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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第四十九話 涙

7443年3月10日

 いくら行き先を突き止めたとしても応援を頼んでいる間に移動でもされたらお終いだ。ここは俺一人でもまずは接触すべきだろう。すぐに店を出て馬車を追う。馬車は空荷のようで、そこそこスピードも出るんだろうが、ロンベルティアの街中で全速力で移動などするはずもない。せいぜい子供が走るくらいの速度だから見失いさえしなければすぐに追いつける。左手に握ったインバネスをひらひらとなびかせながら追いすがる。

「ちょっと待ってくれないか」

 返事はない。自分たちに声を掛けられたとは思っていないのだろう。御者台に座る二人は何か話しながらこちらを振り向きもしない。

『おーい、ちょっと待ってください』

 日本語で話すと初めて反応があった。ぎょっとしたように振り向いて来た。俺は少し息を切らせながら御者台の脇まで行くと更に言葉を継いだ。

『良かった。日本人ですよね? もし良かったら少し話がしたいんですが』

 俺は笑顔を見せながらそう言った。

『あんたも日本人か! 若菜ちゃん、君の言う通りロンベルティアに来て正解だったようだ』

 精人族エルフの男が驚きと嬉しさの入り混じったような声で隣に座る山人族ドワーフの女に言っている。ワカナってのは女の元の名前か?

『え、ええ。私も驚いた……』

 ワカナと呼びかけられたドワーフの女も目を見開いて俺を見つめながらそう口にした。まぁこちらとしては、予想できた反応だし、今更驚くには値しない。こうなることを想定して網を張って時間を潰していたんだ。ひょっとしたらもう一人転生者と会えるかも知れないしな。

「こんなところで立ち話もなんです。折角なのでどこか落ち着ける場所で話をしたいのですが……。この後時間はありますか? 用事とかありませんか?」

 ラグダリオス語(コモン・ランゲージ)に戻して言ってみた。もしかしたら彼ら二人は外国とかバークッド以上の糞ド田舎の出身で最初の俺の言葉が分からなかった可能性もある。

「ええ、でも一度家に戻りたいわ。馬車と馬の世話をしないといけないし……」

 ドワーフの女が答えた。綺麗なラグダリオス語(コモン・ランゲージ)の発音だった。単に周囲が騒がしくて後ろからの呼びかけが聞こえなかっただけか。

「ああ、それもそうだな。あんた、話は夜でもいいかな? 俺達は夜出直すよ、どこか店で話をしよう」

 エルフの男も多少訛りがあるもののラグダリオス語(コモン・ランゲージ)で話した。ところで、どうも通行の邪魔になっているらしい。さっさとアポイントメントを取り付けて切り上げた方が良さそうだ。

「わかりました。店はこちらで取っておきます。グリードという名で予約をしておきます。店は……そうですね、「ローキッド」でいいでしょうか? ご存知ですか?」

 ローキッドは昔姉貴の合格祝いで使ったという高級レストランだ。かなり有名らしい。

「え?「ローキッド」? そんな高いお店……」

「ご存知のようですね。ご安心ください、誘ったのは私です。勘定はこちらで持ちますので」

 二人を安心させるように微笑みながら言う。金ならあんだよ、金ならよ。最初くらい俺が奢ったる。

「そう? じゃあお言葉に甘えさせて貰うわ。七時くらいでいいかしら?」

「七時ですね。解りました。お待ちしています。グリードと言うのは私の名です。アレイン・グリードと申します。日本では川崎武雄と言いました」

「私はグリネール・アクダム。日本だと西岡若菜」

「俺はトルケリス・カロスタラン。同じく瀬間洋介だ」

 俺の右眉が跳ね上がった。このイケメンが瀬間洋介か? エルフにしちゃ普人族っぽいが、非常にハンサムだ。むしろ線の細い美形の多いエルフよりも魅力的であるとも言えるだろう。今は女連れだ、ベルのことは黙っておいたほうが良いかも知れない。もしこの二人が相思相愛だったら……困る。ベルは充分に分別のつく立派な大人だから、最悪の場合自ら身を引くかも知れない。しかし、恋愛感情なんてものはそう簡単に割り切ることなど出来はしないだろう。まして、俺は一途に瀬間洋介を想い続けるベルのことを間近で見続けてきている。

 あれから十五年だ。事故で無理やりとはいえ離ればなれになった男女が新しいパートナーを見つけ心変わりするには十分お釣りが来る期間だ。むしろ十五年も一途に想い続けるベルが異常とさえ言えるかも知れない。だが、彼女は……大切な……大切な俺の仲間だ。俺の心情としてはベルを応援してやりたい。しかし……。

 取り急ぎ名前は確認出来た。今は割り切るべきだ。道の脇に退くと彼らを見送った。そして後ろから鑑定する。

 な、『地形記憶マッピング』だと!?

【固有技能:地形記憶マッピング;技能使用中に目にした地形を詳細に記憶できる。また、能力使用中に以前記憶した地形に侵入した場合、それを理解することができる。一度記憶した地形を忘れることはない。技能はそのレベルに応じて使用時間が延長される。効果時間は技能レベルの二乗×一分間持続する。効果時間内に再度技能を使用することは不可能である。一度記憶した地形を再度参照する場合、以下の三通りの方法を選択できる。一、自分がその場にいるかのように一人称視点での参照。二、上空から俯瞰するように眺める。三、二と同様の俯瞰だが地図のように不要な要素だけを取り去ったシンプルな参照からいずれか一つを選択可能。参照時には魔力を消費することはない。但し、いずれの場合も自分が直接目にしたことの無い場所(例えば建物の屋上や何かの陰になっている場所など)については空白となる。記憶が可能なのは視覚情報のみであることに留意せよ。何らかの要因によって視覚情報を欺瞞された場合、欺瞞状態で記憶することになる】

 もう一つは『秤』か。これはベルに名前を聞いたことがあるな。

【固有技能:秤;技能使用後、技能レベル×一分間(技能レベルゼロはレベル1として扱う)以内に意識中で選択した二つの対象の比較を可能にする。比較は重量、体積、硬度、粘度、温度などどちらがどれだけ高いか(多いか)を分数で理解することが可能となる。レベルに応じて比較項目の選択肢は増加する。また、選択する対象を一つにすることでその対象の分割点を正確に把握し、自分が望む場合その分割点で切り分けたりすることが可能。但し、対象に傷つけられるだけの硬度を持つ道具や、容器などは別途必要になる。技能レベルに応じて分割の能力は上昇する。なお、いずれの場合も自分の意識上で「一つ」として認識できるものが対象となるが、レベルに応じて対象の状態(固体・液体・気体などや何らかの集合)の選択肢は増加する。比較する場合、効果時間は一瞬であり、分割は意識を集中し、他から邪魔が入らず作業を継続する限り永遠である】

 ふっふ。見つけた。遂に見つけた。俺が予想していたのとはちょっと違うがどちらも非常に、非っ常~に役立つ固有技能だ。そして二人共固有技能のレベルが高い。MAXと8だ。MPも双方二桁を超えているのもナイスだ。もし魔法でも覚えられるなら更に多少底上げもできる。肉体レベルも大して高くないからMPを意識して伸ばすことすら可能かも知れない。

 万が一にも取り逃したくない。最低限彼ら二人のやさとやらの場所を掴んでおくことは必要だろう。「ローキッド」の予約? まだ十六時過ぎだし、そんなもんどうとでもなるだろ。ベルの為にも正確な居所は掴んで置いたほうがいい。

 左手に持っていたインバネスを身に付け、50m程の距離を置いて尾行する。人通りも多いし、彼らも尾行されている事など露ほども考えていないようだ。楽しそうに何か会話をしている。アクダムに微笑みかけるカロスタランの横顔を眺めながら唇を噛むと、心を何かで塗りつぶしながら尾行に専念した。俺には特別な尾行のテクニックなどありはしないが、そんなもん、尾行を用心されてなきゃ関係ない。二十分ほどで彼らのやさを突き止めた。何の変哲もない家だった。倉庫や厩舎もあるようで、店舗を持たない小規模な商家といった佇まいだ。屋根は瓦葺きではなく板葺きで、小さな傷みもチラホラと見える。

 門を開け、馬車を誘導するアクダムとそれに従うカロスタランを距離を置いて眺めながら、ベルにどう話をしたものか、悩んでいた。



・・・・・・・・・



 流石にいきなりベルの持ち場に直行するほど馬鹿ではない。と言うか、先にラルファに相談したかった。ラルファの持ち場まで行く間に「ローキッド」に予約を入れる。十九時、五人。コース料理で個室。代金は先払いで15万Z(銀貨15枚)。高ぇ。一人三万かよ。だが、必要経費と割り切るしかないだろう。

 金のことはいい。確実に役に立つ転生者に渡りをつけられるなら安いもんだ。問題はベルだ。いつも丁寧に喋り、ラルファみたいに俺をおちょくったりせず、影に日向に俺を立ててくれている。彼女の泣いた顔は見たくない。

 アクダムとカロスタランの様子からは二人が愛し合っているようには見えなかったが、そんなことたったあれだけの時間でわかるはずもない。もしカロスタランがベルとよりを戻すことになったら、アクダムが泣くのだろうか。彼らがどの程度深い付き合いをしているかなど解りよう筈もない。だが、彼らは「家」に帰ると言っていた。二人で暮らしているのだろう。

 と言うことは、それなりに深い関係にある可能性は高いと言えるだろう。種族こそ違うが、同じ日本人同士だ。話も合うだろうし、日本語で会話すること自体精神を癒してくれる。例えば、俺だってラルファやベルと二人で同じ家に暮らしていたら遅かれ早かれ情は湧いてくるだろう。

 疑問は残るし、気持ちの整理を付けること自体大変だが、何とかするしかない。

 ラルファを見つけた。交差点の角に立ってベルに貰ったマフラーを首に巻き、俺のやった皮手袋をしている。ぼうっとした表情で道行く人を見ている。

「ラルファ。見つけた」

「アル! いきなり驚かさないでよ、もう」

 いきなり横から話しかけた俺に吃驚したようで文句を言ってきたが、すぐに俺の話に食いついてきた。

「ええっ!? 見つけたの? やった! で、どうなの?」

「男女の二人組だ。レストランで話す約束をしてきた。念のため家も尾行して突き止めてあるよ」

「へぇ、二人もいたんだ。良かったじゃない!」

 何も知らないラルファは嬉しそうに言う。俺がラルファでもそう言うだろうけどね。

「何よ……その顔、元気ないね。やっと見つけたんでしょ? あ、あんた男がいたからって落ち込んでるの? ばっかねぇ」

 せっかく時間を掛けてまで転生者を見つけたというのに、どこか浮かない顔をしていたんだろう。続けて言ったラルファの言葉に俺は平坦な声で返事を返す。

「いんや。もっと大きな問題があるかもしれない。ベルにはすぐに言えない。まずラルファに話を聞いて欲しいんだ」

「え? どういうことよ?」

「いいから聞け。まず、男の方。エルフだ。カロスタランという名前で、元の名を……瀬間洋介と言う」

『ええっ? マジで!?』

 日本語でマジとか久しぶりに聞いたわ。

「待った、続きがある。彼はもう一人の転生者の女と一緒に暮らしているようだ。同じ家に入っていった。話かけたのは往来のど真ん中だったからいつまでも話もできなかったし、女連れだったから洋介さんにはベルの話はしなかった」

「え? ……まぁ。十五年だしね……そういう事も……あるかもね……でも」

「ああ、そういう事もあるだろうな。だからまずお前に話をしたんだ。で、もう一人の女の方、ドワーフでアクダムという名前だ。元の名は西岡若菜というらしい」

『ええっ? マジで!?』

 またかよ。嘘言ってどうする。マジですよ。

「若菜、生きてたのかぁ……」

 ラルファの目に涙が浮かんだ。

「え? 知り合いか?」

「うん、友達。一緒にバスに乗ってた……」

「そうか……」

 まいったな、こりゃ予想外だ。

「二人がどれくらい親密なのかはわからない。顔見て話をしたのなんて一分くらいだしな。ひょっとしたら、どちらかが雇われているとかで付き合ってないのかも知れないが、同じ家に入っていったのは確かだよ。多分どちらかは商人なんだろうな。倉庫のある商家のような家だった。俺が見つけたときは二人で仲良く馬車に乗っていたよ。アクダムがお前の友達だったのなら……お前の友達のどちらかが辛い思いをするかも知れない」

「うん……」

「で、ベルにはどう話をしたもんかと思ってまずお前のとこに来たんだが、こうなるとあれだな。全部見たまま言う方がいいかも知れないな……」

「うん……そう、だね」

 気落ちした表情でラルファがボソリと言う。

「ラルファ、気持ちは解るがお前が気に病んでも仕方ないぞ。こういうのはなるようにしかならんだろうしな……」

「うん……わかってる。けど……」

「ああ、そうだな。だけど、本当にお前は気にするな。せっかく友達と会えるんだ。ベルだって彼氏と会えるんだ。そんな顔してるなら置いていくぞ。今日は糞高いレストランでコースを頼んだんだよ。元気出せ」

「うん、そうだね。そうする。割り切るしかないね。ごめん、私、役に立てそうにないや……」

「けっ、そんなのハナから思ってねぇよ。せいぜい旨いもん食って元気だしとけ。そんくらいしか取り柄ないだろ、お前」

 そう言って慰めるくらいしか出来なかった。



・・・・・・・・・



 十七時半、ベルの担当している場所まで二人で行くと、訝しむ彼女を適当な飯屋に誘い、豆茶を頼む。そして、言いにくいことを言う。

「ベル、いい話と、よくわからない話がある。まず、いい話からしよう。日本人を見つけた。二人組だ。片方はエルフの男性でカロスタランと言う」

 俺は努めて事務的に話を切り出した。
 ベルの顔が嬉しそうに輝く。

「やったじゃないですか! 今日会えるのですか?」

「ああ、勿論だ。高級レストランを予約してある。今夜十九時だ。それから、落ち着いて聞けよ、ちょっと複雑かも知れん」

「はぁ」

「その男、カロスタランの元の名は、瀬間洋介と言うそうだ」

『どこですか!? すぐに行きます。洋ちゃんは、どこにいるんです!?』

 予想通り、凄い勢いで迫られる。まぁ覚悟はしてた。

「複雑かも知れない、と言ったろ。いいから聞いてくれ。彼とは必ず会えるから」

『でも、でも、またどこかに行っちゃったら……』

 ベルの目に涙が浮かんでいる。瀬間洋介の無事を嬉しがる涙か、すぐに会わせようとしない俺を恨んでの涙か。

「大丈夫だよ、家も突き止めてある。だいたい不思議に思わないか? 普通の状況なら俺は洋介さんにベルの話くらいすると思うだろ?」

 ベルははっとしたように俺を見つめる。

「で、日本人は二人組と言ったろ……。もう一人、ドワーフの女がいた。アクダムという名で、元の名は西岡若菜、ラルファの友達だそうだ……」

「ええっ!? ラル、良かったじゃない!」

 ベルは目に溜まっていた涙を零して、今度は心の底から、という感じでラルファに笑いかけた。

「うん……でも……」

 ラルファは辛そうに身をよじり、ベルから顔を背けた。

「ベル、まだ話は終わっていない。いいか、落ち着いて聞いてくれ。彼らは……同じ家に入っていったよ。親しげに会話しながらね……」

 それを言う時の辛さといったらなかった。だがベルは「それがどうした」とでも言う様に表情も変えず聞いていた。

「ああ……そういうことですか……。ご心配をおかけしたようですね。でも、大丈夫です。以前お聞きしましたが、転生者は全員かなりの距離を保って生まれています。洋ちゃんは私を探す過程でその人と出会ってたまたま一緒にいたに違いありません。それを言ったら私もアルさん達と毎日一緒にご飯を食べ、同じ宿に泊まっていますよ? でも、洋ちゃんはそれを知ったとしても何も言わないし、気にしないと思います。勿論経緯は私からもちゃんと彼に説明しますが、私と同じことですよ」

 ぐ……む……そう言われるとすぐに言い返せない。

「む……確かに……そうなんだが……。ベルは強いな……」

「うん、強いね……」

 俺とラルファはベルの言葉に絶句して、在り来たりのことしか口にできなかった。

「強い? 私が?」

 ベルは能面のように表情を消しながら言う。

「私は強くなんかないですよ。こう言っては何ですが、日本人の感覚そのままだと子供のうちはいいでしょうが、そろそろ大人にならなければいけない時期です。事故で生まれ変わったのがこんな世界ですからね。既にアルさんもラルも経験があるようですから言いますけれど、私も家からバルドゥックに来る間、私に近づいてきた人を何人か殺しました。
 これは私が強いからではありません。弱いからです。本当に強いのなら相手が罪を犯したり、まさに罪を犯そうとしているときでも殺さずに改心させる道を選択するはずです。私はもう日本人ではありません。オース人です。強かろうが弱かろうが関係ありません。オースのやり方で生きていくと決めたんです。
 だから、例え洋ちゃんが犯罪に手を染めて汚れていたとしても関係ありません。例え誰かを愛していたとしても関係ありません。最後に私の隣にいてくれれば満足です。
 何より私は彼の事を信じています。彼がオースの社会に染まっていたとしても問題ありません。それもまた彼なのですから。オースの冒険者は普通はちょっと仕事をしてお金を貰って、そのお金でお酒を飲んだり、女性を買ったりしているのは当たり前のことです。
 もし洋ちゃんがそうしていても私は彼に幻滅したりなんかしませんよ。だって、オースではそれが普通ですから。あまり多くはないですが女性が家長である貴族家なんかだと夫を複数持つ方もいらっしゃいます。
 あは……何言ってるんでしょうね、私。
 言ってること滅茶苦茶ですよね。

 ……。

 …………。

 でも、でも、私は洋ちゃんともう一度生きて会えることに感謝しています。

 そのチャンスをくれたアルさんに感謝しています。

 強いということを、私を襲った人を排除しても殺さずに騎士団に引き渡したアルさんを尊敬しています。

 なんでもいいんです! 彼に、洋ちゃんに会えさえすれば、なんでもいいんですよ!!

 会わせて……彼に……。

 お願い……もう一度……。

 お願いです……。

 お願いします……」

 最初は静かに話し始めたものの、遂には俺たち二人に掴みかからんばかりに涙を流しながら激昂したベルをなだめるのには苦労した。

 時刻はそろそろ十八時を回った頃だ。俺はラルファに手早く作戦を説明した。俺達は先に店に行き、カロスタランとアクダムの到着を待つ。彼ら二人が店に来たら、すぐに小便にでも誘ってカロスタランと二人になり、ベルのこと、アクダムとどういう関係なのかを聞く。それから注文でもするふりをして店の個室以外の場所で待機していたベルとラルファに状況を説明する。

 とにかく、なりふり構わずいきなりベルがカロスタランのところにすっ飛んで行って抱きついたりして状況を混乱させるのだけは避けたいと思ったのだ。ラルファも賛成してくれたので待機中のベルについてラルファに任せることにした。

 もし問題がなければ今晩はさっさと二人でどこぞに消えてもいいと言ってベルを納得させるのにすごく時間がかかった。念の為に万が一ベルとカロスタランが途中退席するにしても二十一時くらいまでは「ローキッド」で食事を続けること、最終的にアクダムとどうなるにせよ俺達二人は今晩中には宿に戻ることだけをベルに理解させた。



・・・・・・・・・



 そろそろ十九時だ。高級レストラン「ローキッド」の個室で俺は腕を組んでカロスタランとアクダムの二人の到着を待っている。店には五人全員が個室に入るまで食器も用意しないでくれと言ってある。ベルとラルファを別室に控えさせることも了承させた。また、いつかの轍を踏まないように、遅れて(と言っても時刻通りだろうが)くる二人のエルフとドワーフの男女の服装については頓着しないように言い含め、袖の下も店のボーイに渡してある。準備は万端だ。

 一体彼ら二人はどういう関係なんだろうか?

 恋愛関係か、雇用関係か、それとも単なる友人関係か。

 正直なところ恋愛関係でなければ全く問題はない。

 そうなると老婆心で早とちり(とまでは言えないとは思うが)した俺が笑われれば済むだけの話だ。頭をかいて苦笑いでもしていればいい。

 恋愛関係だとしてもそれが一方的なものであればまだましだ。

 例えカロスタランの方がアクダムに恋慕していたとしても、俺の見た感じだとベルの方が日本人的な感覚で言えば圧倒的に美人だし可愛い。身体だってベルの方が……いや、これ以上は止しておこう。だが、好みの問題もあるし、アクダムの人格に惚れたということもある。

 アクダムの方がカロスタランに惚れていた場合、ベルとカロスタランは相思相愛ということになり、アクダムはそれに一方的に入り込もうと横恋慕する存在ということになる。その場合、アクダムについては友人だったということもあるからラルファに任せるというのもありだろう。

 カロスタランとアクダムが相思相愛だった場合が一番厄介だ。ラルファはどうか解らないが正直なところ俺はベルに肩入れするだろうし、こう言っちゃなんだが、俺の影響力は大きいだろう。今まではカロスタランともアクダムとも接点はなかったが彼らも日本人だ。同族意識くらいあるだろう。ましてベルとラルファとはそれぞれ前世に縁があった相手だし、無視することも困難だろう。ある意味でベルとラルファの生殺与奪を握っている俺のことも当然無視は出来まい。

 人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてしまえ、という諺の通り、恋路に口を出すつもりはないが、どうしても態度や口の端に乗りそうな気がする。自重すべきだろう。どう考えても俺は中立の方がいい。

 そんなことを考えていたら部屋がノックされた。

 さあ、気持ちを切り替えろ。

今日読み直していたら二章第十四話のラルファの固有技能の説明文に重要な抜けがあることに気づきました。追加修正しています。
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