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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第八十一話 第一夫人

7444年5月30日

 皆で夕食を食べ終わり、明日は輝く刃(ブライトブレイド)の件で返還される予定の彼らの装備品を奴隷たちに受け取りに行かせる。品質が良い物があればそのまま使うのもアリだろう。鎧も金属帯鎧バンデッドメイル金環付革鎧リングメイルもあったはずだ。そろそろ痛み始めたメンバーの革鎧の新調のついでにこれらの部材を流用可能であればそうしてもいいだろう。

 夕食後、奴隷達に今月の給料を払い、別れたあと、飲みに行きたがるラルファとグィネを引っ張って「ボイル亭」に戻った。そして、また俺の部屋に集合させる。

「ちょっと事情を深く知る奴だけで話をしなきゃいけないと思ってな。固有技能のことだ」

 俺が豆茶を淹れながら【固有技能】についての話題を振ると、部屋に入ってからも無駄話をしていた全員が黙って注視した。

「ん~、すっごく話し辛いな、これ。……まぁ聞いてくれ」

 俺の言い方に引っかかることがあったのか、皆ちょっと不思議そうな顔をした。

「整理も含めて、もう一度話をしようか……。俺たちは、7428年の同じ日に生まれた。死んだのも同じ日だ。事故だし、即死したのなら当然だろうな。即死しなかった人もいるかも知れないけど、そこまでは何とも言えない。あの事故の犠牲者が全員即死だったとも思えないしね。病院で死んだ奴がいても不思議じゃないだろうな……。ひょっとしたら即死したやつだけこのオースに転生したのかも知れないし、そうじゃないかも知れない」

「そんなこと散々話してきたじゃない」

 ラルファが言った。確かに今更だ。

「まぁな。だが……オースに転生しているのはどうやら俺たちあの事故の犠牲者だけじゃないようだ」

 俺がそう言うとラルファはぽかんと大口を開けて俺を見ていた。他の奴らも似たりよったりだったが。

「当然不思議に思うだろう。何でそんなことが判ったんだ、ってな」

 皆がゆっくりと頷くのを見ながら更に言葉を継ぐ。

「昨日の夜、少し話をしたが……当然あの話は全てじゃない。まず、時系列に沿って話をしようか……。だが、いいか、これから話すことは正しいとは限らない。聞いた内容だって眉唾ものだ。ただ、一応話の整合性は取れていると思う。まず、事は1300年前に始まった。もっと昔からかも知れないし、本当に1300年前から始まったのかも知れない。俺個人としてはもっと昔から連綿と続いていた歴史の中の一つの話じゃないかとは思う」

 皆を見回してまた口を開いた。

「1300年前、一人の日本人がオースに転生した。だが、1300年前の日本人じゃない。俺達と同じ時代を生きていた人だ。リルスという名の女性で、精人族エルフだ。彼女はここよりもずっと東の方、今は無いエルフの国に生まれた。その女性は最初こそ皆のように戸惑いや葛藤もあったろうが、なんだかんだ適応できたのだろうし、そこそこ運もあったんだろう。無事に大人になり、結婚をして子供を生んだ。子供が少し大きくなった……二歳くらいになった頃、村の娘達と狩りに出たそうだ。数日後、獲物を獲って帰ってきたリルスは隣国から侵攻してきた軍隊に自分の村が蹂躙され、家族も含め、村の人達が殺されていた光景を見た」

 グィネが目を見開いて口を押さえている。

「彼女は復讐を誓い、村の生き残りを中心に抵抗軍レジスタンスを組織した。細かい内容までは解らないが、いろいろ大変だったんじゃないかとは思う。何年もかかってついに侵攻してきた国を滅ぼしたんだそうだ」

 ゼノムは腕を組み、目を閉じて話をじっと聞いている。

「その頃には村の生き残りはリルスだけになっていたんだと。他の人たちはそれまでの戦いで命を落としてしまったんだろうな。そして、何故かは、どうやったかは知らないが、その代償とか褒美とかで不老になったらしい。不死身ってわけじゃないみたいだ。……おい、疑わしそうな目で見るな。まだ終わってねぇ」

 ラルファはゼノムそっくりのポーズで腕を組んで俺を疑わしそうな目つきで見ていた。

「そして、同じく不老になっていた別の男性と結婚したそうだ。これがいつの事かはよくわかんねぇ。で、その結婚相手は子供が欲しかったらしいんだが、彼女には子供が出来なかった。その旦那は怒り狂ってリルスを殺そうとまでしたらしい。……ああ、そうだな、とんでもねぇ野郎だ。しかし、身の危険を感じた彼女は旦那を返り討ちにして殺した」

 ベルが真剣な顔でうんうんと頷いていた。組んだ腕に乳が乗るとは……流石。
 トリスは心なしか居心地が悪そうだった。お前、ひょっとしてベルになんか言ったんか?

「最初に説明した通り、リルスはオーラッド大陸の東の方に居たんだが、その後西の方に移住してきた。そして暫く時間は飛ぶ。今から七~八百年前、だから生まれてから四~五百年くらいか……経ったときシャライズダンとネーラルという力のある神が死んだそうだ。え? なんで死んだのかなんて知らんよ。とにかく、その二柱の神の死を受け継ぐ形で彼女は亜神デミ・ゴッドになったらしい。その時、彼女は闇精人族ダークエルフになったそうだ……これは単なる俺の想像にしか過ぎんが、リルスがその二柱の神を殺したんじゃないかと思ってる」

 目を閉じていたゼノムが再び目を開き、また閉じた。

「つまり、彼女が全てのダークエルフの始祖に当たるらしい」

 そう言って豆茶を一口飲んだ。

「それから、リルスは産めよ増やせよでダークエルフの国を作った、んだろう。よく知らんけどさ。自分は女王を名乗り、細かい仕事は臣下に割り振って何年も経った。そうやって時は流れていく……。亜神デミ・ゴッドとはいえ神になった彼女は俺たちのような転生者が度々オースに生まれて来ては死んでいくことに気がついた。
 転生者が生まれるのは、それ以前の転生者、要は固有技能を持った世代が死に絶えて何年かしたららしい。それから初めて新しい転生者が生まれて来るそうだ。生まれるのは一人だけのこともあれば俺達のように複数のときもあるそうだ。だが、恐らく複数だろうな。子供のうちに死んじゃう奴がいたり、一生出会わないことだってあるだろうから、気がつかないだけなんだろう。
 彼女の場合、亜神デミ・ゴッドになったから固有技能を持ってはいても普通の転生者の枠から外れた存在になった。このことから想像するに、リルスが生まれてから亜神デミ・ゴッドになるまでの何百年間かは転生者が生まれなかったんだろうな」

 脚を組み直して少し姿勢を変えた。

「そして、あるとき……多分今から五百数十年くらい前だろう、リルスは普人族の青年と出会う。青年の名はジョージ・ロンベルト。そう、ロンベルト王国の創始者、ロンベルト一世その人だ」

 ゼノムが驚いて目を開いた。

「きっと、リルスはすぐに気がついた。彼も転生者だとね。いくらか話もしたらしい。会ったのがその一回だけなのか、もっと多くの回数会ったのかは知らん。だが、いろいろ助言を与えたのではないかと思っているし、一回だけだと不自然な点も多いから何回も話はしたんじゃないかと思ってる。ひょっとしたら連絡係でもいたのかも知れない。ロンベルト王国はその国家運営のシステムにおいて他国とは似てはいるものの異なっているところが多い。
 例えば軍制だ。貴族と軍人の階級が別になっているとかこのあたりはリルスが助言したんだろう。他にもいろいろあると思う。商会の資格制や政治形態もそうだ。基本的には貴族が国王から任命されて大臣をやって大まかなことを司っているようだが、末端レベルは役人の階級が決められていて自由民や平民も役人としては結構上の方まで出世できる。これは、オースでは異常なことだと思うよ」

「確かに、外国では王国ロンベルトと違うことがいろいろあると聞いている……」

 目を見開いていたゼノムが重々しく言った。俺は彼に頷きながら言葉を続ける。

「ジョージ・ロンベルトは賢明だったと思う。もともと軍事的な才能には恵まれていたんだろうが、それに奢ることなく、リルスの助言を受け入れ、ついにはこうして五百年も続く強大なロンベルト王国を作り上げた。彼の転生前の名は、聞いて驚け、源義経みなもとのよしつねと言ったそうだ」

 トリス、ベル、ラルファ、グィネが騒然とした。ゼノムだけはちんぷんかんぷんだろうが、これは仕方ない。昔の有名な武将であったことをラルファがゼノムに説明していた。俺は皆が静まるまで待った。

「もういいか? あ? 武蔵坊弁慶は義経と会えずに死んでしまったらしいな。うん。続きだ。亜神デミ・ゴッドになったリルスは転生者が生まれる前兆も察知できるようになった。そして更に年月は経つ……五百年だ。リルスは、彼女のお膝元に一人の転生者が生まれそうなことを察知した。それが、チズマグロル。このまえ迷宮で会った俺の昔の部下だ。チズマグロルが生まれたとき、リルスは驚いたらしい。今まで何人もの転生者と会って、見てきたが、自分と同時代に生きてきた人と会ったのは初めてだったからな……」

 トリス、ベル、ラルファ、グィネの四人は、目を閉じたり、遠くを見つめるような目でリルスの思いを感じていたようだ。

「嬉しかったんだろうな。生まれた直後にちょっとだけどんな人なのか魔法で記憶を覗いたらしい。その魔法は「報告レポート」と言って、非常に魔力を必要とする、今では失われた魔術だ。魔術を掛けられた対象は、寝ている時なんかの意識レベルが低い時に、今まで強く思っていた印象深い記憶を強制的に開陳させられる。そして、代償として対象者の記憶に封印がかかる。え? 見られた記憶自体に封印がかかるのかは知らん。だいたい、その「報告レポート」は俺でも魔力が全然足りなくて使えないらしいし。
 リルスは当然その事を知っていた。でも、懐かしくて、切なくて、ついつい貪るように強力に「報告レポート」を使い続けてしまった。チズマグロルはまだオースに転生して間もない赤ん坊なんだから、オースの人生の記憶なんかあるはずない。ついにはチズマグロルは前世で得た知識を除く記憶の殆どに封印が掛かってしまうほどだった。つまり、奴は赤ん坊の頃にそれまでの人生で積み上げてきた人生の記憶の殆どを忘れてしまっていた……」

 またグィネが目を見開いて口を押さえている。

「でも……でも、気持ちは解ります」
「ああ、俺もその人の気持ちは解る。どうしても抑えられなかったんだろうなぁ……」

 ベルとトリスが女房リルスの擁護をしてくれた。

「確かに、そうだけど……それで人生を忘れちゃうのは……辛いかな……」

 ラルファがぽつりと言った。

「まぁ、忘れる、と言うのは語弊があったな。最初に言った通り、記憶に封印がかかるだけで完全に忘れたわけじゃない。実際、チズマグロルは俺と会ったことでかなりの部分を思い出していた。続けるぞ……新たに転生してきたチズマグロルから前世の記憶を得たリルスはあることに気がついた。チズマグロルは一人で転生してきたのではないだろうという事だ」

 皆を見回して様子を見た。不思議そうな顔をしている奴はいなかった。突っ込まれるかちょっと心配だったんだ。助かった。

「チズマグロルの記憶の中に、ある人物がいた。その人物はリルスが転生する前、地球で親しくしていた相手だった。その人物がチズマグロルの記憶にいたから、いけないとは思いつつリルスはチズマグロルの記憶を見ることを止められなかった。その人物(そいつ)は、リルスの日本での夫だ」

「あ……それは……無理ない……かも」
「うん……責められない……でも……」

 グィネとラルファが言った。

「そ、それって……」
「そんな……!」

 ベルとトリスは思い当たったのかも知れない。

「……」

 ゼノムは腕を組んだまま眉根を寄せ、難しい顔をしたままだった。

「……リルスは自分の夫だった男がオースに赤ん坊として転生している可能性があることに気がついた。しかし、彼女は既に自由に動ける体ではなかった。文字通り、その足は地面に根を張っていたんだ。仕方ないのでその「報告レポート」の魔術を闇雲に使って一人一人……オースの人を手当たり次第に……記憶をほんの少しづつ覗いて探すしかなかった……。
 さっきは言ってなかったが、この「報告レポート」の魔術は、対象までの物理的な距離が近いほど掛け易いし、その深度も深く掛かり、多くの記憶を見ることが……従って封印することが出来る。遠くなればなるほど難しく、魔力も大量に使うし、効果も低い。気の遠くなるような作業だったんだろうな……。
 十年ほど経ってやっと見つけることが出来た……その記憶を覗いて遂に夫を特定出来たことが解ったとき、きっと彼女は嬉しかったんだと思う。亜神デミ・ゴッドと言っても全能じゃない。会うためには夫に自分のところに来て貰わなければならない。話すためにはそれしかないんだから……。既に彼女は魔力の限界を迎え、擬似的だとは思うが死の目前だった。何とかして精神を同調させようと、一言でも“私はここにいる、会いに来て”と伝えたかったんだろう、相当無理もしたようだ」

 全員が押し黙って俺の話に耳を傾けている。

「さて、ここで少し話は変わる。俺は、微妙にだけど記憶に抜けがある事に気付くことが出来た。最初に気が付いたのはバルドゥックに来てしばらく経ってからだ。そして、ひょんなことから自分の頭に強力な、俺でも解除できないような正体不明の魔術が掛けられていることを知った。それから……いろいろ情報を集め……この辺りのことは偶然もあるが、今度機会があったら話すよ……とにかく、自力では解除出来ない強力な魔術の虜になっていることが分かり、術者と交渉するしかないと思った。
 交渉するためには会話が必要になる。俺は「遠話テレパシー」という魔術を使って会話をすることにしたんだが、この「遠話テレパシー」の魔術を使うには距離は関係無しに相手が見えている必要がある。そのため、「術者探知ディテクトマジックユーザー」という魔術を使って相手を見なければならない」

 豆茶を飲んで口を湿らせた。

「この「術者探知ディテクトマジックユーザー」もおいそれとは使えない。触媒として透明度の高い球体をした鉱物結晶が必要だ。正直な話、ここ最近、水晶とかダイヤモンドとかそういったものに血眼になって拘っていた理由だ……。十四層に落ちたとき、デス=タイラント・キンという目玉の化物を倒したが、その目玉の中が結晶化していた。勿論採ったさ。帰り道……多分、十三層の転移の水晶の部屋で俺は手に入れた結晶を使って早速「術者探知ディテクトマジックユーザー」の魔術を掛け、水晶に映る術者の顔を見た……」

 タバコ、欲しいな……。

「もうわかってるだろう? 美紀、女房が映ってた……。「遠話テレパシー」で話をした。今話した内容はほとんど全部女房……リルス本人からその時聞いたことだ」

 部屋の中は静寂が支配していた。ゆっくりとした呼吸音だけが感じられる。

 相変わらずゼノムは腕を組んで目を閉じており、トリスもゼノムに倣っているかのように同様に目を閉じていた。ベルとグィネは目を伏せていたが、その目は涙が滲んでおり、赤くなっていた。ラルファだけがぼんやりとした目つきで中空を見ていた。

 少し間を置き、また口を開いた。ここまでは前フリなんだしな。

「こんなでっかい水晶玉でもそんなに長時間の話はできなかった。だから、今のが話せた内容の殆ど全てだよ。まず最初に言っておくけど、俺は、今女房には会いに行かない。今から行っても会えないらしいからな。遠くて間に合わないってよ。だが、普通の人と違って亜神デミ・ゴッドとはいえ神様だ。また何年か、何十年かしたら復活するらしい。そんとき俺が生きてりゃ会えるだろうからいいよ。だから……だから気にしないでくれ」

 俺がそう言っても全員辛そうな顔で見てくれた。そんなに俺のことを慮ってくれるのか。ありがたいな。

「で、新たに得た情報なんだが、これでやっと本題だ。固有技能についてだ。固有技能はそのレベルが最大……9になると隠された能力が使えるようになるらしい。気がついた奴はいるか? 俺は気がついた。【魔法習得】の最高レベル到達によって知った隠された能力は……後で言う」

 ちょっとずっこけた感じを受けたが、それもそうだろうな。俺は皆の反応を見て言う内容を変えようと思っていた。それに、どうもベルが手を挙げる感じがしたのもある。

「ベル。何か気がついたのか?」

「……はい。実はちょっと前からそんな気がしていたんです。【射撃感覚】を使うとき、いつもより少し、更に集中する感じで使うと、命中率が高くなる気がしていました」

 ほう? 以前ベルを鑑定した時は……いつだっけ? だが、固有技能の内容を読んだのは出会った時くらいだったな……。視線をずらしても不自然ではないように鑑定してみる。

「へぇ? トリスとグィネはどうだ?」

【固有技能:射撃感覚;射撃時に使用者の感覚を鋭くさせ、射撃の正確さを高める能力。レベル0で本来の射撃能力に5%の補正…………それによって投射された物体の飛距離や威力にはなんの影響も及ぼさない。MAXレベルの拡張能力はMPを更に1追加で消費することで射撃能力の補正を50%追加することである】

 なるほど。

 あと、固有技能がMAXレベルに到達しているのは、トリスとグィネだ。ラルファはレベル8近くまで行っているが、まだ7だ。

 トリスは頭を捻っている。鑑定してみたが特に変わったこともなかった。MAXレベルになってから更にある程度使い続けないと拡張能力は開花しないのだろうか? グィネはなんだか迷っている感じだ。ひょっとして彼女も気づいたのだろうか。

【固有技能:地形記憶マッピング;技能使用中に目にした地形を詳細に記憶できる。また、能力使用中に以前記憶した地形に侵入した場合…………によって視覚情報を欺瞞された場合、欺瞞状態で記憶することになる。MAXレベルの拡張能力は既に記憶している地形を参照している場合(これは、能力使用中でも構わない)、その地形内に自分が居るのであれば自分の現在地を俯瞰図や参照図内で把握出来ることである】

 ほほう。グィネの場合、追加のMPは必要ないんだな。

「あの、私も、近頃なんとなくですが……気がついたことがあります。頭の中に地図を思い浮かべた時、その地図内に居れば今自分がその地図の何処に居るのかわかるんです」

 うむ……。だが、ベルとグィネが正直に申告してくれたので俺も言うしかないだろう。予め考えておいた答えの中から最適な物を選択する。正直な話、ベルにしろグィネにしろ気が付いてるとは思わなかった。俺だって鑑定によって自分の魔法技能の経験値を観察していなきゃ気がつかなかったんだから。鑑定の拡張技能については未だにわかんねぇし。だから、こちらとしても最大限譲歩しようと思った。

「トリスは何か気がつかなったか? そうか。俺の場合は、新しい魔術を覚えるのが楽になった。これは今までとはちょっと違う。確かに今までも新しい魔術を覚えることは出来たしな。そうじゃなきゃあんなに沢山の種類の魔術を使いこなせないからな」

 また一口豆茶を飲んで口を開く。

「例えば、ここに俺の知らない魔術Aを使える奴がいたとする。このAという魔術を俺が習得する一番楽な方法は、実際に目の前で使って貰い、直接指導を受けることだ。これは皆も一緒だろう? 次に楽なのは使って貰うだけで指導がないこと。その次は魔術の内容や効果なんかを教えて貰うことだ。ただし、いずれの場合も当然その魔術に必要な魔力があることが前提だ。これは俺も含めて誰でも一緒だということは理解してくれると思う」

 皆が頷いた。

「でも、特に最後のは、それだけだとかなり難しい。魔法習得を持っている俺ですら非常に困難が伴う。俺の魔法の師匠は母親だ。彼女は水魔法と火魔法しか使える元素魔法はなかった。地魔法や風魔法について、それら元素魔法が含まれる魔術についてはうちの母親は指導しようがなかった。だが、俺の場合、皆も知っての通り、魔力だけは沢山持っているから試行錯誤できる回数が非常に多かったのが有利だった。何回もトライアルアンドエラーを繰り返して少しづつ物にしていった。
 皆も魔法について修行を行っていて気がついたことが幾らでもあるだろうが、新しい魔術を使うこと自体はさほど難しくない。但し、その魔術が実際に存在していて目の前で見たことがある場合だ。さっきのを例に取るとAという魔術の名前は知っていても、見たことが無ければその存在を心のどこかで疑っている場合が多い。そうだな。さっき俺が言った「報告レポート」や「術者探知ディテクトマジックユーザー」「遠話テレパシー」なんかも名前を聞いただけじゃ上手く使えないと思うよ」

 椅子に座り直して更に続ける。

「ところが、俺の【魔法習得】の能力で俺は魔術の名前や効果を知ればそこそこ上手く使いこなせるようになるのにさほどの時間はかからない。そして、最高レベル到達によって解放された隠された能力は、自分だけの魔術を開発することまである程度だが容易にしてくれた。まだ取り組んでいないが、これで俺はひとつ新しい魔術を作ろうと思っている」

 ニヤリと笑みを浮かべ、全員を見回した。

「それは「ステータスオープン」の拡張だ。手を触れないでも相手のステータスが見れるように出来ればいいと思ってる。特に、今までは本人しか見ることの出来なかった固有技能や、その他の特殊技能……魔法のレベルを見れれば最高だ。転生者を探すのに有利だし、これから先、俺の国を作るための人材を登用するのにも役立つと思うからだ」

 グィネが何か言いたそうだな。

「グィネ、何か言いたいことがあるのか? なんだ?」

「……うーん、それって何の役に立つのでしょうか?」

「グィネ、よく考えてみろよ。きっとすごく役に立つぞ。例えば、街で日本人っぽい人を見かけたとする。アルさんがそこでさっき言った魔術を使えば相手に気付かれることなく転生者かどうかわかるんだ。このアドバンテージは大きい。嫌な言い方になるけど、気を悪くしないで聞いて欲しいんだが、相手に気がつかれないうちに、可能なら相手の弱みを握るなどして外堀を埋めることだって可能になるかもしれない。それから交渉したら断られることなく仲間に入ってくれる可能性が高い。なにしろ全員がアルさんに共感してくれるわけでもないだろうし、既に仕事や家族を持っていて普通に暮らしたいと思っている場合だってあるだろう。そういった人を仲間に出来るのは大きいぞ」

 トリスが言った。そして、更にベルも口を開く。

「私たち二人の腹は決まっていますから、今更ですが、相手の弱みを握る、だなんて事じゃなくて、相手にこちらからメリットを提示して仲間になって貰うことも出来るでしょうね。提示できるメリットをより相手の好みそうな形に近づけられる可能性が広がることが大きい、という事。勿論、相手が転生者じゃなくても名前や家名を先に知れることは大きいと思う」

 次いで、ラルファも言葉を紡ぐ。

「モンスターも見れると便利かも……特殊技能とか。この前のゴーレム、魔法効かなかったしね……」

 ゼノムも腕を組んだまま言う。

「……だが、よしんばそんな魔術をアルが作れたとして、誰にも言えんな。手当たり次第にステータスオープンが出来ると言うのは、嫌がられるだろうからな。考えてみりゃ気持ち悪い」

「確かに」

 苦笑を浮かべながら返事をした。

「だけど、安心してくれ、ゼノム。矢鱈滅多らは使えないと思うよ。なんとなくだけど相当魔力を喰う気がする。出来たとしても俺もそう何度も使えないだろうね。決め技に近い感じだろう。迷宮内部でモンスターに使うにしても余程強敵相手じゃないと魔力がなくなりそうで無駄になるだろう。戦闘にはあんまり役に立たないかも知れない」

 そして、

「完成までにどれだけ時間が掛かるかも判らないしね」

 【鑑定】の固有技能ではなく、魔術の一種と言う事にすれば忌避感も減少するだろう。しかも、かなり魔力を喰うことにしておけば彼らに教えを請われても彼らでは使えない。俺にとっての「報告レポート」の魔術のようなもんだ。

「すまんが女房に聞けた情報はこのくらいだ。トリスは【秤】の拡張能力に気が付けると良いな」

 と言って締めくくった。

「さて、次だ。今朝、俺は国王と話をした。ぶっちゃけた話、そこそこ良い話とあんまり良くない話がある。そこそこ良い話からしようか」

 全員、また俺に注目した。

「基本的には、俺が勝手に独立国を作ることはOKだとさ。そして、天領の一部を買い取る……と言うのもおかしな表現になるが、まぁいいや、買い取るのであれば、ロンベルト王国自体はこちらが敵対的な行動を取らない限り攻撃はしてこない。ロンベルト以外の外国から攻撃されても助けてもくれないけどな」

 ほう、と皆からため息が漏れた。

「それは素晴らしいですね。大きな憂いが一つ無くなるのはでかいじゃないですか!」

 トリスが言った。確かにな。

「ああ、そうだな。だが……やられたよ、あのオッサン(国王)やっぱ只もんじゃねぇわ」

 俺がそう言うと、全員身を乗り出してきた。

「こっからあんまり良くない話だ。さっき言った通り、国王から天領を買うのはまぁいい。東の先のリーンフライト伯爵領の端っこよりはだいぶ狭くなるかもしれないが、あそこまで痩せた土地じゃあないだろう。と言うより、土地自体は肥沃と言ってもいい。だが、大きな問題がいくつかある。まず一つ、金の問題だ……百億Zだとよ。またはそれに匹敵するような有用な魔道具を差し出せとさ」

「……」

 これはある程度予測されていたことだ。その為に俺たちは飽きもせず迷宮に潜っているのだ。

「次の問題は、その土地っていうのがダート平原ということだ」

「「ええーっ!?」」

 そうだろうともさ。

「そうだ。常識だが、あそこはデーバス王国としょっちゅう揉めてる。ロンベルト側からの攻撃は考慮しなくても良さそうだが、デーバスはそうはいかんだろう。そして、それに付随する問題がある。ベルとズールーはデーバスの出身だ。ズールーはまぁいいとして、ベル、同じ国の人と剣を交える可能性が出てくる。と、言うより、確実にデーバスは手を出してくるだろうから、可能性云々じゃないな。そうなったらベル、君は戦えるか? 土地を守って殺し合いになる。場合によってはコーロイル家は準男爵だから攻撃に参戦するかも知れない」

 俺が苦虫を噛み潰したように言うと、全員、ベルの顔を見た。グィネが心配そうにベルを見ている。しかし、トリスだけはベルを見ず、隣のベルと一緒に俺を見ていた。

「アルさん。私は二十歳になったらトリスと結婚するつもりです。そうなったらベルナデッド・コーロイルではなく、ベルナデッド・カロスタランです。そして準男爵家次女ではなく、アルさんの作る国のカロスタラン伯爵家第一夫人です。いえ、トリスの率いるカロスタラン家は新王国の侯爵を目指しますから、カロスタラン侯爵家第一夫人です。デーバス王国のコーロイル準男爵家が我々に帰順してくるのであれば迎えてあげて欲しいですが、そうでないのであれば侵略者ということになります。王国の侯爵家が侵略者と戦うのに何をご心配しているのですか?」

 貴女の心の割り切りを心配していたのですよ。第一夫人(候補)。
 しかし、強烈だな、お前。何となくトリスが心配だが、トリスはベルの横で平然としている。
 ベルの発言にゼノムを始め、ラルファとグィネもドン引きだった。

 だが、お前の、お前たち二人の覚悟は確かに見せて貰った。
 いずれそれを証明してくれな。

「……それは……済まなかったな。ごめん……許してくれ」

 必ずいい目を見せてやる。

「……ふーっ、ベルとトリスがそう言ってくれればそちらの憂いはない。だが、本格的な争いになる可能性が高い。正直なところ……ダート平原はどうかと思うんだよな……実際見たことねぇし」

 ところで、第一夫人と言うからには第二夫人とか第三夫人も覚悟してんの? お前。まじ強烈だな。
 あ、そうか。言うの忘れてた。これがあったからその辺、諦めて第一夫人とか言ってたのかな?

「それと、ごめん、言うの忘れてた。転生者同士なら種族が違っても子供は普通よりは出来易いらしいぞ。女房が……リルスが言ってた。何組か見たこともあるらしい」

 ベルとトリスは驚いたように顔を見合わせ、笑みを浮かべた。

 あとで、しっかりと言っとかなきゃ。コンドーム絶対使えって……。

 その後、ダート平原でいいのか、東方のがいいか、全員で喧々諤々、話し合いはかなり遅くまで続いた。

 
GWの更新予定ですが、本日から一週間家族旅行に行きますので次回の更新は日曜に(予約投稿済みです)なります。ごめんなさい。その次は来週木曜から平常運転できるといいな、と思っています。

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