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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第三十五話 二層

7442年9月1日

「んじゃ、行くか。皆、用意はいいな?」

 皆が頷いたのを確認し、迷宮内に転移した。慎重に周囲の様子を確かめ、地図を参照して現在地を把握する。番号から言って多分ここだろう。

 洞穴を進むと暫くして右に曲がった。その直後に別れ道がある。ああ、じゃあ、現在地はやっぱりここだな……。だとすると二層への転移の水晶棒までに部屋を三つ通らなければならない。いつもなら危険なので部屋には行かないで引き返すか、迷宮に入りなおすが、今日からは二層を目指すから構うことはない。突き進むだけだ。罠の地図もあるので迷宮行はかなり楽になった。今日中に二層に行けるかな? 誰も怪我をしないといいのだが。

 30分程そろそろと進み、最初の部屋に着いた。予め部屋の住人は俺が一人で始末すると告げている。鑑定で覗いてみると、グリーンスライムだった。ふん、火に弱いことはもうバレてるんだ。『フレイムスロウワー』で汚水のような深い緑色の粘液を消毒してやるわ。

 俺は部屋の入り口に立つと『フレイムスロウワー』の魔術であっさりと30匹近くいたスライムを燃やし尽くした。エンゲラが口を半開きにしてその光景を見ている。お前のご主人様の実力の片鱗はどうよ? ん? 滅多なことでは奴隷を使い潰すなんてしねぇぞ。ケチだからな。多分全部焼き殺したろう。俺は全員にボーナスアイテムである、以前の冒険者の遺留品と魔石を探すように言うと部屋の奥に続く道から新たなモンスターが来ても良いように監視を受け持った。

 暫くして遺留品の収集は終わったようだ。やはりボロっちい剣とか槍とかはあったが、古すぎて錆びており、原型すら留めていない物しかなかった。最近は誰も入らなかったらしいな。現金は銀貨を中心に100万Z近く回収できたから良しとするか。

 すぐに先へと続く洞穴に入っていく。また注意して罠を避けながら数十分進む。そろそろ次の部屋に着くはずだ。さて、ここには何が巣食っているのかな? 鑑定の視力で入口から眺めてみてもモンスターは見えなかった。端っこに隠れているのか。じりじりと部屋の入り口に近づく。……いやがった。でっかい昆虫みたいだ。四本足で小さな頭の両脇から二本の長い触角だか触手だかが生えている。先端に行くに従って細くなる尻尾の先にプロペラみたいな妙ちくりんな突起があるようだ。鑑定してみると「プロペラテイル」だった。

 ふむ。初めての相手だな。鑑定をゆっくり読むのはぶっ殺してからでも遅くない。銃剣をスリングベルトで肩にかけると『ライトニングボルト』を左手から放ち、即右手から『ストーンジャベリンミサイル』をぶち込んで殺した。多分『ライトニングボルト』だけで死んでたような気がする。死体を更に損壊したので、鑑定だと【死体(プロペラテイル)】になっちゃったよ。まぁいいか。他にはいないようなので次の部屋を目指すか。こいつのことはエンゲラから聞いているから、魔石を取るような愚かな行為は必要ない。

 プロペラテイルには特殊技能として、あの触覚だが触手だかで触れた金属を錆びさせる能力があるらしいのだ。間違ってナイフで触っちゃったら事だ。それに、どうせ遺留品も錆の山になってるだろう。放っておくに限る。帰り道でまだ死体が残っていて、俺の魔力や体力にも余裕があるようなら地魔法で石斧でも作って解体すればいいだろ。ま、二層への転移の水晶棒から直接入り口に戻っちゃうとは思うけどね。

 ここまでまだ部屋の住人としか戦闘になっていない。この分だとほぼ万全なまま二層に行けそうだ。二層の地図はないからちょっとだけ様子を見て帰ることになるのだろうけどね。

 更に前進する。途中でノールが六匹うろついていた。部下たちに経験を積ませるのもいいが、今日は二層を目指すのだ。MPはまだまだ腐るほどあるし、ケチっても意味がない。エンゲラに俺の接近戦能力も披露したい欲求が頭をもたげかけたが、走って突撃をかまそうと足に力を入れる寸前で思いとどまり安全に魔法で殺した。

 そして、最後だと思われる部屋に着いた。ここもぱっと見るだけだと敵の姿は見えなかった。しかし、敵の正体はわかる。今迄進んできた洞穴は地図が正しければ(多分、少なくともこの道筋に限っては正しいだろう)部屋の隅っこに繋がっている筈だ。

 部屋の真ん中を見渡すのは部屋に相当近寄らないと難しいだろう。だが、ここからでも充分に把握できる。でっかい蜘蛛の巣の端っこが見えるのだ。こいつは話に聞いていた「ガルガンチュアスパイダー」のお出ましかな? 蜘蛛の巣は火魔法で燃やしてしまえばいいか。

 早速『ファイアーボール』を撃ち込んだ。蜘蛛の巣の端っこあたりに命中し、燃え盛る石を周囲にぶちまけた。首尾よく蜘蛛の巣に火が付けられたたようだ。すぐに両手を広げ『フレイムスロウワー』を使い、炎を噴出させながら部屋に入る。いやがった。部屋の真ん中で蜘蛛の巣の中心に体長2m、脚を広げると5m位になりそうなでっかい蜘蛛がいた。そいつ目掛けて『フレイムスロウワー』を浴びせかける。体表を覆う繊毛のような細かい毛に火が燃え移った。蜘蛛は転げまわって苦しんでいる。

 油断せず、魔力を注ぎ込んで『フレイムスロウワー』の火勢を強め、焼き殺した。こいつには毒があるらしいから、接近戦は嫌だったしな。無事に「ガルガンチュアスパイダー」を殺したあと、室内を見回した。

 む、あれは……卵……いや、繭か?

 蜘蛛の巣の所々には繭みたいになった獲物がくるまれていた。ゴブリンだとかノールだとか、冒険者も犠牲になっていたようだ。とっくの昔に死んでいたようだから助けられなかった。遺留品は状態の良い長剣ロングソードが三本、段平ブロードソードが二本、スピアが二本。シールドは見付からなかった。あと、現金が合計で130万Z程。うっは。大漁だな。ガルガンチュアスパイダーの魔石は10000近い価値があった。売れば7万Zくらいにはなりそうだ。

 他の洞穴を覗き込み安全を確認しながら部下が戦利品を集めているのを眺めた。うーん、結構稼げたな。お、あの剣は良い状態だ。だが、あの槍は穂先が折れている。錆び付いてはいないようだから一応回収かなぁ。

 その後もまた一時間ほど歩き、途中で出会ったゴブリンとノールを魔法で蹴散らしながら無事に二層へと転移する水晶棒がある30m四方くらいの小部屋に辿り着いた。ここで小休止にするか。ゼノムに時間を聞くと、時計の魔道具で時間を確かめてくれた。まだ午前10時過ぎくらいらしい。

 お茶には丁度良い頃合だろう。流石に迷宮の中には荷物になる水は持って来てはいなかったが、水筒くらいは準備している。水魔法と火魔法でお湯を出し、各人の水筒に入れると茶の葉を入れた。オースの茶ははっきり言ってあまり美味くない。地球の茶とは違うのだろう。俺の好きな豆茶は炒った豆を煮出して作るから流石にここでは味わえない。

 ふうふうと熱い茶を冷ましながら全員で大して美味くない茶を飲みつつ休憩した。

 口々に魔力の残量を心配された。

「アル、魔力は大丈夫か? 相当魔法を使っていたろう? 今日は引き返したほうがいいんじゃないか?」

 ゼノムが言った。

「そうよ。二層のモンスターも一層とそう変わりはないらしいけど、万が一の時取り返しがつかないよ」

 ラルファも言う。
 ベルは魔法についての知識が低いのか、よくわからない顔をしている。
 ズールーはお茶を啜りながらも油断なくこの小部屋に接続して来ている洞穴に目をやっている。
 エンゲラは呆然とした面持ちで俺を見ていた。

 エンゲラに自慢したい気持ちが沸いて来たが、彼女の感想を聞くのは三層に行ってからだ。ここで彼女の感想を聞いても多分本当に俺の自慢にしかならないから黙っていよう。

「ああ、大丈夫だよ。じゃあ、二層の様子をちょっと見たら今日は戻ろうか。その前にお茶くらい飲ませてくれ」

 数度の戦闘で俺のMPは確かに消費されているがまだ7100くらい残っている。500も使ってない。特に蜘蛛だとかプロペラテイルとか強敵そうなのは魔力に糸目をつけず威力が高まるように魔力を注ぎ込んで一気に葬ったからな。使いすぎな気すらする。ああいった敵への適切な魔力の使い方も会得したほうが良さそうだ。効率が悪すぎる。まだまだ休日に一人で迷宮に潜ったほうがよさそうだな。

 他愛のない会話とお茶を啜る音だけが転移の小部屋に響いている。すると、どこかからか、複数の足音が聞こえてきた。すわ、モンスターか!? 俺たちはお茶を捨てると水筒を部屋の隅に放り投げ、武器を手に立ち上がった。

 足音のする洞穴から離れてそちらを伺う。暫くすると八人で構成されているパーティーが現れた。身につけている装備品や腕に巻いている布の色は碧緑色だ。見覚えのある顔がいる。「緑色団ベルデグリ・ブラザーフッド」か。

 リーダーの精人族エルフは先に部屋にいた俺達を見ると、口を開いた。

「おう、俺達より先に来てた奴らがいたか。……知らない顔だな。俺はロベルト。ロベルト・ヴィルハイマーと言う。この緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドのリーダーだ。あんたらのリーダーは誰だ? ちょいと話をしようじゃないか」

 おう、想像していたより渋い声だな。エルフは見た目が美しいから、それなりに年を取っているとは言え、もっと高い声を想像していた。

「リーダーは私です。アレイン・グリードと申します」

 俺がそう名乗ると、緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドの面々から失笑が起こった。

「あの山人族ドワーフがリーダーじゃねぇのかよ」
「まだ小僧じゃねぇか」
「変な鎧だな」
「小僧一人に小娘が二人。パーティーの半分がガキとはね……」
獅人族ライオスの男と犬人族ドッグワーの女はそこそこやりそうね」
「返り血も受けてないから、運良く戦闘せずに辿りつけたのかしら?」
「一箇所は大部屋を通らないと行けないから、大方誰かが主を殺した後だったんだろ」

 口々に好き勝手ほざいてやがる。まぁ気持ちは解るけどよ。彼らのような超ベテラン相手だと多少馬鹿にされたところで怒る気すら湧かんわ。

「おい、その辺にしとけ。済まなかったな、グリード君。我々は二層に行きたい。後から来ておいて申し訳ないが、先に転移させて貰ってもいいか?」

 トップチームのリーダーだけあって無駄に俺を侮るような発言はしてこなかった。うん。金持ち喧嘩せずだよね。

「ええ、どうぞ。我々はもう一休みしてから進むつもりですので、御遠慮なく……」

 俺がそう言うと、

「おい、行くぞ。……ド・ゲ・ヌか。全員ちゃんと掴んだな。ドゲヌ!」

 そう言うと彼らの姿は一瞬半透明っぽくなったかと思うと光の粉を散らすようにして掻き消えた。転移を外から見るとこんな感じなのか。

「なんなの? あいつら、感じ悪ぅ」

 ラルファが口を尖らせながら言う。

「彼らは緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドです。バルドゥックでも指折りのトップチームです。五層まで到達しているとか……」

 エンゲラが答えている。やはりトップチームだけあって有名人なんだな。

「緑だかなんだか知んないけど、名前くらいさっき聞いたから知ってるわよ。それにしても態度L過ぎ。頭ん中に緑青でも浮いてんじゃないの?」

 態度Lとか、何十年ぶりに聞いたんだろ。ラルファ、貴様、やっぱ年齢としを謀ってねぇだろうな? ……謀っていたとしても何の害もねぇけどよ。履歴書不実記載だぞ……あ、履歴書なんか書かせてなかったわ。

「五層か……凄いな」

 ズールーが感心したように呟いた。

「実力もあるのでしょうね」

 ベルもズールーに追随している。

「まぁその実力があるからあれだけのことを言えるんだ。見ただけでわかる。あいつら全員相当強いぞ」

 ゼノムがそう言って締めた。

 放り投げた水筒を回収し、装備の点検をする。

「じゃあ、どうせ彼らと同じ場所には転移しないだろうから、俺たちも行くか。今日は様子見な。ちょっとしたら帰るぞ」

 水筒をリュックサックに入れながらそう言って、転移の水晶棒の表面に紫色に浮き出た呪文を読む。ド・ル・ヘ・メか。黄色の呪文は上層に上がる呪文だ。「我らを戻せ」って奴だ。入口の転移の小部屋の脇に沢山並んでいる小部屋のどれかに転移するのだろう。

「ほんじゃ行くぞ。……皆、握ってるな。ドルへメ!」



・・・・・・・・・



 一見して二層は一層と似てはいるが湿気が強い。この分だと二層で先達の冒険者の装備を回収するのは一層よりも運が必要になるのかもしれない。

 通路となっているなんとなく湿気の多い洞穴の真ん中に転移の水晶棒がある。矢印っぽい模様も確認できた。そちらの壁を探したが、番号が刻まれている場所は発見できなかった。二層は一層のように転移先の地図は無いのかな? ……あったとしても値段は更にとんでもなさそうだけど。

 どうせ初めてだし、地図もないから通路をどっちに進んでも大差あるまい。適当に「こっちに行ってみよう」と言って先頭に立ってそろそろと進み始めた。すぐに俺の右にゼノムが並び、3mくらいの竿で地面を叩き始めた。微妙に曲がった洞穴をゆっくりと時間をかけて100mくらい進んだ頃だろうか。床を叩く棒の音が変わった。罠か。その周辺を叩いて落とし穴らしい罠を回避しようとするが、どこも軽い音しかしない。

 うっそ、まじかよ。落とし穴が通路全体を塞いでることもあるのか。

 全員が俺を見た。1.戻って反対側を行く。2.戻って反対側を行く。3.戻って反対側を行く。他にあんのかよ!? なぜ俺の顔を見んのかね?

「戻ろう。転移の水晶棒の反対側を行ってみよう」

 罠の警戒も必要ないし、今歩いてきたばかりの道だ。ここまで15分近くかけて慎重に歩いてきたが、戻りは2分とかからず転移の水晶棒まで戻ってこれた。さて、反対側を行ってみますかね。

 同じように床を叩きながら慎重に進む。今度は200mくらい進んだところでまた音が変わった。慎重に他の場所も叩いてみる。うん、全部音が軽いね。

 ……落とし穴に挟まれてるじゃねぇか!

 あ~、クソ。

「皆、ちょっと下がってくれ。どうなるかわからんが、ちょっと試してみる」

 もっと。もっと下がれ。俺は全員を誘導して落とし穴らしき場所から40m位下がらせた。全員の前に立ち、風魔法で床の上の土だか砂だかを吹き飛ばすことにしたのだ。実験で潜っているときは毎回やっていたが、この方法で罠を見つけたことはなかった。確実に罠があるならどうなるのか、という気持ちもあって試そうと思った。

 ばおん!

 大量の空気が急激に発生し、無魔法で前方にのみ膨張するように整形、と言うか、風魔法だけを整流するような壁を作り出す。洞穴の直径はおよそ10mくらいだし、Lv5くらいの風魔法で発生させる空気の量で充分だろ。この先大きな部屋でもない限りはものすごく簡単に考えて270m先まで通路を埋められるくらいの体積の空気を一気に一方向に解放したんだし。

 全員、俺が何をしたのかわからなかったようだから、風魔法で大量の空気を作り出し、『エアーポンプ』みたいに使ったと言ったらラルファとベルは納得したようだ。だが、他の三人は『エアーポンプ』どころか『ポンプ』なんかも知るはずもない。変な顔をしていたが放っておいた。ゼノムはすぐに俺たちの事情だろうと当たりをつけられるだろうからいいとして、ズールーやエンゲラは分かんねぇだろうなぁ。でも仕方ない。

 分からない言葉をいちいち全て解説してもらえるなんて甘えた考えがあったらそれも一緒に吹き飛ばしておこう。俺だってオースの言葉とか物の名前とか全部知ってるはずもない。誰かが俺の知らない品物について話していたらそれを解説して欲しいとは思うが、時と場合くらいは考える。本当に興味があったら迷宮を出たあとにでもゆっくりと聞いてくれ。

 罠の場所に行ってみる。完全にとまでは行かないが、ある程度表面の土は払われていた。うん、風魔法で吹き飛ばすのは正解だったようだな。通路の幅ほぼ一杯で奥行が4~5mくらいか。めちゃくちゃ不思議だ。その証拠に俺を含めて全員が口をぽかんと開けて罠を見ている。

 落とし穴が開いていた。多分深さはそれ程でもないだろう。底だって見える。3mくらいかな?

 そう。底が見えるんだ。板か何かの上に土を被せてカモフラージュしていて、その板が見えているわけじゃないんだぜ。板も一緒に吹き飛ばされたんだろうって? 差し渡し4~5mの落とし穴を塞ぐ板なら最低でも長さは7~8mくらいはあったと思う。材質にもよるだろうがそうでないとたわみ過ぎるだろうし。まぁ、そんな板が何枚も吹っ飛ぶくらいであればいくら光量が低いとは言っても気がつかない方がおかしいし、音だってするだろう。それだけの長さとある程度の厚みを備えた板を目の届かないくらい遠くに飛ばせるような量の空気も出していない。

 恐る恐る、地面から土をちょっとだけ削るようにして掴み取ると(簡単に取れるような表面の土は吹き飛ばしてしまったからな)穴に向かって放り投げた。投げる前から結果は分かっていたけれど、試さずにはいられなかったのだ。

 予想通り、俺が放り投げた土は地面に浮かんでいる。なぜ予想していたかと言うと、落とし穴表面の土が全部綺麗に飛ばされてはいなかったからだ。いや、飛ばされたのかもしれないが、その手前から飛んできた土が乗っかっただけかも知れないけどさ。「ある程度表面の土は払われていた」って言ったろう?

 鑑定してみよう。やはり選択対象にできるみたいだ。と言うことは気体、それもただの気体ではないということか。

【ベッシュズ・フローティングディスク・オートメンディング】
【風・無】
【状態:良好】
【作成日:-/-/-】
【価値:-】

 ……魔法だった。しかも俺の知らない奴だ。まぁ俺が知っている魔術の数なんてたいした数じゃないけど。風魔法と無魔法を組み合わせていて、現在は正常に発動中ってことか。作成日と価値は魔法の場合表示されないからこれは問題ない。

 問題なのは魔法、もとい魔術の名前が鑑定できることだ。普通、魔術で発生した現象を鑑定しても名前は表記されない。飛んでいる途中の魔術弾頭や、吹き出している炎、作り出した水や土を鑑定しても使った系統の魔法の種類と、状態だけしか鑑定できない。

 サブウインドウも開けるところはない。

 ゼノムは竿で叩いている。軽い音がしている。
 ズールーは両手剣の先っちょでつついている。
 ベルも剣を出してつつこうとしている。
 エンゲラも恐る恐るブロードソードの先を伸ばしている。

 ラルファだけが違った。足先でつついている。流石だ。

「なんだか水に浮いている板みたいな感じね。微妙に沈み込む感じがする」

 フローティングディスクって言うくらいだしな。そろそろ声を掛けるべきだろう。

「おい、ラルファ。危ないぞ、もう止めとけ」

 ラルファは素直に足を引っ込めた。

 さて、どうするか。多分反対側の落とし穴(?)もこうなのだろう。違うかも知れないが、同じだと考えたほうが自然だ。ここ三ヶ月ほど一層に潜っていたが、罠を踏み抜いたことは一度もなかったし、正常な罠の構造を調査したこともなかった。誰かが踏み抜いたであろう蓋のない落とし穴を見たことは何度かあったので、落ちても剣山や竹槍が植えられていないことだけは確認していた。どうせ穴の形以外大した違いはなかろうと、わざわざ表面の土を払ってまで調査する必要を認めていなかった。

 今回みたいに洞穴の幅一杯に広がっていたなんていうことも無かったしな。調査をしていて落とし穴だけでなく、何かスイッチのような物でもあって、うっかりそれを作動させてしまう方が怖かった。

 しかしなぁ……。見たところ穴の深さは3mほど。そうと知らずにうっかり嵌ってしまったら、怪我くらいはするだろうし、下手したら骨折とかも有りうるかも知れないが、死ぬことはないだろう。壁も床も土みたいだし。綺麗に掘っているというわけでもなさそうだ。勿論、何かの死体があるなんてこともない。

「よし、皆、ちょっと離れてくれ」

「どうするんですか?」

 ベルが聞いてきた。

「埋める」

 言うが早いか落とし穴の上に手をかざすと地魔法で土を出した。俺の掌を起点として土が空中に発生し落ちていく。少しだけ空中にとどまったが、一秒も保つ事はなく、フローティングディスクの魔術は土の重量に耐え兼ねて沈んでいった。全部ではないが穴を埋めることが出来た。踏み固められているわけではないからもうちっとばかり出しとくか。

「進むぞ」

 そう言うと俺は自分で出した土の上に足を踏み入れた。俺の体重で土の表面から10cmばかり足が潜るがそれ以外は問題ない。さっさと落とし穴を渡ると皆付いて来てくれた。

 多分あの落とし穴の上にかけられていた魔術は魔法で板のようなものを作り出し、その板はある程度の重量を支えられるものだった、と考える方が自然だろう。人一人分かどうかは知らないが一定以上の重量が掛かると耐えられず魔術の効果を失うんだろう。オートメンディングってことはその後自動的に回復するとか修復されると見ていいだろう。ベッシュズってのは判らん。

 しかし、落とし穴の罠はそれなりに数もあるし、有名だから飯屋なんかで耳を澄ませていれば他の冒険者の口の端に乗ることも多い。だが、今回のような落とし穴の話を聞いたことはなかった。ここ、二層だよな。ラルファの空間把握も早く使わせてレベルアップさせたほうが良いのかも知れん。まだレベル1だしな。半径10mとかって、洞穴の天井まで届くかどうかだし。

 そんなことを考えながら歩き出して数分。まだ落とし穴を超えてからそう進んでいない。空気で吹き飛ばしていたから100mくらいは落とし穴はないだろうと棒で叩きながら分速30mくらいの結構速いペースで歩いていた時だ。前方に何かいるのを発見した。床近くにいるみたいだ。

 蛇だ。鑑定だと【ケイブ・ラトルスネーク】と出ている。レベルは2。大したことはないだろうが、毒を持っているようだ。毒は……神経毒か。呼吸不全になるのかな。接近戦はまずいな。

 一匹だけだし、魔術を打ち込んで殺しておいたほうが良さそうだ。

「前方に蛇がいる。毒でもあったらまずい。俺が始末する」

 俺はそう言うと『ライトニングボルト』で蛇を殺した。

 蛇の死体のそばに寄るとちょっと観察してみた。興味があった。太さは5cmくらいかなぁ。体長は1m強くらいはありそうだ。名前の通り尻尾の先には脱皮した皮がくっついている。頭目掛けて電撃を放ったので頭が焦げていた。ちっ。毒でも回収できないかと思ったのだが、選択した魔術が悪かったな。だけど、炎で焼き殺しても一緒だろうし、ミサイル系だと胴体をぶっちぎりそうだった。ぶっちぎっても頭がある方はそのまま生きてる気がしたんだよ。まぁ毒に腰が引けてたのは確かだけどさ。

 ズールーが魔石を採っていた。

 更に、今度は用心しながら慎重に進んだ。道は途中で別れ道になっていた。Yの字の右上の方から俺達が来た感じだ。どうすっかね?

 ま、今日は様子見に二層に来たような物だ。本格的な戦闘は二層ではまだ行っていないが、いい頃合いかも知れない。ゼノムに時間を聞くと11時半くらいだ。戻るか。

 二層の転移の水晶棒から一層に戻り、そこから直接迷宮入口の転移の小部屋の脇に戻ってきた。今日の戦利品は現金も含めて400万Z(金貨四枚)を超えた。ゼノム達には月初めの給料である20万Z(銀貨二十枚)とは別に8万Z(銀貨八枚)ずつボーナスを支給した。久々の大稼ぎだった。

 昼飯を食うときに、全員に言った。

「今日の落とし穴の情報を調べよう。あんなのは今まで聞いたことがない。二層なら行った奴もかなり多いはずだろうがな。それにしちゃ今まで一回も耳にしないのはおかしいからな。ズールーとエンゲラも晩飯代は別に渡す。皆バラバラに飯を食いに行って明日の朝にでもいつもの店で纏めよう。それでいいか?」

 全員頷いてくれた。俺はズールーとエンゲラに金を渡してやると「騎士団で何か知っているか情報を集めてみる」と言って店を出た。

 騎士団では不思議な落とし穴について何の情報も得られなかった。

 夕方適当な飯屋に行って冒険者風の奴等に尋ねてみてもそんな変な落とし穴は知らない、と言われた。むしろ、妙な情報で混乱させようとしているか、俺がでっち上げた出鱈目な罠の情報を売りつけようとしているかのように反応された。

 飯を食った後、ランニングをしながら考える。
 うーむ。三層は二層の地図を買ってから二ヶ月だっけか。エンゲラに対して俺が一方的に言い放った約束を守れるのかちょっとだけ心配になってきた。ちょっとだけな。

 
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