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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第七十六話 初めて

7444年5月28日

『時間かかるってどのくらいだよ?』

 数十秒程度なら多分稼げる。あのスピード(大人が早足で歩くくらい)ならこのドーナツを一周するくらいならコース取りにもよるが3分から4分というところだろう。

『多分十分以上……』

 だめか。

 ならこれはどうか?

『あいつをもっと引き付けるから俺の「アンチマジックフィールド」に触れないように「ライト」かけた石を山なりで投げつけろ』

『え? わかりました』

 疑問もあるだろうがすぐに従うのは良い姿勢だ。

 ミヅチはすぐに適当な石を拾い上げ、「ライト」の魔術をかけたようだ。同時に俺は二つ目の「長期ライト」の石を通路の真ん中あたりに放り投げて明かりを確保した。

 俺が立ち止まっていたからだろうか、目玉野郎とはもう10m程にまで接近された。

 奴の白く濁った中央の目玉にミヅチの投げた「ライト」の石がごつんと命中した。

 石は何も変わったことはなかった。HPも減っていないし、魔法反射マジック・リフレクションの回数に変化もない。脅威度が低い魔法は弾かないのか?

 また、少しスピードを上げて距離を取った。投げられるもの……千本が二十本、刃の欠けたナイフ。ミヅチのナイフが大小あわせて九本。投げ矢(ダート)が四本。吹き矢。ろくなもんがねぇ……ベルがいれば対魔法防御壁の後ろから矢を連射してもらえるのだが……。

 吹き矢を息の代わりに風魔法で飛ばすにしてもミヅチによると今携帯しているパイプの耐久性の問題で大して威力は出せないそうだ。帰ったら金属製の空気銃エアガン製造でも再挑戦しようかな。昔何種類か試作品を作ったけど、聞いた範囲のクロスボウと比較しても威力はかなり下だった。弾頭形状の問題で空気抵抗が大き過ぎたのだ。単発式になってしまうが俺の銃剣に仕込もうとかなり試行錯誤をしたんだ。

 鉄のパイプを作って後ろから専用の矢を詰める。矢の後部とか中央部くらいに綿をくっつけて、パイプのこちらがわを塞ぐように手や指を当ててそこで風魔法。飛んでも40mくらいで、威力も知れてる。矢に綿が付いてるからすぐに減速が大きくなってしまうのだ。風魔法のレベルを上げると手の方がパイプから外れてしまい、結局は殆ど一緒だし、狙いなんかつけられないから逆に意味がなくなる。総合的に言って、息で吹き矢を飛ばすよりはかなりマシ、程度で、結局諦めたのだ。

 とにかく手持ちのものをいくら投げつけたところであの目玉野郎には大した傷をつけることは出来まい。剣でも投げつけてうまく当たれば別だろうが、一回投げたら終わりだしな。

『もういい、次は……俺がもっと内側の壁に寄る。「アンチマジックフィールド」に隠れながら柱を挟んであいつの反対側辺りまで行って適当な場所に土壁を作れ。高さは俺が立って隠れられるくらい、幅は1.5mもありゃ十分だ。……今だ、行け!』

『はい!』

 ミヅチが駆け出したのを確認し、再度目玉野郎を睨みつける。相変わらず凶悪な見た目だ。今ここで「アンチマジックフィールド」を解いたら一発で死ねるんだろうなぁ。「アンチマジックフィールド」を張りながらロングソードで肉弾戦をするのは本当に最後の手段にしたい。何しろ奴の魔法反射マジック・リフレクションはその体から50~60cm程離れた場所で効果を発揮するのだ。「アンチマジックフィールド」と触れたときどうなるのかわからない以上、それだけの距離を保って武器で攻撃する手段がない。「アンチマジックフィールド」を飛び越えて剣を刺し貫いた俺の手に光線を当てられたらきっと死ねるだろう。再度30m程の距離を開けるべく、後退速度を上げる。

『出来ました!』

 ミヅチの作業終了の声が聞こえた。

『よし、そのまま待機。俺は内壁に引っ付いて行くからお前も内壁に引っ付いとけ!』

 三つ目の「長期ライト」の石を放り投げた。ふと左側、ドーナツの芯になっている柱を見ると、ここに入ってきたのと同様の通路が見える。通路はすぐに右に曲がっており、当然ながら転移の水晶棒は確認できなかった。

『5m後ろに居ます。壁は私の右2m程のところに作っています』

 ミヅチが声を掛けてくれた。

『よし、俺のスピードくらいで後退しろ。俺が見えなくなる寸前で止まれ。俺が壁に隠れたら二十秒数えて知らせろ』

『はい』

 視界の右に壁が現れた。目玉野郎は30m程先にいる。

 俺はすぐに壁に隠れると「アンチマジックフィールド」を解き、新しい魔法を使った。

 今月頭にカールに教えてもらったばかりの魔法だ。まだ標準的な魔力での練習しかしていないが、充分だろう。

「ディレイドブラストファイアーボール」

 こいつは普通の「ファイアーボール」のように使うことも勿論可能だが、その真骨頂は弾頭を飛ばす必要がないことだ。正確には飛ばすのだが、1cmだけ飛ばすなら飛ばさないのと一緒だし。時間での爆発遅延設定も出来るし、それこそ地雷のように、タイミングを見て爆発させることも可能だ。今回は時間だ。何しろ「アンチマジックフィールド」は手放せないしな。ミヅチが合図してくれた二十秒で十発も作れた。タイマーを全部まとめて五秒後にセットし、再び「アンチマジックフィールド」を展開してドーナツの内側に張り付くようにして急いで後退した。

 目玉野郎は壁に隠れた俺を見失ったものの、壁に隠れていると踏んだのだろう。その場でふらふらすることなく、スピードを変えずにこちらに向かっていたようだ。既に5m程の場所に居た。いいぞ。あと四秒。

 壁から飛び出してきた俺に向かって一発光線を放ってきたようで、「アンチマジックフィールド」の表面に紫電が走った。おっと、【鑑定】を忘れていた。MPは51か、よっしゃ!。あと三秒。

 「アンチマジックフィールド」を展開したまま急いで後退する。土壁とドーナツの内側の壁は2mくらいしかない。俺を追いかけるには壁の外側を通るしかない。勿論飛び越えたっていい。魔法反射マジック・リフレクションを使って壁を弾き飛ばしてくれるのなら嬉しい限りだ。あと二秒。

 俺と奴の距離は既に10m位に開いている。ミヅチが合流してきた。あと一秒。

 こい!

 奴が土壁を飛び越えて来たのが見えた。着地寸前、全ての「ディレイドブラストファイアーボール」が一斉に爆発した。大音響と共に燃え盛る岩石が俺の方にも沢山飛んできて「アンチマジックフィールド」に阻まれ、紫電に包まれて消えた。

 こればっかりは弾き返すしかあるまい。

 奴は無傷だった。しかし、狙い通りしっかりと【魔法反射マジック・リフレクション6】となっていた。成功だ!

 思わずガッツポーズを取ると、

『よし! もう一度やるぞ。同じように土壁を作ってこい!』

 そうミヅチに命じて、また後退を続けた。ついでに最後の「長期ライト」を放り投げた。そろそろ一周するのか……。

 先ほどと同じようにまた土壁に隠れ、今度は別の魔術を使った。奴に感情があるなら今は相当焦っているはずだ。無いなら無いで一向に構わないがな。まぁさっきの土壁でこれをやっても良かったが、魔法反射マジック・リフレクションの回数を8以下にするのが先決だったから仕方ない。8までなら俺の攻撃魔法で一回で削り取れる。

分身ミラー・イメージ

 10秒ほどで魔術は発動し、俺の分身が六人現れ壁の左右に向けて走った。すぐに一人目が緑色の光線を受けて消えた。二人目は青い光線を受けて消えた。三人目は黄色の光線。四人目はピンク色。五人目は、おそらく無色。六人目……。消えない!! すかさず「ミラー・イメージ」を解除し、再度「アンチマジックフィールド」を張る。壁から出て【鑑定】をした。MPは1!

 ざまを見やがれ! 腐った目玉野郎ロッテン・アイ・ボール

 その残った1MPだって本当は小数点だろう? 大方浮揚のビームで自分を浮かせていたんだろ? 上の触手の一本が常にお前の方を向いていたよ。

 俺は歯を剥き出すような獰猛な笑みを顔に浮かべながら「アンチマジックフィールド」を解除した。

 何もできず、それでも最後に残された唯一の武器である自前の牙で噛み付こうとしているのか、ふわふわとこちらに向かってくる。

 落ち着いて攻撃魔法を使った。

「ファイアージャベリン」

 八本の炎の槍(ファイアージャベリン)が円状に並んでキチン質に覆われた甲羅のような体めがけて飛翔した。六本は弾かれたが、残りの二本は、ぞぶりと音を立てて甲羅を貫き、腐った体組織をじゅぶじゅぶと音を立てて灼いた。外骨格を持つ蟹や海老を焼いた時のような匂いがした。急所ではなかったのか、そもそも急所など存在しないのか、一本あたり100程度のダメージを与えた。

『もう行けるぞ。お前が始末しろ』

 そう言ってミヅチに声を掛けると、彼女も魔法を使った。

 同じく「ファイアージャベリン」だ。

 だが、一本だけ。それでもダメージは俺と同等で(当たり前だが)100だった。もう一本、更に一本。もう300もダメージを与えた。彼女の元素魔法がレベルアップしたはずだ。【鑑定】しようかとも思ったが、目玉野郎を見ているべきだろう。こいつのHPはあと六百強だ。そう言えばフランケンを相手にしたとき、やけにダメージが少なかった。あとでHPがマイナスになったら殴って確かめよう。

 HPは順調に減っていく。俺は、『あと三発……二発……最後は弱めのでやれ』とミヅチに指示し、HPを-9にした。マイナスになるのと同時に目玉は地に落ちて動かなくなった。

『一発殴らせろ』そう言って目玉野郎に近づいて行き、トリスのロングソードを振り被ると右手だけで勢いよく振り下ろした。HPは-85。76ポイントものダメージを与えられた。甲羅で防御力が高そうだから妥当と言える。と、するとフランケンはそもそもの素の防御力が異常に高かったのだろう。

『あと一発殴れば多分完全に死ぬ。だが、ちょっと待ってくれ。全部読む』

 そう言ってデス=タイラント・キンの開けるサブウインドウを全て読んだ。

 なるほど、強い。だが、確かに勝てない相手ではない。今回は俺とミヅチだったから犠牲を出さずに勝てた。犠牲を許容するのであれば五十人くらいの部隊で囲めば三十人くらいは戦闘不能になるだろうが、最終的にはタコ殴りで勝てるだろう。逆に言うとこいつを始末したければ同時に五十人が一斉に襲いかかる必要があり、半数以上の戦闘不能者が出ることを覚悟する必要がある。生きているアイ=タイラントならもっと多くの人数が要るだろうが殺せなくはない。いや、流石に無理か、生きてりゃものすごく頭良いらしいし。ふむ……。

 まぁ迷宮の中で出会ったら俺がいない場合全滅だろうな……。まぁいい。

『何度か素振りして剣の重さや感触を確かめてから殺してみろ。殺したら素振りして違いを確認してみろ』

 俺がそう言うと、ミヅチは頷いて何度か素振りを繰り返した。連続技なんかの型もやっているようだ。それから歩いて近くに行き、デス=タイラント・キンへ止めを刺した。

 また素振りを繰り返し、連続技も使ってみて納得が行ったようだ。

『レベルアップですか……微妙に体が軽くなった感じですが、確かに相当注意していないと気づかないでしょうね……正直なところ、言われないと絶対に気づかないと思います。私など、言われても半信半疑です』

 予想通り、ものすごい経験値だった。HPとレベルが高く、特殊技能がてんこ盛りだったからだろう。素の状態で四万以上、それに1%のボーナスと天稟の才で、俺は二割もダメージを与えていないのに22000ちょっと経験が入っていた。俺一人でダメージを与えていたら俺のレベルが上がっていただろう。

【アレイン・グリード/5/3/7429 】
【男性/14/2/7428・普人族・グリード士爵家次男】
【状態:良好】
【年齢:16歳】
【レベル:21】
【HP:178(178) MP:4829(7442) 】
【筋力:29】
【俊敏:39】
【器用:27】
【耐久:29】
【固有技能:鑑定(MAX)】
【固有技能:天稟の才(MAX)】
【特殊技能:地魔法(MAX)】
【特殊技能:水魔法(MAX)】
【特殊技能:火魔法(Lv.8)】
【特殊技能:風魔法(MAX)】
【特殊技能:無魔法(MAX)】
【経験:1358264(1430000)】

【ミヅェーリット・チズマグロル/5/3/7429 】
【女性/14/2/7428・闇精人族・ライル王国平民ライラック
【状態:良好】
【年齢:16歳】
【レベル:11】
【HP:116(116) MP:92(257) 】
【筋力:17】
【俊敏:25】
【器用:20】
【耐久:18】
【固有技能:部隊編成パーティゼーション(Lv.6)】
【特殊技能:赤外線視力インフラビジョン
【特殊技能:傾斜感知インクリネーションセンシング
【特殊技能:地魔法(Lv.5)】
【特殊技能:水魔法(Lv.5)】
【特殊技能:火魔法(Lv.5)】
【特殊技能:風魔法(Lv.5)】
【特殊技能:無魔法(Lv.5)】
【経験:172656(210000)】

 さて、一息ついたところで、大切なことがある。まずは魔石。この甲殻類くっさい腐った身体を腑分けするのは嫌だが、見逃す手はない。

 一時間以上かかって、魔石を採った。すごく重いし、真っ白と言っても良いくらいの色合いだ。鑑定したら価値は……いっ、1234万5678……だと? 売ったら一億Z近いじゃねぇか! っつーか、こんなん、バルドゥックの魔道具屋で買い取ってくれんのか? 今まで最高でも魔石だけで400万Zを超えたことなんか一度もないんだ。王都でも怪しいぜ。

 それから本命。胴体部の一番でかい目玉の水晶体の中に、見事に球体をした水晶が入っていた。磨く必要がないのは助かるが、直径はなんと30cm程もある。重さも優に40Kgを超え、場合によっては50kg近くはあるかも知れないとすら感じられる。とても簡単には持ち運べない。転がして持っていくしかないが、傷つけたら嫌だ。

 ここでやるしかないのだろうか……。

 10時間は新しい主は出ないとは思うが、せめてもう一層上には行くべきだろう。

 あとは、当然だが金になるようなめぼしいものはなかった。触手の先の目玉にも水晶球があるかと思っていたが、そんなものはなく、灰色のどろりとした液体が詰まっていた。

 ドーナツの穴にあたる中心部の部屋を調べてみたが、やはり転移の水晶棒が台座の上に立っていた。しかし、なんの呪文も浮かんでいない。ここは最下層でこれ以上進めないから地上に戻るしかないということだろうか。えっちらおっちらと水晶球を運び、なんとか片手で保持するとミヅチと一緒に棒を握り転移の呪文を唱えた。

「我らを戻せ」



・・・・・・・・・



 転移した先は見慣れない転移の水晶棒の部屋の片隅だった。壁は砂岩のような岩で覆われており、床は細かい砂が積もっているようでちょっと歩きにくい。しかし、水晶にも傷はつかないだろうし、ここならとりあえず安全だろう。休むにはおあつらえ向きとも言える。ミヅチと顔を見合わせるとそれまでの緊張感が霧散したのだろうか、どちらともなく床にへたり込むように座った。いつもの迷宮のように俺たちがへたり込んだ床や10m程の高さの天井、付近の壁が発光しているから「ライト」も必要ない。

 床に敷き詰められている砂の発する輝きが俺たちから距離を離れるほど薄く、淡くなっているのは変わりないが、その輝きは砂ひと粒ひと粒が発しているようで幻想的な美しさすらあった。

 地上に出てから話してもいいが、ここなら誰に聞かれることもあるまい。
 壁に背を預け、俺の右脇に水晶球を置いた。左にはミヅチが同じように足を伸ばして座った。

『ようやっと安心して喋れるな……今まではしょって来たことを話そうか……』

 俺がそう言うとミヅチは少し項垂れて、

『はい……』

 と小さな声で言った。

『いつ戦闘になるとも限らんから今までわざと聞かなかった。……お前を動揺させたくなかったしな。話せる内容があるなら聞く。無理にとは言わないけどな……』

『……』

 ミヅチは何も言わなかった。

『まぁいい。大体想像が付いてるよ。その“一位戦士階級”ってのが暗殺の仕事だって聞いたしな……。お前、ローキスって貴族の息子のパーティーを襲ってたんだろ?』

『それは、その……』

 俺の言葉を聞いたミヅチは一度俺を見たが、すぐに項垂れてしまった。肯定か。

『……別に怒りゃしないよ。それがお前の仕事だったんだろ? ゴヅェーグルさんだっけ? お兄さんの薬が要るんだろう?』

『……はい』

 ミヅチは消え入りそうな声で返答した。

『幾ら要るんだ?』

『え?』

『だから、その薬を買うのに幾ら要るんだって話だ』

 俺の問い掛けを聞いたミヅチは、項垂れつつぼそぼそと言った。

『……一日二回、ラクホッグと言う、特殊なキノコからしか作れない1万Zもする薬を飲まなければいけません……年間720万Zもかかります。それでも兄の体は弱っていくばかりです……叔父夫婦に面倒を見て貰わなければ、既に一人で歩くこともできません。だから、たくさん仕事をやらないととても薬は買えないんです……軽蔑しますよね。兄を助けるために人を殺して回ってるんですよ、私。もう感覚なんかとっくに麻痺しちゃって、何も考えずに殺せます。殺人者、人殺しなんです』

 闇精人族ダークエルフは金さえ払えば暗殺も請け負うと言うのはどうやら本当のことらしい。酒場で聞いた噂話だったので全く信用していなかった。

『人なら俺だって殺したことはある。別にそんなことで今更何とも思わねぇよ。気にすんな』

『でも……』

『でももくそもねぇ……今まで辛かったな……』

『え? 人殺し自体は辛いとは思いませんでしたよ。そういう風に教育され、訓練もされてきましたから』

 ミヅチはきょとんとして言った。なんだよ、もう。ちょっといい感じに慰めてやったらこれか。更にミヅチは、

『椎名純子の人生を、記憶を思い出したからあまりに価値観の違う人生を送ってきたので辛かったんですよ。ミヅチのままならいろいろ不満はありましたが、人殺し自体は仕事と割り切っていたのでなんとも思いません』

 と言い切った。あそ。

『これ、やる。持ってけ。価値は普通なら一億Z近くはあるはずだ。お前なら直接国に売れるだろう?』

 そう言ってデス=タイラント・キンから採取した魔石を握らせた。

『え? でも……』

『いいんだ。どうせ俺が持ってても売り先なんかねぇよ。だいたい、ほとんどのダメージはお前が与えたんだ』

『……ありがとうございます。助かります』

 魔石を受け取ったミヅチは丁寧に頭を下げた。

『ああ、気にすんな』

 そう言って言葉を継いだ。

『で、ローキス相手の仕事はカタついたのか?』

『……はい。やっと首尾よく彼を始末しました。今回の依頼は『いい、そこまで言わなくも、いいよ。だが、ひとつ聞かせてくれ。どうやって迷宮にいるローキスの位置を特定できたんだ?』

 それまで俺の方を向いていたミヅチは顔を正面に向け、転移の水晶棒を見た。ちょっと俯き、ふっと息を吐くと、ゆっくりと、しかし、はっきりと口にした。

『……言いにくいですね……。……彼のパーティーの一人を誑し込みました』

 黙ってミヅチの顔を見つめていたらちょっと意外な言葉が返ってきた。

『誑し込んだって、お前……』

 椎名ならとても出来そうにないことをミヅチなら必要とあらば平然とやってのけるということか。

『これでも精人族エルフですからね。故郷に帰ると醜い方ではありますが、私の顔もそう捨てたものではないでしょう? それに、私ってほら、エルフではありえないくらい胸も大きい方ですし……』

 そう言って恥ずかしそうに、悲しそうに笑った。俺から見える右向きの横顔に一筋、涙が線を引いた。よく泣く奴だな。確かにDカップは充分にありそうな胸は十六歳のエルフにしてはでかい。だが、ベルを見たら腰を抜かすぞ、お前。

『汚れてるんですよ、私……そして今日貴方に使ったように固有技能でパーティーを組んだんです。勿論誑し込んだ男にはこちらの位置なんかわからないようにしています。一層の奥や二層で待ち構えていました。闇に紛れて投げ矢(ダート)吹き矢(ブロウガン)で処分していました。魔法を使ったこともあります……』

『そうか……迷宮の中で別の階層にいるパーティーメンバーの位置はどんな感じで判るんだ?』

 話題を変えたかった。

『判りません』

『え?』

 この返答は意外過ぎた。判らないってどういうことだ?

『迷宮は不思議な場所です。同じ階層にいるメンバーしか居場所は判然としません。別の階層に居る事や、迷宮の外に居ると言う事は判りますが、どちらの方向に、どれだけ離れているなんてことは判らないんです』

『ふうん……』

 もうこれ以上聞くことはない。謎さえ判れば充分だ。それに、これ以上聞きたくなかったし、辛そうな顔は見たくなかった。

『そうか、わかった。それと……』

 左に座っているミヅチの腕を掴んで引き寄せた。

『嫌なら言え、望み通り、今からお前は俺の女だ』

 先の割れた舌が情熱的に俺の口内を蠢き……。

 同時に俺はズボンの右腿の大きなポケットに入っていたままの財布をまさぐっていた。一個しかねぇよ、畜生……。しかし……これが……これが吊り橋効果と言う奴か? いや、危険はとっくに過ぎ去っているはずだ。まぁ、今となってはどうでもいい。



・・・・・・・・・



『キスは初めてです』

『そうか』

 ダークエルフの血も赤いんだな。頬が上気して薄桃色に染まっている。いや、薄赤紫と言ったほうが正しいか。

『ありがとうございます』

『礼なんか言うな』

 細かい砂の上で寝転びながら話をした。ミヅチは俺の左腕に頭を乗せ、こちらを向いてその左足と左腕を俺に絡ませている。

『あとは、ちょっと俺の、多分俺たちのことだ。「報告レポート」という魔術を聞いたことはあるか?』

 体をずらして左を向き、ミヅチの顔を正面から見た。

『「報告レポート」? いいえ、聞いたことはありません』

 そうだろうな。ここは確かめる必要があるだろう。俺のパーティーにいた転生者達にはそれぞれ適当な理由をつけて頭に「アンチマジックフィールド」を掛けたことは何度もあったが、一度も手の輝きが失われたことはなかった。その時は「いつだって魔法を掛けっぱなしという訳でもあるまい。たまたま掛けていなかった時なんだろう」と自分を思い込ませていた。しかし、今の俺には確信がある。

『見てろ』

 そう言うと俺は右手で最小限の「アンチマジックフィールド」を作り、自分の頭にかかっているはずの「報告レポート」を意識して頭に当てた。

 目の前で起きた出来事に目を丸くするミヅチの顔を見ながら、再度「アンチマジックフィールド」を作り、ミヅチの頭にかかっているはずの「報告レポート」を意識して頭に当てた。予想していた通り、小さな紫電を放って「アンチマジックフィールド」はその効力を失って霧散して消えた。

 その手をそのままミヅチの眼前に持っていく。

 驚愕に目を見開き、俺の手のひらを見ているミヅチが眼前にいた。

『お前の記憶喪失にも関連しているはずだ。俺の顔を見て思い出したことが多かったんだろう? 俺もいくつか忘れていることがあったしな……』

 ミヅチは落ち着いて喋る俺の言葉が耳に入らなかったのか、

『え? これ……魔法がかかってた……?』

 と呆然として呟いていた。そりゃ呆然ともするだろうさ。

『おい、まず服を着ろ。この「報告レポート」って魔法は厄介でな……



・・・・・・・・・



 数十分かけて装備を身につけながら「報告レポート」の魔術について解説した。ミヅチはあまりのことにぽかんとして口も利けないようだ。無理もないよな。

『そこで、この「術者探知ディテクトマジックユーザー」と「遠話テレパシー」だ。たまたまと言っていいのか、なんなのか、触媒に使える立派な水晶球が入手できた。この二つの魔術自体は俺はもう使える。覚悟はいいな、使うぞ』

『え? ちょ、ちょっと待ってくださいよ。そんな、いきなり……神様ゴッドとか亜神様デミ・ゴッドなんでしょう? 心の準備くらいさせて下さいよ』

 慌てたように俺を遮ってきた。

『心の準備? そんなもん、常に準備しとけ。いざという時慌てないようにな。行くぞ』

 そう言って魔術に集中し、必要な魔力を練り上げる。水晶球が中心から輝きを発してくる。

 ミヅチも眩しそうに水晶球を見つめていた。

 だんだんと水晶球の輝きは和らぎ、ふにゃふにゃとした黒とか紫とか黄色とかのマーブル模様のようだった像がしっかりとした一つの像へと……なにこれ?

 
 デス=タイラント・キンの能力値とネガティブHPは間違いではありません。
 まだ書いてはいませんが、アンデッドモンスターのネガティブHPは通常の生物とは異なり、死亡前の基本HPと同等のマイナスHPにならないと死なない(滅ぼせない)と言う設定です。つまり、今回のデス=タイラント・キンでしたら筋力20、俊敏27、耐久24ですので115が基本HPになりますからマイナス115になった時点で滅ぼされます。生物の場合マイナスにHPが突入した時点で行動不能になり、なんらかの手当をしないと放っておいてもHPは更に減少し続け、すぐ死んじゃいます。しかし、アンデッドの場合、既に死んでいるので行動はできませんが放っておくとゆっくり回復して、しまいには元通りになっちゃいます。

 これは、以前出てきたヴァンパイアもそうです(一瞬でチリになっちゃったので意味ないですけど)。ゾンビとかの雑魚モンスターも当然ながら同様です。なお、アンデッドだろうが生物だろうが魔石を取られるとすぐに死に(滅び)ます(数秒とか体格によっては数分は生きてるかも)。この場合、HPの値は正負いずれであっても関係ありません。

 また、三層のスペシャルモンスターのフレッシュゴーレムはアンデッドではありません。ゴーレムですから。
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