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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第三十三話 売り込みPart2

7442年8月24日

 約10km程離れたロンベルティアまで国王の行幸帰りに同行する。ラルファとベルも同行したがっていたが、国王と一緒だと言うと、流石に遠慮した。当然俺は軍馬に騎乗している。国王は八頭立ての大きな馬車に座乗し、その周りを固める騎士も軍馬に騎乗している。思ったより人数は少なかった。馬車の警護は総勢50人くらいであろうか。そう言えば、従士と言えど、元は全員騎士なんだよな。全員が第一騎士団ということもあるまいが、ここは王都のお膝元でもあるし、治安は相当いいみたいだ。街道も綺麗に整備されているし、二時間ほどでロンベルティアに着いた。

 王都ロンベルティアは巨大な街だ。街の中に東側からキールの中央川セントラルリバーがどぶにしか見えないような幅20m以上はあろうかという二本の川が流れ、その川は西の海に注いでいる。川に挟まれた大きな中洲状の土地側の川岸はしっかりと護岸工事がなされ、石垣のような川岸に200m近くはあろうという幅広の河川敷、高さ6mはあろうかというこれまた石垣のようなしっかりとした土手となっているが、反対側は100m程度の幅の河川敷に4m程度の高さも無い様な土手という、比較すると申し訳程度の治水工事と言える。いや、これでも充分しっかりしてると思うけどさ。

 街全体が少しばかり台地状になっているからか、川面から地上までは4m近くあった。そこに街中を走るどぶ川が幾本も注いでいる。キールほど計画的には作られてはいないようだが、その規模から考えると充分に清潔だし、王都を囲む塀もあるから、余計に立派に見える。これ、首都として考えると理想的な土地かも知れん。

 ロンベルティアの街の中央には王城があった。三重の堀を持ち、金箔を貼った瓦屋根の天守閣を持つ美しい大きな城だ。見た感じで大阪城を思い出す。五層の大天守を持つ勇壮且つ壮麗な姿は流石に大きな王国の城だと唸り声を上げるほどだ。大天守の周りには二の丸、三の丸もあるようだ。その他櫓も多数見て取れた。

 キールにも城はあるにはあったが、そう言われなければ気がつかないような程度の城だった。申し訳程度の堀と大きな柵を巡らせた石造りの三階建てのこじんまりとした、丸亀城を更にしょっぱくした感じの城だったしね。遠目から大店だと言われれば「ああ、そうですか」と言いそうな程度だったのだ。しかし、ここはロンベルト王国の王都であり、親父やお袋の話が本当ならオーラッド大陸西部で最大の人口を抱える超大都市だ。人口は22~23万人くらいだというから東京都調布市くらいの人口か。都市部の面積はもうちょっとあるだろうけどね。

 九十九折になった道を進んで王城へと入る。暫く城内の開けた場所で待っていると迎えの人が俺を呼びに来た。俺はサドルバッグからゴムの修理キットを取り出すと、馬と武器を預け、案内の人の後を付いていった。



・・・・・・・・・



 ここは多分三の丸近辺の一室だ。ここで待つように言われてからかれこれ30分は経つ。ベッドの修理とはいえ国王の寝室に入って作業をするわけもないだろうから、今頃は寝台からウォーターベッドを剥ぎ取って運んできているところか。手持ち無沙汰なので念のためと思い、修理キットを再度確認する。ここで失敗でもして国王の不興を買い、姉貴に迷惑でもかかったら俺は一生自分を許せないだろうしな。

 生ゴムのボトル、良し。硫黄パウダー、良し。木炭、良し。添加剤、良し。念のためないと困るから持ってきた小さなバケツ、問題ない。割れないように外側を硬質ゴムと生ゴムの層でコーティングしたガラス瓶に入れた各種酸類も今回は使用しないだろうが全部ある。うん、大丈夫だ。あとは水の張った桶が最後の検査用に必要だが、さすがにこれは持ち歩けないのでさっき頼んでおいた。

 そうやって道具を確認していると、ウォーターベッドや桶を持った下働きの奴隷たちと共にわざわざ国王がここまで来た。跪いて臣下の礼を取り、頭を垂れる。

「よい、面をあげよ。余の頼みで来て貰ったのだ、それにどうやって修繕するのか興味もあるしな」

 ええ~、傍で見てるのかよ……やりにくいなぁ、もう。

「は、では、早速修繕いたします。まずは傷になった部分を見せてください……」

 おお、これは限定品で一番最初に売り出したウォーターベッドじゃないか。確か、三年くらい前に売った奴だ。国王に買われていたんだなぁ。ざっと見たところ丁寧に使っていたようで、剣による穴以外は経年もあってそれなりに傷んではいるものの綺麗なものだ。耐久性は十分だったことが証明されたな。尚、剣の穴はウォーターベッドの真ん中の水室になっているポールを上下から貫通していた。穴、二箇所じゃんか。でも、ど真ん中のポールだとベッドとしては使い物にならないな。



・・・・・・・・・



 剣で突かれただけあって、傷は鉤裂きのようになっているわけでもなく、きれいなものだった。これなら傷の周囲をヤスリがけして毛羽立たせ、同素材のゴムを塗ってから同じように毛羽立たせた板状のゴムを貼り付ければ大丈夫だろう。程なくして作業は完了した。あとは乾燥させ、空気を入れてみて桶に突っ込んで漏れがないか確認するだけだ。そう思って最小限の乾燥の魔術を使おうとしたときだ。

 部屋におばちゃんが入ってきた。若いころはさぞ美しかったのだろうが、四十代半ばくらいの既にお肌の曲がり角をいくつも曲がったおばちゃんだ。だがまぁ、かなりの美人ではある。周囲の奴隷が国王同様に臣下の礼を取ったので俺もそれに倣った。王妃かな? モリーンさんだっけ?

「そなたですか? ベッドを修理しようという不届き者は」

 は? え? この人、なんか怒ってない? っつーか、不届き者って……。

「は、いえ……その……」

 なんと答えたものか、言葉に詰まる。

「不届き者とはなんだ!? 言葉を慎め! この者は朕自らが頼んで修理に来てもらったのだぞ!」

 おお、助かる。助かるが国王陛下さんよ、一人称が公式の場で使う朕になってるぞ。

「あなた、これを修理したらまた誰かを引き込むのでしょう? 今度は誰? 奴隷くらいなら妾も大目に見ますが、城で下女として働く平民や貴族は許しませんよ。また無用に世継ぎを設けるおつもりですか!?」

 王妃殿下、すごい剣幕でまくし立て始めた。

「な! コングースのとこの次女には慰謝料を払ったろうが! 例え男児でも世継ぎには当たらんわ!」

 あんたな……。

「そういう問題ではありません! ……そなた達、部屋を出て扉を閉めなさい!」

 王妃がそう言うと奴隷たちは弾かれた様に部屋を飛び出していく。俺もそうしようと腰を浮かせるが、国王に腕を掴まれた。

「グリードよ、修繕はまだ終わっておらんのだろう? そなたは部屋を出るにはあたらん! 作業を継続せよ!」

「いいえ、そなたも作業を中止して部屋から出なさい。あなた、今日はもうしっかりとお話を聞いていただきます!!」

 どうしろってんだよ。俺は国王に腕を掴まれたままなんだぜ。

「いや、構うな! さぁ、グリード、作業を続けよ!」

「……そうですか、そこまで仰るならあたくしにも考えがあります! 誰か! ユールとベッキー、マリーンを呼んで参れ! 今すぐにじゃ!」

 俺を挟んで国王と王妃が言い合いをしている。ついでに何人か増えるみたいだ。

「それと……いいでしょう、グリードとやら。作業を続けなさい。っとちょっと待って。ステータスオープン……士爵家の者か。ちょうど良い、ここに居合わせたのもなにかの縁です。そなた、これからの話を聞いて意見を述べなさい。これはロンベルト王国王妃としての命令です。いいですね!」

「っは、はいぃ」

 つい返事をしてしまった。

「……モリーン! 我が王家の問題に他人の意見を聞くのか!?」

 ですよね。

「今更隠せるような問題ではありません!! もう既に王都中の者が知っているではないですか! だいたい、秘密でも何でもありませんよ、もう! グリード! そなたはさっさと仕事を片付けなさいな!」

 なによ? この王様、そんなにお手つきしまくりなの? 羨ましい。俺はさっさと乾燥させ、水の張ってある桶にベッドの修繕部分を突っ込むと栓から息を吹き込み始めた。別にMPをけちったり、魔法を隠そうとしているわけじゃない。何か作業をしていないと巻き込まれそうだからだ。

 息を吹き込みながら王妃を鑑定した。モーライル・ロンベルト。ロンベルト公爵家第一夫人。レベル8。魔法は火魔法以外レベル3~4と結構高い。うむ、王妃だ。ロンベルト家は公爵、侯爵、伯爵、子爵家も兼ねている。各領地の領主としてその時々に応じて使い分けているだけだ。全部でいくつ持っているかなんて知らんけど。伯爵だけで10以上あるとは聞いたことがあるな。

 慌ただしい足音と共に、一人女性が駆け込んできた。鑑定するとユールスフォル・ロンベルト。ロンベルト公爵家第二夫人だった。ゴム栓を咥えたまま頭だけ下げる。暫くしてまた一人、マリーネン・ロンベルト。ロンベルト伯爵家第一夫人。その後更に暫くして一人、レベッカ・ロンベルト。ロンベルト侯爵家第一夫人。それぞれとびきりの美人だ。

 国王と四人の嫁さんと、ゴム栓を咥えた若い男。部屋には俺が息を吹き込む音だけがしている以外、何の音もしていない。遅れてきた三人は事情が掴めないのだろう。俺がなんらかの凶事の元凶でもあるかのように俺に注目している。一緒に国王とその第一夫人も俺を見つめている。

 息継ぎをしながらゴム栓の管に息を吹き込み続ける俺。そろそろいいかな。傷の部分を桶に突っ込む。空気は漏れない。OKだ。

 桶から出し、ゴム栓に棒を突っ込んで空気を抜くと、表面の水をさっと拭き取ってから乾燥させた。中身が空になったウォーターベッドを丁寧に折り畳み、道具を片付けると、

「修繕は終わりました。では、これで……」

 と言った。つい、って感じで見逃してくんねぇかな?

「そうは行きません。先ほど申したでしょうに。さあ、そこで聞いていなさい」

 やっぱね。俺は改めて跪いて臣下の礼と取ると、沈黙した。

「さて、グリードよ。そなたはこの国王陛下が何人の子を設けておるか存じておるか?」

 とモリーンが聞いてきた。知らねぇよ。

「いいえ。王妃殿下。私めはつい先日、ウェブドス侯爵領バークッドより出てきたばかりの田舎者ですゆえ、ご長男のロンバルド公リチャード殿下とご次男のロンドール公ウィリアム殿下、ご長女で既にバーグウェル公爵のご長男に嫁がれたビアギッテ殿下のお三方しか存じ上げません」

 まぁこのあたりは常識だから俺でも知っている。

「ほう、バークッドの出自か……それでか……まぁいいでしょう。正解は8人です」

 モリーンが言った。まぁ四人の嫁さんが二人づつ産めばいいくらいだからそんなもんだろう。うちの母ちゃんより少ないし。

「はっ、己の無知さに呆れ果てます」

「よい。して、そなたはこの人数をどう思いますか?」

 どう思うって……異常ではないだろ。王族だから流石に幼少時に亡くなるなんてことはないだろうし、少ないわけでも、かと言って多いわけでもないんじゃね?

「は、巨大なロンベルト王国を治めるべきお世継ぎですから、次代への安心と連綿と続く安寧とした治世の継続を感じさせる人数かと……」

「そうですね。それだけであればなんと安心なことでしょうね。先ほどの人数は嫡出子です。庶子は生まれているものだけで65人です」

 な!? りょ、ろく……じゅ……ご?
 流石に聞いた言葉が信じられずポカンとしてしてまう。

「この数を聞いてそなたはどう思いますか?」

「……その……あの……お、おそ、恐れながら……い、些か……そのぅ……」

 俺が言葉に詰まったのを見て、モリーンが言う。

「恐れることはありません。正直に言いなさい、先ほど私はそなたに命令しました」

 その口調は厳しいものだった。

「す、すこぅし、多い、かなぁ? と……」

「もうよい! これ以上子供は作らんように注意する! それで良いではないか!」

 国王が口を挟んできた。た、頼む。胃が痛くなるまえに有耶無耶にしてくれ。

「あなた! まだ話は済んでおりません!! グリード、その65人のうち、59人がここ一年強の間に生まれています。それから妊娠中の庶子は34人です。そなたはこの件についてどう思いますか?」

 はぁぁ? ってことは……おい! なんじゃそら!

「そ、そうですか……相当がんば……いえ、陛下のご健康が……」

「健康に問題があったらそんなに子供が出来るもんですか! 真面目に答えなさいな!」

 お、おっかねぇ。

「あ、い、いくら、幾ら何でも多過ぎるかと……」

 言うしかなかった。

「これ、グリード、そなた……言ってはならんことを……」

 国王が額に手を当てて宙を仰いでいる。だ、だってさ、幾ら何でも二年やそこらで、合計93人ってあんた……。言い訳できねぇだろ……。

 ん? 二年やそこら? なんだか符合するような……。

「そうです! 常識外に多すぎるのです!! ユール! ベッキー! マリーン! そなた達も言いたいことはあろう! 言うのじゃ!」

「陛下! 私ももう堪忍袋の緒が切れました!」

 ユールが垂れた目を吊り上げた。

「今日という今日は!」

 ベッキーの顔が紅潮した。

「きっちり言わせていただきます!」

 マリーンの勝気そうな目が三角になった。

 おお、怖。

 そのあとは大変だった。口々に自分の夫である国王を責め立てる王妃四人。俺は俯いたまま何も言えなかった。もう20分くらい罵っている。国王たる者がそんなことでいいのかとか、王城で働く下女はそんな事のために雇っているのではないとか、あのウォーターベッドの弾力がとか、あれが来てから始まったとか、病気になる可能性も考えてくれとか、慰謝料だけでン十億Zにのぼり、国庫を圧迫しているとか、最近では国民からも色ボケ国王とか桃色国王とかひどい呼ばれようだとか、王妃に魅力がないから他の女に手をつけたとか言われてキィークヤシイ……。

 だが、流石にこれだけ言って腹の虫も少しは収まったのかどうなのかは知らないが、だんだんと罵倒も止んできた。単に疲れただけかも知れないけどさ。まぁ俺は黙って様子を見ていただけだから落ち着いて考えられたよ。この世界にはスプリングがない。だから国王と言えど、ベッドは木製の寝台の上に上等ではあるが布団を敷いて寝ているのだろう。

 そんな生活をしていたところに寝心地もよく、丈夫で、上でプロレスごっこをやっても耐えられるゴム製で適度な弾力も備えたウォーターベッドが来た。普通に寝っころがっても体型に合わせてある程度変形する優れものだ。上になったり下になったり多少の激しい運動をしてもぼよんぼよんとまではいかないが、それに近い反発力はある。楽になったろうね。

 つまりは、俺のせいか。

 そして、同時に大切なことを思い出した。

 この世界の一般的な財布は、硬貨しか通貨がないため結構でかい。軍パンの両腿の脇みたいにでかくて底の深いポケットに財布を入れるのが普通だ。そして、俺は前世の若い頃、財布には必ずあるものを入れていた。防衛大学の在校中でも外出の際には入れていた。結婚してからは流石にやらなくなっていたけどね。ところが、今、流石に一つ一つとまではいかないが、十個一パックのまま入っている。いつ実戦になっても良いようにだ。敵はこっちの都合なんか考えちゃくれないからな。キールでサンプルで一パック、最後にアホ共に一パック使っているから、残りは八パックもある。80個の実弾を持っているのだ。持ち歩いているのは1マグ10発だけだけど。

 ああ、兄貴……。また兄さんに助けられることになるな……。俺は本当に一生ファーンに頭が上がらないかも知れない。

「陛下、それと妃殿下方、僭越ながら私めに良いアイデアがございます」

 俺がそう言うと、全員が俺に注目した。ユールが声をかけてきた。

「そなた、ゴム職人ではないですか。平民や自由民が王族の歓談中に声を挟むなど、不敬を疑われかねませんよ?」

 彼女は俺のことを心配して声をかけたのだろう。垂れ目が魅力的な美人さんだ。しかし、歓談中ときたか。あと、俺グリードって呼ばれてたはずなんだけどな。って流石に田舎士爵家なんざ知らんか。

「よい、その者は士爵家の者じゃ。そもそも妾が意見を言うように命じておる。妾が許すゆえ、申してみよ」

 モリーンが言ってくれた。俺は一度息を吸うと、覚悟を決め口を開く。ここが正念場だ。

「は、まず、今回の件ですが、今、皆様方のお話をお聞きしまして、思うことがございます。確かに陛下はお盛んでいらっしゃる。ですが、一国の国王としての義務を放り出してまで……その、のめり込んでいる訳ではないのですよね?」

「当然だ。これでも余は国王だからな。仕事はしっかりと勤めておるわ。だいたい、ここ数年でも領内の治水工事や今まで溜まっていた決裁、陳情に上がってきた領主間の紛争解決など効率はむしろ上がったくらいだろうが!」

 そんなん、俺に言われても。

「……確かにほぼ全ての問題は無くなりましたね」

 モリーンが言った。そうなんか。

「だろう? 近年で俺ほど働いた国王もそうそういないだろう。ストレスだって抱えている。そなたらは適当に下の貴族と飯を食ったり、踊っていれば良かったのだろうがな! いいか、俺は、疲れてるんだ! 少しくらいその捌け口があってもいいだろうが! おい! モリーン。レイダー地方の治水工事、去年完璧に終わったよな!? 誰のおかげだ! ユール。サングーラルの地形調査も終わったよな!? あそこは俺の曾々祖父さんの代から手つかずだったんだぞ!? それを一昨々年から始めて三年かからず済ましてやったわ! ベッキー。グラナン皇国との不戦協定の延長だってうちに有利に交渉したよな!? あれ、俺の爺さん(先代)が棚上げにしてたやつだぞ!? 俺が解決したんだ! マリーン。お前んとこの実家のファルエルガーズ伯爵とローダイル侯爵の間の300年前の借金問題、あれ、お互いが納得するように調整してやったろうが! 法律まで作ったしな。あの法律作るのだって次代でも似たようなことにならんように相当頭使ったんだぞ! おかげで他の領主共からも感謝されたろうがよ! 俺が国政を投げ出して遊蕩してたのであればいくらでも責めるが良い! だが、自分で言うのも何だが俺、結構頑張ってねぇ? 王国中興の祖とか言われても良いくらいだわ! 俺が即位したのが35の時だ。今俺は48。たった13年間でこんだけ、いやもっとやってるだろうがよ! え? お前らがいいもん食ってひらひらと踊ってられるのは誰のお陰だよ。言え! 言ってみろ!」

 国王は一気にそう怒鳴ると肩で息をした。すげーな。こりゃ中興の祖と自称しても恥ずかしくないわ。しかし、それとは別に子供作りすぎだろ。

「「こ、国王陛下です」」

 嫁さんのうち若いベッキーとマリーンがそう言って平伏したが、上の二人は違うようだ。

「そんなの当たり前の事です! ベッキー、マリーン。立ちなさい! あなた、確かにあなたはまつりごとで功績を上げていらっしゃいます。ですが、それとこれとでは全く違います。それをお解りなさい!」

 モリーンは厳しいな。

「そうです。陛下。いろいろストレスをお抱えなのは理解致しますし、女子おなごに手が出るのをお止するにはあたりません。良いでしょう。ですが庶子の数が尋常ではございません。あと一人で三桁ではないですか。それに、我々がただ踊っているだけだとお思いですか? あそこは我々の戦場です。踊りながら他の領主から情報を得、それらを逐一報告しています。可能なら所見も付け加えておりますよ。それに、あなたが国政に集中していられるよう、軍事的な方面で私は補佐しております。ここ10年近く、紛争への視察は全て私とマリーンが行っていますし、各騎士団の訓練進捗や装備の更新など、面倒な仕事も多いのですよ。モーライル様は宮中を掌握され、貴族たちは皆様頭を垂れておいでです。ベッキーは事務処理であなたを補佐しているでは御座いませんか? 陛下お一人の功績ではございません」

 ユールは垂れ目で一見大人しそうな、綺麗なおばさんだが、きっついこと言うな。

「モリーンは正室だから宮中の掌握はそれこそ当然だろう? ユールはお前、第一騎士団で24で中隊長まで行ったくらいだしよぉ。お前、俺なんて30まで第一騎士団にいたけど28でやっと小隊長だったんだぞ。ベッキーはロックモルト侯爵んとこでさんざん仕込まれてたから事務仕事得意だし、マリーンだってファルエルガーズんとこの郷士騎士団の火の玉(キャノンボール)だろうがよ……適材適所で当たり前のことしてるだけだろ?」

 あーあ、それ言っちゃいけねぇだろ。ところでユール王妃は第一騎士団で若くして中隊長まで行ったんか。姉ちゃんの先輩だな。道理でこの人だけレベル12と頭一つ上なわけだわ。

「あら、適材適所。良い言葉ですわね。あなたも適材適所で国王職やってんだから当たり前です! ユールの言う通りです! 三桁! 三桁だけは許しません! そこなグリードも多すぎると申していたではないですか! だいたい避妊もせずに……非常識ではありませんか! 我々がその度に先方の親御さんに頭を下げているのをご存知ないのですか! ベッキーやマリーンは若いからと言って平民階級の親にまで頭を下げて回ったのですよ!!」

 モリーンが非難した。あらら……やっぱね。

「豚の腸をお使いなさいとあれほど申し上げているではないですか!」

 ベッキーが更に突っ込んだ。

「そうです、そうでなければ外に……」

 マリーンも追随する。

「だって、中で出した方が気持ちいいし……」

 おい! おっさん! これ以上は聞くに耐えんなぁ。……さて

「皆様方、些か興奮の度合いが過ぎるかと……口調もお戻りになっておいでですよ。さて、先ほど僭越ながら良いアイデアがあると申し上げました由、よもやお忘れではございませんですよね? ……結構です。まず二点、確認がございます。最初の確認は王妃様方にです。国王陛下が、その、お手つきをなさることに反対はないのですね?」

 俺はただひとり落ち着いた顔つきで冷静にそう言った。

「……仕方ないとは思っています。確かにストレスも多いでしょうし、陛下お一人で決定しなければならないことは数多くおありでしょうから、多少ハメを外すくらいは良いとは思っています。ですが、それと子供を作ることは別問題です!」

 モリーンが国王を睨みながら言った。他の三人も頷いている。国王は他所を向いて気まずそうだ。

「では、妊娠を伴わなければお許しになられるのですね?」

「そうですね。ですが、相手を孕ませるのはダメです。外聞が悪すぎます。十人やそこらでしたら私たちも何とも思いません。今の状態は度を越して天の彼方まで飛び出しているくらいです」

 引き続いて彼女はそう言って国王に詰め寄る。このまま放っておけばさっきのが再燃するだけだ。

「では、次の確認です。陛下、私も田舎者では御座いますが陛下のお仕事が激務であることは想像に難くありません。ですが、王妃様方のお気持ちも非才の身ではございますが理解できます。また、年齢こそ若輩ではありますが、同じ男として陛下のお気持ちも理解できるつもりでは御座います。そこで、この品をご紹介致します。私も貴族の端くれに名を連ねておりますからには……私は男として世の女性、いや、母体を労わり、望まない妊娠を避けるため普段から持ち歩いている品でございます」

 そう言って財布からゴム袋を取り出して見せた。当然彼らはこの品が何だかわかろうはずもない。

「先ほど私の出自はウェブドス侯爵領のバークッド村であると申し上げました。ご存知かとは思いますがバークッドはゴム製品の産地です。強靭な弾力を持ち、よく伸び、よく縮む。ゴムの性質の一端ですがこの品はその性質を満遍なく発揮できております。これは豚の腸に取って代わる品です。どうぞお手に取ってご覧下さい。袋の中には10個入っておりますが、袋は今まで密封されておりますので品質に問題はございません。また、使い心地や滑りをよくするため、ローションに漬けられています。ローションは海草由来の天然素材で、言うなれば食物加工品ですので、体に付着しても、舐めてしまったり、飲み込んでしまったりしても何の害もありません」

 俺の発言を聞いてユールが興味深そうに俺を見て言う。

「そなた、バークッドのグリード家の者ですか……ミルハイアは姉君ですか?」

「は、ミルハイアは私の姉です。今は第一騎士団にて陛下にお仕えしてございます」

「そうですか。ならばこの品は安心できるでしょう。モーライル様、どうぞ」

 ユールは俺からゴム袋を受け取るとモリーンに渡した。袋を手に取って袋ごとおそるおそる観察していたモリーンは思い切って袋の封を切ることにしたようだが、上手く切れないで苦戦しているようだ。マリーンが腰の長剣(平時の宮中では王族と護衛以外の武装は許されていないのだろうか)を引き抜いて切ろうとしたので、それを止めさせて言った。

「マリーネン妃殿下。袋は端の角だけを少し切り取り、中身を押し出すようにしてください。一度封を開けたら残りは袋に水が入らないよう、氷水にでも漬けて保存願います。……そうです。一つづつ丁寧に押し出せば出てきますから……はい、それがこの品の本体、製品名を『鞘』と言います。ゴムの産地、バークッドが新たに世に問う新製品です。使い方は豚の腸と一緒ですが、その『鞘』は普段巻かれていますので、形が違うようにお感じになるのもご無理はございません……」

 あとはキールの娼館『リットン』のハリタイドの時と一緒だ。コンドームを恐る恐る触ったりしてその感触を確かめているのを黙って眺めていれば良い。

「……さて、今はそれ一袋ですが、バルドゥックの私が逗留している宿には同じものがあと六袋ございます。兄に手紙を書けば年末には更に多く手に入れられます。まぁいきなりご信頼頂けないのは承知しております。ですが、今晩にでも王妃様方にご使用になられてお試しいただければ如何かと……ベッドも直りましたしね」

 その後、使用にあたっての注意点(装着時には空気を入れないように気を使うこと。一度使用後は破棄し、再使用しないこと)を幾つか述べ辞去することにした。気に入ったら向こうから連絡を取ってくるだろ。気に入らない訳はないがな。

 え? あと一袋あるはずだって? 知ってるよ。数くらい数えられるわ。

 
別に貴族だからといって王族の会話中に話しかけることは不敬罪を問われないわけではないです。今回は会話とは言えず、仲裁の意味が強いですし、アイデアがあると言ったので王妃に見逃されたのでしょうね。

また、国王の小隊長への出世は遅くはありません。むしろ最初から騎士の経験もなくミルーくらいの年齢で第一騎士団に放り込まれて(王位継承権のある王子か王女のみは入団試験が免除されます)小隊長にまでなっているので騎士としても結構優秀であったと言えるでしょう。奥さんの第二王妃が格別にすごいだけです。剣や槍、乗馬の才能に恵まれていたのでしょうね。
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