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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第三十一話 不安1

7442年8月16日

 今日、迷宮に入ろうとしたとき、入口で税吏の護衛をしていたチャーチさんに呼び止められた。来週の金曜、例のデレオノーラを含むバルドゥックの騎士団に収監されている犯罪者達の裁きと刑の執行が行われるらしい。俺とベルは証人として立ち会うようにと言われた。しょうがない、その日は迷宮行は休みだな。

 なお、裁きに逮捕から二ヶ月以上の間が開いた理由を聞いてみたら、領主の都合だった。バルドゥックは王直轄領なので領主は国王なのだが、当然国王自らがこんなケチくさい仕事でわざわざバルドゥックまで来ることはないし、普段から街自体の政治運営には代官を立てている。だが、その代官自体も実は日本人的な感覚で言う全権代理ではない。あくまで行政権のみに権限は限定されているのだ。そもそも正式には代官ですらない。バルドゥックはロンベルティアと並んで本当の意味での直轄領に近いから正式な代官もいない。

 司法権は領主か、正式に領主から任命されている親補職である代官にしかない。そのため、実務のみを担当するバルドゥックの行政長官(慣習によって代官級として扱われているし、実際にそう呼ばれてもいる)では犯罪者への裁きを行うことは出来ないのだ。そのため、一年に四~五回ほど、隣の王都から暇を見て正式な領主であるバルドゥック伯トーマス・ロンベルト三世陛下がわざわざバルドゥックまで来て裁きを行っている。今回はその正式な領主である陛下の都合が付かなかったことが理由であるとのことだった。

 とにかく、来週の金曜か。忘れないようにしなきゃな。そう思ってチャーチさんに礼を言って皆の所に戻ろうとした時に再度呼び止められた。今度は忠告だった。ベルは外国人だ。貴族ではあるがロンベルト王国に本家を持っていないので王国内での扱いは法的には平民に準じたものになっている。当然税の処理もそうなるとのことで、彼女は毎月行政府まで出向いて納税を行っている。その時の納税証明書も念のため一緒に持っていったほうがいいとのことだった。役に立つことはないだろうが、あくまで念のためと言う以上の意味はないとの事ではあったが、忠告はありがたく受けておくべきだろう。

 ベルと二人、顔を見合わせながら皆の所に戻った俺達はデレオノーラの裁きと刑の執行に立ち会うため、来週の金曜の迷宮行については休みにする旨を説明すると、迷宮に入った。



・・・・・・・・・



7442年8月20日

 エンゲラの加入によって直接の戦闘力は多少上がったが、それ以上に役に立ったのは犬人族の特殊能力である『超嗅覚』だ。迷宮内に生息するモンスターはそのほとんどがえも言われないような饐えた臭いを発していたり、吐き気を催すような生臭い匂いを放っている。これらの魔物を彼女の鼻は正確に嗅ぎ分けられるのだ。

 少なくとも、俺の実験期間が終わるまでの間、ヤバイ敵のいそうな場所に突っ込むような可能性は減ることはありがたい。これだけでもエンゲラを買った甲斐があるというものだ。そう思って、一人儲け物だとにやにやしたりしたが、すぐにこんなものはおまけに過ぎなかったことが判明した。彼女の真価はもっと重要なものであった。エンゲラは以前から迷宮に入っていただけあって、俺達より迷宮内での知識が豊富であった。

 例えば、迷宮内に転移してきた場所、この転移してくる場所にはある程度の限定があるらしい。現時点で四百箇所以上の転移場所が確認されているらしいが、大抵は転移してきた場所の近辺に目印があるそうだ。そんなものあったか? と思って皆興味を覚えて聞いてみると、簡単なことだった。転移先の転移の水晶の台座にはいろいろな筋彫りのような文様が刻まれているのだが、その中に一箇所、必ず方向を示すような紋様が混じっているらしい。その先にある壁に小さく数字が書いてあるとのことだった。数字は当然、今まで訪れた冒険者が削りつけたものだ。また、もし同じ場所に転移しても台座に刻まれている紋様は一定ではないとのことなので、台座に紋様が刻まれていることは当然気づいていたが、今まで気にせず、碌に調査もしないまま放っていた。

 なんだ、こんな簡単なことがあったのか。これで最初に転移してきた場所についてはほぼ特定できることになるが、解せん。俺の購入した地図は幾らか不正確ではあるものの、一層のかなりの部分と罠の位置についての情報が載っている。その中に転移場所らしき情報は一切混じっていない。何という片手落ちの地図か。だが、その疑問にもすぐにエンゲラは答えてくれた。

 通常、販売されている地図は大別して四種類ある。一つは当然地形を描いたもの。次はそれに加えて罠の情報を追記したもの。これが俺が購入した地図だ。そして、もう一つは転移情報が記載されたもの。地図の至るところに番号が振られているそうだ。これと先ほどの罠地図は両方とも情報量が多いので一枚の地図にはしていないのが普通だそうだ。俺が持っている地図だってA3くらいの大きさの羊皮紙を九枚も束ねたもので、地形に合わせて罠の情報が書いてあるが、とても一枚には収まらないので分割してあるのだ。この地図だって地形は非常に小さく描かれている。縮尺は3000~5000分の1くらいじゃないだろうか。くらい、というのは、俺たちの感覚だが、一枚の羊皮紙内に描かれていても、場所によって縮尺が変わっているとしか思えないからだ。だから地形図と言っても不正確な部分がある。

 これに転移情報まで記載したら、一枚の羊皮紙に記載できる地図の範囲は当然小さくなる。つまり縮尺が大きくなった地図になるので、いきなり何倍もの量の紙が必要になってしまう。羊皮紙だから何十枚とかになると重いし、嵩張るからわけているのだそうだ。こんな情報があること自体俺は知らなかった。誰からも聞いたこともなかった。さもありなん、エンゲラから聞いた話では、この情報と地図については入手方法自体が特別なものだった。朝方に入口広場に来るような普通の迷宮地図屋では取り扱っておらず、バルドゥックの街外れで人目を避けるようにこっそりと営業していた。

 普通は有力な冒険者のパーティーの紹介がないと販売をしないそうだ。俺は700万Zという大金を積んで無理やりその地図を購入した。これで俺の財産はかなり目減りしてしまった。稼がないと……。焦りは禁物だがな。

 なお、もう一種類の地図は更に詳細に情報が記されているもので、引退や壊滅などでバルドゥックから引き上げる冒険者が作成していた地図らしい。これは滅多に出回ることはないから簡単に手に入るとは思わないほうが良さそうだ。

 この部分だけでもエンゲラの知識は役に立っているのだが、もっと重要なのは、彼女が強敵の居る場所を幾つか覚えていたことだ。と言っても覚えている場所は僅か四箇所にしか過ぎないが、それでも強敵の事前情報は大きな知識だ。スカベンジクロウラー、ブルースライム、プロペラテイル、ガルガンチュアスパイダー。どれもこれも知らないで踏み込んだら危険な相手だ。

 これから暫くはエンゲラをどのように組み込むかをいろいろテストしてみる必要がある。安定するまでは無理をせず、訓練のつもりでじっくりと取り組むべきだろう。だが、これだけいろいろな知識を持っている割にエンゲラの剣の腕は俺達のパーティーの中では一番低い。とは言っても、貴族出身で正式な剣の手ほどきを受けてきたベルより少し劣る程度だから特に不満はない。バークッドの若手従士もこんなものだった。

 俺が少しだけ疑問に思ったのは、彼女の今までいたパーティはほぼ全て壊滅しているということだ。文字通りの全滅は無いが、迷宮行を継続できないほどのダメージを受けたことだ。この程度の腕で、一層の踏破は無理だと思う。仮に一層を踏破できて二層に行けたとしても被害はあるだろう。なぜもっと安全に、ゆっくりと進まないのだろうか? もしかしたらエンゲラは他のパーティーから金でも貰い、自分の所属していたパーティを壊滅に引き込む役回りなのか?

 彼女の出自や今まで仕えてきたと言う主人たちとの馴れ初めなんか、どこまで本当かは知れたものではないが、ついそんな物騒なことまで心配してしまう。冷静に考えるとその可能性は無視できるくらい極小なので俺の取り越し苦労であることは明白なのだが、ついエンゲラに聞いてしまう。

「エンゲラ、お前の前の主人たちは、なぜ奥地を目指そうとしていたんだ? こう言っちゃなんだが、気を悪くしないで聞いてくれ。お前の剣の腕はそう悪くはないが、おそらくお前自身も気づいている通り、俺達の誰が相手でも一対一で勝てる相手はいないだろう。その程度の腕のメンバーがいるまま、奥地を目指そうとする考えがわからん」

 俺が迷宮内での小休止中にそう言うと、エンゲラは意外そうに返事をした。

「え? 私には何故ご主人様がそう仰られるのかがわかりません。私のような奴隷は普通は一番先頭に立たせて、私がやられるか耐えている間に他のメンバーが敵を殺すのでしょう? 逆に、ご主人様のパーティーだと私はなかなか先頭にならないので有難いくらいなのですが……」

 そう答えてきた。まぁ多少予測はしていた内容ではある。

「それは解らんでもない。だが、そんなことをしてお前が倒れてしまったらパーティー全体の戦闘力が落ちるじゃないか。俺はそう金持ちじゃないからお前を使い潰すなんて勿体無くてとても出来ない。前の主人は全員大金持ちの御大尽だったのか?」

 俺がそう尋ねると、困ったように返答してきた。

「そのぅ、私が言うのもなんですが、奴隷は盾です。回避できない戦闘を突破するのに使うのが普通だと聞いております。勿論、直前まで戦闘を回避すべく努力は行われますが、それでも、下層へ行く前など、どうしても回避できない戦闘は発生しますから、そういった時の保険のようなものです。二層へさえ行けて、その後頑張れば奴隷の一人や二人くらいの財宝などを発見できることもありますから……」

「その理屈はわからんでもないが、必ず財宝が見つかるなんて話は聞いたことがない。奴隷の一人や二人と軽々しく言ってくれるが、お前とその装備だけで800万Z近い金が掛かってる。いいか? 800万Zだぞ? それを二人分とか言ったら1600万Zだ。2000万Zの財宝を見つけたって割に合わんだろ」

「えっ?」

「えっ?」

「あの、何故割に合わないのでしょう。今の計算だと400万Zも儲かるではないですか」

「えっ? 何言ってんの? そんな訳あるか。その証拠に今のトップチームと言われているパーティーにも奴隷がいるところはあるが、ここ数年、殆どメンバーは変わってないと言うじゃないか。そんな無駄遣いのような……無駄な投資なんか誰もしないだろ」

 俺はこいつが何を言っているのかよく解らん。エンゲラはまだ何か言うようだ。

「それは、トップチームを比較に出しても意味が薄いでしょう。大半のパーティーは奴隷を盾にするものでございますよ。その間に下層への突破を目指すのです」

 だめだ、こりゃ。つい下唇を突き出していかりや長介風に言いそうになってしまう。つい他のメンバーの顔を見回すと、ゼノムやズールーは黙って聞いていたが、ベルとラルファは俺と同意見のようだ。ベルが言う。

「エンゲラ、なぜ貴女はそんな事を言うの? 盾に使って欲しいの? 私も直接奴隷を使ったことはないから大きなことは言えないけど、あなたの言うことはおかしいと思うわ。奴隷といえど、生きている人じゃない。可哀想だとかそう言った感情論を言うつもりもないわ。だけど、よく聞いて。貴女は生きている人なのよ。これが何を意味しているかわかる? もっと解り易く言うと……そうね、経済効果、と言ったほうが理論的に説明できるわね。アルさんは貴女を800万Zで買った。このお金を回収して儲けを出すにはその何倍も回収しなければとても割に合わないの」

 ベルは経済学部だったのかな? いや、関係ないけど。

「貴女の価値は貴女を買った金額だけじゃないわ。その後、連携を確認したり、一緒に訓練をすることになった先週の土曜日の午前中の私たちの時間も見えないお金が掛かっているの。例えば、貴女が今日死んだとしましょう。そうすると、最初の連携確認の時間や先週の土曜日の午前中、それだけじゃないわ。一緒に迷宮に入った時間も全て無駄になるの。なぜなら、私たちはパーティーに貴女がいることを前提に訓練や戦闘をしてきたから。貴女が死んでしまったらそれらが全て無駄になってしまう。もし新しい奴隷と入れ替えたら最初からやり直しだわ。だから、私達は簡単に貴女を失うようなことは出来ないの」

 うん、まぁ、それもある。

「それにね。生きているのであればその経験はお金には代えられない程の財産になるの。私達は貴女が来るまで迷宮の事で知らないことは沢山あったわ。地図のこともそうだし、転移先の見分け方もそう。それらは生きている人が持ち帰った情報でしょう? 生きた知識なのよ。危険なモンスターだってそうよ。話に聞いているだけと、実際に戦ったことがある人では全く違うわ。迷宮での戦闘に慣れているということはそれだけで大きな財産なのよ」

 そうだ。何と言ったっけ。ああ“レベル上げ”だ。ド○クエでもあったじゃんか。あんまやってないから詳しくはないが、次のエリアに安全に移動するためにプレイヤーの戦力拡充のために弱っちいモンスターを罪も無いのに虐殺しまくって経験値を稼ぐことをゲームでもするじゃないか。俺がもっと幼い頃、ミュンと夜中に行っていた狩りのようなものだ。剣の稽古だって広義のレベル上げに該当するだろう。俺も休日に一人でやっている実験もそうだし、今この瞬間も俺の中ではそれらに近い感覚ですらある。しかし、エンゲラはまだ納得していないようだ。

「しかし、それではなかなか二層に行けないではないですか? 時間はお金より貴重なものだと言います。少しでも早く二層に到達したほうが多くのお金を稼げる可能性が高まります。これは可能性の問題だと以前のご主人様は仰っておりました。あのお方は別段特別なお考えがあったようには思えません」

 エンゲラはまだ自説を曲げていない。自殺願望でもあるのか? この女は。ところで、平均して新人の冒険者パーティーが一層を突破できるようになるには大体一年から一年半くらいかかるそうだ。このあたりかな、説得、と言うか納得させる材料は。

「ベル、もういいよ。だが、エンゲラ。ベルの言うことを後でよく考えてみろ。あと、俺達の腕はお前が今まで居たパーティーと比較してどうだ? 不足しているか?」

 俺がそう聞くと、エンゲラはすぐに答えた。

「いいえ、不足どころか人数も少ないのに数段上だと思います。怪我らしい怪我も殆どしていませんし。でも、三層か四層くらいを目指すのでございましょう? その為に連携や私を混ぜた戦い方の練習だと思っておりました。そりゃあ、一戦くらいで使い潰すのが勿体無い事だと言う事くらい私だって理解しております。ですが、下層への転移の水晶までには必ず一回は強敵のいる部屋を通る必要があると聞いております。そこを突破するための私なのではないかと思っていたのですが……」

「ふーん、俺達にお前を加えても一層の部屋にいるような強敵を突破するのは難しいと思っているんだな。ああ、まだ見せたことはなかったな。まあいいや。じゃあお前に言っておいてやるよ。来月に入ったら二層を目指して本格的に迷宮を進む。で、地図もあるこったし、来月中には二層にたどり着いて見せる。そこである程度稼いだらまた二層の地図を買う。二層の敵の強さは一層よりは強いらしいが、基本的には一層とそう変わらないと聞いている。二層の地図を買ってから……そうだな……二ヶ月以内に三層に行ってやる。誰一人として欠ける事なく辿り着いてみせる。当然戦闘には危険もあるだろうから、場合によっては他の誰かを守るために盾のような役割を命じることもあるかも知れない。だが、特定の場所を突破するためだけにお前を含む誰かを盾にするようなことはしない。その時にまたお前の感想を聞かせて貰う。さて、休憩は終わりだ。もう一息、行くぞ」

 そう言って立ち上がると先頭に立って洞穴を進んだ。



・・・・・・・・・



7442年8月23日

 今日はデレオノーラの裁きの日だ。朝起きてから持っている中で一番上等な服に着替えると、いつもの店に朝飯を食いに行った。ベルには予め言ってあるので、彼女もそれなりの服装ではあるが、いかにもちょっと上等な冒険者ですという程度の服だった。まぁ実際そうなのだし、準男爵家の人間とは言え、家を出ている次女で本業も冒険者なのだからドレスを来て証人台に立つというのも変な話だから、ま、いいだろ。一応安物ではあるがブーツも履いているしな。

 俺たちは世間話をしながら昼近くまでだらだらと時間を潰し、時間も迫ってきたので行政府前に向かった。

 キールみたいに一人一人、罪状を確かめたりして裁くのかと思っていたら、もっとぞんざいに処理されていた。罪人もキールより多く、証人の控えの席自体が裁きの演台から遠かったので国王は遠目にしか見ることは出来なかったが、見た感じ普通のおっさんだった。鑑定してみると年齢は48歳、レベルは10だった。それなりに訓練しているか、若い頃訓練していたのだろう。国王なんて当然忙しいだろうし、大罪人とか天下の大泥棒とかであれば別なのだろうがケチくさい盗みや強姦、冒険者同士の諍いから発展した殺人程度ばかりなので流れ作業のように刑は進んだ。キールみたいに逮捕自体に対して文句も言わせない。全員猿轡をされていたからだ。

 罪状が述べられ、証拠や証言もあることが告げられるとさっさと頷いて罪を認めるものが大半だった。たまに死罪や、手足の切断刑の時に首を横に振るものもいるくらいで、そういった時には証人が呼ばれはするものの、簡単に証言を取ると、問題なく刑は遂行された。鞭打たれている罪人の横ではもう次の罪人に刑を言い渡している。そんな感じさえ受けるほどあっさりと刑は遂行されていく。

 俺はてっきり、国王がわざわざ来て処罰を決定するのだからもっと厳かに、何と言うか、全員土下座モードでへりくだりながらゆっくりと進行すると思っていたが、そんなことはなかった。勿論、かなり丁寧な礼儀作法にのっとって証言されるし、周りの人々も貴人に対する礼を弁えて対応しているが、さもありなん。バルドゥックには平民も自由民も奴隷もいて、犯罪者とそれに絡む被害者や証人の大半が貴族階級ではないのだ。いちいち宮廷内のような洗練された礼儀作法などを求めても意味のない事だと理解しているのだろう。著しく礼を逸脱しない限りは問題視されないようだ。

 どんどん裁きは進んで行きついにデレオノーラの番になるというとき、事件は起こった。なんと、デレオノーラが脱走を企てたらしい。当然ながら即座に取り押さえられ簀巻きのようになって引き出されていた。

 貴族階級への略取と強姦未遂。ベルは外国人ではあるが、貴族階級だ。デーバス王国とは南の国境線を巡って定常的に紛争が続いている。どうなるのかと心配をしていた時期もあるが、いろいろな筋から話を聞いた限りではまず死罪であろうとのことだった。だが、この時、脱走騒ぎなどで進行が遅れたことで国王が興味を持ってしまった。俺達に証人として証言台に立つように言われたのだ。

 証言しないままさっさと刑を遂行して欲しかったが仕方ない、俺とベルは控えの席から立ち上がると証言台に移動し、ステータスオープンを掛けられ、本物の証人であること、記録されている身分通りであることを確認されると証言をした。日本人であった事実以外を言いたい放題言う。デレオノーラは猿轡を噛まされたままなので何かを喚いたりも出来ないから俺達の証言に反論すら許されない。

 俺達の証言を聞いた国王は壇上で少し考え込んだ。その時、国王に耳打ちをした人がいた。金属製の高価そうな鎧に身を包んだ護衛隊の隊長かなにかだろう。その人の耳打ちを聞いた国王は、刑を言い渡す前に俺に質問をしてきた。

「そなた、グリード士爵家の者だと言ったな。出身はウェブドス侯爵領か?」

 え? なにそれ? 関係あるのかよ?

「はい、ウェブドス侯爵領のバークッド村の出身です。父のヘグリィヤールが領主をしております」

「やはりそうか。姉はいるな?」

「はい、一人「後で顔を出せ」

 え?

「はっ、後ほど参内させていただきます」

 俺がそう言うとデレオノーラに刑を言い渡した。やはり斬首による死罪だった。恨みがましい目つきで俺を睨んでいたが、猿轡を噛まされたままでは何も言えまい。まぁ悪いことしたんだから死んどけ。それに相手が貴族だったことが最悪だったな。

 刑場の端っこでデレオノーラは刑死した。



・・・・・・・・・



 国王に呼び出しを受けた俺は、気が気ではなかった。

 一体何の用だろう? 関係ありそうなのはミルーのことだ。わざわざ姉が居るか聞いてきたしな。国内最精鋭の第一騎士団所属の新進気鋭の騎士。なんかやらかしたんじゃないだろうか? あの姉貴のことだ。国王のお手つきになれとか言われて断ったとか、ひっぱたいたとか……。美人だし、見てくれはいいからな……。でも、そこまでアホじゃないと思う。だとしたらなんだ?

 ……ひょっとして……戦死か?

 急におこりのように体が震えだした。証人の控えの席に戻り、青い顔で考え事をし始めた俺を心配そうに見ていたベルが俺の手を握ってくれた。

「大丈夫ですよ。犯人逮捕の協力のお褒めの言葉とかじゃないですか?」

 違うんだ、そんなことじゃないんだ。そうか、ベルには俺の姉が国王直属の騎士団に居ることは言ってなかったな……。
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