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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二十八話 推論

7442年6月30日

 ベルが俺たちのパーティに合流してから、最初の月が過ぎようとしていた。毎週、月・火・木・金を迷宮に挑む日と決め、水・土を休日と定めた。特に俺のパーティはサーチアンドデストロイで積極的に戦闘を行っているから迷宮内部での往路はかなり緊張を強いられ、体力や精神力の消耗が激しい。本当は一日置きに休みを挟もうかとも思ったのだが、今後二層あたりまで行けるようになった時のことを考えると迷宮内部で夜を明かすことになるだろうから、二勤一休を基本にした。

 約一ヶ月の間、無理はしないように誰かが怪我をしたか、昼飯を食ってちょっとしたくらいで引き返すようにしている。戦闘は迷宮に入るたびに毎回のように発生していた。だから、魔石の採取で今のところは大きな黒字になっている。初日のように、過去の冒険者の装備品を入手できたようなボーナスこそなかったが、ゼノムと俺を除いて全員レベルは1づつ上昇している。俺はたま~に援護するだけに止めていたことと、ゼノムは元々レベルが高いので次のレベルまでの必要経験値が無茶苦茶多いからだ。

 なお、実家と、念のためウェブドス商会へ手紙は書いた。ラルファたちの足型を紙に描き、それも同封した。ラルファとベルの分は少し大きめに作って欲しいとも書いたが、バークッドまでどのくらいの時間で届くのかはわからない。最短で、あと4ヶ月くらいでは品物が届きそうだが、どうだろうか? キール方面へ向かう隊商に預けただけだからさっぱり予想がつかない。

 今日は土曜日なので休みだ。ズールーといつものように朝飯を食い、食い終わったあとでズールーに今月分の給料だと言って銀貨を5枚渡してやった。年収60万Z。奴隷を所有していない小さな自作農より少しだけ多い収入だし、週給1万Zに相当する。正直なところ、バルドゥックのような大きな都市だとこの金額だけで生活するのは困難だが、宿代と食費は全部俺持ちだから奴隷としては破格の高給だ。だが、この一月の様子を見て決めた。こいつは使える。よく言う事を聞くし、剣もそこそこ使える。何より忠誠心もあるように見えるので、今後はよほどの人材が現れない限り、俺の奴隷頭だ。

 流石にまだ一月程度の付き合いなので、俺たちが転生者であることは話していない。なんとなくだが、こいつなら複数の転生者が現れていることによって、今後の勢力争いや転生者を探そうとする可能性に思い当たるかもしれない、と思ったからだ。現代日本ではないのだから、引き抜きや裏切りについて神経質なまでに心配するのもどうかと思うのだが、一月程度で完全に人格を見抜けたと思い込むほど楽天家ではないし、別にいいだろ。一応このことは他のメンバーには伝えてある。

 高い給料にしきりと感謝するズールーを他所に、早々に来月の目標を練る。今月は「パーティ内の連携能力を確認・出来れば高める」という隠れた目標を立てていたのだが、まぁクリアと言っても良いから、来月の目標を決めるのだ。

 ・一層突破 今のところ闇雲に歩いているだけでろくに地図も書いていない。無理くさい。

 ・ちゃんとした地図を書く ラルファのMPが3の現在の状況では非現実的な感がある。毎日二回、固有技能ではなく、魔法を使うように言っているが、この調子だと無魔法がレベル1になるにはあと五ヶ月以上かかるだろう。流石に一日三回魔法を使ってMPをゼロにするのは年齢から言って避けたい。1%のMP上昇に賭けても仕方ないし、何よりラルファとゼノムは同じ部屋に寝泊まりしているようだから、何かあってからでは遅い。ズールーに夜這いをかけるなんてのもなんとなく嫌だし。地図は買っちまおうかな。そうしたら一層突破も夢じゃないか……。MPが7にさえ、7にさえなればいいのに。もう面倒くさいから晩飯抜きの状態でMPをゼロにして飯食わせて寝かせちまおうかな、などと考える。夜中に起こして二回使わせれば一日あたり魔法の経験値を5稼げるから二月半でレベルアップだ。だが、皆と一緒にまともに晩飯を食えないのは……流石に可哀想だ。

 ・俺のレベルアップ 目標としては今一な気もするが、本気で一日中俺を戦闘の矢面に立たせれば一気に解決だ。その気になれば今日これから一人でだってやろうと思えば出来るだろう。バックアップメンバーがいないから無理は禁物だが。わざわざ目標にするほどではない。

 ・戦闘奴隷をもう一人増やす これは良いかも知れない。この一月の稼ぎは一千万Zを少し超える。ボーナスでゼノム、ラルファ、ベルにそれぞれ30万Zくらいは渡している。戦闘要員がもう一人増えれば更に安定した戦いが出来るだろう。親父から貰った金は結構使ってしまってはいたのだが、元の金額には届かないまでもかなり近いところまでは回復出来ている。ここらでもう一人奴隷を増やすのも手かも知れない。あと数百万Z稼いだら奴隷を買ってもまだ余裕は残る。これで行くか。

 食後の豆茶を啜りながら、心ここにあらずと言った様子で考え込んでいた俺だが、目標を定めたのであれば行動あるのみだ。ズールーに晩飯まで暫しの別れを告げ、俺は飯屋を出ると、取り敢えず今日のトレーニングのためにプロテクターを身につけるため、宿に取って返した。あ、今まで言ってなかったけど、俺の宿は『ボイル亭』で、ゼノム達が逗留している宿は『シューニー』って名前の木賃宿に毛が生えたような奴な。



・・・・・・・・・



 ランニングを終え、プロテクターを水洗いしたあと、また俺は着替えて『奴隷の店、ロンスライル』に出かけた。もう知ってるんだぜ。奴隷の取り置きなんか当たり前だってな。『ターニー商会』の糞ノームめ。俺が奴隷素人だと思って焦らせようとして騙しやがった。あんな店、二度と行ってやるもんか。

 店に入って声を掛けるとマダム・ロンスライルはにこにこと愛想の良い笑顔を浮かべて近づいてきた。相変わらず商売っ気は強いんだな、このマダムは。

 俺は名乗ると右手を差し出してステータスオープンを掛けて貰う。奴隷のような高級品をやりとりするような場合だとやはり身元の確認は必要なので、これが一般的な行為、というか礼儀だということに慣れてきた。いきなり相手にステータスオープンをかますのは非常に失礼な行為だが、こちらから明かすのは失礼には当たらない。むしろ、自分の身分はこうこうこういうものだ、だから信用して取引をして欲しい、と言う意味に当たる。

 俺のステータスを確認し、不思議そうに顔を見たマダムはようやく髪を染めた以前の顧客だと気づいたようだ。それはいいんだが、同時に気になることを言った。

「すっかりお噂になっておりますよ」

 どういうことだ? なぜ噂になるのだろう? ベルを助けて暴行犯を突き出したからだろうか?

「迷宮に入る度に何十万Zも稼いでくる新人冒険者だってそれはもう評判ですよ。そこに戦闘奴隷を販売した当店もお陰様で鼻が高いですよ」

 そういう事か。確かに普通は出来るだけ戦闘を回避して奥の階層を目指すのが当たり前なんだよな。一攫千金になるような特殊な品物が発見されるのは基本的に二層からだと言うし、敵となる相手をぶっ殺して経験値を稼いでレベルアップするなんて情報を知っているのは俺だけだろうからな。俺だってそれを知らなかったら出来るだけ戦闘を回避して少しでも奥地を目指すことに執心していただろう。そうじゃなかったら価値の低い魔石しか採れないゴブリンなんか誰が相手にするかよ。オークやホブゴブリンは魔石の価値も結構高いが、俺たちもすぐに誰かが怪我を負ってしまう程強いんだ。だが、他の冒険者たちの口の端に乗るくらいにはなっていたのか。

 そう思って聞いてみるとちょっと違ったようだ。魔道具屋に頻繁に魔石を販売しているので茶飲み話に魔道具屋から聞いたらしい。それをちゃっかり利用して宣伝にも使っていたのだ。別にいいけど。とにかく、新たな戦闘奴隷を見繕いに来た、あわよくば唾でもつけておこうとしている、という俺の考えを言うと、マダムはすぐに戦闘奴隷を用意すると言って奥に引っ込んだ。

 暫く待っていると再び現れたマダムに奥に呼ばれた。ちっ、また女の戦闘奴隷しかいやがらねぇ。女は戦力にはならんから……あれ? ラルファとベルは転生者だから別格としても、年齢が二十代前半くらいまでであれば別にいいんじゃね? そういや前回は戦闘力アップに焦っていたから男に拘っていたのだろうか? なんだか釈然としないものを感じる。釈然としないまま鑑定をし、やはり大した事なかったので釈然としないまま店を出た。



・・・・・・・・・



 腕を組み、頭を捻りながら『ボイル亭』を目指して歩く。そう言えばこのところ違和感があったり釈然としないことがあるような気がする。なんだろう? これ? 気のせいか? 何かが歯に挟まったようなままの気分で宿にたどり着くと、ベッドに寝転がって天井を見上げる。

 まぁ大した事では無いだろうが、なんとなく気になる。

 既に習慣化している思考で整理とまとめを行い始める。

 あれ? 何を考えていたんだっけ? そうそう、最近感じる違和感とかそう言ったものだ。なんか忘れそうだな。ここは一つ誠に面倒ではあるが何かに書いて整理したほうが良いかも知れない。

 俺はベッドから起き上がると窓を開けたが、それでも部屋の中はまだ暗いので明かりの魔道具を点灯した。机を前に椅子に腰掛けると、地図を書くために購入した紙を机に何枚か取り出した。

 一つ一つ不自然な感じを覚えたり、違和感を覚えたり、釈然としないことがあるような出来事を書き連ねていく。書き始めてちょっとしてから気がついた。

 何だこれ!?

 一つ一つは別にどうということはない。それだけ見れば、特に問題はない。だが、俺が覚えている範囲で違和感を覚えたことを書いているうちに震えが来た。

 どこかおかしい。

 どこがどうおかしいかと言われると、ちょっと返答に困る。

 だが、何となくおかしいと思うのだ。

 俺にしてはおかしな行動がいくつかある。その時のことを出来るだけ思い出してみると俺にしてはおかしな言動も思い出された。簡単に言うと、まるで頭でっかちな子供のような言動がある。一見するだけであれば結果としてそう間違ってもいないので、少しくらいであればそういうこともあるだろうと流してしまいそうだ。この分だとすぐには思い出せないが他にもおかしな言動をしていることすら考えられる。と言うよりそう思う方が現実に近いだろう。

 あっれ~? これは一体どういう事だろう?

 一個一個整理と分析をしてもいいが、その前に全体的なことを考えるべきだろう。どんなことを言っていたか、やっていたか、本来ならどうすべきだったかを考えることは大切なことではあるだろうが、過ぎたことは取り返しがつかない。それより、大切なのは今後だ。この件は簡単に結論を下さず、よく考える必要がある。

 全体として見ると、俺の思考の道筋におかしいところがある。例えばAという出来事が発生する。それに対して過去の俺はBという方法で対処した。しかしながら冷静に考えるとCという方法を取るのが本来の俺のような気がする、ということだ。この「冷静に考える」というのも曲者だ。実は考えているのではない、思い出しているのだ。前世の俺の行動などから、こういう人物であるならこのときはCという方法を選ぶのではなかろうか、ということだ。

 まぁ今は考えるよりも思い出して当てはめる方が分かり易いかも知れない。

 記憶を遡る。どんどん、どんどん遡る。思い出せる限界まで遡る。俺の一番古い記憶は前世の三歳くらいの頃の記憶だ。当時住んでいた家の日当たりのいい部屋で干していた布団の上に寝っ転がってはしゃいでいた記憶だ。暖かい布団のさらりとした感触と懐かしい匂い。それしか思い出せないが、多分これが俺の最古の記憶だ。ぼんやりとだが天井からぶら下がっている丸い蛍光灯が二つ付いた電灯や引き戸から見える外の光景も思い出せる。それ以外は家の外観も含めてさっぱりだが。

 ここから成長に伴って爆発的に記憶量は増していく。と言っても小学生中学年くらいまでは既に断片状になっているが、その量は増える。確か宇宙戦艦のアニメが放送していたのは小学校に入る前だ。三つ上の兄貴が夢中になって見ていた。小学生高学年ぐらいで機動戦士の放送があった。俺も早朝から起き出して朝五時から友達と模型店に並んで整理券を手に入れてプラモデルを買った。初めて買ったのは主役機ではなく敵役の緑色の奴だ。

 その頃だっけ、もう少し前だっけかに地元の少年野球のチームに入って……あまり勝てなかったけど面白かった。ああ、ユニフォームのままダイヤル式のチャンネルのTVに齧り付いていたから、野球チームに入ったのはもう少し前か。中学にあがってすぐに水泳部に入った。高校も水泳部だった。インターハイにはもう少しのところで出られるくらいまで行ったんだ……。初めて出来た彼女。すぐに振られた。その次の彼女とはそこそこ続いたが俺の防衛大学校入校と同時に疎遠になってそれっきり……。

 その後は前世の俺が死ぬまでの濃密な記憶。楽しかったこと、辛かったこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、浮かれていたこと、落ち込んだこと……。その時その時の出来事や感情とともにはっきりと思い出せる。流石に子供の頃のようなおぼろげなものは少ない。勿論、断片的になっているし、登場している人物の顔なんか、最後に会った時の顔に置き換わっているような気もする。だが、問題なく思い出せる。転生し、その後の事もだ。そして、なんとなく理解した。

 記憶があるからそれに伴った知識も知恵もある。だけど……だけど、俺の性格の根幹を成している精神性はどうだろう?
 精神年齢といってもいいかも知れない。少し違う気もするけど、今はいい。確か神様はこう仰っていた
「あなたは前世で45才まで生きました。今世ではまだ1才ですが、その精神年齢は46才と言っても差し障りはないでしょう。ですが、あなたのいまの肉体は1才です。体力もそれ相応となっています。あなたの感情や考え方はその年齢の肉体が持つ感性などに引っ張られています。ですが、あと2~3ヶ月もすれば、そのあたりの整合性はとれる、というか今の肉体に精神が慣れるので、精神年齢相応の喋り方も問題なく出来るようになるでしょうし、感情の制御も問題なく行えるようになるでしょう。そのあたりは時間の問題だと思ってください」
 この内容をそのまま捉えてしまっていいものだろうか?

 最初に「精神年齢は46歳といってもいい」と言うセリフがある。これは字面通り捉えても問題あるまい。問題はその後だ。
「あなたの感情や考え方はその年齢の肉体が持つ感性などに引っ張られています。ですが、あと2~3ヶ月もすれば、そのあたりの整合性はとれる、というか今の肉体に精神が慣れるので、精神年齢相応の喋り方も問題なく出来るようになる」という部分が問題だ。
 確かに喋り方は問題がなくなった。しかし、精神年齢自体がそのままだとは言っていない。と言うより、肉体年齢の持つ感性などに引っ張られると言っている。
 整合性が取れるのは、肉体相応に若くなった精神年齢の方だ!
 元々持っていた知識や知恵がそのまま残されているので気が付かなかった。ものの感じ方や考え方が肉体に引っ張られて若くなっているのだ!

 それに、最後に出ていたあのウインドウ。新たな人生のスタート。転生。普通転生と言ったら輪廻転生のことを指す。宗教的によく言う、生まれ変わりのことだ。復活ではない。復活は以前の肉体・記憶・人格など全ての同一性が保たれることを言うだろうが、その部分で根本的に異なる。俺の転生の場合、記憶と人格は保たれたのだろうが肉体は明確に異なる。

 肉体が異なればその精神性や人格に影響を与えないわけがない。転生するまでは立派な大人だったのだ。それがいきなり赤ん坊になっただけでもものすごいストレスだ。いちいち覚えちゃいないが、最初の頃は立ち上がるとことすら出来なかったし、手足の長さの感覚だって全然違っていたのだ。感情の制御なんかちっとも上手く行かずにいつもイライラしていた気さえする。そもそもこの普人族の肉体自体、地球で言う人間と同一なのかすら怪しい。その新たな肉体に合わせて記憶はともかく、人格にあたる精神はすり合わせが必要なのだ。仮説に過ぎないが、纏めた結論はこうだ。

・俺は死んで赤ん坊として転生した
・その際に記憶とそれに伴う意識、と言うか知恵は継承した
・この部分の理屈は分からないが神様がやったことだろうし、考えても分かるわけはないから今は保留でいい。尚、理由も今となってはどうでもいいし、この場合関係ない
・だが、その精神は新たな肉体に合わせて時間を掛けてすりあわせていった
・その期間は一年から一年半くらい?
・推測に過ぎないが九割方すり合わせが終わるのがそのくらいの期間だろう。あとはもっと時間をかけてゆっくりとすり合わせが行われている感じがする
・既にすり合わせが終わっているのかは不明
・精神年齢はある程度肉体の年齢に近くなったのだが、元々の人格だって完全に消えるわけじゃない。あくまですり合わせただけだからだ。これは希望的観測ではない。14歳という年齢から考えられる一般的な人物よりは大人っぽい言動が自然に出るし、それに俺自身が不自然さを覚えることはないからだ。このところ感じている違和感は、ある行動について、記憶にある俺という人物ならこんなことはしたり言ったりはしないはずだ、というものに近い
・どのくらいの割合(数字でなんか表せないけれど)で元の人格が残っているかなんてわかりっこないが、少なくとも今の俺の精神年齢は45歳の前世の俺よりはかなり若いだろう。肉体年齢通り14歳ってことはないだろうとは思う。もう少し上くらいな気もする
・失った人格は隠れているのか、完全に消えてしまったのかは不明。記憶から推測するしかないが、消えたような気がしないでもない

 これが正しいのかは分からない。このままの材料だけなら判断すらできないだろう。どこかで間違っているか、材料が少ないために見落としている可能性があると思っておいたほうがいい。そもそもあまり大きな問題もなく過ぎ去っていった自分の行動のおかしな部分を思い出すだけでも大変な苦労なのだ。違和感を覚えたこともあったろうし、何も覚えなかったことだって沢山あるはずだ。むしろそっちの方が多いと思う方が自然だろう。

 多分最初の一年から一年半くらいで二十歳前後まで急激に若くなり、その後は数年かけてゆっくりと少しづつ若くなって行った。だが、肉体年齢まで行くほどではなかった。その少し上くらいで安定したのか? その後は少しづつ成長したのか? そのあたりは全く解らないが、こう考えるとある程度の理屈は通る、と思う。見落としてないよな? まぁ見落としていたとしてもどうしようもない。

 問題はこの状況によってどんな弊害が起きるだろうか、ということだ。一つは幼くなった俺の精神性が引き起こすであろう考え違いや、早急な判断だ。これは用心したとしても今俺が持っている精神年齢を超える判断は難しいだろう。勿論、用心して考えることによってミスは減らせるから、用心は必要だ。何事も熟考してあたる必要があるだろう。

 次に、過去に俺が判断した内容がおかしくて、それによって現在、または今後問題を引き起こす可能性、だ。これは大変だ。転生してから今まで行ってきた全ての行動を洗い出し、疑ってかからねばいけないことになる。きちんとした判断が行なえていたのかの検証には膨大な作業を必要とする。極端なことを言えば今朝支払ったズールーの給料の妥当性なんかまで検証する必要がある。

 もっと言えばなぜ戦闘奴隷を買ったのか、とか、ズールーで良かったのか、と言ったことまで検証が必要になる。もっと遡ってゴム製品の開発だとか、そもそも家を出る必要があったのか、とか、国を起こす妥当性、とか、数え上げればキリがない。例えば、綿火薬は作れることが分かっているのだから銃をさっさと作ったほうが良いかも知れない、とか、雷管の開発とかそんなことまで今から考え、検証する必要がある。

 ここまで考えたあたりで、既に俺は川崎武雄ではなく、アレイン・グリードなのだから川崎武雄のような考え方や価値観にこだわる必要なんかないんじゃないか? と思い、面倒な思考作業を放棄しそうにすらなった。このあたりが若い精神性というやつか。そもそも思考の纏めすら最近は面倒くさくなって頭の中に表組を作ることすらしなくなった。昔は少しでも整理しようと、わかりやすく、要点を書き出す報告書のような感じで考えたりしていたはずだ。いつからか面倒になって来たのだ。

 ともあれ、これ以上は折に触れて考えるより他はないだろう。だが、ここ最近あった事くらいは考慮してもいい。まずは大きな問題であるラルファの魔力量だ。魔法の修行は急がせるべきだろう。昔の俺であればまずラルファに対して可哀相ではあるが出来るだけ多くの魔法の特殊技能の経験を積ませようと努力しただろう。これはやらねばなるまいよ。とにかく、休日だとは言え、完全にフリーにするというのも甘すぎる。張り詰めた精神を休めるのは当然必要なことではあるが、別に寝て過ごしたって構わないのだから。

 次は新たな奴隷だ。マダム・ロンスライルにはもっと良い戦闘奴隷を仕入れておけとは言ってあるものの、具体的な注文は何一つつけなかった。ちょっと考えてみるか。あと、思い起こせばズールーを購入したときのことだ。あの時俺は沢山いる女性の戦闘奴隷には見向きもしなかった。女性は男性と比べると力で劣っているからあながちおかしな判断ではなかったということも出来るが、年齢やレベルを確認した記憶がない。そこそこ見た目がいい奴隷だっていた。俺としては奴隷の面倒を見るから出来るだけ気心の知れやすい男性を選ぶのもありだとは思うし、戦闘力から言ってもまず男性のほうが上だからそれはいい。

 奴隷ごときに騎士団で鍛えられている義姉さんとか姉貴のような剣の腕なんざ最初から期待しちゃいない。従士だったズールーだって剣は使えるがまだまだ荒削りな動きが目立つしね。だいたい、もしいたらとても俺が買えるような額ではないはずだ。騎士が奴隷に落ちるということはズールーのように戦時捕虜になったが身代金が払えない、という人物のはずだ。平民の騎士の身代金は金貨20枚以上するんだぜ。そのレベルの値段がつくに決まってるし、そんな掘り出し物みたいなのが居ればそもそも奴隷商だって一言何か言うはずだ。何も言わないなんて有り得ない。

 だが、奴隷なら、その、コンドームを使うことだって出来……いやいや、立場を利用して無理やりなんていうのは趣味じゃない。それに……恥ずかしいじゃん。いろいろな客を取っている商売女であれば馬鹿にはされても一時のものだし、そもそも対価を払っているからそう面と向かって馬鹿にはすまい。しかし、俺の奴隷だとその後も付き合うことになる。まだ装甲板が一枚多いことなんか万が一にも知られたくない。バカ娘に知られたら、絶対からかわれる。俺がもっと成長して一皮剝けて何かが張ったビッグな男になるまでは、女の奴隷、今後も禁止。

 と言うのは冗談だが、それにしてもおかしい。自分の奴隷に手をつけないくらいの自制心くらいはある。あるはずだ。あると思いたい。と、すると一体なぜあのとき俺は確かめもせずズールー、いや、男性の奴隷に拘ったのか? 戦闘力の向上に躍起になっていたから、というのも確かに理由だ。でも、確認くらいしたって損はないだろ? 精神的に若返っていたから大人の女性に気後れした? 今更? ないない。あ、誤解されても嫌だから予め言っておくけど俺は神聖な存在ではなく火星人だよ。火星人だよ。一気呵成な男なんだ。かせ……まだ14歳だからこれからに期待しててくれ。

 考えても良く解らんことなんか考え続けても、それこそ仕方ない。これは精神年齢の問題じゃないだろ。次にいこう、次。ベルの魔法だ。彼女はかなり多いMPを持っている。だから魔法を使えるなら戦力の底上げに直結する。うまい具合に後衛だし。この一月ほど、魔法の修行を行っているが、筋は悪いものの一生懸命に取り組んでいる。修行を始めてからすぐに使えるようになる方が珍しいから、長い目で取り組ませよう。

 ……そろそろいい時間だ。昼飯も食わずに何時間も考え込んでしまった。ズールーには給料を渡した時に、もう休日の昼は好きにしろと言ってあるから問題はないが、思いもかけず長い考えになってしまった。今日は晩飯を食うときに魔法の修行と、新しい奴隷を揃えるつもりであることを言っておこう。

 待ち合わせてある飯屋に向かう途中、俺はロンスライルの店に寄ると、注文をつけた。男女どちらでもいいが、出来れば20歳前後くらいの年齢。これは若けりゃ良いと言うものでもないから妥当だろう。あとは可能であれば戦時捕虜からの奴隷。それと、木剣でもいいから買う前に腕を試させろと言っておいた。

 飯屋に行くと既に全員が集まっていた。呑気なラルファを見ながら、明日から魔法の修行で扱いてやると思い、俺は今後の計画を口にした。

 
さて、アルは幾つかのことに気がつきました。
これはある意味で異常なことですが、そこは主人公補正だと思ってください。
また、とても全部は気付いていませんし、彼の推測が正しいかも不明です。まだまだはっきりとはしないでしょう。
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