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異世界マイペーサー 作者:闇緒 恣恣

戯函  ~ Bumpy road

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三十九話 不詳小隊  ~ あやしいとおもいます

 四日目の朝。
 冬の癖してどんよりと雲の掛かった曇天の元、パカラパカラと馬の足音を辺りに撒き散らしながら、やっとの事馬車がやって来た。
 変な盾やら旗を意味も無くぶら下げた、馬車の一行。
 大所帯って言わないといけない…と、使命感を植え付けてきそうな圧倒的な存在感。
 まあ複数の馬車がやってきてるって事は事実だけど、実際には三台ほど。
 何となく変な感じがしたけど、取り敢えずあの盗賊が引き取られていくって言うのだけは見ておきたいな。
 ガラスなんてものは無いらしく、格子状になった窓から馬車の行方を眺めていた。
 勝手に外に出るのも悪いだろうし、馬車もそんなに見にくくないからここからでも大丈夫だね。
 そんな事を思ってたら、何やら村長の家の中が慌ただしくなった。

「どうかしたんでしょうか?」
「ケイー、ちょっとこっち来てくれー」

 慌ただしくなった屋内に対して俺がそんな事を呟いた。
 そのすぐ後にアヴェンさんの声が聞こえてきて、どうやら俺を探しているようだった様子。
 辺りをキョロキョロしていたらしいアヴェンさんは俺を見つけるや否や、駆け寄って来た。
 焦っている感じと言えばそうだし、俺がからかった時と同じような感じで、言動についてはいつも通りと言えばいつも通りだった。
 ただなんかアヴェンさんがいつもと違う雰囲気を持っている気がするのは、収まらない。
 なんか偽物って感じがする。……何でだろ?

「何かあったんですか?」
「あ、ええと……、いやっ、まずはこっちに来てくれっ」

 要領を得ない言葉で、焦っているという事だけがひしひしと伝わってくるアヴェンさん。
 アヴェンさんにガシッと思いっきり掴まれた腕。その腕を引かれながら、窓からどんどん離れていった。
 あー、あの盗賊の最後が見れないー。
 特にあれの事なんか気にする気は無いけど、窓のへばり付く理由が無くなってしまうので何と無く心の中でそれを呟いていた。
 実際には俺が初めて乗った以外の馬車がどうなっているかっていう、ただの好奇心なんだけど。

 アヴェンさんに連れてこられたのは、窓の無い、俺が一度も来た事の無い部屋だった。
 イースに「家の探検をしよう」と誘われて探検したことがあったけど、ここだけは絶対に入ってはいけないと言われていた場所。
 人間、駄目と言われれば絶対に駄目なんだろうけど、親からもきつく言われていたようだったし、イースの必死な様子から入ろうとは思わなかった。
 けど、今回はすんなりと入れていた。
 心細いロウソクの光と、恐らく魔力の感じから察するにイレイサさんの出した光のような魔術で照らされた物置みたいな部屋。
 その中には村長さん一家とアヴェンさんと俺が全員集合していた。

「私どもが居ないと不審に思われますので退散しますが……。ウェル、ケイさんを頼みますよ?」
「お任せください、母上!」

 そう言うとアヴェンさんに耳打ちをして、この部屋からそろりと抜け出す村長オシウェスさんとイレイサさん。
 ウェルと呼ばれた、ウェリム君が威勢よく返事をして、それを眺めている俺達。
 ……一体、どういうこった。
 光の魔術が無くなり、蝋燭の光だけとなった屋内には、イースにウェリムくん、俺とアヴェンさんだけになる。

「どういう事ですか?」

 二人っきりで閉じ込められたならばまだアヴェンさんをからかおうかと思ったけど、真っ先にそれが出た。
 目の前にイースやウェリムくんがいる事だし、ちょっと恥ずかしかったのだ。
 まあそんな事はさて置き、こんな所に立てこもっている理由だよ、理由。

「あーそれなんだけどね、いまいち俺も良く解ってない。ただ、簡単に言うなら前王の息が掛かっていた人たちの復讐?」
「判ってるじゃないですか……」

 えーと、アヴェンさんの言う…と言うか、アヴェンさんがあの二人から聞かされたとおりの事を意訳すると、こうかな?
 俺がどうにかしちゃった王様は嫌われていたけど、それでも好きな人がいて、その人が復讐しに俺を狙っているって事?
 良く判らない。
 けど、それならなんで今のタイミングなんだろ。

「はいこれ、ザグラッドさんの手紙。内容は、ケイを隠せって感じだね。復讐に確信が出たから村長宛てに送られたらしいんだ」
「た、確かにこれはお父さんの筆跡……、とか判る訳無いじゃないですか。何と無く最後のサインは同じだと思いますけど」

 まあお父さんもといザグラッドさんには色々と恩があるらしいし、真っ向からお父さんとぶつかるような真似はしないかな。
 アヴェンさんに渡された手紙を軽く斜め読みしてから、アヴェンさんに返した。
 あまりの速さに苦笑いしていたけど、内容はしっかりと理解できている。

「………ホントにヤるんですか?」
「うん、兄上はりょーぞくじゃないからだとかで駄目だけど、私に任されたの!」

 イースが液体で手を濡らし、その手をワキワキとさせる。
 確かにこれから起こる事を考えたら男の人であるウェリム君に手伝わせるのもアレだろうしね。
 第一、今の時点で顔を真っ赤にさせてしまったら途中でぶっ倒れてしまいそうだ。
 一応、確認のためにアヴェンさんの方を向くけど。

「俺はやらないよ。変な誤解を受けそうだし、ザグラッドさんかオリベーンさんに……いや、両方から……」

 最後の方はどんどん声が震えていき、苦笑いだったアヴェンさんの表情がどんどんと顔色悪くなって行く。
 苦笑いの上に青ざめているって言う、かなり不気味な顔になったアヴェンさんは置いておくことにして。
 アヴェンさんを見上げる為に体を捻りながら上を向けていた顔を前に戻して、イースの方を向く。

「……汚れたら嫌ですし、服脱ぎますか?」
「そうしちゃおう! 多分そっちの方がやりやすいし」
「「なっ!?」」

 こっちはわざとだけど、イースは普通に天然な答えが返って来た。
 若干口がニヤケてしまうのを堪えながらも、イースの返事に頷く。
 どうしよ、男の人からかうのを楽しいって思っている俺が居る。悪女って言うんだろうかな、こういうのって?
 まあその言葉の中に埋まっている「信用している」と言う言葉を理解してくれたら嬉しいな。
 顔を真っ赤にさせながら必死に壁の方を向いている男二人をチラリと眺めつつ、服に手を掛けた。


     ★


 村の中では一気に人口が増えた。
 警ら隊の物が訪れた事もあるが、その人たちを見ようと寄ってくる子どもたちや大人たちが犇めき合う為だ。
 しかし、今日は様子が少し違った。村人もそれを理解した上で、いつも通り振る舞おうとしていた。

「兄ちゃん、今日もなんか話聞かせてよー」
「スマンな、今日は用事があるんだ」

 子どもも、いつも通り。ただある一点でだけ口裏を合わせるように言われているだけだった。
 けれど警ら隊の人々は皆気が立っているようで、そんなほんの少しの不審な事は何一つ気づきはしなかった。
 いつもとはやけに人数が多すぎる警ら隊の者は村中に等しく散在し、治安を確認。
 小さな村であるが故に、村の外にあぶれてしまった者は、村の外を見まわっている。
 そんな中、一つの家屋の入り口に、一人の警ら隊員が立ち尽くし、扉を軽く握った拳でノックした。

「オシウェス殿、視察に参りました」
「おお、今開けますとも」

 そうして一つの大き目の家屋から顔を覗かせたのは、この町の村長だ。
 いつもならばそんちょうのオシウェスは警ら隊を向かい入れる時に既に村の外で構えている為、こうして警ら隊は彼の家へ訪ねる事など無かった。
 本日は顔が見えないようだったので、隊長らしき人が村長宅へ参る。
 出てきたオシウェスはいつも通りの風貌で、代わり映えしない村長面だった。

「上からの命令なのですが、この村に或いはこの辺り一帯に黒い毛を持つ獣人が居た場合連れて来いと言われておりまして……」

 上。彼の言う上は決して方向などでは無く、そして強張った口調からただ単純な上司で無い事も理解できる。
 オシウェスは目の前で相対する軽鎧で身を包んだ青年の口元を細めた目で眺めていると、やっと体が動いた。
 警ら隊隊長の彼もまた、眼の前のご老体が変な動作をしないか注意深く観察していた。だからこそ、急に何の脈絡も無く動き出した村長の身体を見て、思わず目を見開いてしまっていた。

「……その様子、かなりのお方の命によるとお見受けします。ですが、黒毛の獣人はもうここには居りません」

 ピクリと、眉が動いた。
 それはどちらの眉だったのかは定かでは無い、ただこの二人のどちらかであるのは違いない。或いはどちらもだったのかも知れない。
 ただ分かるのは、オシウェスの言葉に含まれた情報に隊長が反応する十分な材料が詰め込まれていた。

「居た、…のですね?」
「はい。すぐさま見えなくなりましたが、何分村の中で見たので覚えている者は多いかと……」

 確かに……、と考えぐるりと村の状態を思い出す隊長。
 この村は一応の関所はあるものの、大陸の端であるが故に物資の調達が難しく、集落の外壁にはあまり力が入っていない。
 関所もかなり簡易なもので、それこそ人の一人や二人見逃してしまってもおかしくない。
 それに場所が場所、大陸の一番端。ここが王都へ続く道の視点ではあるが、再端な点から役人の注意力が散漫になってしまっていてもおかしくは無かった。

(こんな所じゃたとえ例の獣人がいたとしても、長居は出来そうにないな……。エギルス支部長は一体どういう考えなのやら……)

 彼の所属する支部の最上位に居るエギルスの言葉を疑う訳では無いが、一体何の理由があってこのような命令を出したのだろうかと疑問に思ってしまう。
 ただ、一番真面であるこの建物。村長宅を眺め、彼の中でとある案が出てきた。

「失礼ですが、中を確認しても?」
「…ええ、どうぞ」

 少し考えるようなそぶりを見せたが、全くの他人である警ら隊員を家に上げるのは誰でも抵抗があるだろう。
 そう考え、隊長は中へ通された。

 中はいたって普通で、村にある他の建造物のように土で補っているような部分も無く、木が基本で作られている金のあるモノなら簡単に手にする事の出来るものだ。
 ただ、村長の家庭には娘が二人いたはずなのだが、その姿が無い。その事に気が付いた彼は声を上げようとした。
 だが、その声を遮るように、或いはタイミングを見計らっていたかのように子どもの影が飛び出した。

「ウェルにイース、こちら警ら隊の隊長様だ。失礼の無いようにな」
「「はい、父上!」」

 そう言いながら右手で目の上あたりにひさしを作り、敬礼の形を取る二人。しかし、やんわりと隊長はそれを止めさせた。
 苦笑いとも微笑みとも取れる、どっちつかずな表情でキョトンとする少年らに彼はこう言った。

「私は女性貴族ではありません。警ら隊だからと言って、その仕草は適当では無いでしょう」
「「すみませんでした」」

 女性貴族に対し行う敬礼をしていた子どもたちをそう諭し、視線は再び屋内の景色に戻される。
 ただ足元を見た時に、ふと留まりなく動き続けていた視線が止まった。
 人のものでは無く、硬く、動物のような毛が落ちていた。彼はそれを拾い上げ、隣に立ち続けているオシウェスに突き付ける。

「……これは? 人のものでは無いですよね?」
「……騙すような事をして申し訳ありません。獣人の娘を拾いまして、今はこの家に置いているのです。隊長様を惑わせてしまわぬよう、極力言うのを避けていたのですが」

 まあ、そう言う言い訳もできるだろう…と半ば確信したように、口元だけでせせら笑う隊長。
 この場に居る全員に隠すようにして動いた微笑みについて、オシウェスは知ってか知らずか気まずい表情を浮かべていた。
 丁度その時、子どもが出てきた場所からもう一つの影が飛び出してくる。

「い、イース……? これで良いんです、か?」
「あ、ケイちゃん、まだ出てきたら駄目っ!」

 イースと呼ばれる少女はその陰に向かって制止の旨を伝えるが、完全に体が隊長の前に晒されていた。
 オシウェスはその様子を見て大きなため息をついていた。彼にとってその溜め息は観念したと、確信して思わず笑みが零れそうになったのだが……。
 次の瞬間、隊長はオシウェスとは全く違い驚きに目を見開いていた。

「……確かに、別人、です……ね。疑ってしまった事を、謝罪します」
「いえ、こちらも初めに紹介しておくべきでした。今年八つになる娘と同じくらいの容姿でも教養があるので、元奴隷だと思うのですが……」
「ああいや、私どもも黒毛単色の獣人を探しているだけ。その子の境遇を言うことも無いですよ」

 奴隷と言っても完全に下等種として見下すだけでは無く、この成せない家庭でこの代わりとして扱われる事もある。
 奴隷を真っ当な人として扱う優良な貴族に教養を詰め込まれたのだろうと、彼は判断し村長宅の捜索はそこで打ち止めとなった。



 そして、村長宅には一人の獣人が残される。
 茶と黒の混じった、実にみすぼらしく、話に出た単色の獣人とはかけ離れた毛を持つ、狼人種あるいは犬人種。

「案外、普通に騙せるものなんですね」
「母上が二日掛けて作った、特性塗料なの。母様が凄いの!」

 ただ茶色の液体を被っただけのようなケイが、そこには居た。

いつかケイちゃんの姿は元に戻しますが、暫くはこの調子で……。

……黒髪を愛している作者にとっては、苦虫を噛み締めながら苦汁を飲む思いでした。
 ビバ、黒髪ケモ耳幼女。
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