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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第六十六話 六層

7444年2月1日

 遂に、遂に今月から六層を目指す。俺たち殺戮者スローターズは本当の意味でバルドゥックの迷宮のトップチームになる日が来た。トップチームなんて呼ばれて悦に入りたいわけじゃない。余人の及ばない功績を打ちたて、将来への足がかりにすると共に、ここ数十年処女地となっていた階層に足を踏み入れ、手つかずの財宝を得るためだ。ただ安全に稼ぐだけなら今のままあと数年も働けば一生遊んで暮らせる程度は充分に稼げるし、二層くらいまでであればまず滅多なことでは命の危険もないくらいの力はあるだろう。

 だけど、それじゃあつまらないじゃないか。

 予定ではいつものように今日中に三層の転移の水晶棒の小部屋で野営して一泊。明日中に五層の転移の水晶棒の小部屋で野営して更に一泊する。そして明後日から六層に足を踏み入れる。明後日明々後日と丸二日間を六層探索に費やすのだ。勿論野営は五層の転移の水晶棒の小部屋だ。ここで野営する奴は今のところまずいないし、場合によっては六層の転移の水晶棒の小部屋まで行けたのならそこで野営してもいいと思っている。

 だがその場合、六層の転移の水晶棒の部屋を起点として今までとは逆方向に探索範囲を広げることになるし、五層から六層への転移場所の情報が全く掴めなくなるのであんまりやりたくはない。

 とにかく、六層へ最初に足を踏み入れることになる。初代ジョージ・ロンベルト一世の話しか伝わっていないが、六層は水晶もないのに転移が繰り返される迷路状の場所らしいから、今まで以上にグィネとラルファの固有技能が必要になるはずで、彼女たちのMP残量が生命線となる可能性が高いだろう。

 朝飯を済ませ、全員で早朝の混雑している入口広場に向かう。

 ズールーが屋台で豚の串焼きを買ってむしゃむしゃと頬張ると、串を投げ捨てた。昨日の給料日、奴隷二人の給料を月給で20000Z(銀貨2枚)づつ上げてやったのだ。ズールーは1.4倍、エンゲラは1.5倍になった。今日の彼らの士気は高い。

 入口広場はいつものように迷宮へ入る冒険者たちや小判鮫共、ガイドたち、不完全な低階層の地図を売りつけようとする商人、保存食や簡易な装備品を商う商人たちで沢山の人出だ。

 そこに俺達が到着すると海が割れるように目の前から人が消え、道が開き歓声が上がる。

 無感情にそこを歩き出す。

 そこここから聞こえてくる羨望や賞賛の声。

 バルドゥックに来てから二年と経たずに、且つフルメンバーでもないのに一気にトップ集団へ上り詰め、先日は嫉妬と焦りから迷宮内で襲ってきた(ということになっている)輝く刃(ブライトブレイド)を逆に返り討ちにして壊滅させた殺戮者スローターズはかなり目立つ存在となっていた。

「グリード様! 俺を殺戮者スローターズに入れてください! きっとお役に立って見せます!」
「ファイアフリードさん、格好いいよな。渋い、憧れるぜ」
「グリード様! 私をメンバーに加えたら索敵役の斥候が充実しますよ! どうですか!?」
「へへっ、アクダムの嬢ちゃん、あんたの親父さんには世話になったことがあるんだ。あんたからグリード様に取りなしてくれよ」
「いやいや、グリネールちゃん、俺あんたが小さい頃から馬車に乗ってたの見てたぜ! 髭が生え揃ったら嫁に来てくれぇ!」
「ああ、グリード様! 我々ボートン兄弟をお忘れなく! そこらの有象無象より余程お役に立ちますぜ!」
「おお、ベルナデットちゃ~ん! 応援してるぜぇ! トルケリスはくたばれ!」
「何言ってるのよ! カロスタラン様ぁ! こっち向いてぇ! きゃあ、あれ、私に手を振ってくれたのよ! 兎はさっさと死ね!」
「グリードさぁん! 姉君を紹介してください! 私はペンライド子爵家の……」
「あの獅人族ライオスがズールーか。やっぱすげぇ体格だな」
「あの犬人族ドッグワーもグリード様の戦奴なんだろ? いいもん食ってるんだろうなぁ、乳が張ってらぁ、やっぱ同種族の女はいいよな。副乳がないと魅力半減だよな!」
「グリード様! どうすか、これ? 新型のバックパックですよ!」
「おう、ラルファ! また一緒に飲もうぜぇ!」

 ラルファだけちょっと方向性がずれている気がしないでもない、あれじゃあ単なる飲み友達じゃねぇか。喧嘩すんなよ。苦笑いを向けてくるチャーチさんに目礼をすると、八人分の入場税80000Zを迷宮管理の税吏に支払い、入口の転移の水晶棒の小部屋に向かった。



・・・・・・・・・



7444年2月3日

 初めて迷宮内部で二泊した。五層の転移の水晶棒の小部屋には最近の野営の跡は殆ど無い。誰かがここに来る事について当分の間心配は要らないだろう。今晩もここで野営するつもりだし、今後も暫くはこの部屋にお世話になるだろう。

 部屋の隅に今までにはない特別な野営道具をセットし始めた。今回から桶も複数持ってきている。大きな布もだ。寝起きする隅とは別の場所でシャワーを浴びるためだ。一層からここまでの間でぶっ殺したモンスターからかっぱいだ木の槍などをある程度確保しておいたのも、それを材料に櫓を作り、桶を上部にセットしてお湯を入れるためだ。桶の下の方の横腹に小さな穴を二つ三つ開ければ粗末ではあるが一応シャワーを浴びることが出来る。

 何しろ四層の転移の水晶の小部屋で会う他の冒険者連中は、かなり臭いのだ。四層や五層自体、常に腐臭が漂っているからあまり目立たないが、地上に出ると良く解る。それと、元々得ていた情報で六層には猪がいることが解っている。豚は犬並みに鼻が利くはずだ。出来るだけ体臭を落としておいた方がいいだろうとの考えがシャワーを設置する一番大きな理由だ。

 俺がこの「五層の転移の水晶棒の小部屋基地化計画」を話した時には賛成と反対が半々だった。因みに、ゼノム、トリス、ズールー、エンゲラが反対で、俺、ベル、ラルファ、グィネが賛成だった。ゼノムとトリスはシャワーを作ること自体の意味を見いだせなかったようだ。

 ズールーとエンゲラは自分たちがシャワー道具を担がなければならないことが主な理由だろう。かなり遠慮したように消極的に反対していた。俺が自分の考えを説明し、意向を言う前に案として言った時に消極的に、おずおずと「無駄な行為になりそうです」と言っていた。おそらく、シャワー設備を作っても誰か他の冒険者に破壊されてしまうのではないかと心配していたのだ。確かに迷宮に潜るたびに足を洗う桶一つだけでなく、別に命に関わるわけでもないシャワー用の資材を担がされたのではたまったものではないだろう。

 賛成派は俺を除いて単に女だからだろう。今までは迷宮内部で一泊しかしていなかったからシャワー無しでもなんとか耐えられたが、折角安全地帯があるのだから出来ることなら休む時くらい体を清潔にしたいという欲求に基づいて賛成していたことは良くわかる。それを聞いてもまだ納得し難かった顔のゼノム達も、俺が賛成する理由を話した時には「六層の猪の情報についてはすっかり頭から抜け落ちていた。いや、忘れたわけじゃなくてそこまで考えが及んでいなかった」と言って納得してくれた。

 懸念されていた他の冒険者による破壊についても桶の側面に使い方と六層の猪の理由を書いた紙でも貼り付けておけばトップチームの共有財産として認知される可能性が高いことを説明し、納得させた。俺が思うに、トップチームの連中に馬鹿はいない。あの輝く刃(ブライトブレイド)の連中だって馬鹿ではないと思う。六層以下を目指す際、必ず必要になるであろうシャワー施設をその度毎に運んできたり設置したりする手間は非常に大きいから、他者を妨害するよりは自分達の便利さを優先するに違いないと思い、それを説明したらズールーやエンゲラも納得してくれた。

 とにかく破壊されることを心配しないでいいのだから、シャワー自体は有難いものだし、朝起きた時に冷たい水を浴びるのも気持ちのいいことは確かなのだ。

 こざっぱりとした俺たちはいよいよ六層へと進む。転移の水晶棒を掴み呪文を唱える。

「シホトコ!」

 いつもと同じく辺りの様子が一変した。天井はかなり高い。50m以上あるだろう。高すぎて光が届かないのか全体的に迷宮内の光量が落ちている感じだ。転移の水晶棒の台座は今までと何ら変わったものではない。刻まれている紋様を調べ、指し示す方向の適当な石に「1」とベルが書いている。因みに、壁は五層のように土と石で出来ている洞穴のようだが、異様に天井が高いため、薄暗い谷底にいるような気分になる。床も同じく凸凹した地面だ。

 グィネが固有技能を使い、鋭い目つきで通路の前後を見渡している。ラルファが北を指さした。それによると通路は正確に南北に伸びているようだ。

 装備を点検し、異常がないことを確認すると、

「こっちから行くか」

 と言って北を指さした。それじゃあ、いつものように行きますかね。
 風魔法で空気を生み出し、隠された落とし穴を……天井が高過ぎて無茶苦茶効率が悪い。今までは100m単位で落とし穴や隠されたスイッチを発見できたが、同じ位の魔力を使ってもいいとこ10~15mくらい先の土を吹き飛ばせるだけだ。三層のように石造りなら水魔法でなんとかなりそうだが、落とし穴の構造自体が違うだろうし、これじゃあそうもいかん。

 うへぇ、ここに来て最初に迷宮に踏み込んだ時のようにチマチマ進まなきゃならんのか……全員げっそりとした表情を浮かべる。本当に六層は長丁場になりそうだ。

 だが、文句を言っても仕方ない、行くか……。

 とりあえずグィネの槍を竿替わりにして進むことにする。一度五層に戻ることも頭をよぎったが、流石に3mもの長さの竿は無い。一時間程かけて500~600m程進んだ時だ。エンゲラが鼻をヒクつかせた。

「結構先ですが何か居ます」

 ベルがぴくんと反応した。

「静かに……」

 ピンと耳を立て、目を瞑り集中している。全員緊張の面持ちでベルの一挙手一投足を見逃すまいとでもするかのように彼女を見つめている。

「四本足……複数……かな? 距離があるのでちょっと良くわかりませんが、何かいるのは確実です」

 四本足か。猪だろうか。俺が隊形を指示し直そうかと口を開きかけた時、

「来ます! 一匹です!」

 ベルが目を開き、警告した。

「ズールー、エンゲラ、俺と前を固めろ! ゼノムとラルファは後方警戒だ! ベル、見えたら撃て! グィネは俺たちの間から槍で援護だ! トリスはベルの護衛を頼む!」

 俺の指示でさっと戦闘態勢を整える殺戮者スローターズ。きびきびとした動きは小気味いいが、六層での初めての戦闘だ。緊張の色も窺える。かくいう俺も緊張している。何しろ初めて戦うモンスターだろうし、その特徴や攻撃方法なんか知るわけない。

 そのまま十秒程が経過する。ベルが混乱したような声で、

「あれ? あれ? 音が、音が聞こえなく……あれ?」

 と言っている。どういうことだ?
 みんな訝しげな顔で彼女を見た。
 ベルは弓を下ろし、また聞き耳に集中するかのように目を閉じて俯いている。

 その時だ!

「アル!」
「後ろだ!」

 ラルファとゼノムの叫び声だ。ズールーやエンゲラ、グィネと一緒にベルを振り返っていた俺たちの後ろ(つまり、前方になるのだが)20m程のところにいきなり猪が現れ、俺達に突進してきた!

「グオッ!」

 ズールーの背中に体当りしたようで、ズールーの巨体が弾き飛ばされた。でかい! 全長2m以上、体高も1m以上ありそうな猪が俺の脇を通り抜け、ズールーに続いてベルも跳ね飛ばす。ベルは「ングっ!」と言う声を上げて数mも弾き飛ばされ、余勢を駆った猪は更に後方に居たラルファにも体当たりを敢行しようとしたが、ラルファはあらかじめ見えていたからか、咄嗟に躱すことが出来たようだ。

 くそ、こいつはどこから現れやがった!?

 そう思うのも束の間、「フレイムジャベリンミサイル」を猪のケツにぶち込み、苦しみながらも方向転換をしようとする土手っ腹にも「ストーンジャベリン」を食らわせてやり、怯んだところにゼノムとラルファが襲い掛かり斧で頭を叩き割られて死んだ。

 すぐにベルのところに駆け寄り、鑑定したが、牙で脇腹を突き刺されたのか、かなりの血が流れていた。HPは七割近くが失われていた。トリスが覚えたての治癒の魔術(キュアー)を使おうとして革鎧を脱がせようとしているところを無理やりどかせ、ナイフで革鎧を切り裂いて治癒の魔術(キュアーオール)を直接かけた。傷口はすぐに塞がり、HPも回復した。それを見てトリスの顔に安堵が広がった。

 ズールーもベル以上の重傷を負っていたが、なんとか脊椎の損傷は免れたようだ。同様に治癒の魔術(キュアーオール)で治してやり事なきを得た。ベルとズールーはまだ相当痛みが残っているようで、立つことが出来ないようだ。

「ラルファ、こいつはどうやって現れた?」

 前方を警戒しながら後ろにいるラルファに問う。

「判らない。急に現れたの」

 くそっ、どういうことだ?

「何もなかったはずだが、いきなり通路のど真ん中に出てきた。いきなりだ」

 ゼノムも興奮したように言った。つい振り返ってしまった。

「アルさん、ひょっとして……」

 トリスがベルを抱き起こしながら俺を見上げて口を開く。

「つっ、アルさん、私の聞いていた筈の足音が急に聞こえなくなりました。んっ…‥その後暫くして急にすぐ近くに猪が現れました。たぶ、多分、六層の噂にあった転移じゃないでしょうか?」

 ベルが苦しそうにトリスの言葉を引き継いだ。なるほど、そういうことか。なんて面倒な階層だ。また注意を前方に向けながら、

「クソ……そういうことかよ……。仕方ねぇ、トリス、すまんが俺と一緒にズールーに肩を貸してやってくれ。ラルファとエンゲラはベルだ。一時退却するぞ。ゼノムは後方警戒、グィネはすまんが先頭だ」

「「え? 魔石は……?」」

 ラルファとグィネが口を揃えて言った。

「今回はいい。まず安全を確保するのが先だ。だいたい、のんびり魔石を採っているところにまたこんなのに突っ込まれたら目も当てられん」

 六層に足を踏み入れて僅か一時間、距離にして500~600m程度で尻尾を巻いて逃げ戻る、か。仕方ない、これが今の実力だ。だが、流石に今までトップチームを阻んできただけある。きっと今のトップチームの連中だって何回か六層へのチャレンジはしたんだろう。だが、突破を諦めた、というところだろう。俺は違う、見てろよ!

 とにかく罠がないことははっきりしているので十分もあれば転移の水晶棒までは戻れるだろう。ベルとズールーが回復し次第、もう一回チャレンジだ。



・・・・・・・・・



 特に何事もなく五層の転移の水晶棒の小部屋に戻ってきた。適当に土を出し、簡易的な寝台を出してその上に毛布を敷いてベルとズールーを横たえると、早速口を開く。

「くっそ。昔やった『コンピューターゲーム』みたいだな。いきなりモンスターが『ワープ』してくるってことか……」

「そのようですね。“水晶もないのに転移が繰り返される”という事ですね……」

 とトリスが言った。全くその通りだ。

「対処法は無いか、あったとしても何らかの法則性か規則性が転移にあるならそれを見破るしかなさそうなのが辛いところだな」

 俺の言葉を受けて再度トリスが口を開く。

「ですね。転移に規則性があったところでそれを見破るのに一体どのくらいの時間がかかるものやら……」

「トリス、あんまり愚痴っぽいことを言わないで。まずは規則性を見つけることから始めようよ。何度も六層に行って、モンスターはともかく私たちも転移してみれば……あ」

 ラルファがトリスに注意したが、気がついたようだ。

「そうなんだよ。俺もさっき思い当たった。さっき突っ込んできたモンスターは一匹だった。ベル、確かに最初は複数の足音だったんだよな?」

 俺がベルに尋ねると、横になったままベルが答えてくる。

「ええ、確かに最初は何匹かいた感じがしました。でも、こちらに走ってきたのは一匹だけです。それは間違いありません。その足音が途中で消えて……ちょっとしたら突っ込まれていたんです」

「それって、足音が消えている間が転移の途中ってことでしょうか?」

 グィネが疑問を投げかけたが、誰も正解なんて知るわけない。

「ん~、そう考えても良いかも知れないが違うかも知れない。今のところは解らない、としか言えないだろうね」

 トリスが答えた。まぁそれ以外答えようがないのは確かだ。

「……今ベルが言ったこと、急に現れた猪、予め聞いていた六層の情報、これらは全て実際に確認したことだ。確認できたことだけを材料にして話そう。確認できないことは推測するのもいいが、固定観念を植え付けかねないから推測を元に更に推測することだけは止めよう」

 俺はそう言って皆を見回すと、続きを口にする。

「確実なのは、六層は今までと違って、急にモンスターが現れる事がある、ということだ。今のところ俺たちの側に現れただけだけど、下手すると探索中の俺たちのすぐ後ろや戦闘中に現れてもおかしくない。全方向に今まで以上に細心の注意を払う必要がある。また、この階層から罠の情報はない。どんな罠が待ち構えているかさっぱり解らんから、これにも用心が必要だ。ゼノム、ラルファ、ズールーしか知らないだろうが、初めてバルドゥックに入った時と似たような状況だ。既に経験者がいる訳だから安心してくれ。ここまではいいな?」

 皆が頷くのを確認してまた続ける。とにかく安心材料を提供して不安感を拭うのが大切だ。

「それに、当時と決定的に違うのはグィネの地図作成の能力だ。ラルファの方角確認と併せて使う事によって正確な地図を作れることにかけては俺たちは世界一だ。だから、六層の転移の謎を解くことさえ出来れば必ず突破できる」

 迷宮攻略の目的を「金稼ぎ」から「突破」に言い換えて気持ちの誘導を行うことも必要だろう。「金稼ぎ」のままだとリスクと見合わせた時に怖気づく奴が出ないとも限らん。主にグィネだけど。そしてさりげなく彼女グィネを中心的な存在へと持ち上げる。彼女グィネがいないと厳しい、だが彼女グィネがいさえすれば決定的な力になる。

「と言う訳だ。だからグィネ、まず君が頼りだ。頼んだぞ」

「ええ、地図は任せて下さい! 力を合わせて突破しましょう!」

 グィネは両拳を握って答えた。素直な子は大好きだ。

「さて、じゃあ続きだ。転移の件だが、あれはもう試してみるしかない。モンスターだけが転移するのであれば、“水晶もないのに転移が繰り返される”というような言い伝えにはならないだろう。おそらく俺たちも転移するんだろう。そこで問題なのがいくつか考えられる。まずは一つ目、転移の開始点だ。特定の場所なのか、転移先は一定なのか、それとも転移の開始点に接触だか入るだかする度に全然別の場所に転移させられるのか、ということだな。次は……これが重要なんだが」

「皆、転移先は同じかどうか、ということですね」

 ベルが言った。

「その通りだ。通常俺たちは周囲を警戒するためと、襲撃を受けたときのことを考えて動きやすいようにそれなりに距離をとっているだろう? だから、先頭……これは転移の開始点が固定でも前方から動いてきたとしてもだけど、先頭から転移することになる。転移先が一定ならすぐに合流できるだろうから、あんまり深く考えなくてもなんとかなるような気もする。だけど、バラバラに転移させられた場合のことを考えると、辛いものがある。転移させられるときに接触してたりしたら一緒に転移させられるとかいろいろな条件も考えられる」

「そうですね。それに、例えば五分おきに転移先が変更になるとか、それこそなんでも考えられますね」

 トリスが言った。

「ああ、そうだ、それともう一つ」

「転移の開始点? だっけ、それが見えるのか、全く見えないのかによって全然変わるね」

 ラルファが言った。うん、馬鹿じゃないんだよな。なぜか脳足りんなイメージがあるけどさ。結構頭は回る方だ。

「そういうこと。これは俺の予想であり推測であり、ついでに言うと願望だけど、“水晶もないのに転移が繰り返される”という情報はロンベルト一世の手記じゃない。本人が語ったことを元にして言い伝えられていると言われているけど、ロンベルト一世とその仲間たちは少なくとも複数いて、八層までは行って帰ってきてる。確かに全員無傷でとか、誰ひとり欠ける事なく、などと言われているわけじゃない。それを考えると転移は恐らく全員一緒じゃないかと思う。バラバラだと一人でモンスターの集団を相手取ることになりそうだしね。流石に全員そこまで個人の戦闘力が高かったというのは不自然な感じだ。荷物持ちの奴隷だって居ただろうしな。水はともかく、食料が切れたらきついぞ」

 また皆を見回してから言葉を続ける。

「それと、転移の開始点は見えるんだとも思う。これが六層の罠であるか、その一種であると思う方が自然な気もする。見えなくても見分ける方法があるんだろう。例えば、小石を放り投げながら歩くとかね」

「なるほどな。投げた小石が空中で消えたらそこが転移の開始点、というわけか。試してみる価値は充分にあるな。そうなるといきなり転移してくる魔物にだけ注意を払っていればいままでと大差ない、ということか」

 ゼノムがそう言って重々しく頷いてくれた。

 当然こんなもんではないだろう。開始点が移動しているかも知れないし、それが高速なら小石を投げたところであまり意味はない。だが、魔法的なものであるなら最悪の場合俺が先頭に立って「アンチマジックフィールド」を伸ばしておくというのも手だ。例え「アンチマジックフィールド」で相殺できなくても手の光が消えたら何かあったとは気づくだろう。同様にすごく長い竿を用意してその先に「ライト」でも灯しておけば何かあった場合に気がつきやすい気もする。

 なぁに、ロンベルト一世が出来たんだ。俺たちにだって出来るだろう……そう言えばカールはロンベルト一世は固有技能を二十以上持っていたと言ってたな。ダメかも知れん……。
+注意+
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