挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

148/510

第六十九話 再び妖精郷へ3

7444年5月1日

 妖精郷は今年の正月に来た時と何一つ変わったところは無いように見えた。迷宮内だというのに高い位置にある天井からは燦々と太陽の光そっくりな光が降り注ぎ、心なしか迷宮内よりも温度も高いようだ。草原と潅木が生える幻想的な光景だ。妖精たちを脅かさないように逸る心を抑えながらゆっくりと中心部の池に向かって歩を進め、大回りして池の中央に浮かぶ大きな樹の生えた島まで来た。

 リュックサックを下ろし、まず五徳を取り出した。前回同様、まだ妖精たちは俺には無関心のままだ。頭の上や肩に乗って休んだりする奴もいるが、あくまで止まり木的な感覚で俺に乗っているに過ぎないように見える。前回座った石の前まで来た。

 さて、今は昼少し前くらいかな? 念の為時計の魔道具で確認したが、予想通り午前十一時半というところだった。時計の魔道具をコートのでかいポケットに突っ込み、コンロの魔道具をリュックから取り出し、先ほど取り出しておいた五徳の下に置いた。そして、メイネイジの干物を取り出してコンロに火魔法で火をつける。

 火で干物を炙り始めて数分後、薄い煙といい香りが辺りに広がる頃には以前と同じように俺の周りには妖精たちが集まっていた。カールはいないのだろうか?

「カール、居たら返事をしてくれ」

 俺がそう言うと

「さっきから居るさ」

 と頭の上から返事があった。てめーか、俺の頭の上で胡座かいてたのは。

「なんだ、そこに居たのか。魚を持ってきたぞ、食べるだろ?」

「えっ!? いいの? それは嬉しいな、ところで君は何で俺の名前を知っているの?」

 こ、こいつ……俺の事忘れてたんかい。

「何言ってんだ。今年の正月、メイネイジの干物を持ってきてやったろうが」

「ああ、アルかぁ。こんなもん着てるからわからなかったよ」

 あ、そうか。フード被ってくるぶしくらいまで丈のあるコートを着てりゃ判る訳ないか。

「ごめんごめん。今脱ぐよ。ちょっとどいててくれ」

 肩と頭から妖精が飛び立ったのを確認し、コートを脱いだ。
 コートを石の脇に畳んで置き、また石に座った。
 カールは俺の右肩に飛び乗ってきた。

「よくまた来れたねぇ。しかも、見たところ前と同じで君一人なんだろう? スネークジェネレーター、動いてなかった?」

「ああ、あの蛇の噴水か。いや、たくさん蛇が出てきたぞ。全部殺した」

「ふうん……結構強いんだね。ジョージみたいだ」

 カールが感心したように言った。

「ん、まぁ、それなりに苦労はした。一層から二層へ百回以上も転移をやり直した」

「え?」

 カールが驚いたように声を上げた。

「ん?」

「アル、ひょっとして一層から転移してきたのか。よく頑張ったねぇ。相当運が良くないと来れないんだよ。でもさ、三層から転移してくれば楽なのにね」

 おい、ちょっと待て、なんだそりゃ!?

「三層から? え? そんな方法があるのか!? この前そんなこと一言も言ってなかったじゃないか……」

「言わないよ。あ、そうか、アルはこの前が初めてだったんだ。そりゃあ俺も言わないだろうね。ミラに怒られちゃうからね。あ、ミラは俺の姉ちゃんだよ。ここの長をしてるんだ。ミラはさ、もういい年だから寝てばっかりなんだよね。俺もあと四~五十年もしたらそうなるんだろうけどさ。で、ミラ「カール、三層からどうやって転移してくるんだ?」

「アルは本当にせっかちさんだね。前にも言ったことあると思うけどそんなんじゃ「教えてくれよ」

「もう、仕方ないな。二回来てるから教えてもいいんだけどさ。ミラに聞かないとダメだよ」

「じゃあ、聞いてみてくれ! 頼むよ」

「ん~、ミラは寝てるって言ったじゃないか。起きたら聞いてあげるよ。それより、魚、ずらしたほうがいいんじゃない?」

 はいはい、っと……これでいいだろ。

「それと、この前教えてくれた「報告レポート」の魔術な……アンチマジックフィールドで消そうとしても無理だった……。なんとかならないかな?」

「え? あ、アンチマジックフィールドだって!? あはは! アルは馬鹿だねぇ。そんなんで「報告レポート」を何とか出来るわけないじゃないか。言ったろう、亜神デミ・ゴッドみたいな存在じゃないと使えないって。生半可なアンチマジックフィールドじゃあ太刀打ちできるわけないだろ」

 うん、よく解った。やっぱりゴッドとか亜神デミ・ゴッドに対抗するなんて無理だ。でも報告レポートはさ、やっぱ嫌じゃんか。覗かれる度に記憶の一部を封印されるなんて、どう考えても俺にとっては害でしかないわ。

「じゃあ、どうしたらいい? 教えてくれよ」

「完成された魔術を打ち消す方法や、そもそも魔術をかけられるときに打ち消す方法はいくつかあるよ。確かにアンチマジックフィールドもその一つだ。アブジュレーション系統の初歩だね。他にもグローヴオブインヴァルネラビリティとかディスペルマジックやアンチマジックシェルなんて魔術を使って対抗できることもある。
 まぁ、報告レポートの魔術に対して有効そうなのは同格の存在が使うアンチマジックフィールドとディスペルマジックだね。グローヴオブインヴァルネラビリティは無理だ。君が自分の力で何とかなりそうなのはアンチマジックシェルだろうね。アンチマジックシェルは知ってるかい?」

 知らん。

「その顔は知ってそうにないね。じゃあ無理だ。死ぬわけじゃないし、ちょっと物忘れがある程度だからそんなに害でもないだろ? 諦めたほうがいいよ」

 そうは行くか。

「カールはそのアンチマジックシェルを知ってるってことは使えるのか?」

「当たり前だろう? 俺が使えない魔法なんか……沢山ある。けど、アンチマジックシェルくらいは使えるさ」

「んじゃ、一発俺に掛けてくんな」

「あ、ひっくり返してよ」

 ああ、はいはい。

「で、なんだっけ? 三層からの転移だっけ。ミラは寝てるんだよね「だからそれは起きたら聞いてくれ、なんなら今起こしてくれてもいい。それよりアンチマジックシェルを俺に掛けて報告レポートを潰してくれって話だよ」

「ああ、そうだっけ? 仕方ないな……あ、ちょっと待って。もう少し向こうに行ってよ。このまま使うと魚がね……っとそのあたりでいいかな? 一応言っとくけど、魔道具とか魔法の武器(マジカル・ウェポン)とか持ってないよね? もし持ってたらそれも壊しちゃうよ。全ての魔法を打ち消しちゃうからね。でも、アルは勇気あるね。俺ならとても無理だよ。魔法が一生使えなく「待った」

「もう、何だよ、魚焼けちゃうじゃないか」

「一生魔法が使えなくなるのか?」

「そりゃそうだよ、何たってアンチマジックシェルはどんな魔法でも打ち消せるからね。リスクはあるけど、触媒はアルの魔法の技能でいいんでしょ? 丁度全部持ってるしさ」

 良い訳ないだろ! この羽虫!

「やっぱ止める。他の方法はないのか?」

「さっき言った以外だと、現実的には無いだろうねぇ。ああ、もちろん魔力さえあれば報告レポートをアンチマジックフィールドで潰せるけどね。それはまず無理だろうねぇ」

「なぁ頼むよ、他に何か方法はないのか?」

「うーん、せっかくまた魚を持ってきてくれたし、教えてあげたいんだけどねぇ……ディスペルマジックじゃあ無理だろうしねぇ……ああ、一つだけ方法があるよ。でも前に言わなかったっけ?」

 聞いたかな?

「魔術をかけた本人に解いて貰えばいいじゃないか。それならすぐだろうし、何も不都合なことは起きない筈だよ」

 それは知ってる。この前聞いたような気もする。

「相手が誰かわかならいし、何処にいるかもわからない」

「そう言えばそんなこと言ってたね。っと、そろそろいいんじゃない?」

 ああ、はいはい。コンロまで歩いて戻りメイネイジの尻尾を持ってぶら下げた。前回同様カールが周りに「ぴるるるっ」という声を掛けると一斉に妖精たちが群がってきて綺麗に骨だけにしてしまった。本当にあっという間だ。

「カール、これがメイセイヴァーだ。ちょっと大きいだろう? 旨いぞ」

 俺がリュックサックから新しい干物を取り出してカールに言うと

「大きいねぇ。それに身の断面に脂が浮いてるね。本当に美味しそうだ。早く焼いてよ」

「ああ、ちょっと待ってろ。大きいから焼きあがるのにはメイネイジよりも少し時間が掛かるからな」

「うんうん、身も厚くてこれは食べがいがありそうだね。メイセイヴァーって言ったっけ?」

 俺の膝の上に座ってコンロの上の干物を観察しながらカールが言った。

「ああ、メイセイヴァーだ。で、さっきの話なんだが」

「ん~、術者探知ディテクトマジックユーザーで調べられないこともないけどね」

「それは魔術なのか?」

「そうだね。例えば何かに魔法がかかっているとする。その使用者がどこの誰で、いまどうしているかを探知する魔法だね。触媒にはこれくらい(20cmくらいか)のできるだけ透明な宝石の球が必要だ。水晶とかがいいね。透明度が高ければ高いほどいい。また、大きければ大きいほどいいよ」

 ほう。

「で、術者探知ディテクトマジックユーザーで相手を特定したら触媒に使った水晶に相手が映る。相手はこちらのことは見えないよ。そうしたら遠話テレパシーで話せばいい。そこからは交渉になるかもしれないけどね。
 でも注意しなきゃいけないのは、触媒に使う宝石の大きさだ。さっきはこれくらいって言ったけど、これくらいの大きさで100秒くらいしか映らないからね。知ってると思うけど遠話テレパシーは相手の現在の姿が見えていないと使えないから、その間に話を纏めなきゃいけないよ」

 ……知らんよ。だが、大きな手がかりを得られそうだ。

「なるほど、なら、カール、宝石は今はないけどきっと用意する。その時は術者探知ディテクトマジックユーザー遠話テレパシーを使ってくれないか? 俺はその魔術は両方とも知らないんだ」

 メイセイヴァーの位置をずらしながらそう言った。

「え? なんでさ? だってアルは全部の魔法が使え……ははぁ、技能のレベルが低いのか。ならしょうがないね。全部の技能のレベルが七になってないと使えないからね。遠話テレパシーの方は六でもいいんだっけな? まぁどちらにしろアルはダメなのか。魚を持ってきてくれたし、いいよ」

 え? 何だよ、それなら俺にも使えるということか?

「いや、俺、全部レベル九だぞ? あ、火だけがまだ八か。ステータスオープン……火魔法以外は全部最高レベルだ」

 それを聞いたカールはかなり驚いたように言う。

「へぇ~っ! そりゃすごいね。まだ……十六歳じゃないか! アルには魔法の才能があるんだねぇ。俺はそのクラスまで行ったのは二百歳を超えてからだよ。でもさ、それなら自分でやりなよ」

「いや、だから、術者探知ディテクトマジックユーザー遠話テレパシーも俺は知らないんだ」

「あ、そっか。そう言えばアルはまだ魔法初心者だったね。知らないのも無理はないか……」

 俺、若葉マーク(魔法初心者)だったのか……。まぁ妖精族こいつらからしてみればそう見えるのかも知れないから全く腹は立たないが、なんかこう、釈然としない。

「ならカール、改めてもう一度頼む。俺に魔法を教えてくれないか? 前にも言ったけど俺に出来る礼はする。頼む、この通りだ」

 膝の上にいる妖精に向かって頭を下げる。

「うーん、別にいいけどさ。でもそう考えるとジョージは優秀だったのか……ここに来たときは三十歳くらいだったからアルと比べるのも変かな? でも十六歳も三十歳も大して違いはないからやっぱりアルのほうがダメな感じなのかな? 固有技能もジョージはすごいのを沢山持っていたからねぇ」

 十六と三十は大きな違いのような気もするが、六百歳を軽く超えていると一緒だろうなぁ……。

「そうそう、思い出してきた。ジョージはさ、自分のことクロージョー、何とかって言ってたなぁ。まぁそれはいいんだけど、固有技能が凄かったね。【神の血脈】とか【復讐の心】とか【天与の才】とか【上位鑑定】とか【武勇】とか【不動心】とか……ああ、そうだ【理解力】ってのがあった。何でもよく理解できないことでも無理やり理解できるようになる力らしいよ。だから魔術も上級だったのかねぇ。そう言えばジョージは国を造るとか言ってたけどどうなったのかな? 知ってる?」

 知ってるよ。

「ああ、ロンベルト王国の初代国王だと思う。今から五百年以上前の話らしいけどな。時期的にも合うだろうから、多分カールの言っているジョージだかクロージョーだかは家名をロンベルトと言うんだろう? ならまず間違いなく初代ジョージ・ロンベルト一世陛下その人のことだろうよ」

「へー、そうか。とにかく彼には普通の人と違う何かがあったね。アルは普通の人って感じだけどさ」

 うるせぇな、それも知ってるよ。余計なお世話だ。

「えーっと、まぁ魔術を教えるくらいは別にいいよ。大したことじゃないしね」

 俺は忘れないようにメイセイヴァーをまたずらして尻尾の方を火に当てて言う。

「ああ、よろしく頼むよ。早速始めてくれよ」

「ん、そうだね、じゃあ……まずは魔力の練り方からだね」

 そっからかよ。流石に知ってるわ。

「そこはいいよ。知ってる」

「へぇ、そうかい。それもそうか。じゃあ逆魔法から行こうか。明かり(ライト)は知ってる?」

「ああ、勿論だ」

「どうやって使ってる?」

「無魔法の魔力を目標に……



・・・・・・・・・



 それからたっぷりと時間もあったのでカールの講義はあちらこちらに話が飛びながらも魔法の体系からスタートし、いくつかの魔法を教えて貰えた。重要なことだけ書いておくが、

1.地水火風無の分け方は一度忘れること
2.魔術は無魔法がすべての基本となる
3.無魔法に対するイメージと使い方で魔術体系は分けられる
4.イメージし、使った無魔法に必要な元素魔法を加えるように考えること
5.4が出来ないと上手に魔術を使うことはできない
6.一番良いのは既に使える人が使っているところを見て効果や効力を確認すること

 だそうだ。ただ、裏技もあった。それが呪文だ。呪文は占い(ディヴィネーション)の魔術を使用し、その上で使いたい魔術のイメージを頭の中で構築する必要がある。占い(ディヴィネーション)自体の効果時間も限られているのであまり高度なものは難しいそうだが、それでもまず最初に占い(ディヴィネーション)を使えるようになることが大事だと言われた。

 例えば俺が既に知っている明かりの魔術、ライトだが、占い(ディヴィネーション)の魔術を使ってからその効果時間中にライトの使い方や効果を実際の魔術を使うように頭の中でイメージ・構築することが出来れば魔力を練るそれぞれの過程に対応する呪文が頭の中に浮かんでくる。

 ライトは無魔法しか使わない。通常の魔術の手順としては視界内の対象に対して目標を定め、そこに魔力を凝集するイメージだ。その際、目標に対して手の平を向けたり指差すようにするとより楽だ。その過程で手の平とか指先とかが青い光を発する。熟練すると手を向けたり指差したりしなくても出来るようになるが、基本からとのことなので手を向ける所からイメージする。ここで「トズ」と言う呪文が頭に浮かぶ。

 次にどの位の量の魔力を凝集するのか、という段階になる。普通はここでは明るさや光っている時間に対応して魔力量を調整する。何も考えなければすっ飛ばすことになる。だが、呪文を知るにはすっ飛ばしてはいけない。まぁ、標準で考える。すると「ボルス」「ノブン」と言う呪文が頭に浮かんでくる。

 そして、光のイメージになる。俺の場合蛍光灯のような光をイメージしている。初めてお袋に教えて貰った時の光が丸い蛍光灯みたいだな、と思ったからだ。魔力を光に変換するのだ。ここで「ケイレーチ」「シラク」と言う呪文が浮かぶ。全部合わせて「トズ・ボルス・ノブン・ケイレーチ・シラク」という呪文になる。この場合、無魔法でMPを1消費して約五分間程度40Wくらいの蛍光灯のような白い光を発することができる。

 これは俺だけの呪文だ。人によって異なる。この時点で俺はバークッド村の治癒師のシェーミ婆さんが使っていた呪文は恐らく本物の呪文ではなく、ありがたみを付加するためのポーズのようなものだったんだなと気付いた。なお、ライトは呪文を反転させる(「リズ・ブルマンド・ベヘズ・ロミルゴルン・デュマク」になる)ことにより、逆魔法の暗闇ダークネスになる。このライトと逆魔法のダークネスは元々俺が使える魔術なので呪文も簡単に浮かんでくる。

 俺が使えなかった(知らなかった)魔術の場合だとここまで簡単じゃない。

 例えば不可視の使い魔アンシーン・サーバントの魔術を俺は知らなかった。コンジュレーションとサモニング系統に属する失われた魔術の一つだ。この魔術は10kgくらいまでのあまり大きくない物を運ぶことが出来る見えない下僕を作り出す魔術だ。

 僅かな段差を超えることも出来ないし、ちょっとした魔法的なダメージを受けるとすぐに消えてしまうが、地魔法と風魔法、無魔法で創り出せ、一時間ほど保つ。速度も俺が駆け足する程度ならついてきてくれる。使い方によっては椅子やテーブルのあまりひどくない汚れや簡単な修繕もしてくれるという、何だか地味に役に立ちそうな魔術でもある。

 カールの指導で何とか使い、同時に占い(ディヴィネーション)で呪文を学ぶ。次は呪文を唱えて魔力の効率的な使い方を知ろうとするのだが、「ズーリット・レビ・カータグニア・ヘルコンド・ヘイロキキーフ・シズミッファドゥン・バル・ゴール・キルム・クリネール・ベスク・ジジャミ・ヘルトーニンシュ・ケジュマンマル・チュリーフ・デヴィーン・ワリスト」という長ったらしい呪文だ。これを一定の速度且つ一定の時間で唱える必要がある。そもそも覚えるのすら困難だ。次からメモ帳を持って来るべきだろう。

 だが、間違えながら、つっかえながらも何度も呪文を唱えていると魔力の使い方もきちんと理解出来てくる。一度理解してしまえばこっちのものだ。いつかも言ったが自転車と一緒だ。最初は補助輪や介添人が必要でも何とか乗れるようになればあとは早い。むしろ補助輪や介添人は邪魔になる。魔術を覚えるというのはそれぞれの魔術という自転車を乗りこなせるようになるようなものだ。覚えるまではそれなりに困難も伴うが、覚えてしまえば楽に上達出来るようになる。

 いくつかの魔術を使いながら呪文を学ぶと魔法の体系が分けられることがよく理解できた。別の魔法なのにいくつか共通する文言があることに気づいた。カール曰く、それが気付けて初歩の初歩らしい。

「魔力の使い方で十三系統に分けられると言う事はこういう事だったのか」

 と言ったら、

「そんな単純なはずないだろ。だけどその考え方自体は間違ってないよ」

 とのたまってきた。

 その後、目的の一つである術者探知ディテクトマジックユーザー遠話テレパシーについて教えて貰うこともできた。触媒がないので本当に成功しているかは怪しいが、これは仕方ない。触媒の要らない遠話テレパシーだけはちゃんと学べているのは確認できたけど。

 術者探知ディテクトマジックユーザーに必要な透明な宝石の球体は、最低でも直径10cmくらいは必要らしい。これは何とかして入手する必要がある。転移の水晶棒を折り取ればいいかとも考えたが、直径10cmもないから無理だ。買うにしてもそこまで大きな物はそもそもそう簡単には売っていないだろう。迷宮に潜って見つけるしかない。原石を見つけたら売らずに腕のいい職人に磨いてもらい、それを触媒にするしかない。カールによると水晶はバルドゥックの迷宮でも採れるはずだと言っていたからね。

 この時点でとっくに夜になっているはずだったが、妖精郷に降り注ぐ光は昼間のままだった。不思議に思ってカールに聞いてみると、

「夜ってなに? そんなの知らないよ。何しろ俺は生まれた時からここにいるんだ」

 と胸を張って言われた。ここまで眠らないで付き合って貰うのには大変な苦労をした。干物は合計で二十匹くらい持ち込んでいたが、そんなに食える訳もない。コンロの魔道具もくれてやることにして、余った干物や、魔石もつけてやり、念のためと持ってきた飴玉の出来損ないみたいな物でようやっとここまで付き合ってくれたのだ。

 なお、長年の懸念であったホーンドベアーの【咆哮】による恐怖心の増幅から来る精神異常から脱する魔術は無いものか聞いてみた。すると、狂乱アフレイドという魔術の逆魔法であるリムーブアフレイドという魔術がそれに近いという事は判ったが、アフレイドもリムーブアフレイドの魔術は既に使える。

 あれはヒステリーの様な物を起こさせたり、それを治す魔術だから恐怖心への対抗とは全く別のものだ。やっぱり【咆哮】への対策は相手よりも高いレベルか、それなりの量のMPか。楽は出来ないもんだね。

 因みに、ミラというカールの姉は起きて来てくれなかった。今度来る予定の九月までには了解を取って貰うことを約束し、妖精郷を追い出されるようにして出た。出てから時計の魔道具で時刻を確認したら日付が替わっていた。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ