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異世界マイペーサー 作者:闇緒 恣恣

形白  ~ Relief in carnation

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九話 俗知邦俗  ~ ふあんなんだそうです

 俺は、ザグさんにとんでもない事を聞かれてしまった。
 とんでもないと言っても、普通の人にとっては至極当たり前な事。
 ………年齢だ。

「何歳だ?」
「わ、解らない……」
「……やっぱりか」

 ザグさんも解ってたなら、こんな突き落すような真似しないで下さいよっ!?
 俺が涙目になって目を伏せていると、ザグさんが頭を撫でてくれた。……むぅ、頭を撫でられるのは嫌じゃないし好きなんだけど、どうしてもとても小さな子に対して接してるみたいに感じてしまうからこういう雰囲気には適さない行動だと思う。
 俺は撫でる手を両手を使い取り押さえると、ザグさんの方に抗議の目線を向けた。

「そうだな…、あまり撫でられたくない年頃か……」
「違わない……けど、違う……」

 撫でられるのは嫌いじゃないんだ。年頃が関係しているもんじゃない。
 第一、まだこうして撫でられるような環境に入ってから半年も経っていない。そんな急に年頃が変わる訳無いと思うんだけど。
 俺は手を離すと、ザグさんは困ったような表情をして再び撫ではじめた。
 うむ、それで良し。
 俺は難しい事を考えるのを止め、背筋が伸びるような気持ちよさを表情筋を動かして表現していた。要は笑顔だな、うん。
 別に作り笑いでも無いし、この笑顔を見せるとザグさんも喜んでくれる。
 ザグさんたちの喜ぶことがしたいって言うのは、ザグさんと心の底から家族になれたと思って良いんだろうかな?
 俺はそんな事を考えながらも、ザグさんの手の動きに合わせて尻尾を振っていた。

 ちょっと、尻尾を動かしていて気になることがあったので試してみる事にした。
 感覚としては、背筋を伸ばすような。或いは耳を動かす時のようなどこかを伸ばす感覚。
 うみゅみゅみゅみゅ、とか言う変な声が出てしまったけど、何とか試みは成功。
 怒った犬や猫の尻尾のように、坂だった毛によって体積が増えたように見える尻尾。

「……あ、戻った」

 常に気を集中させておかないと、毛が逆立った状態はキープできないみたいだ。
 良し、暫くこの状態でキープしてみるか。集中している間、少し目付きがきつくなってしまうような感じがするけど、気を張っているんだ。仕方ないと割り切るしかない。
 俺は、この状態を保っていることを何度か後ろを見て確認しつつ、家の中を回ってみる事にした。
 狙うは、どんな突拍子も無い事にも動じず尻尾の毛を逆立てたままにしておく事。
 まずは、歩いてみよう。
 体重が無い所為で、木造の床は軋まずトテトテトテと言った可愛らしい足跡が聞こえてくる。
 後ろを振り向くと、まだ毛は継続中。

 暫く少し歩いては、後ろを振り返ると言う奇行をしつつリビングをぐるぐると徘徊していた俺。
 気が付くと、リベさんが心配そうに俺の言動を見守っていた。

「な、何か気に喰わない事でもあった?」

 そう、おずおずと、大柄な体を隠すように縮こまりながらそう聞いてきた。
 あ、もしかしてこの尻尾のごわごわ、獣人が機嫌悪い時にもなるのかな。もしそうだったら、紛らわしい事をしてしまっていた。
 俺はそっと張りつめた糸を緩め始め、それと連動するかのようにゆっくりと毛も穏やかになって行った。

「ん、と…特に、何も……」
「そう……、何かあればちゃんと言ってね?」

 そう言いつつも、自分の熟している家事に戻っていたリベさん。
 ふむ、もしかして俺って世間知らず以上に自分の種族の事も解っていなかったりする?
 ちょっとこの先の見通しが悪くなったような気がした。


     ★


 俺は今、ザグラッドさんに叱られていた。
 何も悪い事をした……と言う訳でも無いと思う。何故なら、俺が何故こんな事になっているのか解っていないから。
 ザグさんは、仁王立ちで凄みを利かせているのかそんな感じで立っている。
 俺はデフォルトの状態でさえ怖く感じるザグさんにそんな事をされているから、今すぐにでもちびりそうだ。
 下が緩い方の意味で『チョロイン』になってしまったんだろうか。
 俺は、下腹部に力が入らないよう注意して、ザグさんの声が発されるのを待った。

 暫く経っても、ザグさんはピクリともしない。
 俺は身体が強張っている所為か、怒られるのを待っているのか。良く怒られる直前背筋が伸びるのと同じように、耳の外側の筋肉が動きヘニャリと、尻尾の付け根の筋肉が無意識に尻尾を伏せて床を掃除するダ〇キンの状態に。
 俺は激したザグさんの言葉が来るのに備えて目をじっと瞑っているだけなのに、今の俺の状態を考えればものすごく反省しているように見えるんじゃないだろうか。
 俺は大声で怒られるのを想定していた所為か、それに備えて身体をプルプルとさせていたし……。
 俺はじっと閉じてデフォルメにしたら大なり小なりの記号のようになっていそうな眼をゆっくりと上げて、おずおずとザグさんの顔を見てみた。

「ぐ、ぐぐぅっ…」
「ふゃっ?!」

 これは噴火の予兆だ。地震だ。
 俺は今度こそ叱られるのを覚悟した。

「………ケイ、顔を上げてくれ」
「うぅ……」

 俺はゆっくりと顔を上げる。
 叱られるんじゃないか、とも思ったけど言うとおりにしない方が怒られる気がした。
 俺が顔を上げると、俺の表情を見てザグさんは何故かため息をつく。

「はぁ、やっぱりか……」
「な、なんでしょ……か?」
「俺がこうしてる理由解って無いだろ?」
「ご、ゴメ…ナサイっ!」

 咄嗟に出た言葉が謝罪。
 けど、確かにザグさんの言う通り。何故こんなに怒られようとしているのかが解っていない俺。

「……はぁ、俺が言いたいのはだな……。何故、家に入ると靴を脱ぐ?」
「…………?」
「まさか、本当に古の里“ヤマト”の事しか知らないのか………」
「いに、…しえ?」
「そうだ。あまりに文化が独創的過ぎて、周りに押し流されるように滅んじまった“武と和の国”がヤマトっつー国な訳だ。言動から何と無く察してたが、ケイがしている作法は全て歴史的文献に乗ってるような奴ばっかだ」

 そうして教えてくれたこと。
 ヤマトでは、屋外と屋内を明確に差別する為、屋内では外の地を踏みしめる履物を脱ぐ。
 食事前には食材となった生命に感謝の意を示す。
 日本で当たり前だったこれらの作法は、この世界にとって大昔前に滅んだヤマトのみが使っていた物らしい。

「まぁ、今でもヤマトがあった列島では似たような作法が使われているらしいが、周りが海に囲まれた孤島だっていう事に加えて島民は進んで外に出ようとしないから真偽はハッキリしないがな」
「うぅ……、これから、気を付けます」
「……うし、なら足洗ってこい。毎回見てると本当に動物みたいに見えてくるから敵わん」
「あぃ」

 改めて足の裏を見てみると、着いた土が水分を吸って何やら黒く変色していた。……確かに、肉球に見えなくも無い。
 俺は洗い場に今度こそ履物を履いて行った。



 俺は、ケイ=オリエンス。ザグんとこの、嬢ちゃん、ケイちゃん、ワンちゃん、村の人からの呼び名は様々。最後の呼び名だけは納得できないんだけど。
 知識、それなりにあると自分では思っていても、まわりからは見た目よりしっかりしているだけで案外頭は良くないと思われているよう。
 常識、俺でも正直不安だけど、周りからは壊滅的だと思われている。
 ……俺の情報はこんな感じ。
 何故、今更こんな事を自分でも泣きたくなるくらい直面しているかと言うと。


 俺を絶対に学校へ通わせる方向で決まってしまったのだ。


 学校へは、大抵は適齢にならないと入学できない。
 例えば、十二歳から入学できる学校……みたいな感じで、何歳から入れる学校という感じで設定される。
 そして、俺が通わせられる予定の学校は、"ガロム魔法学院”と呼ばれる、戦闘訓練から、魔法の授業、果てに国史も学べるエリート学院。
 学院ともあって、全寮制の学校。更には莫大な入学金が必要となる。

「ガッコ、行きたく……無い」
「何言ってるのっ?! ケイみたいな子が成人でもして見なさい! 知らぬ間に―――――に売られて、売り上げナンバーワンの―――――にでも成っちゃうわよっ!?」
「うぅぅ、何言ってるかさっぱり……」

 教育が良いんだろう。
 こういう聞き取れない言葉が出来る時は、大抵非人道的な方向。
 売られるって事は、奴隷。売り上げナンバーは……あれ、何だろ? 売られるって事は、そういう事買われるんだよね? なのに、売上……ナンバーワン。どうやって売り上げ出すんだろ。買っては売られのたらい回し?

「だかーらー! ――――――――――――な館に売られて、そこでたくさんの男と―――――――の相手をするような人になっちゃうわよって事よ! 言わせないで、恥ずかしいッ!」
「言わせないでって、……教えて、くれないと………、その…解らないし……」

 俺は顔を染めながら、目を伏せながらそう言った。
 リベさんが顔を真っ赤にしながら言い切った事は、今度は俺による自主規制。
 だって、いきなり口頭で日本語で言う所の“性交”だの、“男性器”だの、“男に股を開く”だの、女になったとはいえ想像もしたくない言葉が次々矢継ぎ早に発せられたのだ。
 そうかぁ、結構日本のガチガチした規則塗れの所と違って、だいぶグレーなものでも自由で済ませられる世界なんだった。

「だから、色々と犯罪の事も知ってもらうという事で、学校に言ってきてほしいの」
「それに、学校に行くまでの間なら俺達も教えられる事もあるし、もしかしたら学院内では楽が出来るかも知れんぞ?」
「……じゃあ、行く……っ!」

 俺は知っている。ザグさんが見た目に反して、文武両道だっていう事に。
 ザグさんから、戦闘も座学も色々と教われる。

「あ、俺の専門は“干渉魔術”だから、他の事にあまり期待するなよ?!」

 出来る人の謙遜をこれほどまでに恨めしく思ったのは初めてだった。
 ザグさんは、解析アナライズ鑑定リファーとかいう、干渉ソッチ系の魔術が得意なんだそうだ。非、攻撃系って所だろうかな?
 俺はもちろん魔術に興味があるけど、上げて落された感が強くてそんなこと気にしていなかった。

 俺はさっそく、干渉系の魔術をザグさんにご教授いただけるようになった。
 干渉系は、自分の魔力を他のモノにぶつける。……こんな感じだと言われた。
 俺にはサッパリ。首をコテンと転げた。
 何故か、その時首が転げる方向と同じ方向に尻尾が揺れた。本当に何でだろうな? 別に楽っていう感じもしないし、バランスを取るにしても反対方向に揺れるべきだ。

「干渉、その意味は解ってるよな」
「ん、何となく」
「干渉系っつーのは、自分の魔力を“干渉”させる事で効果が発揮するんだ。例えば解析アナライズは、モノに干渉して得た“モノの情報”を色々と変換する魔術だ」
「へぇ……、なら、それを紙に写したり?」
「紙は、あまり量産できんがそんな所だな」

 干渉系魔術は、読んで字のごとく干渉する魔法なり! …………という事が解った。

「おし、なら初めは魔力を動かす特訓をしてみようか」
「あいあいさー」

 俺は多分合っているであろう敬礼の格好をして―――アイテっ。
 どうやらする手が逆だったらしい。ザグさんに頭を叩かれた。……ていうか、この世界にも敬礼あるんだ。
 そんな事より、魔力を感じる事なのだッ! ワクワクして尻尾をブンブンと回してしまうのは御愛嬌として、少し落ち着こう。
 ……ふぅ。

 まずは目を閉じる。ん、閉じた。ちょっと一・二か月ほど前洞窟の暗闇に怖がって泣いてしまったことを思い出して顔が赤くなってしまったけど、平常心だ。
 そして、何かが身体の中で動いている事を想像する。……ん~、何かって言うか『血』以外想像できないな。
 後は、その想像した物を集める感じで胸の辺りに持ってくる。血を心臓と言うポンプを無視して持ってくる感覚……、解り辛いな。
 取り敢えず、血じゃないモノを想像しよう。例えば、血と同じように体を巡っている何か。血じゃないって仮定するだけでだいぶ感じが違う。何かを感じる事が出来た。
 後は、さっき言われたとおり何かを胸の辺りに持ってくる感じで………。

「お、おい……っ」
「ど、どしたの、ザグさんっ」

 集中したいから、少し静かにして貰いたいな。顔を顰めつつも、感じ取った物を全て胸に集めきった。
 おぅおぅ、中々に量が多いですな。……思ってたより。けど、この胸をいっぱいに満たす感じの何か……いや、もう魔力で良いか。魔力はこんなもんなのかね。
 俺は魔力を感じ取る事が出来たので、眼を開けた。
 目を開くと、何故かザグさんがぎょっとしたような目をしていた。
 それに、何か風が強いような……。
 ……ハッ?!
 もしや、俺の魔力がこの身から迸って、恰好良い感じに何かを纏っているんじゃないだろうかっ?!
 俺はワクワクした。

「ザグさん、どんな感じ?」
「まぁ、結構魔力はあるようだな……。最初の頃は無駄射ちばっかだろうから、一日に出来る練習量が多く出来るな」
「おぉっ!」

 若干、ザグさんの頬がヒクついていたけど、これは期待できるんじゃないだろうか。
 圧倒的な力のチートとやらに憧れないことも無いけど、ほんの少しの優遇がこれだったら十分すぎる物だな、うん。
 そう思い片づける事にした。

「……――――り、か」

 耳元で騒ぐ風の所為で、ザグさんがポツリと言った小さな声を聞き取る事は出来なかった。
 なんだろ、思っていたより多かったことに我が息子ながらショックだったって所かな?
 ふふふ、俺の魔力量は結構すごい! ………らしいぞっ!

 本日の特訓は終了。
 魔力の実践的な使い方は明日からだそうだ。
 無理に魔力を使いまわそうとすると、『魔力滞納』っていう魔力のしこりの様なものが出来て筋肉痛みたいな痛みが全身から現れるらしい。或いは、『魔力枯渇』。こっちは生命に関係するのだそう。魔力滞納が起こっても魔力を酷使すると枯渇し、瀕死の状態へと早変わりするそうな。
 痛いのは嫌だし死ぬのも嫌だな、やっぱり。俺は素直に引き下がる事にした。

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