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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第六十話 泉

7443年12月30日

 大晦日。いかなオースと言えど、正月は休日で全国的に店仕舞いが当たり前だ。だから今日の商店はどこもそれなりに繁盛する。俺も特に用も無いのに食料品店を覗き込んだりしている。正月休みの間、正味の話は暇でしょうがないが、一年に一回くらい思い切り休みを満喫するのもいいだろう。

 トレーニング自体は休みだろうとなんだろうと続けるからそう簡単に体が鈍る事もないだろう。あんまり退屈に飽きたら迷宮にでも行って暴れるのも悪くない。ズールーとエンゲラのどちらかを連れて行くことになっているが、正月休みは別だろうしな。

 ズールーなんか最近は飯屋の姉ちゃんとなんかいい感じになっているみたいだし、エンゲラも購入した時のような暗い目つきはすっかり消えている。ああ、そうだ、来年からあいつらの給料も少しは上げてやろう。珍味屋で購入した蛸の足の燻製をインバネスの内ポケットから取り出してくちゃくちゃやりながらこんなことを考えて街をぶらぶらしていた。

 お、あそこで店を冷やかしているのはトリスとベルだ。腕を組んですっかり仲の良い事で。羨ましい。そういやベルを助けた日も蛸の燻製を咥えてたんだよな。四人で口から蛸の足を生やして顔つき合わせて相談したんだっけ。どうでもいいことを思い出した。

「ご主人様、散歩ですか?」

 ん? なんだ、エンゲラか。パンと何か野菜とかハムとか抱えていた。こいつも明日の買い出しだろう。今朝今月分の給料を払ったばかりだし、明日は飯屋も営業しないところが結構ある。昼は自分で出せと言っているから今のうちに明日の昼の分の買い出しをしていたんだろう。一食分にしては多いが、休み中の昼食分と考えると丁度いいくらいの量だろう。

「ああ、エンゲラか。明日の昼飯か?」

「はい、明日はほとんどの店が閉まっちゃいますから……」

 やっぱな。

「そういやそうだな。俺も何か買っとくかなぁ」

「それが良いですよ。営業している店もすごく混むでしょうから」

 だよな。

「そうだな……俺もなんか買っとくことにするわ。じゃあな」

 そう言って傍の食料品店に足を向けた。何を買うかな……。結局、居つきのメイネイジの干物にした。メイネイジは回遊魚だが、バルドゥックの西の岩礁帯に居ついて丸々と太った上物がよく水揚げされている。今度釣りに行くのもいいけど、リールねぇんだよな。コンロの魔道具で焼くと美味いんだ。

 前世に食った関アジの干物とは比べるべくもないが、オースの魚の干物だってそう馬鹿にしたもんじゃない。旨い魚は干物にして更に旨みが出るのは共通だった。干物の魚を焼いてからほぐしてマヨネーズをあえてパンに挟むとこれがめっちゃイケる。誰が考えたのか知らないが、この味に出会ったとき俺は感動に打ち震えたくらいだ。

 前世の日本のように開きにされたメイネイジの干物を二匹買って首のところで紐を結んでもらう。それをぶら下げながらまたぶらぶらと歩き出した。少し先の飯屋で喧嘩でもあったようで騒ぎになっているが別に珍しいことでもない。

 まぁ俺のパーティーの奴が巻き込まれているか喧嘩していたら仲裁するしかないから覗いて見るくらいはするが、そんなことになりそうなのは今では酔っ払ったラルファくらいしか考えられないので、あまり心配はしていない。最近はグィネとよく連んでいるし、グィネは酔っても大人しいタイプ(本当に酔った所は見たことない)なのでまず問題はないだろう。

 ほら見ろ、違うやつだ。って、あいつ……「輝く刃(ブライトブレイド)」の奴じゃねぇか。本当、あいつらは荒っぽい奴らが揃っている。まぁ、あそこのメンバーに喧嘩を売る方も売る方だ。どうせバルドゥックに来たばかりのお上りさんなんだろう。この街で半年も過ごしていたら絶対に手を出しちゃいけない奴らの筆頭だと誰でも知っているからな。その証拠にほら、誰も賭けの胴元を張りそうな奴すら出てこない。

 あ~あ、あの兄ちゃん、半殺しだろうな。十代後半くらいの狼人族ウルフワーの男が顔を真っ赤にして何か言っている。それを顎を掻きながら額に大きな傷のある犬人族ドッグワーの男が聞いている。勿論ドッグワーの方が「輝く刃(ブライトブレイド)」のメンバーだ。確か名前を……そうだロンゲールって奴だ。「輝く刃(ブライトブレイド)」の中堅くらいの奴だ。

 ロンゲールと目があった。俺は肩をすくめて通り過ぎる。まぁ殺さない程度で勘弁してやるんだな。殺したら面倒だろ? 俺が通り過ぎる頃には決着がついたみたいだ。ワンパンか。一度だけ振り返ったが大番狂わせなんかあるはずもなかった。

 そう言やあ、ベルが加入した頃、俺たちも他の冒険者連中に飯屋でよく絡まれた。オースでもベルの美しさは際立っていたから、酒の入った冒険者たちの格好の餌になっていた。ベル本人もだが、俺も何度喧嘩したか覚えていないくらいだ。そのうち俺のパーティーも「殺戮者スローターズ」なんて呼ばれるようになって滅多に手を出してくる奴もいなくなった。ラルファやズールーなんか出禁にされた店もある。

 目に入るのはいつもより少し賑やかなバルドゥックの街並みだ。今年もなんとか無事に過ごせた。迷宮の探索も順調だし、ようやっと訓練の成果も上がってきたのか、皆の剣筋もかなり変わったように思える。来年こそは名実ともにバルドゥックのトップに君臨できるだろう。

 ふん。明日は正月だし、初心を忘れないためにも一人で一層くらい駆け抜けてみるのもいいかも知れない。



・・・・・・・・・



7444年1月1日

 バルドゥックで迎える二度目の正月だ。去年のように神社に初詣に行き、1万Zを賽銭として喜捨した。初日の出はクレーターみたいな丘の頂上まで行かなきゃならないので暗いうちから起きてランニングを兼ねて初詣の前に見に行った。初詣に行った足で飯屋に行き、全員で朝食を摂る。奴隷以外の五人に給料を払い、宿に戻った。

 いそいそとゴムプロテクターを身に付け、装備品を確認する。革手袋は昨日の夜ラルファに焼豚の油を垂らされたから宿に洗濯を頼んでいる。リュックサックに地図を入れ、コンロとメイネイジの干物、マヨネーズの瓶とパンも忘れずに突っ込んだ。井戸から汲み上げた水を水筒に入れ、さぁ、出発だ。

 勿論、ズールーやエンゲラに声はかけない。彼らには悪いが、これは儀式なのだ。初心を忘れることの無いよう、おっかなびっくりと初めて迷宮に挑んだ時の気持ちを新たに認識するのだ。勿論、一層くらい屁でもないことは確かだが、バックアップのない状況は一年ぶりだ。

「やぁ、グリードさん、明けましておめでとう。今日は一人かい?」

 バルドゥックの騎士団のチャーチさんだ。正月早々迷宮入口の税吏の警護か。

「明けましておめでとうございます。チャーチさん。久々に初心に帰ろうと思いましてね。軽く運動がてらですよ」

 挨拶を交わし、税吏に迷宮への入場税を支払って、一層へと転移した。

 さて、ここはどこかいね? 転移の水晶棒の台座の番号は……無い! 未踏破エリアか。久々だな。一層だし、そう危険なこともあるまい。そもそも一層の地図はもう殆ど埋まっているから、未踏破エリアといっても大体の形は解る。それに、実は調べようと思えばいつでも調べられるのだ。何故なら、一層の未踏破エリアは、残されている空白から類推して全て何らかの形で中央の転移の水晶棒に繋がっていると思われるからだ。

 簡単に言うと、転移の水晶棒に繋がっている場所に転移して、中央の小部屋から未踏破のエリア目指して逆に歩くだけで必ず行けるだろうと考えられている。あんまり意味ある行為ではないのでやらないだけだ。時間勿体無いし。

 だが、今回は運良く(?)未踏破エリアに転移できた。実は一層の空白はあと三箇所しかないのだ。ちょっと歩けばその三ヶ所のどこかはすぐに判るだろう。

 ばおん!

 風魔法を使って罠を裸にする。大丈夫そうだな。すたすたと歩を進め、十分もしないうちにここが何処かアタリをつけることが出来た。ああ、ここなら二時間も歩けば迷宮の中心に行けるな。よっしゃ、一つタイムアタックでもやってみようかな。

 ゴブリンを銃剣で蹴散らし、ノールを「アイスコーン」でズタズタに引き裂く。オークを魔力を注ぎ込んで強化した「チェインライトニング」で黒焦げにして、ガルガンチュアスパイダーに「ファイアージャベリンミサイル」を叩き込んであっという間に殺す。四匹しかいないホブゴブリンの群れに突撃をかまして全員ボコボコにしてから喉を突いて先を急ぐ。

 魔石の回収はガルガンチュアスパイダーからしか行っていない。グリーンスライムを「フレイムスロウワー」で焼き殺して、あと30分もしないで転移の水晶棒の小部屋に辿り着けるだろう。

 いくらタイムアタックだとは言え、焦ってつまらない怪我でもしたら馬鹿みたいだ。油断は禁物。何しろ本来は初心に立ち返るための儀式なんだからな。時計の魔道具は持ってきていないが多分二時間を切れたんじゃないだろうか。満足感に包まれて転移の水晶棒の小部屋で休息を取った。腹の減り具合からして流石にまだ昼飯まではかなりあるはずだ。

 どれ、折角ここまで来たんだ。二層でもちょいと覗いてみるか。休憩を終えた俺は立ち上がって伸びをすると装備を確認した。問題ない。

「メヘブカ」

 転移の呪文を唱え、二層へと移動した。



・・・・・・・・・



 さて、ここはどこかいね? 転移の水晶棒の台座の番号は……無い! 未踏破エリアか。久々だな。二層だし、そう危険なこともあるまい。そもそも二層の地図はもうかなり埋まっているから、未踏破エリアといっても大体の形は解る。って、なんかさっきもやったな。通路の真ん中に立っている転移の水晶棒の台座を念入りに調べながら、実は喜んでいた。少しでも空白を埋められるならそれに越したことはない。

 いつものように風魔法を使い土を飛ばす。てくてくと通路を歩いていくと、異常を発見した。落とし穴だ。だが……こいつは……。

【ベッシュズ・フローティングディスク・オートメンディング】
【風・無】
【状態:良好】
【作成日:-/-/-】
【価値:-】

 いつか来たあのエリアか? だとするとここから戻って水晶棒の反対側にもあるはずだ。転移の水晶棒まで走って戻ると再度風魔法を使い、その先に進んでみる。

 ……あった。だが、どっちだか覚えていないが、俺はあの時地魔法で片方の落とし穴を埋めた筈だ。勿論完全に埋め立てたわけじゃなくて、落とし穴の真ん中を通れる程度に埋めたに過ぎないが、確かに地魔法で埋めたと記憶している。

 一年以上前の事だけど、初めて二層に足を踏み入れた時のことだ。そう簡単には忘れられないよ。元素魔法で生み出した土も迷宮内だと永遠に残るわけじゃないことは知っていたが、それでもあれだけの量だ。普通の通路に出したのであれば一年やそこらで消えるような量じゃない。

 頭の芯が冷える。必死に当時の事を思い出す。確か、先に進んで別れ道の手前くらいで蛇を始末して……その後別れ道まで行ってから引き返したんだ。二層の地図を取り出してもう一度チェックする。二層の空白地帯は全体の10%強、迷宮の直径が10kmくらいだから迷宮各層の面積はだいたい80平方Km弱だ。一割くらいとは言え全部で8平方Kmくらいが未踏破エリアだ。

 どうする? 何となくだが、ここは普通の二層のエリアとは違うと思う。普通の二層であれば今の俺なら多分問題は何もない。もうバルドゥックの冒険者では俺が最高レベルになって久しいんだ。

 正直な話、今なら第一騎士団の団長とも真っ向から張り合える気もしないでもないくらいには自信がある。細かい剣技では敵わないだろうが、高いステータスに支えられ、トレーニングを欠かさずにいた成果がかなり発揮できるようになってきた。そうそうなことではどんな相手にも遅れは取らないだろう。

 だが、常に迷宮では何が起こるかわからない。初心を忘れるべからずの精神で今日は来たのだ。……正直な話、好奇心がすごい勢いで頭をもたげて来ている。多分ここは二層の中で特別なエリアだ。もう二度と転移して来れないかも知れない。これはチャンスなのか? チャンスだろう。

 しっかりと覚えている。

「二層には妖精の住む水たまりがあるらしい」

 初代ジョージ・ロンベルト一世の冒険譚にしか出てこない話だ。妖精なんかが居るなんて誰も信じていないので与太話の一つとして処理されているが、俺達は有り得る話だと思ってもいる。まぁ他に妖精の話なんかそれこそオースでもお伽噺にしか出てこないから、信憑性は低いのだろうが、それでも妖精が居てもおかしくないとは思っている。

 先に進むべきだろうか?

 もう一度装備を点検する。ついでに自分の鑑定もした。

【アレイン・グリード/5/3/7429 】
【男性/14/2/7428・普人族・グリード士爵家次男】
【状態:良好】
【年齢:15歳】
【レベル:19】
【HP:160(160) MP:7105(7436) 】
【筋力:26】
【俊敏:34】
【器用:24】
【耐久:26】
【固有技能:鑑定(MAX)】
【固有技能:天稟の才(MAX)】
【特殊技能:地魔法(Lv.8)】
【特殊技能:水魔法(Lv.8)】
【特殊技能:火魔法(Lv.8)】
【特殊技能:風魔法(Lv.8)】
【特殊技能:無魔法(MAX)】
【経験:1071321(1100000)】

 しっかりとヘルメットを被り直し、丁寧に緒を締める。指を開き、一本づつ握りこむ。いけるはずだ。今、バルドゥックの二層にいる存在の中で俺は最強のはずだ。恐れることはない。自信を持て。

 一歩を踏み出し、右手に銃剣を持ち左手を前に突き出す。地魔法を使って、再び落とし穴を埋め、その上を渡った。



・・・・・・・・・



 Yの字の別れ道の左上の方から叉路に入った。確か前回は右上の方から来たはずだ。念のため右上の方に行ってみよう。途中、二匹蛇がいたが、二匹とも「ライトニングボルト」で殺した。

 やはりYの字の上の方は繋がって輪のようになっていた。戻って先を進もう。

 先を進んでいくと、もう一回同じような落とし穴があった。同様に地魔法で土を出して歩いて渡った。何回か曲がったが、あれ以来別れ道にはあたっていない。と、前方に部屋があるらしいことに気づいた。部屋の様子を窺いながらじりじりと進む。部屋の中の様子はまだわからない。常識で考えると主が居るはずだ。それとも妖精か。

 音を立てないように注意しながら少しづつ前進する。一層のスカベンジクロウラーや四層のヴァンパイアの例もある。強力な主が巣食っているかも知れない。または二層の部屋にたまにある、蛇の出てくる噴水みたいな奴だろうか? あれ、面倒くさいんだよな。

 やはり蛇の噴水のようだ。しかも面倒なことに部屋の中に四つもある。あと少しで部屋に入れる、というあたりまで近寄ったところで噴水からニョロニョロと蛇が噴出してきた。噴水一つからだいたい四十~五十匹は吐き出されてくるのだ。それが四つってことは合計二百匹かよ……いくらかゲンナリとするが、ここを突破しないことには始まらない。

 部屋の中をざっと見渡したが冒険者の死体はおろか骨すらない。くそ、いくらか蛇が噴出してきたあたりで部屋に向かって「アシッドクラウド」の魔術を使った。「キルクラウド」でもいいんだが、「キルクラウド」だと即死はしない。しばらく苦しんでから死ぬんだよ。だから迷宮内で使うにはちょっと躊躇われる。確実に全滅できるわけでもなく、死なない奴だって結構いるからだ。部屋に黄色いガスが充満し、入りきれなかった分が通路にまではみ出してくる。

 俺は「アンチマジックフィールド」を自分の背中に展開して、一目散に部屋から遠ざかった。これは俺にしかできない攻撃方法だろうよ。まぁ、放って置いても「クラウド」系のガスは十分程度で無害化してしまうからここから動かないで「アンチマジックフィールド」で踏ん張ってもいいんだけどさ。

 部屋からかなり遠ざかり、念の為に二十分近く様子を窺った。もういいだろう。そろそろと部屋を目指して前進する。部屋の中は惨憺たる有様だった。強い酸のガスで表皮をべろんべろんに爛れさせた大量の蛇が蠢いている。よしよし、いま楽にしてやろう。「フレイムスロウワー」を拡散モードで使用して蛇を焼き殺し、前進した。面倒だから魔石は放っておく。

 蛇の部屋の奥にまだ通路は続いている。しかし、100m程前進したところで俺は頭をひねる。何故かと言うと明らかに異質なものが俺の視界を覆っているからだ。扉だ。それも四層以下にある隠し扉なんかじゃない。高さ2mあまり、両開きの重そうな扉が俺の行く手を阻んでいた。ノブはないが、手を当てて開くような金属のプレートが丁度いい高さに嵌っている。

 多分この扉は押し開くものなんだろう。

 まぁ頭をひねっても解らないものは解らない。扉があるということはこの先に何かあるんだろうし、扉があるということはここに扉を備え付けた奴がいたということだろう。だが、扉に毒でも塗ってあったら大変だ。鑑定しても【扉】しか出ていないからまず大丈夫なような気もするが【毒の塗られた扉】などという鑑定結果にはならないだろうから用心に越したことはない。

 いっそ蹴破ろうかとも考えたが扉の向こうにモンスターでもいたら音で気づかれてしまうだろう。銃剣の銃床を扉にあてて力を込める。しかし、扉はびくともしなかった。ブーツの裏を扉にあてて力を込めてもダメだ。鍵がかかっているのか、そもそも扉のように見えてその実壁だとか、いや、内開きになっていてこちら側にしか開かない設計になっているのかもしれない。

 ここで考え込んでも仕方ない。開かないのもどうしようもない。しかし、扉の隙間から向こうの様子くらい窺えないだろうか? 扉には鍵穴らしきものも見つからない。意を決して(多分大丈夫だろうが)扉の隙間から覗いてみようとしたが、余りにもピッタリと閉まっており、これ、元々開かない設計なんじゃね? と思った時だ。

 扉に手をついて隙間に目を当てようとしたら扉が柔らかい光を放ち、消えてしまった。そして扉の向こうの光景を目にした俺はバカみたいに大口をポカンと開けていたことだろう。

 扉の向こうは先が見えないほどの大きな部屋だった(正確には遥か遠くに見える)。そして迷宮にあるまじきことに天井までの高さも相当あるようだ。光源は見当たらないが日光のような光が燦々と降り注ぎ、草木が芽吹いている。ほとんど全ての木は背の低い潅木で、見渡す限り草原が広がっていた。

 なんじゃこら。幻覚か?

 そう思えるほどに場違いな光景だった。

 と、いつの間にか目の前には扉が出現し、また薄暗い迷宮内部、二層の洞穴の光景に戻ってしまった。慌てて扉に触れるとまた柔らかく淡い光を放ち扉は消え、目の前に草原が広がった。扉が消えるより前に一歩踏み出せばきっと柔らかい草を踏みしめる感触を確認できるだろう。こころなしか草の匂いもするようだ。上を見るが天井はわからないほど遠くにあった。天井全体から日光が降り注いでいると思わせる感じだ。

 丁度大きな井戸の底にでもいて、蓋となっている天井部や壁の上部から光が発されているような感じを受ける。尤も、この井戸は直径ン百mとかkmのオーダーな感じだけど。

 そうこうしているうちにまた扉が現れ、目の前の扉を除けば現実的で見慣れた二層の洞穴に引き戻された。ちょっと考えて、ゴムプロテクターのメリケンサックがセットされている手の拳を扉に当ててみた。特に何も起きない。続いて手袋をしていない指先を扉に当てる。すぐさま先ほどのように柔らかい光を発した扉は消え、また目の前に幻想的とも言える光景が広がった。

 ふぅむ、直に触れることがキーになっているのだろうか。

 問題はあれだよな。この先に踏み込んで、戻って来れるのか、ということだ。

 戻れればこの先を探索してもいいが、戻れないのであればきっと死ぬだけだろう。

 と、その時、前方を何かが飛ぶのが見えた?

 鑑定する間もなく視界に映らなくなったので正体は不明だが、なんらかの生き物がいるらしいことが判明した。また扉が現れた。

 二層の地図を取り出して見当をつける。あれだけのまとまった面積がまるまる入りそうな未踏破エリアはひとつしかない。

 しかし、よく考えろ。

 初代ジョージ・ロンベルト一世は二層で妖精に会い、その後も冒険を続けた。

 少なくとも彼は戻ってきた。

 いや、俺みたいにこの扉を開けただけで中には踏み込まなかったのかもしれないけどさ。

 声を掛けて呼んでみようか。

 気づいて向こうから近寄ってくるかもしれない。

 又は警戒させてしまうかもしれない。

 まぁ警戒するだろうな。

 もう一度扉に触れ、妖精郷を見てみる。

 妖精がここに住んでいるということは食料はあるのか。

 草木が生えているくらいだから水もあるんだろう。

 雨でも降るのだろうか。

 疑問は尽きないが解るわけもなし。

 虎穴に入らずんば虎子を得ず。

 びびっても仕方ない。行ってみるか。

 最悪扉のあるあたりの傍の壁を何とかして掘れば通路に戻れるだろ。

 また現れた扉の前で深呼吸をして覚悟を決める。

 あ、その前に実験してみようか。

 扉に触れ、目の前に広がる妖精郷に迷宮内に転がっていた石を投げ入れてみる。

 とすっと軽い音がして石は草に隠れて見えなくなった。

 ついでに扉が出現するあたりに石を置く。

 再び扉が現れたとき、この石はどうなるんだろうか?

 興味津々で石を観察していた。

 扉が現れると同時に石はどういう理屈かは知らないがはじかれた様にこちら側へ移動した。

 もう一度扉に触れ、妖精郷を見てみる。

 ええい、ままよ。

 初代ジョージ・ロンベルト一世も戻ってきたんだ。

 俺だけがダメなんてこともあるまい。



・・・・・・・・・



 妖精郷に足を踏み入れ、恐る恐る振り返る。妖精郷の壁に大穴が開いているかのように二層の洞穴が見える。そろそろ扉が現れる頃だろう。……あれ? 穴が開いたまま扉らしきものはいつまで経っても現れない。戻ってみようか。俺が二層の洞穴に戻るとすぐに扉が現れ妖精郷との間に立ちはだかった。もう一度扉に触れるとまた妖精郷が目の前に広がる。

 うん。大丈夫そうだ。安心して妖精郷へと侵入した。妖精郷は目算で直径1kmくらいの円形をしている感じだ。多分中心部だろうか、それなりの高さ(5mくらいだろうか)の樹が一本見える。取り敢えずあの木を目指してみよう。

 数分歩いて、だいたいの地形がわかった。多分中心部は池だ。その真ん中に小島のような部分があり、あの背の高い樹はそこに生えている。遠目に池を見つけると同時に妖精も目に入ってきた。

【ロミー・パックス/15/3/7327 】
【男性/15/3/7327・妖精族・バルドゥック】
【状態:良好】
【年齢:116歳】
【レベル:3】
【HP:28(28) MP:65(65) 】
【筋力:1】
【俊敏:30】
【器用:24】
【耐久:1】
【特殊技能:命名】
【特殊技能:妖精の目】
【特殊技能:地魔法(Lv.5)】
【特殊技能:水魔法(Lv.6)】
【特殊技能:火魔法(Lv.3)】
【特殊技能:風魔法(Lv.4)】
【特殊技能:無魔法(Lv.6)】
【経験:8652(10000)】

 身長はおよそ30cm、背中に蜉蝣のような薄い昆虫の羽を生やした、正に妖精と以外呼べないような、こんな奴らが何十匹(?)と池の上を舞っていた。

 
ちなみに、池じゃなくてタイトル通り泉です。
+注意+
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