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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第五十五話 安心

7443年8月22日

 俺たちはたった今バルドゥックの迷宮の二層から三層へと転移してきたところだ。先ほど二層の転移の水晶棒の部屋で一時間ほど休息し、昼食も済ませたばかりだ。今は夏だし、午前六時少し前から潜っている。時刻はお昼を回ったくらいだ。十二時十五分といったところだろう。早速水晶棒の番号を確認する。84番か。若い番号だから来たことはあるだろう。

 グィネに確認すると「確かに来たことがありますね。覚えがあります」と言っている。見た感じ、石造りの通路のど真ん中で、三層の他の場所と見分けは付きそうにない。しかし、彼女の固有技能は微妙な通路の幅の差異や壁や床などの凹凸からでも判断出来るのだろうか。固有技能を使用中の彼女が「来たことがある」と宣言すればそこは過去に来たことがある場所なのだ。今まで一度も間違いはなかった。

 地形に関しては恐ろしい程の記憶能力だ。そしてその記憶を呼び起こし、正確な地図を記載することの出来る能力は、ある意味でものすごい戦力になっている。迷宮各エリアの繋がりや方角こそ彼女には判らないが、少なくとも方角はラルファが正確に判定できる。二人の能力が合わさることで俺達のパーティーはここまで、新しいエリアに来た時のみ罠に注意すれば良いだけになってしまっている。

 今日も既に書き起している地図を参照し、三層の転移の水晶棒の小部屋まではだいたい五時間くらいだろうとアタリをつけ、歩き出した。転移の水晶棒の小部屋までに魔物がいるはずの部屋を五つ通る必要がある。さっさと通り過ぎ、夕方前には三層で休憩場所を確保したい。

 もう殆ど作業と化したように、途中で出会うモンスターの下半身を氷漬けにして撃破していく。ノール程度であれば連携の訓練も兼ねて普通に戦ってみたりもする。部屋に巣食う強敵モンスターは無理せず魔法で一気に殺す。機械的に魔石を採取し、地図を再確認して迷宮の奥へと歩を進める。モンスターを殺す時に余裕があればたまにはベルやラルファにも攻撃のために魔術を使わせて魔物にダメージを与えさせることも忘れてはいけない。

 楽に勝てているし、苦戦することもない。まだ三層で、迷宮内で出会うモンスターも一層や二層で出てきた魔物に、ちょっと種類が増えた程度だからだ。俺は魔法で氷を出し、戦闘(虐殺)の推移を観察し、周囲への警戒を心がけていればいい。正直な話、俺さえ油断しなければ何とでもなる。勿論、迷宮内であからさまに油断するような間抜けな奴は一人もいない。

 予定通り夕方には三層の転移の水晶棒の小部屋にたどり着く。今日は空いているな。俺たちの他にはパーティーが二つ、合計十七人が先客として居るだけだ。彼らは既に顔見知りだ。なし崩しに俺達の定位置となっている部屋の北東の隅に土を出し、表面を均して野営の準備を始める。さっさと休息し、明日の四層に備えるため、全員がてきぱきと動く。

 コンロの魔道具にかけた携帯鍋の中にお湯を入れ、ついでにズールーが運んでいた直径40cm弱の桶にもお湯を入れる。その桶に靴と靴下を脱いだ足を入れ、揉み解す。足揉みはズールーが一級品の上手さだ。エンゲラも悪くはないが、力の加減やつぼへの刺激など、ズールーに勝る奴はいない。足を洗い、十分ほど揉んでもらい、桶のお湯を交換する。全員ズールーのマッサージに蕩けそうになるが、ズールーは重労働だ。

 その間エンゲラはお湯を入れた鍋の中に野菜だとか干し肉だとかを入れ、かき混ぜている。同時にパンを薄く切り、ハムとマヨネーズで簡単なサンドイッチを用意している。足を揉んだあと順に食事をして、最後にズールーとエンゲラも腹いっぱい食べる。空になった桶には土を入れておく。トイレに行きたくなったらこの桶を持って部屋の外の適当なところで用を足して土を被せるのだ。部屋の周囲100mくらいにはモンスターは寄って来ないからあまり遠くへ行かない限りは安心して用を足すことが出来る。

 排泄物は感覚的には一ヶ月弱くらいで迷宮に吸収される。死体も骨や魔石以外は一ヶ月位で分解、吸収される感じだ。革鎧もいいとこ二~三ヶ月くらいだろう。魔法で出して永続的に残る土や水(蒸発はする)、武具などに多く使われている金属類などは誰かが掃除しない限り残り続ける。また、木綿や麻などの衣類もかなり長期にわたって残る。

 木材などは年単位で残るようだが、これは腐る迄の時間が長すぎるのか、迷宮に吸収されているか単に腐り落ちているかの判別は出来そうにない。一層や三層などでは湿気はあまりないので結構原型を留めていることが多いみたいだ。

 この事について、俺はラルファやベルと過去何度も話してきた。トリスやグィネも興味があるようでいろいろ質問されたのだが、ゼノムやズールー、エンゲラは殆ど興味が無いようで、話を振っても「解らない」「知らない」とか挙句の果てには「それを知ったところで何か意味があるのか」と言われる始末だった。多分こっちのほうがオース一般の人の感じ方なのだろう。

 直接自分に関係があることでなければすぐに興味の対象から外れる。まぁ迷宮の中だとそれ以上に気を割かねばならないことは多いし、それらは直接自分の安全や命に関わってくるのだから、無理もない。俺たちも生前、宇宙の神秘に思いを馳せたりもしたにはしたが、それよりも明日の仕事の気がかりなことや、次回の学校のテスト対策などにより大きく興味のウェイトは取られていた。

 冥王星が太陽系の惑星かそうでないかとか新種の深海魚が発見されたとか人生に何の関係もなかった。地球の裏の戦争で何人死んでも、子供が何万人飢えていても出来るのは募金くらいで、それをして自己満足に浸ったら暫くは記憶から消してしまうことさえ平気だった。新しい断熱素材が開発され、家の壁に埋め込めるようになっても自分の財布が許しそうにないのであれば現在の居住環境に満足し、それ以上の情報収集なぞほとんど誰もしていない。新型のカーボンシャフトを採用したよく飛ぶドライバーもそこから応用される他の製品にまで心を砕くこともなく、ゴルフに一定以上の興味のある人でない限り見逃される情報だった。本質的にはそれらと全く同じことだ。

 直近で何か自分の身に関連しないことであれば興味を掻き立てられることはない。「今すぐ自分の身に関係がない」と思った瞬間に好奇心は大幅に減じられる。転生者は教育水準が高いために、減じられる好奇心の幅が小さいだけの話なのだろう。それ以上に俺という大きな戦力があることが彼ら転生者の危機意識を低め、瑣末なことにも興味を持つような余裕につながってしまったのだろうか? この余裕は良いことなのか悪いことなのか、判断しづらい。

 キヴィアックの毛布にくるまりながら目を閉じてこんな取り留めのないことを考えながら眠りに入っていった。しかし、迷宮の転移の水晶の小部屋はどこも一年を通して体感で温度は10度前半だ。夏は暑くなくていいが、毛布が手放せないのは辛い。



・・・・・・・・・



「申し訳ございません、急激な円安なもので……」

 電話の受話器の向こうにいる取引先に詫びながら、隣の机から回ってきた伝票に認印を押す。今週は週明けからこの週末までてんてこ舞いだった。前週の週末にアメリカのなんとかというFRB議長の発言で円安が進行した。当社は扱う商品の半数ほどを海外からの輸入に頼っている。利益を確保し続けるために値上げ交渉が出来る相手にはこういう時に値段を上げておかねばならない。特に食品はFOBで発送されることが殆どだから、乙仲(運送業者)に払う運賃も為替の影響を受けるのだ。

 勿論相手も人の子だ。値上げを切り出されて「はい、そうですか」と唯々諾々とこちらの言い分に従うなどということは有り得ない。あの手この手で納入価格を値切ってくる。時には泣き落しで、時には強気でそれらの交渉を捌いていく必要がある。当社が扱っている輸入食材はどちらかというと高級品が多く、生鮮食料品は少ない。国内仕入れのものだと野菜類などの生鮮食料品もある程度はある。

 国内仕入れの生鮮食料品を適価で販売、供給する代わりに輸入食材の値上げを要求したり、値上げしなければならない輸入食材の価格を国内仕入れの品物から値引きすることもある。相手によって交渉の仕方は千差万別だ。

「すみません。もうこの価格でぎりぎりなんです。代わりに向こう三ヶ月、富山産の京野菜の供給を切らさないようにしますんで、今回はひとつ……」

 あれ? 磯部のおっさんじゃねぇか。なんでいるんだ? もう何年も前に辞めたはずなのに……。

「……ええ、こちらは○×食品の新製品ですよ。添加物もなく、保存の効く瓶詰めです。もちろん原産は全て国内です……」

 こっちは大西だ。こいつもかなり前に辞めたはず……。

 ああ、夢を見ているんだな。この二人が同時期にいたはずはない。久しぶりに前世の夢を見たと思ったら仕事の夢かよ……。どうせなら……。

(…………と………………つ…………た……)

 ?



・・・・・・・・・



7443年8月23日

 ゆすり起こされた。見張りの交代か。長年の習慣でまだ夜半に目を覚ますのは苦痛ではない。思いの外、寝覚めが悪いことに自分で驚いたくらいだ。眠たい目をこすりながら背伸びをする。俺が起きたのを確認したトリスがごそごそと自分の毛布に入っていく。隣ではグィネがラルファを起こしている所だった。二人組、二時間交代で睡眠を取るのだ。メンバーは奴隷の二人が最初の見張りは固定。あとは都度入れ替える。奴隷の二人が固定なのは食事の用意やマッサージなどでそれなりに疲労もするので、彼らだけは纏まった睡眠時間を確保したほうがいいだろうとのことで、他はマンネリを避けるためにローテーションしているだけだ。

 八人になったばかりの頃は一時間交代で一人づつ見張りをしようとしたのだが、人数が少なかった頃ならいざ知らず、話し相手がいる方が見張りも楽だからか、いつの間にやらこうなっていた。

 俺は迷宮の壁を背に、胡座を組んで寄りかかるとぼうっと部屋の中を眺めていた。いつの間にかこの三層の転移の水晶棒の部屋の人口はかなり増えていたようだ。最初は他の冒険者に寝込みを襲われたら、という恐怖心と警戒感でろくに寝れなかったが、もう慣れたもので最近は寝ている時は多少の物音ならやり過ごして寝てしまえるくらいには図太くなってきた。

 こうしている間にも俺たちより早くから休んでいたパーティーのメンバーが早くも荷物を纏め、四層へと挑戦しようとしている。どうせ彼らも自分達の地図に記載されている場所に転移するまで何度となく転移を繰り返すのだろう。

 起きたラルファが水筒にお茶の葉を入れて俺に差し出してくる。お湯をくれというのだろう。俺は水筒に熱いお湯を注いでやる。

「ん、ありがと」

 そう言ってラルファが俺の隣に座り、同じように迷宮の壁に背をあずけた。俺は別に喉は乾いていないのでお茶は必要ない。暫くそうして二人で並んで転移を繰り返す冒険者を眺めていた。

『なんで日本語と英語もかいてあるんだろうね……』

 ラルファがぼそりと言う。

『知らねぇ。過去に俺たちみたいな日本人か、英語を喋る奴が作ったのかも知れないな』

 俺もぼそりと返す。

『何の為に?』

『わかんねぇなぁ……。俺たちの常識なら、ピラミッドみたいに盗掘から何かを守る施設として建設したとしか思えないけどな……』

『だよねぇ、ベルも言ってたけど、デーバス王国にもあるんだよね、迷宮……』

『ああ、何つったっけ? ああ、ベンケリシュだ。そこもこんな感じなのかな?』

『さぁ……少なくともここみたいに一山当てようって人たちが群がってはいるみたいだから、お宝があることは間違いないみたいだけど……』

『他の国にもあるのかね? ここみたいな迷宮ってやつ』

『どうなんだろ? コーラクト王国は百年くらい前に私たちみたいな冒険者が作った国だって言うじゃない? だからあちこちにあるんじゃないかな?』

『だよなぁ。地下迷宮ってさ、昔のゲームなんかだと悪い魔法使いが魔除けを盗んで、篭るために作ったとか、クレタ島のミノタウロスの伝説みたいに何かを閉じ込めるために作ったとか、しょうもないけど何らかの目的があって作られたんだよな。このバルドゥックの迷宮の目的って何だろうな?』

『そうよね。何か目的がなきゃ作らないわよね……でもさ、大きな建物? なら、大抵目的とか作った人のことは伝わってるじゃない? 迷宮はそんなの一切ない。ロンベルト王国より昔からあるらしいから、正確に伝わってるなんてことはないんだろうけど、それでも何にも伝わってないってのはおかしいと思うんだよね』

『確かにな……間違った情報でもいいけど、昔々浦島太郎が建設しましたとか、そういうのすらないってのはおかしいよな』

『何回も調査されたみたいだけど、何にも解ってないんだよねぇ……』

『だよなぁ、第一騎士団の精鋭部隊でも送り込みゃあ別かも知れないけど、死んだりしたら大損害だしな……それでも何か解ればその価値はあるかもってことで過去何度も調査隊を送ったらしいんだってさ。でも皆さ、階層を移動するときにバラバラになっちゃうじゃんか。深い階層に行けば行くほどだんだん人数が減ってきてさ、記録だと七層までは初代国王以降、いくつかの調査隊も行ったんだと。そん時は当時の騎士団の精鋭100人を送り込んで、戻ってきたのは半数だってよ。損害がでかすぎて諦めざるを得なかったんだそうだ。あ、これ、姉ちゃんから秘密で聞いたことだから誰にも言うなよ』

『うん、言わない。だけど、半分も死んじゃったのか……でも半分も残ってるんならなんでもう少し先まで行かなかったんだろうね?』

『さぁな。記録に残ってるのは七層まで到達した調査隊がいたってことで、公開されているのは五層までだからなぁ。六層の様子はロンベルト一世の伝説でしか公開されてないし、どうせ七層なんか調査隊もちょろっと覗いたくらいで帰ってきたんだろうよ。だいたいさ、半分もやられてそれでも先に進むってよほど確信があるか、馬鹿じゃなきゃやんねぇぞ。軍事用語なら四割以上の損失で全滅判定だ。まぁこの時代だと全滅ってわけじゃないだろうけど、それでも大損害には違いないだろ。エリートが一気に半分になったら王国の国軍を纏められる奴が半分になったのと同義だろうからな。その後、戦力の立て直しには相当苦労したんじゃねぇか?』

『そんなことがあったら、よっぽどの事がなきゃもう一回調査しようなんて思わないね……』

『そらそうだ。俺が王様ならそんな無駄なことしたくないし、部下がしたがってもやめさせるだろうな』

『私でもそうするだろうね……』

『ああ、放っておいても俺達みたいな阿呆が勝手に潜って調査してるんだ。結果がわかりゃいいんだろうし、美味しければ強権発動でいいとこ取るだろう』

『だよねぇ』

『お?』

 いつものくだらない、とりとめのない話をぼそぼそと日本語でしていた時だ。俺たちが休息している転移の水晶の小部屋に新たなパーティーが入ってきた。……あれは、ロズウェラというエルフがリーダーをしているパーティーだ。迷宮内で何度か顔を合わせている。相変わらず戦闘奴隷で固めているらしい。俺の知る限りロズウェラ本人を除けば七人の固定メンバーとも言えるそこそこのレベルの戦闘奴隷がいる。残りは結構流動的で、長くても半年位で死んでいるっぽい。

 きびきびと休息の準備を始めたロズウェラのパーティーを二人で眺めていた。俺のように魔力が有り余っているわけではないのでゴツゴツとした硬い石の上で直接休むようだ。ロズウェラだけは毛布を何枚か重ねてその上に横になるようだ。奴隷の一人が背負っていた大きな桶には水が入っているのだろう。桶の蓋を開けて水を汲み、コンロの魔道具でスープを作り始めたようだ。

 でかい桶とは言えど、あれだけの人数だ。そろそろ空に近かったんだろう、奴隷の中で魔法が使える奴が水を出して桶に注いでいる。食事を摂った彼らは三々五々横になり、休息をし始めた。ロズウェラは自分の奴隷に対してあまりにも高圧的に振舞って無茶を言ったり、格別に扱いが悪いということはない。彼は彼でそれなりに奴隷を可愛がっていることは確かだ。最初に聞いた噂話はほとんどやっかみであり、何度か直接会話した時もそれ程変な感じは受けなかった。

 むしろ、トップチームと呼ばれているパーティーの方が変人ぞろいだ。「緑色団ベルデグリ・ブラザーフッド」は確かに稼ぎも凄いが、それを鼻にかけた態度を取る奴が多い。まぁ実力に裏打ちされた態度と思えば腹も立たないのでこれはいい。むしろ彼らには変人がいない。高価な魔法の品(マジックアイテム)の獲得率が一番高く、もう十分に稼いでいるのでそろそろ引退するのではないかと言われている。

 「輝く刃(ブライトブレイド)」は壮年の普人族の男がリーダーだが、いろいろ黒い噂もある。迷宮の通路内で出会ったパーティーに襲い掛かり、身ぐるみ剥いで証拠隠滅の為に皆殺しにするくらいの事をしているという噂だ。正直なところ、何でこんな酷いことを言われるのだろうと不思議に思っていた。だが、全員凶悪な顔つきで、普段の言動も荒っぽい。証拠もないから単なる噂の域を出ないが見た感じで損をしているんだろう。中には本気で恨んでいる奴らもいるらしいが。彼らは「緑色団ベルデグリ・ブラザーフッド」の次に魔法の品(マジックアイテム)の獲得率が高い。

 「煉獄の炎(ゲヘナフレア)」は山人族ドワーフの中年男がリーダーをしている。パーティメンバー九人が全員ドワーフだ。その時点でなんとなく排他的な印象を受ける。迷宮内で直接会ったことは数える程しかないが、俺のパーティーにゼノムがいなかったら話もしなかった、と公言していたのには辟易とした。休息の度に酒盛りをしているらしい。この前会った時にも「酒持ってないか? 余ってるなら買うぞ」という会話がスタートだったのだ。宝石類を良く持ち帰ってくる印象が強い。

 「黒黄玉ブラックトパーズ」とは何度も会っている。お人好しの普人族の女がリーダーだ。お人好しすぎて馬鹿なんじゃないかと思う。いずれそれが祟り、大きな被害を受けるだろうともっぱらの噂だ。お人好しなのと大きな被害を受ける直接の因果関係は知らん。大抵のパーティーから「なんの関係もない連中に先輩面して忠告という名の説教をする奴ら」とウザがられているのを本人だけが知らない。ちなみに、この件についてはパーティーメンバーは知っているようだが、諦められているみたいだ。リーダーが大貴族の娘なのでメンバーの殆どがその貴族に仕えていた従士の子弟らしいので何も言えないのだそうだ。獲得する財宝はいろいろだ。マルチに活躍していると言えば聞こえはいいが、決め手に欠ける感じだ。

 「日光サン・レイ」は変わった連中で、誰がリーダーなのかいまいち良く判らない。迷宮での稼ぎの殆どを神社に喜捨しているとの専らの噂だ。神社に勤めたくても断られた奴らばかりだとも言われている。合計して十五人くらいいるらしいが、ローテーションでもしているのか、迷宮内のメンバーはしょっちゅう入れ替わっている印象だ。こつこつと金塊や銀塊を持ち帰ってくることが多い。

 魔法の品(マジックアイテム)にはとても敵わないが、魔石と迷宮から回収する古臭い装備品だけでトップチームの下位に匹敵する稼ぎを上げている俺たち殺戮者スローターズもそれなりに注目はされている。ゼノムを除けば奴隷も含め若い連中ばかりなのも注目を集める要素になっている。妙ちくりんな形の短槍を使う黒染の金属鎧プレートメールを着た普人族の小僧がリーダーだと知られている。迷宮内以外だと大抵の場合、剣は鞘に入れて腰から下げているので俺が殺戮者スローターズのリーダーだと気づかれないことも多い。

 ロズウェラのパーティーもすぐに寝静まった。今は見張り役の普人族の男が一人起きているだけだ。

『ねぇ、アル』

 またラルファが低い声でぼそりと話しかけてきた。

『うん?』

『魔法ってさ、なんだろうね?』

『え?』

『よくわかんないんだよね。無から有を生み出すじゃない? 魔力で作り出しているって言えば、その通りなんだろうけどさ』

 ロズウェラのパーティーにいた魔術師が水を出しているのをじっと見ていた時に考えたんだろうか? 俺もしょっちゅうやっているし、ベルも良くやるから今更そんなことを気にしているとは思わなかった。

『ああ、それなぁ……俺も昔考えたけど、未だによく解んないままなんだよな……。考えても仕方ないって諦めてた』

『アルはさ、固有技能の魔法習得のおかげで魔力も多いからさ、考えたことあるかなって思うんだけど、魔法も固有技能も魔力を使うじゃない?』

『ああ』

『魔法で固有技能を再現って出来ないのかな?』

『うーん、どうだろ? 例えば、俺が空間把握を使えるようになるってことか?』

『そそ。まぁ全く同じものじゃなくても、似たようなことって出来ないのかな?』

『そりゃどうかねぇ、今んとこ俺達が知っている固有技能って、魔法習得、空間把握、射撃感覚、秤、地形記憶、あとはベルが名前だけ聞いているという、鑑定と予測回避だな。まぁお前は知らないと思うけど、実は後二つ、耐性(毒)ってのと誘惑ってのがある。耐性(毒)ってのはその通り、毒への耐性が付く能力だ。誘惑ってのは同じ種族の異性を虜にできるらしい。使ってるとこ見たことないから正確にはわからないけどさ』

『へぇ、他にはどんなのあるんだろ?』

『そこまでは知らん。だけど、ある程度予測はできる。いま名前が出ているのは、全ていくつか共通点がある。この世界の人、まぁ元の地球人じゃない、オースの人の能力を拡張するものだ』

 ラルファが不思議そうな顔で俺を見た。俺は更に言葉を続けた。

『例えば魔法習得。魔力が大きく成長し、魔法が覚えやすい能力だ。だけど、この能力自体は弱いけど持っている人は多い。お前だってそうだろ? 空間把握にしても、感覚が鋭く、方位がわかる。これは異常みたいだが、体内磁石なんかで能力自体は低いけど誰だってそれなりに備えている。昔から言うだろ、気配を感じるとかさ。射撃感覚だってそうだ。
 俺は自衛隊にいたからよくわかるけど、優れた射撃感覚を持っている人はいるんだ。誰しも多かれ少なかれ感覚的に射撃をするんだからな。秤も鋭い感覚を備えているに過ぎない。鑑定だって、俺の予想だとステータスオープンの拡張みたいな能力なんだろうよ。誘惑だってフェロモンくらい知ってるだろ? あれを異常に強化したものだと考えれば、説明はつく』

 天稟の才だって、本来学習できる内容の効率を最大三倍にまで高めたものなんだろう。一を聞いて十を知るじゃないけど、まさに天才と言ってもいいかも知れない。

『そっか……そう言われればそうね。地形記憶だって私たちも簡単なことなら出来る。勿論比べるのもバカバカしいほど開きはあるけどさ。予測回避もまぁなんとなく想像できるし、耐性(毒)ってのももともと私達に毒の耐性だってほんの少しは備わっているはずよね』

『そうだ。ここまでのことから予測して、固有技能ってのはオースに生きるものが元々持っている能力を物凄く鋭くしたものなんじゃないかと予想している。だけど、本当のところはわかんねぇ。変な例えだけど、目から破壊光線を出す能力があっても驚かんね。そんときは俺の予想が外れてたってだけの話だ』

『まぁ、それはいいよ。どうせ解りゃしないでしょ? でも、それと魔法で再現できないのと関係あるの?』

『直接はない。だけど、特殊技能ってやつがあるだろう? ベルの超聴覚とかほとんどの亜人が持っている赤外線視力インフラビジョン、超嗅覚、夜目ナイトビジョン、瞬発。固有技能云々の前にこういった昔から存在が一般的に知られている特殊技能を魔法で再現されていないことが関係あるんじゃないかなって思ってる。まぁ麻痺とか魔物の持つ能力をある程度再現できないこともないから根拠は薄弱なんだけどさ』

『そっか……』

『それに、もうお前も魔法が使えるようになったからそれなりに解ると思うけど、新しい魔術を作るのってかなり大変なことだと思う。俺だって完全な俺のオリジナルの魔術なんか作ったことないぞ』

『え? だってアルのフレイムスロウワーっていろいろ種類あるじゃん?』

『あれは普通のフレイムスロウワーに魔力を余計に注ぎ込んで威力を上げたり、蛇みたいに整形しているだけだ。俺のオリジナルじゃない。同じようにゴム製品を作るときに使っている魔術も全部元がある。それの改造をしているだけだよ。その証拠に、真っ先に再現されてもおかしくないような特殊技能なんか放って置かれてるだろう?
 肉体の能力を強化するような魔術は一つもない。あるのは僅かに治癒魔術だけだ。これは肉体の治癒能力を強化しているように見えるけど、多分違う。魔法的に肉体の能力を高めているんじゃなくて、魔力で生み出した肉体の材料を無理やり繋げているんだと思う。
 だから怪我の度合いに応じて痛みは残る。病気の治療の魔術も実はないんじゃないかと思っているよ。肉体の持つ能力を強化するような魔術は無いか、あっても今のところ体系だてて他者に説明できない領域なんだろう』

 難しい顔でラルファが聞いている。

『一時的にでも防御力を増加させたり、俊敏に動けたり、ジャンプ力を増したり、力強くなったり、遠くを見通せるようになったり、耳が良くなったりなんて魔術がないのはそのせいだと思う。
 ラルファは地魔法と火魔法が使えるけどさ、それを新しい組み合わせで使って新魔術を作れそうか? 無理だと思うぞ。まぁ全く同じ組合せでもイメージによって効果は異なるから絶対に無理とは言わないけどさ。ラルファの使えるファイアーアローと同じ組み合わせで簡単な治癒もできるだろ? 勿論ストーンアローと同じ組合せでも治癒が出来る。
 でも、これって予め出来るって聞いていたからその通りのイメージで出来ると思って使っているからだと思うぞ。実は俺も昔、さんざん試した。結局、赤外線視力インフラビジョンの再現はできなかった。他のもだ』

『そっか』

 と言ってラルファがにこりとした。笑うとこか? ここ?
アルの予測はあたっている部分も多いですが、外れている部分もあります。念のため。
+注意+
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