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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第七十七話 愛情

7444年5月28日

 最終的に水晶球に映った映像は黒一色だった。と言っても真っ黒い紙が映ってるとかではなく、剛毛が映っている感じだ。なにかの動物の黒い毛が生えている体表、というのが一番近いかも知れない。なんだよ、これ。カメラの位置が近すぎるだろ。そう思ったら少しだけズームアウトしたようだ。

 天鵞絨びろうどのような柔らかそうな皮膚の表面に、余すところなく太い毛が生えている感じ? もっとズームアウト。もっとだ。水晶球に映像を転送してくるカメラ(っぽい何か)に念じると非常にゆっくりだが対象からカメラが遠ざかる。

『何ですか? これ?』

 ミヅチが疑問の声を上げるが、そんなもの、俺のほうが知りたいわ。

 イライラする程にゆっくりとカメラは対象から遠ざかり、やっと毛の生えた体表の形が映った。映像の左右が切れたのだ。毛の生えていたのは棒のような形なのだろうか? 毛の生えた棒のようなもの……脚か? これ、昆虫かなにかの脚だ。

『あれ? どこから見ても同じ映像なんですね……』

 へーそうなんか。

 脚の数は増えている。比較対象物は何一つ映っていないので大きがよくわからん。だんだんと映る範囲が広がり……。なんっつったっけ、そうそう、タランチュラみたいな大きな黒い蜘蛛とでも言うべきか。毛も生えてるし。でかいやつは足を広げると30cmくらいになるんだったよな。昔、自然番組で女房と見たわ。うん、こんな奴だった。

 解ってきた。

 ミヅチが不思議そうな顔で水晶球を見ていた。

『どうした?』

『あ、いやぁ、何でもないです。でも……あ、……ああっ……!』

『心当たりあるのか?』

『我が国のシンボルですね』

『?』

 だいぶカメラが離れたことでかなり解った。これは昆虫……もとい、蜘蛛だ。蜘蛛の脚だ。蜘蛛の体の脚が生えている部分(頭がめり込んだ胸だっけ?)を下から撮しているのだろうか。水晶球に映る映像は左右に脚が四本づつの生え際近くのような場所が映っているが生え際は上から垂れている白く長い毛に隠れてよくわからない。……でも、変だな? 蜘蛛って確か胸から地面に向かって足が生えていて、すぐに関節で上方に伸びているような筈だが、これは違うようだ。何かの表面から直接突き破るようにして生えている気がしないでもない。しかし、そんなことより蜘蛛かよ……。

『こいつか? こいつが「報告レポート」を……?』

 オースで何年も暮らして来て、ここ二年くらいは冒険者として色々な魔物も見てきた。大抵のことでは驚かない自信はあったが、これには驚いた。だって、蜘蛛だぜ。蜘蛛が魔法を使ったって言うのかよ?

 と思ったが、だんだんとズームアウトして来てよく解った。

 こいつ、蜘蛛は蜘蛛でもただの蜘蛛じゃない。

 その姿に魅入られるように惹き込まれている自分に気づいた。俺もミヅチももう一言も発しなかった。それどころか、いつの間にかミヅチは水晶球に向かって土下座をしていた。do gazer。蜘蛛の脚は誰か人の背中から生えているんだ!

 ならば、こいつが俺たちに「報告レポート」を使ってきた相手に間違いはないだろう。で、あればここは「遠話テレパシー」だろう。俺は早速魔力を練り始める。あまりにでかい水晶球だったので忘れていたが、この「術者探知ディテクトマジックユーザー」の魔術は時間制限付きなのだ。だからこそ一度使ったら効果時間までかかりっぱなし、その間に別の魔術を使える理由でもあるのだが。

 ようやっとカメラはほぼ全体像を捉えた。体育座りをしているような人を後ろから撮している感じだ。いや、人とは言っても普人族じゃない。あれは……闇精人族ダークエルフだ。真っ白く長い、たおやかに流れる髪は俯いているのだろう頭部から、肩甲骨の内側あたりから生えているタランチュラのような八本の脚の間や外側を覆い尽くすほどの量がある。その長さは腰の少し上あたりまでありそうだ。今は猫背で俯いているような姿勢だから、立ち上がってきちんと背筋を伸ばしたら尻のあたりまであるだろう。

 体の線を隠すように蜘蛛の脚が広がっていたがところどころ見える肌の下にはいくらか丸みを帯びていることは充分に見て取れるし、ウエストから腰のラインは見えた。女だろうことは後ろ姿からでも楽に推測できた。髪に隠れているから耳は見えないが、あの黒に近い濃い紫色の肌はダークエルフ以外に居るはずがない。おそらく膝の前で組んでいる腕の中に顔を入れているのだろう、じれるほどゆっくりとしか移動できないカメラがほぼ真横から撮しても顔は隠れていてわからなかった。因みに、当然直接俺の眼球に映っているわけではないので【鑑定】は効果がない。

 美しい。

 月並みな表現になってしまうが、美しい人だと思った。

 顔は分からないが、その肢体だけでも充分だ。

 同時に電流に打たれたかのように、脳裏に閃いた。

 ゴッド亜神デミ・ゴッド……。

 やはりこいつが、この方がそうなのだろう。

 隣で土下座をしているミヅチのことを一瞬忘れてしまうくらいだったが、何とか落ち着きを取り戻し、魔力を練りつつ改めて決心を固める。ようやっと「遠話テレパシー」の魔術が完成した。

遠話テレパシー

 頭の中で対象との会話可能な回線が結ばれたのが解る。

 水晶球の中でダークエルフがピクン、と反応したのが見て取れた。



・・・・・・・・・



 水晶球の中でゆっくりと顔をあげつつあるダークエルフの女性に俺は「遠話テレパシー」で話しかける。当然俺の方は口に出して言葉をしゃべる必要がある。

「突然お声を掛けて申し訳ありません。私はアレイン・グリードと申します。少しお話を聞いていただきたいのですが……」

 今お時間ありますか? とか 宜しいでしょうか? とは口が裂けても言わない。「ダメ」って言われたら会話終了だしな。

「起こすでな#$、妾は寝て&(のじゃ。まだ夢を見る必=~……ん? ラグダリオス語(コモン・ランゲージ)か……」

 不機嫌そうな声が俺の頭に響いた。しかし、次の瞬間、俺は目を見開いて言葉を失うことになる。

「え? アレイン? アレイン・グリード!?」

 そう言ってがばっとダークエルフは顔を起こした。

 その顔は、

 確かに女神もかくや、

 と言う程の、

 見たところ二十代後半の、

 ……しかし、

 ……日本人の混じった、

 ……転生者!?

 いや、

 この方は、

 このお方は、

 もとい、

 こいつは、

 忘れようはずの、

 忘れられようはずのない、

『美紀!!』

 俺は思わず目の前の砂の上の水晶球を左右から掴んだ。



・・・・・・・・・



 急な俺の叫びに気がついたのか、ミヅチが隣でびくっとしたのが判ったが今はそれどころではない。頭が混乱する。なぜ、この背中からタランチュラの脚を生やしたダークエルフが美紀の顔をしているのか? もし美紀だとしても俺たちよりも10歳以上は歳上に見える。俺の名を聞いて反応したからには俺のことを知っているのだろう。「報告レポート」の魔術を掛けていたくらいだから何らかの関心を持たれていたことは確かだ。そういえばついさっき俺はミヅチと……浮気なのか? しかし、もう十六年も経っている。美紀の顔さえ最近では一番印象深かった結婚前後の顔でしか思い出せなくなっていたくらいなのだ。

「アレイン・グリード……『武雄さん?』……「遠話テレパシー」か……」

 神々しいほどの一種異様な雰囲気を纏い、彼女は座り直そうと身をよじった。

 その時になってわかったのだが、膝から下の下肢が石造りの地面と一体化しているような感じになっていることに気づいた。なんとなく膝から下が植物状になっており、石造りの地面から生えている奇妙な植物のように思えた。

『美紀……なのか? 俺だ!』

 水晶球を両側から掴み、膝立ちになったまま思わず声が出てしまう。

『貴方なの? 武雄さん? どこから?』

『左を向け、顔をもっと良く見せろ』

 こちらを向いたダークエルフは、正面から見ても美紀の顔だとしか思えない。左目の斜め下の泣きぼくろ。気味の悪い薄い紫色と化した唇の右下のほくろ。そして、顎と両乳房の間にある胸の中心の三角に並んだほくろ。勿論ミヅチのように俺が覚えている美紀の顔そのままではない。エルフの混じった、美しい顔になっていたが、皮膚の色はミヅチより濃い紫色で、薄気味悪い色なのは一緒だった。髪も美しいことは美しいが、総白髪と言ってもいいだろう。だが、あれは、美紀だ。確信してはいたものの、正面から見たことでそれがより強い確信に変わる。

『え? 美紀って……え? 「リルス陛下」では? え?』

 ミヅチが未だ土下座をしたまま呆然と呟いている。

『なん……で、お前……なんで……』

 取り乱した俺を他所に、水晶球に映った美紀はすぐに落ち着きを取り戻し、微笑みすら浮かべながら冷静に言葉を発した。

『すごいね。気がついたんだね。それに、これ、「術者探知ディテクトマジックユーザー」で見てるんでしょ? 良く知ってたね。頑張ったんだね』

『あ、あ……』

『会いたいね。でも、私はもうここから動けないの……。それに、多分……。それより、まず教えてあげなきゃね。今の私の名前はリルス。リルス・ズグトモーレ』

『りるす……ずぐともーれ?』

 馬鹿みたいにオウム返しで名前を繰り返した。

「やはり! リルス陛下! アルさん、頭を下げてください!」

 ミヅチが俺の言葉を聞いて俺の腕に手をかけてきた。

『あ、え? いいんだ、大丈夫だよ』

『誰か他の人が居るのね?』

 美紀が言った。

『あ? ああ、椎名だ。覚えてるか? 俺の部下だった奴だ。何度か一緒に……』

『……覚えてるわ。「チズマグロル」でしょう? よく知ってる』

『え? なんで』

『ちょっと、椎名さんに「アンク」を額に当ててって言って。一緒に話が出来るようにするから。貴方は椎名さんに直接触れていてね』

『ミヅチ、「アンク」を額に当てろ、って』

『はっ、はい』

 俺の言葉を聞いたミヅチはポケットから慌てて何か取り出すと両手で祈るようにして額に当てた。

『これで聞こえる? 聞こえたら返事してくれないかな?』

 美紀が言った。これはミヅチに宛てた言葉だろう。

『は、ははっ。「リ、リルス陛下」でしょうか? わたくしは……え? 日本語? え?』

 一部こちらの言葉になってはいたが、日本語で問いかけられ、日本語で受け応えてしまったミヅチは驚いていたがすぐに納得しようで、言葉を続けた。

わたくしは「一位戦士階級のミヅェーリット・チズマグロル」と申します。「陛下」。お初にお目にかかり恐縮でございます。現任務は遂行済みであり、現在は「エルレヘイ」へと帰参の『もういいよ、椎名さん。ごめんなさい』

『え? は? え?』

 ミヅチの言葉の途中で美紀が割り込み、椎名ミヅチは混乱した。

『椎名さん。私は……川崎美紀です。そこにいる川崎の妻で、だった女です。貴女が「エルレヘイ」に生まれてくれた時は嬉しかったわ……でも、ごめんなさい。貴女の記憶を封じてしまったのは私です。生まれ変わりが起きる予感がして、何年も待ったの。今度こそって……。貴女が生まれたとき、すぐに朦朧としたままの貴女の夢を覗いてしまったの。そこに夫が、武雄さんが居るのを見たとき。我慢できなかった。ついつい、奪うように全部見てしまった。日本が懐かしくて、全てを封じてしまったのは私です。本当にごめんなさい。遠い昔の、私の愛した人……。貴女も武雄さんのこと……。でも、その様子だと少しは思い出したのね。私が言うのもなんだけど、良かったわ』

『『……』』

 俺も椎名も声も出なかった。

『多分、あんまり時間がないでしょう? 本当に申し訳ないけど謝るのはこのくらいにさせて貰うね。できるだけのことは教えてあげる。私にも時間がないから』

『おい! お前、何言って『貴方、ごめん。でも今は聞いてね。確か、七十になる前の年くらいだから武雄さんが亡くなってから二十年くらい生きたわ。連太郎くんとその子達、それから裕二と直子さん夫婦と旅行に行ったの。連太郎くんの子供が事故に遭いそうになったのを私が助けて死んだのよ』

 裕二は美紀の弟で、連太郎くんというのはその息子で、つまり俺たちの甥っ子だ。俺が死んだ時は中学生になったばかりくらいだったはずだ。子供のいなかった俺たちは連太郎を相当に可愛がっていた。裕二くんやその嫁さんの直子さんに苦言を呈されるほどの猫可愛がりだった。

『気がついたらオースに生まれ変わっていたの。ずっと東の、ローバンスって今はもう無いエルフの国にね。私がオースに生まれ変わったのは今から1300年くらい前かな。まぁお婆ちゃんだったから生まれ変われてラッキーだと思ったくらいだった。もうとっくに死んじゃったけど、結婚もしたし、子供も産んだわ』

 そうか、子供を産めたのか……良かったなぁ。少し涙が滲んだ。

『いろいろ不便ではあったけれど幸せだったと言える。でも、私が隣の家の娘さん達と狩りに行っている時に村が隣の国の軍隊に襲われちゃったの。二日後に狩りを終えて帰ってきた時にはひどい有様だった。その時に夫も子供も死んだわ。子供はまだ二歳になったばかりだった』

 ……。

『生き残った私達は復讐を誓った。抵抗軍レジスタンスを組織して、進行してきたミュールシア王国に立ち向かった。私の固有技能のおかげでなんとかなったようなものだけど、10年かかってミュールシアを滅ぼした。その頃には最初の村の人たちで生き残っていたのは私一人だけ。でも、その代償と言うか、褒美というか、私は普通の人では無くなったの。定命モータルの軛から解放され不定命イモータルへ。と言っても不死身とかってわけじゃないんだけどね。その後同じ不定命イモータルとなっていたズグトモーレと結婚した』

 俺はきっと口を半開きにしているはずだ。

『長くなるから端折るけど、ズグトモーレとの間に子供が出来なくて怒り狂ったズグトモーレに殺されそうになった私は、逆にズグトモーレを殺した。その後、いろいろあって西オーラッドに移住して腰を据えたの。それから結構時が過ぎて……700年、いえ、800年くらい前になるのかな。シャライズダンとネーラルという上級神グレーター・デイティの死を受け継ぐ形で亜神デミ・ゴッドとしてダークエルフになった。つまり、ダークエルフの始祖は私で、椎名さんは私の遠い子孫とも言えるわね』

 椎名もきっと口を半開きにしているはずだ。

『で、更にいろいろあって今に至るんだけど、ここからが本番。よく聞いてね。知ってることもあるかもしれないけどね。生まれ変わった人は全員それなりの資質を備えているの。一番解り易いのは「固有技能」じゃないかな。あと、レベルアップ。「固有技能」は技能レベルが最高、マックスになると隠された能力が解放されるわ。これを知っているのと知らないのとじゃギリギリのところで差になるから忘れないで。それから、魔力の成長があるけど、貴方は気づいたみたいだからこれはいいでしょう』

 何でも知ってるみたいだな。

『このあたりのことはそこそこ知っているみたいね。あとは日本からの生まれ変わりね。数百年に一度、いろいろな時代から日本人が生まれ変わってくるわ。私の知る限り現代日本からは私と貴方たちだけだけどね。知ってるかな? ロンベルト王国を作ったのは衣川で死んだ源義経よ。会って話をしたこともある。同じ時代に弁慶も生まれ変わったみたいだけど彼は義経と会う前に死んでしまったようね』

 な、なんだってー!? あ、そういやカールがクロージョーって言ってた。九郎判官くろうじょうってことか?

『他にもいたわ。有名な人だと柳生三厳とかもいたわね。彼は私が直接殺したけどね。たまには今回みたいに何十人単位で生まれ変わることもあるみたいね。その場合、固有技能は分散されることが多いみたいだからさっきのことがかなり重要になるかも知れないわ。基本的に固有技能を持った人が全員死んで何年か経ってから別の人が生まれ変わってくるの』

 お前、いま、さらっととんでもない事言ったな。

『じゃあ、お前、固有技能は無いのか?』

『最初に言ったでしょ。持ってるわよ。私は亜神デミ・ゴッドになったからカウントから外れたみたいね。それまでは一人か二人の期間が長かったわ。とにかく、重要なこと。忘れないで。固有技能はレベルが上がると隠された能力が解放されるの。自分の固有技能が知られたとしてもこれを知っているか知らないかで優劣が決まることもあるから、絶対に忘れないでね』

『ああ』

『そろそろいい時間かもね。私はエルレヘイに居るわ。でも、もうそろそろ死んじゃうと思う。なんとか見た目とかは若さを保っているけど、そろそろ魔力も限界。多分あと何日も持たないと思う』

『ええっ!?』

 おい! どういうことだよ!?

『あと、私は死ぬと言っても滅びるわけじゃないから。また何年か、何十年か、ことによったら何百年かしたら復活できる。だから今は私の心配はいらない。なんたって亜神デミ・ゴッドだからね。でも、暫くは無理ね。また会えるのを楽しみにしてる。だけど、今は時間がないの、黙って聞いて。椎名さん、本当にごめんなさい。もうすぐ死んじゃう時に貴女が私の足元みたいな場所に生まれて、我を忘れてしまったの。そして、武雄さん。貴方も生まれ変わっているかも知れないと判って必死に探したわ。貴方たち、事故の後で待ち合わせしてたんでしょう? ライルから少しづつ遠くまで貴方を探して「報告レポート」の魔術をかけ続けたわ。やっと見つけたのは五年前。少しづつ少しづつ意識を同調させるようにしてた。でも、いろいろ忘れさせちゃったことで迷惑もあったでしょう? ごめんね』

 美紀は申し訳なさそうに見当違いの方向に頭を下げている。

『それから、椎名さん。勝手に貴女の心を盗み見ておいて申し訳ないけど、この人を助けてあげて。私のことはとても許せるものじゃないでしょうけど、どうか、どうかお願いします』

『そんな、私などに勿体無い、いえ、でも……リルス……美紀さん、奥様。私、私は……』

 言わなくていい。言ってもいいけど。でも、それなら俺が言う。

『美紀、椎名は今、俺の女になってる。お前が居るなんて思わなかったしな……』

『うん、そうだね。ちょっと前に椎名さんと貴方を見たとき、そうなるんじゃないかなって思った。生まれ変わり同士なら種族を超えて子供は出来るよ。何人も見たから知ってる。普通の子だけどね。貴方にも子供が出来ると良いね。可愛いよ。……ちょっと限界みたい。亜神デミ・ゴッドは本来、定命者モータルには関わっちゃいけないの。一方的に覗いたり、指示したり、殺したりしてもいいのだけど、会話はダメ。余計な情報を与えちゃうからね。なんとかバレないようにしてるけど、本当にもうそろそろまずいの』

『椎名さん。ちょっと事務的なことになるけど、伝えておくわ。元老たちに自分の意見を通させたかったら彼らの目の前でアンクに君が代を歌って。ほんの少しだけど手助けできると思う。但しエルレヘイの中だけだけど。私に王宮の前に呼び出されたと言ってそこで歌えばいいわ。私も残された時間で出来るだけのことはしておく。ライル王国は私の子供。大切な、私の子供だから。王道楽土建設計画も何とかしておくように手を打っておく。それから武雄さん、妖精と会うときは下から転移して。君が代を歌いながらね。それが転移の呪文になってる。彼らは付き合うのは難しいけど私と違って基本的には善なる存在だからいろいろ教えてくれると思うよ。誰かに「固有技能」を明かすときはよく考えて。特に「鑑定」系はね。一時仲違いしたとしても最終的に仲間の信頼を得られる可能性は高いけど、万が一情報が漏れたら普通は一番最初に狙われる。これを補うような魔法は存在しないからね。貴方の敵に貴方の暗殺を頼まれたら私の国は十分な報酬が支払われているのならよほどの理由がないと断らないから。あと、デーバス王国の生まれ変わりたちには気をつけて。いつか貴方の障害に』

 時間切れのようだ。

 水晶球がひび割れ、塵のようになったと思ったらその塵すら残さずに消えた。

 俺とミヅチはその光景を呆然として見ているしかなかった。

 美紀は何百年も前に俺の夢を実現させていたようだ。

 悔しくもあり、嬉しくもあり。

 ミヅチの肩を抱きながら、自然と溢れてくる笑みを抑えられなかった。

 懐かしい、暖かい気持ちになっていた。

 確かにいくつか記憶は封じられた。

 ミヅチなんかほぼ全ての人生の記憶を封じられていた。

 しかし、ミヅチはどう感じるかは知らないが、俺は腹は立たなかった。

 俺の女房はいつの間にか神になっていて、少しだけ俺を助けて、助けようとしてくれた。

 それが解れば充分だ。

 今は無理でも次に会ったときは王様くらいにはなってないと格好がつかないな。

 お前の最初の旦那を誇れるように。

 
君が代をキーに使っているのは余り古い時代の人は確実に知らないだろうということと、リルスさん本人が忘れにくいということで特に意味はありません。キーフレーズが短いと場合によっては覚えられたり、偶然発音されたりということを心配してのことでしょうね。
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