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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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「裏八十三話」

7444年6月20日

「ふむ……では、チズマグロル一位戦士の査問はこれで終わりとする。チズマグロルよ、今後もライル王国に忠誠を尽くせ」

 議長役のウェブンド元老がそう言って締め、ミヅチは了の意を伝えるべく返答しようと口を開きかけた。

「ウェブンド様、お待ちを。まだ本日の模擬戦での件についての裁きが終わっておりません!」

 元老の一人、ヨーレット戦士総監が異を唱えた。この場にいるのは査問の対象となっているミヅチの他、十人の元老に加え、三人の各戦士長と当時ミヅチと一緒に隊商を護衛していた二位の戦士と獲得階級の長であるベインドールがいる。そもそもの発端であった今年初頭の護衛任務の顛末が語られ、特に問題なく査問は終了したばかり。その間、跪いて頭を垂れるミヅチ達戦士は意見を求められた時のみ発言を許される存在であった。大して広くはない元老院の会議室の隅で五人の戦士と一人が跪いているので非常に窮屈だ。

 ミヅチは不思議でならなかった。今回の査問についても任務終了後に戦士長に報告した内容をそのままなぞって報告したに過ぎない。誰がどう見ても被害を護衛の三位戦士一人で収めたのは護衛隊長のミヅチの指揮と各護衛たちの頑張りによるところが大きい。一体どこに査問されなければならない落ち度があったというのか。

 勿論、査問は形式みたいなもので、粛々と進行し、問題なく今終わったのだが。

 ここでまた新たな問題が提起されるまで、一人を除くこの場にいる誰もがこのよくわからない儀式をこのまま終了させることに疑問を抱いていなかった。今まさに終わろうとしている。そんな時に元老のヨーレット戦士総監はミヅチを弾劾したのだ。

「模擬戦であるにも拘らず、チズマグロル一位戦士はホールクトキソを使ったばかりか、魔法で同胞を傷つけたと聞いております。これはチズマグロル一位戦士の負けということで宜しいか?」

 宜しいも宜しくないもない。ミヅチにとって模擬戦の勝敗などどうでもよかった。負けと言うのであれば負けでもいい。納得こそできないが、模擬戦で禁じられている自然毒の痺れ薬(ホールクトキソ)を使ったことは確かであるし、それを持って負けと判断されるのは仕方のないことだと思えばいい。何しろその時には模擬戦だということは理解していたのだから。

 ミヅチの脇でアーケイン二位戦士長が唸り声を上げた。

「~~! ヨーレット総監。私は納得致し兼ねます。今回の件、私はクロザック一位戦士と二人で最初から見ておりました。一体あれのどこが模擬戦ですか! 何も知らず、知らされず、遠くの地で必死に頑張って任務を終え、疲れきって帰郷した戦士に対して七人で問答無用の奇襲を仕掛けることを模擬戦とお呼びになるのであれば致し方ありませんがね」

 アーケイン二位戦士長を冷ややかに見やったヨーレット戦士総監は、

「発言を許可した覚えはないぞ」

 と言って、再びウェブンドを見た。ミヅチは訳がわからないまま(アーケイン二位戦士長が庇ってくれているようだけど、このままでは彼の立場もまずくなってしまう。自分が負けを認めれば済むのかな?)と思っていた。だとするとここは少しでも丸くおさめる方がいいだろう。

「発言をご許可願います」

 とミヅチは言い、ヨーレット戦士総監を見た。誰も許可を下さなかったので続いてウェブンドを見た。ウェブンドが目で頷いたように見えたので口を開いた。

「先ほどの模擬戦でホールクトキソを使ったのは確かです。出来るだけ相手を傷つけず無力化するためにしたことですが、それをもって勝敗を語る「チズマグロル!」

 大声でミヅチの発言を遮ったのはザーゲルフォル一位戦士長であった。

「いや、正式に発言を許可する。チズマグロル一位戦士……続きを述べよ」

 どうも先ほどの模擬戦について素直に負けを認めるのは良くないことらしい。

「は、模擬戦とは模擬戦闘の略です。本当の戦闘を模したものであり、本来ルールは存在しないかと。まして、私は模擬戦であることを知らされないまま奇襲を受けました。最初に腹部に矢を受け……これはたまたま問題なく防げましたが、続いて攻撃魔術によって攻撃をされました。この時点で、私に余裕がなければ全力で反撃して相手を殺してしまっても私に非はないかと存じます。実際、襲撃をかけてきた七人全員を行動不能にしました」

「貴様! この醜い出来損ないが! 同胞を手にかけることに非はないだと!?」

(まずい。確かに言い過ぎたかも知れない)

 幼少期から慣れ過ぎていたため「醜い出来損ない」という言については既に何も感じなくなっているのがミヅチの悲しさを物語っている。ついでに言うと、つい先日、心に余裕のできる浮ついた出来事があったばかりだから、そもそもの暴言耐性に加えて強固なバリヤーも張り巡らされているので今更そんな言葉を言われたところで全く心にダメージなんか受けない。限りなく女子力が低くなっていた。

「ウェブンド様、発言の許可を」

 ミヅチの脇でザーゲルフォル一位戦士長が低く、威圧感のある声で許可を求めた。ザーゲルフォルを見て「許す」、と一言でウェブンドは許可を出した。

「は……ヨーレット総監。いくつか言いたいことはありますが、まず“醜い出来損ない”という発言はどういう意味ですか? 戦士に求められるのは美醜ではありません。チズマグロルに謝罪を。それから、今回の件、最初に言質を取られるような発言をしてしまった私にも大きな責任はありましょう。
 しかしながら、誰が見ても模擬戦はチズマグロルの勝利に終わっているかと存じます。模擬戦のルールなど今回はどうでも宜しい。それを言うなら通告なくいきなり奇襲を仕掛けるやり方に問題があるとしか思えませんな。にもかかわらずチズマグロルが勝利し、先ほど護衛任務も遺漏なく遂行したことが証明されました。
 従って戦士階級の減員は「それ以上は結構です。黙りなさい」

 ファントーヅ戦士副総監がザーゲルフォルの発言を遮った。

「そこから先は我ら元老の仕事ですよ。戦士長。……さて、ヨーレット様、今のザーゲルフォル一位戦士長の発言について……まず暴言についての謝罪は勿論ですが、何故戦士階級の減員にそこまで拘泥されるのですか? 生産力の向上のため、奉仕階級の増員は確かに大切なことです。しかし、些か性急に過ぎませんか?」

 ヨーレットは皮肉げな顔で聞いていたが、返答のため口を開いた。

「……元老諸氏方はどうお考えか? リルス陛下のお言葉を軽く見過ぎてはおられないか? 食料の増産は第一に陛下が挙げられているところ。いかなる犠牲を払ってでも行わねばならない。我が国の人的資源は限られておりますからな。
 ……ここ百年で増えた人口は僅か400人、一割でしかないのですぞ。新生児の死亡率は約三割。子供を三人作っても殆ど人口が増えない計算だ。それも全て食料の問題に起因していると言えよう。必要最低限の人数を残し、戦士を奉仕階級に移動させることについて何が問題だと言うのか? それこそ私には納得し難い」

 ヨーレットは静かに話し始めた。

「先日私は、我が国の外貨収入は二百億であり、そのうち戦士階級によって得られる収入は魔石の販売も含めて二十億に満たない、と申し上げた。確かにこの表現には不適切な部分があることは認めよう」

 そう言うと、用意された水で口を湿らせた。

「キノコ栽培のガラス瓶の購入や、各種資材の購入。勿論戦士たちの使う武具の購入もある。秘薬の原料だってキノコだけではないからな。その購入代金もかかる。行商に出るための馬だってキノコを食うわけじゃない。餌代だってバカにならん。三十頭の馬の餌代だけで年間2500万Zもかけて藁を買わねばならんのだ。
 だから、ご存知の通り利益が二百億もあるわけではない。支出は百七十億もあるのだから。国民に払う給料も支出に入れたら二百億でカツカツだ。外貨準備金なぞ雀の涙でしか貯蓄できない。少しでもこの状況を打破するためには金を稼がねばならん」

 既に言葉遣いも変わってしまっているヨーレットに元老だけでなく、その場に居る全員が注目していた。

「確かに戦士たちには済まない事だとは思う。だが、私の試算では現時点で全体の二割、五十人以上の戦士を奉仕階級に移動させることによってトンネルの拡張効率は三割近く跳ね上がる。何しろ奉仕階級でトンネル拡張の任についている者は今300人程度しかいないからな。この300人は男性が中心だが、四十代は言わずもがな、五十代も多く含まれている。
 十年後、二十年後、この結果は必ず我が国に恩恵として返ってくる。広がった農場ではそれだけ多くのキノコが栽培され、増産された分、食料も、金も増える。世の家族達は安心して四人目以降の子供を作ることができる。人口は増加し、更に生産力が増強される。金があれば周辺諸国から食料としてもっと多くの麦を買うことだって出来るだろう。乾燥キノコのように長期間備蓄可能な食料である麦をより多く買えれば大きな力になるだろう」

 注目を集めたヨーレットは頭を机に擦りつけながら言葉を続ける。

「幸い我が国は外国から侵略を受けたことはない。防備を固める重要性は諸外国ほどにはないのだ。なにしろ山しかないからな。我が国土では地上の国々のように畑が作れん以上、諸外国も我が国と争ってまで欲しい程の領土ではないのだろう。苦しい修行を積み、日々研鑽を重ねてやっと戦士階級に成れた者たちには本当に申し訳なく思う。しかし、これが今の我が国の現状なのだ。そろそろ抜本的な改革をすべきだと思っている。そもそも王道楽土建設計画とはそういう意味の計画なのではないかと私は思う。
 記録に残るリルス陛下のご指示は、三百年前の「パープルウォーム事件」の時以外はどれも殆どが生産力向上に繋がるものばかりだ。陛下は常に我が国の民の幸せをお考えだ。今回もそうであったろう? アベルッジの新しい育て方や栽培効率の向上、タクルッジの苗床の整備、コーフルッジの温度管理法など全て食用キノコについてのご指示だ。それ以外はトンネルを伸ばす方向や拡張範囲など、ほぼすべてが生活に必要な、生きるのに必要なものだった。秘薬の原料になるラクホッグや基礎毒物のリレホッグ、ソルホッグなどについては何のご指示もなかった。戦士たちについてもほとんど言及はされなかった」

 机に頭を擦りつけながら現状を訴え、懇願するヨーレットを見てミヅチは思う。今までの話の流れからなんとなく裏を読めた気もしないではないが、いくらなんでもそんなことが原因で模擬とは言え襲撃をかけられたのは納得がいかない気もした。

(なるほどねぇ。こういう人もいたんだな。でも、政治家ならちゃんと根回しして皆の合意を得てから……民主主義ってわけじゃないし、それはいいのかな……でも元老って合議制だから民主主義みたいなものじゃないのかなぁ? それに、まだ私謝って貰ってないけど。ああ、そう言えば……)

 ゴソゴソとアンクを取り出したミヅチはそれを額に当てて拝跪するように地面に座り直すと「君が代」を歌いだした。勿論、最初に一言カモフラージュも入れた。

「リ、リルス陛下!?」『きぃ~みぃ~がぁ~あ~よぉ~お~は~……』

 急に妙な歌を歌いだしたミヅチに全員がぎょっとしたような視線を集める。それも無理はない。しかし、アンクを額に当て、拝跪のポーズを取っていることからあっけにとられて見守っていることしかできなかった。まして最初に言った一言が邪魔するのを躊躇させた。

(うぅ、恥ずかしい……)

『……むぅ~う~すぅ~う~まぁ~あで~』

 ミヅチのアンクが一瞬強く光り輝くと、まるで三次元映写機のように会議室に映像を描き出した。映っているのは王冠を頭に載せ、背中から蜘蛛の足を生やしたダークエルフの女性だった。同時にこの場にいる全員の頭に言葉が響いた。

“我はリルス・ズグトモーレ。ライル王国の王にして国母なり。我が子らよ、拝跪せよ”

 全員が顔色を変えてその場に拝跪し蹲った。元老たちは椅子から飛び降り、会議室の隅で跪いていた者はそのままその場で土下座の姿勢で拝跪している。中には感極まって滂沱の涙を流している者もいた。

『椎名さん。これね、録画みたいなものなんだけど、ちょっとだけ臨機応変に対応できるの。三つあるうちの一つを選んで。一番、対外的な政治的問題の発生。二番、貴女の立場に関しての問題の発生。三番、国内の政治的な問題の発生。番号を日本語で言って。次に落としどころのレベル。攻撃的で強気な対処。中庸。防御的で弱気な対処。これは貴方に取っての落としどころで構わないわ』

 ミヅチは目を白黒させながらも、

『三番、中庸でおなしゃす』

 と言った。慌てすぎて噛んだ。ミヅチの言葉を確認したかのように映像のリルスは頷くと、厳かに口を開いた。

「元老は全員揃っているようですね。よく聞くのじゃ、我が子らよ。妾は国内でのつまらぬ諍いは好まぬ。妾はこの件についてチズマグロルに後ほど指示を与えよう。明日の昼以降、彼女から指示が下るであろう。今晩、彼女を妾の寝室に入れよ。良いですね」

「「は!」」

 室内に居る全員が唱和したかに見えた。ミヅチだけが『まさか、丸投げ……』と絶句していた。なお、女王陛下の話はもう少しだけあった。おかげでミヅチの肌の色はともかく、黒髪は最上級で美しいものになったが。ダークエルフたちの今までの価値観から言って違和感バリバリであったのは否めないところだった。



・・・・・・・・・



 今日エルレヘイにたどり着いたミヅチが自宅に戻る間もなく兄の顔も見れないまま出頭した元老院での出来事であった。

 
変なとこで終わってすみません。
あと短くてごめんなさい。

また、ライル王国ですが、ガラス瓶は運送中の破損もコストに計上されますから通常より高価な価格で購入していることになります。その他の製品の輸入コストも他の国よりも高いです。秘薬のベースになるキノコのエキス以外の魔法薬も非常に高価です。まともな農業を行える平地がないので食用の豚肉などもほぼ全て輸入に頼っています。一部家畜のようなものも居ない事はないですが、その数は非常に少ないです。
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