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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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幕間 第十八話 西岡若菜(事故当時17)の場合

「いや~、買えてよかったよ~、付き合ってくれてサンキュ~」

 私はそう言うとバスに乗り込んだ。私の他、二人がバレンタインデーの義理チョコを買い忘れていたので、買い忘れた二人と、単に付き合ってくれた一人の四人で学校を抜け出して買いに来たのだ。義理とは言え、見栄もあるし、ホワイトデーのお返しにも期待できるからコンビニの安物で済ますのも憚られる。一人あたり千円は掛けないと回収がおぼつかない。

 バスは空いていた。私たち四人は車体左側中央くらいの入口からバスの先頭の方へ移動すると優先席に座った。全員並んで座れる椅子はこれしかないし、優先席が必要そうな人が乗ってきたら譲ればいいだけだ。それまでは会話を楽しむくらい問題ないだろう。

 美佐と雪乃は先頭側に座り、私と陽子は入り口付近の後ろ側に座った。私たちの前の一人がけの椅子には先頭から順にOL風のパンツスーツ姿の電子パッドを見ている女の人としけた顔の若いサラリーマン風の男、三十過ぎに見えるこれまたサラリーマン風の男が座っている。その後ろには高校生らしい男の子が腰掛けてスマホかパッドでも見ているようだ。私たちより前の一人がけの椅子には買い物帰りらしいおばさんがいた。入口を挟んだ後部にはバスの左側の二人がけに高校生らしい男の子が二人並んで腰掛けている。

 次のバス停でまた一人、乗客が乗って来た。高校生の男の子だ。彼は私達の前のつり革に掴まると窓の外を眺めていた。制服は進学校のものだ。たまに私たちの方に目を向けるが、そこそこ整った顔付きに釣り合わない、嫌な感じの目つきだった。

 買い物のこと、クラスの男子のことなど、私たちの話題は尽きることがない。

 その時、目の前の座席に座っていたサラリーマン達やつり革に掴まっていた男の子が驚愕の表情で私たちの背後に注目した。

 口を大きく開ける間抜けな彼らの顔が私が最後に目にした光景になった。 



・・・・・・・・・



 ぼうっとしたまま、時間だけが経って行った。一年程は何をすることもなくただ生きていただけだった。なぜなら、何かできるような体ではなかったからだ。私は赤ん坊になっていた。

 最近、ようやっと物に掴まりながらなら立てるようになった。今、私は長い夢を見ているのだろうか。そんな気さえする。

 そして、訪れた命名の儀式。グリネール・アクダムと言うのが私の本名らしい。グィネ、グィネと呼ばれていたので、てっきりグィネが私の名前だと思っていた。どうやら愛称らしい。同時にステータスオープンも知ったのだが、よくわからなかった。名前だとか誕生日だとかの他に固有技能とか色違いの字もあった。だいたい、地形記憶マッピングとか、意味がわからない。地形を覚えて何になるというのか。と、思ったら、頭の中が透明になった気がした。なんだろう、この感覚、と思っているうちに暫くしたら急に眠くなってしまった。

 言葉を覚え、近所の子供達と遊ぶようになった。固有技能の使い方ももう理解している。使うとしばらくの間、頭が明晰になった気がする。明晰、と言うのには語弊があるかも知れないが、クリアになったというのもおかしい感じがするので仕方ない。その時間中に私が入って観察した建物や通った道については、ほぼ完璧に記憶できるのだ。思い出すのは容易だ。俯瞰して空撮写真や見取り図のように思い浮かべることすら簡単に出来る。この能力については以前会った神に話を聞いて使い方を学んだ。確か、ステータスオープンを知ってから暫くした頃だ。

 神とはいろいろ話をした。私はバスに乗っていた時に事故に遭って死んでしまったらしい。事故後の報道番組を録画したような物さえ見せてもらった。犠牲者は39人。数が多いのはバスに突っ込んできた電車の方でもかなりの人数が亡くなっていたからだ。犠牲者の名簿のような画面も見せてもらった。ぱっと見だが全員日本人のようだった。私の名前が赤い四角で囲んであったので、他の人の名前は見落としたが、雪乃の名前も含まれていたことだけはどうにか覚えていた。一秒足らずでは仕方ないだろう。

 質問が許された時に聞いてみたら、雪乃だけでなく、美佐も陽子も一緒にあの時に死んでしまい、この世界に同時に生まれ変わっているらしい。どこに生まれ変わったのか聞いてみても教えてくれなかった。なんて意地悪な神様なんだろうと思ったが、どうしようもない。あとは彼氏(今は新しい彼女と宜しくやっているらしい。一年以上経っているので仕方ないが、浮気者、と思った)や両親家族のことを聞いたり、固有技能や時間の概念、お金のことなどを聞いた。まだ時間が余ったので、どうやったら元の生活に戻れるのかを聞いてみたが、過ぎ去った時間を取り戻すことが出来ないのと同様に不可能だと言われた。なら神とか言うな、と思ったが、そこまで万能ではないと言われてしまった。そういうものなんだろう。

 とにかく、そうしているうちに時間は過ぎ去っていき、気がつくと目の前には人を小馬鹿にしたようなことが書いてあるステータスのような窓が浮かんでいた。絶望して泣き喚きながらウインドウを振り払い、私は泣きつかれて眠ってしまった。



・・・・・・・・・



 数年が経ち、私は両親と一緒に旅をすることが多くなっていた。旅といっても所謂旅行ではない。行商だ。私の家の家業は行商人だった。街に自宅はあるが、店は持っていなかった。たまに行商で余った品物を、売り物として露店に並べるくらいで、基本的には近隣の町村を回る行商人だ。カラス麦や粟などの雑穀の種籾や、仕入れた獣の皮やちょっとした嗜好品、石鹸や布、衣類などの生活必需品を馬車に山のように積み込んでそれを必要とする人達へと届けるのだ。私がまだ十歳にもならない頃は馬車を御する父母の膝に座っていたりしたが、そのうち馬車の脇を歩いたり、馬車を引く馬の背に乗ったりするようになった。

 護衛には冒険者を雇うことが多かった。私達はあまり危険だとされるような場所には行かないようにしていたが、足手まといの私が成長するにつれ、行商の範囲は広がっていた。それに伴い、野盗のような犯罪者はおろか、魔物への警戒も怠ることは出来ない。遠くの村などでは生活必需品と言えども、その村で生産出来ないようなものは高く買ってくれるし、その村の特産品があれば仕入れを行うこともある。

 特産品と言っても大抵はお茶の葉だったり、タバコだったり、農産物が殆どで、ごくまれに綿花や羊毛などを仕入れ、本拠地であるロンベルティアまで戻った時に家よりも大きな商会や、紡績業を営む商家に卸したりするくらいのもので、あまり変な商品(投機的な意味での変な商品ということだ)を扱うこともなく、堅実に商売を行っていた。

 両親は私を商売に同行させることで、顧客や仕入先に将来の後継者の顔を売りたいのだろうし、私にも早く商売に慣れて欲しかったのだろう。違うかもしれないが私はそう思っているので真相などどうでもいい。いつか婿を取り、アクダム商会を大きくして行くことこそが両親が私に求めることなのだろうから。これは当たり前のことだろうし、私も自然に受け入れることはできる。むしろ、神が言うことが本当なら、私はこのオースで生きてゆかねばならいのだし、家業がある方がありがたいくらいだ。私の固有技能の地形記憶マッピングも考えてみれば便利な能力だ。私が目にした場所なら俯瞰して思い出すことができるのだから、これ程家業に合った固有技能もあるまい。

 行商に付いていった最初のうちは頭の中の地図帳を拡大する意味でも頻繁に固有技能を使っていた。何しろ眠くなったら父親か母親の膝の上で寝てしまえばいいのだ。まぁそのうちに固有技能にも慣れてきたのだろう、眠くなることも少なくなってきた。尤も、これは同じ道を何度も往復することも多いのでわざわざ固有技能を使う必要も減ってきたこともあるのだが。

 父と母は堅実に貯金をしており、もう少しで今の家を売り、ちゃんとした店を構えられるくらいのところまでお金が溜まったのが私が十五歳になる頃だった。そんなときだ、事件が起きたのは。



・・・・・・・・・



 とある山の森の中の曲がりくねった道をいつものように二人の冒険者を護衛に雇って進んでいた時だ。馬車の右側の冒険者に投げ槍が突き立った。魔物の襲撃だ! 年に一~二度くらいこういうこともある。奇襲によって護衛の冒険者が目の前で死んだところを見たこともある。私は馬車を盾にするべく、馬の背から降りると馬車の左側へと移動した。お父さんとお母さんも荷台から槍を引き出している。馬車の左側を警備していた冒険者は盾を構えながら馬車の後ろを回って右側に駆けていった。

 案ずることはない。豚人族オーク中鬼人族ホブゴブリンクラスの魔物が襲撃を掛けてきたのだろう。粘って一~二匹倒せば負傷した仲間を庇いながら退却するはずだ。

 私は気持ちを落ち着かせながら怪我をした冒険者の様子を見た。右腕の肩に近いあたりに投げ槍が刺さったようで、大きな傷から血が出ている。彼は魔法が使えるらしく、必死に治療しようと左手を患部に当てて魔法を使おうとしているようだが、痛みのために精神を集中できないのだろう。左手の指の間から血がドクドクと出ているばかりで傷はちっともふさがらない。お母さんを呼ぼうかとも思ったが、今は冒険者とともに魔物から馬車を守るので精一杯だろうし、もともとお母さんは大して魔法を使えるわけでもない。

 仕方ない。すぐに死ぬほどではないだろうから、あとでゆっくり傷を治すしかあるまい。それよりは一刻も早く魔物を追い払うのが先だろう。私も荷台から私の槍を取り出すと加勢しようとした。

 馬車の反対側では、冒険者を中心に両親が彼を援護するような感じで戦闘が行われているようだ。しかし、ひと目その戦闘を見た私は目を疑った。相手は見たところオークだろう。数もそう多くはない。五匹のオークが手に手に槍を持って冒険者や両親に襲いかかっている。常なら両親が粘っている間に冒険者がオークの一匹や二匹に重傷を負わせればそれで退却していくケースだ。

 だが、今回の襲撃者は同じオークでもいつものオークとは異なっていた。オークのうち小柄な一匹が大きな犬のような魔物の背に騎乗しているのだ。いや、犬ではない。灰色の毛皮を持つ2.5m程の体長の恐ろしい狼だ。冒険者はその狼に騎乗したオークの相手をするのがやっとで、両親にはそれぞれ二匹ずつのオークが襲いかかっている。助けなきゃ!

 急いで荷台から槍を取り出した私は加勢すべく槍を振り回しながら奇声をあげることしかできなかった。槍の使い方は多少お父さんに習ってはいたが、所詮は素人だ。私の攻撃なんか当たるはずもない。でも、これでいいのだ。一匹でも引きつけて近寄らせなければそれでいい。何も私が倒す必要なんかないのだから。そのためにわざわざ高いお金で冒険者を雇っているのだ。

 私は槍を振り回しながらお母さんに攻撃を仕掛けているうちの一匹の注意を引きつけることに成功した。よく見て一対一で相手をすれば傷を負わせることはともかくとして、拮抗状態に持ち込んでグダグダにするくらいなら全力でかかれば出来る。と、「うおっ」っというお父さんの叫びが聞こえた。傷を負ってしまったのだろうか。心配だが、今はどうしようもない。ちらっと見る限りでは特に怪我も負っていないように見えたのでとにかく冒険者が狼に乗ったオークを何とかしてくれるように祈るしかない。

 しかし、すぐに判ったことではあるが、どうやらお父さんが声を上げたのは攻撃を受けたからではなく、相手に攻撃を突き入れた時の気合だったということが解った。お父さんが相手をしていた二匹のうち一匹が傷を負っていた。やった! これでオーク達は引いていくだろう。

 だが、何と言うことか。オークの一匹が傷つき倒れるのを目撃したと同時に、頼みの綱の冒険者は槍を突き出した手を狼に銜えられてしまい、体勢が崩れた胸にオークの槍を受けて突っ伏してしまった。役立たずの給料泥棒! と思いながらも、どうしようもない。お父さん、なんとかして! 私も頑張るけど、お父さん! お願い!

 そう言えば最初に投げ槍を受けてしまった冒険者はどうしたのだろう? もう傷の治療は出来たのではないか? 痛みのあまり魔法が使えそうもなかったことなどすっかり忘れ、私はもう一人の冒険者が加勢に来ないことにすっかり腹を立てていた。今はお父さんが狼に乗ったオークともう一匹のオークを相手に奮戦し、お母さんと私が一匹ずつオークを相手に時間を稼いでいる状況だ。

 お父さんが倒したオークだって死んだわけじゃない。這いながら戦場から離れ、傷の治療をしているようだ。まぁ足に槍を受けているようだからそう簡単には戦線に復帰してくるとは思えない。だが、こちらの冒険者は胸に槍を受けていた。死んでいないにしても重症だろうから、怪我をしたオーク以上に復帰は絶望的だ。

 だが、やはり給料分の働きはしないといけないと思い直したのだろう、馬車の影から左手に槍を構えた冒険者が「うおおっ」という雄叫びをあげてお母さんが相手をするオークに飛び込んでいった。

 冒険者の槍は狙いたがわず、オークの胸を突き刺し、即死させたようだ。やった! これでもう大丈夫だろう。そう思ったのも束の間、槍をオークに突き刺した冒険者は怪我をした右腕を狼に食いちぎられそうになった。冒険者は倒れ、余勢を駆った狼はそのまま母親に体当たりをし、突き飛ばすと騎乗したオークが母親に槍を突き刺した。

「ジュリ!」
「お母さん!」

 父親と私の叫び声が木霊する。

 しかし、既にお母さんは物言わぬ骸と化していた。

 叫んだ隙にお父さんがオークの槍に下腹辺りを突き刺されたようだ。

 もう駄目だ。

 私は半狂乱になりながらめちゃくちゃに槍を振り回すことしかできない。足の間を温かい液体が伝い落ちる。

 その時だ。

 流れるように駆け込んできた男はお父さんを槍で突いたオークを斬り伏せ、体を半回転させると、狼の横腹に剣を突き入れた。すぐに剣を引き抜き、左腕で狼に騎乗しているオークの槍を掴み寄せると、体勢を崩したオークの腹にも剣を突き入れた。あっと言う間の出来事だった。

 そして、狼を蹴りつけた反動で騎乗しているオークから剣を引き抜き、油断なく剣を構えた。私の目の前にいたオークはそれを見ると一目散に逃げだして行った。そして、狼に騎乗したオークも腹の傷を抑えながら同様に傷ついた狼に乗ったまま退却していった。

 私は辛くも窮地を脱することができた。

 残ったオークに止めを刺している男をぼうっと見ていることしかできなったが、父親のうめき声を聞くと手にしていた槍を放り投げ、父親に駆け寄った。

「お父さん! 大丈夫!?」

「ああ、グィネ。お前、怪我はないか? ジュリはどうだ?」

 土気色というのだろう。真っ白に紙のように血の気が失せた顔に汗が浮かんでいる。どうしよう? どうしたらいい?

「ちょっとまって」

 そう言ってお母さんを振り返る。まだ生きていたら治療しないと! そう思って振り返ったが、先ほど現れた男がお母さんの傍にしゃがみ込み首に手を当てていたが、私を見ると首を振った。ああ……。

「おと、お父さん! お母さんが! おかあさんがぁぁっ!」

 溢れる涙をこらえきれずに泣き出す私を見てお父さんは悟ったようだ。

 震える手を伸ばし私の頭を撫でると、口の端から血の泡を吐きながら言う。

「グィネ。多分俺はもうだめだ。よく聞け。金はいつものところにある。荷物は出来ればヘンゲル村で全部処分しろ。商会の免状は俺名義の白免状だからお前には譲ってやれない。とにかく……荷物を金に変えたら、あとは……お前が何とかしろ。おま……お前は道もよく覚えられるしいい商人になれる……はず……。ゴボッ」

「もういいよ! もういいから、喋らないで! ねぇ、あなた、治癒の魔術使えない? 薬でもいい、何か、お父さんを助けて!」

 私は男に向かってそう叫ぶが、彼は悲しそうに顔で頭を振った。父親を挟んで私の向かいにしゃがみ込むと、

「男二人と奥さんか? 女性は事切れていた。間に合わなくて申し訳ない」

 そう言って父親に頭を下げた。

「あ……あんた、精人族エルフか? いい腕だな……。頼みが……ある。こ、この先の……ヘンゲル村まで……娘と……荷物を護衛……して……くれないか? 謝礼は……30万……Z払う」

「引き受けよう。必ず娘さんと荷物をヘンゲル村まで送り届けよう」

「あ、あり……ありが……とう。娘を……グィネを……頼む……」

 そう言うとお父さんはがっくりと力が抜けたように首を落とした。

 私は、今日、家族を亡くした。



・・・・・・・・・



 私を助けてくれた男はトルケリス・カロスタランという名の若いエルフだった。しかし、それよりも驚いたのはその顔だ。エルフにしては線が太く、髪も目も私と同じく黒々としている。眉はきりりと太く、濃く、男らしさを匂わせる。顎も普通のエルフほど尖ってはおらず、しっかりとした力強い輪郭だった。ただ、全体的に野暮ったい雰囲気もあるし、造作自体は美しい範疇だろうが、とてもエルフのような美しさではない。鼻も低く、ちょっと潰れたような感じだ。耳とアーモンド型の瞳がなければエルフではなく、美形の普人族と言っても過言ではないだろう。

 先方も私の顔を見て気がついたようでびっくりしている。私の身長は130cm程しかない。それ以外に山人族ドワーフの特徴をあまり受け継いではおらず、ドワーフとしては線が細い方だ。まだ髭こそまともに生えていないが、あと数年もすればショックではあるが私にも髭が生えてくるはずだ。普通なら別に恥ずかしくはないが、目の前のエルフの顔を見て、否応なく思い出された前世の常識から私は顔が紅潮するのを抑えられなかった。恥ずかしい、そう思ってしまう。

 あの後、お互いに自己紹介をする段になってようやくお互いの顔をきちんと観察したとき、同時に気がついた。それからの道中は日本語で会話をしている。

 エルフは本当の名を瀬間洋介というらしく、やはりあの事故で亡くなった犠牲者の一人らしかった。当時は電車に恋人と乗っていたそうで、その恋人と再び会うために冒険者として旅をしているそうだ。恋人の名は相馬明日香。二人共同い年の大学生だったらしい。

 私はその恋人に嫉妬した。私の危機を救ってくれた王子様の心には既に別の女性が住んでいたのだ。だが、所詮はエルフとドワーフだ。結婚できたとしても子供を作れるわけではない。それに、恋人がエルフだとは限るまい。そうでなければ私にだってチャンスはあるかもしれない。献身的に尽くせばいつか私の気持ちを解ってくれる時が来てもおかしくはないではないか。

 彼に付いて行こう。

 と決めるのにほとんど悩みすらしなかった。確かにお父さんの残した商売の人脈や仕入れルートは惜しいといえば惜しいが、二頭の馬や馬車、王都には小さいが家もある。自由民なので王領を出なければ行動の自由もある。貴族の彼には及ばないが、日本人なら身分の差などないも同じだろうという甘えもある。

 ヘンゲル村で荷物すべてを処分した私は、彼に護衛の礼金として、今回処分した荷物の代金、380万Zを全て渡して言った。家の貯金なら壁の鼠の穴の奥に隠してあるからここで全部渡してしまってもお金の問題は少ない。もともと持っていたお金まで渡すわけでもないので、現在私の手元には150万Zくらいはあるし。

『私も一緒に連れて行って。もう両親もいないから問題はないわ。馬車もあるし、王都には家もあるわ。彼女を探すなら大きな街に拠点を持つのも悪くないと思わない?』

 彼は350万Zを返しながら、

『ありがとう。すごく嬉しいよ。護衛の代金はいただくけれど、それ以上のお金は受け取れないよ。それに、他人の君にそこまで甘えることはできないよ。でも、王都か……確かに大きな街なら居るかもしれないな。俺は今まで大きな街は避けていた。冒険者としての依頼を受けるためだけに寄っていたくらいだ。結構あちこちの小さな村は回ったが、確かにこれじゃいつ見つかるかなんて解らないな……。そろそろちゃんとお金も稼がなきゃいけないし……』

『遠慮しないで。お金はあげる。私も友達に会いたい。一緒に探さない? あ、そうだ王都の隣にはバルドゥックっていう街があってそこには迷宮があるの。冒険者たちがたくさん集まって魔石や宝石を換金しているって言うわ。彼女さんもきっとあなたに会いたがっているなら、そろそろ家を出る頃でしょう? 冒険者をやっているかも知れないよ? それにバルドゥックならお金も稼げるし、まずはあそこに行くかも知れないよ』

 藁にも縋る思いで言う。

『……確かに、そうだな。闇雲に動き回っても難しいか……。バルドゥックの迷宮なら俺も名前を聞いたことくらいはあるし、想像はつくよ。これでも二年近く冒険者をやっているんだ。確かにグィネの言う通り、もし明日香が俺を探すのならそこで資金を貯めようとしてもおかしくはない、だろうが……』

『だろうが?』

『彼女の性格からして荒事はなぁ……冒険者やってるとか想像できないよ』

 そう言って苦笑いした。

 白い歯が光る。

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