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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第三十七話 資格

7442年10月2日

 今日から月末までは部下たちのレベルアップを目指すため、経験値を稼がせなくてはならない。効率よく経験値を稼ぐため、一層から出来るだけ部屋を沢山回るべく、迷宮へ出たり入ったりしている。出来れば二層までの間に十以上部屋を通る様な場所が望ましいのだが、ここで時間をとられても仕方ない。適当なところで我慢しておく。

 迷宮入口から一層へ転移されてくる場所は確認されているだけでも四百ヶ所以上ある。そして二層へ転移可能な転移の水晶棒は迷宮の中心とされる場所に一か所だけ。四百以上ある転移先から二層へ行けるのは半分もない。少なくとも二層へ行けなければ経験値を稼ぐ効率も多少ながら落ちるので、二層へと接続する転移先であれば、どこでもいい。

 運よく(?)二層への転移の水晶棒までに八個の部屋を通る場所に転移することができた。スライム以外であれば部下たちにも直接ダメージを与えられるので、ここにしよう。いつものようにゼノムに竿を持たせ、床を叩きながら進んでいく。途中、六匹のホブゴブリンの集団と出会った。こちらが先に気づいたので、皆を待たせ、俺だけ先行した。こちらが一人だと思い込み、油断して俺に襲い掛かるべく走ってきたホブゴブ(リンつけるのが面倒くせぇ)の下半身を氷漬けにして身動きできなくすると、部下を呼び、死の恐怖に泣き叫ぶホブゴブを一人一匹ずつ始末させた。残った一匹はラルファにやらせた。

 ズールーとエンゲラは下半身の身動きが取れず、碌に反撃すら出来ない相手を殺すということに多少抵抗があったようで、少し非難がましい目つきで俺を見たが、俺が目に力を入れて「殺せ」と言うと素直に従った。ゼノム、ラルファ、ベルの三人は淡々と自分の目標を殺していたが、これは予め説明してあったからだろうか。ああ、ブーツとサンダルが来てよかった。靴がないと氷の上に乗るのもつらいだろうからな。

 それともかくとして、ホブゴブは人の形をして、自らの意思や思考力もある魔物だ。先のように恐怖を感じて泣き叫ぶことすらする。ゼノムは別格だろうが、女二人には荷が重いかも知れないと思っていたのだがな。二人のうち無神経そうな方に聞いてみたら「私たちが生きていくのに必要なことだしね。昨晩、散々話し合ったよ。ベルも彼に会うため、会ってからも力は必要だろうからって言ってたからね。私たちは大丈夫。……抵抗が無いと言ったら嘘になるけど、私も昔、ゼノムが殴り倒したゴブリンなんかの止めを刺したことなんか何度もあるし、問題ないわ。ベルのフォローだけ考えてあげて」と来た。無神経呼ばわりしてすまん。

 ベルの方はラルファが言った通り「仕方ないですからね。強さは私も欲しいですし、モンスターは人に似てますが人じゃない、と思うようにしてます。彼に会う前に死んじゃったら私の人生は何の意味も無いですから、大丈夫です」と言っていた。気丈なことだ。奴隷二人はどうでもいい。俺の言う通り動いとけばいいよ。嫌ならさっさと金を払って自分を買い戻すことだ。だが、俺から離れられるかな?

 しかし、天稟の才がないと、なかなか経験値が入らないな。ホブゴブはオークと並んで迷宮探索中に遭遇する敵の中ではかなり経験値的に実入りのいいモンスターではあるが、それでも一匹殺して300も入らない。部屋の主だって、平均すれば2000くらいだろう。半分以上、作業のような安全な戦闘を続け、魔石を回収しつつ二層への水晶棒に辿り着いたのは昼も大幅に過ぎた頃だ。

 いつもならそろそろ引き返す時間だ。だが、朝から昼過ぎまでの半日以上もの時間を掛けて得られた経験値はそれなりに多かった。平均すると一人頭4000くらいの経験値を獲得している。この分ならゼノムはともかく、他の四人は今週から来週中にはレベルが一つ上がるだろう。ラルファには以前から魔力を使っていることを強く意識しろと言っている。とにかく少しでも早くラルファのMPを7以上にするのが目的なのだ。

 ラルファにだけ多少多めに経験を稼がせているのもそのせいだ。ラルファのMPが7にさえなれば五分に一回特殊技能も使えるし、MPを1しか消費しないごく初歩の無魔法を使わせて魔法の特殊技能のレベルアップも図れる。本当は休日にラルファと二人で迷宮に入り、彼女だけに大量に経験を稼がせたいくらいでもある。だが、まだそこまで命じなければならないほど焦りがあるわけでもない。体と精神を解放する休日は必要だろうし、今は好きにさせている。

 少しづつ理解してくれればいいと思っている。高圧的に押し付けるのは簡単だし、短期的に見ればある程度の効果も見込めるだろうが、彼女は俺の奴隷ではないのだから。魔法の経験値は魔法で生き物にダメージを与えるのが一番稼ぎやすいが、それは危険も伴うのでおいそれとは出来ない。まして魔法を覚えたての頃なんか魔力の集中を開始してから魔法が完成するまでどれくらいの時間がかかるかわかったもんじゃないし。

 通常は魔法で何か作業をするのが一番稼げる。攻撃の魔術や、元素魔法をただ使っても経験値は獲得できるが、その量は小数点以下だから、経験を稼ぐというよりは特定の魔術の練習をするという意味合いが強い。その点、ゴムの作業は魔法の経験を稼ぐにはある意味で理想に近いだろう。それでも1入るかどうかなんだけどね。

 殆ど誤差みたいなものだけど、その効率は数倍だ。ことによったら十倍くらい変わる。この経験値の獲得量の差は、魔法を使うときに適正な目的意識を持っているかいないかの差だと思っている。普通のオースの人の場合、成人後に修行を積み、適性があれば無魔法やら元素魔法やら何かしら一つ、魔法の特殊技能を覚える。なお、魔法の特殊技能が無い状態から有る状態、つまりレベル0になるまでは経験値という概念は多分ないだろう。

 多分適性やなんかで使える使えないは生まれた時から決まっている。コツを覚えるのにいくらか個人差がある程度だろうと俺は予想している。マリーのように一生懸命修行に身を入れ、三週間くらい時間をかけても使えない奴は使えないし、その反面、クローや俺たち兄弟のように一日~数日で使えるようになる奴もいる。俺が思うに、若いうちの方がいいみたいではある。また、MPが多ければ覚えやすい気もしている。ラルファは別だが、ベルがその証明をしてくれたと思う。

 その後は、やっとレベル0になった魔法の特殊技能を使っての修行に入るのだが、ここで特に目的を意識せずにスプーン一杯くらいの僅かな水を出したり、ちょっと強力なキャントリップのような物を使って喜んでいるような奴はなかなかレベル1にはならない。水を出すならそれを作物の成長を念頭に置いて畑に撒いてみるとか、キャントリップでも炎を揺らすなど、自分の中で何らかの、そう、使った魔法を何かに利用するという強い目的意識が必要だ。そうするとただ魔法を使うよりは早くレベルが上がる。で、修行した元素魔法や無魔法のレベルが2になったとき、初めて他の元素魔法や無魔法の修行に入るのだ。

 何か魔法の特殊技能を持っていればその他の魔法を覚えるのは最初よりはかなり楽になるらしい。既に魔法を使うという感覚について理解しているからだろうか。そして、次に覚えた技能を同じように頑張ってレベル2にする。この時点で、魔法が使えなかった頃と比べてMPは合計で4増えていることになる。成人するくらいだともともと3から4くらいのMPがあることが多いので、合計で7から8のMPを持つことになる。ここからは修行はだいぶ楽になる。

 何しろ6を下回らなければMPは5分に1くらいの速さで回復するのだ。ここで調子に乗ってレベル2の元素魔法とかレベルは0とか1だとしても無魔法や他の元素魔法と組み合わせて使わないのがコツだ。再度使う魔法はレベル0とかレベル1の消費MPを1に抑えたものにする。ここからは爆発的に経験が稼げるようになる。二つ覚えた魔法の特殊技能のどちらかのレベルが3になったとき、ようやっと三つ目の特殊技能の修行を始める。

 このあたりから魔法が使える人間でも個人差が出てくる。三つ目の技能を覚えられる奴もいるし、覚えられない奴もいる。覚えられるならその魔法についてもレベル2を目指す。覚えられないようであれば仕方ないので既に覚えている魔法について継続してレベルを上げるように努力するしかない。組み合わせの修行はその後だ。

 この方法は、俺がまだバークッドにいた頃、ゴムの製造の為に従士の子弟達に魔法の修行をつけているうちに気がついた。恐らく普通の人が一番効率良く魔法の修行を行える方法だ。本当は姉ちゃんのように五歳くらいから始めるのがいいんだけどね。そうもいかないから俺はこの方法に気付いてから、言葉巧みに誘導してゴムの担当に教えていた。そもそも、ゴムの担当は当然目的意識を持って魔法を使っていたのに対し、他の従士や農奴はただ適当に魔法を使っており、その成長に差があったから気づけたことだ。

 普通は魔法が使えるようになったらとにかく毎日魔力切れ寸前まで魔法を使うことを繰り返すのが修行だと思われていた所に、こうした方法を作業にかこつけて持ち込んだ。一見すると誤差でしかないが、積み重ねるとでかい。鑑定出来ない奴には多分分かりっこない。ひょっとしたらある程度は気づくかもしれないが、確信を持つには至らないだろうし、サンプルも少ないだろうからまず気づかないと思っている。俺だって確信を持ったのは10歳を過ぎた頃なのだ。そもそも、子供の頃にMPを増やすことさえ出来れば実はあまり意味がない方法だし。

 10歳までは特殊技能のレベルアップなんかよりMPを増やすためのMP使いきりを数多く経験させ、その後有り余るMPで修行したほうが効率は比較するのもバカバカしい程だからだ。これはラルファとベルが証明している。

 あとは……そうだな。夜眠くなったと意識した時に可能ならMPを使い切ってすぐに寝る。運がよければMPが増えるからな。MPが低いうちはこれもそう馬鹿にしたものでもない。毎晩、眠気を感じた時に続けていれば1年で3くらいは上がる可能性があるのだ。合計で10もMPが無い頃の1の上昇はでかいからな。尤も、これだけは流石に勧めてはいなかったけど。物好きは姉ちゃんくらいなもんだ。

 まぁ、最悪の場合、何らかの攻撃魔法が使えるようになったら、俺に対して使わせて経験を稼がせるのも一つの手だと思っている。痛い思いはするだろうが、生き物にダメージを与えて経験を稼ぐには俺相手が一番好都合だ。何しろ急所にさえ当たらなければ俺はすぐに自分で回復できるからね。そうなったら彼女たちの休日を潰したとしても文句を言わせるつもりはないけど。

 この魔法の経験値の入手効率については、俺は誰にも、それこそ親父やお袋にも話していない。



・・・・・・・・・



 この日は二層への入口に到着した時点で昼過ぎになっていたので、昼食を摂った後、二層へ行ってみた。二層でも二つの部屋で経験を稼ぎ、今日は退却することにした。戦利品もある程度得ることができたし、部屋の主も知らない相手は出てこなかったから、全部氷で拘束して経験はかなり稼げたし、言う事はない。スライムだけは俺が焼き殺したので、実は俺も結構経験が入った。

 その後、迷宮から引き上げた俺達は戦利品を処分すると晩飯を食いに出かけようと、一旦荷物や装備を置きに行くため宿に戻ったら俺宛に言伝があった。モーライル妃殿下からだった。そろそろだろうとは思ってはいたが、意外と早かったな。だけど、明日来いとか、俺の都合は無視か。別にいいけどさ。確か前回から一月ちょっと経っている。国王陛下、ほぼ毎日二回ペースか。

 明日は水曜で休みだから、俺の魔法の修行が多少遅れはするが、たまにはロンベルティアまで足を伸ばすのも悪くない。ランニングをして、汗を流し、早めに床についた。



・・・・・・・・・



7442年10月3日

 朝飯を食ったあと、俺は馬上の人となり、一路ロンベルティアの王城を目指している。僅か10km程の距離だし、道も整備が行き届いているので単騎だとてれてれ行っても二時間もかからない。たまには駆け足をさせてみよう。……いい気持ちだ。すっかり上機嫌で王都の馬具店で砂糖を買い軍馬に舐めさせてやったりして指定の時間である10時までの余った時間を潰した。

 その後、10時前に王城へと登城すると、当然ながら警備の兵に止められた。妃殿下からのふみを見せるとどうやら話は通っているらしく、案内の兵を付けてくれた。

 二の丸の前あたりで待っているように言われたので、所在なく、馬の手綱を握りつつおのぼりさん宜しくキョロキョロと城内を見回しながら立っていた。馬を結ぶ専用の杭のようなものはあるが、勝手に繋いでいいものかどうか、判断がつかなかった。

「おお、グリードよ。よく来てくれました。ささ、馬は適当な杭に繋ぐが良い。こちらに来りゃれ」

 モリーンが出てきて俺にそう言った。

「これはこれは、モーライル妃殿下。本日はお招きに預かり「挨拶はもう良い。さぁ、来りゃれ」

 仕方ないので手早く馬を繋ぐと、モリーンの後に付いて行く。

 ゴム製衛生用品を持ち込んだ俺に対して、礼を述べねばならない、と言う事で俺が呼ばれた、という形ではあるが、その本心は見え透いている。もっと寄越せと言いたいのだろう。

 二の丸の一室に招き入れられるとモリーンだけではなく他の妃殿下達も勢ぞろいしていた。どうせ足りなくなったから売ってくれ、と言われるだけだと思っていたのに、これは一体何事か、と思ったら、口々に俺に礼を述べ始めた。どうやらコンドームのおかげで、妃殿下達の夜の生活も満足が行くようになったらしい。今までは正室や側室である妃殿下達の妊娠を恐れて別の女を抱き、その結果として庶子をもうけることになっていたようだ。国王陛下は挿入感の悪い豚の腸を使うのを嫌がり、その為に避妊を考慮せずにお手つきを繰り返していたのが、あれ以来嘘のように治まり、妻である妃殿下達も満足しているとのことだった。

「とにかく、妾達はそなたに感謝しています。陛下のお手つきも治まり、毎晩妻の誰かを相手にご満足いただけるようになりました」

 皆を代表してモリーンが言った。

「そなたに感謝を。また陛下が私共に目を向けて下さる様になりました」

 ユールも相変わらずタレ目だが、三十代も後半になっているというのになんとなく膚艶も良い様だ。

「陛下のお手つきがなくなってホッとしております」

 ベッキーは三十代半ばだが、おとなしそうな見た目の通り、おっとりとした喋り方だ。前回の真っ赤になって怒鳴っていた姿はなんだったのか。

「私は、もう二度と陛下にお相手頂けないかと……そなたのお陰です」

 マリーンは三十前後の勝気そうな人だが、今回はしおらしく俺に礼を言っている。

 しかし、三十過ぎの女性が夜の営みについて十四の小僧に揃って頭を下げるというのもどうなのよ? まぁ、礼を言うのに相手の年齢は関係ないだろうし、一応俺も末席と言えど貴族だから、そう不思議な光景でもないのかも知れないが、こちらとしては背中が痒くなる。うーん、こんなことで照れくさがっているあたり、俺の精神年齢は本当に59なのだろうか? と改めて思ってしまう。

 人生経験と知識は記憶がある以上、それなりに備えているという自覚はある。しかし、感性や論理的な思考力は肉体相応かそれに近いくらいにまで引き戻されていると考えたほうがいいのか。思考力が一番成長するのは人にもよるが十代後半~三十前後だと言われていたような気がする。勿論何にでも例外というのは存在するが、例外なんか考慮してもなんの意味もないだろう。

 少し考えてしまったが、いきなり妃殿下達に口々に礼を言われ、面食らったようにしか見えないだろうから不自然なこともないだろう。俺は膝をつき、臣下の礼を取ると、

「何を仰いますやら、妃殿下方。ご自分達で仰られたことをもう一度思い出してくださいませ。陛下は最初から妃殿下方をお求めだったのではございませんか? 確かに陛下にも責任はございましょう。しかし、その大元は陛下が妃殿下方に……妃殿下方のお体に負担をかけないためのお気遣いから来たものだと愚考いたします。私などは陛下の妃殿下方への深い愛を思い、感じ入る次第でございます。私も陛下に習い、妃殿下方の様に美しく、一生をかけて愛するに足る女性を娶りたいものだと思います」

 と恭しく述べた。

「おお、グリードよ、そなた、欲がないですね。普通なら功を誇るところであろうに」

「まっこと、グリードの弟は見所がありますね」

「ええ、それに、そのようなことを言うなど……照れるではないですか」

「本当に、妾達の欲しい言葉を言ってくれますね。そなたは。仕官を望むならこのマリーネンが後ろ盾になっても良いですよ」

 ふむ、気に入ってくれてよかったよ。あれは兄貴の工夫の結晶だ。原型は確かに俺が作ったが、材料の改良や、実際の使い心地などの手間暇をかけて完成させたのは兄貴だ。兄貴の苦労が王族に認められたようで何だか嬉しいよな。そもそも俺は元々持っていた地球の知識を思い出したに過ぎない。最初にコンドームを開発した人に敬礼!

「いえいえ、私など礼儀も知らぬ田舎者の山出しの小僧に過ぎません。仕官などとてもとても……。確かに例の品は私の実家であるウェブドス侯爵領バークッド村で開発・製造されましたが、グリード家の、私の商会を通じて紹介したに過ぎません。功績は全てバークッドのグリード家にございますれば、私など……」

 そう言って頭を垂れる。モリーンはそんな俺を気遣ったのだろうか。

「おお、商会であることを忘れていました。代価を払わねばなりませんね。それに、これから先も引き続いて注文をさせて貰いたいと思うておるのですよ」

 そう言ってくれた。ここで食らいつくのが俺だよ。

「いえ、私のグリード商会は第一騎士団に装備品を卸しているのみの二号三種の商会です。一種ではございませんので、先の品についてはお代は頂けません。商売が出来ないのです……」

 悲痛な声音と顔つきで言った。

「そう言えば、そなた、先日もウォーターベッドの修繕に来ておりましたね。修繕費用は受け取ったのですか?」

 ユールが言った。確か最初に俺のことをゴム職人と呼んでくれたよな。間違ってねぇけど。

「いいえ。殿下、先ほど申し上げましたとおり二号三種の免状しかないものですから、軍事関係の商売しか出来ないのです」

 もっと、もっと同情を!

「なんと……それでは只働きではないですか……申し訳ないですね。修繕の材料だってゴムでしょうからかなり高価であるのでしょう?」

 ベッキーが言った。彼女は事務処理で国王を補佐しているらしいから、経理、と言うか国の財務関係もある程度は首を突っ込んでいるかもしれない。

「お気になさらず、殿下。その分は私めがバルドゥックの迷宮で体を張れば良いだけのことです」

 もう一声!

「そんな……バルドゥックの迷宮など冒険者の損耗率は一割に迫るとか……危険ではないですか?」

 マリーンが言った。そういやこの人も昔は騎士団にいたらしいな。確かファルエルガーズ伯爵家の出で火の玉(キャノンボール)とか言われてたような……。

「私は家督もない次男の冒険者でありますれば……二足の草鞋でも履きませんことにはなかなか……」

 そうそう、もっと気の毒に思ってくれ。

「モーライル殿下、この者の姉は第一騎士団で将来を嘱望されております。それだけで信用が置けるかと……」

 ユールがそう言ってモリーンを見た。

「そうです。私も姉を知っておりますが、真面目に訓練に取り組み、頭角を現しているとか。彼女の弟であるなら、ここは褒美を振舞っても宜しいのではないでしょうか?」

 マリーンが言った。この人も姉ちゃんのこと知ってたんか。しかし、姉ちゃんがねぇ……。

「……そうですか、では、免状については今後のこともあるので必要でしょうから私から口利きしておきましょう。代価も前回の分も含め支払います」

 モリーンが言った。よっしゃ。500万Z浮いた。正直代価はどうでもいいわ。だが……。

「しかし、それですと修繕費用とゴムの代価だけですね。ああ、免状もありますが、どちらかというと今後の為の私共の都合のようなもの、褒美ではないかと……」

 ベッキーが言った。よっ、流石、財務官僚! 違うけど。きちんと勘定できる人は違うね! そんくらい誰でも勘定できるだろうけどさ。でも冷静に計算しているあたり、俺の評価は高いぜ! 王族ともなれば地球より文明が遅れているオースでもしっかりしてるな。

「確かにそうですね。これ、グリードよ。そなた、何か望むことはありますか?」

 モリーンは俺を見ながら言った。気が変わらないうちにな、言っておこう。

「おお、何というお心遣い。痛み入ります。二号一種になれば確かに今後もお納めできましょう。そうですね……では、遠慮なく申し上げます。例の品物ですが『王室御用達』と包装に記載し、王家の紋章を使いたいのですが……他の貴族様方にもお納めするときに箔が付きますので……私共ではかの商品は豚の腸に取って代わる画期的なものであると自負しております。ですが、そのままですとなかなか信用もされづらいかと心配でして」

 思い切って言ってみた。普通は金一封とか感状とか新たな領地(これは無茶苦茶か)とか要求するのかも知れないが、王都の貴族や大商人がこういう時どうしているかなんて知らんし。すると四人が口を揃えて笑いながら言った。

「やはりな。そうでないかと思っていました。実は先日から褒美をどうするか四人で相談していたのです。ここで金一封だのなにか褒美の品などを要求してくるようであればそなたの才は知れたもの。重く用い、我ら王室が直接取引するに値しません。免状も取りやめるつもりでした。しかし、今後に繋げるようなことであれば……前回のそなたの言が真剣なものであるとの証明と思うておりました。騎士団の姉について一言も触れないのも気に入りました。確か、年末には更に多く手に入れられるのでしたね。王家としてグリードの商会に注文しましょう。御用達だの紋章だのについては妾が許すゆえ、好きに使いなさい」

 何と、試されていたのか。流石に有用な品とは言え、王室が直接取引する相手は見定めるということか。お眼鏡にかなわないならウェブドス商会を通じての間接取引で終わってしまったということか。もともと、この件で欲を掻くつもりはなかったが、助かった。

「グリードの弟は歳に似合わず頭も回るようですね。それとも、本気でそう思い欲がないだけなのか……どちらでもいいですが、先を見れるなら直接の取引に値します」

「そうですね。一時の欲に負けるようであればそのような者とは直接取引は行えませんからね」

「全くです。しかし、あの姉といい、この弟といい、グリードの家と言うのは……」

 ほーっ、よかった。恐縮しながら頭を下げ続けるくらいしかできないが、繋がった。しかし、一時的とは言え手のひらの上で踊っていたとはな。

「は、有り難き幸せ。さて『鞘』ですがまだ残りはございますか? 陛下のご様子ですとそろそろ……」

 少しは俺も気が回るところでも見せておかなきゃな。っつっても兄貴が運良く補充を送ってくれたから助かっただけで、俺の功績はゼロに近いけど。忘れずに持ってきたことくらいか?

「年末まで入らないと思っていたのですが、あるのですか!?」

「いくつ!?」

「ぜ、全部売ってくりゃれ」

「やはり呼んで正解でしたでしょ? 気が利く男だと思っていました!」

 やっぱな。

「年末まで約90日、二十袋、二百個ございますよ。必ずお気に召して頂けると信じておりましたので、早馬を飛ばしました」

 全く嘘だけど。しかし、流石三十路を超えた女性は、その……強い欲をお持ちですね。果物でも肉でも女でも熟成した腐りかけが旨いんだよ。



・・・・・・・・・



 コンドームは一袋13000Zで販売する。運ぶ手間賃や、ちみっとだけ俺のマージンを考慮して決めた。別にこれで儲けるつもりは最初からない。キールより高いが、ある程度の収入があるなら買える値段にしないとダメだしな。帰ったら手紙書いとかなきゃ。年末の鎧と一緒に持ってきて貰わんとな。

 あ、言うの忘れたけど、王家の紋章って円に囲まれた三本足の鴉だ。上級の貴族なんかでも使っている人気の意匠だけど、何の飾りもなくシンプルに使えるのはロンベルト公爵家だけだなんだぜ。どっかの傭兵一族みたいだよな。グリードの家紋は丸の中に漢数字の三みたいな横棒三つな。日本風に言うなら丸の内に三つ引両紋ってやつだ。え? どうでもいい? そんな冷たいこと言うなよ。
コンドーム如きで褒美などとはやり過ぎな感もあるかも知れませんが、専制国家の指導者の家庭不和は政治の不安に繋がります。指導者は出来るだけ後顧の憂いなく政務に邁進するのが理想です。特に今回のケースでは国王の庶子の問題や妻達のプライドや嫉妬、外聞などが大きく絡んでいます。

当然、それらはある程度顕在化していますが、まだ政情に不安が出るほどではない状況でした。その前に解決できたために褒美なりなんなりという話になったと思ってください。この件で王室はアルの商会の免状の種別を切り替えただけです。多分事務手数料くらいの費用しか計算する必要がないでしょう。コンドームに王室御用達だの紋章だのをつけても王室にはなんらの損害もありませんし、別に得もしないでしょうからどうでもいいはずです。そのどうでもいいことを商売に利用する事を思いついた商人は今後も伸びる見込みがあるということでつばでも付ける感覚なのでしょう。

また、魔法関連ですがアルはオースのルールを完全に把握してるわけではありません。かなりの部分について考察を重ね、テストしたりしていますが、全部のことについては解っていません。余人の及ばないレベルでダントツに理解が深いことは確かですが。その証拠にMPがあるなら誰でも修行さえ繰り返せばいつか必ず魔法が使えるようになるとは思っていません。
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