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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第四十三話 反省

7442年12月28日

 今日はこれから王城の騎士団本部へ納品に行くので、そろそろ支度を整えておいたほうがいいだろう。出発は飯を食ってからだろうからこの時期なら午前七時くらいか。正直、丸一日何も食べていないので腹はペコペコだ。

 下履きを履いて靴下も履き、鎧下を身に付ける。
 編み上げのブーツに足を突っ込み、ゴムプロテクターを装着し、必要なものをDリングにぶら下げる。
 念のためゴムの修理道具なんかも一式袋に入れ、そのままサドルバッグに放り込めるようにする。
 あとは銃剣を確認して、販売証明(領収証)を用意する。

 そして、兄貴が呼んでくれるのを待つばかりだ。時計の魔道具で確認したら時刻はまだ五時過ぎだ。

 すべての準備を整えてベッドに腰掛け、さっき書いたメモを見直す。

 うーん……一体何が起きているんだろう。

 記憶の抜け、と言うか、記憶していること自体の忘却、と言うか、何と表現したらしっくりくるのかは分からないが、取り敢えず記憶障害でいいや。そう高い頻度で記憶障害を起こしていることは無いとは思うが……。

 もしこれが転生と関係があるとすれば転生者全てに起こっているのだろうか?

 精神の若返りは、ベルの話からして全員に起こっていると考えられなくもない。だけど、ベルやラルファと話していた限りにおいて彼女達が記憶障害を抱えているようには思えない。

 それはクローやマリーにしても同様だ。今から思えばマリーも精神が若返っていた感もある。だが、彼らに記憶障害があるようには思えない。もしあったとしたら大変だ。魔法の習得法について口止めされたことを忘れでもしたら面倒なことになっちまう。まぁ、冷静に考えて魔法の習得法も魔力の増大法もいずれ広まる可能性は否定できない。双方共に情報が拡散することは重大な問題を孕んでいる。

 変な言い方だが、シャーニ義姉さんから実家のウェブドス侯爵家に秘密が漏れる可能性だってあるのだ。まぁ、これは家に義姉さんが正式に嫁いで来て、子供まで設けたため、今ではあまり気にしていない。オースでは嫁いだり婿入りした場合、以前の実家とは縁が切れ、新しい家の人間になるという意識が強い。

 これは、特にバークッドだけの考え方ではなく、ウェブドス侯爵領のあるジンダル半島地方ではごく普通の価値観だということは既に理解している。なのでシャーニ義姉さんのラインは置いておいてもいいだろう。シャーニ義姉さんから漏れることを心配するならお袋からお袋の実家であるサンダーク公爵家に漏れる事まで心配しなければならないからだ。

 兄貴のところでは子供が二人生まれている。この後も新しい子供ができないとも限らない。どうせその子達にも姉貴のように五歳くらいから魔法を叩き込むのだろう。そして、その子達も大きくなり新たに子供を設ける時が来る。姉ちゃんだっていつまでも独身でもないだろうし、俺にだっていつ子供ができるか知れたもんじゃない。オースの人々にとって魔力が多ければそれだけで有利な人生を送れるのは確かだ。

 尤も、MPで10やそこら多いくらいだと……やっぱすっげー有利だよな。それが文字通り桁が違うとなれば大変だ。いずれ俺や姉ちゃんはともかく、兄貴くらいの魔力を持つ人も……いや、姉ちゃんくらいもないことはないか。とにかく、膨大な魔力を持つ人もぽちぽちグリードの血筋から出始めることだろう。

 オースでは大体二十歳前後で最初の子供を持つのが普通で、大抵の場合複数もうける。今から三世代、五~六十年も経てば子供を作る数にもよるが姉ちゃんくらいの魔力を持った人が十~二十人くらいになってもおかしくはない。そうなるとどんな奴が混じっていても不思議はない。

 俺みたいなうっかりさんがポロっと言ってしまう可能性が高い。早いか遅いかの違いだ。これを防ぐには一子相伝にして伝承者以外を殺すとか、そういったことが必要になる。親父も流石にそこまでは考えていないだろう。もしそうなら兄貴に二人の子供が出来た今、姉ちゃんと俺は二人揃ってとっくに殺されていなきゃおかしい。親父もお袋もねずみ算式に増えることに気がついていないなんて馬鹿なこともあるまい。

 おそらく、親父は永遠に秘密を守ること自体は考えていないだろうし、守れるなんて思ってもいないだろう。

 だが、バークッドみたいな田舎の一士爵家だと何十年後かは解らないが異常に魔力の高い者達の出身として大きく脚光を浴びる事態も考えられる。その時までに一族の誰かが国内でも高位の要職に就いていればある程度の庇護は期待出来るだろう。

 姉ちゃんを第一騎士団に無理やり押し込んだのも頷ける。まぁ第一騎士団なら魔力関係なしに受験出来るだけでも凄い事なので、これは偶然だろうが、兄貴の凱旋に合わせて戦場から戻るまでの時間でお袋と相談して考えたのかも知れない。

 俺が新しい国の国王を目指すと言って家を出る時にだって、止められはしなかった。今から思ってみると確かに俺の好きなようにやらせてくれた形になってはいる。

 しかし、俺の魔力量はそれこそ規格外で、転生者でもなければ、そして、魔力をMPという形で観察できなければ絶対に達することは出来はしない。まして推し量るなんてまず無理な注文だ。

 異常な魔力量を誇る兄姉だが、両親は俺の魔力量がその何倍もの量があることは既に知っていた。ことによったらコイツ(俺)なら建国は無理かも知れないがどこか外国で要職に就くくらいのことは出来るかも知れない、くらいは思われていた可能性もある。

 無理だったとしてもロンベルト王国に戻り、宮廷魔術師として頭角を現すくらいは造作もない。その程度は計算していたとしても何の不思議もない。万が一上手く行って小さな国でも作れるなら俺を頼って一族揃ってバークッドから身を寄せたって構わないのだ。そう考えると兄貴を始めとする俺達兄弟が成長し……そうだな、三十~三十五歳くらいになるまでの間は魔法の修行法や魔力の増大法が知れ渡るのは好ましくはないだろう。

 例をいくつか考えてみよう。例えば姉ちゃんだ。上手く第一騎士団に入団することができた。あの様子なら騎士団でもそこそこ出世するだろう。団長にまでなれるかどうかはわからないが、中隊長とかあたりまで行けたのなら、少なくともロンベルト王国内で暮らす分には申し分ないほどの財産や爵位、それから騎士団を背景とした常設軍の後押しが得られるだろう。

「あの」グリードの一族なら異常な魔力を持った子供たちが輩出されるのも頷ける。

 こういうことになるだろう。そして「あの」グリードの一族に連なるものは結構な率でそこらの魔術師以上の力を持つのが当たり前、なにか秘密もあるようだが、国軍の中枢に食い込んでいるし、厄介なことでもして目を付けられたら大変だ、というように誘導すらできる可能性は高いだろう。外国に目を付けられることもあるだろうが、その時は条件次第でその国に一族郎党寝返ってしまうのも手ではある。

 俺だって成功すれば王族だ。王族に秘密があるのは当たり前だろう。いや、知らんけど。王様である俺が「それは我が王家の秘密よ」とか勿体つけて言えばいいだけだ。そうやって何十年か時間を稼げさえすれば問題ない。あとは秘密がバレたとしてもそれまでに築き上げてきた地位や財産があれば子孫も有利に人生を送れるだろう。

 多分、親父はこう考えたはずだ。当然細部は違うだろうけどね。似たような思考をしたのではないかとは思う。

 それはそうと、昨日のラルファだ。あいつ、最初は慌てて俺を庇ったが、すぐに兄貴の側に回りやがった。まぁ、俺が家族の決まりを破ったのは確かだし、殴られたのや罰を受けたのは仕方ない。むしろあの程度で済んで良かった。だけど、お前もその恩恵に浴していたろうがよ。くっそ、なんなの、あいつ? そう言えば様子も変だったな……。……あ。さてはあいつ、兄貴に惚れたな。ふざけんな、お前を義姉だなんて呼びたくねぇよ。徹底的に邪魔してやろうか。

 こんな自分勝手な妄想をしていたら扉が叩かれた。開くと兄貴が立っていた。兄貴は腫れた俺の頬に手を当てると治癒の魔法で俺の傷を治してくれた。

「親父やお袋がどう思って言ったかきちんと考えたか? ウェブドスの騎士団にいる二人は折に触れて俺も様子を見ておいてやる。三~四年経ったら迎えに行くそうだな。彼らもそれくらい鍛えられればいっぱしになっているだろう。その時、彼らに恥ずかしくないようにお前もしっかりと成長していなきゃならん。……わかったな。さぁ、飯を食いに行こう。今朝はお前の奢りだ。旨いものを食わせてくれよ」



・・・・・・・・・



 いつも朝飯を食っている店に兄貴や従士達を案内し、ゼノム達俺のパーティーの面々も集合した。昨日の昼から俺がいなかった理由については兄貴が俺に用を言いつけたことになっていた。なので従士達や俺の奴隷二人も何か言ってくることはなかった。パンとスープ、豚肉のソテーの朝食を摂り、今日は全員で王都に行く。

 兄貴と俺を除くとこの中では王都に行った事があるのはミルーの受験の時に同行した従士のショーンと若い頃に行ったことがあるというゼノム、捕虜となって奴隷市に出されたズールーだけだ。なので、全員が楽しみにしているようだ。碌に王都を見たことのないズールーや、一度も行ったことのないエンゲラもオーラッド大陸西部で最大の都市であるロンベルティアをゆっくりと見て回る事が出来るのは幸運だと考えているようだ。

「ちょっと今日の予定を確認するぞ。アルと俺達は王城の騎士団本部に行って納品後すぐに採寸する。多分二時間程度で終わるだろう。だから昼食をロンベルティアで摂ったら夕方までは自由時間だ。いろいろな物があるだろうから各自見聞を広めるためにも見て回れ。落ち合う場所については後で決める。ゼノムさんたちは今日から一週間王都に滞在するのですよね?」

 兄貴が言った。

「ええ、既に宿も取ってあります。『グリンフ亭』という宿です。グリード卿御一行は王都に宿泊はしないのですか?」

 ゼノムが答えたが、

「えっ? お兄さん達、今日帰っちゃうんですか? いろいろ案内して欲しかったのに……」

 ラルファが口を挟んできた。お前、俺の兄貴はガイドじゃねぇよ。ふざけんな。それから、ゼノムだって貴族の跡取りである兄貴には丁寧に喋ってるじゃねぇか! 何よその親しげなべしゃりは? ひょっとしてお前、バークッドのグリード家、舐めてねぇ?

「ん? アルに聞いていなかったかい? 俺達は今夜は王都に泊まるけど、明日の朝バークッドに帰るよ。ごめんね。俺達の宿は『ロンヘルーク亭』と言うんだ。場所がちょっと判りづらいから別の所に一回集合してそれから宿に向かうんだ」

 そういや兄貴、昨日、ラルファ達ともすぐに打ち解けていたな。今もなんだか弟の友達というよりは会社の後輩とかに接するような自然な話し方だった。っつーか、家の外の兄貴のことは全然知らなかったけど、やっぱ人当たりよくて格好良いな。

「グリード卿、お願いがあります。納品時の登城の際に、私と娘のラルファ、ベルナデットも同行させて頂いても宜しいでしょうか? 是非一度王城を見せてやりたいのです」

 ゼノムが頭を下げて兄貴に頼んでいる。

「ん? ああ、どうだろうね」

 兄貴が俺を見た。何だ?

「グリード商会の長はアルだから、俺に決定権はないですよ。アル、どうなんだ?」

 え? あ? ああ、そういうことか。

「別に構わないよ。ズールーもエンゲラも連れて行くし……」

 俺がそう言うとゼノムは破顔し、ズールーとエンゲラも驚きの声を上げている。

 ありがとうな、ゼノム。



・・・・・・・・・



 宿に戻ると第三中隊の人が迎えに来ていた。

 この人が王城まで俺たちを護衛(必要ないが)し、参内の手続きもしてくれるんだろう。
 第三中隊の人は兄貴や従士達、あと何を勘違いしたのかゼノムを始めとしてズールーやエンゲラにまで丁寧に挨拶をしていた。
 そして、グリード商会の長である俺に対してもさぞや丁寧に挨拶をするのかと思ってふんぞり返っていたら、

「あんた、ちゃんと顔洗ってきた? ハンカチ持った? 綺麗な格好しなさいよね」

 と来たもんだ。くそ姉貴。

 俺達兄弟三人が軍馬に騎乗し、二頭立ての馬車二台と従士が四人、そしてゼノム以下五人が徒歩という、合計十四人でロンベルティアを目指す。
 今の時間は午前七時ちょうどくらい。一〇kmも離れていないので道の状態も良いし午前十時には王城へ着くだろう。隊列の先頭で俺を真ん中に三人並ぶと久々に兄弟の会話を楽しむ。

 途中、十分程度の休憩を一度挟んだだけで問題なく王城へと着いた。

 王城へ参内し、三の丸にある広場に着くと、第一騎士団の人たちがたむろしていた。
 俺たちの姿に気づいたのだろう、歓声が上がる。
 団長のローガン男爵の姿もある。
 兄貴に背を押され、俺は男爵の前に立つと丁寧に頭を下げた。

「団長閣下、ご注文頂いておりました品物の納品に参りました。……あちらでございます。採寸通りに仕上げておりますが、出来ましたらすぐに着装していただき、ご確認願います。万が一サイズに問題があればすぐに修正いたします」
「うん。すぐに着装できるよう、注文した者は全員鎧下だけにしている。首を長くして待っていたよ。さぁ、皆、確認だ。すぐに着装して見ろ!」

 言うが早いか男爵は馬車まで小走りに駆けていった。
 その後を第二中隊の人たちが続いていく。
 バークッドの従士が一人ひとりの名前を確認して荷台から木箱を手渡している。
 木箱の蓋には第一騎士団の紋章と注文者の名前が彫ってあり、側面にはグリードの家紋とバークッド村産である文章が同様に彫られていた。箱だけで結構金かかってるんじゃ……まぁドーリットあたりの職人に頼めばひと箱二万Z(銀貨二枚)というところか。あの辺りだとそう大した価格でもないだろう。

 広場には今回受領しない人たちまで結構見に来ているようだった。なかには第一騎士団以外の人も相当数いるようだ。
 俺は兄貴と顔を見合わせると頷いて言った。

「では、第三中隊の方、次回生産ロットの採寸を致しますので、こちらにおいでください」

 従士が六人もいるし、そのうち四人はゴムの生産にも携わっている連中だ。
 採寸は彼らに任せればいい。
 一人十五分として合計で一時間もしないで採寸は終わるだろう。
 採寸している傍では男爵と第二中隊の面々が俺達兄弟やバークッドの従士達を参考に鎧を装着している。

 正騎士が鎧を装着するのに第一騎士団の従士は手伝わないのだろうか?

 姉ちゃんに聞いてみると「私も、アムゼルとグロホレツもいつも一人で装着しているし、装着に掛かる時間も短いからね。それも羨ましかったみたいね。一人で短時間で装着出来るようになりたいんでしょ? 昨日皆で装着の仕方を教えてあげたしね」と返ってきた。

 確かにゴムプロテクターは一人で着脱可能なように作ってある。
 俺は普通の重ね札の鎧(スプリントメイル)金属帯鎧バンデッドメイルなんか親父が持っていた古い型の重ね札の鎧(スプリントメイル)しか知らなかった。
 だから、ほとんど参考にすらせずに、最初から一人で着脱できることを念頭に置いて作っていたので今迄あまり気にしていなかった。
 参考にしたのはプレートの位置や形状くらいだ。
 今では世代が進んでいるのでほとんど面影は残っていないが。

 そう言えば親父もお袋も俺が何か言う前に一人で鎧を着脱していたからなぁ。一番最初の角ばったプロトタイプのテストの時に親父が着るのを手伝ったくらいだっけ。

 そうか、一人で着脱できるというのも売りなのか。

 そうこうしているうちに採寸も進み、幾人か着装の終わった人も出てきた。
 ジャンプしたり、軽く走ってみたりして感触やサイズを確かめているようだ。
 「軽い、軽い」という喜びの声が聞こえてくる。
 俺は揉み手をしながら男爵に近づくと言った。

「団長閣下、如何でしょうか? 私共バークッドの鎧は?」

「うん。こりゃ軽くていいな。サイズもぴったりだ、違和感もない。……これなら」

「? これなら?」

「あ、いや、こっちの話だ。ところで残金を支払わねばな。おい、ノース! グリード君に残金を渡してやれ。グリード君。彼に残金は全てあずけてある。彼から受け取ってくれ。しかし、軽いな。おおっ、うむ、肩がよく回る……」

 どうやら忙しいみたいだ。
 ノースと呼ばれた人が袋を持って小走りに駆け寄ってきた。
 重い袋を受け取ると兄貴と一緒に数えた。
 金貨百六十二枚、一億六二〇〇万Z、確かに受け取りました。
 金額の入った販売証明(領収証みたいなものだ。前金の分と合わせて贅沢税の納税に使う)にサインを貰い、懐にしまう。
 すると、兄貴が袋を小分けにして多い方を俺に渡してきた。

「ではグリード商会長、これにサインを」

 そう言うと今度はウェブドスの様式の販売証明にサインを求めてきた。
 金額は……二億一六〇〇万Zだ。

「うん……はい。ウェブドスの方の贅沢税も一割でしょ? 二一六〇万Zは俺が払うよ」

「ダメだ。俺たちの方は税を払っても問題はない。大きな声では言えんが、今回の件、親父もすごく喜んでいる。それに……お前は金が要るだろう? 親父は半々でも良いくらいだと言ってたんだ。俺もそう思うが、お前の手紙に迷宮でも頑張っていると書かれていたしな。お前の言葉に甘えさせてもらうことにした」

 兄貴はそう言って俺に頭を下げた。よしてくれよ。

「あ……うん。わかった。ありがとう」

 ずっしりとした重みの金貨の袋が手渡された。
 金貨一〇八枚、一億飛んで八〇〇万Zだ。ここから三二四〇万Zの贅沢税を払えば残りは俺のものだ。
 あ、第三中隊の人達から前金も受け取らないとな。
 いち早く採寸を終わらせたケンドゥス士爵の傍に行き、声を掛けた。

「ケンドゥス中隊長。大変お待たせいたしまして申し訳ありません。今回採寸させていただいた鎧の納品は4月の終わりくらいになるかと思います」

「おお、グリード君。今回は我ら第三中隊の注文を受けて貰ってありがとう。で、な。物は相談だが、次回もウチから注文させて貰え「ケンドゥス! 手前ぇコラ! 騙しやがったな!?」

 広場に響く胴間声に全員が驚いて声の主を見た。
 二m近い身長のクマみたいなおっさんに率いられた鎧下姿の男達が数十人、こちらに向かって物凄い形相で走ってきた。
 30~40人くらいいるのか?
 ベルとラルファは明らかに怖がっている。
 他の人たちは俺も含めて何がなんだかぽかんとするばかりだ。

「あ、まず……」

 ケンドゥス士爵は体を縮こませると彼から隠れるように馬車の裏へと身を隠した。

「おい! うるさいぞ! ジェフ! 客人の前だ。騒ぐな!」

 ローガン男爵がでかいおっさんを一喝した。

「う、はい、団長……その鎧……くそ。あんたもケンドゥスの野郎とグルかよ! っざけんなよ! グリードを推薦したの俺じゃんかよ! おいコラ、グリード! てめぇ、俺に恩があるよな? な? だからグリード商会に言ってくれよ。俺の鎧の注文も受けてくれってよぅ。なぁ、頼むよ」

 そのおっさんを見た兄貴はすぐに駆け寄っていった。

「お久しぶりですビットワーズ卿、その節は大変お世話になりました」

 ビットワーズ卿?
 じゃあこのクマみたいな我侭言ってるおっさんがジェフリー・ビットワーズ準男爵?
 第一騎士団副団長の?
 慌てて俺も駆け寄る。

「初めまして、ビットワーズ卿。兄と姉が大変お世話になりました。私はグリード商会のアレイン・グリードです」

「おう、ウェブドスの黒鷲こくしゅうじゃねぇか。元気か? それと、ん? グリード商会? おお、あんたが! なぁ、頼むよ、もう一着、受注してくれよ。だいたい、最初は団長と二中の連中で、次が三中だけって、そりゃない「ちょ、副団長! ご自分だけですか? 俺らもいるんですけど。あんまりですよ」

 もう何がなんだか、収拾がつかない。

「静かにせんか! 馬鹿共!」

 団長がまた一喝した。一気に静まり返った。ラルファ、びびって漏らしてねぇといいけどな。

「お前ら、それでも栄えある第一騎士団か!「お前が一番五月蝿いわ! ローガン!」

 え? 国王かよ!
 あと、妃殿下もその後に付いて来ている。
 あ、まずい!

 俺は慌ててバークッドの従士達とゼノム達の所に駆け寄ると「国王陛下だ。俺の真似をしろ」と小声で言って臣下の礼を取った。
 全員顔色を変えて俺にならった。

「昼飯前の散歩をしていたらよぉ、五月蝿ぇんだよ。何だよ、一体?」

 傍まで来た国王がローガン男爵に声を掛けた。

「は、その……騎士団の装備品の件で……見解の相違から議論が、その……些か白熱しておりました」

 ローガン男爵は苦し紛れに言った。

「ん? ローガン団長、その鎧……陛下、グリードが来ておりますわ」

 ユールが気づいたようだ。

「ん? おお、グリード。おるのか? 面を上げい!」

 お、俺かよ!?
 ……兄貴達の訳ねぇよなぁ。

「はっ、ここに」

 仕方ない。跪いたまま顔を上げる。

「おお、おお、遠いな「おお、グリード、こちらに来りゃれ」

 モリーンが俺の顔を見つけ国王を遮って声を掛けてきた。
 仕方ない、行くか。
 バークッドの従士やゼノム達はおろか、兄貴や姉ちゃんまでびっくりしているようだ。
 そりゃそうだろうなぁ。

 俺は国王たちの傍まで行くと再度跪き、臣下の礼を取った。

「グリードよ、登城は年明けだった筈では?」

 モリーンが俺に言った。

「はっ、モーライル妃殿下。本日は第一騎士団への装備品の納品で登城致しましてございます」

「そうか。少し早いが、そのぅ、例の物は今日はあるかえ?」

 小声になった。

「はい、ございます。馬車に載せております。今納品したほうが宜しいですか?」

 俺も小声で返す。

「いや、今はよい。あれば良いのじゃ。のう、皆もそうであろう?」

 モリーンはそう言って他の王妃達を見回した。

「ええ、そうですね。ですが、あとひと袋、六つしか残っておりません。年明けと言っても、次はいつ来るのですか?」

 ベッキーが言った。

「えー、一月三日か四日の参内を考えておりました」

 俺がそう言うと、今度はマリーンが口を開いた。

「え? 今日が二八日だから……ぎりぎりではないですか。モリーン様、どうします?」

「この場だとちと人目が気になりますね。グリード、そなた、仕事が終わったら誰ぞに声を掛けなさい。我ら誰でも良い、手の空いているものが行くゆえ、必ず呼ぶようにの。我らは当分二の丸櫓に居ます」

 モリーンが俺に言った。相変わらず小声だ。

「はっ、了解いたしました。仕事が済み次第お声をかけさせていただきます」

「グリード、あれな、俺、気に入ったわ。お前んとこ、いいもん作ったな」

 そう言った国王が去っていくまで跪いて見送った。



・・・・・・・・・



 その後はローガン男爵が整理をした。

 今回は仕方ないので既に予約のある第三中隊からの受注を受けるが、次回以降は団長が調整をして発注することになった。
 兄貴や村の従士達、ゼノム達も、ゴムプロテクターの人気に目を白黒させていた。
 第三中隊の今回採寸をした人達から前金を受け取り、それを従士のショーンに渡しながら、

「ゴム鎧、人気だろう?」

 と笑いかけると、

「ええ、大したものです。お屋形様もここまでは予想されておりますまい。良い息子を持ってさぞ鼻が高いことでしょう」

 と褒めてくれた。

「ところで、グリード君、あと、グリード卿、今日はこの後、予定はあるかね? もし無いのであれば昼食後にでも第三中隊の訓練に胸を貸してやってくれないか? 俺も噂に聞くウェブドスの黒鷲こくしゅうと出来のいい弟の実力を見てみたい。どうだろう?」

 第三中隊長のケンドゥス士爵がそう言ってきた。確か、以前断ったんだよな。俺はコンドームの件が片付けば別に問題ない。
 しかし、兄貴は折角の王都だ、従士達といろいろ見て回りたいだろう。

「おう、そうだな。久々にあれ見せてくれよ」

 副団長のビットワーズ準男爵も声をかけてきた。あれってなんだ?

「ああ、グリードが言うには自分は兄弟の中で一番弱いそうだ。兄貴と弟がどんなもんか、見てみたいな」

 団長のローガン男爵まで輪の中に加わってきた。
 えー、魔法抜きなら多分俺が一番弱い気もするぞ。
 それにいくら兄貴でも第一騎士団で揉まれてる姉ちゃんには流石に一歩譲るんじゃないか?

「あのぅ、団長閣下、皆さん、申し訳ありませんが兄は明日には戻るのです。今日は私が午後お伺いしますので、なんとかそれでご勘弁を……」

 そう言って頭を下げたが、

「いや、お客様のご要望だ。私等のような若輩で宜しければ是非稽古をつけてください。アル、心配しなくても一日くらい帰るのを伸ばせばいいだけだ」

 兄貴は俺の肩に手を置いてそう言って笑った。

 昼食後に以前第三中隊が訓練していた河川敷に行くことになった。
 姉ちゃんは昼食を兄貴と一緒に摂るらしい。
 勿論ゼノム達もだ。
 俺は……警護の人に妃殿下達にグリードの用が済んだと伝えて貰いに行くしかない。
 下手すりゃ俺だけ昼飯抜きかよ。

 ゼノム達も折角なので第一騎士団の訓練を見るつもりらしい。
 どうせ時間はあるだろうし、参考にはなるかもしれない。
 だが、ラルファよ。今のところ大人しいが、お前、姉ちゃんの前で兄貴に色目使ったら死ぬぞ。一応釘は差しておいた方が良いだろうか?

 いやいや、あいつの恋路の邪魔をするんだった。ここは放っとくべきだろ。


 アルが三世代後くらいの魔法使いの人数を十~二十人としているのは間違いではありません。アルの兄弟の子供や孫の各人が親戚間で婚姻をしないで三人づつ子供を設けた場合、3×3×3×3で81人ですが、アルは全員が魔法の適性があるとは思っていません。いいとこ十人に二人から三人だと考えています。自分を含め兄弟三人が魔法を使えたのは偶然だし、ある意味で母親であるシャル、と言うか公爵家の遺伝が強く出たのではないかとも考えています。オース一般で言われている十人に一人よりは多いだろうと考えている程度です。これはバークッドの従士やその子弟でも魔法が使えるのはやはり十人に一人くらいの少数だったからです。

 転生者の場合は、ひょっとしたら神の言う「アドバンテージ」で全員が魔法の才能があるかも知れない、くらいには思っている可能性があります。ですのでゼノムやズールー、エンゲラに魔法を教えようとは思っていません。前回の話でマリーも魔法が使えるようになったらしいことが判明しましたので、おそらく転生者なら全員魔法が使えるようになる、と思っているかもしれません。例外としてベイレット・デレオノーラが魔法を覚える前に死んでいますが、それとて魔法の修行をしていないだけで、修行をすれば使えるようになった(真実ですが)と考えているのでしょう。少なくともアルの出会った転生者五人は出会った時点で魔法が使えた人は一人もいませんでした。流石に自分を入れてもサンプル数が少なすぎますので安易な判断は下せないでしょうが、それでも暫定的に何らかの判断を下すならばアルの考えはそうおかしなものでもないと思います。

 また、魔法の技能の習得方法ですが、世間一般に知られている方法は、着火の魔道具でもコンロでも明かりでも何でもいいのですが、放出される魔力を小魔法キャントリップスの魔力感知で感じ取ることを何回も繰り返すうちに魔法の特殊技能に目覚めるのを待つ、という受動的な方法です。

 これは費用の掛かる魔石を消費して小魔法キャントリップスでひたすらに魔力感知を続けるものなので、金と時間が許されないと魔法の特殊技能の習得自体が難しいです。以前、主人公がマリーから聞いた一般的なやり方というのもありますが、あれは地方独特の迷信に近い方法です。そもそも、能動的に元素魔法を習得するのは非常に難しく、あの方法で全くダメ、と言う事はないでしょうが、ギターの演奏を覚えるのに指導者もいない状態で録音した曲だけを頼りにギターの弦に歯で齧り付いているようなものです。無魔法を習得するのにはシャルが考えた方法は非常に優れています。但し、条件として傍に既に魔法が使える人がいて、最初のうちは魔力を通すという感覚をある程度指導してもらう必要があります。

 これがやたらと流出したら今でこそ十人に一人という程度の魔法使いの人口が爆発的に増える事が考えられます。主人公を始めとする一般の人は魔法の才能を持って生まれてくる人間だけが魔法を使えるようになると思っていますが、それでも十人に一人以上の割合で魔法の才能を持っているとは思っています。つまり、魔法使いの人口が十人に一人だったのが二人とか三人とかなる可能性がある、と考えています。

 魔法は確かにすごいものですが、現時点では使える人なんかひと握りで、それでも脅威になるほどではないというのが一般常識です。この一般常識がひっくり返るかも知れないことにシャルの魔法の習得法の恐ろしさがあります。何しろ、金がかからないのなら自作農である平民の子供に畑仕事に出る前とかにやらせる可能性だって無いことはないです。まぁ魔力切れで眠ったり何か貪り食っているうちはまだましでしょうが、十歳を超え、性欲まで出てくるようになれば別の問題も発生する可能性もありますけどね。そんな事より魔法の特殊技能が二~三レベルだとしても治癒魔法の使い手が倍になったりしたら紛争時や戦争などでの国家間のバランスさえ崩す可能性が出てきます。

 それに十歳以下から始めたら魔力の増大についても明らかにサンプル数が増え、気付かれるでしょう。現時点では魔力切れの問題もあるし、常識では成人くらいから始めるのが普通ですが、サンプル数が増えたら常識を疑うという人だって出てきやすくなるでしょう。ある意味で魔力の増大法よりもシャルの魔法の特殊技能の習得法の方が圧倒的に重要な秘密です。

 アルは一日に複数回魔力を空にすることで魔力を成長させましたが、その魔力増大法については実は広まったとしてもあまり心配するような事でもありません。なぜなら幼児の時点で魔法を覚えさせたとしてもある程度はMPが増えると思いますが、一定量に達すると、おそらく眠くなるまでMPを使うようなことはしないでしょう。放っておいても少しづつ回復しますし、何度も連続して魔法を使うような集中力を発揮できる子供などそうそういないと思います。何回か魔法を使ったら疲れてしまって飽きて、別のことに興味を引かれるか魔力は空になっていないのに疲れから寝るかするでしょう。

 アルは転生者で感性などは若返ったりもしましたが意志力は大人のままです。だから出来たことです。また、ファーンとミルーは魔法を使って疲れてもシャルが無理やり(曽祖父の言葉を忠実に遂行して)魔力が空になるまで泣こうが喚こうが強制的に魔法を使わせたのであの魔力に達しているとお考え下さい。それに加えて魔力を追加して魔法の威力を上げたりして効率的に魔力を消費するやり方についてアルが発見してそれを伝えていると考えたほうが自然かもしれません。

 普通ならMPが50を超えるくらいまでになれば相当の魔力です。そこまで行けば指導者の魔術師も満足すると思います。それより魔法の特殊技能の経験を積ませるために魔力を空にするよりも適当に回復させて(休憩させて)再度魔法を使わせようとするのが普通の思考だと思います。魔法の特殊技能のレベルが上昇すれば魔力が増えることは知られていますので。

 あと、ラルファがファーンやアルに親しげな感じで話しているのは法的に問題ありません。正確にはファーンもアルもベルも貴族ではなく、貴族家の一員という準貴族身分です。たとえ公爵家の跡取りでも何らかの爵位を襲爵していないうちは正確には貴族ではなく、準貴族身分です。但し平民とは区別され、明確に貴族の一員ではあります。

 また、王位継承権を持った王族は特別な存在で、常に敬語且つ丁寧に相対しなければいけない義務がありますが、それ以外の貴族に対しては親しげに振舞ったり、「十年ぶりに会ったが相変わらず巨体だなぁ」とか明らかに冗談だとわかる範囲で馬鹿にしてもそれだけでは罪になりません。しかし、「お前、口臭いよ」とか「身軽なデブってキモイ」とかだと捉え方によっては貴族侮辱罪が適用されます。このあたりは親告罪なので言われた方が訴え出るか、領主であればその場で判断できます。
+注意+
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