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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第五十二話 順番

7443年3月12日

 今日、改めて商業向けの不動産屋に行ってみた。

 一家族分くらい居住可能なスペースも当然必要になるから、出来れば王城に近い大通りの店舗付の建物がいい。また、作業場所にもなるので水回りの良い、つまり排水のしやすい立地であることが望ましい。
 これらの希望を伝え、見つかったらバルドゥックのボイル亭に逗留しているのですぐに連絡が欲しいと言っておいた。購入であれば3000万Z(金貨30枚)、賃借であれば年で200万Zくらいまでと伝えてある。この金額は相場よりは若干高い。

 言いたいことだけを言ってさっさと不動産屋を後にしたが、見込みのありそうな場所について下見をしたりしていたので結構時間を食ってしまった。
 その間グィネ達はグィネの家まで馬車と当面の荷物を取りに行っている。
 大した量ではないだろうが、在庫となっている雑穀や野菜類の種などについても知り合いの商会に引き取って貰うように交渉もしてくるらしい。

 彼らもそれなりに時間もかかるだろうし、俺のほうが用が早く済むと思っていたが、待ち合わせ場所には彼らの方が既に先に到着していた。
 お互いに時間がどれくらいかかるか全く判らなかったので時間は昼過ぎくらいとしか決めていなかったから仕方ないのだが、四人も待たせてしまったのは申し訳ないと思った。
 だが、彼らも俺が到着する十分前くらいに着いたようで、丁度良かったとのことだった。

 馬車を見ると荷物はトリスのものらしいバックパックが一つと、こちらはグィネの物だろう、籐で編んだ四角い大きな籠が二つ、小さな籠が三つ四つ見えている。
 どれも籐で編んだ蓋が付いている。流石にベルやラルファよりも荷物は多い。

 なお、グィネの馬と馬車は、二頭の荷馬についてはそれぞれ500万Zと600万Zで、荷馬車の車両は200万Zの合計1300万Zで引き取る事で話が付いた。
 馬の価格が違うのは年齢によって金額が異なるためだ。馬の寿命は平均して30年弱くらいだそうだ。希に40年位以上生きることもあるらしい。

 一頭は12歳で働き盛り種付け盛りなので最高レベルの金額で、もう一頭は20歳なので多少値段を引いたが、それでも正直なところ相場よりも100万Zづつくらい高く買った。
 荷馬車の方は相場通りだ。

 グィネは感謝していたが、いいんだ。

 金で買える感謝ならタイミングよく買っておくに越したことはない。
 それを見ていた三人も三者三様の顔つきでいたしな。
 当然、馬商で相場を聞いてからそれに色をつけた形なので、俺の事を相場も知らない馬鹿、という目では見られていなかった事は付け加えておこう。

 全ての用事を済ませて午後になると、いよいよバルドゥックへ向けて出発だ。

 荷物も大分少なくなっているから御者台に二人、荷台に二人乗っても問題ない。
 うん、まぁ今後の移動のことを考えると、確かに馬の価格は高めだけど悪い買い物ではなかったな。
 商会の拠点を作った後も、荷馬車があれば便利さは段違いだしね。
 それまではこうして小型のバスのように使えばいい。

 夕食前に迷宮から引き揚げて来たゼノム達と合流し、改めて紹介をしながら全員で夕食を摂った。
 いつもの予定からずれてしまったが、明日の午前中は連携の訓練をする。
 迷宮に入る前にトリスとグィネの動きをしっかりと見定めておく必要があるからだ。

 多分、当分の間グィネを戦力として数えるのは危険だが、身のこなしや持久力、足の速さを見ておく必要がある。
 ようやく四層に顔を出した程度の冒険者ではあるが、俺がいるので戦闘で困ることや退却するような場面などそうそう無いだろう。
 だが、迷宮では何が起こるかわからないのだ。

 全部の場所が踏破されているわけでもないし、二層で一度だけ足を踏み入れたことのある妙な罠など、迷宮の不明な点は数え上げればキリがない。
 一層ですら隅々まで全ての情報が記載された完璧な地図はないのだ。これはグィネの固有技能をもってしても作成するのは難しいだろう。
 目で見た部分の情報しか記憶できないのであれば、罠の情報は無いも同じだしね。



・・・・・・・・・



7443年3月13日

 一夜明けた月曜日、朝食後は全員での連携訓練だ。

 トリスは出身の士爵家で剣の技術は叩き込まれているとのことだが、あの晩、ベルと腕相撲をして負けたそうで、決まり悪そうな顔でそれを話していたのを覚えている。

「トリス、グィネ、よく聞いてくれな。剣や槍はだいたい決まった型がいくつかある。覚えなきゃならん型なんて実は数える程しかない。簡単に言うとボクシングを思い出せ。ジャブとストレート。基本のパンチはこの二つだ。応用でフックとアッパーカットがあるが、究極的にはジャブとストレートだけでもいいんだ。まずはジャブを正確に打てて、タイミングよく強いストレートを打ち込めることが肝要だ。これがきちんと出来ればチャンピオンには成れないかも知れないが相当いいとこまでは行ける。ここまではいいな?」

 パンチの型をシャドウで示しながら言った。頷く二人を見ながら、

「攻撃であるパンチは今の二つで最初は充分だ。だが、忘れちゃいけないのは防御方法だ。ステップ、腕によるガードやスウェー、ダッキング、ウィービングなど攻撃方法よりも防御方法の方がずっと多い。勿論、防御から反撃に転じるテクニックも数多くある。だから、攻撃は基本となるようなものを一つか二つ、きちんと練習して、あとは身を守るための技術を磨くのがいいと思う」

 ちょっと二人には不満そうな表情が浮かんでいる。

「ん、納得がいかないみたいだね。どちらからでもいい、理由をどうぞ」

 そう言って肩を竦める。

「先に攻撃をして相手を倒せばそれ自体有効な防御になると言えるのでは?」

 トリスが不思議そうに言った。

「私は、トリスさんがオークと戦って勝つのを見ました。私はともかく、今までのトリスさんの戦いのスタイルじゃあ、ダメなんですか? 私なんかと一緒に稽古して貰うのが心苦しくて……」

 グィネもトリスの直後に言った。彼女の場合、防御を重視するというのは自分のせいだと言いたいのだろう。

「ん、そうか。まずトリス、君の言っていることは間違っていない。攻撃は最大の防御なり、とも言うしね。だけど、自分の攻撃を凌ぎ続けるような強い相手、と言うか、防御の上手い奴が出て来てたとき、どうするんだ? 仲間を置いて逃げるのか? それも間違ってはいない。自分が死んだらそこで終わりだからね。だけど、仲間を見捨てて逃げる奴はそれだけで信用をなくすぞ」

 俺がそう言うと、トリスは慌てて言う。

「そんな、逃げるわけないじゃないですか。頑張りますよ」

「え? 頑張ってどうするの? こっちの攻撃を当てられなきゃ、防御の練習をしっかりしてないとすぐに攻撃を当てられて怪我するぞ。それくらいならさっさと逃げてくれた方がマシだよ。怪我した体で場所を塞いだり、それを庇う為に誰かの負担にならないようにしてくれた方がずっといいしね。俺が言いたいのは頑張るなってことじゃない。力の限り頑張って怪我するまでの時間を伸ばせ。まずそのための努力をしろってことだ」

 トリスはちょっと言葉に詰まったようだ。その間に俺はグィネに向き直って彼女に言う。

「グィネ、それは君が心配することじゃない。いいか、俺は決して君たち二人のことを馬鹿になんかしていない。確かに君も言っていた通り、グィネは戦いは苦手なんだろう。でも、そんなことを理由に馬鹿にしたり軽く見たりはしない。だけど、過信もしない。迷宮では逃げられる方向が決まっていることが多いんだ。場合によっては逃げ場がないことすら考えられる。逃げる方向を守り、逃げ場がないときは体を張って反撃の糸口が掴めるまで粘る。これが大事なんだよ。そもそもトリスとグィネの実力も知らないしね……」

 それでもグィネは目の前で自分を救ってくれたトリスの戦闘力には敬意を払っているのだろうし、トリスはトリスで実家で習った剣術に自信があるんだろう。何しろその剣術は二年間も彼の身を守ってくれたのは確かなのだから。

 だけどな……多分、俺が予想するに、一対一で戦うなら、トリスはゼノムやラルファには敵わずとも、ベルとかズールー、エンゲラあたりには勝てるのかも知れない。正直なところ、それすらも俺は疑わしいと思ってはいる。まぁ勝てるにしろ、それが一体どうしたというのが本音だ。

 迷宮内で一対一になる場面なんかそうそうないし、戦争でだってないだろう。少なくとも両親や兄貴、義姉さんから話を聞く限りにおいて一対一なんて場面は滅多に発生しないらしいことは知っている。

 うーん、言葉で言っても難しいかもしれないなぁ。でも正直言って、俺が相手をするのも大人げない気もする。

「ま、いいだろ。確かに君たちの、特にトリスの実力が優れているのなら俺たちとしても願ったりだからね。模擬戦、するかい?」

 腕を組みながら言う。
 本音を言えばお遊びだとしか思えないが、理解してさえ貰えればいいので、きっかけは何だっていいのだから。
 訓練を始めたばかりなので他の皆はまだそれぞれ思い描く相手に向かって一人で素振りをして体を温めている段階だ。

 トリスは自信有りげに、グィネはおずおずと頷いた。
 二人が頷くのを見た俺は、皆に声をかけて集合させた。

「皆、ちょっといいか? 悪いな。トリスとグィネからちょっとしたリクエストがあった。模擬戦をご所望だそうだ。我こそはってのは居るか?」

 皆、きょとんとしている。

「うん、まず実力を知ってそれから訓練や連携内容を確認しようと思ってね。トリス、君の武器は剣でいいんだな? うん。そうだな、じゃあズールー、トリスの相手を頼む。エンゲラはグィネの相手だ。グィネは槍使っていいよ。……トリス、ズールーはこの五人の中だと真ん中くらいの実力だ。グィネ、エンゲラの実力は五人の中では一番低い。それぞれ一対一でやってみようか。……いいか? 始め!」

 トリスはズールーより僅かに実力は高いようだが、剣のリーチの差もあって攻めあぐねているようだ。
 グィネの方は戦闘自体に慣れていないのだろう、あっさりとエンゲラに距離を詰められて負けてしまった。

 ズールーはまだ粘っている。
 直撃を避け、両手剣を時には盾のように使い、防御に徹している。
 攻撃らしい行動をしたのは最初の数合だけで、今はたまにフェイントをするくらいだ。

 ゼノムは無表情で腕を組み、ラルファはちょっと見たら興味を失ったように欠伸をしたそうに、ベルは厳しい表情でトリスとズールーの模擬戦を見ている。
 さっさと終わったエンゲラとグィネは俺の立ち位置の関係でどんな顔で見ているかはわからない。

 うん、もうすぐトリスは負けるだろう。

 確かに彼は多彩な攻撃を放っている。
 一見するとスピードでズールーを翻弄しているかのように見えなくもない。
 だが、純粋な剣技ではトリスの方が自分よりも上だと見たズールーは、さっさと俊敏に動くことを止めて防御に徹している。ぶっちゃけた話、俊敏さではズールーは俺のパーティー内でもかなり高い方だ。鑑定で見える単純な俊敏の値以上にズールーは俊敏だ。

 最小限の動きでトリスの攻撃を躱し、あまり派手に動き回らないだけだ。
 トリスは押しているように見えるが、動き続けてからもうそろそろ五分以上になる。体力も尽きるだろう。
 ズールーは落ち着いて致命傷になるような攻撃だけに注意を払っている。

 そろそろいいかな?
 模擬戦の決着を付けることが目的じゃないし。

「はい、終わり」

 そう言って二人の間に俺の木剣を差し込んだ。

「トリ「トリス、解った?」

 俺が話そうとしたところにベルが言葉を重ねてきた。
 ん~、ベル。それはトリスのプライドを傷つけるだけだ。止めとけ。

 俺はベルの顔の前に手を挙げるとそれ以上の言葉を遮ってトリスに言った。

「ズールーと互角以上だったな。だが、獅人族ライオスの体力は精人族エルフ普人族ヒュームを上回っているからね。ズールーに防御に徹されると厳しかったろ?」

 トリスは悔しそうな表情で唇を噛んで言う。

「攻めきれなかった……畜生」

「ああ、残念だったな。ま、疲れたろ、ちょっと休んでいてくれ」

 そう言うと、俺は振り返って言った。

「じゃあ、そうだな。グィネとエンゲラはそこまで疲れてないだろうし……グィネ、エンゲラは強かったか?」

「うん。何が何だかわからないうちに近付かれて、気がついたら傍に居てやられちゃった……」

 エンゲラは一番弱いと聞いたので、グィネは「それなら」と希望もあったのだろう。
 が、殆ど何も出来ずにあっけなく負けてしまったことがショックだったらしい。

「そうだな、ラルファ、ベル、エンゲラでチームを組め。ベルは弓はなし。剣だけな。ゼノムはグィネと組んで三対二で模擬戦な。一分だけゼノムとグィネに作戦会議の時間をやる。ラルファ達はゴブリンな」

 それを聞いて全員意味が掴めたようだ。
 なお、ゴブリンというのは俺達の訓練中で使う専門用語で「連携なし、自由戦闘」という意味だ。
 例え隣りの味方が危機に陥っても助けず、ひたすら目の前の敵を相手取ることのみを戦術とする。

 ゼノムはグィネに近づくと何やら身振り手振りを交えて話している。
 俺の後ろではトリスがズールーに話しかけている。

「なぁ、あのゼノムさんってどのくらい強いんだ?」

「うちではご主人様の次に強い方ですよ」

「……そりゃそうか……あとは女だし……って、え? ズールー、あんた五人で真ん中だって言ったな。ゼノムさんの次じゃないのか?」

「はい、ゼノムさんの次はラルです。その次がかろうじて私です。コーロイル様は私より僅かに……その、接近戦では私の方がコーロイル様より一歩進んでいる、と言ったところでしょうか。エンゲラは我々より少し劣ります」

「ん……そうなのか……」

 まぁ見とけ。長年たった一人でラルファを守り、育ててきたゼノムの実力を。

 そろそろ一分だ。

「んじゃ、行くぞ。始め!」

 斧ばっかりは木製のダミーというわけにはいかない。その重さを利用しての技術も多いし、正確に刃を立てなければならない攻撃方法が多すぎる。勿論重さを利用して峰でぶん殴ってもいいんだけどね。

 まぁ、痛みはともかく傷はすぐに治療出来るし、手足が欠損をするほど強く撃ち込む訳でもないからゼノムとラルファだけは訓練でも普段通りの手斧を使っている。ゼノムは剣も使えるから木剣を使うかとも思ったが、今日はそれなりの相手と実質一対三だからリーチを捨てて使い慣れた武器を選んだのだろう。

 ゼノムはグィネに何と言ったのか、すぐに判明した。
 グィネはゼノムを盾に使うように位置取り、ゼノムが斧を相手の武器に打ち合わせ、相手が体勢を崩した時だけ槍を突くように指示したようだ。
 ゼノム自身は相手の体に攻撃を撃ち込む事は考えていないかのように防御と相手の攻撃を邪魔することだけに徹している。

 まぁそうでもない限り、いくら連携がお粗末と言えど冒険者三人相手に一人で勝てる奴なんかそうそういるはずもない。
 自分が武器を持っていたとしても、武器を持った複数を一人で倒すなんて余程大きな実力差がない限りまずありえない。
 普段から複数相手に訓練でもしていればまだ別だが、それだって踏ん張れる時間の延長にしか過ぎないだろう。

 まず、エンゲラがグィネの槍を二回受けて戦線を離脱した。
 だが、流石に三人の攻撃を躱し、受け、いなし続けたゼノムにも相当の疲労が蓄積している。
 と言っても、一番リーチが有り厄介だったブロードソードを使うエンゲラを最初に倒せたのは良かった。これでかなり楽になったはずだ。

 ここでベルとラルファの勝ちの目は、ゼノムが踏ん張る限り非常に低くなった。
 ゼノムの実力は彼女たちよりかなり上だ。
 二人がかりなので有利は有利だが、防御に徹したゼノムに有効打を与えるのは連携を封じられているとちょっと辛い。
 ゼノムは右手の手斧でベルのショートソードの突きをいなし、左手は斧を振り回すラルファへの牽制や、時にはラルファの斧の柄や斧を握る手や腕自体に打撃を入れ軌道をずらしたりしている。

 グィネはゼノムとの打ち合わせの通りなのだろう、ゼノムの受け流しや相手の武器への打撃で体勢を崩した方に槍を突き入れている。
 既にラルファもベルも一度ずつグィネの槍を受けていた。じきに終わるだろう。

 俺は地面に座ったままのトリスを見た。

 真剣な顔で模擬戦を見ている。
 あの様子だと解ってきたかな?
 視線を模擬戦に戻すと、丁度グィネがベルに槍を入れたところだった。
 すると一気にゼノムが攻勢に転じ、実力差も相まった上に二対一だ。
 ラルファもあっという間にやられてしまった。

「ほい。ゼノムとグィネの勝ち」

 そう宣言すると改めて全員を鑑定した。
 特に大きな怪我を負っているものはいなかった。
 流石はゼノムだな。
 このひと月くらい、ズールーとエンゲラもゼノムの指導でも受けていたのだろうか、なんとなく剣筋が良くなったような気もする。

「トリス、解ってくれたかな? 前に立つ剣士は余程実力差がない限り相手に攻撃をする必要はない。うちの場合、攻撃役はベルと俺だ。勿論相手がゴブリンとかノールならかなり弱いから、油断さえしなければ前衛もチャンスを見つけたらいいのを入れられるようにはするし、実際に結構それで仕留めてるんだけどね。
 だけど、オークやホブゴブリンくらいになると相手もそれなりに連携してくるし、一匹二匹倒したり重傷を負わせると直ぐに揃って退却しちまう。それだと魔石の稼ぎも悪くなるからな。タイミングを合わせて同時に何匹も倒し、退却すらさせないようにしたり、ベルと俺で一緒に魔術を使ったりとかこっちも頭を使わないとなかなかうまく全滅はできないんだ」

 トリスは素直に頷いた。

「うん。で、だ。トリスが粘って立っているのであればその後ろにいるベルはその間は安全だ。安全に矢を撃てる。ここで君が色気を出して相手に攻撃を入れようとした時に他の奴から攻撃を貰うほどバカバカしいことはない。前に立つ奴は絶対に大丈夫なタイミングでしか攻撃をする必要はない。極論を言えば武器すら必要ない。盾をしっかり構えて立っているだけでも有効だ。
 『変な例えだけどコンピューターゲームじゃないから』軽い怪我でも動きは鈍るし疲れやすくなる。痛みだって集中力を削いで行く。だから、怪我をしないように立っていられることが一番重要だってこと」

 トリスは真剣に頷いている。きちんと理解してくれたようだ。

「だから剣の技も基本的なもの以外は防御に役に立つものが有効だよ。さっきゼノムがやっていた……彼の場合は斧だけど、受け止めたり、いなしたりすることを覚えるのが先だ。攻撃の為の技なんてその後でも充分だ。だが、これだけは勘違いしないでくれ。一対一の戦いを軽視するつもりはないし、攻撃も大切だと思っている。俺が言いたいのは順番の問題に過ぎないんだ」

 ま、こんなもんだろう。しっかり理解してさえしてくれれば問題はない。

「中断させて悪かったな。じゃあいつものようにやってくれ」

 俺はそう言うとまたトリスとグィネに対して口を開く。

「トリスは攻撃に関しては基本どころか応用までできているから防御を中心に稽古だな。グィネはその基本の突きだけで今のところ攻撃は充分だ。相手を近づけさせないような槍の使い方と体の位置取りの判断力が必要だろうな」

 そう言うと俺は木剣を手にした。

「じゃあ俺が敵役だ。俺の攻撃をトリスが凌いでいる間にグィネは隙を見つけて槍を突くようにね。トリスは防御に徹して俺に隙を作らせることが肝要だ。その隙をグィネが突いてくれればいいんだから。おっと、そういやぁ言ってなかったな。一番有利なのは相手より多くの数で当たること。一人を集団でタコ殴りにするのが理想の戦いだ。セコイがこれが真実だ」

 そう言って彼らの連携の訓練を始める。



・・・・・・・・・



 訓練を終え、昼食後にはトリスとグィネを加えた八人で迷宮に降りた。当面は地図のこともあるからあまり深い階層は狙わない。半分位出来上がっている三層の地図の作成が一番大切だ。一層と二層は空白地帯も残っているが三層と比べるとその割合は低いし、あまり致命的な罠もないから後回しでもいい。三層に行く途中で運良く(?)未踏破の場所に転移したときにでも地図を作成するくらいでいいだろう。

 久々に二層の転移の小部屋で一泊しながら何度も三層への転移を繰り返す。
 今のグィネは『地形記憶マッピング』を一度使うだけで一時間強もの間記憶が出来る。

 その威力を改めて見せつけられた。
 ひたすら歩き周り、彼女が目にした視界の届く限りの通路など、を小休止の際にスラスラと紙に書き起こしたのには全員が度肝を抜かれた。

 こっそり聞いてみると、彼女は自分の固有技能についてかなりの理解をしており、地図のように思い浮かべた内容を書き写しているに過ぎないとのことだった。
 もともと絵心でもあったのだろうか? やけに上手な感じだ。

 戦闘も特に問題もなく出会う敵は全て全滅させた。

 まさに殺戮者スローターズの面目躍如と言った感じだ。

 トリスはともかく、グィネはモンスターの死体から魔石を採ったりするのは嫌だろうと思っていたら、特に何の感慨もないらしい。幼少時から両親の行商についてまわり、時には護衛の冒険者が魔物と交戦したり、倒した魔物から魔石を採るところを見ていたからだと言う。

 この分なら二~三か月で本当に正確な三層の地図が作成できるかも知れない。

 
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