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異世界マイペーサー 作者:闇緒 恣恣

戯函  ~ Bumpy road

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四十五話 悪路行路  ~ これははてしないです

 案外と、この席は悪くない。
 前から後ろへと移り変わって行く風景を眺めながら、そんな事を思った。
 前を歩く馬から漂ってくる、鼻息と獣臭さを気にしなければ、本当に極上なんじゃないだろうか。
 ……けど、やっぱり俺は俺。

「うぅ~……」

 例えようの無い、むしろこのジワジワ来る不快感を耐えてこなかった俺だからこそ感じる絶望感。
 というか気分が悪くなって吐くまでは判るけど、吐く直前のムカムカがピークに達しないもどかしさ。
 もちろん唸り声を上げたからと言って、その気分の悪さが治る訳でも無く。

「は、速さ落としましょうか?」
「大丈夫、です。気にしないで下さい」

 心配されるけど、本当に申し訳ない。
 口を開いて深呼吸をしても、何かに気を逸らせようとしても胸のすぐ下あたりのムカムカは無くならない。
 イライラしていると言う訳じゃないんだけど、こう……何か脂っこいものを食べた後の胸やけみたいな感じで。
 取り敢えず、胃の辺りがとんでもなく不調を訴えてくる。

 内ばかり気にしていても、余計気分が悪くなるだけだろうと景色を眺める事にした。
 俯いていた顔を上げると、その拍子に、風が顔に当たって髪の毛が後ろへと流れて行った。

「んっ……」

 思わず手で髪の毛を抑えてしまったけど、こういうのって女の子っぽい行動なのかな?
 自分の行動に思わず考察を入れそうになって、すぐさま止める。
 今はちっぽけな自分の事は置いておいて、雄大な世界をのんびりと眺める時間なんだ。

「……んん~?」

 近くは暫く平原が広がっていて、その背景には山が薄っすらと映っている。
 その山は何と無く、かつて王城に向かった時に見たのと似ている気がした。
 というか、山全部が同じに見えた。
 日本ではこんな光景見えないし、都市化の進んでいる現代なら、こんな雄大な大地をしっかりと目に焼き付けられる場所なんて限られている。
 凄いとは思ったけど、変化の乏しい中。
 子供じみた感性しかないのかも知れない俺。……というか、まだ子供だよね。
 凄いとは思っても、それ止まりだった。

「……僭越ながら、地理について教授しましょうか?」
「えっと、えー……。……はい、お願いします」

 さっきからずっと首を傾げている俺の姿を見て、何か思ったのかな。
 こんな所で勉強なんてどうかとも思ったけど、ただつまらない風景を見てるだけだったら逆に意識が不快感の方に戻ってしまいそう。
 そんな訳で、迷ったけど結局それを行商さんに頼んだ。



 目の前に映るのは……って言うか、はるか前方に薄っすら霞みがかって移っている山。
 それは山と言うより、山脈。
 あー、何か懐かしいかも。中学の時に飛騨山脈とか赤石山脈だったとか必死に覚えてた気がする。
 実際必死にならないと覚えられなかった俺だけど、山脈と聞いて日本でのことを思い出していた。

「……何か、ご縁でも?」
「ああいや、何でも無いです」

 商人だから人の顔色を伺うのに何の造作も無い事なのかも知れないけど、懐かしんでたのがばれた。
 確かに話に聞いた“オーレ山脈”の事は知らないし、一応嘘じゃない。

 オーレ山脈。
 “ダグリューン半島”とか言うこの辺りの場所と大陸を隔てるように出来ている山脈らしい。
 標高はあんまり高くないけど、いまだ半島の中ほどに位置している俺達でも薄っすらとだけど確認できるくらいには高いらしい。
 一応半島の中にある“ダグリューン高山”はそれ同等以上の高さを持っているらしいけど。
 オーレ山脈は何かクリーミーな飲み物の事が頭の中を過ったけど、多分関係無いと思う。
 事実、放牧みたいな事はしていないようで、どちらかというなら果樹園が栄えているそう。
 名前のオーレは『カフェオレ』のオレじゃなくて、『オレンジ』のオレだったのか……。
 ……そう言えばふと思ったけど、英語っぽい“聖典言語( ロゴス )”があるし、オレンジって言葉はあるのかな?

「果樹園とは言いますが国王が無類の酒好きという事もあり、殆どがブドウなんですよね」

 あ、あの果実酒と果実水か。……後者は多分、聖典の(ロゴス)で言うならジュースでしょ。
 そう言えば色々と新鮮で忘れてたけど、こっち来てからあんまりお菓子とかジュースとかそう言う甘いの無いよね。
 自称・娯楽を極めているらしい現国王の事だから、気が付けばそう言う系も沢山になってるかもしれないけど。
 ……というか、現王様もこれだから多分これからも、大体はプランテーションみたいな感じで続くのかね。

「何でも王が交代しても、その方策は変えないようですし……。その内、酒造国にでもなってしまうのではないか……と、私は睨んでおります」

 ほら、やっぱり。
 でもあの王様のフランクさから考えると、もうその酒造国家にする準備とか始めてそうだよね。
 そういえば、ぎょうしょうさんははなしをどこからとってきているのかな。
 やっぱりしょうにんしゃんですよねぇ……。

「……ぅぷ」
「あぁ、すみません! 話し込んでしまいました!」

 座っているとやっぱり、お腹にズンズンとくる振動で気持ちが悪くなってくる。
 ついでに話にどんどんと意識を持って行かれたせいで、ちょっと気持ちの悪くなる具合が強くなった。


     ★


「何かこういうのって、何処かで見た事ありますね……」

 荷台の布を縛り付ける棒を掴んで、荷台の外側で耳を澄ませながら立っていた。
 どこかで見た事あるようなって言うか、何か機関車みたいなのでこういう感じに前方を確認する人って居なかったっけ。
 そんな訳で、俺は現在外回りの見回り担当となりました。

「立ってるからって、こんな事しなくても……。気分悪いの変わらないし……」
「どうせなら、だよ」
「……まあそれはそうですけど」

 アヴェンさんに、独り言を聞かれていた。
 うん、全身に風を感じるし、ただ荷台の中で揺さぶられるよりかは大分マシだ。
 クッションみたいなのは無いから、普通に振動は来る。
 けど、やっぱり外が見えて石に乗り上げたりするタイミングが判りやすくなったから、備える事が出来るんだ。
 やっぱり、ここが定位置になるのかなあ?

「けど、地面が見えてるだけでこんなにも違うんですね。ちょっと驚きました」

 地面が見えるので速さが判るし、さっきも言ったように大きい石が乗り上げるタイミングが判る。
 その瞬間に空中に足を浮かせといて、振動から逃げたり……とか。
 揺れから逃げるようにしてここに来たのを忘れて、楽しんでしまったりした。
 何か特訓という名の荒行の合間に、脱走を図りに獣化したのを思い出すね。

「そう言えば、獣化ってあんまりしてないですね」

 今は絶対にしないけど。
 多分だけど身体が小さくなるうえに、頭が地面に近くなるから体だけじゃ無く脳味噌も振動で揺さぶられそうだ。
 そしたら目が回ってぶっ倒れるかも。

「でも……」

 少しくらいなら大丈夫でしょ。
 俺は目を閉じた。
 すると感じるのは、人間が一番大事だと“考えてるだけ”の資格情報が欠落した新鮮な世界。
 難しく言ってみたけど、簡単にするなら『目で見ない世界』が俺を包み込んでいるって感じかな。

「……やっぱり」

 人間の本能なのか、それとも……。
 雑念と言うか先入観の無いそう言う感覚。時々こういう事はフッと湧き出るように、起こるけど早々感じる事の無いもの。
 懐かしい、のかな?
 けど視覚が働ないていないお蔭で、それ以外の感覚が鋭敏になって色々と気持ちが良い。
 例えば、吹き付けてくる風。
 獣人の鼻の良さもあるだろうけど、土の香りと動物の香りと人間の香り。……それと荷台に使われている使い古された木の香り。
 視界で補いきれない、風に乗ったそんな情報が俺の中に流れ込んでくる。

「良い匂いでは無いけど、悪くないです……」

 肌に感じる冷たい冬の風は、柔柔とした肌に当たって進路を妨害される。
 髪の毛も揺れるし、風に全身を押されもするし、更に言うならば体感気温が下がって寒い。
 見るっていう一番簡単で、一番楽できるものが無いだけで、こんなにも世界が変わる。
 面白い。
 ……けど、何か足りないような。
 そう思ってしまう。

「“叶うならば、またいつか二人で……”」

「…………え?」

 い、今……、口が勝手に動いたような……。
 二人でって言ってたよね?
 二人ってなんだろう。まさかこの黒狼ちゃんには想い人が居たのかな?
 って言うか、あれは?
 心の中で響いてくる声。
 思わず、ただでさえいつもより良く働いている耳を澄ませて、心の声を感じ取ろうとする。
 ……心の声だから耳を澄ます意味は無いか。
 そんな突込みを思わず入れてしまったけど、やっぱり何も聞こえない。

「も、もしかして……乗っ取られた!?」

 無いと思いたいけど、前科あるしな。
 うん、二重の意味で前科だけど。
 ふと思わずあの光景のビジョンが脳裏に組み上がった……けど、俺の感情を逆撫でるような声は聞こえてこない。
 毎回のように聞こえてきていたのにも拘らず。

「……“前途多難”です」

 それにしても、二人かー。
 想い人って言うか、恋人? あるいは妻……じゃなくて、夫かな。
 二人~、二人、うんうん。
 そう言う恋仲。
 俺にも来るのかな。
 はなはだ疑問。
 超疑問。

「さっきからブツブツ言ってるけど、どうかした?」
「ほにゃぁぁ?! ああああアヴェンさん!? いつから聞いてました!? というか、声出てました!?」
「結構聞こえていたよ」
「あああああああ」

 二人とか、そう言うの。
 恋仲とか恋人とか、妻とか夫とか。
 そう言う独り言がアヴェンさんにばっちり……。

「わ……私は女の子が好きなんですからね!?」
「……乗っ取られたどうのって言う独り言が、どう転がったの……」

 結論から言うと、アヴェンさんが聞いていた独り言云々は口が勝手に動いたあの辺りだけでした。
 墓穴を掘るとは、正にこの事か。
 穴が在ったら埋まりたい。お墓でも良いから。

 そう言えば、俺って最初洞穴に埋まってたんだよね。それまでってどうなってたんだろ。
 そんな事を考えられるほど、余裕が生まれていた。
 やっぱりこの場所は一番、俺的にピッタリの場所なのかな。
 ガタガタは言うものの、足の関節や腕の関節を使った天然……というか、人体クッション。
 それが役に立って、案外お腹を揺さぶられないようにする方法を生み出してからは、随分と楽になっていた。

「これは勝ったのですね……、フフン」

 何にって言えば、この先続くだろう舗装されていない悪い道に。或いは、この旅路に。
 畏まって言うと、それっぽい気がする。
 鼻を鳴らしながらも、良くも悪くもなくなった自分の状態に嬉々としていた。


     ★


 なんて考えていた時期がありましたよー。泣きたいですよ、ええ。
 というか、ことわざ的には笑ってますよ。うん、ニコニコと言うかワッハッハと。

「大丈夫?」
「大丈夫に見えるのでしゅか、これで」
「いや、ならもう……」
「疲れに疲れ切った状態で、下からズンズンと突き上げられて耐えられるとお思いなのですか阿部さん」
「音似てるけど誰だそれ!」

 口も段々疲れているようで、アヴェンさんの「ン」が抜けてしまっていた。
 アヴェさんだけど、そこも舌が動いていないようで中途半端になってしまった。
 異世界に阿部さんが出張ですよ。
 ガクガクと笑う膝を耐えながら、必死に荷台の後ろにしがみ付く。
 もう荷台に寝転がっているのと変わらないくらいに、振動が加わってきている。

 要は疲れました。
 クッテクテで、ダッラダラ。
 こんな効果音を付ければ不真面目かと突っ込まれてしまうだろうけど、実際荷台にしがみ付いていなかったら俺の動きに対する効果音はこうなって居たと思う。
 それ位。
 時間的には半日。
 修行で一日中走りまわることがあったけど、あれはまだ運動をしていたからマシなんだよ。

「不規則な突き上げに、何度も上下に揺られる腕。途中からバックになりましたけど、やっぱり見えないのは辛いですね」
「あ、そう……」

 運動とかならペース配分を気を付けられるし、まだ動かす所が決まっているので問題無かったと思う。
 それとも徒歩の道中の内に疲れちゃったとか? ちゃんとした寝床で寝たし、それも大丈夫だと思う。
 多分だけど、下からの振動と言う慣れない衝撃に膝が耐え切れなくなって、何度も何度も休みなく動かされる腕もそれに耐えられなくなったんだろう。
 それで後ろ(バック)になって手足を反対にしたけど、そうしたら今度は揺れのタイミングが掴めなくなった。
 それであまり気分は優れないし、足を一時的に浮かして休めたりする方法が出来なくなるので片方の足の時よりばてるのは早かった。

「そしたら反対側に回ればよかったんじゃ……」
「……忘れてたです」

 もう疲れて口調が色々と変になってる気がする。
 今すぐにへたり込みたいけど、そしたら今度は嘔吐と言う手段で俺の体力を侵食していく。

「恐るべし、旅路……」
「いや、そんなに消耗する……というか、そんなに揺れが駄目な人はケイ以外に居ないと思うけど」

 なるほど、という事はこの辛さを作品にしても誰も共感を得られないと言う事ですか。
 それは酷い。
 まあ、百聞は一見に如かずだし、俺のこの状態を見れば理解してくれるんだろうけど。
 それにしても。

「……これは、果てしない……です」

 今の俺の状態からして、言える事はこれだけしかなかった。
次回投稿は、定期試練があるので二週間ほど遅れます。

言い訳ではないですが、次話では少し時間が進んでると思うので、
リアルタイムに作中時間が連動しているとでも思って、気を紛らわせてくれると嬉しいです。
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