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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第五十九話 従業員

7443年12月15日

 毎月15日は騎士団の鎧のメンテナンスの日だ。今まで見た一番大きな傷は盾への切り傷だ。カイトシールドもバックラーシールドも通常の一枚板のような形状ではなく、盾の重心部を外周部より10cm程高い頂点とした軽いすい状に製造しているのだが、どうしても外周部に切りつけられると弱い。まぁ木の板よりはマシなのでそう文句を言われることもないが、鎧製造担当のエンベルトが鍛冶担当のアルノルトに盾用の縁金ふちがねを作らせて普通の盾のように外周部の強化をしてはいる。

 だが、訓練なら木剣を使うので大きな傷なんかそうそう出来ないが、実戦はさすがに異なる。国境の紛争から帰ってきた騎士の使っていたカイトシールドには大きな傷がつけられていた。盾の上部から斬り付けられた様で、10cmくらいの切れ込みが出来ていた。こんなの元通りになんか直せない。見た目だけ元通りにする事は出来るけど、どうしても修繕した部分は弱くなってしまうし、そもそも俺は縁金の修理はできない。

 正直に「こんな大きな損傷は見た目を直す程度しか出来ないし、縁金は騎士団専属の鍛冶屋で新しく作って貰うしかない」としか言えなかった。残念そうな顔をする彼には悪いが、これは予め想定出来たことなので最初から言っておいたのが良かった。大きなトラブルには発展せず、他に持ち込まれた鎧や盾に出来た表面の傷だけ修繕して騎士団を後にした。

 なお、騎士団を出るときに、俺の都合で申し訳ないが、さ来月あたりから修理の日をずらす可能性があることも言っておいた。ただ、同時に来年の春あたりを目処にグリード商会の本拠をベール通りの中程に開き、以降はそこでいつでも修理を受けられるようにすると言ったら喜んでいた。ちゃんとした道具や専用の人員も配置し、本格的な補修も行えるようになるので俺としても修繕から手が離れるのは助かる。



・・・・・・・・・



 その後、先日購入したグリード商会の本拠へと足を向け、様子を見に行った。雑貨屋としての営業を続けているが、来年三月一杯までに売り切る必要があるので在庫一掃セールを提案し、やらせている。勿論、新しく入居する予定の従士一家が使えるような鍋だの一式は別に確保済みだ。店に入った俺を見てヨトゥーレンが深々と頭を下げて言った。

「グリード様、本当に助かりました。有難うございます」

「ああ、もう気にしないでください。俺は普通に購入しただけだし、これから先、必ず人は雇わなきゃならなかったんだから。それより、売れ行きはどうです?」

「おかげさまでかなり売れています。この分なら三月までには全部掃けそうです」

「そりゃ良かったですね。あと、看板のほうはどうなりました?」

「はい、木工所に聞いてみました。多分問題なく作れるだろうとのことです」

 先々週、彼女に看板を発注出来そうな看板屋を探しておけと言っておいたのだ。

「そうですか、で、幾らです?」

「30万Z(銀貨30枚)は見て欲しいそうです」

 ま、そんなもんかな。

「ふうん。わかりました。俺は月末にまた来るんで、その木工所に販売証明を用意しておいてくれと伝えといてください。金はその時払いますので」

「はい、わかりました」

「あとは……ああ、家ですね。前にも言いましたけど急ぐ必要はないけど借りる算段がついたら言ってください。商会の寮として借りるんで」

 ヨトゥーレンの一家は主人であった旦那を今年の春に流行り病で亡くし、白免状であった商会も相続できず、在庫処分のみを許されたに過ぎなかった。九歳と七歳の二人の娘と、四歳の息子を抱えて金に困っていた。年末である今月早々に自由民の税金である300万Z(金貨3枚)が必要だったのだが、そこまでの蓄えはなかった。家を売り払い、金を作ろうにもかなりいい場所であるからそうそう買い手はつかない。俺みたいにどうしてもこの場所に拘る奴なんてそうはいない。ちょっと通りを一本外れれば相場は大分落ちるし、買い手も借り手もそっちのほうが安いから大通りに未練がなければ安いほうで済ませる。

 仕方なくギレアン商会に仲介を頼んだが、仲介手数料も後払いだったのだ。オースでは先払いが商売の基本だから、ギレアン商会はあれで結構良心的なのだ。仲介手数料に加えて自由民の税金分までギレアン商会に借金をしていたのでギレアン商会の犬人族ドッグワーはヨトゥーレンに対してあれだけ高圧的だったのだろう。

 大体の事情はログフラット準男爵に聞いていたので場所と外観さえ問題がなければ最初からさっさと購入するつもりだった。一般的に不動産売買の仲介手数料は約定代金の二割だ。値切ったらその分ヨトゥーレンの取り分が減る。毎年、上の二人の娘の分も併せて金貨3枚の税金を払わなければならないし、もうしばらくしたら一番下の男の子の税金も必要になる。そうなると毎年金貨4枚だ。商売を続けられるのなら何とかなるだろうが、白免状だとそうはいかない。家を処分した金を使って免状を申請し直してもいいだろうが、認可に時間はかかるだろうし、店自体が無くなっているので商売の規模は大分落ちるだろう。

 遅かれ早かれ生活が立ち行かなくなることは目に見えている。

「本当にありがとうございます。あのままでは身売りせざるを得ませんでした。グリード様には私だけでなく娘二人も雇っていただき、感謝に堪えません」

 母親のヨトゥーレンは月20万Z、娘二人は月9万Zと7万Zで雇った。合計して年間432万Zだ。年間300万Zの税金を払ってもまぁなんとかやっていけるだろう。ロンベルティアで暮らしていくには給料だけだと親子四人、かなりつましい生活になるだろうが、一応3000万Z以上の財産もあるから当面生活に困ることはないだろうよ。

 俺は彼女にひらひらと手を振りながら、

「本当に気にしないでいいですよ。こっちも商会の本拠を探していたところだし、店番や作業場の掃除の人を雇うことは必要だったんだから」

 そう言って今や俺の物になった商会本拠を後にした。バークッドから来る従士の一家だと店先で愛想を振りまくのは難しいだろうし、ようやっと慣れた頃には他の従士一家と交代しちゃうだろう。それに、あくまで従士の一家はバークッドの軍人なのだ。きちんと稽古する時間を確保してやる必要もある。商会の専属の従業員を雇うことは最初から勘定に入っていた。



・・・・・・・・・



7443年12月24日

 今日は土曜日。午前中の連携訓練の後、昼食の時に全員にタオルをプレゼントした。オースでは薄っぺらい手拭みたいな布をタオル代わりに使っているのが普通だ。毛を立たせたタオルなんて超高級品だから全員喜んでくれた。特にズールーとエンゲラは嬉しそうだった。鄙びた田舎の温泉旅館で使われているような大したことのない大きさのタオルだが、吸水性は手拭と比較にならない。

 高温のお湯に漬け込んで乾燥させれば常に清潔なタオルが使えるのはいい事だ。俺は乾燥の魔術があるのでタオルの必要性はさほど感じていなかったが、風魔法や火魔法が使えない人は乾燥の魔術が使えないから厚手の布で拭いていたらしい。

 ちなみに転生者は全員クリスマスプレゼントを用意していた。ラルファは相変わらず全員に靴下を贈っていたし、ベルは肌着になるようなシャツだった。俺も含めたこの三人は相変わらず実用品ばかりだな。グィネは女性には髪飾りを、男性にはミサンガみたいな腕につける装飾品を贈っていた。トリスは「贈り物は消えものがいい」と言ってちょっと高級なお菓子を配っていた。



・・・・・・・・・



7443年12月26日

 迷宮から帰ってくると兄貴達がボイル亭にいた。食事をしながら商会の本拠を確保したことを報告すると、明日騎士団への納品のついでに早速見たいと言っていた。まぁ去年と同じく、明日から10日間は年末年始の休暇にするつもりだし、俺も時間はたっぷりある。今回は王都に詳しいグィネもいるので皆王都に繰り出すのかと思っていたら、そうではないらしい。バルドゥックでゆっくりと過ごすとのことだ。だが、俺の商会の本拠を購入した話が出たので、野次馬根性で見には行くそうだ。



・・・・・・・・・



7443年12月27日

 グィネから買った馬車とバークッドの馬車の合計三台の馬車で朝から王都に向かった。いつも通り、つつがなく納品を済ませ、次回の注文を受けたあと、グリード商会の本拠へと移動した。ヨトゥーレンの事は既に兄貴達に説明済みだ。いきなり、軍馬二頭と三台の馬車で乗り付けた俺たちに驚いて掃除をしていたヨトゥーレンの娘達は目を丸くしていた。俺は馬から降り、彼女たちに母ちゃんは居るかと訪ねた。

「作業場の掃除に行くところなので奥で着替えています」

 と長女のアンナが答えた。ふうん、なら丁度良いな。

「そうか、なら後で作業場にも行くからちょっと待ってて貰ってくれ。一緒に行こう」

 俺がそう言うと、

「馬車に乗せてくれるの?」

 と次女のハンナが頭の上の猫耳をぴこぴこさせながら喜んでいた。

「ああ、いいよ」

 そう言ってハンナに笑いかけた。姉のアンナは残念そうだ。彼女は店番の当番なんだろうな。ま、もうすぐここと作業場の往復や修繕の終わったゴム製品の配送なんかで嫌でも馬車には何回も乗るだろうから今は勘弁な。

 俺は待たせていた兄貴達に振り向き、

「ここが今月買ったばかりの本拠だよ」

 自慢げに胸を反らして言った。

「いい場所を見つけたな」

 そう言って兄貴は笑った。
 グィネは驚いたようにラルファに話しかけている。

「ここ。ベール通りって言って、店やるにはいい場所だよ。多分すっごく高い」

 それを聞いたラルファは顔を上げて店の外観をもう一回見直していた。口開いてるぞ。
 ベルは、

「へぇ、素敵な店になりそう」

 と言ってエンゲラと顔を見合わせている。

 そうやって店の前でガヤガヤとしているうちに着替えを済ませたのだろうヨトゥーレンが出てきた。彼女を皆に紹介し、挨拶をさせると店の中や二階を、兄貴をはじめとするバークッドの一行に見せた。満足そうに頷く兄貴は、

「次回……春の納品の時には従士の一家も連れて来るからな。一応候補者は考えてきたんだ。最初だし、それなりに腕も良くないとだめだろう。リョーグだろうな」

 ダイアンか。彼女なら全属性の魔法も使えるし、何年もゴム製造に携わっている。いい人選だ。

「ああ、いいんじゃないかな。彼女なら腕に文句はつけようがないし、若いうちに王都で過ごす経験も今後の役にたつだろうし……ロズラルとウェンディー、エンバー、ルミス、ダイアンってあれ? ソニアは?」

 ロズラルとウェンディーはダイアンの両親で、リョーグ家の家督はロズラルが持っている。エンバーとルミスはロズラルの両親だ。ダイアンの妹のソニアはミュンの後を継いで家でメイドをしている。

「流石にソニアは無理だ。だからそのロズラルとウェンディー、ダイアンの三人だな。二年ごとに交代させるから」

 まぁそうだろうね。

「三人なら問題なく暮らせると思うよ」

 じゃあそろそろ作業場に向かうとしよう。

 また全員で作業場に向かう。ヨトゥーレンとはしゃぐハンナも馬車に乗せ、俺と兄貴は馬を寄り添わせて話し合いを続けながら向かった。

 王都で暮らす間、従士達はそろってグリード商会の従業員として登録する必要がある。税金対策なんだけどね。決めておかなきゃならないことは結構あるんだ。



・・・・・・・・・



 作業場は見違える程綺麗になりつつあった。勿論掃除は継続しているので全部は終わっていない。だが、今月の頭に見た埃まみれの薄汚なかった内部は結構様変わりしていた。俺は本気で驚いて、

「いやぁ、見違えたなぁ」

 そう言ってハンナを見た。

「うん! 頑張ってお掃除してるの!」

 仕事を誇るかのように自慢げに言うハンナだが、七歳の女の子があの状態の掃除をするのに大した戦力になっているとは思えない。殆どお前の母ちゃんの手柄だろうがよ。別にいいけど。ハンナも手伝っていることは確かなのだから、子供らしい自慢も可愛いもんだ。

「そうか。よく頑張ってるな。えらいな」

 トリスがそう言いながら馬車からハンナを抱き上げて下に降ろしてやっていた。

 ヨトゥーレンの案内で作業場を見て回った兄貴や従士達は水回りのチェックをして問題ないと判断していた。

「うん、これなら修繕も問題なくできそうだな」
「そうですね。材料さえあればここで作ることすらできそうです」
「広さも充分だし、川がすぐ傍にあることもいいですね」
「古いから結構汚れているけど、建物自体もしっかりしていますね」
「俺も王都に住んでみたい」
「ファーン様にお願いしろよ。だけどお前、不器用だからゴムの作業苦手じゃんか」

 兄貴も含めガヤガヤと喋っている。ヨトゥーレンとハンナは掃除に入るようだ。

 ひとしきり見て、作業場を後にする。晩飯にはちょっと早いので、兄貴達は先に宿に入った。その間にヨトゥーレンに言いつけておいた木工所の販売証明を元に、俺は看板の代金を払いに行った。今日は皆で晩飯を食ったら俺たちはバルドゥックに戻る。


  
 ヨトゥーレンさんが出てきたのでちょっと自由民について解説します。

 自由民は奴隷とは明確に異なりますが、ある意味で自治領主の資産とも言えるので、実態は領主の奴隷のようなものです。納税の義務が有り、最低限の人権も有ります(奴隷には人権はありません)。貴族階級への服従の義務が有り、自治領である大貴族領外への転居、移動の自由はありませんが、商会の従業員であれば二号以上の商会長と帯同しての移動は可能です。職業選択の自由はほぼありません(例:農地の所有が許されないので農業はできない)。基本的に商業に携わる人が多いです。一部の例外事項により騎士団に所属し、軍務に服することのできる領地もあります。領地によって扱いが結構変わります。

 大抵の場合、自由民の税金は6歳以上から50歳まで人頭税という名目で年間100万Z(金貨1枚)です。6歳というのはつたないながら労働ができる年齢とされているからです。また、51歳以上の自由民はそれまでに収めた税金も充分であると判断され、人頭税は免除されます。従って、人頭税のこともあるので自由民で子沢山というのはあまり多くはありません。大抵は2~3人の子供をつくるくらいです。あまり多いと子供達が十分に成長するまでは人頭税に苦しみますし、いなかったり少なかったりだと老後が辛すぎるからです。基本的には都市部に多くいます。バークッドの治癒師は既に税が免除される年齢になりましたし、狩人は例外ですね。普通は田舎だと現金収入の道がほぼないので自由民がいる村とか町は多くはありません。一章の舞台であるウェブドス侯爵領なんかだとドーリットの街クラスで二家族くらい、村なんかだとバークッド以外には殆どいないでしょう。キールにはたくさんいます。

 人頭税は絶対で、払えない場合、財産を処分してでも払わなければなりません。いかなる理由でも期間的な延長は認められません。処分できるほどの財産を持っていない場合は当然ですが、処分が間に合わない場合でも、行政府が強制的に肉体を買い上げます。価格は年齢や性別によって左右されることはありません。必ず金貨2枚と決まっています。一枚は税金の分で一枚は滞納の罰金です。そして、ちょっと特殊な奴隷となります。最低一年間は通常の奴隷のように売買の対象になることはなく、従って身請けもありません。

 再び自由民に返り咲くには金貨3枚の上納金を収めて自分を買い戻す必要があります。ただし、所有者は行政府であり、同時に絶対返済可能なように一~五年間くらい(領地や地域によって変わるでしょう)で金貨3枚くらいは稼げるような仕事を与えます。普通は何らかの商売に携わっているケースが多いので、そのまま商売を続けることが多いです。しかし、利益は全て行政府のものとなります。商売が上手くゆかず、身上を潰したような場合(大抵の場合はこれが原因でしょうが)には、普請の人足や軍の下働きとなります。農業に従事した経験はないはずなので農奴としてこき使われるケースは少ないでしょう。

 奴隷の期間は当然他の奴隷と同じ扱いを受けますし、権利なども奴隷と同等に制限されます。人権も剥奪されるのでかなり大変です。簡単に言うと殺しても犯人が自由民以上であれば殺人罪には問われません。器物損壊の罪となります。強姦の対象になっても強姦罪自体成立しません。なにしろ人ではなく、奴隷ですから。但し、いずれの場合でも奴隷が犯人であった場合には犯罪に見合った罪が適用されます。因みに奴隷だからと言って強姦をすると強姦罪は適用されませんが、器物損壊の罪にはなります。自分が所有している奴隷相手なら何の罪もありません。軽蔑はされるでしょうが。

 金貨3枚の労働に耐えられなかったり、休みが多いなど特殊な事情で1年以内に見切りをつけられた場合、初めて真の奴隷として売買の対象となります。今回のケースだと母親は大丈夫でしょうが、子供たちは高確率で本当の奴隷になってしまうことでしょう。ですが財産の没収まではされませんので家が売れれば一時的に奴隷になったとしても戻ることはできそうです。
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