第九話 レベルアップ2
2013年9月16日改稿
相変わらず爽快な目覚めだ。
鑑定をして寝ることの利点が更に加わったな。
今日からシャルに字を教えて貰える。
ここ1年、言葉を覚えること以外は特にやることもなくぼーっと家の中で過ごしていたので、何かをやっているここ数日は非常に充実感がある。
朝食を摂ったらすぐに字の授業が始まった。
ファーンとミルーも一緒だ。
文字には表意文字は無いそうで、全て表音文字だ。要はアルファベットだな。
文字数もさほど多くない。全部で29文字だ。
皿の上に砂を敷いて指で文字を書く。
形状は曲線が多くなく、ほとんど直線での表記だ。
発音と一緒に習ったのでアルファベットと対応して俺はすぐに覚えられた。
ここでも「天才か」という顔をされたが、すましていた。
文法がほぼ日本語なのでなんとなくローマ字で日本語を書いているような、変な気分がする。
俺はさっさと覚えてしまったので、ちょっと鑑定でもしようか。
(鑑定)→ファーン
【ファンスターン・グリード/18/2/7423 】
【男性/21/1/7422・普人族・グリード士爵家長男】
【状態・良好】
(鑑定)→ミルー
【ミルハイア・グリード/26/2/7425 】
【女性/2/2/7424・普人族・グリード士爵家長女】
【状態・良好】
そのまま5回鑑定した。
眠くなったのでシャルに言って寝た。
・・・・・・・・・
鑑定の繰り返しと毎朝の文字の勉強でその後2日過ごし、翌3日目の朝の鑑定時間中。
鑑定の固有技能のレベルが上がりレベルは4になった。
状態に加え、年齢とレベルも判るようになった。
年齢は性別のところに生年月日が表示されるのであまり意味がないと思ったが、生物でない物体を鑑定すると作成もしくは加工した年月日が表示されるので地味に便利だ。あと、いちいち計算しなくていいので助かるといえば助かる。
レベルは多分生き物としてのレベルなのだろう。俺のレベルは1でファーンとミルーも1だ。ヘガードは15でシャルは14だった。メイドのミュンは2だった。ミュンの年齢は17なのでもう少しレベルが高くてもいいのではないかと思うのだが……。
このレベルもどうやったら上がるのかは判らない。
ただ、無生物に使うとレベルではなく、価値が表示される。例えばこんな感じだ。
【木の匙】
【楡】
【状態:良好】
【加工日:4/8/7425】
【価値:10】
【ベッド(幼児用)】
【オーク材】
【状態:良好】
【作成日:14/12/7421】
【価値:2500】
【万年キューブカレンダー】
【ビーチ材】
【状態:良好】
【作成日:10/7/7389】
【価値:25】
鑑定を眠くなるまでやると次目覚めた時には使用回数が1回増えているのは変わらなかったが、レベルアップまでの回数が大分必要になってきた。
今まで数えてきたが、最初のLv.0から次のLv.1までは10回、Lv.1からLv.2までは更に10回だった。しかし、Lv.2からLv.3までは20回、Lv.3からLv.4までは40回も鑑定が必要になった。多分Lv.5になるためには80回なんだろうし、LV.6には160回も鑑定が必要になるはずだ。
一体何レベルまであるのか分かったものではないが、ちょっと計算してみた。
Lv.0多分生まれてからすぐ
Lv.0-1 10(10) 2日目の昼
Lv.1-2 20(21) 2日目の夜
Lv.2-3 40(45) 3日目の夜
Lv.3-4 80(90) 5日目の朝
Lv.4-5 160(170) 7日目の夜
Lv.5-6 320(324) 10日目の朝
Lv.6-7 640(665) 13日目の夜
Lv.7-8 1280(1325) 18日目の朝
Lv.8-9 2560(2614) 25日目の朝
括弧内の数字はレベルアップするときに眠くなるまで鑑定した場合の鑑定の使用回数だ。例えばLv.6からLv.7になるには、Lv.6になった時点から320回鑑定しないといけないが、Lv.6になる10日目の朝の時点で(まだLv.5だが)25回鑑定が使える。このとき、21回目の鑑定を使った時点でLv.6になる。しかし、あと鑑定は4回使える状況であり、レベルアップに満足せずにそのまま4回使って眠れば、その3日後である13日目の夜に11回目の鑑定でLv.7にアップする。その時点で使用回数は36回になっており、レベルアップ直後には25回の使用回数が残る。
今日が初めて鑑定を使ってから5日目の朝なので、一桁レベルまででもこの調子だとLv.9になるにはあと20日かかる。そのときには70回に使用回数が増えているはずだ。これは俺の中でロールプレイングゲームなどに准えて経験値と呼ぶことにした。要するに鑑定の固有技能を使い、使用経験を積めばそれだけ鑑定の技能に習熟し、上手く使いこなせるようになる、と言う理屈にしたのだ。
また、文字の勉強の方だが、既に喋れることが大きいのか、非常に捗っている。既にこの世界のアルファベットは大文字小文字含めて全部覚えた。母音に相当する字も完全に覚えたので、だいたいの発音通りに書くなら問題はないと思う。
しかし、英単語と同じように単語によって発音通りの記述にならないことも多いようで、こちらは時間をかけて覚えていくしかないだろう。
とにかく、鑑定のレベルも4になったし、あと数回残したままの鑑定も使い切ってしまおうとしてふと気づいた。鑑定の使用回数を使い切らなかったらどうなるのだろうか? 当然眠くはならないだろう。そして、眠らないということは使用回数も眠るまで回復しないのではないか? これは早いうちに試しておいたほうがいいかも知れない。デメリットはレベルアップが多少遅れるくらいだろう。
自分の鑑定ウインドウをぼんやりと見つめながらそんなことを考えていると、鑑定ウインドウに変わったことがあることに気がついた。
【アレイン・グリード/5/3/7429 】
【男性/14/2/7428・普人族・グリード士爵家次男】
【状態:良好】
【年齢:1歳】
【レベル:1】
1~4行目と5行目の輝度が違う。1~4行目は5行目と比べると若干明るい気がする。1行目の自分の名前を注視すると、なんと鑑定ウインドウに重なってまたウインドウが開いた。
【アレイン・グリード;命名日7429年3月5日】
意味あんのか? これ。
と思ったが、今度は家名のグリードの部分の輝度が他と比べて若干高い。
グリードに注視する。
【グリード家:ロンベルト王国士爵。叙任日は7353年10月3日】
【勃興:12代目ウェブドス侯爵の四男、サーマート・ウェブドスが独立し興す。】
【現在の家督者はヘグリィヤール・グリードで三代目】
神様が仰られていたように、固有技能ってものすごいアドバンテージなんだな。
これ以上はサブウインドウ(仮称)は開かないようだ。
ウェブドス侯爵家についても見てみたかったんだが。
開いているサブウインドウを閉じ、今度は2行目に注視する。
【男性;誕生日7428年2月14日・普人族・グリード士爵家次男】
サブウインドウが開けるのが2箇所。普人族とグリード士爵家次男だ。
【普人族:ラグダリオス人種】
なるほど、地球で言うアングロ・サクソンとかそういった人種表記か。
これもこれ以上サブウインドウは開かない。一つ戻ってグリード士爵家次男の項目を開いてみると、さっきと一緒だった。これはある意味仕方ないと思う。
次は3行目だな。
【状態;現在の肉体や精神の状態:良好;問題なし】
と出た。言葉の意味を聞きたいんじゃないんだが。
サブウインドウは開かない。
ええい、次だ。
【年齢;誕生してからの満年齢:小数点以下切り捨て表記】
ふざけんな、畜生。知ってるよ。1.04歳とか出ても面倒くさいわ。
まぁいい。鑑定のスキルは闇の中でも鑑定対象の輝度が上がる以上に使えることがわかった。うーん、そうなると鑑定の使用回数を限界まで使用しないでどうなるかなんて実験は後回しだな。できるだけ早く鑑定のレベルを上げた方が良さそうだ。あと20日でレベルも9にまで上がるはずだし、実験はその後レベル10になってからでも遅くはないだろう。レベル10まではプラス10日くらいで行けるだろ。要するにあと1ヶ月実験を先延ばしにすればいいだけだ。
となると、さっさと残り回数を使い切って寝てしまおう。
・・・・・・・・・
その2日後の夜、鑑定の固有技能はレベルアップし5になった。
当然表示される内容も増えた。笑うしかないが、HPとMPだった。
【アレイン・グリード/5/3/7429 】
【男性/14/2/7428・普人族・グリード士爵家次男】
【状態:良好】
【年齢:1歳】
【レベル:1】
【HP:6(6) MP:9(18)】
やっぱり中学生の頃にやったことのあるド○クエのようなロールプレイングゲームみたいだ。ウルテ○マでもいいけど、ウ○ティマは当時のパソコンでやった1作目しか知らないんだよな。ドラ○エも1しかやったことないし。まいったなぁ、俺あんまりゲームってやらなかったんだよな。こうなるって判ってりゃもう少しゲームしてたのに。
ちなみに今は5行目のレベルもサブウインドウが開く。
【レベル;生物的な力量を数値化したもの。経験を積むことで上昇する】
どうやらひとつ前の鑑定レベルまではサブウインドウで詳細を見れるようだ。
経験を積めばレベルアップか。ますますゲームのようだ。その経験の積み方が解らんが。魔物を殺せばいいのか? しかし、ゴブリンを殺したファーンのレベルは1で上がっていなかった。ゴブリン1匹じゃ大したことないということか?
それよりも今はMPの項目に注目したい。9の後ろは括弧で18になっている。括弧の中は最大値だろうか? 今日の晩飯を食ってから8回鑑定をしてレベルアップをしたはずだ。そして今のが9回目。そして現在値は9。これが意味することは簡単だ。鑑定を1回使う毎にMPを1消費していた、ということだ。固有技能の鑑定は魔法だった。MPがMagic Pointの略であれば、だが。次にレベルアップすればMPについての詳細が解るだろう。次のレベルアップは3日後の朝だ。
HPが6というのは……よくわからん。大体、大人が殴ったら死にそうな体だが、一撃でどのくらいのダメージになるのだろうか?
・・・・・・・・・
更に3日が経った。
MPは順調に増加している。
今朝は25MPもある。
21回目の鑑定でレベルアップするはずだ。
飯を食ったら鑑定だ。
【アレイン・グリード/5/3/7429 】
【男性/14/2/7428・普人族・グリード士爵家次男】
【状態:良好】
【年齢:1歳】
【レベル:1】
【HP:6(6) MP:3(25)】
【筋力:1】
【俊敏:1】
【器用:1】
【耐久:1】
うーむ。
一気に4行も増えた。
これはドラク○で言う「つよさ」だな。またはウルティ○の「Status」コマンドか。全てのパラメーターは1ってのは涙が出るが、乳幼児ならしょうがないだろ。っと、HPとMPの解説でも見てみるか。
【HP;Hit Point 生命力。数値がゼロになると昏倒し、行動不能になる。耐久値分のマイナス数値で死に至る。マイナス1ポイントにつき回復には安静状態で1週間ほどの時間が必要。プラス数値の場合は1日あたり1ポイント回復する。年齢に加えて筋力の2倍、耐久の2倍、俊敏の合計がHPの最大値となる。ある程度の年齢に達すると年齢による加算は止まり、以降加齢と共に少しづつ減少していく。レベルアップ時に増加する以外では上記の能力が変更された場合にのみしか最大値は更新されない】
予想通りっちゃ予想通りだが、今の俺の耐久値は1なのでHPがマイナス1になれば死ぬということか。
ちなみに「年齢」はサブウインドウが開くが内容は【年齢】と一緒だ。筋力や耐久、俊敏という語はサブウインドウは開かない。あ、「レベルアップ」にはサブウインドウがあるな。
【レベル;生物的な力量を数値化したもの。経験を積むことで上昇する】
同じじゃねーか、と思ったが更にウインドウが開くようだ。
【レベルアップ時にはその直前のレベルでよく使用した能力のうち1番目と2番目の能力について1ポイント上昇する。能力にはHPとMPも含まれる。但し固有技能を所持している場合、上昇する能力値は1番目~6番目になる】
「但し」以降が固有技能のステータス表示と同じ暗い赤字になっている。ははぁ、これは神様が仰られていた、転生者の特典の
・レベルアップ時のボーナスがこの世界の一般的な生物よりも多い
って奴か。ってか、レベルアップの度に全能力1づつアップするって事じゃねぇの? 死ににくさの指標であるHPだけ取ってみても普通の人がレベルアップで増える最大値は筋力と耐久力が上がったときに4増えるだけだが、俺の場合はHP、筋力、俊敏、耐久力の全てが上がるだろうから6増えるわけか。なんか固有技能もそうだけど、レベルアップ時のボーナスだけでも凄いな、これ。
次はMPか。
【MP;Magic/Mental Point 魔力。精神力。数値が低いほど欲求に対する自制心や執着心などが低下し、ゼロになると根源的な欲求に逆らえなくなる。また、魔法を使用する度に減少する。覚醒時には約5分に1ポイントの割合で回復するが、MPが6以上ある場合に限られる。また、連続で4時間以上の安静な睡眠により最大値まで回復する。年齢5歳毎に1ポイント(小数点以下は切り捨て)上昇する他、魔法技能1レベルあたり1ポイント上昇する。レベルアップ時に増加する以外ではMPがゼロになった際に100から年齢の二乗を引いたパーセンテージで上昇する。年齢の二乗が100以上の場合でも1%の可能性で上昇する】
むう、いろいろと判った。まず、何故毎回鑑定を使い切ると次に目覚めた時に使用回数が1回増えていたのか。俺の年齢は1歳だ。1の二乗は1。99%の確率でMPが上昇していたということだ。また、覚醒時の回復だが、鑑定を何回か使った後に、対象指定モードのまま数十分耐えていたこともあったのに回復はしていなかった。これは、その際にはまだ使用回数が6回、つまりMPが6以上という条件を満たしていなかったからだろう。
このMPが6以上というのは一種の安全装置なのかもしれない。魔法が使えない普通の人の場合、MP消費による最大値上昇は発生しないはずだから、年齢を重ねることでしかMPの最大値は上昇しないことになる。そして、順当に行けば年齢が26歳のときに初めてMPが6になる。端数は切り捨てになるから25歳だと5.8だろうしな。そして、MPは魔力だけでなく、精神力も兼ねている。欲求を完全に制御するには26歳、つまりMP6が必要なのだろう。この場合の欲求とは根源的な欲求、つまり三大欲求と考えていいだろう。食欲、睡眠欲、性欲だ。
多少の個人差はあろうが、確かに俺は食欲や睡眠欲には弱かった。年齢から言って性欲はまだ発生していないだろうから、俺を例にとるのは適切ではないかも知れないが、まぁいいだろう。ちょっと前までは腹が減って泣き喚き、眠くて泣いていた。これはMPが1だったからだろう。ここ数日はMPを使い切らなければ全く問題なく我慢できている。性欲に目覚め始める第二次性徴が始まる13歳頃から、性欲はなかなか抑えられない物になってゆく。既にMPは3とか4になっているので普通は問題を起こさないのだろうが、切っ掛けさえあれば欲求は簡単に決壊し、自慰行為や直接的な行動に出てしまったりするのだ。
その後成長し、MPが6になる26歳~30歳くらいでは、ちょっとやそっとの誘惑には負けない精神力を備える、ということなのだろう。HPと違って加齢によって最大値が減少しないこともその裏付けになるのではないだろうか? たまに、ものすごく自制心の強い人がいたりするが、そういった人は幼少の頃に何らかの理由でMPを使い切り、上限が増えた人なのだろう。
となると、問題はファーンとミルーだな。ファーンは今7歳だ。MPを使い切って上昇する確率は51%。ミルーは5歳なので75%の確率で上昇するはずだ。これから先の人生を考えると自制心はあったほうがいいだろう。どうにかしてMPを使い切らせてみたい。なにしろ10歳以上は1%という極低確率でしかMP最大値の上昇は発生しないのだ。シャルに相談して二人に簡単な魔法を教えてもらい、定期的に使わせるか? しかし、何と言って説明する? そもそも二人はまだ俺ほどには読み書きに習熟していない。少なくとも読み書きが充分に出来るようになるまで待つか?
いや、ミルーはまだしもファーンは既に7歳だ。これが8歳になれば上昇確率は36%に、9歳時には19%にまで落ち込んでしまう。急いだほうがいいだろう。だが、それには俺の身に起こった状況を説明しなくては信用されないだろう。いやいや、ここで俺の素性を明かせばなにが起きるか分かったもんじゃない。万が一迫害されたりしたらどうするんだ? くそっ、考えてもいいアイデアが浮かんでこない。
ファーンのMPについて急を要するとは言っても、ここ数日でどうなるもんでもなし、一度情報を整理して分析だな。その結果なにかいい案が浮かぶかも知れない。
俺は転生してから初めて脳をフル回転させ始めた。