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異世界マイペーサー 作者:闇緒 恣恣

戯函  ~ Lupus in fabula

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五十二話 二者舎内  ~ そんなのしらないです。

二週間位と言っていたのに……。
 どこかのお城みたいな内装の中、ズンズンと二人の大人について行って付いた場所。
 そこが教室だった。
 どことなく教室に見えなくもないけど、大きさ的には多目的室みたいな感じがする。
 座る所が段々になっていて、横から見ると映画館みたい。

「じゃあ、好きな所に座ってくれ」
「あ、おねえちゃーん」

 どう言えばいいのか。
 少なくとも、今の俺は神妙な顔つきになっていたんだろう。
 近くに鏡や窓が無いので確かめようもないけど、それは確信に近かった。

「二人、ですか?」

 そう言いながら、教室に入って右側の方でずっと待機している先生方の方を向いた。
 生徒が、俺を合わせた二人でもう一人はシェリー。
 二人なのは先生もだから一瞬沈黙が流れた。
 けど、俺の指差しているさきがシェリーだったので、思い出したように口を開いてああ、と頷いた。

 そして、先生の後ろ側。
 地球で言う所の黒板のような場所にはデカデカと、とある事が書かれていた。

『常識(と良識)を学ぼう!!』

 因みに、良識の方は小さく、常識という言葉の下に書かれていた。
 何と言えばいいのか。
 もしかすると、完全に不良生からの始まりになってしまったのかも知れない。


     ★


「嬢さんたち……とは言っても、二人だな。二人の実技担当のアトゥーラだ! 気軽にアトゥ先生と呼びたまえ!」
「同じく二人の座学担当のガイスだ。まあアトゥよりは弱いが、それなりの質問には答えられるだろう」

 教卓らしきものの前に立って自己紹介をする、二人の先生。
 一応ど真ん中のど真ん中に着席していたシェリーの隣に座ったので、同じく俺もど真ん中。
 先生と一緒に起立をして、今は自己紹介の時間だ。

「シェリー……です! 教会から来ました!」
「ケイです。北から来ました」

 まあ北からと言っても、適当なんだけど。
 事実王都はオプネイル村よりか大分南で暖かいんだけど、そんなにアバウトでも良いのか?
 そんな感じでちょっと不安ながら、シェリーの真似してみた。

「まあ学院長から二人とも訳アリだとは聞いている。自己紹介もそれ位で良いか」
「まあ素行ではないが、色々と問題ありと判断したので特別クラスだ!」

 良かったらしい。けど、あまり嬉しくない特別扱い……。
 ニカニカと笑うアトゥ先生と、寡黙なガイス先生。
 俺が苦笑いしながら、座りなおす。
 シェリーも訳アリなのはちょっと気になったけど、俺の真似をして横に座り込んだ。

「ところで全寮制と言うのは理解しているか?」
「はい」

 シェリーはニコニコとしていて。どっちなのかは判らない。
 ただ何と無くは理解しているんだろう。コクリと頷いてはいた。
 俺はちょくちょくとシェリーの方の見ながらも、先生の話に耳を傾ける。

「全寮制とは同じクラスの者と二人一つの部屋で住むんだ」
「この教室には二人だから、問答無用で同じ部屋だな! うむ、仲が悪く無いようなので問題も無いだろう!」

 仲が悪かったら問題でもあったんだろうか。
 ただこんな先生がいるくらいだし、「決闘で決着をつけよう!」みたいな事を言い出したのかも知れない。
 まあ、シェリーも今度はしっかりと言葉を理解して、俺の腕に絡み付いてきた。
 懐かれるのは嬉しいけど、俺のいない間に何かあったんだろうか。それとも、ただ寂しかったから今こうして居るのを楽しんでいるのか。
 シェリーの頭をポンと叩いてから、再び先生の方を向いた。
 シェリーはちょっとだけ尻尾に手を伸ばそうとするも、その前に尻尾を別の方へやった。

「本日は入学式の準備があるので、あまりこの場所には長居はしない。ただ、教科書の配布。宿舎までの案内はしよう」
「本来なら自己紹介でもっと時間が食うんだがな、何せ教師合せて四人だ。暫く自由時間にしよう」

 自由時間か、何しよう。
 シェリーは何か欠伸して眠たそうだ。本当に十歳なのか……? 
 あ、俺も学院長の話の途中に眠たくなってたか。普通だな。

 先生が出て行ったのは、多分教科書を取りに行ったんだろう。
 何か魔術を使って大量に運べたとして、一度往復するくらいの時間はそう短くはないと思う。
 何しよう。
 そう考えていると、ふと机に付いた引出に手を突っ込んでいた俺は何か引っかかりを感じた。
 何か、削られたような……そんな感じだ。

「不良、ひ……ん?」

 僅火で照らしたそこには、何ともオドロオドロシイ字でこんな事が書かれていた。
 “絶対にEなんか抜け出してやる!”
 はて、Eクラスにはこれほどまで憎々しく机に削り込むくらいの何かがあるんだろうか?
 正直言ってしまうと、色々と不安的要素が多すぎて頬が引き攣ってくる。

「くぅ……くぅ」
「ふふっ、これが少女化と言うのか……」

 可愛いものに胸がキューンとなると言う奴。
 俺の肩にもたれ掛るようにして眠るシェリーの寝顔は、大変に天使でした。
 その後シェリーの寝息に誘われるようにして、くぅくぅと俺も舟を漕ぎだしていた。



 しかしながら、結局は寝れず。
 机の引き出しの底に書かれたさっきの文字が気になって、他も色々と探ってみたのだ。
 するとすると、出るわ出るわのE組の揶揄。
 「自分はこんな所に居るはずじゃない」と言ってはいるものの、自分がそこにいる事に気付いていないのか不快な比喩ばかり書いてあった。

「あれですかね、落ちこぼれの溜まり場」

 純度は低いながらもしっかりと付いていた窓の外から見える色々な建物を眺めながら、ピンと指を立てて呟いてみた。
 自分の声であれ久しぶりに近くで聞こえた物音だったのか、耳がにょきりと立った。

 って、俺は落ちこぼれなの!?
 いや、確かに振り返ってみればそんな感じの可哀相な子を見る目だったような気がする。先生たち。
 詠唱短縮って言う所は免許皆伝らしいけど、何が悪いか他の所を鑑みた結果、こうなったって所かな?
 俺はガクッと膝をついて、跪く。
 いや、俺はクラスにランクがあるとかすら知らなかったし。
 そもそも言えば、見た通り『常識を学ぼう』と黒板に書かれてるじゃないか。
 そうさ、俺は落ちこぼれなんかじゃなくて常識知らずの凡人なんだ!

 立ち上がってフフフと笑い、ガッツポーズを空に向けて決めていると先生が帰って来た。

 扉に手を掛ける音、扉が引かれる音。
 その二つに反応してビクリと耳と尻尾が反応、勢いよく振り返ると先生が突っ立っていた。

「……何しているんだ?」
「……こ、今後の学生生活に気合をと」

 嫌な沈黙が流れて、少し遅れてガイス先生の後ろから筋肉先生がやって来た。
 ガイス先生の周りには教科書の束が浮いていたけど、筋肉だらけのアトゥーラ先生は肩にがっしりと担いでいた。
 思わずその運び方が対照的過ぎて、噴き出しそうになって……固まる。

「……あの」
「どうした?」

 寡黙で殆ど表情の動かないガイス先生がにやっと笑ったような気がした。

「その教科書、全部……私達のもの、ですか」
「そうだ、しっかり持ち帰れよ」

 目の前に映っていた先生曰く“教科書”は、ハードカバーの格好いい小説みたいなもの。
 そして、あの束一つを十冊と考えて、ざっと六十冊ある。
 ……どうやら、俺達の最初のイベントは重労働なのかも知れない。

「ふぁふ……。……ぉ姉ちゃん、どうかしたの?」

 俺が嫌な汗をタラーリと頬を伝わせていると、間の抜けたシェリーの声が寂しい教室の中に響いた。


     ★


 過酷な重労働の後、アヴェンさんとの旅以上の汗を掻きながらベッドにダイブイン。
 ……なんてことは無く、一応台車のような物を貸し出された。
 Eクラス以外は教師が宿舎へ持って行ったり、生徒の従者が持って行ったりをしているらしいけど。
 そんなこんなで、自分用の教科書約三十冊は俺達の部屋に担ぎ込まれた。

「つかれたねー」
「……そうですね」

 シェリーは運んでいない。
 疲れたって言うのは道中が長いのを理解できたのでまだ分かるけど、俺のこの肩で息をしながらベッドにうつ伏せで倒れ込むくらいの疲れでは無い筈だ。

「シェリー、もう疲れたよ……」

 犬役である筈の俺が言うようなことでは無い気がするけど、感動的なあのシーンを想起してしまった。
 けど同時にあのシスター服を被った悪魔と文字通り妖鬼のリベさんとの顔が頭に浮かんで、思わず言い直しそうになってしまう。普通の口調だったし。
 いや、中性的な言い方だったら許してくれるのかな?

「大丈夫?」
「えへへへ、大丈夫大丈夫」

 ロリコンと言う訳でも無いけど、小さい子に心配されると言う感覚は何か良いな。
 お姉ちゃんになった気分だ。……お兄ちゃん? どっちでもいいか。
 背中をポンポンと撫でるシェリーに、仰向けになって頭を撫で返す。
 くすぐったそうにするけど嫌がってはいなくて、逆に隙あらばと尻尾を触ってくる。

「それにしても、今日は誰にもすれ違いませんでしたね……」
「そんなこと無かったよ? 白い犬さん、いた!」

 それって人なの?
 思わず言い返そうとしてしまったけど、少なくともちょっとは思考を働かせてから言おう。
 そう考えてみれば、教室に向かう途中で何か人っぽいのとすれ違った気がする。
 ……鮮明に思い出せるのに、上手く思い出せない。
 記憶がこんがらがりそうだ。

「白い犬って、獣人さんですか?」
「うん! フード被ってて見えなかったけど、尻尾あったよ」

 尻尾だけで犬って判るなんて、俺はもう既に犬じゃないってばれてるのかも知れない。
 俺はちょっと冷や汗をかく。
 この曇りなき眼で覗かれると、どうにも本当のことを……真理を付いているような気がしてならない。

「おねえちゃんといっしょ、犬さんだったよ!」
「何かそれに似た番組が……って、へ?」

 い、今何とおっしゃりましたか?
 お姉ちゃんと一緒。いや、違う。
 民放の教育番組に似たフレーズでは無くて、その後の方。いや、後でも無いか。
 犬人って名乗ってるだけの黒狼種の俺と、同じ……?

 もしかすると、友達……じゃない。
 同じ境遇の子なのかも知れない。
 狼人が多いとか少ないとかは樹にしたこと無かったけど、新入生に一人も獣人が居ないって事を考えれば、かなり奇跡的な出会いになるかも知れなかった。

「何処で会いましたっけ!?」
「わ、分からないよ……」
「で、ですよね……」

 ただでさえ、人とすれ違った事は覚えているけど。
 その顔もその人の風貌もフードを被っていたくらいでしか知らなく、さらに言えばその人に関する記憶だけひどく曖昧。
 匂いは……、って匂いだ!
 テレビ情報……だったか、ネット情報だったか忘れたけど嗅覚って記憶と密接な関係があるって聞いたことがある。

「匂い、匂いぃ……」

 あの時の場面に嗅いだ匂いを、耳を縮めて尻尾を握りしめて嗅覚を司る鼻だけに集中する。
 不思議そうにこっちをボーっと眺めているシェリーが気になるけど、眼を閉じてしっかりと記憶の中の嗅覚を辿った。

「っ、見つけた。……どこかで、嗅いだ事あるような……」

 けど、匂いが判った所でどうしようもないか。
 嗅覚に集中するためにわざわざベッドに座り込んだけど、絶望的な状況でパタリと上半身を横に倒していた。

「獣人の子、先輩でも良いから会いたいなー」

 それに、クラスメイトも一人だけだし。
 シェリーが自分のベットがあるにも拘らず、グリグリと頭を俺の腹に押し付けてきた。
 当然ベッドに乗って俺の隣での転がっている。

「いや、一人でも充分かも……」

 ニヤケそうになる顔を必死に抑えながら、シェリーの頭を撫でた。



 教科書の一番上に置いてあった紙切れは他の教科書に使われているような紙とはちょっと違って、頑丈そうな素材で出来てた。
 それを見るに年間行事予定。
 明日を示す日付の所には始業式があること、集合場所と集合時刻が書きこまれていた。

「一年間使うって事なら、教科書もこれみたいな綺麗なの使えばいいのに……」
「本だー!」

 シェリーはそんなボロボロの本を破きそうな勢いで荷ほどきしているし……。
 そう言えば本ってあんまし呼んだこと無いな。
 黒狼譚だとか、伝説の話を聞く時にお父さんの書斎で話を聞くことがあった位。実際に手に取って眺めた事はこれが初めてになるかも知れない。
 そうすると、眼の前のシェリー同様の反応をしてしまうかも知れないから、あまりきつく言う事が出来なかった。

「時計っぽいのは、かなり上にありますね……」

 無骨なフォルムで定番の時計。
 ガイス先生曰くこれは“時刻”というもので間違いなくて、試験の時に使った物も時刻という時計に似た者らしい。
 時を計るんじゃなくて、時を刻むって言う所からそう呼んでいるみたいだけど、俺からしてみればかなり違和感があった。
 今まで日本でも、「時刻」はその時間そのものを指すって感じだったし。

「ふぁぁぁあう……、眠たい」
「じゃあ、寝よ!」
「は、はい!?」

 い、いや……これからの時間に夕食って言うタイムテーブルが敷いてあるんですが!
 シェリーはさっきからずっと眠たそうにしていて、これ幸いとシェリーの……では無く、俺のベッドへと引っ張って行く。
 自分のベッドじゃないのかい! と突込みを入れたくなったけど、仕方なしにベッドに寝転がる。

 シェリーが引っ張って来たのに、何故かベッドに入らない。
 それ所か、躊躇しているみたい。
 一体何なのか、と小首を傾げそうになった時。

「えいっ」
「ふあっ」

 何と何と、シェリーは俺の胸へ飛び込んできたではありませんか。
 肺が押され空気が漏れ出たせいで力無い変な声が出てしまったけど、しっかりとホールディングして離れる気は無い。
 ああ、めっちゃ嬉しいし楽しい。
 シェリーが教会から来たって言うのとか、シェリーが何でこんなにちっさいのかとか。全部ひっくりめて窓の外から放り出してしまった気分だ。

「おやすみ、シェリー」
「おやすみなさ、ぃ……」

 寝るの早っ!?
 けど、たとえ小さいとはいえ女の子と一緒に寝ると言う体験は大変に素晴らしく。
 そして、ベッドの感触が最高だったと言う事だけを明記しておく。
クラスメイトはこんな感じ。
…他の…クラスメイト? 何処に行ってしまったんでしょうか……。
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