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異世界マイペーサー 作者:闇緒 恣恣

戯函  ~ Bumpy road

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四十二話 動揺昂揚  ~ ぜったいありえません

 取り敢えず、初日の行路は無事終える事が出来た。
 あの村から一直線に伸びる道に沿ってただ馬車を走らせた先に、村とは比べ物にならないくらいちゃんとした町がある。
 その間の走行距離は判らないけど、火が上りかけている時に出発を始めた行商の馬車は結構の鈍足で行ったにも拘らず、日が暮れ始める前には到着していた。
 半日って言えばそうなんだろうけど、あの遅さでその間に俺が二度もリバースしていていた事には、行商の人も見た事が無いらしい。

「はあ、苦労するね」
「全くです」

 自分の事だけどさ。
 自分でも酔いやすいとは思っていても、あの快適な自動車でアレなんだから、馬車なんて想像以上なんてことはとうに理解できてる。
 けど、やっぱりあの超快適だった王都行き馬車が恋しくなるよ。最初はソレでもかなり吐いていたんだけどさ。
 今でも大分耐えられるようにはなって来たけど、やっぱり楽な方を知ってしまった以上、克服し始めていてもそっちに乗りたいって気持ちは湧くよ。
 それに、今の耐久力を以てしてなら、あの馬車だったら一度も吐かずに王都に着けるような気がする。

「通行証、確認します」
「それと後ろに乗ってる二人は『関わり物』なんですよ。こちら、手紙を預かってます」
「……了解しました。くれぐれもお気をつけて」
「あのお方がそんな事はするはずも無いでしょうがね」
「それはごもっとも」

 アヴェンさんと俺が荷台に掛かる布から顔を出して、村よりはしっかりしている役所の人に俺達の通過を許可してもらう。
 何か知らない間に色々とお父さん(ザグラッドさん)の力が加わっているようで、その度にお父さん名義の手紙が行き交っていた。
 ……お父さん、本当に何者なんだろ。
 知らないのはもどかしいけど、何か知るにも怖いようなそうでも無いような。
 そんな訳で、お父さんの秘密は無視の方向で。

「……私の顔、変だったんでしょうか」

 去り際に布から出した俺の顔をジロジロと眺める門番の人がいたけど、俺の顔に何かついていたのかな。
 毛には塗料があるし心当たりはあるんだけど、何かそれとは別に何か気持ちの良いものでは無かった気がする。
 ねっとりとしたような、何と言うか。
 取り敢えずまた似たような視線を浴びたくないので、頭を布の奥へ引っ込めた。

 門を過ぎた後に聞こえてきたのは、村とは違う活気のある賑やかな音。
 村でも賑やかなのは賑やかだったけど、何か祭りみたいな騒ぎっぽいようなにぎやかさは無かった。
 この町の中はどうやら村とは段違いな人が犇めき合っているんだと思う。
 あちこちで違う声が聞こえてくるし、人の気配と言うか音が馬車の周りに広がっていた。

「よし、お嬢さんたちはここで一度失礼」
「……このまま、突っ切らないんですか?」
「他人の邪魔になりますからね、行商には行商の向かう所があるのですよ」

 そう言いつつも、荷台から降りる事を促してくる行商さん。
 まあ俺達は乗せて貰っている身だし、抵抗はしないんだけどさ。
 見事に爆睡しているアヴェンさんの耳元で思いっきり手を叩いて、起こそうと動いた。
 けど、俺の行動を無視するかのようにいびきをかいているアヴェンさん。
 いや、これで起きないなんていつも座って寝ている理由でしょ……。
 そんな事を思いながらも頭をチョップしてみると、案外普通にいびきが止まって起きるアヴェンさん。
 音には反応しない人なのかな。

「アヴェンさん、降りますよ」
「あれ、着いたんだ。よく寝た……」

 伸びをしながらも、欠伸をしてそう呟くアヴェンさんはとても充実したような表情だった。
 アヴェンさんに下りる事は言ったし……、と思って俺は行動を移し始める。
 ちょっと恥ずかしそうに顔を隠すふりをして、俺はボソッと呟いた。

「私があんなことをしたのに、ちっとも反応が無くて……」
「寝てる間に何したのっ!?」
「手を叩いたんです。……何か変な想像しました?」

 クククと笑いながらも、辺りに散らばった俺達の持ってきた荷物をかき集めはじめる。
 何かアヴェンさんは大きなため息をつきつつも、行動を始めた。
 流石に何度も何度も、うっとうしいかな?
 そんな事を考えてはいるんだけど、楽しいし。
 嫌わられるかもしれないんだけど、やっぱり楽しいって言う気持ちが先に来るし。
 何か他に楽しみを見つけられたらいいんだけど。

「それでは、また明日、この門の前に来てください」
「今日一日、ありがとうございました」

 荷台から降りた俺達に向かって、行商さんはそんな事を言った。
 俺はぺこりと頭を下げて、アヴェンさんも同じような感じで頭を下げる。
 そう言えば東洋風のお礼の仕方って言うらしいけど、これで良いのかな。
 アヴェンさんも要るしその流れでお辞儀したって受け取ってくれると嬉しいんだけどな。
 まあ頭を下げるって事でちょっとでも誠意が伝われば良い。

「さて、行きましょうか」
「そうだね。まずは宿を探さないと」

 馬車を何処か人通りの少ないところへ持って行く業者さんを見送って、アヴェンさんと顔を見合わせた。



 寝泊まりするだけの集合部屋の空きが無かったから、二人部屋となってしまったらしい。
 宿が取れただけでも充分だと思うんだけど、アヴェンさんはかなり嫌そうだった。
 たぶん俺にまたからかわれるとでも思ってるんだろうけど。

「やっぱり、私の性格ってうっとうしいですかね……?」

 つい、口が滑ってしまった。
 ポツリと漏らしてしまっていた言葉は案外独り言にしては大きく、それにアヴェンさんが近くに居た事もあって完全に聞き取られてしまう。
 アヴェンさんは効いてしまった事を気まずそうに、けどやっぱり迷った末にいう事を決めたのか。
 最近触って来なかったのに、アヴェンさんは俺の頭の上に手を置いてゆっくりと撫で上げていた。

「にゃ、何ですかっ?」
「……確かに、ケイのそれはかなり面倒くさい」
「ぐうぅ」

 ぐうの音も出ないってところだけど、生憎ながらあまりに単刀直入過ぎて、つい口からその音が漏れ出てしまう。
 一通り撫で終えて、頭を二三度ポンポンと叩かれた後、すっと腕が引かれた。
 俺は若干撫でるのが終わってしまって寂しかったけど、別にアヴェンさんに甘えたいと言う気持ちは無いのでぐっと堪える。
 というか、なんでアヴェンさんに甘えるとかに思考が行ってんですか。

「それ以前にっ!」
「へぷぅ」

 今度は俺がアヴェンさんにしたようなチョップが勢いよく、頭に降り注いだ。
 何度もされたら記憶が飛んでしまいそうな威力を持つソレは、一度繰り出されただけで収まった。
 けど、ジーンと頭が痛みを訴えてくる。
 く、くそー。アヴェンさんが飴と鞭を使いこなしている。
 あれ、それなら順番が逆か。

「ケイは女の子なんだし、一応世間で言う美少女なんだと思う」
「は……、はぁ!?」

 や、やっぱりだ!
 この人、完全に飴と鞭を理解している!
 俺の頭の中が冴え渡り、そんな答えがパッとピキーンと浮かび上がった。
 けど……び、美少女かー。気にした事無かったけど、アヴェンさんから言われれば説得あるかもー。
 発言に俺が顔を真っ赤にさせてたり、内心喜んでいたり、身体を硬直させてたりする事なんかお構いなしに、アヴェンさんはまるで説教するかのようにどんどんと言葉を繋げていってしまう。

「だからこそ、ケイのその行動は面倒より前に、誤解されてしまう」

 誤解、ごかい……ねえ。
 アヴェンさんのその言葉でトリップしかけていた俺は、しっかりと現実に帰って来た。
 それって、俺の言った嘘が本当の事かと思われてしまうって事なんだろうか。
 そうわいってもさ、あまり嘘とかはいって無いような気がするんだけどな。
 いう事にはあまり抵抗は無いと思うんだけど。
 そんな事を考えながらも、取り敢えずアヴェンさんに対する反論と言うか、合いの手の言葉を言おうとして口を開きかける。
 けど、そんな俺をまた速さで圧倒して、口を噤ませられた。

「俺は軽く流せるけど、ちょっかいを出される方……その人に好意を持たれていると思われたらどうするつもりかな?」

 アヴェンさんは、俺のあのちょっかいがただの遊びだって理解した上でそう言ってきていた。
 好きだからこそちょっかいを出すって言う行動はこっちでもあるらしく、相手にそれだと思われてしまったらどうするのか……っていう事。
 小学校では良くある事だったし、大人になっても程度は下がっても似たようなことがあるらしいし、コッチの世界にあっても不思議じゃない。

「……別に、何も無いですよ」

 正直向こうが勝手に思ってるだけだし、たとえ対象が俺だったとしても全く俺に関係が無い。
 けど、次のアヴェンさんの言葉でそんな思いは吹っ飛んだ。
 というか、何処かに俺の気に障るような言葉があったんだろう。

「じゃあ、からかいやすそうだったら、そこら辺の子にも俺と同じようにするのかな?」

 判らない。
 ただ、それだけは。
 本当に、その時の気持ちは解らなかった。
 自分の気持ちなのか、それとも擦り付ける気は無いけど、もう一人の『私』だった可能性もゼロじゃない。
 だけど、そんな気持ちが湧きあがる自分の事が判らなかった。
 もう一人の感情が流れ込んでくるってのは無かったし、それこそフッと湧き出た自分の感情。
 ただどうしてそんな感情が生まれたのか、解らない。
 自分の事なのに判らない。
 その言いようのない不安から、何故か涙があふれ出た。
 自分でも納得できないけど、アヴェンさんのその言葉だけは。

「違うっ!!」

 声を大にして否定したかった。
 多分、アヴェンさんは怒ってる。
 俺の行動が鬱陶しい事に対してじゃなくて、多分俺の行動自体に対して憤っている。
 何でそんなに怒っているのは教えてもらったし、自分でも何と無く理解できていた。
 要するに、アヴェンさんの言い分はこうだった。

『それがコミュニケーションだとするなら、止めた方が良い』

 俺はこの行動については、ただの殴り合いをボディランゲージと例えるような感じで、『コミュニケーション』の一環のつもりで今までしてきた。
 けど、何故かアヴェンさんのその言い分を聞いた途端、このおかしな感情が付きまとわって、否定している。
 けどその次の瞬間、自分でも何を言っているのか判らなかった。

「アヴェンさん以外に、こんな事する訳無いじゃないですかっ!!!?」

 絶叫とも取れた。
 喉が痛く、生涯で一番大きい声を出したのかも知れなかった。
 それこそ喉が潰れて、これ以降一生声が出せなくなるくらいの大きな声が出たかと思った。
 そして、こんな事を言う前から流していた涙は、まるでただの予兆だったかのように、視界が完全にぼやける。

「………っ」

 自分の事が……いや、現状がまるで第三者の視点で眺めているかのように分かった。
 いや第三者の視点で見ている感じであって、『私』に乗っ取られた訳では無い。
 泣き声は上げていない、けど嗚咽は洩れている事を理解できた。
 目は閉じていない、視界が完全にぼやけて何も見えないけど、号泣しているのは理解できた。

「何……なん……です……ぁ、ひっう……」

 胸がキリキリと痛んで、ガタリと大きな音を立てて床に座り込んでしまう。
 視界の中にはアヴェンさんは見えない。見えないだけでそこに居るんだろうけど、今の俺にはそれ位の事も解らなくて。
 アヴェンさんの顔が見えなくて良かったと嬉しかったり、アヴェンさんの顔が見えなくて寂しかったり、イースと別れた時以上に気持ちが混濁してドロドロと混ざり合っていた。
 判らない、解らない、分からない。
 この気持ちの正体が理解できないし、一体どれだけの感情が入り交ざっているのか判断できないし、どうしてこんな事になっているのか分からない。

「ょ、よっと、と……」

 たださっさとこんな嫌な空気を消し飛ばしたかった。
 願わくば、この重苦しい空気と一緒に俺の訳が判らないこの感情が消え去ってくれることを。
 俺は胸元の服を握りしめるのを止めて、ゆっくりと立ち上がった。
 まだ声帯と言うか声は時々震えて、普通のいつも通りの話し方には戻らなかったけど、深呼吸をして息を整えようとする。

「………」

 アヴェンさんは全く喋ろうとしないし、気まずい。
 そもそも自分でもなんであんな事になったのか分からないし。
 ともかく場持たせ程度に尻尾を振りながら、深呼吸に意識を戻す。

 感情が高ぶっているせいでなんか肺と言うか口が冷たいな。
 もっとしっかり、深呼吸しないと……。
 泣いて、座り込んで、急に立ち上がって。
 俺の頭に血が上って無かったのか、自分の状況がどうなっているのか理解できていなかった。
 深呼吸と言いつつも、どんどんと回数の上がって行く呼吸音。
 深呼吸なんてゆっくりするものなんて理解はとっくに追いついておらず、その呼吸はどんどんとただいつも以上のペースで繰り返される。
 呼吸するたびに何かを求めるようにどんどん頻度が上がって行く呼吸にすら特に不思議に思わず、ただ息苦しいのが治らないのが不快で首元に手をやって行った。

「ケ、ケイッ!?」

 何か全身に悪寒が走った後。
 俺の意識は手放された。
あれ?
何だか、また急展開が……?
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