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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第六十七話 再び妖精郷へ1

7444年2月14日

 なんだかんだで、結局当初の予定以上、二月一日から五日まで迷宮に潜り、その後三連休を取り、九日から昨日の十三日までまた潜っていた。その間の冒険で六層の転移はやはり罠の一種だと結論づけた。石を投げながら歩くと結構簡単に発見できる。通路の幅は9m程だが、その壁際の両方に変な印を刻んだ石が固定されている。その石と石の間、6m程の空間が転移の開始点になるようだ。

 石をいろいろ投げ込んで試して判明した。つまり、石から1.5mくらいは通り抜けられる。反対側から石を投げても転移するようだ。このほか、今までのような落とし穴や弩の罠も相変わらずあった。そちらのほうが発見に手間取るくらいだ。だから、六層の探索は遅々として進んでいない。

 なお、印を刻んだ石は大きな岩の一部が飛び出しているだけのようで掘り出すのは諦めた。また、印も一定ではない。推測するに印によって転移先が違うのかな? という意見が挙げられる程度だ。印を削り落とすことも石、と言うか、岩が固くて無理だった。まぁ例え削り落とすことが出来たとしても迷宮の回復能力によって暫くしたら復活するような気もするのであんまり意味はないとは思う。六層のどこに転移するかわからないのでしょっちゅう同じ場所を通るわけじゃないからね。

 まだ転移の罠に突っ込んだことはない。思い切って突っ込んでみよう、と言うあまりにも無謀な意見がラルファから提案されたが、全員一致で却下された。

 ちなみに、竿の先を突っ込んでも何も起こらないことだけは確認した。投げ込むと転移する。よく観察してみると、物体の全体の半分が転移の罠を超えた時に転移が発動するようだ。生物までそうなのかは確認できていない。ゴブリンでもうろついていれば一匹ふん縛って蹴り込むとか出来るのだが、生憎と見かけるのは猪の「ケイブワイルドボアー」だけだ。流石にこのサイズの猪を生きたまま捕らえることは無理くさい。たとえ出来たとしても蹴っ飛ばしてもびくともしないだろうし。

 とにかく、このような感じで六層の探索には非常に時間が掛かることが予想されている。もうしっかりと腰を据えて取り組むしかないだろう。得られるものは大きいのだ。何しろ、まだ二回しか六層の部屋に入ったことはないが、一回目は猪が十匹くらいいただけでどうと言うこともなかったのだが、二回目、五層にもあった祭壇の据付られた部屋で召喚された「ケイブグレートボアー」をぶっ殺したら、馬鹿でかい金の鉱石が出たのだ。

 大人の頭よりふた回りは大きな金の鉱石は大変に重く、トリスによると1リットルの水の50倍程の重量だとのことなので50kgくらいの重さだった。鉱石の純度も高かったのだろう、精練すれば金は20kg程もとれるだろうとのことで、それが本当なら何と6000万Z以上の値で売り払えるらしい。

 ここ何十年かでこれだけの金の鉱石を持ち帰った例はバルドゥックで初めてであり、冒険者達は沸き立った。俺達はこの鉱石を五層で見つけたと申告し、トップチーム連中を五層に引き付けることに成功した。特に「日光サン・レイ」がこの情報に食いついてきて、彼らは今日からパーティを2つに割って同時に攻略まで始めたとのことだ。

 例年通り誕生日のプレゼントを交換し、十六歳の誕生日を無事に迎えられたことについて五人で祝い、一週間後には精錬が終わるらしい金鉱石で大金も転がり込んでくる。全員気が大きくなってしこたま飲んだ。翌日は流石に辛かったので「毒中和ニュートラライズポイズン」を使おうかと真剣に考えたくらいだ。

 転生者である俺たち五人は加齢により更に能力が伸びている。それぞれレベルも上昇し、一番低いグィネも12レベルになっており、トップチームに入っていてもさほど気にならない。



・・・・・・・・・



7444年4月25日

 迷宮からボイル亭に戻ってくると兄貴達がいた。どうやら兄貴達は一昨日の夜に到着しており、俺抜きだと騎士団への納品に行けず、待っていてくれたようだ。だって、到着は今晩って手紙貰ってたからさ……なら丁度いいかって安心してたんだ。今回のバークッドの隊商は大荷物だった。今月から約二年間、バークッドの従士であるリョーグ家がロンベルティアに住むのだから、彼らの荷物もある。何しろ馬車は二台しかないので、納品用の商品の他に彼らの生活用品なども積み込まれていて二台は山のようになっていた。

 だからいつもより一週間も早めに村を出発していたのだそうだ。まぁバルドゥックで二日も足止めになってしまったので結局はちゃらになったのだが、考えてみれば早めに出るのは当たり前か。

 俺はちょっと考えると皆に言った。

「あー……すまんが、次の迷宮は本来なら四月二十九日からだけど、商会の都合もあるので少し早めの『ゴールデンウィーク』にしよう。五月三日からな。だから五月二日までの七日間、休みにする。急ですまんが、誰かズールーとエンゲラにも伝えて……ああ、晩飯食うときに俺から言うわ」

 二月の初めから約三ヶ月間、精力的に六層の探索を続けているが、罠の用心のため、探索は遅々として進んでおらず、予想では六層の一割ちょいといった進み具合だった。マジックアイテムこそ見つかっていないが、鉱石や宝石の原石は合計四個、月平均一~二個という、ものすごい勢いで発見しているので充実感は高いことが救いだ。

 すんでのところで思い出して良かった。五月一日はカールのところへ再度行ける日だ。行けるかどうかは解らないが丸一日試してみる価値は充分にある。今度は魚も沢山持っていくつもりなのだ。

 まぁとにかく今は再会を祝して食事に繰り出そう。俺は兄貴達に「着替えてくるからちょっと待っててくれ」と言ってさっさと引っ込むとプロテクターを外し、ざっとシャワーを浴び、こざっぱりとした服に着替えた。因みにシャワー室に行った時は二つとも使用中だったので(多分ベルとラルファだろう)自室に戻り、夏の冷房用の桶を引っ張り出してシャワーを浴びた。

 剣帯を腰につけながら兄貴達の待つロビーに行き、久々に顔を見たロズラルとウェンディーに抱きしめられたあと、彼らの娘のダイアンに向かって「いいところを用意してあるからな、楽しみにしていろよ」と言って微笑んだ。他の護衛の従士達とも挨拶を交わしているところへラルファとグィネも来た。最初にシャワーを浴びてたのはこの二人か。

 兄貴はなぜか不機嫌そうに俺に話しかけてきた。

「アル、宿の人たちからお前のことを聞いたぞ、何でも既にバルドゥック一の冒険者と言われているらしいな。大したものだ。流石だな、良くやった」

 褒められてるんだよな、俺。

「そうですよ、アル様。一昨日の晩飯を食っている時にも噂を聞きましたよ、殺戮者スローターズと呼ばれているそうで、この前も襲いかかってきた冒険者の一団を返り討ちにしたそうじゃありませんか! なんでもアル様のご出世を妬んでの凶行だったとか……しかし、流石はアル様です。返り討ちとは大したものです」

 対してショーンは非常に機嫌がいい。ロズラルとウェンディーもにこにこしながら褒めてくれた。そこで兄貴にロビーの隅に引っ張られて小声で囁かれた。

「アル、ちょっと話がある。殺戮者スローターズというのはどういう意味だ? まさか他の冒険者を襲っているからそう名付けられたのか?」

 厳しい目で兄貴は俺を見つめている。ああ、そうか、殺戮者スローターズって名前について嫌がっているのか。兄貴は曲がったことが嫌いだから無理もない。そうしょっちゅうバルドックに来る訳でもないから知らないのも当たり前だ。

「ああ、安心してくれよ。殺戮者スローターズってのは迷宮で出会う魔物をほぼ全て殺して魔石を採ってくるから付けられたあだ名だ。ほかの冒険者は出来るだけ戦闘しないで奥を目指すのが普通なんだ。だけど、俺たちはわざわざ魔物を避けない。全て倒して、尚且つ最奥に行っている。決して家名を汚すような真似はしていないよ」

 しっかりと兄貴の目を見てそう言った。

「……そうか、それを聞いて安心した……。一昨日の夜、殺戮者スローターズだなんて呼ばれてると聞いたとき、俺は一瞬心臓が止まるかと思った。勿論お前のことは信じてはいた。従士達も同じように信じていた。だが、冒険者で迷宮に潜っているからな……何があっても不思議じゃない。疑って済まなかった。許してくれ。だけど、殺戮者スローターズだなんて物騒なあだ名だ。びっくりしたんだよ。それに、もしお前が変わってしまっていたのなら、お前の目標にも合致しなくなるかも知れないと思って心配だったんだ」

 兄貴は俺の肩に両手を掛けながらそう言うと、頭を下げた。俺は、

「頭を上げてくれよ。でも疑うなんてひどいな。親父に怒られるようなことなんかしないよ。俺も殺戮者スローターズってのはあんまり好きじゃないけど、役には立つあだ名なんだ。悪くないよ」

 と笑いながら言って離れた。兄貴は、

「ん……そうだろうな。舐められにくいあだ名だろう。お前の所には年頃の女の子もいるからな……。確かにそう考えると悪くないのか。でも俺はどうせなら「正義の刃(ジャスティスブレイド)」とか「忠義の狼(ロイヤリティウルヴズ)」のように呼ばれて欲しかったよ」

 と言って笑った。「正義の刃(ジャスティスブレイド)」とか「忠義の狼(ロイヤリティウルヴズ)」というのは何百年も前の伝説的な冒険者のパーティの名だ。おとぎ話の題材にもなっている。「正義の刃(ジャスティスブレイド)」はダート平原のドラゴンが荒れ狂ったときに、周辺の村を守るため、ドラゴンと英雄的に闘い、全滅したものの、ドラゴンにも大きな傷を与えて退却せしめた偉人たちだ。「忠義の狼(ロイヤリティウルヴズ)」は第二代国王の時代にグラナン皇国との戦争において義勇兵として参戦した初代国王の部下であった壮年の狼人族の一団だ。初代国王が冒険者時代に助けた狼人族の冒険者がその恩を忘れず遊撃隊として国土拡張の侵略戦争で大きな役割を担ったことからそう呼ばれている。正規軍に属さず義勇兵として遊撃隊を組織して参戦したことから軍人ではなく冒険者として扱われている。

 どちらも冒険者の範として非常に有名なグループであるが、俺の趣味じゃない。俺はどちらかというと、冒険者は手段として採用しているだけだから、ロンベルト一世とかカンビット王国を建国した冒険者のログモック王ログモック・ザ・ピットバイパーを目指している。結構離れた外国だし、詳しいことまでは解らないが一介の冒険者から身を立て、当時ゴミの様な小国であったカンビット王国を乗っ取り、一代で大国にまで押し上げたのだそうだ。殆ど建国と言っても良いくらいのたった数十年での急激な規模拡大は、オースの民の語り草だ。残念ながら子宝には恵まれず子孫はいないそうだが、それでも一国を興したのは大したものだ。素直に尊敬できる。

「でも勘違いはしないでくれ。俺は一流の冒険者を目指している訳じゃないよ……。誰かに褒められたいわけでもない。必要があれば不意打ちもするし、騙し打ちだってするだろう。結果として他の冒険者を襲うことだってするかも知れない。今まではそんな必要がなかったからしなかっただけ「ああ、そうだろう。そんな事は解りきっている。世の中は甘くないからな。俺はただ、殺すために殺していやしないかと心配しただけだ。だって殺戮者スローターズなんて呼ばれていることを知ったら、そう思ってしまっても無理ないだろう?」

 兄貴はニヤリとしてそう言った。そして、

「不意打ちなんか当たり前だ。俺だって戦争の時はどうやって相手を出し抜こうかとそればかり考えていた。わざと相手の旗を立てて近づくとか騙し討ちみたいなことだって機会さえあれば幾らでもやったろう。機会がなかったからやらなかっただけだ。俺が心配していたようなことは何もないことが解ったからそれでいいんだよ」

 と言って俺の頭を撫でてくれた。

「大きくなったな、アル。すぐに追い抜かされそうだ」

 兄貴はズールーほどではないが結構背が高い。185cmくらいあるだろう。俺も170cmを超えてはいるが、成長期の終わり頃までに180cmまで行けるかどうかというくらいだから兄貴の背を抜くなんてことはないだろう。俺は、

「いつかね」

 と言って笑った。

「ファーンさん、お久しぶりです」

 ベルとトリスが着替えて来た。

「やあ、久しぶり。二人共元気そうで何よりだよ、こいつ(アル)が無茶を言うようなことがあったらいつでも俺に言いつけてくれ、折檻してやるから」

 兄貴はそう冗談を言ってトリスとベルと一緒に何か笑いながら話をして皆のところへ歩き出した。

 今日はどこで飯にしようかな? 「ドルレオン」でいいか。俺はラルファに「ドルレオンに行こう。ズールーとエンゲラには俺が言っておく。先に行ってるよ」と声を掛け、奴隷二人が宿に使っている「シューニー」へと歩き出した。



・・・・・・・・・



7444年4月26日

 騎士団への納品を済ませ、同時にこれからはグリード商会の本拠で採寸や納品、修繕を受けられることを説明し、駐在員であるリョーグ一家を紹介すると、バークッドの皆と商会本拠へ向かった。

 ヨトゥーレンの一家は既に少し離れた場所にこぢんまりとした家を借りて引越しを済ませている。彼女達には末っ子の長男、カムナルも連れて出勤することは許可しているので家に幼子を一人置いて出勤させるようなことはさせていない。彼女たちにリョーグ一家を紹介し、リョーグ一家にもヨトゥーレンたちを紹介する。腰の低いヨトゥーレン達だったが、リョーグ達も負けず劣らず腰を低くして挨拶していた。

 バークッドの自由民は治癒師のシェーミ婆さんの他は狩人のドクシュ達しかいなかった。どちらも村に欠かすことのできない人材だったから平民と自由民の間にある階級差の意識はバークッドの田舎者たちには低い。奴隷は別だけど。それに、リョーグ達にしてみれば右も左もわからない大都会で唯一頼りになる人だから自然と腰も低くなろうというものだ。ついでに釘を刺しておくか。

「ロズラル、ウェンディー、ダイアン、彼女達はグリード商会の正式な従業員だ。お前たちの先輩になる。それから、レイラ、アンナ、ハンナ、彼らは今はグリード商会の従業員だが、本来バークッドの従士だ。失礼の無いようにな」

 これでいいだろ。兄貴も頷いているし。

 商会本拠はきっちりと隅々まで掃除がされており、注文通り「グリード商会」の看板も入口の上に掛けられている。リョーグ達の荷物を二階に運び込み、店舗部分の鎧の展示台など、必要なものは今日これから買いに行くつもりだ。棚だけはそのまま残っているのでゴムサンダルやブーツ、各種クッション類のサンプルを並べ、一応値札はまだ付けないでおく。

「ダイアン、納品にはこの馬車を使ってくれ。馬はちゃんと面倒見てやってくれな」

 と言って彼らにグィネから購入した馬車と荷馬二頭を預けた。

 それを見ていた兄貴は、

「ちょっと待ってくれ。当然俺たちは一度バークッドに戻るが、すぐにまた来る。販売用の在庫を持ってこなきゃいけないしな。その馬車も使いたいな」

 と言ってきた。ああ、そうか。夏まで放っておくわけにもいかないよな。一気に運べるから確かに馬車は多い方がいい。

「え? ああ、そっか。じゃあ、使ってよ」

 と言って馬車を裏手に回そうと乗り込んだダイアンを引き止めた。

 作業場への道具や、ゴムの樹液(ラテックス)、硫黄、木炭、木酢液などゴムの材料の樽の搬入・設置は明日行う。

 買い物を済ませたら、戸締りをして全員で決起集会ならぬお食事会をやって親睦を深めてもらう。超高級店でなくてもいいだろう。普通より少しましな程度の店で思い思いに喋って貰えたらいいんだし、あまり肩肘張るような店も良くない。あ、そうそう、王室へのコンドームの献上、と言うか販売についてしっかりとロズラルには言い含めておく必要がある。そう思ってロズラルに礼儀作法を教えようとしたら、兄貴に、

「アル、お前の商会なんだから好きにやればいいが、流石に王家への納品だけはお前が行くべきだろう?」

 と注意された。うーん、いつもいつも国王や王妃が出てくるわけじゃないから言付ければ済むんだし、俺である必要はないと思っていたんだがな。まぁ確かに王城への登城や参内というのは名誉なことではある。一介の平民を送り込んで「舐めてんのか、コラ」とか言われたら嫌だしな。何かあってからではまずいし、たまに王都まで出てくるのも悪くない。だけど、いつまでも俺が表に立たなくてはならないようだとそれも組織としてよろしくな……そっか、つい前世の会社を考えてしまったが、この世界ではそこまで商業や経済が発達していない。

 大店と言っても単にでかい個人商店ってだけだしな。無理もない。支店とか支社とかなんて概念なんて地球でも近代に入ってから発達したんだ。通信がある程度以上の技術的な発展をしないとなかなか理解できないことだろうし。ああ、そういやキールのジャ、もとい、ハリタイド、元気かなぁ。ま、今から無理にやらなくてもいいか。これからゆっくり理解させればいいだろ。

 とにかく今夜の店を予約して、明日の搬入を済ませないとな。それ以降今月中は俺も王都に滞在してリョーグ一家と相談しなきゃならんことも多いし、仕込まなきゃならん常識だってある。何しろもうすぐカールに会えるようになる日なのだ。



・・・・・・・・・



7444年4月30日

 とりあえずリョーグ一家への都会の常識の仕込みを一通り終え、夕方前にはロンベルティアを後にした。急いでバルドゥックへと戻り、やることをやらねばならない。まずは魚の干物を目一杯買い込み、魔石もひと握り。コンロと時計の魔道具も忘れてはいけない。後は俺用にサンドイッチも買う。

 確かカールは「迷宮の一層からここへ来られる場所に転移するには偶然だけじゃダメなんだ。四ヶ月に一回、つまり一月、五月、九月の最初の日だけ運がいいと転移出来るようになってる」と言っていた。今晩からすぐに迷宮に入り、一層の転移の水晶の小部屋で真夜中まで時間を潰し、日付が変わると同時に転移を繰り返すしかないだろう。元々俺は明後日まで王都にいることになっているから、必要な物を買い込んで、ささっと荷物を取ってから迷宮に向かえば、うるさいズールーとエンゲラに気づかれることなく迷宮に入れるだろ。運が良くなくてあのエリアに行けない時は……考えたくない。

 明後日まで休みにしているから明日丸一日転移を繰り返せば何とかなるような気もする。あ、そう言えば「途中にあった落とし穴の底にあるスイッチを正確な順番通りに押さないと扉は現れないよ」とも言っていた。これは何度も試すしかないような気もする。あのとき、どの順番で落とし穴を埋めたんだっけ? まぁ行けば思い出すだろ。埋めなくても落とし穴の底まで降りて床を調査してスイッチを探すのもいい。

 とにかく、必ず、なんとしてももう一度カールに会って話をする必要がある。勿論、魔術を教えて貰うことも大切だが、それ以前に尋ねなくてはならないこと、確認しなければならないことがあるのだ。

 軍馬の背に揺られながら気持ちばかりが逸る。

 夜9時前、一層の転移の水晶の小部屋まで来た。勿論途中のモンスターは魔法でぶっ殺して魔石なんか放置したままだ。勿体無いが背に腹は代えられない。部屋の中でたった一人、ぼうっとしているのも怪しいから、適当な通路の奥で座り込んで時計の魔道具にたまに手を当てて時間を確認しているくらいだ。

 今朝だか昨日だか、顔色や疲れ具合からして大分前に入ったのだろう七人組のパーティが先ほど別の通路から現れ、休憩中だ。もう少し人数が増えたら疲れたふりをしながら適当な場所に潜り込むのもありだろう。目立ちにくいようにヘルメットを外したプロテクターの上からぶかぶかのフード付きのコートを羽織っている。銃剣も持ってきていない。剣だけを取り外して鞘に入れ、腰に帯びているから一目見て俺とは気づかれにくいはずだ。

 お、別の通路から俺みたいなフードを被ったコート姿の奴が一人で現れた。たまにいるんだよな、こういう孤高を気取った奴。一人でバルドゥックに潜るくらいだからそれなりに実力はあるのだろうが、一人じゃ限界はあるよ。あらら、休憩もせずに二層へ転移か。まぁ勝手に野垂れ死ね。

 夜食や明日の食事用にと多めに用意してきたサンドイッチを齧りながら愚かにも一人で転移する冒険者を横目に、更に別の通路から入ってきた他の冒険者の一団を通路の奥から観察する。今度は……十人のフルメンバーか。ああ、あいつら何ヶ月か前に六人でバルドゥックに来た奴らだな。しっかりとメンバーを増やしている。休憩も取るようだし、好感を持てるな。だが、今は弱いとは言え俺のライバルであることは確かだ。無謀に突撃して俺たちのボーナス装備品になればいいのに。

 俺の後ろの通路には常に注意を払っている。誰か近づいて来るようなら立ち上がってさっさと部屋に移動する準備だけは怠らない。どうやら数十m背後に新たな冒険者の一団が接近してきたようだ。奴らからは見えないだろうが俺の鑑定の視力には輝度が上がった革鎧が見える。視線をずらすと合計八人組のようだ。

 重い腰をあげ、転移の水晶の部屋に入り、俯いて壁際に腰を下ろした。


 
最近頂くメッセージなどで何か勘違いされている方も多いようですので念のため補足しておきますが、設定だと

 ・バルドゥックの現状
  マジカルウェポン(数年に一個くらい。最低でも二十億Zくらい)
  マジカルアーマー(盾も含む、数年に一個くらい。最低でも二十億Zくらい)
  マジックアイテム(三年に二個くらい。ピンキリ)
  魔道具(年十個くらい、着火や時計みたいなのからチーズのお椀とかまで。数万Z~億単位)

って感じです。チーズのお椀ってのは童話に出てくる一晩でお椀一杯チーズが補充されるようなやつです。

二章第十九話「戦力不足?」で記載されているようなものすごい価値のものはここ数十年であれ一つっきりです。見つかっているのは普通よりも高輝度の「魔法の提灯(マジカルランタン)」や「冷蔵庫リフリジレーター」、「冷凍庫フリーザー」と言った有用ではありますが物凄く魔石を食うものばかりだったりします。

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