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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第五十八話 グリード商会本拠

7443年12月1日

 奴隷以外の五人に今月の給料を支払い、いつものように迷宮へと向かう。その途中で、今後の話をし始めた。

「そろそろ五層の突破も見えてきたから、今後……そうだなぁ、あと二ヶ月後くらいから、今みたいに迷宮内で一泊ってわけには行かなくなると思うけど、どうしようかね?」

 ゼノムにそう話しかけると、

「確かにそうだな……三層の最後まで朝から夕方まで掛かるし……やはりそこで一泊はしないときつい。四層五層もこれからどんなに慣れてもやはり一日は使いそうだ。そろそろ俺達も他のパーティーのように一週間は迷宮に篭ることを考えたほうが良いかも知れんな」

 俺の顔を見上げて答えてくれた。
 他の皆は特に何も言わなかったが、嫌そうな気持ちをしているのは解る。何しろ、今は一週間六日のうち四日は迷宮、一日完全休日、半日休日という勤務体系(?)なのだ。つまり月間で完全休日は五日、五日は半ドン、というわけだ。こうなると一週間を基準とした勤務ではなく、一ヶ月を基準に変えたほうがいいかも知れない。

 例えば、十日ごとに分けるのもいいだろう。一日から六日までは迷宮、七日八日は二連休を取り、しっかりと休む。九日は迷宮に行くが、これは探索ではなく、連携の訓練に費やしたい。しかしながら、訓練の密度を考えると今まで通り町外れの空き地でやるほうが効率はいいだろう。そして十日は休み。こうすれば今まで月間の勤務は22.5日だったのが21日に減る。但し、迷宮深部にいる時間は今までと比較にならないほど長くなるので総合的な稼ぎには影響はしないかむしろ増えるのではないか。

 問題はいきなり一週間も迷宮内で過ごすことになるのでぶっちゃけた話、拘束時間は今までより増えてしまう。ベッドの上で気持ちよく休める日が少なくなると言い換えてもいい。宿泊していない間の宿の代金だってしっかりと取られるはずだ。まぁ、まるまる一週間、宿を高価なロッカーとして使う事になるが、皆もそれなりに蓄財が進んでいる。居ない間の宿については一部屋にまとめ、あとは引き払ってもいいが、その間に誰かに部屋を取られても気分が悪いだろう。

 もし希望するなら、二号の商会特権でバルドゥックとロンベルティアの行政府に有料のロッカーを作って貰うということも可能だ。宿代並の代金を取られるが、銀貨以上に財産を纏めればそう大して嵩張るわけでもないから確実に財産を保全するのであれば選択肢に入る。尤も、これは各地の二号の商会が王都近辺に商売に出向いてきた場合の数日間の財産保全制度だから、長期に亘って利用する人はあまりいない。だから一日で5000Z(銅貨50枚)もの高額な保全費用を要求してくる。

 60cm立方程度のロッカーだが、銀貨だけでも相当入れられるし、金貨にしたら街どころか小さな領地を丸ごと買ってお釣りが来るくらいの量は入る。数百億Zくらいは楽勝で入れられるだろう。預けるときに中に入れる品物や金額のリストを職員立会の下で作成し、ステータスも確認してもらう。当然二号の商会の免状も必要になるから貴族といえど二号以上の商会を持っていない人間は利用できない。

 あとは確実な財産保全として神社に預かってもらうという手もある。実はバルドゥックの神社に俺はこの行政府と似たロッカーをひとつ借りている。鎧の商売や迷宮で得た財産を換金して溜め込んでいる。一ヶ月で30万Z(銀貨30枚)もの大金がかかるがまず安心して預けっ放しに出来るのは俺にとって心強い。手元に置いているのは精々一千万Z(金貨十枚)程度しかない。

 因みに、今預けているのは金貨で370枚、三億七千万Zを少し超えるくらいだ。金貨は直径6cm強、厚さ3mm強の大きさなので500枚程度であれば靴袋くらいの小さな袋に入ってしまう。白金貨はもう一回り大きいそうだが、実物は見たことがないので知らない。金貨ですらそこそこの大店以上でしか使えないし、今はロッカー一つでも充分にでかいから全く困っていない。

 少し脇道に逸れてしまったが、彼らの宿代まで心配するのはやり過ぎか。充分に給料は払っているし、それをどう使おうと彼らの自由だしな。

「……ん……そうだな。五層の地図が八割方出来るまでは今のままでいいや。六層に行くときにはやり方を変えるしかないから、何度か六層を見てから考えるよ」

 それでもいきなり一週間を迷宮内で過ごすというのも考えものだ。少しづつ増やしていった方がいいだろう。何日間も連続して緊張を強いられる精神を慣らしていく必要もあるしな。



・・・・・・・・・



7443年12月2日

 昨日の朝から今日の夕方近くまで潜っていた迷宮から出て、晩飯の前に着替えようと宿に戻ると連絡が入っていた。ログフラット準男爵からだ。いい物件に空きが出そうな感じらしい。早速明日ロンベルティアに行ってみよう。都合のいいことに水曜だし。一日休みだからロンベルティアまで往復しても商会の本拠を見たり交渉したりする時間は十分にあるだろう。



・・・・・・・・・



7443年12月3日

 朝食を摂ってからすぐに軍馬に跨り、ロンベルティアまで赴いた。念のため五千万Zの現金も用意した。少し多めだが、最悪金で横面をはたいてでも商会の本拠を手に入れる算段をつけておきたかった。

 「エメラルド公爵クラブ迎賓館」まで行き、俺の名を告げてログフラット準男爵を呼び出してもらう。準男爵はすぐに出てきてくれた。

「準男爵、お知らせ頂きありがとうございます。早速ですが、現地を見てみたいのですが……」

「ええ、いいですよ、行きましょうか」

 軍馬を「エメラルド公爵クラブ迎賓館」で預かって貰い、馬車でまず準男爵が紹介してくれるという不動産屋まで世間話をしながら行った。以前俺が頼んでいたタキシス商会と同じくらいの規模の不動産屋で、名前をギレアン商会と言うらしい。その後商会の人も同行して目的地まで移動した。ベール通りの中程にある雑貨屋のようだ。

 ぱっと見で気に入った。大きさも手頃だ。一階は店舗になっており、二階が居住スペースのようだ。陳列棚やある程度の在庫を置けるスペースもあるようだし、十分だろう。

「ここ、いいですね。気に入りました。買取だとどのくらいの価格ですか? また、いつくらいから入れそうですか?」

 そうギレアン商会の人に聞いてみた。犬人族ドッグワーの商会員は、

「買取ですと、そうですね……。聞いている話だと、作業場も必要とのことですが、そちらも一緒に当商会を通していただけるのなら3800万Zで如何でしょう? それと、入居はすぐにでも出来ますよ。今の奴らを追い出せばいいんで」

 と言って来た。高ぇ。相場だと3000万Zは無理だろうが、3500万Zはしないだろう。

「ぐむ……3800万か……。因みに賃借だとどのくらいですか?」

「賃借ですと月に25万Zは欲しいですね。なんたって、場所がいいですし人通りも絶えません。第四騎士団の出張所も一街区(ブロック)先にありますから、治安も上々ですよ」

 うーむ、微妙なところだよな。15~16年くらいでペイか。だが、今決めておけば来年の春にはバークッドから誰か寄越してくれるのは確実だ。そもそも多少多めでも大丈夫なように、と資金を用意してあるのだ。場所もかなり良い所だし、まぁいいか。

「うーん、解りました、購入にします。ですが、中や造りは見せて下さいよ。また、後ほどで結構ですので作業場も候補をいくつか見たいですね」

 俺がそう言うと商会員は涎を垂らさんばかりに嬉しそうな顔をした。犬だけに。見えないが尻尾も振っているかも知れない。

「勿論ですよ。すぐにでもご覧に入れられます。どうぞ、こちらへ」

 そう言って俺を建物内へと誘った。彼の後に付いて店に入っていく。鍋釜や箒、ちょっとした小物などが所狭しと並べられているが、ホコリを被っているものなんか一つもないくらいに掃除が行き届いている。これで、あまり流行っていなかったんだろうか。当然流行っていたら手放すなんてことになるはずもないのだから当たり前か。

 店の奥には30歳前後の猫人族キャットピープルの女とまだ十歳にも満たないくらいの子供が何人かいた。俺が会釈をすると弱々しく笑みを返してきたが、

「おい、ヨトゥーレン、買い手が決まりそうだ。こちらのグリード様だ。建物を見たいと仰られているからご覧に入れるんだ」

 と商会員が高圧的に言っている。まぁ俺には関係ないし、もし家賃でも滞納していたのなら被害者は商会の方だ。また、単に経営が苦しくてギレアン商会に借金でもあるのかも知れない。なんとなく気の毒な感じがしないでもないが彼らの事情なんか俺にはどうでもいい。俺はずかずかと店の中を歩き回って柱を叩いたり、壁を叩いたりしていた。

 おどおどしているヨトゥーレンと呼ばれたキャットピープルの女にほほ笑みかけながら、

「上も見たいんだけど、いいかな?」

 と聞くと頷いたので、遠慮はいらないのだろう。幅の狭い階段を登り、二階に足を踏み入れた。見た感じ、二階は普通の住居のようだ。一部屋一部屋見て回り、特に問題のないことを確認する。一階から貫通している大黒柱を叩き、梁から落ちてきた埃に顔をしかめながら、再び一階に戻った。

 ドッグワーの商会員は揉み手をしながら俺を迎え、

「如何でしょうか?」

 と言って来た。

「ん、まぁいいかな」

 と返事すると、商会員はすかさずヨトゥーレンに声を張り上げた。

「おい、明日の朝までにここから出て失せろ、たった今話は付いたからな!」

 と言うので、

「ああ、それなんだけど。来年の三月いっぱいまであんたらが使ってくれて問題ないよ。但し、そんときはそれまでの家賃がわりに掃除くらいして行ってくれ」

 とだけ言って、商会員に対しては、

「すぐに現金で払おう。あと、作業場の方も見せてくれ」

 と言ってさっさと店を出た。なぜか不満そうな商会員とにやにやと笑う準男爵と一緒にまた馬車に乗った。家はさ、誰か住んでないと傷みが早いんだってよ。転生前に親父が言ってた。俺はそれを信じているだけのことだ。六ヶ所あった作業場の候補を順に巡る。全てをしっかりと見たが、その中で比較的広く、水の便も良く、俺のお眼鏡にかなったのは一箇所だけだった。しかしながら、手入れがされておらず、床や放棄された棚は地層のようになったホコリで固まっているほどだった。

 まぁ、手入れをし直せば使えるだろう。ここを購入することにした。こちらは思い切り値切って480万Zだった。

 合計で4280万Zを支払い、売買証明にサインし、権利書の作成をしてもらうあいだ、準男爵とお茶を飲みながらギレアン商会の片隅でくつろいでいた。

「準男爵、本日はお忙しいのにお付き合いいただきまして、誠にありがとうございます」

 そう言って丁寧に頭を下げた。

「いえいえ、我が商会に『鞘』を卸して頂いている大切なお取引先様の更なる門出の場所決めに立ち会えるのですからね。当然ですよ。それに、このギレアン商会をご紹介した手前もありますし……」

 準男爵は、何でもないことだとでも言うように手を振りながら笑ってくれた。

「そう言えば、『鞘』の評判は如何ですか? あれは私共も自信を持ってお薦め出来る逸品でして、品質には自信があるのですが」

 俺がそう言うと準男爵は膝を打って身を乗り出してきた。

「そうそう、あの『鞘』ですが、評判はすこぶる付きですね。お陰さまであれ以来我商会の売上は右肩上がりです。今月は昨年比で五割増しにまでなっており、てんてこ舞いですよ。流石に忙しすぎましてな、番頭とも相談したのですが節を曲げて奴隷の導入を図ろうと考えているんです」

 そう言って破顔した。ああ、そう言えば奴隷を使っていないことも売りだったんだよな。

「それはようございました。私共もお役に立てたようで何よりです」

 俺も微笑みながら返す。

「いえ、どう考えても『鞘』のお陰です。先日番頭と相談した時に彼も言っていましたし、従業員たちに意見を聞いてみた時にも声を揃えて皆が言っておりました。『鞘』を導入する前と後、サービスの内容について特に変更は無いのです。と、なるとこの売上の変化は『鞘』が原因であるとしか考えられません。我が商会一同、本当にバークッドには足を向けて寝られませんよ」

 ま、多少なりとも想像していた通りだ。正直な話、俺も豚の腸とやらがどんなものか試すために王都の娼館に行ってみたんだ。流石に知らないまま売り続けるのは厳しいと思ったからね。

 そして、愕然とした。知ってるかい? 日本人のあんたは知らないだろうな。豚の腸は厚さ自体も微妙だが、それ以前に結構硬いんだよ。あんなもん、昔東南アジア出張の時に使った現地産の品質の悪いコンドームと比べてもカス以下だ。って、兄貴のコンドームも東南アジアのコンドーム以下であることは確かだが、それでも豚の腸とは月とスッポンなのは間違いない。あんなんでまともに出来る奴の神経を疑うわ。

 あ、そういや兄貴も使ってたんだっけ? まぁいいや。

「いえいえ、お喜びいただけているようで私も嬉しいですよ」

「ご謙遜を……それに、あの包装。王家の紋が入っているではありませんか。あれもお客様方の驚きのポイントに、信用のポイントになっておりますよ」

「でしょうね。王室にも直接お入れさせていただいておりますからね。まぁ王家御用達の品です。品質は折り紙つきとお考え下さい」

 俺の言葉を聞いて準男爵もさもありなん、と頷いている。そこにさっきの商会員が書類を用意して戻ってきた。これに俺の血を使った拇印を押して行政府に持っていけば全部終わりだ。作成の終わった書類を受け取った俺と準男爵はギレアン商会を出ると行政府庁舎へと向かった。

 庁舎に書類を提出し、再び「エメラルド公爵クラブ迎賓館」まで戻った。

「どうですか、遊んで行かれませんか?」

 そう準男爵が言ってくれたが、ちょっとこの後ヤボ用があると言って軍馬に跨った。
 正直申し出は有り難く、後ろ髪を引かれる思いだったが、仕方ないさ。



・・・・・・・・・



 再び未来の、いや、やっと手に入ったんだから現在の、と言うべきか。二号商会本拠移転の手続きはまだだから別に未来の、でも間違っちゃいないが、とにかくグリード商会の拠点まで足を運んだ。店の前の杭に軍馬を繋ぎ、敷居をまたいだ。面接をして俺が納得するなら掃除婦を雇うのも悪いことじゃないだろう。

 それにさ、看板だって作らせなきゃいけない。看板屋なんてどこにあるのかね? まぁもし新しく従業員が増えるならそいつの初仕事に看板の注文をやらせたっていいだろうよ。

 
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