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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第五十話 再会

7443年3月10日

 部屋をノックしてきたのは店のボーイだった。客が二人到着したので通して良いか確認に来たのだ。精人族エルフの男と山人族ドワーフの女の二人組とのことなので通せと言った。

 ボーイの後ろからカロスタランとアクダムが部屋に入ってきた。きょろきょろと珍しそうに豪華な内装を眺めながら「悪いな」とか「ご馳走になります」とか殊勝なことを口にしている。アクダムは着替えたのだろう、こざっぱりとした服装だったが、カロスタランの方は薄汚れた服だった。袖の下払っておいて良かった。

「ああ、すみません、ちょっとトイレに行ってもいいですか? カロスタランさんも一緒にどうです? 結構すごいんですよ」

 予めトイレは見ておいた。大理石のような石を掘って作られた小便器があり、排水口に香料を入れた袋がある、オースでは無茶苦茶贅沢なトイレだ。

 俺は少し強引にカロスタランを誘ってトイレに行く。トイレに入るなり話し出した。

『あんた、瀬間洋介と言ったな。あのアクダムさんとどういう関係なんだ?』

『いきなりタメ口かよ。まぁいいけど』

 何言ってやがる。出会ったときや、ついさっきぞんざいな口を聞いていたのはそっちの方だろうに。

『知り合ったのはひと月くらい前かな? 彼女の両親の隊商がオークに襲われてれいるところを助けた。それだけだけど、それがどうした?』

 ほーっ、良かった……。安心した。

『そうか……良かった……。安心した。少なくともあんたにあの子に対する恋愛感情はないんだな? それだけ確認したかった』

 俺がそう言うと、カロスタランは意味がわからないように聞いていたが思い当たったのだろう。

『ああ、そういうことか。確かにあの子、ドワーフにしちゃすっきりしてて可愛いからな。彼女のことは気の毒に思うけれど俺には彼女への恋愛感情はないから安心してくれていいよ。邪魔もしないよ』

 なにか勘違いされているようだ。それに、どうもこの話しぶりだとアクダムの方がカロスタランに気があるのか? それともこいつが単に自意識過剰なだけなのか?

『ああ、そういうことじゃない。俺が確認したかったのはあくまであんたの気持ちだよ。洋介さん。ついでにもう一つ確認させてくれ。あんた、女はいるのか?』

 俺がそう言うと、彼は俺から少し身を遠ざけながら言う。

『俺はホモじゃないからそっちの期待はしないでくれ。俺には好きな女がいる。彼女を探さなきゃならないんだ』

 誰がホモだ、この野郎。まぁいい。俺はニヤリと笑うと

『そうか。あと俺もホモじゃないからな』

 とだけ言って用を済ませたブツをズボンにしまう。チラと隣りを覗う。あ、こいつ俺より小せぇ。しかも同じように被ってやがる。こんな所ではあるがやっぱり日本人なんだなぁと思って少しだけ嬉しくなった。

『あんたがそう言ってくれて俺は今嬉しいんだ。期待してくれていいぜ』

 水瓶から柄杓で水を掬い、手を洗いながらそう言うと、

『期待って何を? そりゃ日本人に会えたのは嬉しいことだし、いろいろ話を聞きたいと思っていたけどさ……ああ、そんなにここの料理はすごいのか?』

 俺と同じように手を洗い、壁に掛けられた手ぬぐいで手を拭く彼の背を押しながら、

『まぁまぁ、とにかく期待してくれ』

 と言いながら個室に戻った。テーブルにはアクダムが一人、少し不安そうな面持ちで残っていたが俺とカロスタランが部屋に入ると安心したような表情になった。

『ああ、そうだ。アクダムさん、あんたも期待してくれ』

『え? なに?』

 俺がそう言うと彼女は不思議そうな顔で俺を見、そしてカロスタランを見た。カロスタランは、

『よくわからない。ここの料理はすごいらしい』

 とか言ってる。

『ちょっとコースを注文してくる。少し待っててくれな』

 そう言って俺は席に着くことなく扉を閉め、部屋を出た。

 すぐにベルとラルファが控えている部屋に行き、ノックもせずに扉を開ける。彼女たちは席にもつかず立ったまま開いた扉の向こうに立つ俺をそれぞれの思惑が込められた瞳で見つめている。ここで勿体付ける趣味はない。

『ベル、待たせてごめんな。良かったな。すぐに行ってやれよ』

 途中まで聞いたベルは俺を押しのけて走り出した。すれ違う時にちらりと見た彼女の表情は歓喜に溢れていた。

『さ、ラルファ、俺たちも行こう』

『うんっ』

 ラルファも安心したように笑顔だ。きっと俺も笑っていることだろう。俺が向き直り、ラルファが部屋を出るとき

『洋ちゃんっ!』

 と言う、ベルの叫び声が聞こえた。俺とラルファは顔を見合わせると声のした部屋へと歩いて行った。



・・・・・・・・・



 部屋に入るとベルとカロスタランが抱き合っていた。予想はしていたが、キスまではしていないようだったので許す。にやつきながら部屋に入る俺をラルファが押しのけて叫ぶ。

『若菜!』

 そういやこっちもそうだった。

『え? 誰?』

 あれ?

『私よ、美佐。大野美佐だよ!』

 ラルファがアクダムに抱きついている。そりゃいきなり飛び込んで来て抱きつかれたら顔なんかわかんないだろ。アクダムの顔には混乱した表情が浮かんでいたが、彼女の目はカロスタランに向いていた。ありゃ、やっぱりこりゃ面倒なパターンかな? だが、ラルファが名乗ったので驚いたようだ。

『ええっ!? 美佐? 本当に!?』

『うん! うん! 美佐だよ!』

 ちょっと待て。ベルとカロスタラン、ラルファとアクダム。そして俺。何故俺だけ独りよ? しょうがねぇけどさ。部屋の真ん中に設えてある六人掛けのテーブルを境にして右と左で再会に打ち震え、嬉しさのあまり咽び泣いているふた組を見ながら、腕を組みつつそれぞれに目をやる。

 ベルとカロスタランは今にもキスするんじゃないかというほど顔を近づけて抱き合い、泣き笑いだ。ラルファとアクダムはお互いキスこそしそうにはないが、手を取り合って再会を喜んでいる。喜ぶ仲間の顔を見てベルとラルファそれぞれに対して「良かったな」という暖かい感情が湧き上がる。

 まぁ仕方ないだろう。でも、もうそろそろ五分近くも経つ。俺は再会を喜び合う彼らを他所に、テーブルの左右に三脚づつある肘掛付きの椅子の位置をずらすことにした。入口付近から部屋の中を見る俺から向かって左側にラルファとアクダムを座らせ、右側にベルとカロスタランを座らせよう。

 一番手前の右側の椅子を一脚、テーブル奥のお誕生日席に移動させる。当然この上座が俺の席だ。ついでに声の一つも掛けておこう。

『お前ら、喜び合うのはいいけど、そろそろ店の奴が部屋に入ってくるぞ。いい加減にして席に着いたらどうだよ?』

 お誕生日席に座って足を組みながらそう言うが、俺の声はフィルターにでも掛けられているのか彼らの鼓膜には届いた様子は窺えなかった。アクダムはたまにカロスタランをちらりと見ているが、それでもラルファと会えたことも嬉しいのだろう。喜んでいることは確かなようだ。しかしなぁ……本当にちょっとだけ辛くなってきた。

『おい、いつまでそうしてるつもりだ? そろそろいい加減にしとけ』

 いくらなんでもそろそろいいだろう。俺はこの使えそうな二人を雇わなきゃならんのよ。カロスタランの方は以前ベルが自信有りげに大丈夫だと請け合っていたので、まぁいいとしても、アクダムの方も捨てがたいんだ。とっとと契約書にサインさえしてくれりゃラルファとここでいつまでもきゃいきゃい言ってようがどうでもいいけどさ。

 まぁ今のうちに出来ることをやっておくか。もともと転生者は一人だろうと思っていたので契約書は一セット三通しか用意していなかった。念のため紙自体は数枚予備を用意してある。ペンとインクを店から借りて、こいつらがきゃあきゃあ言っているうちにもう一セット書いておくべきだろう。王都の高級店だし、それくらいの用意はあるだろうよ。

 席を立って部屋を出るとボーイを呼び、料理を出すのを二十分ほど待ってくれと伝えると同時にペンとインク、それと契約用の魔石を使うので皿も用意してくれと言った。

 二~三分で希望の品は用意された。俺が言わなかった指に傷を付けるピンまで用意されていた。まぁ俺がナイフを持っていることなんか知らないだろうしな。まだ尽きない会話を続けているベルやラルファ達を尻目に、新たな契約書をしたためる。文面自体はラルファのものと同一だ。文量もたいしたことないからすぐに書き上げる事ができるだろう。

 一言一句間違えることなく、程なくして追加で一セット三通の契約書を作成することができた。因みに、三通目の契約書を作成している時に、こいつらも流石に落ち着いてきたようだ。

 懐から契約用の同価値の魔石を二個取り出して用意してもらった皿の上で擦り合わせ、適量の魔石の粉を作る。せっかく用意してもらったピンだが、使わずにナイフを取り出すと右手の親指を切って血を出す。ナイフのが血が出やすいしな。血が出たままの右手の親指で、皿の上の魔石の粉の三分の一くらいと混ぜ、それに左手の親指の腹をつけて、合計六通ある契約書の俺の名前を書いた上に拇印を押していく。

 俺がやっている作業を全員が見ていた。最後に右手の傷を治癒魔術で治し、血で汚れた指をこれまた店に用意されたハンカチで拭い(水魔法で洗わなかったのは単に床を汚したくなかったからだ)、一応出来上がりだ。契約書に乾燥の魔術をかけ、六枚を重ねて俺の前のテーブルの右脇に置き、その上に魔石の粉の皿やインク、ペンとペン皿を置いて、口を開いた。

『もういいのか?』

 俺がそう言うとベルは恥ずかしそうに頷き、ラルファは「えへへ、つい。ごめん」と言って頭を掻きながら舌を出した。カロスタランとアクダムは俺が事もなげに魔法を使っているのに驚いているようだ。

『じゃあ、そろそろ料理も来ると思うし、せっかく日本人同士会えたんだ。話をしようか』

 ラルファのおかげで空気も柔らかくなったこともあり、話しやすい雰囲気だ。

『まずは自己紹介からだな。もう知っているとは思うけど、俺はアレイン・グリード。ロンベルト王国のウェブドス侯爵領バークッド村の出身だ。日本では川崎武雄、死んだときは45歳のサラリーマンだった。固有技能は「魔法習得」だ。アルと呼んでくれ』

 俺がそう言いながら、両手を広げてカロスタランとアクダムに伸ばす。カロスタランはぽかんと俺の左手を見ていたが、アクダムは俺の右手におずおずと手を伸ばして触れると「ステータスオープン」と言って俺のステータスを見た。それを見たカロスタランも慌てて俺の左手に触れてステータスを見ている。

 次は自分の役割だと思ったのだろう、ベルが口を開いた。

『私はベルナデット・コーロイルです。デーバス王国ストールズ公爵領ラーライル村の出身です。日本では相馬明日夏と言いました。死んだときは21歳の大学生でした。固有技能は「射撃感覚」です。私のことはベルと呼んでください』

 主にアクダムに向けて言った。彼女から見てテーブルの右向こうにいるアクダムに向けて手を伸ばしている。

『私はラルファ・ファイアフリード。ロンベルト王国ヘンティル伯爵領ラルファ村の出身ですが、捨て子だったので両親は知りません。私を拾って育ててくれたのはゼノムという名のドワーフです。死んだときは17歳の高校生。私の固有技能は「空間把握」です。私のことはラルでいいです』

 ラルファもテーブルの左向こうのカロスタランに向けて手を伸ばしながら言った。

『ん、じゃあ、次は俺だな。俺はトルケリス・カロスタラン。ロンベルト王国ローゼンハイム伯爵領のヨーグッテ村が出身痛っ』

 ベルがカロスタランの手を抓ったらしい。

『久々だろうけど、きちんと喋って。最初から』

 やれやれ。ベルに諫められたカロスタランは「んんっ」と咳払いすると、

『私はトルケリス・カロスタランです。ロンベルト王国ローゼンハイム伯爵領のヨーグッテ村の出身です。日本では瀬間洋介と申しました。死んだときは明日夏と同じく21歳の大学生でした。固有技能は「秤」です。あんまり役に立たない固有技能ですけど……。私のことはトリスと呼んでください』

 そう言ってトリスは左手をラルファに、右手を俺に伸ばして言った。

『えーっと、私はグリネール・アクダムです。ロンベルト王国ロンベルト公爵領……王領のロンベルティア、この街の出身です。美佐……ラルと一緒にバスに乗っていて事故に遭いました。17歳でした。固有技能は「地形記憶マッピング」です。私のことはグィネと呼んでください』

 グィネも右手をベルに、左手を俺に伸ばして自己紹介した。自己紹介が終わったとき、店のボーイが三人、ノックをして部屋に入ってきた。二人はランチョンマットのようなナプキンをテーブルに敷き、食器を並べている。もう一人は人数分のグラスを配膳している。最後に食事を配膳し始めていいか聞いてきたので頷いてやると下がっていった。俺は、

『ベル、いいか? 飯くらい食って行くだろ?』

 とベルに聞くとすました顔で

『ええ、勿論です』

 と返答してきた。じゃあ、さっさと話をした方が良さそうだ。その時に前菜をボーイたちが運んできた。見た目がラタトイユのような冷たい野菜の炒め物と鳥のハム、何かの木の実を甘く煮たもの、羊肉のカルパッチョなど、全部で七種類の前菜が盛り付けられたプレートが配られた。同時に白ワインが注がれる。全員に行き渡ったあとまだボーイがいたので、

「じゃあ、折角なので乾杯しよう。無事に出会えた奇跡、おめでとう。乾杯」

 と言ってワインを飲む。うん、結構美味しいワインだ。よくわかんねぇけど。でも、すごく飲みやすい。皆口々に「乾杯」と唱和してワインに口をつけているが、アクダムだけ戸惑っている。

「あの……確かに成人してるけど……いいのかな? 私、お酒は初めて飲むんだ」

 ああ、そういう教育方針の家庭なのかな? そういえば今晩彼女は両親に何と言って出てきたのだろうか? この辺から話してみようか。もうボーイも出て行ったし、面倒だし、日本語でいいだろ。

『ん? 無理にとは言わないよ、果実水ジュースとか水が良ければそっちを注文しようか?』

『え? ……大丈夫です』

 グィネは美味そうにワインを飲んでいるベルとラルファをちらりを見ると自分も口をつけた。

『あれ? 美味しい……んっ……なに、これ?……んっ……』

 ……ドワーフの血だろうか。一口飲んだら初めてその美味さに気がついたかのように一度グラスを見つめるがすぐに美味しそうに飲み始め、グラスを空けてしまった。

『ちょっと……若菜、飲みすぎて酔っ払っちゃダメだよ』

 ラルファが心配そうに注意している。



・・・・・・・・・



 コンソメみたいなスープも飲み、主菜メインの牛肉(!)のポワレとタンヴィルム(浅い海に住む舌平目のような魚)のムニエルが出てくる頃には皆お互いの事が解って来て食卓は和やかな雰囲気に包まれていた。グィネとトリスは出会ってひと月くらいらしい。

 冒険者二人を護衛に雇い、両親と五人で行商中の山道でオークの集団に奇襲され、グィネを残して殆ど全滅に近い時に、颯爽とトリスが現れて危地から救ってくれたのだそうだ。そりゃ惚れもするか。生前、俺の部下で若くして二人の子持ちでジャニーズ系のイケメンだった井上に横恋慕する他の課の女子社員の目つきだった。

 オークの襲撃の事を話すとき、グィネは涙ぐんでいた。僅かひと月前の出来事だ。両親を一度に失い(目の前で魔物に殺されるという、これ以上ないほどショッキングな失い方だろうし、無理もない)、更には家業であったアクダム商会も三号二種の白免状で相続はできない状況に追い込まれていたのだからこれは仕方のないことだ。家業を続けるにしても百万Zの金を掛けて免状を取るところからやり直さなくてはならない。コネも何もなく免状を申請したって正式に免状が交付されるのにはどうせ何ヶ月もかかるだろう。

 まぁこのあたりは俺にとっては好都合ではあるが、他人の不幸を喜ぶようでなんだか心地悪いことは確かだ。少なくともその時馬車に積んでいた積荷は全て処分して現金化しているとの事で、今現在抱えている商会としての在庫は雑穀の種籾と野菜の種くらいらしい。まぁ時期も良いし処分しようと思えばさっさと処分することはできるだろう。モンスターの襲撃なんかで白免状の持ち主が不慮の死を遂げたのであれば納税に多少時間がかかっても大目に見られるだろうしな。

 トリスの方は家を出たのが13歳頃と今から二年ほど前だった。僅か一分しかない神との面会時間でベルの転生を知り、転生者の転生場所にも距離が離れていることを確認したらしい。おかげで他のことはほんの僅かしか確認できなかったそうだ。

 相当頭の回る奴なんだと思っていたら、最初の説明の時の報道番組みたいなビデオを見せられたとき、自分の名前の直下にベルの名前があったから気づけたとのことだ。すぐにベルの転生を確認し、ベルの転生場所を聞いたがこれは答えて貰えなかった。俺は点滅する赤い四角で囲まれた自分の名前と犠牲者全体が漢字二文字の苗字と二文字か三文字の漢字の名前だったことくらいしか確認できなかった。

 が、俺と同様に転生場所の決定方法を聞いてある程度以上の距離を保って転生していることを知り、どの程度の距離かを聞いたら最低100Km以上であると教えてくれたそうだ。そのため、人を探すのに困難そうである大きな街を避け、小さな村を中心に旅して回っていたらしい。路銀も心細くなっていたときにたまたまグィネの馬車が襲われていた所に出くわしたとのことだ。

 俺たちもそれぞれの出会いを話した。専らラルファとベルが話し、俺が足りない部分を補足する感じだ。俺がラルファとベルの危地を救う形で出会っていたことを聞いてグィネの俺を見る目がちょっと変わったようだ。それまでは「なんだ、この金魚のフンは」みたいな感じであったのに対し、今では明らかにトリスと同様に見られている気がする。多分これは俺の自意識過剰ということでもないと思うが……。なんだ、こいつ。

 トリスの方は俺達とベルの出会いを聞き、話が終わったとき、席を立って深く俺にお辞儀をしながら礼を述べてきた。なんだ、なかなか素直じゃないか。

 主菜メインを食べ終え、口直し(ソルベ)として蒸し鶏の入ったサラダを食べながら話は続けられた。転生者の有用性と危険性についてだ。トリスもグィネもそういったことについては殆ど考慮していなかったそうで、真剣に耳を傾けていた。転生者のアドバンテージや肉体レベルの情報については契約書にサインさせてから話すつもりだ。

 デザートの果物ゼリーが供されるとそろそろ話す内容も終わりが近づいてくる。

『さて、ここまではいいかな? ……うん。今、ベルとラルファは俺が雇う形になっている。他にラルファの養父のドワーフと俺の戦奴の獅人族ライオスの男と犬人族ドッグワーの女の合計六人でバルドゥックの迷宮に挑んでいる。トリス、グィネ、どうだろう? 一緒にやらないか? 勿論、ベルやラルファと同じようにしっかりと給料は払う』

 俺はトリスとグィネの二人を交互に見ながら話した。そこでラルファが口を挟んできた。

『給料は月に20万Z。稼ぎの多い時は別にボーナスが日払いで貰えるよ。私とアルがバルドゥックに来たのは去年の6月からだけど、平均すると結局毎月50万Z以上貰ってるね』

 何故そこでお前が胸を張るんだよ。すると、ベルも続けて口を挟んできた。

『それと、休日は水曜日と土曜日の午後ですね。まぁこれはもっと深い階層に潜るようになったら変動するとは思いますけど。あと、グィネ、その……月に一日は別に休暇が貰えます。私は月に二回あるけど、軽いから……』

 ああ、生理休暇ね。……グィネも一緒だと更にそういった意味で休日が増えちゃうこともあるのかよ……。ま、しゃあない。いいけどさ。

『勿論一緒に同行させてください。明日夏……ベルにも一緒に来て欲しいと言われていたし、私には定職もないですから有難いくらいです。アルさん、お願いします』

 トリスがすぐにそう言って来た。ベルが自信を持って言うだけはあったな。だけど、単に金がないから食いついてきたとも言えるが。

『ああ、歓迎するよ。じゃあ、契約書にサインをしてくれ。内容はベル達と同じだ。ほい』

 そう言って一セット三枚の契約書を渡す。グィネはどうなんだろう。一緒にサインしてくれると面倒がなくて助かるんだが。

『若、グィネ、あんたはどうするの? 商会はすぐには出来ないんでしょう? アルは商会も持ってるよ。あと、アルはすごく強いから迷宮でもあんまり危ないこともないかなぁ』

 こっちはラルファが勧誘をするようだ。

『うー……でも、冒険者か……強いってどのくらい強いのよ? あと商会って免状は?』

 グィネがラルファに質問している。

『うーん、去年の年末に第一騎士団の副団長って人に模擬戦で勝ってた『ええっ!? 嘘でしょ?』

 俺、そんなに強そうに見えないかな? 体つきも年の割には結構いい体を作っていると思うんだけどなぁ……。

『うん、目の前で見たもん。あと、アルのお姉さんも第一騎士団にいるしね。お兄さんがこれまたすっごく強くて格好いいの!! ね、ベル、アルのお兄さんのファーンさん、超格好良いよね!!』

 急にラルファに話を振られたベルは念のためとトリスと一緒に契約書を読んでいた。

『え? ファーンさん? うん! 格好良かったね』

 契約書から顔を上げてベルが答える。トリスはちらともベルの顔を見ず、契約書に視線を落としたままだ。耳に入らなかったのか、元々嫉妬心が薄いのか、それともベルを信頼しているのか。よくわからなかった。グィネが続ける。

『それで、商会の方の免状は? ウェブドス侯爵領の出だそうだから、三号じゃ話にならないよ』

 俺が答えようと口を開きかけたが、またラルファが答えた。

『免状は知らないけど、王様と直接取引しているよ。ロンベルト陛下と王妃殿下達に直接声を掛けられてるもん』

 今度こそグィネは疑わしそうな顔つきで俺を見た。

『今は持ってきてないけど俺のグリード商会の免状は二号一種の赤免状だ。ロンベルト国内ならどことでも好きなだけ取引ができるよ。バークッドのゴム製品、聞いたことはないかな?』

 俺がそう言うと、グィネも思い当たったのだろう。

『あ……ゴム製品って……聞いたことあります……見たことはないですけど……でも、すごいですね。二種ならともかく、二号一種なんてウチじゃとても……』

 彼女は免状の料金の貴族特権を知らないのかも知れない。ま、いいけど。貴族でもない普通の人が二号一種の商会を作るならコネがなきゃ一億五千万Zかかるしな。結局俺は手数料のたった50万Zで済んじゃったけど。ゴムプロテクターとコンドーム様々だな。

『君にはオースでの商売の経験もあるから、是非一緒に来て欲しいな。今年か来年にはロンベルティアに商会の拠点も作るつもりだしね。出来るだけ急いで候補の建物を探さないといけないんだ』

 俺は微笑みながらグィネに語りかけた。

『でも……私、槍もあまり使えませんし……そのぅ……た、戦うのは……ちょっと、怖い……と言うか……』

 ま、そうだろうね。机の反対側ではトリスが契約書にサインをし始めた。しめしめ。

『なぁに言ってんのよ。私でも出来るんだから、大丈夫よ。ドワーフなら斧か槍が一番合ってるってお父さんも言ってるからね。すぐに使えるようになるよ。それに、私がいるし、アルも守ってくれるよ』

 ラルファがグィネの背中を叩きながら言った。よし、お前、脳足りんの癖に最近なかなかいい働きしてるじゃねぇかよ。俺とベルの薫陶の賜物だろうな。なんてね。

『まぁ読んでみてくれ。内容はトリスに渡したものと全く同じ、ラルファとも同じだよ。あ、ラルファとはゼノムと二人一組での契約だったっけ』

 そう言いながら契約書を渡す。おずおずとそれを受け取って眺め始めたが、押されると弱いタイプなのか、トリスが既にサインを始めているのを目の前で見たからか、碌に読みもしないで顔を上げた。トリスのサインが終わるのを待っているらしい。

 サインの終わったトリスからペンとインク皿を受け取ると契約書にサインをし始めた。俺はトリスにナイフを渡してやり、魔石の粉の入った皿をテーブルの上でずらして彼の前に動かしてやると、

『残っている魔石の粉の半分に自分の血を混ぜて拇印を押してくれ。傷はすぐに治すよ』

 そう言ってトリスが拇印を押すところを見ていた。グィネのサインも終わったようだ。

 よし、有効な手駒を更に二人、配下に置けたと考えてもいいだろう。三枚組の契約書のうち一枚をそれぞれに渡してやり、傷を魔法で治療してやった。契約書の残った二枚のうち一枚を俺が保管し、残った一枚は……行政府で保管してもらう。正式な契約が高価である理由の一つだ。魔石入りの血で押した拇印はステータスオープンを掛けることができるんだよ。

 これで彼らは俺からそう簡単に逃げられない。

 
ちょっとマジでリアルが洒落になってません。
明後日の更新は幕間にさせてください。
短いので明後日の次は明々後日も幕間を更新します。
+注意+
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