄が顔を出し始めた今は切れ味も鈍っていた。いい加減限界だ。売れるうちに売っておいたほうがマシかもしれない。

 対して、リルス陛下から賜ったシミターは数百年以上前から存在していたはずだが、全くの新品であるかのように刃先は妖しい輝きを保っている。刀身は黒く染まり、刃だけが地金の銀色だ。

ブレード(シャドウシミタ)オブ(ー:ライ)デュロウ(フスティーラー)

 種族の名を冠した美しいシミターは剣呑な二つ名まである。椎名純子の知識をほじくり返すと、一介のダークエルフである自分が持っていて良い品ではない。右手に吸い付くような握り心地の良い柄は長さ15cm弱。柄の終端から拳の中指くらいまでをガードするように上品なカーブを描いたナックルガードが生えている。鍔はあまり大きくはないが、鍔迫り合いにも十分耐えられる程度には大きく、丈夫に造られている。

 ロバモルスに着くまでにこのシミターで集団から逸れたらしい「マウンテンウルフ」を切り捨てたが、ほとんど抵抗を感じないくらい刃の通りが良く、一撃で「マウンテンウルフ」の背骨を断ち割り、あまりの切れ味に呆然とした。

 その後、骨を断ち割ったのだからとすぐに刀身を調べてみても刃こぼれ一つ、歪み一つ無いことを確認して、再度呆然とした。だが、これならどんな相手が出てきても怖くない。軽く、ほんの気持ち程度オイルを染みこませたボロ切れで刀身を拭うとほとんど飾りのない黒い鞘に収めた。



・・・・・・・・・



7444年8月10日

 朝食を終えたミヅチは「ロケーシュ馬具店」へと向かった。こんな朝から馬が入荷するわけはないだろうが、他にやることもない。入荷まで店先で馬具を眺めながら待たせて貰うことにしたのだ。馬の大きさもわからないので馬具は馬が来てから選ぶ。

 店の主人に待たせて貰う旨を伝えると快く許可してくれたばかりでなく、お茶まで出してくれた。確かに馬一頭に加え馬具一式まで買うのだから上客だ。この待遇も当然といえば当然なのだろう。

 主人が革で作る鞍や金属パーツを使った鐙、各種ベルトなどを見ているうちにあっという間に昼になった。主人に声を掛けて昼食に行き、戻ってきた時には馬が入荷していた。栗毛の優しそうな目つきをした馬だ。ミヅチが正面から寄り、その首に手を伸ばしても怖がることはなかった。

(うん、この子なら問題ない)

 馬の価格は720万Z、馬具一式付けて800万Zだった。蹄鉄はここに来る前から履いている。予備の蹄鉄も受け取り真新しいサドルバッグに入れ、リュックサックの荷物もすっかり移した。残りの代金の金貨七枚を主人に支払い、慣れた手つきで馬の背に乗った。

 主人に見送られて街道を進む。騎士団の訓練場の脇を通り抜けながら訓練を眺める。今日は従士達だけの訓練ではなく、騎士と合同の訓練のようだ。流石に騎乗戦闘は学んでいないので今日は得る物があるかも知れない。

 なるほど、両手を開けるために轡は首で操作するのか。ランスカイトシールドを構えた騎士たちは見事な騎乗技術を見せて訓練場を駆け回っている。全員ヘルメットを被っているので顔つきは分からないが尻尾を出している亜人だけはある程度見分けがつく。

 ……あの真っ黒い尻尾は虎人族タイガーマンだろうか。縞になっていないのでよくわからないがあの形はタイガーマンだろう。馬には乗っていないので従士か、位の低い騎士なのかも知れない。歩兵連中の中では彼だけ実力が高そうだった。盾の使い方が上手い。

 馬の背に跨ったミヅチは訓練の様子を暫く眺めていたが、所詮は田舎騎士。途中で動きの良かった騎士も騎乗したのだが、それなりによく動けてはいるように見えるものの所々粗が目立つ。やはり最初から騎乗していた本職の騎士の方が実力は高いようだ。体の大きさを活かして他人より長いリーチを使って剣で戦いたかったようだが騎乗しているのだから素直に槍を使うべきだと思った。ひょっとしてランスの使い方を知らないだけかもしれないが。

 先を急いだほうがよさそうだ。今晩、日の暮れる前には隣の村に着いておきたい。レピッシュ街道を北西に向かいながら、ミヅチはついさっき愛馬となったばかりの馬の首を撫でた。



・・・・・・・・・



7444年8月28日

 今日も一日非常に暑い日であった。ミヅチは念のため王都にあるという彼の商会や、騎士団に居ると言う姉のところに先に挨拶に行くべきかとも思ったが、あれからまだ三ヶ月しか経っていない。それに挨拶は彼と一緒に行った方がいいと思ったので、素直にバルドゥックを一直線に目指して来た。

 夕刻近くなってやっとバルドゥックの街に着いたミヅチは話に聞いていた「ボイル亭」を目指して馬を進めていた。【部隊編成】の固有技能だと彼は何日か前から迷宮に入りっぱなしのようだ。道には仕事を終えた職人や街の周囲を取り囲む外輪山の麓で農業を営む農民などで人通りは多い。

 彼らを避けながら馬を進め、やっと目的地に着いた。「ボイル亭」の前には打ち水の跡があった。彼は迷宮に入っているからいつ戻ってくるか解らない。取り敢えずは部屋を取るべきか。いや、同じ部屋なら取る必要はないのか。変なことを悩みながら(直接聞いたほうが早い)と思い直し、表の杭に馬を繋ぐと「らっしゃあせーっ!」と迎えに出た小僧に宿泊しているはずの男の名を告げた。

「かわ、アレイン・グリードという人が宿泊していると聞きました。彼に会いたいのですが」

 居ない事は知っているが、ミヅチはそう言った方が不自然ではないと思った。また、丁寧に聞いたつもりだが、同年代か少し下の小僧は気分を悪くしたようだ。

「……またかよ……確かにその方はうちのお客様ですがねぇ。パーティーへの参加希望なら諦めたほうがいいぜ。ったく、毎日毎日、入れ代わり立ち代わり……。殺戮者スローターズへの参加希望者ばっかりだ。あの方は一見さんお断りだよ。一流の冒険者だからな。客じゃないなら、さぁ、帰った帰った」

 なるほど、そういうことか。小僧の態度に納得したミヅチは懐から借りていたプレートを取り出して小僧に提示すると、また丁寧に口を開いた。

「このプレートは彼から借り受けたものです。また、私は彼の知り合、妻ですよ。彼の部屋に案内して貰えますか?」
(ちょっと先走り過ぎかな? でも、いずれそうなるんだし、いいよね)

 赤くなったミヅチの言葉を聞いた小僧は吹き出すと腹を抱えて笑いだした。

「はぁ!? こいつは新しいパターンだ。なぁ、ダークエルフの姉ちゃんよ。今、何て言った? 何て言ったの? 俺には妻って聞こえたんだけどよ。すぐバレる嘘を吐くんじゃあねぇ! 証拠を見せろや、おら、ステータスオープン……あんたアホか? 二秒でばれる嘘吐きやがってよ。大体そんな汚ったねぇプレートがあのお方の持ち物の訳ねぇだろうが!」

「まだ命名の儀式をしていないだけです。それに客じゃないと言うのであれば……良いでしょう。新たに部屋を取って下さい。馬の世話もお願いします。幾らですか?」 

 ミヅチはムッとしたように言い返した。

「何言ってんだアホ。お前なんか泊める訳無いだろ。ンな怪しい奴泊めたらウチ(ボイル亭)がグリード様に怒られちまうよっ!」

「な、宿泊拒否ですか……いいんですね? 貴方は後で怒られますよ。馘首になっても知りませんからね!」

「はっ! ぶあ~か。俺ぁグリード様どころか殺戮者スローターズの皆さんにも頼まれてんだよ。変な奴は断ってくれってなぁ! 先週だってアホを追い返していたら感謝されたんだぜ。言うなりゃ俺も殺戮者スローターズの一員よ。いいから帰ぇんな!」

 あまりの言いようにミヅチはカッとなるが、それを抑えると静かに言う。【部隊編成】の技能に彼が地上に戻ったことが感じられたからだ。

「そこまで言うなら良いでしょう。ここで待ちます」

「ちっ、迷惑なんだよ。さぁ、邪魔だ。帰った帰った」

 取り付く島もないとはこのことか。まぁいい、脳内で(言いつけてやる!)と思いながら「ボイル亭」の前から少しだけ移動した。門の前で小僧が睨みつけているが今は気にしないことにした。

(そう言えば、お腹空いたなぁ)

 手綱を取った愛馬を見ると心なしか馬もひもじそうな表情をしているように見えた。

 道に落ちている馬糞を数えながらただひたすら意識を閉じてそろそろ戻るだろう彼の帰りを待つことにした。



・・・・・・・・・



 しばらくの間、ミヅチは意識を空白に保ったまま馬に水を掛けて体を冷やしてやったりしながら待っているといつの間にか門で会話をしている集団がいた。もう彼は目と鼻の先だ。話に聞いていた仲間だろうか。期待に胸を膨らませその集団の顔を確認しようとしたらけたたましい女の笑い声があたりに響いた。

「ええーっ! 妻ぁ!? あはははっ! 聞いた!?」
「もう、笑い過ぎだよ。でも、新手の方法だよね」
「結婚しているとかするとかアルは一言も言ってなかったな。くだらん。ほら行くぞ」

 ドワーフの男女と普人族の女のようだ。

「ちょっと、あの人?」
「ええ、そうですよ、ラルファ様。あの女です。ちょっと綺麗だからって色仕掛けで入り込もうとしたんでしょうね。グリードさんが色仕掛けなんかに引っ掛る訳ないのに……まだ帰らないでずっといるんすよ。しつこいっすよねぇ」
「私が一言言ってあげようか?」
「そんな、アクダム様のお手を煩わすほどのタマじゃありませんや。変な小汚いプレートまで偽造して持って来やがって、あのダークエルフ」
「デュロウだと? なぜそれを先に言わん!」

 ミヅチは日除けのフードの下から小僧と話しながらこちらを窺う三人組を見るとフードを取り払った。夕方とは言え、まだ日が残っている。彼から話は聞いていたがあの三人組のうち男は山人族ドワーフだから普人族とドワーフの、女二人は転生者のはずだ。

 横から夕日を受けたミヅチの顔を見て三人がそれぞれの表情で固まっていた。

「なんだよ、まだそんなとこで油売ってたのか。早く行かないとラリーが待ちぼうけになるぞ」
「どうしたの? 皆そんなとこで……」
「おいラルファ、お前達が先にシャワー浴びたいって言うから……よう。思ったより早かったな」

 ミヅチがこの三ヶ月、いや、椎名純子が八年も想い続けていた顔があった。逆光で表情までは窺えないが、きっと笑っているんだろう。

「貴方!」

 手綱を離して走り出した。

「「あなたぁ!?」」

 夕暮れのバルドゥックの街に素っ頓狂な声がいくつか響いた。

 
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