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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第三十四話 ブランディング

7442年8月24日

 その後、国王と王妃たちに解放された俺は疲れた顔で馬まで戻った。修繕の道具をしまい、今度は巻尺を取り出して厩番うまやばんの奴隷だかなんだかに第一騎士団のローガン男爵の居場所を尋ねた。

 言われた通りさっきまで居た三の丸と、二の丸の中間あたりに行くと、昨晩の騎士達を含む10人くらいの集団がたむろしていた。おいおい、第一騎士団は忙しいんじゃないのかよ? 彼らに挨拶すると丁重に一室に案内された。ここで採寸をするのだろう。全裸になろうとする奴もいたので、

「ゴムの鎧は鎧下の上に着用しますので、鎧下は着たままで結構ですよ」

 と言って早速採寸を始める。一人あたり15分くらいかけたので延べ三時間近くかかって採寸を行い、各人のサイズを記録した。ゴムプロテクター十着にカイトシールドが二枚、姉貴と一緒のバックラーみたいな小さな盾は四枚も注文が来た。うは、結構いい商売だよな。

 俺が内心のニヤつきを表に出さないように我慢しながら記録していると、ローガン男爵が語りかけてきた。

「しかし……十着もの鎧を本当に年末までに出来るのかね? ちょっと心配になってきた」

 別に問題ないよ。俺の後はテイラーが鎧を一人で作ってたんだし。誰か手伝えばもっと早くなるだろうし、兄貴や義姉さんも喜んで手伝うだろうしね。ゴムだってもう五番の畑からも採取出来るようになってるはずだし、そろそろ六番だっていけるだろ。それに……団長閣下とユールスフォル妃殿下にはお世話になったようだからな。

「ん~、まず問題ないと思いますが……。姉がお世話になっている方のご依頼ですから、無下にはできません。問題は私の手紙と前金がどのくらいの時間で届くかですねぇ。手紙の場合、方向の合う隊商がいないと時間かかりますから……届くまで長いと一月半くらいはかかるかもですね」

「お姉さんのことは気にしないでくれ。こちらだって彼女に抜けられるのは問題なんだ。しかし……確かにご実家までは距離があると言うしなぁ。……おお、そう言えばバルはまだいるか?」

「は、ここに」

「お前、ペンライド子爵んとこまで行って演習の監督するんだろ? そん時手紙と前金も一緒に持っていけ。で、そこでキールあたりまで行きそうな隊商見つけて言付けろ。出発は明後日だっけか?」

「は、そうですね。いい考えです。グリード君、明後日の朝、宿まで手紙を受け取りに行くよ。前金はその際に一緒に持って行けばいいかな? 今日でもいいが、ロンベルティアの贅沢税の窓口は午前中で閉まっているから、バルドゥックでの納税なら問題ないと思うよ。手間なら明日にでもこちらで納税しておくが……。バークッドの商会登録番号は何番だい?」

 バルと呼ばれた騎士はそう俺に話しかけてきた。税金忘れてた。クソ。あと商会の登録番号って何だよ。知らんがな。

「え? 商会? 登録番号? あぁ、手前共は商会は持っておりません。今までバークッドの産物はウェブドス侯爵領の外だとウェブドス商会に取り持って貰っていました。どうしたら宜しいでしょうか?」

 わからんことは素直に聞くに限る。こういうの知ったかぶると後がまずいからな。

「む、そうか、商会としての登録がないと今後まずいな。……おい、誰か行政府まで行って登録してこい。君は士爵家の人間だから登録には僅かな金しかかからん。50万Zだ。うちの奴が一緒に行けば登録もさっさとしてくれるだろ。あと、他領からの取引になるから区分は二号の三種で登録するんだぞ。それで我が国の国内では自由に商売ができる。税はロンベルティアかバルドゥックのどちらかで払えば良い」

 ローガン男爵が教えてくれた。流石第一騎士団の団長ともなるといろいろ知っている。ありがたい忠告だ。でも、50万Zを僅かな金って……団長職だからか男爵だからか知らんが……。

「お教え頂き有難うございます。では、採寸の記録も済みましたので登録に行きたいと存じます。あと、その前に姉に挨拶したいのですが、可能でしょうか?」

 俺がそう言うとローガン男爵は、

「え? ……まぁいいか」

 にやつきながらそう言うと、

「おう、第三中隊って今日は河川敷だよな? そうだな……ハック。お前一緒に行ってやれ。商会の手続きもな。この前の……なんだ……あのどっかの伯爵領の商会から槍を買ったとき登録したのもお前がついて行ったんだろ? 頼んだぞ」

 一人の騎士に声をかけた。

「はっ、分かりました」

 20代後半に見えるハックと呼ばれた騎士は男爵にそう答えると、俺に言う。

「俺が一緒に行くよ。じゃあ行こうか?」

 ハックに付いて馬に跨ると行政府まで行った。ハックと行政府の担当者の説明によると、商会は各領地で登録が必要で、その種別によって扱う品や税、取引が可能な土地があるらしい。外国を含めたどこの土地でも取引が出来て、全ての商品を扱える最強の商会が一号一種。外国との取引も含めて取引する土地には縛られないが、軍需物資のみ取り扱えないのは一号二種。逆に軍需物資のみは一号三種。王国内ならどこでも取引可能なのは二号で種別は同様に分けられる。ロンベルティアやバルドゥックなど、王国内でも王領のみだと三号になる。当然三号二種ってのが登録数は一番多い。飯屋や宿屋もこれに当たる。次が三号一種になる。

 なお、ここで言う軍需物資とは武器や防具だけでなく、保存食料や軍馬と鞍やサーコートなどその装備品、軍用のテントや馬車なども含まれる。現代日本で言う軍需物資で含まれないのは食料だけだ。医薬品や普通の食料、家具などは軍需物資には含まれない。つまり、バークッドの産物で言うとサンダルは無理やり含めることも可能だが、縫製していない単なるゴム引き布は含まれない。クッションも鞍に装着するものは含まれるが一般的な膨らんだ座布団みたいなやつは含まれない。ウォーターベッドも含まれ……ないだろうな。

 登録料金は一号が一億Z。但し平民や自由民の場合だ。貴族は一千万Zで済む。二号が五千万Z。貴族は五百万Z。三号は百万Z。貴族は十万Zだ。そして種別で二種は追加なし。一種は三倍。三種は二倍だそうだ。あれ? おかしいぞって思うよな。二号三種の俺なら本来一億Z必要だ。貴族であることを差し引いても一千万Zだ。

 当然今言った金額は何の伝手もなく、後ろ盾もない場合だ。だが、俺にはウェブドス侯爵のプレートも真っ青な第一騎士団がついているのだ。騎士団は、その装備品の購入や研究のため、各地の武具などを少量づつ購入しているので、第一騎士団は手数料のみで二号三種の商会なら無理やりねじ込めるほど権力を持っているのだった。そうじゃないと剣一振、槍一本買うだけで間に入るであろう商会に、事によったら何重にもマージンを取られるからだ。

 俺の場合、実家で生産しているのでメーカー直取引だと思われたのが幸いした。三種だろうが商会さえ正式に出来上がればこっちのもんよ。本来コンドームも医薬品だが、なんたって名称は『鞘』だしな。男の武具だと言い張れば国王は「うん、おっけ」とか言ってくれるだろう。ダメなら国王に口きいて貰って一種へ種別変更すればいい。まぁ正規ルートでも五百万Zで種別変更は可能だから、半月くらいの迷宮の上がりを突っ込めばやろうと思えばいつでもできる。

 それより、面倒な資格審査だとか免状の発行手続きだとかそういったものをすっ飛ばせるほうがでかい。ビバ! 絶対君主制! 立憲君主制だとか民主制だったらこうはいかんだろ。

 あと、商会のプレートというものが作られるらしい。ウェブドス侯爵のプレートと同じもので国内の通行証みたいなものか? いや、国内なら貴族である俺は問題なく通行できる。あ、ズールーとかエンゲラとかバークッドに連れて行くには便利だな。このプレートは二~三週間で出来上がるらしい。

 さて、行政府での用は済んだ。あとは姉ちゃんのしけた面でも拝んだらバルドゥックに戻るか。ハックの後を付いて河川敷に行く。おお、訓練しているな。今日は騎乗してはいないようだが、あれが第一騎士団の訓練か。そういやキールの騎士団の訓練とかも碌に見てなかったな。ハックは、

「今、第三中隊は訓練中だ。中隊長に許可を貰って来るからちょっとだけここで待ってて貰えるかな」

 そう言うと馬の腹を蹴って訓練中の騎士団に向かっていく。中隊長ってオースでもチュウスケとか陰口叩かれてんのかな?

「小休止!」

 中隊長らしき人が声を上げた。全員へたり込むようにしている。あ、あの鎧は姉ちゃんかな? 違った。従士の人か、姉ちゃんはあんなに体格よくない。ああ、あれが姉ちゃんか。ハックに声を掛けられたらしいミルーはこちらを見た。俺が手を振るとやっと俺に気がついたようで、疲れているであろう体を引きずってこっちに来た。

「姉ちゃん、久しぶり」

 俺が笑みを浮かべながらそう言うと、

「あんたね。降りなさいよ。それと、何? その頭? アルの癖に色気づいたの? 生意気ね」

 と言って来た。確かにな。そう言われても本当のところを言い返せないのが辛いところだ。「似合ってるだろ?」と言って誤魔化すのが精一杯だ。

「この馬、どうしたのよ? いい馬じゃない?」

 姉ちゃんはそう言いながら俺の軍馬の首筋を撫でる。

「ああ、家を出るときに兄貴が贈ってくれたんだ。ウェブドスの騎士団で兄貴が乗っていたんだって。いい馬だろ?」

 俺は自慢げにミルーに言った。兄貴が乗っていただけあって良く躾けられているし、以心伝心で俺の命令が伝わることも言った。

「え? この子、お兄ちゃんが乗ってたのか……」

 おうともよ。欲しいだろ? やらねぇよ。

「で、冒険者になってるの?」

 ミルーは軍馬の首筋を撫でながら言った。

「ああ、今はバルドゥックにいる。迷宮に入っているんだ」

 ちょっとだけ胸を張る。

「そっか……あんたなら一人でも大丈夫か……。怪我しないように気をつけるのよ」

 なんだよ、優しそうなこと言いやがって。

「ふっ、一人だと思ってるのか? 部下ももう五人いるんだぜ。三人は途中で出会って雇った。二人は奴隷で俺が買った。っつっても一人は親父から家を出るときに貰った金で買ったんだけど、もう一人の方は迷宮で稼いだ金で買ったんだぜ」

「ええっ? そんなに稼いでるの? あんた、凄いじゃない!」

 おう、もっと褒めろや。

「おうよ。金貯めて大金持ちになったらなんか奢ってやんよ」

「ムカつくわね。でも、鎧はどうしたの? あるんでしょ?」

「ああ、今日は国王陛下に呼ばれて王城に行ってたか「ええっ? なんでよ!?」

 俺が国王に呼ばれて登城したことに驚いたらしい。ま、そうだよな。

「陛下がさ、ウォーターベッド使ってくれてたんだよ。その修繕」

 ミルーは吃驚したようだ。知らなかったのか。

「へぇ! 凄いね! 家で作ったものが陛下にも使われてたんだ!」

「そうなんだよ。しかもさ、最初にほら、義姉さんがゼットとベッキーを身篭った後に作った最初のロットだった! お得意様だ。あれ、卸値七百万Z(金貨七枚)もするんだぜ」

 俺と一緒に喜んでくれている。

「七百万Zかぁ。ベッドに七百万は出せないなぁ」

 そらそうだ。

「なんだよ、姉ちゃんには今年の頭に俺の奴やったじゃんか? あれまだ使ってるんだろ?」

「うん、あのベッドいいね。お陰でぐっすり眠れる」

 お、そう言えば第一騎士団の人は皆金持ちそうだったな。給金幾らくらいなんだろ?

「そういや、姉ちゃんも第一騎士団なんだから結構給料高いんだろ? 幾らくらい貰ってるのさ?」

 そう聞いてみた。

「うーん、私はまだ若いし、騎士に成り立てだから大したことないよ。年間1320万Zね」

 は? あんた、まだ18だろ? っつーか、その年齢で1320万Zって……す、すげーな。ラルファなんかボーナス除けば年収240万Zだぞ。奢るどころか奢ってくれ。俺が吃驚した表情をしているので何を勘違いしたのか更に言って来た。

「これでも従士の時より増えたんだからね」

 いやいや、少なくて吃驚したんじゃなくて、多くて吃驚だよ。あ、そうか、ミルーは家を出てすぐに騎士団に入ったんだ。金の価値なんか知らんだろうな。騎士団に入るまで一回も買い物すらしたことなんか無いはずだ。

「姉ちゃん……それ、無茶苦茶多いぞ。多分バークッドの家の一年の生活費より全然多い。ウェブドス騎士団の従士なんか週給43000Zだぞ。年収なら250万Zくらいだ。正騎士だってその倍は貰えないだろ」

 呆れながら言った。

「え? そうなの? 私、従士の時幾らだったかなぁ? 去年は一千万は無かったと思う。そう言えば、聞いた話だと他の騎士団の給金の三倍くらい貰ってるのよねぇ。多いのかしら?」

 ふざけんな、糞が。母ちゃん、金銭感覚くらい身につけさせてから家を出そうぜ。

「姉ちゃんさぁ……休みの日に買い物とか行かねぇのか? 外で飯食ったりしねぇのかよ? 服くらい買うだろうによ……」

「え? 休みの日は体を休めろって言われてるから、座学の予習と復習ね。あとは寝てる。服は鎧下で充分だから持ってないわ。ご飯は駐屯地で無料だしね。私の場合、鎧の修理代もかからないし。あ、そうそう。お兄ちゃんに用意して貰った剣、手入れしながらまだ使ってるわ。他の人の剣なんか半年くらいでボロボロになるのに。この剣はちっとも傷まないの。打ち合わせても丈夫なのよね。良い剣だわ」

 そりゃそこらの鋳造の剣と一緒にしないでくれ。鑑定だと鍛造特殊鋼なんだぞ。価値だってあんたの年収には及ばないがそこらの剣十本分くらいするんだ。っつーか、真面目にやってたんだな……じゃなきゃ幾らなんでも正騎士なんかになれないか。俺なんか筆おろししようとあっちこっちふらふらしてたってたのに……結局まだだけど、何だか申し訳なくなってきた。

「今まで貰った金、殆ど手付かず? 使ってねぇの?」

「うん、買い物行く暇とかあんま無いし。あ、休暇で家に帰る時、宿に泊まったりご飯食べたりしたよ。安くて吃驚した。第一騎士団だから値引きしてくれたのかな?」

 もういいです。わかりました。

「まぁ、貯金は悪いことじゃないけど、もう少し街を歩いて色々なものの相場とか学んだほうがいいと思うよ。そんなんじゃ将来結婚したら苦労するぞ。俺も家を出るときに父ちゃんに十日は街の様子を見て勉強しろって言われたんだ」

 そう言うのが精一杯だった。

「そっか。今度暇を見つけて街に出てみるわ」

「ああ、そうした方がいいと思うよ。俺はまだ何年かはバルドゥックに居るつもりだから、今度飯でも食おうぜ。バルドゥックの『ボイル亭』ってとこに泊まってる。手紙でもくれたら休みを合わせるよ」

「そうね。今度ね」

「あ、それと言い忘れた。俺さ、ローガン男爵とその他九人から鎧の注文貰ったぜ。姉ちゃんと従士の人が宣伝してくれたからかな? 皆欲しがってたみたいだね。ついでにローガン男爵の口利きで商会も作った。グリード商会な。バークッドのゴム製品を第一騎士団に卸すんだ。あと、なんて言ったっけ。そうだバルさんて人が明後日出かけるんだろ? 注文の手紙を届けてくれるらしいから、姉ちゃんもそれまでに手紙書けば持って行ってくれると思うよ」

「え? バルって……第二中隊のバルミッシュ小隊長じゃないの! そんな人に頼めるわけ無いでしょ! あんたも遠慮しなさいよ」

 いや、知らねぇもん……。鑑定でも士爵だったからさ。騎士団だし、士爵くらいならごろごろいると思ったんだよ……。

「それに、鎧の注文はいいけど……剣は注文受けちゃダメよ。この剣欲しがってる人、多いのよ。兄から譲り受けた家宝ですって誤魔化してるけど、これ、あんたが材料作ったんでしょ? 沢山作れないものなんでしょ? 注意しなさい」

 お、おう、そうだった。そう言えば昔、一振だけ販売用に作ったな。あれ、誰が入手したんだろうか? まぁいいや。誰か近づいてきたし。セーガン・ケンドゥス士爵か。レベル14。士爵だから隊長なんだろうか?

「あ、隊長。すみません、時間を頂いて」

 ミルーが畏まって言う。やっぱ隊長だったか。

「君がグリードの弟か。俺はケンドゥスだ。第三中隊の中隊長をしている。君のことはグリードから聞いているよ。強いんだってな。もし時間があればちょっと手合わせしてくれるかな?」

 冗談じゃねえ、今はレベルアップの実験中だ。かすり傷すら遠慮願いたい。

「あ、その……これからバルドゥックに戻らないといけないんです。お手合せはまた次回お願いします。私は今はバルドゥックに逗留していますから、今後も鎧の納品などで何度か顔を見せます。その折にでも……今日はご希望に添えず申し訳御座いません」

 申し訳なさそうに、丁寧に頭を下げた。

「え? 鎧の納品だって!? これか? この鎧か!? バークッドまで誰か採寸に行ったのか?」

 ケンドゥス士爵はミルーの肩に手を置いて捲し立てた。なんでそういちいち食いついてくるかなぁ。

「あ、いや、ローガン男爵に請われまして、本日、鎧のご購入をご希望の方々の採寸を王城でしておりました。お陰様を持ちまして、ローガン男爵を含めて第一騎士団の方々より十着のご注文を頂戴いたしました。有難うございます」

 再度丁寧に頭を下げた。姉ちゃんの上司だし、心証良くしておかないとな。

「ええっ! 俺ァ聞いてないぞ、そんな事!! どういうことだよ!」

 いや、まじで知らんがな。

「え? あ……と、申されましても……そのう……」

 俺はしどろもどろになってごにょごにょ言っている。姉ちゃんは突然怒り出した隊長に青くなっている。

「なんてこった……。おい! ハック! 貴様! ちょっと来いや!」

 第三中隊の休憩中の騎士達と世間話に興じていたハックが呼びつけられた。吃驚して駆けてきた。他の騎士の面々も隊長さんの胴間声に驚いているようだ。

「は、何でしょうか?」

 息せき切って駆けつけたハックは駆けつけるなり直立不動で言った。

「おい、貴様、よもや……よもやグリード(こいつ)の実家に鎧を注文してねぇだろうなぁ?」

 え? なに? ダメなの?

「は、え、その、注文しました」

「俺ァ聞いてねぇぞ。おい! 貴様ら! ちょっと集まれ!」

 休憩中の騎士達が何事かと集まってきた。勝手に装備品を頼んだらダメとかあるのか? いや、あるわけないよな。団長自ら注文してたし、バルミッシュさんも注文してた。ぞろぞろと騎士や従士達が集まってきた。

「おい、お前ら。グリードの実家で作ってる鎧、今日注文受付だってよ!」

「「まじか!」」
「「え? バークッド村まで行かなきゃいけないんじゃねぇの?」」
「「買うわ」」
「「幾ら?」」

 口々に好きなことを言いながら寄ってきた。うーんここまで人気だとはなぁ。昨晩と採寸の時にそれなりに予想はしてたけど……。困ったな。バルミッシュ小隊長のおかげで手紙は相当早く着きそうだけど、この分じゃテイラーに兄貴や義姉さんが生産を手伝っても結構大変なことになりそうだ。親父もブランド化を狙っていたから、簡単に手に入っちゃいけないな。ここは援護射撃が必要だろう。

「あのう……誠に申し訳ございませんが、今回のご注文の受付は今朝受けた十着で締切なんです……次回は今回お受けさせて頂いた品の納品時に採寸いたしますので……その時も十着でしょうが……すみません」

 ……。

 …………。

「ひ、ひどいっすよ、中隊長~」
「なんすか、それぇ~。つっかえねぇ中隊長だなぁ。ぬか喜びさせやがって」
「でも、買えるんだよな」
「次回っていつごろかな?」

「……ハック……どういうことだ?」

 ケンドゥス士爵がドスの効いた声でハックに言った。

「え? いや、そのぅ。俺は、昨日陛下の護衛でバルドゥックに行きまして……昨晩いつもの飯屋で飯食ってたら団長とグリード君がそこに来て、グリード君の新型の鎧を見せてくれてたんです。俺たちが欲しそうにいろいろ言ってたら、そのぅ、十着なら注文を受けてもいいって言ってくれて……」

 ハックはおどおどとしながら答えた。

 俺は固唾を飲んで成り行きを見守るしかない。が、ここで流されるとブランド力は落ちる。彼らの注文を受けてはいけない。改めて自分に言い聞かせた。

「で?」

 ケンドゥス士爵のこめかみに青筋が浮かんでいる。

「ローガン団長と、二中一小と二小で十人だったんで……団長は副団長や二中のバルキサス中隊長にも注文を受けるまで喋るなって言って……」

 ハックは泣きそうになっている。

「……そういうことか……ちっ、あのオッサン……やってくれるじゃねぇか……しかも、新型とはな……」

 こ、こええ……ケンドゥス士爵はふつふつと湧き上がる怒りを堪えているようだ。俺は団長にはミルーを庇って貰った恩があるから好意的なんだが、そんなのこの人には知る由もないんだろうしな。

「……グリード君。次の注文受付は“必ず”第三中隊でお願いするよ。あと、価格も教えてくれないか?」

 急ににこにこと額に青筋を立てて笑みを浮かべながら言って来た。

「はい、分かりました。次回は第三中隊の皆様よりご注文をお受けしましょう。なお鎧は一着三千万Z(金貨30枚)で半額前払いになります。胸部中央に一箇所5cm四方までのお好きな紋章をレリーフで彫り込みます。本日ご注文をお受けした方々からは胸部の紋章は第一騎士団の紋章にして欲しいとのご依頼であったことを申し添えておきます。また、盾はカイトシールドとバックラーシールドがオプションで追加できます。カイトシールドは六百万Z、バックラーシールドは三百万Zです。盾には表全面にご希望の紋章をお入れします。こちらは全てそれぞれの方の家紋にてご注文いただきました。バックラーシールドをご希望の場合、鎧の左腕には固定用のアタッチメントが付きますが、左腕内蔵の簡易金属盾はオミットされます。丁度姉がその装備です。ご覧になられてください。また、バックラーシールドオプションのない簡易金属盾はアムゼルさんかグロホレツさんに見せていただいてください。なお、鎧のデザインは彼らの物とは多少異なることをご了承ください」

 俺は営業用スマイルを浮かべて一息で言い切った。
 そして、また息を継いでから口を開く。

「販売後のアフターメンテナンスは当面の間毎月15日に私が騎士団の駐屯地まで赴いて行いますが、緊急の場合、姉でも可能です。メンテナンス料金は損傷状態によって異なりますのでその時でないとわかりませんが、一例を挙げさせていただきますと上腕部や胸部、大腿部などのプレート部分の表面の傷は一箇所10000Z(銀貨1枚)。ボルトによる貫通の補修で一箇所20000Zが目安です。盾の損傷については軽微なもののみお受けすることになるかと存じます。その場合修繕部分のレリーフが損なわれる場合があることもお含みおき下さい」

 こんなもんかな。メンテナンス料金が個人的には高い気もするが、金属鎧のメンテナンス料金はこの十倍以上するらしいから、ま、いいだろ。

 俺の口上を聞いた中隊長以下第三中隊の面々は口々にメンテ料を考えるとすごく安いだの第二中隊の奴ら、上手くやりやがってだの勝手なことを言っていた。その後、次回の注文を受けることを確約させられてからやっと解放された。



・・・・・・・・・



 バルドゥックへの道すがら、次回はまあいいとして、その次は別口の騎士団からもちょびっとだけ注文を取れば原材料の逼迫とか言って値段を釣り上げられそうだな、と一人満足していた。

 さぁ、面倒だけど帰ったら兄貴達に手紙を書かないとな。



・・・・・・・・・



7442年8月30日

 昨日の夜、王城から『ボイル亭』に使いが来て、予想通り俺の残弾は1マグ10発になってしまった。金額については60000Z(銀貨六枚)だが、後日払うとのことだった。流石に国王に信用取引は出来ないとは言えず、この分だと末々とかの締め払い制度についても考慮しないといけないなとか変なことを考えたりしていた。

 土曜の午後、休日なので実験を継続するため俺はまた一人で迷宮に潜っている。あと10000くらいの経験値でレベルは上昇するはずだ。魔法でモンスターの数を減らしたあと意識的に白兵戦を行い殺しまくっている。今日は運良くオークの一団を見つけられて一気に8000近くの経験を稼げたから楽にレベルアップできそうだ。

 このゴブリンどもを全滅させることが出来ればレベルアップするかどうか微妙なところだな。ぎゃあぎゃあと喚くゴブリンの集団に距離を置いて魔法を掛けて半数以下に減らす。一気に突っ込んで状況が掴めていないでまごまごしている奴の首筋を切り裂きながら銃床で右隣の奴を殴り倒し、同時にくるりと反転しながら左の奴の脇腹に銃剣を突き刺して蹴り抜く。昔、陣地強襲でさんざんやった動きだ。一気に三匹のゴブリンを無力化させ、残りはあと三匹。左の奴に『ストーンボルト』の魔術を食らわせ、同時に真ん中の奴に銃剣を突き入れる。これはフェイントで真ん中の奴を牽制するだけだ。その後右のゴブリンに『ウインドカッター』をお見舞いしつつ体勢が崩れている真ん中の奴に弾倉部でぶちかましを入れる。

 その後は一匹ずつ喉を突いてやってトドメを刺して終わりだ。

 レベルアップしたようだ。

【アレイン・グリード/5/3/7429 】
【男性/14/2/7428・普人族・グリード士爵家次男】
【状態:良好】
【年齢:14歳】
【レベル:12】
【HP:116(116) MP:7426(7426) 】
【筋力:18】
【俊敏:21】
【器用:17】
【耐久:19】
【固有技能:鑑定(MAX)】
【固有技能:天稟の才(Lv.8)】
【特殊技能:地魔法(Lv.8)】
【特殊技能:水魔法(Lv.7)】
【特殊技能:火魔法(Lv.7)】
【特殊技能:風魔法(Lv.8)】
【特殊技能:無魔法(Lv.8)】
【経験:210008(270000)】

 うっし。HP以外がすべて上昇し、俊敏が合計2上昇している。これは俺が予想していたパターンだとDだな。俺はレベルアップの能力値上昇の仮説として四パターンを予想していた。一つ目は俺の意思や何かとは全く無関係に神のような何かがレベルアップ中の俺の行動すべてをカウントしており、厳密にそのカウントに基づいて能力値上昇が管理されているというもの。これがパターンA。

 二つ目は厳密にカウントされてはいるもののその回数の割合に基づいて上昇する能力値が決定されるというもの。これがパターンB。三つ目はそもそも管理などは存在しておらず、あくまで己の意識中で使ったか使わなかったかだけで決定されるというもの。これがパターンC。四つ目は今回のケース。パターンC同様、能力を使った回数などは関係なく、俺がどの能力に意識を重点的に置いていたかを元に上昇する能力が決定されるというもの。パターンDだ。

 今回の実験中、俺が気をつけていたのは傷を負わないことだ。その為には相手の攻撃は全て躱す。勿論、戦闘中に魔法で相手の頭数を減らしたり、こちらの攻撃の際には出来るだけ高ダメージになるように突き入れ方を選んだりはしていたが、それらより強く意識していたのは相手の攻撃をいかに躱し、こちらが傷を負わないように反撃に転じられるようにするかということだ。とにかくこれに集中していた。剣でも銃剣でも相手の攻撃を受け止めたり、受け流したりするのではなく、全く掠らせたりもしない様に躱す事に重点を置いていた。

 冷静に分析すると相手の攻撃を躱すことよりもこちらが剣なり銃剣なりで直接相手に突きを入れたり切りつけたりした回数や、場合によっては固有技能もあるからMPを使った回数の方が数としては多かっただろう。だが、今回は俊敏が伸びた。つまり、自分がどれだけ重要視し、意識して能力を活かしていたかが重要なのだろう。

 これである程度方針が立てられる。ラルファは魔法の修行もしているがMPが僅かしかないため、一日で魔法の修行が行える回数はごく僅かにしか過ぎない。それらよりも迷宮での戦闘中の方が自分たちの命が掛かっている分、意識を強く持って集中していたのだろう。それは間違った行動ではないが、俺には少々都合が悪い。勿論、今後の彼女の為にも今のうちに魔法を、MPを使用することの意識付けをしっかりとやらせたほうがいいだろう。

 そう言えば、明日からは二層目指して頑張るんだっけかな。んじゃ、もう少し頑張ってから皆と飯を食おう。

 
さて、一段落したので、次からは二章の幕間ですよ。
幕間十五話までは実は一章の幕間だったのです。
もうね、どんな罵詈雑言を貰っても幕間はやりますよ。覚悟決めましたので。
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