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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第三十九話 三層到達

7442年10月25日

 さぁ、二層だ。転移の水晶の部屋で三十分ほど休憩出来たから結局丁度良かったな。

「アル。アイスモンスターってお前のことだろう?」
「アルさん、アイスモンスターって、貴方のことでは?」
「「ご主人様、アイスモンスターとはご主人様のことでは?」」
「ア(略」

 あ、やっぱり? 実は俺もそうじゃないかと思ってたんだよね。

「だが、五層にはいるんだろう? 氷トカゲ。知らない情報が掴めたのはでかいぞ」

「誤魔化すな」
「誤魔化した」
「「誤魔化しましたね」」
「誤(略」

「なんだよ、別に誰にも迷惑かけてねーからいいだろ。あとラルファ、おめーだけ楽すんな」

 ったく、こいつは……。

「さ、それより二層だ。気を引き締めていくぞ」

 と、その前に、エンゲラに聞いておこうかな。
 こいつ、転移の水晶の部屋の周囲は安全地帯だって知っていたのか?
 いや、確か二層までしか行った事は無いはずだ。知っていた可能性は低いだろうなぁ。
 ……いいか、責めるみたいになっても嫌だし。

 それに、アンダーセンも言っていたが、黒黄玉ブラックトパーズは夜中に一層の転移の水晶の部屋に来たからそのまま野営しただけだろうし。
 俺たちも今まで何度も二層へは行っていたが、一層の転移の水晶の部屋で野営している奴らに出会ったことはない。
 恐らく、ある程度以上の水準に達した冒険者なら常識なのかもしれない。
 俺たちはまだその水準に達していなかっただけだろう。

「とりあえず、現在位置の確認だな」

 転移の水晶の台座の模様から、その先を調査する……62か。ここだな。

 全員で頭を突き合わせて地図の中から62番を探し、現在位置のアタリをつけた。

 三層への最短距離だと部屋を四つ通る必要がある。
 ま、いいだろ。

 俺が頷いたのでゼノムは竿で床を叩いて進み始めた。すぐにその脇にズールーが並び、ゼノムの後ろにエンゲラ、ズールーの後ろにラルファがつく。俺とベルは最後尾で後方の警戒だ。

 グリーンガルガンチュアリーチ一匹、レッドスライム二十四匹、オウルベア二匹と部屋の主を続けざまに撃破し、魔石を回収する。まだアイスモンスターがどうこう言ってる奴が約一名いるが、誰かに迷惑がかかる訳じゃないし別にどうでもいいわ。……そろそろ最後の部屋が近いはずだ。ベルの聞き耳を頼りに少しずつじりじりと進む。ベルによると多分複数の足がある動物のようなものが何匹かいるらしい。エンゲラもオークやゴブリンとは違う獣の臭いがすると言っている。

 その先の通路を右に曲がるとすぐに大部屋になるはずだ。
 まずは敵の姿を確認せねばなるまい。

 俺は全員に動くなと手振りで伝えると、そうっと壁から顔だけを出して部屋を覗き込んでみる。

 いた。
 毛が長く、頭の両脇から曲がった角を生やしているジャコウウシのような見た目のやつだ。
 鑑定してみるとロゼという奴らしい。

 全部で……六匹か。

 レベルもたいしたことはないし、特別何か特殊技能を持っているなんてことも無い様だ。
 サブウインドウを開いてみると光を嫌い好んで洞窟などに生息しているモンスターのようだ。

 多分、突進してあの角で攻撃してくるんだろう。

 さて、どうしようか。
 数がもっと少なければ部下たちに戦闘させてもいいだろう。
 なにしろ六匹もいるからなぁ。
 それと、見た目通りジャコウウシならオスからは香水も取れるはずだが、そんなもの以上に毛皮に価値が有るはずだ。
 牛なだけに肉も食えるかも知れない。
 と、言うより家畜に出来ればむっちゃくちゃ儲かるんじゃないか?
 牛一頭六百万~八百万Z(金貨六~八枚)もするんだ。

 何とかして捕獲したい。
 ……無理か。
 牛が転移の水晶棒を握れる訳が無かった。

 だが、ジャコウウシから取れる毛皮だけでもひと財産になる。
 正確には毛だけどさ。
 バークッドと違い、バルドゥックは冬は結構寒いらしいから良い値段で売れると思う。

 前世でジャコウウシの毛から作ったキヴィアック56%生地のアホみたいに贅沢なマフラーを美紀の誕生日にプレゼントしたことがあるが、30万円近く飛んでいった。

 万が一オースで高く売れなかったとしても柔らかく、暖かいからラルファとベルの街用の手袋とかマフラーとかには出来るだろ。
 そんときは紡績と仕立て代くらいテメーで出せ。
 ああ、こいつら若いからキヴィアックとか知らないかもしれないなぁ。
 勿体ねぇ。
 ま、ロゼがジャコウウシとは限らないんだけどね。

 そうと決まれば出来るだけ体に傷つけないように殺さなきゃな。
 やっぱ下半身、と言うか、足を氷漬けか。

 俺は部屋の地面から50cmくらいを氷漬けにしてロゼを動けないようにすると、頭部だけぶん殴って殺せと言って、自ら手本を見せた。
 この後、再度魔法で氷を除去して皮を剥ぐのだ。物凄く時間がかかるだろうが仕方ない。一頭あたり三人がかりで一時間くらい掛けて皮を剥いだ。血まみれだし、臭いけど、仕方ない。

 皮を剥いだ後、魔石を採り、ついでにヒレっぽい骨盤の内側部分の肉もちょっとだけ削り取り、鑑定してみると【ロゼの大腰筋】と出た。
 無害のようだし、火魔法で焼いてみた。
 塩も胡椒もないのでどうかと思ったが、焼くといい匂いがした。
 やっべ、軽々しく焼くんじゃなかった。
 これで匂いに誘われた他のモンスターとか出てきたらたまらんわ。

 ラルファが物欲しそうにこちらを見ている。
 匂いに釣られたモンスターよりましか。
 一口食うか? と聞いてみたら、嬉しそうにかぶりついた。

 おい、一口って言ったべや!?
 全部食ってんじゃねぇよ!

 しかし、塩胡椒なしの上、熟成もしていなくてもそこそこイケるんか。
 んじゃ全部取っておくか。一頭あたり2kg弱のヒレが取れる。カルビっぽいバラ肉は……まぁいいか。マルチョウみたいなモツはズールーがじっと見ていた。猫科だけに内臓食いたいんか? でもうんこ詰まってるはずだぞ。よしとけ。

 ここまで考えたときにあれっ? と思った。
 そういや、迷宮の中のモンスターって何食ってるんだ?
 ほかのモンスターの死体か?
 しかし、ロゼは草食、と言うか苔食ってるらしいからまあいいとして、オークとかホブゴブリンとかは一体何を食ってるんだ?
 共食いか?
 そんなんで足りるのか?
 生殖活動は?
 子供のオークだとかゴブリンだとか迷宮の中では見たことないぞ……。
 一層も二層へと続く場所に繋がってないエリアなんか腐るほどあるし……。
 どういうこっちゃ?

 これはマジで今度時間をかけて一層の部屋で調査してみる価値はあるな。今はいいけど。

 剥いだ皮を縄で縛ってズールーとエンゲラに持たせると、

「この先は三層への転移の小部屋までは部屋は無いはずだ。そこまで行って一休みしよう。多分あと1kmも無いはずだ」

 そう言ってゼノムから竿を受け取り、先頭に立って床を叩きながら進んだ。



・・・・・・・・・



 途中、一回だけノールの十二匹の集団に出くわしたが、魔法を使うことなく一蹴し、魔石を採ると先に進んだ。
 そろそろ三層への転移の小部屋に到着する頃だろう。
 何人もの話し声が聞こえてくるとベルが言っている。
 程なくして俺達にも聞こえてきた。

 30m四方くらいの転移の小部屋(強力なモンスターが巣食っている部屋に比べれば、というだけだ)には合計で四十人程の冒険者が体を休めていた。
 時刻はそろそろ午後七時くらいになる。
 後から来たので俺達は愛想笑いを浮かべながら壁際の空いている場所に腰を下ろすと一休みすることにした。毛皮を運んでいるズールーとエンゲラが目立ったが、仕方ない。

 この中に黒黄玉ブラックトパーズのような別のトップチームはいるんだろうか?
 興味を覚えて集団ごとに数人、リーダーらしき人を鑑定してみたが、レベルはいいとこ俺くらいだった。多分、いないだろう。

 水筒にお湯を出し、胡椒のよく効いた干し肉を入れて即席スープを作る。
 全員でスープを飲み、小一時間ほど休憩した。
 その後、装備品を確認して異常がないか点検する。問題は見つからなかった。
 じゃあ、取り敢えず、今日のところは三層を覗いてから帰るか。

 俺がそう言うと全員立ち上がり、転移の水晶棒に近づいていく。
 休んでいる冒険者たちが見守る中、俺たちは三層へと転移した。



・・・・・・・・



 聞いていた通り三層の様子は今まで通ってきた一層や二層とは大きく様変わりしていた。
 転移の水晶棒とその台座に大きな違いは見られないが、床、天井、壁は明らかに人工的な石造りへと変貌していた。
 ただ、ここだけは一緒なのか、全体的にうっすらと発光している。

 気をつけて見るとわかるのだが、光は誰かが立っている床から壁、天井までぐるりと一周する感じで輪のように一番光量が高い。そこから距離が開くほど光量は落ちていき、30~40m程先で見えなくなるくらい光量が落ちるところも一緒だ。きっと部屋に入ると立っている床と天井部分が一番光量が高くなるんだろう。壁に一定距離まで近づくと壁も光を発するとは思うけど。

 俺たちは幅10m弱くらいの長く伸びる通路の真ん中に転移したようだ。

 予め聞いて、情報として知ってはいたものの、全員が不思議そうに床や壁を触ったりしている。
 石の表面は日本の城の石垣程度には表面が均してあるようだ。
 地面も同じ感じなので、転んだり、モンスターなどに突き飛ばされたりしたら結構な怪我をするかもしれない。

 俺以外の下半身を鎧っていないメンバーはおろし金で肌を擦られるのに近いような怪我すら覚悟しなくてはならないだろう。ズボン履いてるからその通りではないけど、それでも相当痛い思いはするだろうな。気を付けないとな。

 通路の前後を見回して、急な襲撃もなさそうなことを確認すると、俺は口を開いた。

「さて、エンゲラ、二層の地図を買ってから二ヶ月以内に三層に来たぞ。誰一人として欠ける事なくな。前にも言ったが、お前の感想を聞かせて貰おう」

 責めるような口調にならないことを注意しながらも、あれ? 口調はともかく結局責めてるよな? ま、別に責めちゃってもいいけど、と思う。
 だけど、責めるのも可哀想ではある。
 しょうがない、いいか。

「と言っても、別にお前を責めたり、無理やり何か言わそうとは思ってない。お前は俺の奴隷なんだから、俺の考え方と価値観に合わせろ。それは義務だろう? それを解ってくれればいい」

 できるだけ優しく言った。
 エンゲラは最初に俺が言ったことを聞いたときに少し表情が硬くなったが、次のセリフで安心したようだ。

「他所は他所、うちはうち、だ。お前の言う通り時間は金よりも貴重だ。だが、多分だが、俺たちはバルドゥックの冒険者の中でもかなり早く三層へ行った方だと思うぞ。つまり、これは他のパーティーより時間を短縮しているということになる。普通は三層に行くまでは潜り始めてから二~三年はかかると言うらしいじゃないか。
 確かに俺は今、それほど多くの現金かねは持っていないが、他のパーティーが支払った数年の時間を買ったに等しいことは理解できるな?
 ……よし。これからもお前の考え方を聞くこともあるだろう。そういう時は思うところ、感じるところを素直に言ってくれ。それが俺の考えや価値観と違う時には都度言ってやる。その時に俺に合わせればいい。何も元から持っているお前の考えや価値観すべてを俺に合わせろと言っているんじゃない。俺が指摘した部分だけでいい。お前は俺の奴隷であって、人形じゃない。いいな」

 俺の長広舌を黙って聞いていたエンゲラは黙ったまま俺に頭を下げた。
 別に急いだからといって金を払ったわけではないけどね。
 俺の現金が少ないのはあんまり関係ない。
 あ、転移先の地図買ったから、それだけでも一財産をはたいたし、あの地図のおかげで二層突破の効率は段違いに変わったはずだから、金で時間を買ったと言ってもあながち間違いではないか。

「じゃあ、そろそろいい時間だし、帰って飯でも食うか。今日はさっきの牛の肉も少し食ってみようぜ」

 なんだか妙な空気になったのを振り払うように明るく言い、水晶棒を握る。

「さっきの肉、旨かったか?」

 ゼノムがラルファに聞きながら水晶棒を握った。やっぱ亀の甲より年の功だよな。サンキューな。

「うん、結構イケた」

 それに答えながらラルファも水晶棒を握った。てめーは食った分減らすからな。

「私は牛は食べたことがありません。楽しみです」

 会話に参加しつつズールーも水晶棒を握った。たくさん食ってくれ。

「牛は滅多に食べられないしね。私も食べたことないわ」

 ベルもそう言いながら水晶棒を握る。俺もオースじゃ食ったことないよ。家で買った牛馬はまだ死んでないし。親父の持っていた馬が一頭、俺が家を出る頃に死にそうになってたから、実はそれを食えなかったのが心残りだったんだ。

「……あの、すみませんでした……。私の……「いいさ、もう解ったろ。気にすんな、じゃ、行くぞ『ヘンルイチ』」

 さっきまでいた二層の転移の水晶の小部屋に戻った。
 三層に行ったばかりですぐに戻ってきた俺たちだが、別に奇異の目で見られるようなことはない。
 転移した先の場所が地図にない未踏破地域だったり、あまりに転移の小部屋までの間に部屋が多いような場所だったり、そもそも転移の小部屋に通じていない場所であったりすることもあるので、こういうことはままあるからだ。ま、俺達は戻るんだけどね。

 二層の転移の水晶棒をまた全員で握ると中心部専用の呪文を唱える。

「我らを戻せ」

 更に一層の転移の水晶の小部屋に戻る。
 先程まで数十人が居て、それなりに賑やかだった光景ががらんとしたものに変わる。
 層を跨いで戻った時は水晶棒を握った姿勢はそのままに、上層の中心の部屋のどこかに転移する。
 勿論、誰もいない、それなりのスペースが有る場所にだ。
 体の向きも変わっているので、周囲を確認し、再び部屋の中心にある水晶棒を掴み直さなくてはならない。
 転移先となる上層の部屋で下層に向けて転移の準備をしていたりしている人と重なることがないような配慮だと言われている。
 本当かどうかは知らんけど。

 ……流石に黒黄玉ブラックトパーズはもういないか。

 そして、もう一度。

「我らを戻せ」

 さっきまで三層に居たというのに、あっという間に入口の転移の水晶の小部屋の脇の部屋に戻った。
 建物を出ると十月も終わりそうな夜であり、流石に肌寒い感じが強くなっている。
 キヴィアック、売らない方がいいかなぁ。

 入口広場から三番通りに入ってすぐにある魔道具屋に行き、魔石を処分する。
 ロゼの皮の方は邪魔だし、臭いから、飯の前に皮、と言うか毛を何とかしたほうが良い、という事になった。
 しかし、既に時間も遅い。紡績するにも店は閉まっているだろう。
 仕方がないのでズールーとエンゲラだけ先に宿へ荷物を置きに行かせた。

 彼らが宿泊しているのは相変わらずシューニーだ。
 そこそこ安い、レベルの低い宿なので、未処理の毛皮を持って入っても文句は言われないだろう。
 盗まれる心配も無いことはないが、蚤だのダニだのがいそうな汚い毛皮なんか誰も持っていかないような気もする。
 まぁ盗まれたら惜しいことは惜しいが、別に致命的なものでもなし、あまり気にしても仕方ないだろう。

 俺は残った連中と連れ立っていつもの飯屋に行く。肉は俺たちが手分けして持っているから問題ない。

 飯屋に入ると持ち込み料で1000Z(大銅貨一枚)取られたが、ロゼのヒレを塩コショウで焼いてくれるので、久々のヒレステーキを涎を垂らしながら待つことにした。
 折角のヒレなのでレアがいいが、それで旨いのかについてはよく解らないのから一応ミディアムくらいまでも注文しておいた。
 細かい焼き方は指示してもうまく伝わらなかったようで、結局ウェルダンの一歩手前って感じになってしまった。
 値は少々張るがドルレオンに行っておけば良かったかな?
 ま、量だけはそれなりにあるので、今日全部食える訳じゃない。
 ドルレオンは明日以降行けばいいか。

 焼き方に文句は残るがロゼのヒレは美味かった。
 うーん、モンスターでも美味い奴は美味いな。
 ホーンドベアーを思い出す。
 冷静に考えてホーンドベアーの方が上なような気もするが、別にロゼのヒレに全く不満はない。

「こいつは美味いな」
「やっぱり塩胡椒したほうが美味しいね」
「柔らかくて美味しいですね」
「これは……美味いですね……」
「こんな美味しい肉を食べたのは初めてです」

 おうおう、もっと食えもっと食え。沢山あるからな。

 ラルファがキャベツ食えって言わずに肉ばっかり食ってたのも頷ける。
 どうせなら限界まで肉を持って来れば良かったかもしれないな。
 六人でヒレを三本、3kg近くペロリとたいらげてしまった。
 一番食ったのはズールーだけどさ。

 腹もいっぱいに膨れたので解散する。
 いつもならゼノム達と一緒に宿に帰るのだが、今日はヒレ肉を抱えてドルレオンを目指した。
 せっかくなので高級な店で熟成から任せたほうが良さそうだと思ったからだ。

 ドルレオンで金を払い(20000Zも取られた)、肉を預けると宿に戻り、流石に疲れたのでサッとシャワーを浴びただけですぐに横になった。
 だって、明日も早いしな。
 あ……朝からずっと、夜まで迷宮に入ってたから、ランニングしてねぇ……。
 仕方ない、億劫だがひとっ走りしてくるか。

 着替えて宿を出たところで上から声をかけられた。
 ベルの部屋の窓から、彼女とラルファの顔が覗いていた。

 なんだよ、明日も早いんだからとっとと寝ろよ。

 彼女たちは俺を手招きしている。

 しゃあねぇな、もう。

 俺がベルの部屋に行くと、二つある椅子の一つにラルファが座っており、ベルはベッドに腰掛けていた。空いている椅子を引いて俺が座ると、ベルが口を開いた。

『アルさん。少しお話ししたいのですが……』

 ん? 日本語?
 顔つきからして深刻なものではないとは思うが、何よ?
 俺、忙しいんだけど。
 いや、別に忙しくないけどさ。

『なに?』

『あのね、このところ、ベルと話してたんだけどさ、解らない事があるから教えて欲しいの』

 ラルファが言った。ちょっと深刻っぽい。魔法のことかな?

『なに?』

『アルさんの目的のことです。今日、一層の転移の水晶の部屋で黒黄玉ブラックトパーズの人に言っていましたよね? ちょっと事情が有って先を急ぐって。事情ってなんだろう、って思っていましたが、三層に降りたところでマルソーに言っていたので、ああ、事情って、そう言えばマルソーと約束してたなぁって思ったんですけど……それだけですか?』

 ベルが言った。
 確かにアンダーセンに言った事情はエンゲラのことを指して言っていた。
 だけど……それ以外に俺が急ぐ事情がありそうだということに気づいたってことかな?
 俺が黙っていると、今度はラルファが言う。

『正直なところね、アルは私達が居なくても相当迷宮の先に行けると思う。……それは本当でしょ? だから、ずっと考えていたんだ。じゃあ、なんでお金を払ってまで私たちと一緒にいるんだろう? 高いお金を払ってまでズールーやマルソーを買ったのはどうしてだろう? って』

『……』

『それに、私達にかなり情報を伝えてくれましたよね? 最近は鍛えてもくれました。魔法も教えてくれています。私は、彼をこの街で待つって決めているから本当にありがたいと思っています。アルさんと一緒に居られれば死ぬ危険も少ないし、お金も沢山稼げます。でも、それでアルさんは何を手に入れられるのですか?』

 そうだなぁ。彼女達と行動を共にして、そろそろ5ヶ月、半年近く経つのか。ラルファなんかはもう少し長いけど、まぁ大きな変わりはない。普通に考えれば、どこの慈善家だよって思うよな。

『うーん、確かに目的はある。短期的にはバルドゥックの迷宮で大儲けしたいと思っている。まぁ、流石に何年かかかるとは思っているけどね。だから、俺は高確率で数年はここにいるつもりだ』

 こんなんじゃ流石に丸め込まれてくれないだろうなぁ。

『……』

『……』

『今言ったことは本当だ。それに、前にも言ったことはあるが、ラルファもベルも転生者だ。転生者は肉体的に強くなりやすいから『そんなに私たちは信用がないですか?』

『……別に隠すつもりはないよ。多分言ったところで、それを聞いた君達が誰かに話しても何の害もないだろうな……多分ね……。いずれ話すつもりではいた』

 
ベルとラルファはいつの間にかエンゲラと親しくなっています。
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