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異世界マイペーサー 作者:闇緒 恣恣

形白  ~ Relief in carnation

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七話 極楽地獄  ~ しょうじきやばいです

「ホルワさん、来た…よ?」
「おしおし、良く来たっ」
「ふゅゅゅゅっ、な…な撫でるの、無しっ!」

 グリングリンと頭を回されるかのように撫でまわす、ホルワールさん。…新妻エプロンのようなものを着用しているけど、れっきとした男性独身だ。
 俺の感じ方としては正直言って、お母さんみたいだ。……言ったら悪いけど。………ホンットーに、言ったら悪い気がするけど。
 リベさんは、保母さん……あるいは先生って所かな?
 そんな事を考えつつも、ホルワさんのゴッドハンドには敵わない。
 心が満たされる感覚で、気の抜けるような吐息を口から洩らしていた。

「ふぬぁぁぁ~、ふゅぅぅぅ…」
「赤ちゃんみたいだな…」

 そんなこと言うのなら、止めて頂きたい。
 止めたら止めたで、ちょっとばかし寂しいんだけど。


     ★


 こんな生活が始まったのは、俺が手に包帯を巻くようになってから。
 周りには、無理してリベさんの手伝いをしようとして大火傷を負ってしまった……とでも思われていたみたいだ。
 そして追加要素として、まだ無理して家事を手伝おうとしている……とも。
 俺は出来る限りなら、家でのんびりしていたいんだけど、周りの反応からそうは言っていられない。
 そして、白羽の矢が立ったのがホルワさんだったと言う訳だ。
 要は、内容が花嫁修業のようなものなのに、男のホルワさんに教わる事となったのだ。……料理を。

 ホルワさんはとにかく褒める。
 褒めるついでに、撫でる撫でる。
 気が付くと、マジックハンドの虜となっていた。
 そんな訳で、依存は駄目だと突っぱねようとしても、最初の遠慮がちの撫では何だったかの勢いで撫でまくってくるのだ。本人曰く、役得だとの事。……色々吹っ切れたらしい。
 ご近所さんも最近は、ホルワさんが楽しそうにしている所を見かけるのが多いそうだ。





「ホルワさん、今日…、何作る?」
「そうだなぁ、……よし。大抵の料理は出来るようになったから、解体の特訓をしようか」
「ヤタッ!」

 これでこそファンタジーな世界だ。
 今までは、俺のステータスと、腕の不可解な現象。そして、発光石。
 この三つでしかファンタジーな感覚が掴めていなかった。
 けど、魔物や動物の解体とは、都会育ちだった俺には想像もつかない儀式。ファンタジーという括りより、野性的な…という感じで言った方が良いかもしれないけど。
 『魔物、動物を狩りなどで討伐或いは生け捕り』→『血抜き作業やら何からを自分で始末』→『自分で喰いたいように調理する』。そんな構図が出来上がっているから、安易に一番目が出来ない前世の環境から俺はファンタジーの括りにしていた。
 最も、ホッカイドゥーだとか、鹿さん群生地域とかでは、今でも似たような事をしていたみたい。そんな訳で、俺の思っているような純粋なファンタジーでは無い。

 さて、いざ……と言う前に。俺の前にある、魔物に付いて少しばかり。
 名前はレイジボア。…どうやら、この世界では固有名詞や、魔法の名称に“英語”と殆ど同じ言語が使われているみたいだった。……ますます、異世界って感じがしない。
 違和感はスルーだ、スルー。
 取り敢えず、このレイジボア……怒り猪と言われている猪は、魔物。時々この村の近くに生息しているらしい。
 気性は極めて凶暴。今は死んでいるから解らないけど、赤く光り輝く目がその狂気度合いを表しているらしい。
 らしいばっかりだけど、俺はあまり行動範囲が広くない。村の外で行われている討伐風景なんて解るはず無いじゃないか。

「さて、ここからは俺が教えるから、全部一人でやってみようか」
「え、えぇ? 手伝う、…駄目?」
「うぐぅっ、だ……駄目だ。自分でやる事にこそ、意味がある」
「ぐぅ……」

 上目遣いのうるうるとした眼でも、返事を超えることは無かったホルワさん。
 …いつもなら、デレデレな癖に!
 なんか色々と清純ピュアで無いような気もするけど、この可愛い身体の中には見る側と同じ男の精神が入っているんだ。仕方なし。
 俺のウルウルアタックでも、動じなかったホルワさんに心の中で悪態……のようなものをつきつつ、手にナイフを持った。

「まずは、首にブッさす」
「ブ、ブッさ………」
「頭は取るから、出来るだけ顔の近くを」
「う、ういっす……」

 はぁ、やるしかないのか…。
 この世界に来る前の俺は、整えられた肉でさえ真面に包丁で切った事が無かった。
 ホルワさんに教わったけど、それも整えられた肉だった。
 そして、今回は、本体から切り分ける作業。
 ナイフが小刻みに震えているのが解る。
 初めての、肉が“生きていた”と解る状態からの調理。そんな訳でビビっているんだろう。
 俺は気持ちを落ち着けるために、深く、ゆっくりと、深呼吸をした。

「……おし、いく」

 ズプ、と嫌な感触が硬いナイフの刀身から俺の手にフィードバックしてくる。
 ……もう、ヤダ。そう思って、ナイフの柄から手を離すと、ナイフは猪の首回りの肉に埋もれその場で静止していた。
 俺は、傷口から流れ出る血から眼を逸らすかのように、俺の後ろで見守っているホルワさんの方を向いた。
 ホルワさんは、もっと深く……そう言っているのか、眼でまだ猪を見ていた。
 止めさせてもらえそうにない……。
 俺はガックシと、目に見えるほど肩を落としたて、また猪の死体と向き合った。
 ナイフの柄は、猪に突き刺した刀身を伝う血に塗れていた。
 けど、俺はそんな独特な粘性を持った液体に塗れた棒をしっかりと握り、再び手を動かした。

 ズプズプ。
 肉が…皮膚が、色々なものがナイフに加わる力によって裂かれていく音。
 俺は、もうウルウルアタックをしようとしている訳でも無いのに、眼に涙を浮かべていた。
 感覚がリアル過ぎっ!? …なんて、現実逃避出来る訳が無い。
 俺が手を動かすたびに傷口から溢れ出てくる若干の熱を持った液体。
 俺はそんなもので身体を汚しまくっていた。
 ……別に、そんな事で泣きそうになっているんじゃない。

「う、うぅ…」

 錯覚だと思う。
 現実でこんな事をしたことが無いから、色々な方向へ集中が拡散してそう思っているだけだと思う。
 現に、漁師さんとか猟師さんとかの初めての時の話を聞いた時にそういう事があった…とも言っていた気がする。
 瞳孔の開ききった猪の目が、俺の方を恨めしそうに見ているのだ。
 いや、見ていない。
 けど、俺を恨んでいるように、憎んでいるように……、そう思ってしまうのだ。

 コツ

 やっと何か、硬い物に当たった感覚。
 これが骨。後は、この骨の周りをぐるっと、切りはじめる。
 俺は、もう、覚悟を決めた。

「お、おい……?」
「ふゅっ……ふぇっ…うぇ……」

 気が付くと、俺は嗚咽すら漏らしていた。
 そんな原因を作っているのは、もちろん俺。
 食べ物の材料となるこういった生命の事なんか考えずに、只々パクパクと目の前にベルトコンベアーで運ばれてくるのを待つだけ待ってモノを食べていた、俺の所為。
 この、心の奥から湧き上がってくる悲しい感情は、罪悪感だった。
 何も、命の大切さを今更知ったという、小学生みたいな罪悪感では無い。
 殺す側、狩る側、……こうして死体をバラバラにしていく側。こっち側に立って、初めて知った罪悪感。
 生きていた、そう言った象徴を、自らの手で壊していく事への罪悪感。
 俺は、解っていたつもりでまったく解っていなかった。
 高々加工された元々の生命の原形を留めていない食材を眺めては、他の命を食べてるんだなぁ……そんな事を考えていた。そんな、甘っちょろい考えをしていた。
 命を糧にするという事は、正に俺が直面しているこういう事。
 他の命を、身体を、壊して喰らっているという事だ。
 死んだ後でさえ、真面な安息を与えず、解体されていく生物への罪悪感だ。

 俺は、ザクザクと、今までとは少し手際が違い、ただズプズプと言う音では屈せず、一つながりのザクザクと言う音として認識できるほどの速さでナイフを動かしていた。
 猪さん、ゴメン。
 心の中でそう思いながら、せめて美味しく食ってやろうと考えながら、せっせと腕を動かしていた。
 最初の頃にゆっくりしすぎた所為か、最初に刺した反対側にナイフが来る頃には切り口から殆ど血が出ていなかった。

「大丈夫…?」
「だいっじょ、ぅぶ…ですっ……」

 しゃっくりと言うかなんというか。
 泣いた後に喋り辛くなるアレを経験しつつ、ホルワさんの声にしっかりと答えた。
 そうだ、俺は大丈夫。
 いつしか、開いたままの目に気が向くことは無くなっていた。
 そして、360度。全ての肉を裂き終え、切り口の奥には、不気味な白さを放つ骨が見えていた。

「…よくやったぞ、ケイっ!」
「ふゃっ?! ドコ、撫でてっ……?!」
「初めての解体、一歩前進のご褒美だッ!」
「ごほぉび、ちがぁっ……、あぅっ!」

 ホルワさんに抱きしめられ、右手で耳と耳の間を。
 左手で、尻尾の付け根辺りを撫でられた。
 もちろん、右手の方は、耳の外側を撫でつけ伸ばしてくれるのも忘れていない。
 …けど、尻尾は……っ!
 性感帯の近くなんで、止めて欲しいなぁっ!?
 けど、少し暗くなった思考を、浮き上がらせてくれたのはホルワさんの愛撫のお蔭だった。
 そこはっ……! そこは、感謝するけども!
 俺は再びホルワさんの胸の中で泣きだしてしまった。…どっちかっつーと、嬉し泣きの方。理由とか要因の方は、言いたくないって事で。




 後日、ホルワさんは獣人の性感帯の事を知らなかったという事が発覚した。
 シスターに、“獣人の尾の付け根辺りを撫でる事は不純だ”と言われたらしい。そして、理由を聞いたり調べたりして……、と言った感じだ。

「ホンットーに、スミマセンでしたぁ!」
「別に良い、…し。その、……気持ち良かった、し」

 取り敢えず、変に突っぱねると、今後ホルワさんの愛撫を受けられないかも知れないので、事実も踏まえて少しばかりあやふやな返事をしておいた。
 けれどその瞬間、この謝罪の場にいたリベさんが、ザグさんが。

 鬼も棍棒と虎柄パンを投げだして逃げ出すような形相で、怒り出した。……パンツも投げ出したら本当に滑稽だろうけども、今重要なのは鬼がそんな滑稽な姿で逃げ出してしまいたくなるほどの形相のザグさん達。

「お前は俺ん所の娘を――――――――かっ?! ―――――――ぞッ、んの――――――ッ!」
「小さな子に何してんのよッ!? このままケイが――――――になって、――――――にでもなったらどう責任とってくれるのっ?!」

 妖鬼オニのリベさんはもちろんの事だけど、ザグさんにも角が生えたかのように見えた。
 俺は渦中なんだけど、何か理解できない言葉があるな……と思っていた。
 ザグリベさんの意味不明後のオンパレードを静めるには、俺がホルワさんの腕の凄さを力説する事で止んだ。
 話の最後の方で、ホルワさんに一切接触禁止令が出そうになったけど、ザグさんリベさんが俺を撫でる事で勘弁してくれた。

 サワサワとした心地のいい撫でも良いけど。ザグさんのようなワッシワッシとした撫でも悪くないな。
 なんていうんだろ、グアーって感じがして、悪くない。
 因みに、リベさんのザグさんと同様だった。華奢な細腕なのに、何故にあんなにも力が出せるのか……。
 気持ち悪い位だらけた顔でそんな事を考えていた。


     ★


 黒髪お兄さん、名をウィンディ。
 長い名前の一部を切り取ってそう呼ぶらしい。
 正式名称、ん~……ウィンウィンダイアリー? ……訳が解らない。

「うぃんでぃー、刀、見せて」
「俺の名前は、アヴェンディスレイドリナイツって言ってるだろ? ウィンディじゃ無く、“ヴェンディ”だ」

 ……ヴェン、ん?
 何か、呪文のような名詞が聞こえたような……。
 俺は一々聞き返すのがめんどくさいので、あからさまに首をコテンと倒した。
 内容も聞き取れなかったし、首も傾いているしで、かなり不思議そうな顔しているのかもしれない。

「……?」
「いや、アヴェンディスレ……って、アヴェンで良いよ。ヴェンディで呼ばせると、また変な風に言われそうだ……」
「アバズレッ!」
「どうしてそうなったっ?! それに、その言葉は俺でも解るぞっ!」

 だって、アヴァだかスレだか言ってたから、こう……引っ付ける感じで。
 俺は、引っ付けた…そういう事をゼスチャーで目の前の空気を押し出すように柏手を打つことで示した。
 そんな事をしながら、黒髪兄さんの顔を覗きこんでみると。

「アヴェン、そう呼んでくれ……。もう、何も考えなくていいから……」
「アヴェン、よし、覚えた」
「かなり不安だな……」

 何かを諦めたかのように、そうポツポツと漏らすように言った。
 アヴェン、アヴェンねー。
 はいはいはい? 名前を覚えるのが苦手……、とか言う前に覚えるのが苦手な俺は頑張って努力して覚えようとしますよ、えぇ。
 えぇっと、黒髪兄さんがアヴェン、黒髪兄さんがアヴェン、黒髪がアヴェン、黒髪アヴェン……。
 自分で頬を叩いて、気分転換。……思ったより、力が入っていたのか、結構頬の肉が揺れ、ついでに痛かった。
 本格的に泣きやすくなっているのを自覚すべきか、目頭に浮かんだ水滴を手の甲で擦り拭った。

「……俺の名前は?」

 俺のその言動を見て、何故かおずおずと切り出す黒髪兄さん。
 ついでにしっかりと指で自分を示すジェスチャー付だ。
 ふむ、そんなに俺に信用が無いなら、ここでばっちり決めてやろうではないか!

「…えーと」

 黒髪……だから、と。
 若干、脳の回転が遅いぞ? 頬を叩いたことで脳に刺激が言ったか?
 そして、少しの沈黙。
 俺は、やっとのこと思い出して、ポンッと手を打ち、勢いに任せて口から発した。

「クローヴェンっ!」
「アヴェンだよっ?!」

 ……むぅ、この世界の名前を覚えるのは難しいな。

ケイはあくまで普通の子の設定、の筈。

普通の子って、こんなに簡単に一喜一憂するモノなんでしょうか?
情緒不安定か子供っぽいと、はき違えている気がしてきます。
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