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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第三十八話 黒黄玉1

7442年10月4日

 今日、ラルファとエンゲラのレベルが上昇しそれぞれ8と7になった。

 ラルファは今回のレベルアップと無魔法のレベルアップでMPは5にまで増えた。7までもうちょっとだ。

 エンゲラは加齢もあってレベルアップの上昇分に加えてHPとMPもちょっと増えている。魔法使えないから意味は薄いけど。まぁ『超嗅覚』の有効半径がレベルアップに伴って伸びたのでこれは素直に嬉しい。1レベルあたり20mくらいの範囲だからパーティーでは最長距離のレーダーになっていると言ってもいい。だが、迷宮内だと匂いはしても結局方向は前方しかありえないのでこの先に臭いを発する何かがあることしかわからない。腐ったモンスターの死体とスカベンジクロウラーの区別などはできない。

 器用以外はラルファと一緒なので器用の能力値の比較がしやすい。俺が思うに、武器の扱いや文字通り手先の器用さを示しているのではないだろうか。手先の器用さについては検証方法もよくわからんのでどうでもいいけど。豆を箸で摘ませてとなりの皿へ移すとか、意味ないし。

 ラルファの得物は手斧だ。対してエンゲラはブロードソードだ。動き回る相手への命中率は心なしかラルファの方が上のような気がする。普通に日用品として扱うだけなら扱いは手斧の方が簡単だが、戦闘に使うとなると急に変わってくる。ブロードソードなんかより手斧の方が余程器用に使いこなさないと目標へ有効打は与えられないだろうし、武器を使っての受けなど、どう考えても手斧の方が難しいだろう。

 幼少時からゼノムに叩き込まれてはいるだろうから慣れもあるのだろうが、確かにラルファの方が器用に武器を使いこなしている感じを受ける。

 なお、彼女たちがレベルアップする直前に「常に感覚を研ぎ澄ませておけ」と言っておいた。だが、通り一遍の言葉だったからか、レベルアップの瞬間を感じ取ることはできなかったようで、その瞬間の前後で何ら様子が変わったようには見えなかった。やっぱ普通は気づかないよなぁ。俺だって、この敵を殺したらレベルアップだ、と思って予め気をつけていないと気づかないんだし。ま、これは仕方ないし、気付いたところで結果が変わるわけでもない。

 とにかく、ラルファのMPがやっとレベルアップで増えた。大いなる一歩だ。ほんの少しだけ修行の効果も上がるだろう。この日はこのあと少しだけ稼いで退却した。



・・・・・・・・・



7442年10月5日

 今日はベルのレベルが上昇し7になった。

 順調に魔法の修行の効果が現れている。流石に元々のMPが高いとすげーな。だが、どうやら風魔法は適性がないみたいだ。姉ちゃんと同じタイプか。『超聴覚』もレベルアップに伴って可聴範囲が広がっているから、エンゲラ同様にパーティーのレーダーになっている。こちらは1レベルあたり10mだ。エンゲラの『超嗅覚』よりは詳細に解る。二本足か這いずっているのか昆虫みたいに複数の足があるのか、時間さえかけて集中したら足音から大体の素性はわかる。移動していないと当然無力だけど。だが、俺の場合は視線が通らないとダメだから曲がり角の先や部屋の入口から見えない範囲にいるモンスターについては無力なので視界外でも移動してさえいれば気が付けるのは大きいだろう。



・・・・・・・・・



7442年10月7日

 今日はズールーで、8になった。

 ゼノムと並びパーティの前衛として、切込隊長のように突っ込ませている。レベルアップにより更に頑健で力強さを増した。『夜目』は効果範囲であれば鑑定よりよほどよく見えるらしい。視界内全体が明るく感じ、僅かな光でもそれを増幅して目に映す感じなのだろうか。1レベルあたり5mと短いが、有効だ。ゼノムの赤外線視力インフラビジョンとは異なり可視光線が全くないと見えないのでそこは考えようだ。赤外線視力インフラビジョンは1レベルあたり3mだしな。

 『瞬発』の方は今まで使っていないのでよくわからない。ピンチの時に使うものだろうしな。一度使ったら数時間使えないので何が起こるかわからない迷宮内部で検証だけの為に使わせるのも不自然だ。今度の連携確認の時にでも使わせてみようか。今なら8秒間、筋力と俊敏が上昇するはずだ。



・・・・・・・・



7442年10月25日

 今月に入ってから精力的に経験値を稼がせたのでゼノムを除き更にレベルが1づつ上昇している。反面、俺は大して経験を稼いでいない。休日に攻撃魔術の修行をすると決めていたので、これは覚悟していた事なのでいいけど。現在のレベルは俺が13、ゼノムが16、ラルファが10に近い9、ベルが8、ズールーが9、エンゲラが8だ。ちょっと露骨にラルファを優先させ過ぎた嫌いはあるが、仕方ないだろ。

 先週は腕が鈍ってもいけないので経験値効率は無視して部屋の主は避けて一層のあちこちをうろついて魔法を使わずにきっちりと戦闘を繰り返したしな。短期間でレベルアップを繰り返したため、自覚くらいはあるかと思うのだが、誰も何も言ってこないのに拍子抜けした。だが、どうやらわざわざ俺に言わないだけでそれぞれ思うところはあるようだ。エンゲラやズールーも魔物を殺したあと、不思議そうな顔で武器を握る己の腕を見つめたりすることがある。

 さぁ、今日からは三層を目指して進むぞ。いつものように入口広場で全員で装備を確認する。武器、良し。防具、良し。地図、良し。保存食、良し。全部良し。OKだ。簡単に今日の行動予定を宣言する。一層と二層については時間を無駄にしないように出来る限り俺の魔術を使い突っ切る。可能であれば氷漬けにして経験を稼ぐことも俺は念頭に置いておく。そして、とにかく三層を目指す。二層の地図は最高精度のものでも恐らく全体の7割くらいしか記述されていない。俺たちで空白部分を出来るだけ埋めるようにしてきたが、それでもほんのちょっとだけしか埋められていない。

 今後、四層、五層、六層と何度も往復する羽目になるのだから出来る限り空白は埋めるに越したことはない。多分トップチームの連中もそうしているはずだ。迷宮内への転移の水晶棒を握り、今回の転移の呪文を唱える前に、再度全員で装備を点検した。問題ない、じゃあ、行くぞ「ダグト!」

 一層を俺の魔法で突っ切る。部屋は四つあったが最後の一つは誰かが通った後なのか分からないが主がいなかった。今度、時間をかけて主の復活まで粘ってみようかな。どのくらいの間隔で復活するのか、どのように復活するのかは興味がある。モンスターによって間隔が異なるのかとか、調査項目は沢山あるだろう。

 二層への転移の水晶棒の小部屋近辺に辿り着いた。どうやら先客が居るらしい。ベルが話し声がすると言っている。ベルのレベルから言って彼女の特殊技能の『超聴覚』の有効範囲は半径80mだ。これは俺の推測に過ぎないが、この範囲内で1ホンでも小さな音がしたら能力使用中の彼女の耳には捉えられる。対して、俺だって耳の傍であれば1ホンの音でも聞こえることは聞こえる。だが、音は空気の振動によって伝わるから、発生源から距離が開くとどんどん減衰していく。少し離れたら1ホンの音なんか俺の耳には届きはしないだろう。本当に届かないかなんて解らないけどさ。まぁ数字はあくまで例だから適当に流してくれ。

 100ホンの音は1メートル離れる毎に1ホンずつ減衰すると仮定する。空気抵抗などできっちりした斜めの直線グラフのように減衰する訳は無いけど、まぁここではそう思ってくれ。そうすると俺の場合100ホンの音は100メートル先までは聞こえることになる。対してベルの場合、80メートル先の1ホンの音を捉える事が出来るので、80メートル分俺より可聴範囲が広い、という訳だ。本当はもっと複雑なのだろうが、そう考えるとわかりやすい。

 今回の場合、ベルは話し声が聞こえると言った。迷宮の中で外で話すようなボリュームで話すことは考えづらい。休憩時のパーティ内での話し声も聞こえるのはせいぜい5mくらいだろう。10mも離れると多分聞こえない。そのくらいのボリュームで話しているはずだ。つまり、俺が言いたいのはベルの特殊能力で捉えた音の発生源は『超聴覚』の効果範囲外であることが多い、ということを言いたいだけなんだけどね。

 まぁベルの普段垂れた、能力使用時だけピコンと立ち上がるパッシブソナーの考察はこのくらいにしておこう。会話の内容を聞き取るにはもっと近づかないとダメだそうなのでそろそろと近づく。十中八九他の冒険者だろうからそうそう争いにはならないだろうが、用心に越したことはない。人数くらいは把握しておきたい。……八人か。楽しそうなくすくす笑いが聞こえるとベルが言っている。

 ま、大丈夫だろ。小部屋のすぐそばまで来ると流石に俺の耳にも聞こえてくる。男女が数人で会話しているようだ。俺たちの発する音くらいはもう聞こえていてもいいはずだ。警戒していないのだろうか。それとも、油断しきっている間抜けか? いつだったか、緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドが今の俺達と立場を逆にして接近して来た時には俺達はかなり神経質に警戒をしていた。

 部屋に入ると、八人の男女が明かりの魔道具を囲んで野営をしていたところだった。野営? 迷宮内で? 確かに数日~一週間も潜る奴らはいる。トップチームの連中は五層に行って帰るまでたっぷり一週間以上かけるのが普通らしい。いつか見た奴隷でパーティを固めているロズウェラとか言うエルフだって三日も潜っていたらしいから、野営は普通のことなんだろう。俺だっていずれはそうしなければならないと思っていた。だが、まだ一層で午前中だぞ?

「やあ、私はアレイン・グリードと申します。このパーティーのリーダーをしています。後から来て申し訳ありませんが、先に二層へ転移させていただいて構わないでしょうか?」

 緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドのリーダーのロベルト・ヴィルハイマーを真似て言ってみた。

 先方のパーティーのうち一人が立ち上がって答えた。

「ええ、どうぞ。私はレッド・アンダーセン。パーティー黒黄玉ブラックトパーズのリーダーをしているわ。それより貴方、アレイン・グリードと言ったわね。こんなところで殺戮者スローターズに会えるとはね……。ねぇ、時間あるならちょっと話でもしていかない? お茶くらい出すわよ」

 はい? 殺戮者スローターズ? 俺たちが? そんな物騒な名前で呼ばれてるの? なんで? それに、黒黄玉ブラックトパーズって言ったらトップチームの一角じゃないか。

 とんでもない呼ばれ方をして一瞬混乱した俺だったが、トップチームの話を聞けるチャンスだし、何故そんな呼ばれ方をされているのかちょっとだけ気になったので、

「はぁ……。いいですよ。ちょっと小休止な」

 そう言って彼女に近づいた。

 勧められるまま明かりの魔道具を囲んで座ると、差し出されたお茶を手にとった。レッド・アンダーセン。29歳。アンダーセン子爵家三女。レベル17。魔法は無魔法がレベル4の他は水と火魔法がレベル3と4で使えるようだ。艶やかに磨かれた茶色い革鎧に胸甲をつけ、布製の丈の短いマントを羽織り、濃いピンク色の長い髪をポニーテールに纏めている。

「頂きます」

 そう言ってお茶に口を付ける。魔法で作り出したお湯ではなく、ちゃんと沸かしたものらしい、豊かな香りが口中に広がった。携帯コンロの魔道具で沸かしたのだろう。水も運んでいるのか。余裕あるな。

「若いな」
「ああ」
「成人くらいか」
「これで、あんなに……」

 アンダーセン以外のパーティメンバーが俺を見てぼそぼそと話している。

「レイダー産の葉よ。いい味でしょ?」

 アンダーセンはそう言って俺と同じように茶を飲んだ。高いのだろうか? 豆茶派の俺にはどうでもいいけど。

「はぁ、美味しいですね」

 何から聞いたもんかね。

「ところで、グリード君。殺戮者スローターズってこれで全部? 六人しかいなかったの?」

 アンダーセンは俺の目を覗き込むようにしながら聞いてきた。

「え? はい。私のパーティーはこれで全部ですが、その、殺戮者スローターズというのは一体……?」

「貴方たち、最近有名よ。いつもいつも迷宮から沢山の魔石を持って帰るって。数は下手するとトップチーム並らしいじゃない? 最初はマグレか誰かの後でも付けて魔石を稼いでいるって話だったけど、いつもいつも大量の魔石を持ち帰るから、そのセンは薄いだろうしね。出会う魔物を全部殺してなきゃとても有り得ない程の数らしいじゃない?」

 む。そっちから名前が付けられたのか。別に隠すつもりもないからいいけど。有名になりゃそれだけ部下も集めやすくはなるだろうしな。

「あ、いや……その通りなんですけど……何かまずかったですかね?」

 俺がそう言うと、黒黄玉ブラックトパーズ構成員メンバーがざわついた。

「まじだったのか?」
「本当にあの数全部を殺したって言うの?」
「とんでもねぇな……」
「いやぁ、幾らなんでも冗談だろ」
「そうよ、いっつも二時とか三時くらいには戻るらしいじゃない?」
「それは俺も聞いた。幾らなんでもそんな短時間でなぁ……」

 ……微妙な顔をするしかない。まぁ気持ちはわかる。黒黄玉ブラックトパーズの輪から少し外れたところで車座になっているラルファ達も聞き耳をたてているようだ。阿呆が喧嘩でも売らないうちに何とかしなきゃなぁ。

「いいえ、まずくはないわ。ただ、良いことを教えてあげるわ。まず、私たちの事は知っているかしら?」

「はい。黒黄玉ブラックトパーズと言ったらトップチーム五強の一角で有名ですしね」

 俺はそうおべんちゃらを言ったが、彼女たちにとっては当たり前のことらしく、無視された。

「まぁ、そうね……私たちが迷宮に入ったのは昨日の昼過ぎ。と言うより殆ど夕方ね。深夜過ぎまでかけてここまで来たの。で、時間も遅かったからそのまま野営して、今に至るわけ。その間に得た魔石の数は幾つだと思う?」

「さぁ、三十個くらいですかね?」

 外れていることを知りながら言ってみる。因みに、俺たちがここまで来る間に稼いだ魔石の数は部屋の主から三つと途中で出会ったホブゴブリンから六つ、オークから五つ、ノールから二十二個。ゴブリンは魔石の価値が低いので採取の時間が勿体ないので放っておいたが三十くらいはある。

「四つよ。部屋の主から二つ。あとはどうしても戦闘せざるを得なかった相手から二つね」

 ある程度想像はしていたが、何じゃそら。少なすぎるだろう。部屋の主の魔石は安いやつでも五万Z(銀貨五枚)以上で売れるから、それが二つあれば赤字ではないが……。それを聞いて微妙な表情になった俺に気がついたのか、彼女は更に聞いてきた。

「貴方たちはここまでに幾つ稼いできたの?」

 おいおい、それ聞くのかよ。まるで追い剥ぎのセリフじゃんか。俺が黙っていると、

「別に取りゃしないわよ。まぁ、言いたくなければ「三十六個です」

 仕方ないので正直に言い、魔石の詰まった革袋を腰から外し、ぼとぼとと俺の前に積み上げた。トップチームの感想、と言うより価値観も聞いてみたかったしな。

「えっ?」
「さん……?」
「さんじゅ、ろく?」

 俺の申告数に黒黄玉ブラックトパーズの面々は驚いたらしい。アンダーセンはそれを聞くと、

「たった六人で……噂通り凄いわね。でもね、教えてあげる。一層の魔物はあまり強くないわ。私たちでも一層の魔物であればそれくらいは稼げるでしょうね。だけど、二層、三層、それ以降を目指すなら出来るだけ戦闘を避けることね。三十六個って多分私たちが四層を抜けるくらいの数だわ。そうやってギリギリまで体力を節約して、やっと五層に行けるの。そんなんじゃ二層や三層に行ってから苦労するはずよ。見たところ貴方を含めてまだ若い子が半分もいるから魔力だってそう持たないでしょ?」

 どうやら彼女は最近売り出し中のパーティーのリーダーを名乗る俺が小便臭い若造だと知って忠告をしてくれるつもりらしい。

「確かに私のパーティーで魔法を使えるのは三人だけですね。まともに戦力として機能するのはそのうち一人しかいませんが。仰る通り魔力の節約は重要ですよね」

 神妙な顔つきをして俺がそう言うと、アンダーセンは、

「そうよ。それと、今、すぐに二層に行こうとしたでしょ? 普通は転移水晶の小部屋で休憩をして体力を回復させてから次の階層を目指すものよ。出来るだけ戦力を消費しないように、最高の戦力を保ったまま下層に行くの。だから、避けられる戦闘は全部避けるのが理想ね。どうしても通らなきゃいけない部屋くらいね。戦うのは。さっき聞いたけど、私達のことを知っているなら話は早いわ。いい? 私達ですら一層を抜けるのに八時間以上掛かった。そして、大事を取って二層へ行く前に休んでいるの」

 と言って、魔石を一つずつ袋に戻し始めた俺を見た。

 やっぱな。以前エンゲラの言っていたことからも推測していたし、ここ数ヶ月で集めた情報でもその通りだった。つまり、出来るだけモンスターの集団は迂回したり、何処かへ行くのを息を潜めて待ったりして戦闘しない。どうしても通らなければならない部屋は可能なら主が追ってこないような距離まで一気に走り抜け、先を目指す。そして、一層二層では殆ど得ることの出来ない財宝を目指す。大抵の場合、宝石などの原石がこれに当たる。志半ばで倒れた冒険者の遺品なんかはあくまで副産物でありボーナスだ。どうやって手に入れたのかは不明だが、魔法の掛かった品などを装備している魔物なんかであればン億からン百億Zの財宝を得られるも同義なのでその時は危険を顧みずに戦う。年に一つくらいそういう幸運に恵まれ、且つ生還できるパーティーもある。

 魔石を袋に戻しながらちょっと思う。

 簡単に言うと、迷宮に挑む冒険者というのは、略奪者も同義だ。放って置いても迷宮からはモンスターは出てこない。そんな事例はいままで一度として無いと聞いている。まぁ今後も絶対に無いとは言い切れないが、可能性としては俺が考える必要はないだろう。そうなったら騎士団が相手をするだろうしね。とにかく、放って置いても無害な迷宮にわざわざ危険を犯してまで潜るのは財宝を得るため以外の何者でもない。普通はそれを略奪者と言うだろう。宝石の原石なんかを後生大事に抱え込んでいる魔物なんかいないとは思うけど、財宝を得るにあたって邪魔だからというだけの理由でそのままでは別に何の害も無いモンスターを殺すのだ。

 ゴブリンだってオークだって人族には違いあるまい。言うなれば亜人と一緒だ。ゴブリン同士、ある程度の意思の疎通は見られるし、思考能力や知的レベルが普人族や一般的に言う亜人よりだいぶ低いだけの亜人だ。普段外に出てこないで害もない精神薄弱者の家に無理やり押し入って、侵入者を排除するために攻撃してきた相手を殺し、金目の物を奪うのと何ら変わりはない。と、なると出来るだけ戦闘を避ける彼女たちの方が俺と比べてまだマシなのか? いや、殺す数が異なるだけでやっている事、目的とするところは同じだ。

「なるほど、そうですね」

 これ以上は無駄だな。俺と彼女たちでは魔力の効率が違う。忠告は有り難く受け取るとして、忠告以外の情報を収集したらとっとと先を目指したほうがいいだろう。俺は更に言葉を継いで、

「ですが、迷宮内での野営は体力はともかく、警戒などで気持ちは休まらないのではないですか?」

 と言った。

「あら? 転移水晶の部屋の周囲100mくらいは魔物は近づいてこないのよ。知らなかった? だから一人だけ警戒していれば問題はないわ」

 なんと。そうだったのか。緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドが来た時の過剰な警戒が恥ずかしくなった。だが、これはいい情報だ。迷宮内で安心して休むことが出来るのであれば、食料さえ充分なら俺は幾らでも粘れるだろう。

「はい、知りませんでした。貴重な情報をありがとうございます」

 アンダーセンに頭を下げながら言った。

「いいのよ。三層や四層に行くような人じゃないとまず知らないしね。三層や四層への転移水晶の部屋なんかいつも誰かがいるくらいだし、どうせこの先進んでいけば嫌でもすぐに解ることだしね。気にしないで」

 アンダーセンは気にした風もなく手を振りながら言った。エンゲラは三層までは行った事がないそうだから知らなかったんだろう。あ、そうだ、

「ところで、以前私たちが二層に行った時のことなのですが、妙な落とし穴を見たことがあるのですが、お尋ねしても宜しいでしょうか?」

 これ聞いとこう。最近すっかり忘れてた。

「妙な落とし穴?」

 アンダーセンも俺の言葉に興味を惹かれたらしい。

「ええ。洞穴の端から端まで広がっていて、奥行は5mくらいの越えられないような大きな落とし穴です。穴は透明な板のようなもので塞がれていて、他の落とし穴同様に土でカモフラージュされています」

「そんな落とし穴は知らないわね……私たちが知っているのは迷宮内どこにでもあるような直径5mくらいのやつと、四層くらいから出てくる、その中に先の尖った杭が埋め込まれている奴、あとは、壁が落とし穴になっている奴ねぇ。寄っかかるとひっかかるのよ」

 うーん、彼女の言うタイプくらいは十分あり得るだろうと予測していたが、例の落とし穴はトップチームのリーダーでも知らないのか。

「そうですか、私達も見たのは一回だけなんですけどね」

 残念だが仕方ない。もっとさっきのような小技なんかも聞いてみたいが、進んでいけば自然とわかるだろう。このくらいにして先を目指したほうがいいかな。

「でも、超えられそうにない落とし穴か……。一層(ここ)も全部踏破なんかされてないから……ましてや二層なら未踏破地域の未確認の罠でしょうね」

 ま、そんなとこだろうな。

「そうですね、では、そろそろ私達は二層に行きます。いろいろお教え頂き有難うございました」

 そう言って立ち上がろうとしたが、アンダーセンは俺の腕を掴み座らせた。

「ちょっと、今まで何を聞いていたの? きちんと休んで行きなさいな。あんたたち、どうせ今朝入ったんでしょう? 今は九時過ぎよ。三時間かそこらで一層を突破して来たのなら消耗しているでしょう? 魔石もそんなに取るくらいだから、何度も戦闘はあったんでしょ?」

 困ったな。殆ど消耗なんかしてないんだが……レベル5とか6くらいの氷でモンスターを拘束しながら進んできたので、MPなんかここまでに100ちょいしか使ってない。当然誰も怪我なんかしてないし、体力だって問題ない。

「ご忠告は大変有り難く思っております。しかし、私達はちょっと事情がありまして、先を急がねばならないのです。また、ほとんど消耗はしておりませんので、全く問題はありません。お茶、美味しかったです。有り難うございました。黒黄玉ブラックトパーズの皆さんの幸運を祈っています」

 そう言って立ち上がると、

「行くぞ」

 と言って転移の水晶棒に向かった。ゼノム達も立ち上がる。

「そう、ならもう何も言わないわ。でも最後に一つ。アイスモンスターには気をつけなさい。最近、極たまにだけど一層や二層で氷が発見されているわ。そこには食い荒らされた魔物の死体もあったりする。まだ冒険者で遭遇したという話はないけれど、本来は五層に居るはずのアイスモンスターだと思われるわ。体長3mくらいの白いトカゲを見つけたらすぐに逃げなさい。氷の息を吐いてくるわ。対抗するには最低でも4レベル以上の高位の火魔法が必要になるのよ。無理しないでね」

 へー、そんなんいるんか。俺は振り返ると彼女に丁寧に礼を言い、水晶棒を握る。

「ログタレ!」

 二層に転移した。今週中に何としても三層へ辿り着き、エンゲラとの約束を果たすのだ。



転移水晶の部屋の安全地帯の知識ですが、一層やどうにか二層へ行ける程度のレベルが低い(肉体レベルではなく、冒険者としての知識や腕のレベルという意味です)冒険者には知られていません。それなりに実力がある冒険者達の間では、自然とある程度の情報共有が発生します。勿論、秘匿するべき情報を漏らすことなどは有り得ませんが。例えば、四層のどの場所に宝石の鉱脈があり、もう暫く取れそうだなんて情報は口が裂けても言わないでしょう。特定のモンスターの弱点なども喋るとは思えません。その反面、新種の罠などは情報交換があるでしょうし、特定のモンスターに攻撃が効かないなんてのも情報交換のネタになるでしょう。

誰も自分とそのパーティー以外の成功など願っていません。苦労話はするでしょうが「このようにしたら成功する」などという話は何らかの対価を得るか、そうでなければ誤魔化すか、嘘の情報を流すことすら考えられます。(「このようにしたら成功した」という話ではないです)

わかりやすく言うと、現実の世界で同業他社に重要な情報を話す人はいません。しかし、業界で常識とされている関連なら情報交換は当たり前のように発生します。知らない奴に常識を教えることくらいはするでしょう。ですが、それも相手のレベルを見て話されるべき内容は変わりますよね。アンダーセンはアルのパーティーが遅かれ早かれ死ぬこともなく三層や四層に行くようになると思ったから言っただけでしょう。

現実にゴールドラッシュの鉱夫や宝石の鉱脈堀達は絶対に情報を漏らしません。そんなやり方じゃ絶対に砂金は取れないよ、とは言うでしょうが、こうすれば取れる、とかそういう情報には価値が発生します。そう言った情報は家族や、仲間内で秘匿されるのが普通です。なお、そんなやり方じゃ……というのは明らかに初心者がセオリーから外れたやり方をしている時に言う事であって、ベテランが変わったやり方をしても注意するような人はいないでしょう。

少額でも確実に競馬に勝てる方法を見つけたとして、一体誰がそれをほかの人に言いますか? 金貰っても言わないのが普通でしょうね。

また、今回の話の中で四人が二レベルも上昇しています。ちょっとステータスを置いておきます。

【ラルファ・ファイアフリード/25/12/7429】
【女性/14/2/7428・普人族・ファイアフリード家長女】
【状態:良好】
【年齢:14歳】
【レベル:9】
【HP:102(102) MP:6(6) 】
【筋力:14】
【俊敏:19】
【器用:17】
【耐久:16】
【固有技能:空間把握Lv.1】
【特殊技能:無魔法Lv.1】
【経験:106225(110000)】
※ラルファは7レベルまでレベルアップ時のボーナスはMPに入らなかった代わりに能力値やHPがちょっと高いです。

【ベルナデット・コーロイル/4/4/7429】
【女性/14/2/7428・兎人族・コーロイル準男爵家次女】
【状態:良好】
【年齢:14歳】
【レベル:8】
【HP:90(90) MP:73(73) 】
【筋力:13】
【俊敏:19】
【器用:13】
【耐久:12】
【固有技能:射撃感覚(Max)】
【特殊技能:超聴覚】
【特殊技能:無魔法Lv2】
【特殊技能:地魔法Lv2】
【特殊技能:水魔法Lv1】
【特殊技能:火魔法Lv2】
【経験:66892(80000)】
※ベルは最初のレベルアップ時にアル同様にMPがそこそこ増えた設定です。種族の性質と相まって能力値はちょっと低いです。

【ダディノ・ズールー/3/6/7442 ダディノ・ズールー/20/7/7422】
【男性/24/5/7421・獅人族・グリード士爵家所有奴隷】
【状態:良好】
【年齢:21歳】
【レベル:9】
【HP:110(110) MP:5(5) 】
【筋力:18】
【俊敏:18】
【器用:11】
【耐久:17】
【特殊技能:小魔法】
【特殊技能:瞬発】
【特殊技能:夜目ナイトビジョン
【経験:83024(110000)】
※白兵戦闘向きな種族なので素晴らしい能力値を誇っています。

【マルソー・エンゲラ/15/8/7442 マルソー・エンゲラ/12/8/7422】
【女性/14/9/7422・犬人族・グリード士爵家所有奴隷】
【状態:良好】
【年齢:21歳】
【レベル:8】
【HP:97(97) MP:5(5) 】
【筋力:13】
【俊敏:18】
【器用:10】
【耐久:16】
【特殊技能:小魔法】
【特殊技能:超嗅覚】
【経験:65011(80000)】
※普人族より総合的に少しいいくらいです。

また、誠に申し訳ありませんが、リアル生活で年度末も近づいており、感想への返信が厳しくなって参りました。
誤字脱字のご報告くらいにしか直接お礼は出来にくいです。
折角ご感想やコメントを頂戴しているにも関わらず、きちんとお返事できないのは大変に心苦しいのですが……本当に申し訳ありません。ごめんなさい。なお、当たり前ですが頂戴したご感想は全て拝読させて頂いています。

今後は活動報告の内部で、気になったり、補足しなきゃいけないな、と言うようなご感想について返信する「かも知れない」程度にお思い頂けますと幸いです。
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